魔法少女が許されるのは15歳までだと思うのだが   作:神凪響姫

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特別語ることがないのでこのまま何事もなく本編に突入いたします(え


第8話 封印を済ませましょう

 

 

 

 夜になりました。

 

 なのはとユーノは眠るすずかとアリサを起こさぬよう、細心の注意を払ってベランダへ出ました。当たり前のようにユーノを踏んづけ悲鳴を上げかけるのを押さえるためにまた踏むという不毛なやり取りがありましたがどうでもいいので省略で。

 

「そういえば、なのは。一つ聞いてもいい?」

 

 背中に残る足跡が生々しいユーノが問いました。

 

「君、記憶がないって聞いたけど……いつから? 今もまだ思い出せないの?」

「ああ、以前話した通りだよ。君と出会う少し前からの記憶がまったくなくてね。知識だけは何故か存在するのだが、どうも噛み合ってない気がするのだよ」

「? どういうこと?」

 

 ユーノは以前、少しだけなのはのことに関して聞いていましたが、深い事情を知ってるわけではありません。記憶喪失だと言ったなのはにこれ以上言及してはいけないと踏んだから、あの時は躊躇ってしまい、結局聞けずじまいだったのです。

 

「……」

 

 なのははもう少し深く話そうかと口を開きかけましたが、

 

「いや、なんでもない」

 

 結局、話すのを止めてしまいました。

 

「ともあれ、この件に関しては君は無関係だ、気にすることは無い。それに現状私の為すべきことは決まっている。」

 

 気を使ったのか小さく笑うなのはですが、はぐらかされてしまった感のあるユーノは、ちょっと距離感を抱いてしまいました。出会ってからの時間は短くともそれなりの友好を築いたと思っていたので、なのはの寂しげな横顔に寂寥感を感じました。友好と言うより主従とか従僕といった言葉が似合いそうなのは気のせいでしょうか。

 

「なのは、君は……」

 

 続けて言おうとした、その時でした。

 

「―――! なのは、魔力反応が」

「よしきた」

 

 四文字で応答したなのはは瞬時にセットアップを終えました。早すぎる神業です。そんなサービスレスな変身じゃ視聴率が上がりませんよ。

 

 早速なのはは外へ飛び出そうと、ベランダに足を乗せました。

 

「ちょっ、なのは! ここ三階だよ!? 危ないよ! ていうか誰かに見られたら困るんじゃ!?」

 

 一応理屈は通ってますが、そんな都合などまるっと無視するのがなのはクオリティです。騒ぐユーノを掴んで、夜空へと飛翔しました。

 

「高町なのは、レイジングハートで逝きます!」

「一人でイってぇぇええええええええええええええええええええっ!!」

 

 聞き流されました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、一方その頃、ジュエルシードらしき物体の反応を先に発見したフェイトと、当たり前のように関係者だった橙色の髪をした女性――アルフは、森の奥にまで足を踏み込んでいました。

 

 が、

 

「……ねぇアルフ。これってジュエルシード、だよね?」

「そう、だねぇ……。そうとしか思えないねぇ」

 

 ジュエルシードがありました。

 

 

 

 地面の上に。

 

 

 

 無造作に置かれていました。まるで走っていた子供が落っことした百円玉みたいな感覚でした。

 

 しかも、こんな紙が側に転がっています。

 

 

 

『持って帰ってもいいんじゃよ?』

 

 

 

 怪しさ満点でした。

 

「……どうする?」

 

 上目遣いで意見を求めるフェイト。

 

「どうするもこうするも、とっとと封印して持ち帰った方がいいんじゃないかい……?」

 

 困惑した様子で答えました。毎回苦労して手に入れてるモノが放置されてたら誰でもビックリします。

 しかしなんでしょう、このやる気の無さというかどっちらけ感は。今まで散々努力してきたのに結局本気を出す前に目標に到達してしまったというか、欲しいと思って必死にお金をためて遂に買えると思ったら誕生日祝いに送られてきたというか、……どうでしょう?(何が

 

 ともあれ。

 

「まあいいや。簡単に手に入るならこっちのモンだよ、さっさと回収して帰ろうよ、アルフ」

 

 細かいことはすぐに忘れてしまうフェイトは危険じゃないかと勘繰るアルフを置いといて、スタスタとジュエルシードに近づいていきます。

 

「あ、ちょっ、フェイト!? 危ないんじゃないかい!?」

「へーきだよ。心配性だなぁアルフは。だいたい罠だったとしても、このボクがそんなモノにやすやすとひっかかるわけが、」

 

