魔法少女が許されるのは15歳までだと思うのだが   作:神凪響姫

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他にも何人かの方が面白いなのはのコメディ(?)を書いてらっしゃるのを見て色々刺激を得た今日この頃皆さまは如何お過ごしでしょうか(ご挨拶

まぁ純粋におもしろおかしい作風は他の方にお任せして、私は私のシュール系変態コメディ(意味不明)を続けていきたいと思います。




第9話 事情を話しましょう

 

 

 前回までのあらすじ

 

 糖尿病寸前みたいなやる気のない顔をした男が乱入してきました。

 

 

 

 

 

 

 

 

   第9話 事情を話しましょう

 

 

 

 

 

 

 

 

 なのはとフェイトの前に現れた男は、気だるそうなため息をつきながら言いました。

 

「時空管理局の……、えっと、なんだっけな……あ、執務官のクロノ=ハラオウンで~す。オメェらのオイタがすぎるっつーことで来ましたよっと」

 

 適当な口上を述べました。

 

「ったくよー、こちとら遠く離れた次元世界からわざわざやって来たってのに、ガキが二人キャッキャウフフしてるだけたぁな。……おいおいちょっと待ってくれよ、クロノさんマジギレしたいんですけど? ていうか帰ってジャ○プの続き見たいんですけど? シケた世界にまで来てガキのお守なんてマジやってらんねぇー。ねぇ聞いてる? そっちのお嬢さんも俺の話をよく聞」

 

 

 

 

 

 

 爆発が生じました。

 

 

 

 

 

 

 言わずもがな、至近距離で魔法をぶちかましたのは、なのはでした。

 

「話が長い。三行でまとめたまえ」

 

 公務員相手にもこの上から目線です。

 

 煙が晴れると、なんかモジャモジャした感じの男が出てきました。

 

「ってなんだよモジャモジャって!? 俺そんなモジャモジャしてねぇよ! してんのはどこかの世界の白髪侍だろ! 俺はご覧の通りサラッサラのストレーt」

 

 言い終える前に第二射撃が来ました。

 

 煙を突き破って、今度はこんがりしたモジャモジャが出てきました。

 

「おいィィイイイイイイ! テメェ何度もバカみてぇにブッパしやがってェエエエエエエエ! お陰でオマエやべぇよこんなっ、俺の頭がモジャモジャしちまったじゃねーか!!」

「落ち着きたまえ。ここは逆転の発想だ。元々モジャモジャしているところに更にモジャモジャする要素をプラスすれば、逆に君の望むストレートヘアーに―――」

「なるわけねぇだろォオオオオ! どんだけ単純な発想!? モジャモジャしてるところにもっとモジャモジャすることしたらオマエもうアレだよ、それモジャモジャした髪じゃなくてよく分からないモジャモジャしたアレだよ! ていうかモジャモジャしすぎて俺の頭もモジャモジャしそうだよ!」

「非常に残念だが君の頭は既にモ○ャ公よりもモジャモジャだ。諦めたまえ」

「おいィィイイイイイイ! ふざけんなぁぁああああああッ!!」

 

 三度目の正直を実行しました。

 

 当たり前ですが元々モジャモジャしたものにモジャモジャする要素をかけたところで更にモジャモジャするだけです。ところでどんだけモジャモジャしてるんでしょうか今回の話は。恐らく一生分のモジャモジャをここで使い果たしていることでしょう。以上、どうでもいいお話でした。

 

「ちょっとォオオオオオ!? お嬢さん俺の話聞いてェエエエエエエエエエエエ! いい子だから聞いて下さいクロノさんからのお願い!!」

 

 チッ、と舌打ちしつつもレイジングハートを下すなのは。外道にも僅かな温情有り。こんなのが温情扱いされるなら彼女はどれだけアイスハートなんでしょうね。

 

 ほっと息をついたモジャモジャ、改めクロノは、ゴホン、と一発咳払い。

 

「えーこの区域での戦闘行為は禁止されていまーす。なので即刻止めないと大変宜しくないことにあるぞーという警告なんぞをして、みたい、んです、が……」

 

 徐々に言葉が消え失せていくクロノに、なのはは小首をかしげます。

 

 そこで、今までいたはずの人物がいないことに気づいた様子のクロノが、慌てて辺りを見渡しているのに気づきました。

 

