メデル・プルーフ   作:Cr.M=かにかま

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33.開戦

 

その頃、ミスティとリリーとレッドのグループはイルバース南部の怪しいと思った場所を徹底的に捜索していた。

レッドは空から、ミスティは自身の魔法で鉄に魔力を流し込んで五感を鉄と共有させることで一帯を探っていた。

リリーは集中しているミスティの護衛と連絡待ちをしていた。

 

「.....この辺りに怪しい所はないわね」

 

「ていうかミスティさん、凄いですね。大分魔力使うんじゃないですか?」

 

「それは大丈夫よ」

 

ミスティは人差し指を立ててリリーに説明を始める。

 

「私は鉄を生み出したり形や硬度を変化させることに魔力は使うけど、基本的にそれ以外のことでは魔力は必要ないのよ。だから流し込む対象が鉄なら魔力も戻すことができるし、道が枝分かれさえしてなければもっと消費する魔力は少ないわ」

 

「な、なるほど」

 

一気に説明されたリリーは頭を抑えていた。

勉強などの類が苦手なリリーにとっては理解するのは厳しいかもしれない。

 

「とりあえず移動しましょ、街は広いから探せるだけ探さないと」

 

この方法は近くにミスティが触れることのできる鉄がないと使えないため、定期的に移動して鉄のある場所まで行かなくてはならない。

 

「一言に鉄と言っても街中全部が全部そういうわけじゃないからね」

 

「そうですね。僕としてもしっかり活躍してヨルダンさんにいいところ見せたいし!」

 

「.....本当にヨルダン君のこと好きなのね」

 

ミスティは苦笑いを浮かべながら肩をすくめる。

リリーはキラキラした瞳でミスティに熱弁し始める。

 

「僕の王子様だからね、僕のことを助けてくれた時は本当に格好良かったんだから!」

 

「そ、そうなんだ」

 

「.....でも僕、ミスティさんには少し嫉妬してるよ」

 

「なんでェ!?」

 

「だって、ヨルダンさん、僕の身体じゃなくて、ミスティさんの身体ばっか見てるんだもん」

 

リリーはミスティのふっくらとした二つの物体に目を移す。

ぷくー、と頬を膨らませながら、物欲しげな目でじー、と見つめる。

ミスティは頬を染めて苦笑いを浮かべた。

 

「だ、大丈夫よ、自信持って!女性は胸だけが全てじゃないから!」

 

「.....ミスティさんが言っても説得力ないよ」

 

はぁー、と溜息を吐きながら成長途中の慎ましい胸を撫でながら拗ねたように吐き捨てる。

 

「それにヨルダンさん、巨乳が好みだし。僕だって昔から大きくしようと毎朝牛乳飲んだり、キャベツ食べたり、マッサージしてるのに全然大きくならないんだよ。どうやったらそんなに大きくなったの?」

 

「.....言いづらいんだけど、あまり特別なことはしてない」

 

「なん、だと...!?」

 

リリーは雷にでも打たれたような衝撃をくらってしまう。

そのまま膝から崩れ落ちてどんよりとした雰囲気を漂わせる。

 

(.....色々面倒ね、この娘)

 

ミスティは冷や汗を流しながら小さく溜息を吐いた。

とりあえず移動しようとリリーを立ち直らせるように言葉に悩んでいるとリリーの携帯が振動し始める。

リリーは即座に反応して通話に応じた。

 

「もしもし?ハルクさん、どうしたんですか?.....え、それ本当ですか?」

 

リリーは何やらサッーと顔を青ざめさせて頬をひくつかせていた。

 

「はい、それで、了解です。急いで現地に向かいます」

 

リリーは携帯をパタンと閉じてミスティに通話の内容を報告する。

 

「敵のアジトの位置がわかりました、同時に頭領が一人で突っ走って行っちゃったらしいです」

 

「.....あの人、たしか単独行動は避けろって言ってたよね?」

 

「若様のことになると自己中になるというか、とりあえず暴走しちゃう人なんです」

 

ハハハ、と渇いた笑い声を上げながら頬をぽりぽりと掻く。

 

「とりあえず、案内しますんで付いてきてください」

 

リリーは空にいるレッドに声をかけて移動を始めた。

ミスティもリリーの後を追いかけてその場を後にした。

 

 

 

一方、ヨルダン達のグループにもハルクから連絡は行き届いていた。

 

「何?また頭が一人で?」

 

『そうなんだ、とりあえずミスティちゃん達には連絡したから向かってると思う。俺も準備が出来たらすぐに出発するから急いでくれ』

 

「わかった」

 

プツ、と通話を切り携帯をポケットに仕舞い込む。

 

「そういうわけだ、お前ら急ぐぞ!」

 

「いや、どういうわけ!?」

 

「説明なしですか!?」

 

「ていうかどこに!?」

 

ヨルダンの突然の指示にゾブ、サイガ、ケイジは疑問と同時に不満の声を上げる。

今の流れで話が理解できる者がいるならば、心を読むことのできる超能力者か聴力が優れた超人くらいであろう。

ヨルダンはやれやれ、といった様子で溜息を吐く。

 

「リリーなら今ので全部理解してくれるんだけどな」

 

「マジですか!?」

 

三人は予想だにしなかった人物の登場に驚きを隠せなかった。

 

「じゃあ、お前らのために大雑把に説明するぜ。敵、見つけた、場所、旧大倉庫、集合、これでいいか?」

 

「本当に大雑把だな、アンタ!」

 

「まぁまぁ、いいじゃないかよサイガ。伝わったんだし、ギリギリ」

 

サイガはぐぬぬぬぬ、と声を唸らせてどこか納得のいかない様子である。

 

「でも、あそこは数年前に閉鎖された場所じゃなかったんですか?」

 