 言い終える前に足元が崩れました。

 落とし穴でした。

 

「あれぇえぇぇええええエエエエエエエエエエエエっ!?」

「フェイトぉおおおおおおおおおおおッ!?」

 

 急いでアルフが駆けつけます。

 しかしフェイトとて、ただ落っこちるだけの痴態は晒しませんでした。慌てて飛行魔法を使い、落ちてすぐのところで留まっていました。

 

「よ、よかった……。一体誰がこんな子供みたいな真似を」

 

 アルフは穴から覗き込みました。

 底がまったく見えませんでした。

 

「深っ!! 全然子供っぽくない! 一体どんだけ手の込んだ罠なんだい!? ていうかどこのどいつが……!」

 

 その時、背後から声が聞こえてきました。

 

「どこのどいつが、と聞かれたら……答えてあげないのが私の情け」

「どんだけ自己中心なんですか……」

 

 足音は二つ、声も二つ。

 

 フェイトとアルフが振り向くと、そこには見覚えのある人物がいました。恐らく親の顔を忘れてもコヤツのことは身体にトラウマとなって刻み込まれているでしょう。

 

 そんなトラウマメーカー……高町なのはとユーノは、堂々とした足取りでやってきました。

 

「やれやれ、人の獲物を盗みとろうなどとは……とんでもない奴だねまったく!」

 

 お前はどうなんだお前は、という抗議を誘発しそうな発言でした。

 

 案の定、フェイトから突っ込みが入りました。

 

「ちょっと待てよ! これはボクが回収するって前も言ったし、大体コレはオマエだけのものじゃないだろっ!」

 

 確かに一理ありますがなのはには無意味でした。

 

「まったくこれだから庶民は困る……。いいかね? それは私が手に入れるべきものだ。つまり私のものだ。私のものは私のもの、あとは知らない。君はそれを横からかっさらおうとしている。つまり悪だ。解ったかね? ではとっととそれを寄こしたまえ」

 

 ジャイアニズム全開でした。

 

「やだよ! ボクがとったんだからボクのものだもんねー!」

 

 あっかんべーと挑発しながら、ジュエルシードを拾おうとしました。

 

 すると地面が突然崩れました。

 落とし穴でした。

 

「フェイトォオォォオオオオオオオオッ!!??」

 

 アルフがジュエルシードそっちのけで慌てて駆けつけました。

 

「ふん。やれやれ、盗人猛々しいとはこのことだね」

 

 肩をすくめながら、ジュエルシードに近づくなのはでした。

 

 すると足元の感覚がなくなりました。

 落とし穴でした。

 

「なのはさんんんんんんんんんんんんんっ!!??」

 

 ユーノがビックリ仰天しながら駆け寄りました。

 が、存外しぶといことに、なのはは縁のところにしがみついておりました。さながら地獄の底から這い上がって来た悪鬼羅刹のようです。

 

「おのれなんと卑劣な……! この私を罠にかけるとは!」

「ええええ!? これ君がセットしたものじゃん! なんで覚えてないの!?」

「なんと!? フフフさすがは私だ落とし穴を設置したのにまったく気づかなかったよ……!」

「君自分で仕掛けたんだから配置くらい記憶しておこうよっ!」

「仕方なかろう、急いでいたのでどこにあるのかまったく覚えておらんのだよ」

 

 そうこうしている間に、復活したフェイトが土を払いながら出てきました。

 

「フッ、バカめ! ジュエルシードはいただきだ!」

 

 膝立ちのまま手を伸ばしましたが、一歩前へと踏み込んだ瞬間、マントの裾を思いっきり踏んづけてしまい、滑って再び穴の中へ落っこちて行きました。天才ですかこの子。

 

 しかし御主人はこんなことで挫けないと信じているアルフは、フェイトそっちのけでジュエルシードへ近づきます。ご主人第一のアルフですが、コントを披露している場合じゃないと分かったようです。最初からそうすれば良かったでしょうに。

 

「アタシがとる……!」

 

 あともう少し、というところで、アルフは気づきました。ジュエルシードへと向かう進路上に、何故かバナナの皮が落ちていることに。

 

「ってこんなもん引っ掛かるかーっ!!」

 

 ご丁寧にキックで吹き飛ばしました。

 

「ふぅ、なんだってんだい……」

 

 そしてジュエルシードを手に取りました。見せびらかすように空へ掲げます。

 

「また一つ、手に入ったか……」

 