「ああ、彼女なら君がモジャってる間にさっさと逃げてしまったぞ?」

「ふざけんなァアアアアアアア! テメェ俺が魔界の魔物だったら口から電撃吐いてんぞコラァァアアアアアアッ!!」

 

 今にも友情の電撃を吐き出しそうな勢いで叫びました。

 

 

 

『そこまでになさい、クロノ執務官』

 

 

 

 と、いきなり声が響いたかと思うと、虚空に魔法陣が浮かび上がり、その中に映像が生じました。

 

 クロノはビクッと身体を震わせると、映像の方へ向き直りました。

 

「かぁ……じゃねぇや、班長!」

『班長じゃないわ、艦長よ。……あら? もう一人の子はどこに行ったの?』

「すいませんね、俺の不注意で取り逃がしちまいました。けど必ずなんとかして捕まえるんで」

『あらそう……。まぁいいわ。そちらのお嬢さんからお話を聞きたいから、アースラに同行してもらってもいいかしら』

「アースラにっすか……分かりました」

 

 映像の中で話しているのは、かなり若い女性で、会話の内容からして、このクロノの上司だろうとなのはは推測する。話しぶりからして、親子なのだろうか。

 

「つーわけで、オメェさんをこれから俺たちの本拠地に連れてくことになったけどな? できればついてきてくれるとありがてぇんだが、どうよ?」

「ああ。異論はないよ。しかし……君の御母堂はとても若いのだね」

 

 そう言い、なのはにしては珍しく困ったような苦笑を浮かべました。

 

 そして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まるで幼稚園児かと見まごう背丈の少女が、映像の中でにっこりと笑いました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アースラというのは、時空管理局の艦船であり、なのはやユーノがいた地球とはそもそも存在する世界が異なる場所で運航されているらしく、転送された後に窓から外を見ると、青紫色の空間が広がっているばかりでした。

 どこか宇宙空間めいた神秘性があると想像していただけに期待はずれ感が隠せないなのはは、こっそりため息をつきました。

 

「ユーノ君、次元世界というのは、いわゆる異世界というものかね?」

「簡単に言うと、そうだよ。幾つも存在する並行世界の狭間を渡って、それぞれの次元に干渉し合う出来事を管理していると言われているよ」

「んで、俺たちは各世界で起きる面倒事を解決してるってわけだな」

 

 どこか偉そうに言うクロノでした。

 

「成程。……つまりエロサイトの管理人のようなものか」

 

 凄まじい例えでした。

 

「ああ、日々エロスとバイオレンス溢れる出来事がないもんかと目を皿にして探し続けているわけだなコレが」

 

 同調してきました。

 

 ここで割とまともな……まともなんじゃないかと分類されているユーノの突っ込みが入りそうなものですが、し~んとした空気が流れました。ボケがダダ流れしていることに違和感を抱いたなのはが足元を見ると、小刻みに震えるフェレットがいました。

 どうやら船酔いしたようです。それとも次元空間酔いでしょうか。

 

「なんだユーノ君、酔い癖でもあるのかね?」

「いや、なんだか緊張してきちゃって……」

 

 ユーノもこういったスケールの大きい乗り物に搭乗するのは初めての様子です。なのはも少なからず驚いていますが表に出ていないだけです。

 

「落ち着きたまえ。こういうときは新鮮な空気を吸って深呼吸するに限る。そら、新鮮な空気だ」

 

 と言って、窓を全開にしようとレイジングハートをすちゃっと構えます。

 

「やめんかァアアアアアアア! 地獄の釜戸でも開くつもりか! トイレの場所教えてやっから勘弁してくれマジで!」

 

 クロノの突っ込みが冴え渡りました。

 

 

 

 再び歩き出そうとした時のこと。

 

「あ、そうだ。オメェその窮屈な服脱いどきな」

 

 クロノの指摘が入りました。

 なのはは未だにバリアジャケットを装着したままで、レイジングハートも持ったままです。いざとなったら速攻で壁をブチ抜いて逃げようと思っていたからです。後先考えないなのはさんでした。

 

「ふむ。クロノ君、だったかね? 気持ちは大変よく分かるのだが……」

 

 サラリ、と前髪をクールに掻き上げます。

 