ケイジは疑問の声を洩らす。

 

「ま、閉鎖された場所ほどあの人が暮らしやすい場所はないと思うけどな。人は寄ってこないし、誰もそんなとこにいるなんて予想すらできないんだからよ」

 

「でも、まだガスが残っているって話も」

 

「誰かが駆除したんだろうよ、ハルクの話じゃ向こうにはデベロを超えるかもしれない技術者がいるらしいからな」

 

ヨルダン達は旧大倉庫を目指しながら推測を飛ばし合う。

実際、旧大倉庫のガスは過去幾人もが駆除を試みたが成功した者はいなかった。

ここがもしイルバースの北部ならば積極的に駆除に取り掛かっていただろうが、南部という理由で途中で駆除は断念され今の今までそのまま放置されてきたのだ。

 

「とりあえずだ、敵の位置はわかったんだ。頭も一人で突っ込んだみたいだし、相手が弱けりゃあの人一人で全部片付けれる」

 

「じ、実際にやりかねませんね」

 

「ていうか、またあの人は一人で突っ込んだのか」

 

ケイジは苦笑いを浮かべ、ゾブは頭を抱えて溜息を吐く。

 

しばらく移動し、旧大倉庫の前までやって来た。

立ち入り禁止、の看板が目の前に建っているがヨルダン達は無視して先を急いだ。

 

「どうします?」

 

「突入の許可はないが、行くしかないだろ。モタモタしてても始まらねぇからな」

 

ヨルダン達は物陰に隠れながら侵入の機会を窺っていた。

ゾブ、ケイジ、サイガは得物の手入れをしながら突入の準備を進めていた。

 

(頭が既に来ているなら、雑魚はほとんど倒れてる。なら俺たちはそれに続けばいいんだが、頭が暴れた痕跡がないってのはどういうことだ?もしかしたら俺たちが先に到着しちまったのか、なら頭が来るのを待つか、それとも)

 

ヨルダンが思考に耽っている片隅で、近くの屋根からヨルダン達を見下ろしている者がいた。

ニヤリ、と笑みを浮かべながら獲物を狙うような目で舌舐めずりをする。

 

(キタキタキター!暴れるぜェ、もうムシャクシャして自分を抑えきれねぇんだよォ、ゴルドスさん!)

 

クチャクチャ、とガムを咀嚼する音と共にギラリ、と瞳に怪しげな光を宿した男、コグレはニヤリと笑みを浮かべた。

 

 

 

その頃、ハルクは背に武器を背負いながら屋根から屋根に飛び移りながら旧大倉庫を目指していた。

 

一人で飛び出したロブを追いかけていたはずだが、途中で見失ってしまったため、散り散りになった仲間たちを探しながら旧大倉庫に向かっていた。

 

「くそ、おやっさんも気が早い」

 

タン、タン、タン、と軽快で軽やかなステップで屋根から屋根に飛び移りできる限りの最短ルートを取りながら、大回りで街中を走り回れるルートを取っていた。

 

しばらく進んだところで、ライム達を見つけた。

 

「ライム、クロフさん!」

 

ハルクはライムとクロフに声をかけてスタン、とその場に着地した。

 

「ハルク、いいところに!」

 

「実は旧大倉庫の場所がわからなくてね、困っていた」

 

「.....ったく、何やってんだか」

 

ジンの困ったような表情に思わず苦笑いを浮かべてしまう。

ハルクはそのままポケットから煙草を取り出し、一本吸い始める。

 

「え、な、何故ランダリーファミリーのハルクがここに!?」

 

一人、最後尾で驚いたように目を大きく見開きながらパックは戦闘態勢を取った。

 

「落ち着け、今は味方だ」

 

「味方だと!?俺が入院している間に一体何があったんだ、ふざけるなよ!何で悪党が俺たちの味方なんだ、協力者ってのはライムだけじゃないのか!?」

 

「.....クロフさん、説明してなかったのか?」

 

「時間がなかったからな」

 

ハルクは困った顔をして溜息を吐いた。

パックとしては昨日今日敵対していた相手が味方になるなど、信じられない事態なのだろう。

実際にこのようなことが過程なしで目の当たりにしてしまえば誰でも同じ反応をするだろう。

 

「とりあえず一時的な同盟みたいなものだよ、利害が一致してるし戦いが終われば元どおりだ」

 

「俺はそういうことを言ってるんじゃない!今回の標的と手を組むのかと聞いてるんだ!」

 

「標的はランダリーファミリー、それに変わりはない」

 

「だったら」

 

「ロブが率いるランダリーファミリーではなく、ゴルドスの率いるランダリーファミリーが標的だ」

 

「ややこしいな、何で二つあるんだよ!」

 

「それを一番聞きたいのは俺たちだ、偽物のせいでいい迷惑だぜ」

 

ハルクは二本目の煙草を吸い始めて拳を握りなおす。

 

「とりあえずだ、ホレ」

 

「これは」

 

「お前の得物だ。リリーの奴がパチってたみたいだからな、一応返す」

 

ハルクはパックの弓矢を投げ渡す。

パックは軽々と受け止めて困惑の視線を向ける。

 

「とにかく行くぞ、場所はわかったんだからな。案内頼むぞハルク」

 

「へいへい」

 

パックの見た光景は自分たちの仲間であるクロフと敵だったハルクが敵対することなく共に歩く姿だった。

 

「パック、少しはその頑固な頭を柔軟にしたほうがいい。俺っち達は共通の敵を倒すんだ、共闘するってのにいつまでもギスギスしてちゃ互いに悪い」

 

ジンがパックの肩をぽん、と叩いてクロフ達の後に続いた。

パックは混乱しながらもクロフ達を追いかけた。

 




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