メデル・プルーフ   作:Cr.M=かにかま

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47.タイミング

 

「痛ッ、何なんだよ、この揺れ!」

 

「さぁ、そんなことよりも僕の錠はいつになったら外れるの!?背中が痒いけど掻けない!」

 

「そんくらい我慢しろ!」

 

倉庫地下の一室にて、ジンを治療しながら体を休めているライムと逃げ出せたのはいいが、未だに手錠が外れずに喚いているイムがいた。

解毒が済んでしばらくすると、イムは普通に目を覚まし、後遺症や毒が残留している様子が一切ないほど元気になった。

 

しかし、ジンは一向に目を覚ます様子はなく未だに気絶したままである。

 

(脱出の時、ジンの力があれば複雑な道もショートカットできるんだが、この様子じゃ無理だな)

 

ゴゴゴゴゴゴ、と倉庫全体が震動しているように凄まじい揺れが先ほどから続いている。

どこかで大爆発が起こったのか、それとも何か巨大な力同士がぶつかり合ったのかはわからない。

ゴゴゴゴゴゴ、ミシミシミシ、と揺れの次はライムが背もたれにしている壁に亀裂が走り始めた。

心なしか壁が押されている感覚もある。

 

「ライムさん!」

 

「って、危ねェ!!」

 

ドゴォォォォォォォォ!!という破壊音と同時に巨大な鉄の塊が壁を貫いた。

間一髪のところでイムが声をかけてくれたおかげでジンの襟首を掴み、共に回避することに成功したが、奇襲を受けたも同然である。

避けられなかったらと思うとゾッとする。

 

「一体誰が」

 

「ミスティ!!死ぬかと思ったろ、気をつけろアホォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!」

 

イムがライムに何かを尋ねる前に、ライムは奇襲犯の名前を大声で叫び怒りをぶつける。

 

「え、ライム君何してるの?」

 

当の本人であるミスティはヒョコ、と破壊された壁の外側から顔を出し、可愛らしく小首を傾げている。

 

まさか、今の一撃で仲間が犠牲になってしまうなどという考えにすら至らない脳内ピンクの平和ボケした鉄の魔術師は悪びれている様子もない。

 

「大体、お前はいつもいつもいつもいつも、周りを見ないし、自分勝手に行動するし、馬鹿だし、阿保だし、卑猥だし、不埒だし、いい加減にしてほしいぜ!」

 

「ちょっと待って!後半のは一体何、後半四つは一体何なの!?前半はともかく、ありもしない事実を押し付けて八つ当たりするのはやめてよね!いくらライム君とはいえど怒るよ!!」

 

「うるせぇ、前半認めてんじゃねぇか!だったら次からしっかりと注意しやがれ、コンチクショー!」

 

「何で私だけが悪いみたいになってるわけ!?大体ライム君だって、治療魔術師で戦闘だってマトモにできるわけでもないのに一人で無茶して突っ込んで、ボロボロになって帰ってきてるよね、そのことについては何もないの!?」

 

「それはそれ、これはこれだ!」

 

わーわー、ギャーギャー、とここが敵地であることを忘れてライムとミスティはお互いにお互いのことを罵倒し合い、イムが会話に介入する機会が失われてしまった。

 

「.....これは一体どういう状況だ?」

 

「レッド、それにゾブとケイジも」

 

ゾブの肩に乗ったレッドは溜息混じりに二人の口喧嘩を見飽きた様子で眺める。

ゾブとケイジの二人は相当走ったようで、ゼェーゼェーと荒い息を整えながら地面に座り込んでしまっていた。

 

イムはレッドに二人の口喧嘩の経緯を話すと、またか、と愚痴を零し諦めたようにゾブの肩からイムの肩に飛び移った。

 

「あれは止めても止まるものじゃない。収まるまで待とう」

 

「.....はぁ」

 

しかし、改めて聞いてみると実に低レベルな口喧嘩だな、とイムは手錠をしたままの状態で思った。

というか、本音を言ってしまえば早く先に進みたい。

ついでにミスティにこの忌まわしき手錠をさっさと外してほしいのだが、物理的戦闘能力も頭脳的戦闘能力もないイムにそんなことを言う勇気はなかった。

その前にあの口喧嘩に横槍を挟むという偉業を成し遂げようとも思わなかった、ぶっちゃけると面倒に絡まれそうなので入りたくなかった。

 

「そういえば、ハルク兄達は?」

 

「さ、さぁ、俺らはずっとヨルダンさんと行動してたんで」

 

「そのヨルダンさんは今敵とぶつかってる」

 

既に決着は着いているのだが、その事実を知る者はこの場にはいない。

 

「リリーさんも勝手に飛んで行ったから、どこにいるかまでは」

 

「そ、そう」

 

イムはミスティがダメならば、ハルク達の誰かに錠を破壊、もしくは解錠してもらおうとしたのだったが、できそうにない。

未だにギャーギャーと喚いている二人の声が飛んでくる。

 

「この前貸した300uはいつになったら返って来るんだ!」

 

「だ、か、らァ、またできたらその内返すって言ってるじゃない!見た目も小さかったら器も小さい男ね!」

 

「年下に対して身長で罵倒するんじゃねぇよ!ていうか他にも借金あるってこと忘れんなよ!」

 