「私の衣装は一品モノでね。欲しいと思ったところでこれを進呈するわけにはいかんのだよ」

「誰もそんなこと言ってねぇよ! 常時戦闘用の恰好されてるとこっちも気使うから止めてくれっつってんの! 服脱げなんざ誰も言ってねぇから!」

「おや? それとも私の身体の方に興味があるのかね?」

「なわけねーだろ! つーかこの子さっきから人の話聞いてなくね!? 耳の穴は右から左!?」

「おやおや、もしやその年でもう枯れてるのかね? 不憫なことだ……」

 

 クロノはもう無視することにしました。

 

 無視されたので、仕方なく渋々といった様子でバリアジャケットを解除します。

 

「おいそこの小動物。オメェさんも楽にしていいぜ、その姿じゃ不便だろ」

「そう、ですね……。じゃあそうしましょうか」

 

 と、アッサリ言ったユーノは光に包まれると人間の姿になっていました。

 

「さて、じゃあ行くとしよ、」

「待ちたまえ」

 

 ガシッと襟首を掴まれて『キュゥッ!?』と動物みたいな声が漏れました。

 

「貴様……今まで力がないからとか色々理由をつけて人間の姿にならなかったクセに、今となって元の姿に戻るその性根は一体何かね……!」

「ごごごごめんよなのは!! 実は少し前に回復してたんだけど、僕じゃ足引っ張ると思ったから自重してて……」

「少し、前……?」

「少し、いや、ちょっと多めに十数日前?」

「……それはあの黒い少女と出会う前かね? 後かね?」

「あはは、な、何を言ってるんだいなのはさん。僕がそこまで役立たずなわけないじゃないですか……」

 

 無言の時間が三分ほど続きました。

 最終的に、無言の重圧に耐えきれなかったユーノが頭を垂れました。

 

「すいません……」

 

 素直な謝罪に、なのははにっこりと爽やかな笑みを浮かべ、ユーノの肩を叩きました。

 

「なのは……」

 

 許してくれたのか、と思い、涙目のユーノは、聞きました。

 

「だが許さん」

 

 

 

 悲鳴が響き渡りました。

 

 

 

 

 

 

 向かった応接室は、なのはが思わず驚愕の息を吐いてしまうくらいには、風変わりな内装でした。

 

 白がまぶしい鉄の壁に囲まれた部屋。そこの床は藺草の匂いが鼻腔を撫でる畳が敷き詰められ、その上には赤の絨毯が敷かれてあります。どこから持ちだしたのか、鹿威しが雅な音を奏でています。客人用にと置かれた抹茶と羊羹は随分と高額なものなのでしょう、濃厚な緑色と美しい光沢を放っています。

 

 今かと正座でなのはたちの到着を待っていたのは、小柄という言葉もビックリするサイズの女性でした。

 

「ようこそ、アースラへ。私はアースラ艦長リンディ・ハラオウンよ」

 

 どこか艶のある笑みを浮かべるリンディ。

 が、それをなのはと同程度の年代にしか見えない少女がやるのは些か違和感があります。もっとも地獄の門番も鳥肌を立てるくらいのダークスマイルを作れる子供が若干一名いますので最早突っ込みをいれることすら生ぬるいでしょう。

 

 ほとんど視線を同じくして話せる女性が一つの船を任せられていることにそれなりの衝撃を受けながら、しかし優秀な人材なのだろうと結論付けて自分を落ち着かせるなのはでした。

 

「ど、どうも……初めまして。ユーノ・スクライアです」

「お初にお目にかかる。私は高町なのはという者だ」

 

 凄まじいまでに対照的な挨拶でした。

 

 

 

 二人は、というより、ユーノは何故ジュエルシードを集めているのか、その理由を話しました。

 なのはは基本的に、リンディから視線を向けられた時のみ、短い返答をしていました。

 

「そう。大変だったわね……」

 

 茶をすすり、一息ついたリンディは言いました。

 ……砂糖を山にして注ぎ込むのはなかなかストレンジですが、もうこの程度のことでは全く驚けない自分がとても悲しいと思うユーノでした。

 