 感慨深げに息をつきながらじっと眺めていましたが、妙な違和感を抱きました。

 なんだろう、と思い、裏返して見ると、裏には小さな紙が貼ってありました。

 

『じぇいるしーと?』

 

 パチモンでした。

 何故かどっかで見たことある研究衣を着た男が爽やかな笑みを浮かべたイラストつきでした。

 

「アホかぁああああああああああああッ!!」

 

 地面に叩きつけました。

 

「ふん、こんなこともあろうかと、事前にすり替えておいたのが幸いしたね」

「なのはなのは。こんなことが起きるって分かってたなら、さっさと封印して逃げた方がよかったんじゃないの? 相手はこっちの場所分かってないんだし」

 

 …………。

 

「そうだったね」

 

 清々しい笑みで誤魔化しに入りました。

 

 と、二人がアホなことをしていると、目の前を黒い影が過りました。なのははなんとかかわしましたが、ユーノは見事に撥ねられました。

 

 何だったのだ――振り向けば、そこには橙色の毛を持つ狼が佇んでおりました。

 その口元を注視すると、なのはの手中にあったはずのジュエルシードがありました。

 

「……そうか。君は人間はなく、」

「何驚いてるんだい? 使い魔を連れてるクセに」

 

 口に何かくわえたまま話しました。器用なことです。

 

 そこへ、再起したフェイトが降り立ちました。全身泥だらけなことには突っ込まないであげるのが大人というものでしょう。

 

「アルフ! ちゃんとしまっておいてくれよ!」

「分かってるって。とっとと帰ろうフェイト!」

「そうなんだけど……」

 

 こちらを睨んだまま、構えをとるフェイト。

 なのはがこのまま見過ごすはずもなく、加えて、数は分からないまでもジュエルシードを持っていることを知っているようです。

 

「……一つ聞きたいのだが。何故そうまでしてジュエルシードを求める?」

 

 ここにきてようやくまともな発言が出ました。

 

「はぁ? そんなのなんでいちいちボクが答えないといけないんだよ」

「いちいちごもっともな台詞どうもありがとう。しかし、」

 

 ビシッ、とボーズをキメるなのは。

 

「極力平和に物事を解決したがるのが人間だ。そして私も人間、君も同じく人間だ。お互い主義主張など異なるモノも大いにあるだろうが、しかしそこに平行線も存在するが境界線もあるというもの。いずれにも利益をもたらす良い結末があるとは思わんかね? もし君に不満があり私に不備があるというならば、私は謝罪しよう。改善を努めよう。そして、君と良き対話を行えるよう祈ろう。故に、君らと話し合う場を提供したいのだが」

 

 どうかね? と上目に見るなのは。

 長々語りましたが、要はこういうことでしょう。

 

 

 

『貴方と……合tお話ししたい』

 

 

 

 途中で雑音が混じりましたが、とどのつまり話し合いで解決しよう、ということです。

 

 手を差し伸べるなのは。フェイトは少し眉根を寄せて、疑るような目を向けます。そりゃあんだけ罠にかけられおちょくられれば懐疑的になるのも止むをえません。

 

「言葉だけじゃ、何も変わらないんだよ……!」

 

 結局、彼女はどこか怒ったように、しかしどこか悲しげに、首を振って拒否しました。

 

 対して、拒絶されたなのははというと、少しガッカリしたように肩を竦めました。

 

「そうか。では交渉は決裂だ。戦争をしよう」

 

 バスターをぶっ放しました。

 

 

 

 ちゅどぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!!!!

 

 

 

 一瞬で辺りが粉塵に包まれました。

 

「ちょっとぉおおおオオオオオ!? いきなり何してるんだよなのはぁあああああ!」

 

 あまりの変わり身の早さといきなりな攻撃にユーノは顔を青くしましたが、視線の先ではなのはが涼しい顔で佇んでいます。

 

「悲しいことだよね……話し合えるはずなのに、分かり合えないって」

「君、話し合う努力してた?」

「無論、したとも。……一度くらいは。だが偉大なる私の厚意を無碍にした罰は重いぞ……!」

 

 その結果が速攻バスターぶっ放しなのですから恐ろしいですよね。

 

 しかしユーノも、最早話し合う余地はないだろうと踏んでいたので、今のうちに作戦を立てるべきか、と前向きに考えます。何事も前向き思考でないとすぐ胃が痛むようになった今日この頃です。何故でしょうね? 原因はすぐ近くにありますが。

 