.....何やら趣旨はズレるにズレてかなり個人的な口喧嘩になっていた。

もはやこれ以上続けてしまえば、要らぬ新事実やら本当に無関係なことまで聞こえてきそうだった。

時間は無情にもゆっくりと経過していく。

 

「もう、いい加減にしてよね!」

 

ミスティが杖を振りかざすと、先ほど壁を貫いた鋼の拳の形をしたオブジェがライムに向かって飛来した。

 

 

 

その頃、倉庫の入り口から落下したハルクとクロフは未だに迫ってくるゲルマック達に体力を奪われ続けていた。

 

「ちくしょう、潰しても潰しても湧いてきやがる」

 

ボシュ、とハルクはポケットから煙草とライターを取り出し、一本吸い始める。

靴を脱いで足で双剣を操り、迫り来るゲルマック達を迎え撃っていた。

 

「このままではキリがないな、せめて壁さえ壊すことができれば!」

 

クロフは掌から放たれる衝撃波でゲルマック達を吹き飛ばし、強靭な脚力と腕力、肉体と全てを使って甲冑を粉々に粉砕していった。

 

「どうする、奴ら数が増えることはなくなったが、破壊した鉄屑がどういうわけか修復されていってるぜ」

 

「再生できないように粉々にするしか、ねぇだろ!」

 

ズム、とクロフの放った拳から衝撃波が放たれ、ゲルマック達の体を貫通する。

数にして7、8人のゲルマック達がガシャンガシャン、と音を立てて崩れていった。

 

「ぉ、おぉぉぉぉぉぉ!!」

 

クロフの追撃は止まることなく、鍛え抜かれた鋼のごとく肉体で次々とゲルマック達を粉砕していく。

ハルクもそれに続いて両手両足に双剣を握り、計4本の刀を振るい器用にゲルマック達の攻撃を弾き動きを止めていく。

 

すると、壁に吹き飛ばされた一人のゲルマックが壁に激突すると、その部分に亀裂が走った。

 

「あれは!」

 

「俺がやる!ハルクはこいつらの動きを止めておけ!」

 

ハルクとクロフは同時に気がつき、クロフは先陣きって壁に追撃を加えようと拳を握りしめ壁に接近する。

ハルクはクロフの言葉に頷き、クロフに近づくゲルマック達の攻撃を防ぎながら足止めをする。

 

(ここで脱出できたら、若を助けに!)

 

クロフが壁との距離がゆっくりと迫る。

クロフの拳が壁に激突する、瞬間、壁の向こう側から別の力が働いた。

 

そして、

 

「うご!?」

 

「クロフさーん!」

 

壁は反対方向から破壊され、クロフは向こう側から飛んできた鋼鉄の塊に吹き飛ばされてしまった。

 

ザッ、と壁の向こう側から一人の人影がこの場にやってきた。

 

「危ないな!いきなり魔法使ってんじゃねぇよ、コラァ!」

 

「ら、ライム!?」

 

「え、ハルク??」

 

その人物は治療魔術師、ライム・ターコイズその人だった。

ガチャガチャ、ガチャガチャ、とゲルマック達が再び立ち上がり始める。

 

「な、何でここに!?」

 

「お前こそ、ていうかあの鉄の塊は何なんだ!?」

 

「あ、そうだった、ミスティ!お前後で覚えてろよ!」

 

ハルクがポカン、となってその場に立ち尽くしていると四方八方からゲルマック達がハルクとライムのいる場所に向かって来た。

 

「しまった、こいつら!」

 

ハルクが我に帰り、臨戦態勢を整える前にゲルマック達はガシャガシャガシャガシャン!と音を立てて破壊されていった。

 

「なっ.....!」

 

「全く、ライム君!いくら何でも私のこと馬鹿にしすぎ」

 

「馬鹿にはしてねぇよ、これで貸しはなしだな」

 

「ライム君に何か貸しをもらった覚えないし」

 

鋼鉄の魔女、ミスティ・オーランドが白銀の杖を振るい部屋の鉄を操作し立っているゲルマック達を粗方粉砕した。

 

「大丈夫?ハルク君、怪我はない?」

 

「あ、あぁ」

 

ガチャガチャ、ガチャガチャ、と音を立ててゲルマック達は再生を始めたが、ミスティの魔法により動きを制限されてしまっていた。

そう、部屋の鉄と溶接させて再生ができないようにしていたのだ。

 

「こういう輩には、私の魔法と相性抜群ね」

 

「.....ミスティちゃん、えげつねぇな」

 

ハルクは乾いた笑みを浮かべ、煙草を取り出し吸い始めた。

ガチャガチャ、ガチャガチャ、と動きを止められたゲルマック達の破片はそれでも再生しようとピクピク動いているようだった。

 

「ハルク兄!」

 

「若!?」

 

「ハルク、もう俺たちは目的を達成した。ここには用はない」

 

「そうだったのか」

 

どうやらハルクとクロフが足止めをくらっている間に終わってしまっていたらしい。

 

「あ、クロフさん」

 

と、いう一言でクロフがどうなったのかを思い出したハルクは急いで彼の元へ向かった。

ライムの治療により命は何とか取り止めたが、ミスティはその後めちゃくちゃ謝罪していた。

 




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