「けど立派なことよ、自分たちで採掘したのだから、極力自力で解決しようとするその志は」

「おいおい船長、勇敢と無謀は紙一重だって言ってたじゃねーか」

「船長じゃないわ、艦長よ。……立場ある人間の言動にはそれ相応の責務と重みがつきまとうって言っただけ。私は別段、この子たちの行いを責めるつもりはないわ」

 

 若手のクロノは二人の行動に対し批判的ですが、艦長であるリンディは同情的な立場でした。

 

「……ところで、ロストロギアというモノに関して、詳しい説明を聞きたいのだが?」

 

 今まで沈黙を保っていたなのはが開口しました。

 どこか様子がおかしく思えるユーノですが、あまりに彼女の横顔が真剣だったので黙っておきました。

 

 

 ……ロストロギアとは、進化し過ぎた文明の危険な遺産。使用法によっては世界どころか次元空間さえ滅ぼしかねない危険な技術の塊。

 ……ジュエルシードはそんな品物のひとつで「次元干渉型のエネルギー結晶体」。

 ……複数発動させることで次元空間に影響を及ぼす「次元震」を引き起し、最悪の場合、いくつもの並行世界を壊滅させるほどの災害「次元断層」のきっかけにもなりうる。

 

 

「放置しておけば、いずれ周りに大きな悪影響を与えるっつーとんでもねぇ代物だ」

「口内炎のようなものかね」

「しかも、ちょっとでも力が漏れただけでかなりの災害が出るんだよ。前触れみてぇなのがあったらもう手遅れ、ってこともザラらしいぜ」

「虫歯のようなものかね」

「いちいち何かに例えねーと話聞けねぇのかお前は!」

 

 床をバシバシ叩きながらクロノが突っ込みました。

 苦労するなぁ、と同情する目を向けるユーノでした。

 

「落ち着きなさいクロノ執務官。何事も冷静に対処できないと苦労するわよ?」

「はいはい、アンタみたいな合法ロリババアを母親に持つと苦労が絶えね、」

 

 ドスッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一分後。

 

「ともあれ、これよりロストロギア・ジュエルシードの回収については、我々時空管理局が全権を持つわ。難しいことかもしれないけど、貴方達は、今回のことは忘れて、元の平和な生活に戻りなさい」

「そういうこった。危ねぇからガキはとっととおうちに帰ってプ○キュア見てキュア○ースをアヘ顔にする作業でもしてんだな」

 

 嫌に具体的なことを述べるクロノでした。

 ……頭に串が突き刺さっていることには誰も突っ込みませんでした。

 

 確かに彼女らに任せた方が確実と言えるでしょう。しかし、ユーノの心中では、どこか納得し難い自分が否定の叫びを上げていました。元々、自分の一族が見つけたもの、それを誇示するわけではないのですが、発掘に携わっておきながら、何の責任もなく他者にそれを押し付け、平和な生活を満喫するなど、果たしてできるのでしょうか。

 

 でも、と反論の口を開いたところで、片手を差し出したなのはに制されました。

 

 分かっている、とでも言いたげな彼女の表情に、安堵を得たユーノでした。

 が、

 

「ではそうさせてもらおうかね」

 

 

 

 

 

 

 司令室から席を立ったリンディは、ある場所を目指します。

 モニタールームでは、既に一人の少女が、フェイトと名乗る少女と、先程招いた高町なのはという少女が交戦した際の記録映像を見つめていました。

 

「あ、艦長……」

「御苦労さま、エイミィ。どう? 彼女たちは」

 

 エイミィと呼ばれた少女は、ため息でもつきそうな顔で肩を竦めました。

 

「どっちも非常識なレベルですね。いずれもAAAクラス、魔力だけならクロノ君を超えてます」

「その肝心のクロノがいないのだけれど……そうだわ。エイミィ、クロノを連れて来てくれる? 話したいことがあるのだけれど」

「分かりました」

 

 一分後、エイミィに引き摺られたクロノが登場しました。

 何故か縄で縛られております。しかも四角形の形が目立つ縛り方でした。

 

「エイミィ、ちょっといいかしら。……この独特の縛り方は何?」

「ええ。―――ご存知菱縄縛りです」

「いや、知らないわよ。……それ、あなたの趣味?」

「いえ、私の父の趣味です」

「あなたの父親鬼六!? というか何で束縛してるの?」

「自室に突撃しましたら、今日の記録をつけているのかと思ったのですが目を開けたまま居眠りをこいていたので、つい……」

 