「けどなのは、相手は正直、君より魔法に慣れ親しんだ相手だ。油断しない方がいい。何か作戦でもあるの?」

「うむ、任せたまえ。傾聴に値する作戦を述べよう。まずユーノ君が相手方に突撃をかまし、隙が生じたらすかさずバスターを撃って撹乱させる」

「僕も巻き込まれるんじゃ……」

「フフフ、ユーノ君、いい事を教えよう。……戦いに犠牲はつきものだよ?」

 

 ユーノは泣きながら逃げ出しましたが華麗な動きで先回りしたなのはからは逃れられませんでした。

 

「はははユーノ君、何故そんな血相変えて飛び出すのかね? 危ないではないか」

「なのはなのは! 僕ね今まで君と一緒の方が安全だと思ってたけど、君の半径3メートル以内にいる方がもっと危ないってようやく気づいたよ!」

「何を言い出すかと思えば……私のような人畜無害で純粋無垢な少女をパートナーに選んだのだ、心配事など何一つないではないかね?」

「自分で言いおったよこの鬼畜……!」

 

 煙が不自然に揺らぎました。向こうも体勢を整え、反撃の準備を終えたのでしょう。

 させるか――なのはは目をキュピーンと輝かせ、もがくユーノを持って遠投する体勢をとりました。

 

「撃ちだせ青春……!」

「いやぁああぁぁああああああああ! この人でなしィイィイイイイイイイッ!!」

 

 ブン投げました。

 

 煙を幕を突き破り、ユーノが直進します。Jリーガーもかくやという肩を披露したなのはの魔法少女パワーで投げ放たれたユーノはまさに流星、ぐんぐん勢いを増して、やがて今まさに前へと飛び出そうとしていたアルフの顔が見えました。

 

「なっ……アンタ、飛べたのか!?」

 

 いいえ、ただ投げられただけです。

 

 息をのんだアルフは、しかし見事横に身体をズラして避けました。

 なので、顔面から地面にダイブすることになったユーノでした。

 

「まさか自分から突っ込んでくるとは……いい度胸だね!」

 

 勘違いしたままのアルフが、拳を唸らせて殴りかかりました。

 

 地面から身体を引き抜いたユーノは、迫る拳を冷静に見つめます。ユーノの得意とするのは、なのはのような射撃やフェイトの得意とする近接戦ではありません。防御や結界といった、サポート系を専門としています。なので危機的状況でも、比較的素早く対処し、身の安全を確保することができるのです。

 

 大丈夫だ、問題ない――そう確信したユーノは、防御魔法を発動させようとしましたが、

 

「危ないユーノ君!」

 

 光弾が雨あられと降って来ました。

 

「うわぁっ!?」

「ぴぎゃーっ!!」

 

 アルフはなんとか避け、ユーノは見事に直撃を喰らいました。

 

「ななな、何するんだよなのは! 危うく誤射で昇天するところだったよ!」 

 

 黒焦げになったユーノがプンスカ怒りながら猛烈な勢いで抗議をしますが、なのはは眉ひとつ動かさずに言いました。

 

「私の目の前で無防備を晒すな……!」

 

 凄まじい超理論にユーノは反論しましたがなのはは無視しました。

 

 ユーノの凄まじい生命力にアルフが少なからず驚いています。無防備な状態で直撃を受けたのにピンシャンしてるのは最早生命の神秘なんてレベルではありませんでした。

 

「油断してる場合か……!?」

 

 横手から、凄まじい勢いでフェイトが飛んできました。その手には既に刃を形成したバルディッシュ・サイズフォームがあります。

 

 すかさずなのははプロテクションを形成、急場しのぎとはいえ、それ相応の強度を誇る防御を行いました。

 

「アンタの相手はこっちだよ!」

 

 獲物を見つけた、と言わんばかりのスピードでアルフが再度攻撃を仕掛けてきました。

 

 しかしユーノも攻撃を受けてあひゃーとかうひーとか良い悲鳴を上げるだけの珍獣ではありません。足元に魔法陣が描かれ、逃れられぬよう光の鎖のような物体がアルフを拘束しました。信じられないほどの手際のよさです。普段からこういう動きができていれば有能に見えたでしょうが今となってはただの変態にしか見えません。

 

「な……っ! こいつ、放しな!!」

「嫌だ! こんなところにいたら僕の命がグロス単位であっても足りない……!」

 

