メデル・プルーフ   作:Cr.M=かにかま

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35.圧倒的な存在

 

「どう、レッド!見つかった!?」

 

「ダメだ、さっき飛び出したばっかなのに、もう見えない。追いかけたはずなんだが、早すぎる。合流は諦めた方がいいかもしれない」

 

「全く、あの娘は本当に...!」

 

ミスティはわしゃわしゃと帽子越しから頭を掻きながら、自然と魔力のこもった鋼の拳で壁を殴りつける。

壁にはミシミシと亀裂が走り、ガラガラと瓦礫が足元に落下する。

 

「目的地はわかるのに、私たちは旧大倉庫の場所がわからない。ライム君たちと合流したいけど、連絡を取る手段もないのよね」

 

「.....だから素直に携帯を導入しようと何度も言っただろ」

 

「あんな魔法もどきのガラクタ使うなら死んだ方がマシよ!」

 

ミスティは再度拳を握りしめて壁に八つ当たりする、鋼鉄の如く硬度を誇るミスティの拳を二度受け止めた頑丈なレンガの壁は粉砕され、建物の中が筒抜けとなった。

 

数秒前、突如リリーが何の前触れもなく「ヨルダンさんが、僕を必要としている...!」と本当にそうなのかもわからない謎のお告げを受けた彼女は飛び去ってしまった。

ミスティ達はリリーを連絡係としていたグループなので、そのリリーが独走してしまっては連絡手段を失うに等しかった。

それと同時に旧大倉庫への道案内もいなくなってしまった。

 

「と、とりあえず行こう。ライム達が先についてたらそこを探せば、な!」

 

「.....前向きね、レッド」

 

ハァーと深い溜息を吐いて、トボトボと歩き始める。

レッドはミスティの肩に乗り、複雑な気持ちになっていた。

 

しばらく歩いていると、右方向から複数の足音が迫ってきていた。

 

「ミスティ!」

 

「わかってる」

 

ミスティとレッドは警戒する態勢を取り、普段は腕輪の形を模っている魔力を帯びた水晶の付いた鉄塊に触れて、鉄の杖に変形させる。

杖の先端に付いている特殊な水晶は魔力の消費を極限にまで抑えるという優れものである。

 

「やっぱり敵かしら?」

 

「可能性は高いな、時間帯的にも旧大倉庫という立ち入り禁止の施設に近づいているのもあるだろう」

 

「そう、ね」

 

ミスティは足音のする方向に杖を構えて、いつでも魔法を発動できるようにしておく。

タッタッタッタッタッタッ、と足音を立てながらやって来た二人の男にはどこか見覚えがあった。

 

「あれ?貴方たち」

 

「あ、ミスティの姉さん!」

 

やって来たのはゾブとケイジの二人組だった。

 

「たしか、アジトで見た...」

 

「おぉ、あのミスティさんが俺たちの顔を覚えてくれてるなんて!」

 

「いや、まだそうと決まったわけじゃないぞ」

 

ゴクリ、と息を呑んだと同時にミスティはビシッと二人を指差して、ドヤ顔で指摘する。

 

「モブとカイジね!」

 

「ゾブっすよ!」

 

「ケイジだよ!あと、その間違いは色々と危険!」

 

期待はあまりするものではない、と二人が学んだ瞬間であった。

 

「ん、お前らたしか三人一組じゃなかったか?」

 

レッドは一人足りないことに気がついてゾブに尋ねた。

 

「あぁ、サイガの奴はリリーさんと合流したんで途中で別行動っすよ」

 

「よかった、あの娘も無事みたいね」

 

「これから敵地に向かうんだけどな」

 

ミスティは安堵の息を吐いて、レッドは苦笑いを浮かべた。

 

「とりま、旧大倉庫までは俺たちが案内するんで付いてきてください」

 

「おぉ、それは助かる!」

 

「急いで、ヨルダンさんはもう既に敵と戦ってます」

 

 

 

一方、旧大倉庫に到着したライム達は中へ侵入しようと強固な扉の前に立っていた。

 

「ダメだ、こいつは硬すぎる。力じゃどうにもならない」

 

「馬鹿力のクロちゃんが諦めるなんてな、相当なものだな」

 

「クロちゃん言うな」

 

「そうだ、ジンの魔法でどうにかならないのか?」

 

ライムはジンに尋ねる、ジンの物体を移動させる魔法ならば扉のみを移動させることができるかもしれない。

しかし、ジンは首を横に振るった。

 

「無理だね。倉庫から分離された扉ならまだしも、まだ扉としての機能を持っていて倉庫と細かい部品を経由して付いていては扉に触れても倉庫に触れると認識してしまう」

 

ライムはなるほど、と頷く。

ハルクは煙草を吸いながらポリポリと頭を掻いて、倉庫の扉に触れる。

 

「たしかに頑丈そうだ。おやっさんならぶった斬れそうだけどな」

 

「.....我々はそんな化け物に喧嘩を売っていたのですね」

 

「あれ、ていうことはまだロブさん来てないの?」

 

「どうだろうな、別の入り口から入ったってこともあり得る。それか、別の場所に向かったか」

 

ハルクは顎に手を当てて扉を見上げながら考えを巡らせる。

 

「壁の厚さがわからない以上、俺っちの魔法で中に入るのも危険だな」

 

「ていうか、丁寧に扉から入る必要はないのでは?外壁は扉ほど頑丈そうではないので、ここを壊すとか」

 

パックが提案すると同時に、ドゴォォォォォォォォン!と何かが壊れたような音が周囲に響き渡った。

パックが音のする方向に目をやるとクロフが既に壁を拳で破壊していた。

 