 つい、で人を緊縛する少女というのもなかなか異常でした。

 それでいいのか――リンディは突っ込みましたがエイミィは涼しい顔でスルーしました。

 

「あ、母さん、なんで俺縛られてんの? さっきまで自分の部屋にいたんだが……どうも気を失う直前に田舎の山から駆け降りてきた山姥を見た気がし、」

 

 ゴスッ

 

 

 

 

 

 

「……それで、何か御用ですか?」

 

 頭から流血しているクロノは、一応体裁を取り繕うべく真面目な口調で言いました。

 もう何もかも手遅れな感が漂いますが。

 

「ああ、実はクロノもこの映像を見てもらおうと思ってね。どう思う? 彼女たちの実力は」

「どうもこうも……鼻ったれなガキどもにゃちと荷が重いんじゃねーの? 力があるっつったってまだ子供なんだしよ、危ねぇったらありゃしねぇ」

「確かに、魔法は魔力で全てが決まるとは言い難いですし、あの黒い服の子はともかく、経験も不足しがちな白い服の子じゃちょっと……」

 

 客観的に見れば、二人の意見は正しいと言えましょう。魔法と出会って一月も経っていない子が、強大な力を持っているとはいえ、実力で上回る相手に勝てるか。そして、ジュエルシードと関わり続けて、危険な目に遭わないか。不安を駆り立てる要素は数えればキリがないでしょう。

 

 しかし、リンディは柔和な笑みを携え、

 

「果たしてそうかしら?」

 

 その台詞に、二人は驚いたような目を向けます。

 

「随分利発そうな子だから、きっと私たちの予測とは違う答えを出すと思うわよ」

 

 どこか楽しそうな雰囲気を漂わせ、映像の中で戦う二人の少女を眺めていました。

 

 ……ちなみに、映像は数時間前に森の奥で行われたものなので、戦闘というよりコントに近いものでしたが、それに感づくほどの常識人は存在しませんでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 海鳴市に着いたなのはとユーノは、とりあえず帰路についていました。

 

 二人の間には沈黙が漂っています。どちらかというと、なのはは思案顔で、ユーノは沈痛そうな面持ちでした。

 余談ですが、既にユーノは元のフェレットの姿に戻っています。この方が楽だから、と言っていましたが最早言い訳にしか聞こえませんでした。

 

「なのは、これからどうする? 僕らだけじゃ確かに戦力としては心もとないけれど、このまま引き下がるのも……」

 

 どこか憂いを得た表情のユーノですが、対照的になのははいつもの不敵な笑みを携えていました。

 

「案ずることはないよ、ユーノ君。私は元々ここで終わるつもりなど毛頭ない」

「なのは……けど、ジュエルシードはあの子に奪われちゃったし……」

「何、彼女の潜伏先は大方の検討がついている。問題あるまい」

「え、ホントに!?」

 

 用意周到すぎる返答にユーノは驚きました。

 

「ふふふ、驚いたかね? 居場所の判別など私にかかれば余裕のよっちゃんだよ。……実は街中で見つけた後ストーキングしただけなのだが」

「それ犯罪じゃないか……」

「心配するな、ともすれば犯罪行為だが、かの有名なブラックジャックもしていたことだから大丈夫だろう」

「何が大丈夫なのかちっとも分からないんだけど」

 

 そう言いつつ、まぁなのはだしね、と心の中で結論付けて流しました。もうすっかり汚染されているようでした。

 

「ていうか、何でそのことを言わなかったの? 彼女らを放置していたら危険だって思わなかったの?」

「わくわくす……それは大変だね?」

 

 モロだしでした。

 

 ともあれ、全ては夕食をとってからゆっくり考えようというなのはの提案もあり、二人は家へと帰って行きました。

 

「…………」

 

 なのはは終始何事かを考えているようでしたが、ユーノは終ぞそれに気づきませんでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あるマンションの一室にて。

 

 フェイトは呻くような声をあげて、目を覚ましました。

 

 身体のところどころに包帯が巻かれております。これはなのはが撃ったクロノへのバスターの余波をモロに受けたものです。つまり衝撃だけでこの有様でした。直撃しておいてフツーに生きてるクロノの生命力は黒い生命体Gを凌駕することでしょう。