 命の危機にひんしていたので限界以上の力を発揮したようでした。

 やがて光が満ち、ユーノとアルフはどこかへと転送されていきました。恐らくはなのはの射撃が間違っても当たらないような安全な場所へ飛んだのでしょう。彼の安息の地や如何に。

 

「いい使い魔じゃないか。主思いなんだね」

 

 どこかへと消え去ったユーノとアルフがいた場所を見つつ、そう言いました。

 こう言ってはなんですがどこに目をつけてるんでしょうか。

 

「否、それは違う。アレは私の使い魔とやらではない」

「え? じゃあなんなのさ」

「あれは使い魔ではなく―――盾だ」

 

 キッパリ言いました。言ってのけました。

 これぞ揺るがぬ高町なのはクオリティ。そこに痺れぬ憧れぬ。

 

「え……」

 

 フェイトは非常識な発言にビックリしています。この程度で驚いていたらストレス溜まりすぎで胃に穴が開くでしょう。

 

「ともあれ、どうするのかね?」

 

 相変わらず立場がおかしいなのはの問いに、フェイトは気を取り直し、

 

「話す意味なんてない……。オマエをぶっ倒して帰る、ジュエルシードは全部集める! それだけだ!」

 

 つまり何も考えてないと言ってるようなものでした。

 

「ふむ。……ではこうしよう。お互いジュエルシードを賭けて戦おうではないか。私と君と、一対一で決着をつける。それで如何かな?」

 

 初心者のくせに何偉そうに言ってんだという突っ込みが消え失せそうなくらい堂々とした言い草でした。

 

「……勝ったらジュエルシードを手に入れる、そういうこと?」

「ああ、そうなるね。……私が負けるなど天地がひっくり返ってもあり得ないが」

 

 先日派手に爆散した人の台詞じゃないと思います。

 

「嘘だぁ、オマエこないだ負けてたじゃないか?」

「はて、何のことかね? それに足を引っ張られなければ私が貴様に遅れをとることなど有り得んよ」

 

 素晴らしい忘却力でした。

 

「分かった。……じゃあもう一回、負かしてやる! 今度は言い訳させてやらないぞっ!」

 

 意気揚々にバルディッシュを構え、いつでも踏み込めるようにするフェイト。

 余裕の表情を崩さず、いつでもかかってこいと言わんばかりのなのは。

 

「行くぞ!」

「さぁ、勝負だ―――」

 

 両者は同時に動きました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――マ○オカートでーっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 三十分後。

 

「…………」

「…………」

 

 満身創痍となったアルフとユーノが戻って来ると、そこには、

 

「おいぃいいいい! オマエさっきからトゲゾーばっかりじゃないかぁ!」

「ははは何のことかね? そら順位で落ちてるぞ?」

「むぅううう……! じゃあボクも使うーっ!」

「ほぉう宜しいのかね? おっとサンダー引いた。……おやおや君は小さいね? 思わず踏んでしまいそう……あ、すまない踏んでしまった。ハハハ悔しいのう悔しいのう?」

「もう邪魔なんだよぉおおぉぉおおおおおっ!」

 

 仲良くゲームをして遊ぶ子供二人の図でした。

 

 

 

「ちょっとなのは、なんで和やかに遊んでるんだよ! ジュエルシードはどうしたのさ!?」

 

 ユーノが怒ったというより困惑した様子で叫びますが、なのははしれっとした顔で言いました。

 

「はて? 君が穏便に事を運べと言うものだから、渋々! 止むを得ず! 嫌々ながらも! 仕方なく! 和やかな解決法を模索したというのに! 文句があるのかね!?」

 

 文句しかありませんでしたがユーノは黙っておきました。

 

 と。

 

「ふん……!」

「―――ッ!」

 

 隙を突いたアルフが拳を唸らせました。

 既に手傷を負ったアルフですが、ユーノほどではないようです。というかユーノの負傷率が異常に高いのは何故でしょうね本当に。

 

「どうして……! ジュエルシードは危険なものなんだよ!? 何故君らがそれを求めるんだ!」

 

 ユーノは必死な叫びを放ちました。

 

 良い質問ですがアルフとフェイトは取り込み中だったので華麗にスルーされました。残念無念。

 

「サンダースマッシャーッ!!」

 

 アルフが足止めしている間に詠唱を終えたフェイトが、砲撃を放ちました。

 

 魔法の才能があるとはいえ、咄嗟に障壁を展開できなかったなのはは、それを回避することは叶わず、

 

「くっ……!」

 

 被弾しました。

 

