「どうします、ヨルダンさん?」
「このまま突入、もありだが警備が一人もいないのが気になる。頭が来たなら血飛沫でも飛んでておかしくないのに」
「さらっと物騒なこと言うのやめませんか?」
旧大倉庫前、一足早く到着したヨルダン達は近くのコンテナに身を潜めて突入のタイミングを窺っていた。
仮にロブが既にやって来てたとするなら扉が豪快に破壊されていたり、あちこちに小規模クレーターが発生していなくてはおかしい。
律儀に大人しく扉を開いて閉めるような人物ではない、それに今回に至っては愛息娘であるイムを人質に取られている。
この上なく怒っているはずである。
ヨルダンがサングラスの位置を調節していると、サイガの近くにピチャ、とピンク色の物体が落下してきた。
「ん、ガム?」
サイガが上を見上げると、火の点いたマッチが勢いよくガムに向かって落下してきた。
「!サイガ、危ねェ!」
ヨルダンが誰よりも早く反応し、雷迅により速度を上昇させてサイガ達三人と一緒にガムから離れる。
瞬間、火の点いたマッチがガムに当たると同時にドゴォォォォォォォォォォォォォ!!と爆発が発生し、コンテナが勢いよく吹き飛んだ。
原型は留めているが、凄まじい爆音と爆風が発生する。
「い.....」
「全く、いきなりの挨拶だな」
サイガは顔を真っ青にさせてぺたり、とその場に座り込んでしまう。
轟々と爆炎が燃え上がる場所から少し離れた位置に焦茶色の髪をなびかせる細目の青年が別のコンテナの上に座っていた。
「んぅ、一人くらい殺ったと思ったんがけどな、中々しぶとい」
男はポケットから新しいガムを取り出して、クチャクチャと咀嚼し始める。
「随分と礼儀のなってない挨拶だな、クソ野郎」
「クソ野郎にクソ野郎と呼ばれる筋合いはねぇよ、クソ野郎」
クチャクチャ、とガムを咀嚼しながら男は会話を続ける。
ヨルダンはその態度にピキピキ、と青筋を浮かべながら笑みを浮かべる。
「よ、ヨルダンさん」
「お前ら手ェ出すなよ、あのクソ野郎は俺が説教しないといかんらしい」
バチバチバチバチ、と全身に再び雷の如く魔力を纏わせる。
ぐぃ、と態勢を低くして足をバネにヨルダンは男との距離を詰める。
そして、そのまま右足で雷撃の如く蹴りを放つ。
男はガムを噛んだまま、ヒョイ、と軽々と頭を下に下げてヨルダンの蹴りを回避する。
「ランダリーファミリー幹部、コグレ。以後よろしく」
そのままコグレはコンテナから体を離してストン、と地面に着地する。
ヨルダンはコンテナの上に立ちながらコグレを見下す。
「残念だが、お前みたいな礼儀知らずは家族とは呼べないな。訂正してもらうぜ!」
ズドン、と勢いよくコンテナからコグレの前まで移動し握りしめていた右拳をコグレの顔面目掛けて放つ。
コグレはそのままの態勢でつま先でトン、と軽く叩いて後退した。
「ぬ!?」
「残念、ハズレ」
ヨルダンは追撃を加えるように拳と蹴りを何度も何度もコグレに向けて放つが、全て躱されてしまう。
時には真横に、時には前進して、時には後退して、ただ爪先で地面を軽く叩くだけで雷の如く速度を誇るヨルダンの攻撃を難なく回避していく。
コグレは両足を開いて態勢を低くし、右の人差し指と中指を合わせて地面にトン、と軽く触れる。
そこから、ビッ、と薙ぎはらうように横に勢いよくスライドさせる。
ヨルダンは既に魔力を纏わせた左拳をコグレに向かって放っていた。
眼前に迫ろうとしたところで、コグレがスライドさせた場所から勢いよく火柱が立ち上がった。
その火柱はヨルダンにも襲いかかる。