 

「フェイト……もうやめようよ。ジュエルシード集めなんて、やっぱり無理だったんだよ」

 

 珍しく気弱な様子のアルフが、顔を歪めて言います。

 

「もう管理局が嗅ぎつけて来た……プレシアのためなんかにジュエルシードを集めるのは止めよう? どっかに二人で逃げれば、今ならまだ、」

 

 しかし、言い終える前に、フェイトが指をアルフの口元へ寄せました。

 それ以上言わなくていいと、言わんばかりに。

 

「ボクがやりたいから……母さんのためだけじゃない、ボクがそう望んでるから、やりたいんだよ。だから途中で投げ出したく、ないんだ」

「あんな酷い仕打ちされても、かい……?」

「母さんは、今まで辛いことがいっぱいあったから。ボクだけが味方なら、なんとかしてあげたいと思うのは、おかしいことなのかな……」

 

 あまりに健気なフェイトの声に、アルフは悲しくなって泣き崩れてしまいました。

 アルフはただ、自分の主人であるフェイトに笑って生きて欲しい。幸せになって欲しい。ただその一心で、ずっと生きてきました。だからフェイトが喜ぶならなんでもしようと誓っていました。そのフェイトが母のためと身を粉にして働いているのに、事態は急速に悪化していきます。管理局に捕まれば、どう足掻いても重罪として裁かれ、最悪人として扱われぬまま闇に葬られることもあり得ます。

 それはフェイトも承知しているはずです。分かっているはずなのに、頑なに首を縦に振ってくれません。

 それがとても悲しいことだと思いながらも、アルフはフェイトの意志を尊重しました。せざるを得ませんでした。

 

「ごめんねアルフ……迷惑かけちゃって」

「フェイト……いいんだ、アタシはアンタが幸せになってくれるなら、それでいいんだよ……」

 

 優しくアルフの頭を撫でるフェイトは、小さく微笑みながらも、決して逃げないと決意を強めました。

 

 

 

 

 

 

「盛り上がってるところ非常に申し訳ないのだが、少し失礼するよ?」

 

 

 

 

 

 

 とそこで空気の読めない少女が突入してきました。

 しかも隣の部屋から出てきました。どんだけ神出鬼没なんでしょうか。

 

「な、おまっ、ちょっ……!? なにを、いつ、ここが!」

 

 支離滅裂なアルフを無視して、フェイトの前へずんずん近づいたなのはは、ビシッといつものキメポーズをとりました。

 

「安心したまえ。ここを発見できたのは偶然だ。時空管理局どころかユーノ君にもこのことは伝えていないから不安を抱く必要はないよ。しかしこのまま引き下がれるのかと言えばそうでもなかろうな、何故なら君らと私は今日まで敵対していたのだから。なので神に等しい権利を持つ私は良い物をプレゼントすることで君たちの機嫌をとったうえで無事帰還したいのだが宜しいだろうか? 良いと言ってくれるかそうか有難いではこれを渡そう大事にしてくれたまえでは近いうちにまた会おう」

 

 一気に言ってから、なのはは小さい箱を無理矢理フェイトに押し付けると、そのまま颯爽と帰って行きました。しかもご丁寧にも玄関から出て行きました。

 

「……何だったんだ、今の」

「さ、さぁ……?」

 

 二人とも呆然としております。さながら嵐のように訪れ去って行ったなのはに思考が追いつきません。

 

「そ、そうだフェイト! 何を受け取ったんだい!? もしかして発信機とかじゃ……!」

 

 慌ててアルフがフェイトから箱をひったくり、壊さんばかりの勢いで包装をはがしていきます。

 あっ、と一瞬悲しそうな顔をしたフェイトですが、中身に興味があるのか、横から覗き込みました。

 

 すると、

 

「じゅ、ジュエルシード……!?」

 

 なのはが持っていたと思しきジュエルシードが、箱の中から出てきました。

 

 一体何を考えているのでしょうか。

 二人は考えの読めない少女の行動に、首をかしげるばかりでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 某所にて。

 

「早くなさいフェイト……アルハザードが待ってるの……私の、私たちの救いの地が……」

 

 大魔導師とされるプレシア・テスタロッサは、自分の娘の帰還を待っていました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ブレザーを着たまま。

 

 

 

 


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