「パック、ナイスアイデアだ。採用させてもらった」

 

「過去形かよ!」

 

クロフは右手をグーパーさせながら壊した壁から中に侵入する。

ジンは破壊された壁の厚さを確認しながら目を細める。

 

「思ったより薄かったな、俺っちの魔法でも行けたかもな」

 

「すげーパワーだな、あんたマジで何者だよ?」

 

「.....人を化け物を見るような目で見るのをやめてくれ」

 

「まぁいいじゃん、パック、早くしないと置いていくぞ」

 

「.........」

 

呆然としているパックとは対照的にライム達は何も気にすることなくクロフに続いて行く。

 

中は使われていない、というのが嘘のように大量の木箱やコンテナが積み上がっていた。

やはり、閉鎖されていると見せかけていたようだ。

 

そして、その荷物の上に座ってライム達を見下ろし、葉巻を吸う赤髪の男の存在。

そこにいるだけで殺気を伝わらせる凄まじい存在感だった。

 

「ゴルドス、さん。おやっさんの読み通り、やっぱあんたが!」

 

「久しぶりだな、ハルク。それと初めまして、だな、その他ども」

 

「あいつが、ゴルドス・アム」

 

ハルクがギリリッ、と拳を握り締め、睨みつける。

ゴルドスはニヤリ、と口を歪ませてハルクを見据える。

 

「見ない内に随分と生意気になったみたいだな、オイ。昔、俺に半殺しにされたことを忘れたか?」

 

「嫌でも覚えてるさ、あんたが今も昔も変わらずトチ狂ってるってことはな!」

 

「ほぅ、どうやら口の利き方も悪くなったみたいだな」

 

ピキピキとゴルドスは額に青筋を浮かばせて葉巻を噛み千切る。

 

「ゴルドス!イリアさんは無事なのか!?」

 

「お前がクロフ・バーカイフか、やはりブロスのガキは来る気はないみたいだな。心配すんな、イム坊もイリアの奴も傷一つ付いてねぇよ」

 

クロフがゴルドスを睨みつける、ゴルドスは戯けたように両手を広げながらケラケラと笑い始めた。

 

「ライム、ジン」

 

クロフがゴルドスに聞こえないくらいの小声で二人に声をかける。

 

「お前たちはイムとイリアさんの救出に向かってくれ。あいつは俺とハルクで引き寄せておく」

 

「クロフ、でも」

 

「さっき床の隙間から風が流れ込んできていた、この倉庫にはおそらく地下がある。そこに二人がいる可能性が高い」

 

「.....わかった、無理はするなよクロちゃん」

 

「クロちゃん言うなって」

 

ハルクもライムを見て無言で頷く。

そこでハルクは目を大きく見開く。

 

「.....おい、クロフさん、パックはどこだ?」

 

「え?」

 

ハルクの問いかけでさっきまでいたはずのパックがこの場にいないことに初めて気がつく。

 

「あいつ、どこに、まさか逃げたんじゃ」

 

「あいつのことだ、死ぬことはないだろう。それより、ジン、ライム。頼んだぞ」

 

「わかった、掴まれライム」

 

「おう」

 

ライムはジンに掴まる、ジンはそのまま魔力を込めてライムと共に、その場からパッと姿を消した。

 

クロフとハルクは改めてゴルドスを見据える。

 

「まさか、待っててくれるなんてな」

 

「奴らをどこにやったかは知らねぇが、ここはお前たちの為に用意したステージだ。俺たちランダリーファミリーの精鋭には敵わねぇ」

 

「.....あんたが、ランダリーファミリーを名乗る資格はねぇよ!」

 

ハルクが叫び声を上げると同時に、右手に構えられたリボルバーがゴルドスに向かって放たれる。

弾の数は三発、全てが正確にゴルドスの頭目掛けて放たれた。

 

「まぁ、焦るなよ。俺はお前らとやり合うつもりはねぇよ」

 

ゴルドスの眼前に弾が迫るが、弾はゴルドスに直撃することはなかった。

全てを左手で受け止められた。

 

「来たな、ロブ」

 

ゴルドスがニヤリと笑みを浮かべると倉庫の強固な鋼鉄の扉がスパァァァァァァァン!!と綺麗に切断された。

 

そこに二本の刀を腰に携えたロブという名の強者が凄まじい気迫を放ちながらゴルドスを睨みつけていた。

 

「おやっさん!」

 

「ロブさん」

 

ハルクとクロフが振り返った頃には既にロブはその場にはいなかった。

二人の間に疾風が走り抜け、ゴルドスの眼前にロブが二本の刀をゴルドスの首に当てていた。

 

「久しぶりだな、ロブよォ。気迫は相変わらず衰えてないみてぇだ」

 

「貴様の首が手に入ればそれでいい」

 

「怖いねェ」

 

次の瞬間、ゴルドスが動いた。

体を捻り乱回転させ、ロブの二本の刀を華麗に弾き強烈な蹴りをロブの脇腹に撃ちはなった。

 

「が、ぎぃ!」

 

「ぶっ飛べ」

 

ゴルドスが足に力を込めるとロブはそのまま倉庫の壁を突き破り、後方に吹き飛ばされる。

 

「おやっさん!」

 

「テメェらの相手はコイツらだ!精々頑張りやがれ!」

 

ゴルドスが懐から取り出したスイッチをポチッと押すと、ハルクとクロフの足元の床が開き重力に従って凄まじい速度で落下していった。

 

「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「おのれ、ゴルドスゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」

 

二人が落下すると、穴は静かに閉じられ何もなかったかのような静寂が倉庫の中に訪れた。

 




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