「うぉっ!?」
「ぺっ」
口からガムが火柱の中に吐き捨てられる。
ガムは火柱に飲み込まれると凄まじい爆音と共に大爆発を引き起こした。
ヨルダンは第六感が危険信号を発すると同時に、近くの建物の屋根に高速で回避した。
「.....なんつー危なっかしいガムだ」
息を切らしながら魔力を調整し始める。
流れ始めた汗を拭ってコグレの姿を探す。
「やっぱし、あんな爆発程度じゃくたばらんわな。雷迅ヨルダン」
「.....何だ、てっきり自爆したのかと思ったぜ」
「自分の攻撃で巻き添えくらうとか、全裸で土下座するよりも恥ずかしい行為だぜ」
コグレはいつの間にか口に入れたガムをクチャクチャと咀嚼させながらヨルダンの目の前に立ち塞がる。
「ゾブ!サイガ!ケイジ!お前らはあいつらのところに行け!コイツは俺一人で十分だ!」
ヨルダンは三人がどこにいるのかわからないので、とりあえず大声で指示をした。
コグレはニヤリと笑みを浮かべる。
「そんなこと、させると思ッ!」
コグレはゾブを見つけ、標的に定めて指を屋根に当ててスライドさせるが、視界が歪む。
「誰もお前の答えは聞いてねぇよ!!お前は俺に大人しく倒されればいいんだよ!!」
コグレがアクションを起こす前にヨルダンがコグレの右頬を殴りつける。
殴られた衝撃で体をバウンドさせながら態勢を立て直す。
「て、テメェ!随分舐められたモンだな、オイィ!」
「お前みたいなクソ野郎の相手は俺で十分だ。せいぜい足掻いて、ついでにその汚ねェガムは俺に飛ばしてくれるなよ、雑魚野郎」
コグレは狐のように細い目を更に細めて、ヨルダンはバチバチバチバチ、と魔力を高めながら倒すべき敵の姿をしっかりと見据える。
コグレは三度、ガムを取り出してクチャクチャと咀嚼し始める。
そのままコグレは四肢をだらん、と力を抜いてそのままの態勢でヨルダンに接近する。
(踏み込みなしで!)
ヨルダンは急接近してきたコグレに対応が遅れてしまうが、それでもコグレよりも早く右の膝蹴りを放つ。
「遅ェ」
それをコグレは身体を左にスライドさせるように本来人が取れるはずのない動きを見せつける。
そのままコグレはヨルダンの腹部に指を当てて、ビッ、とスライドさせる。
「が、はぁ!?」
スライドさせた部分からは血が噴き出し、切り傷と共に発火し始める。
ヨルダンはぐらり、と体重を前にかけてしまう。
コグレは追撃を仕掛けるようにヨルダンの腹部をズドン!と殴りつける。
「ぎ、ィ!」
「雑魚野郎、とは言ってくれたモンだな、オイ!」
ヨルダンの体は吹き飛ぶことはなかったが、ヨロ、と体のバランスと体内の酸素が一気に漏れだしてしまう。
再び、コグレは五指を開けて引っ掻くような構えでヨルダンの体を狙うが、雷迅を発動させてコグレから大きく距離を取る。
先ほど指でなぞられた部分の傷は浅いが、火傷を負ってしまった。
(クソ、何なんだ、あいつの能力は!ガムが爆発したと思えば高速で移動して、終いには俺の体に火傷を刻むとはな。わかんねぇ)
「逃げんなよ」
背後から聞こえたコグレの声に瞬時に反応し、バックステップで距離を取る。
「へへ、俺はずっと暴れたくてウズウズしてたんだ。まだまだ攻めさせてもらうぜェ!」
コグレはガムを咀嚼させながら、ズガガガガガ、とヨルダンに急接近する。
「焦んなよ、俺も少し燃えてきたところだ」
ヨルダンは拳を握りしめ、全身に魔力を流しながらコグレを迎え撃つ態勢で構えた。
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