 煙と衝撃が生じ、派手な爆発が起きました。

 さしものなのはもこの直撃はかなりの大打撃となるでしょう。

 

 そう、

 直撃していれば。

 

 煙が晴れると、そこには大したダメージを受けていないなのはがいました。服のところどころが焦げ、肌のあちこちに傷がありますが、戦闘に支障のないレベルです。

 

「ふぅ、危ないところだった……。いいところに壁となる物体が落ちていて、それを盾にしなければ私が消し炭になっていたぞ」

 

 説明口調で言って、盾にしていた物体をおろしました。

 

 ユーノでした。

 

「ユーノ君んんんんんんんんんんんっ!!!??」

 

 両手で抱えたまま、涙を流して絶叫しました。

 端から見ると感動的ですが三秒前の光景を思い出すと苦笑も起きません。

 

 痙攣するユーノを眺めていたなのはは、ややあってから、ゆっくりと顔を上げました。

 

「許さん……許さんぞ貴様ら! ただで帰れると思うなよ! じわじわとなぶり殺しにしてくれる……っ!」

 

 A級戦犯が叫びました。

 今にも金髪になりそうでした。

 

「お、落ちつけよ! 誰のせいとか言ってる場合じゃないだろ!?」

「任せな! こんな時こそと思って入手した、伝説の秘孔を突いてやる……!」

 

 何故かアルフが自信満々に腕まくりしました。

 

「なに!? そのようなものが存在するとは……!」

「あるんだよ! どいてな嬢ちゃん……!」

 

 勢いをつけて走り込んで来るアルフ。

 

「そこだぁああぁあぁああああああッ!」

 

 そしてそのままどてっ腹に一突き入れました。

 

 

 

「ごフッ!」

 

 

 

 血しぶきがあがりました。

 

「…………」

「…………」

「…………おい、明らかに致死量の血を吐いているのだが」

 

 冷ややかな目を向けるなのはに対し、アルフは頭を掻きつつ、

 

「間違っちゃった。えへ♪」

 

 わざとらしく笑うのでした。

 

「き……」

 

 ブルブルと肩を震わせるなのは。彼女から迸るそれは、怒りでした。

 

「貴様の血は赤色だぁアァアァァァアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」

 

 何故か断定系でした。

 

 思わず引いてしまうくらいの迸る怒気を放ちながら、なのはは起動しました。

 

 ……その際ユーノを全力で握り締めて追い打ちをかけていましたが、なのはは気づきませんでした。

 

「う……」

 

 思わず身体が強張ってしまったフェイトとアルフ。その隙を見過ごさないなのはは、しすちゃっとレイジングハートを砲撃形態に移行、すぐさま発射態勢に入りました。

 驚異的な魔力が集っていきます。アルフはすぐにでも逃げ出そうと一歩引きさがりましたが、逆にフェイトは前へ踏み込みました。発射される前に潰してしまう魂胆でしょう。なんという剛毅! もうフェイトが主人公と言ってもいいんじゃないでしょうか。

 

「母さんのために……! ジュエルシードは、渡せないんだぁあああああああっ!」

「あいつを撃たねば……私は前に進めない!」

 

 迷走ばっかしてる人が何を言ってるんでしょうか。

 

 叫びを上げながら、フェイトは走り出そうとしました。しましたが、一体いつ落ちてきたのやら、さっきアルフが蹴り飛ばしたバナナの皮を思いっきり踏んづけてすっ転びました。ベタすぎました。

 

 狙い撃つぜ! とでも叫びそうな形相でレイジングハートを構え、フェイトがバルディッシュを振り下ろすよりも早く撃ち放とうとしました。

 

 しかし、

 

 

 

 

 

 

「はいストップ。そこまでだ」

 

 

 

 

 

 

 突如、横やりが入りました。

 見たこともない少年が、なのはのレイジングハートを掴み、フェイトのバルディッシュを杖のような物体で受け止めています。

 

「まったく……こんなところで派手に喧嘩しちゃって、人様に迷惑だと思わないのか?」

 

 黒い衣装を身にまとった、なのはやフェイトより少し年上といった風貌の少年。その手には、彼女らと同じく長い杖……デバイスがありました。

 彼の髪も黒。全身を黒で統一した少年です。

 

「まぁそっちにも事情があるんだろうけどな。とりあえず言いたいことがある」

 

 ただし、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さっきからぎゃーぎゃーぎゃーぎゃー、……うるせーんだよ発情期ですかコノヤロー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 死んだ魚みたいな目をしていました。

 

 


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