魔法少女が許されるのは15歳までだと思うのだが   作:神凪響姫

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全く同じだと芸がないので、今回ちょっと色々つけ足したりしております。

以前よりも一層頭が悪い内容になっておりますのでご注意ください(手遅れ



今回は休日のお話です。


第6話 訓練を継続しましょう

 

 

 

 

 ある日のこと。

 

 

「ユーノ君、暇なら遊ばないかね?」

 

 

 と、割と珍しいことをなのはは言いました。

 

 

 言動がアレなことでユーノから『見た目詐欺』の称号を一身に受けるなのはですが、一応戸籍上は幼い子供であるので(←失礼な言い草)、誰かと遊ぶことに興味を示してもおかしくはないでしょう。

 

 

 中身を知らなければ。

 中身さえ知らなければ。

 

 

 ユーノは大分驚きましたが、なのはだって誰かと遊びたくなる時くらいあるだろう、と考えると、落ち着きを取り戻しました。

 

 

「いいよ。何して遊ぶ?」

 

 

 気楽に答えたユーノですが、すぐに後悔することになりました。

 

 

「うむ。……狩人さんごっこだ」

 

 

 瞬時に身の危険を察知したユーノはマッハで逃げようとしますがなのはは人外の速度で回り込みました。

 

 

「はははユーノ君、随分早計だね? 何を慌てているのか私には分からんのだが」

「やだぁあああ! 確実に僕が一方的に追い回されるようなゲームなんて嫌だぁああああ!」

「ふむ。何か勘違いしているようだが、これは趣向を凝らした訓練の一つなのだよ?」

 

 

 そうなの? とでも言いたげなユーノの視線。

 

 

「ああ。どちらも体力をつけるための特訓になるだろう? 君も私も得をする。毎日同じメニューでは飽きが生じてしまうからね」

 

 

 そうなんだ、とちょっと落ち着きを取り戻すユーノ。なのはが何かそれっぽいことを言えば高い壺でも購入しそうな勢いでした。

 

 

「わかったよ。どんな遊びなの?」

 

 

 その問いに、なのははいつもの無表情で答えます。

 

 

「うむ。まず標的となる者を決め、狩人がそれを執拗に追いかけ回すのが通常ルールだが、それだといまいちやる気が起きないので、ここはひとつ特殊ルールを追加しようと思ってね。『魔法を行使しても良い』というものだ。私は射撃を、君は防御に長けている。攻守を交代で行えばお互い苦手な分野を克服できるやもしれん」

 

 

 ここで戯言をぬかすかと思いきや、なのははえらく真面目な言葉を吐きました。元々おかしい頭の配線がおかしくなって、一周してまともになったのかもしれません。

 

 

 二人は公園に移動しました。いつぞやの公園です。

 朝なので人は少ないようです。

 

 

「ではまずは私が先攻をとらせて頂く。用意はいいかね?」

 

 

 うん、と言おうとしたユーノですが、はたと思い至ります。

 

 

「あれ? ところでなのは、今の僕の身体じゃ、空を飛べるなのはにどう足掻いても追いつけないし、そもそも空を飛ばれたら僕に勝ち目ないんじゃ―――」

「ぶっ放す! と決めた時には、もう既に行動は完了してるの……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―――では次のニュースです。本日明朝、市民公園にて再び爆発事故が発生しました。今回、その事故発生時に現場で犯人と思しき人物を目撃した通りすがりの子供がいましたが、「ユーノ君を傷つけた不届きな奴……絶対許せないの!」と連呼しておりあまり要領を得ませんでした。しかし、少女の悲しみと怒りを感じ取った警察側は捜査に力を入れ―――』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ある日の昼下がり。

 

 

「…………」

「…………」

 

 

 なのはの自室にて、非情に重苦しい雰囲気が漂っていました。

 

 

 ユーノは居心地が悪そうに視線を揺らしており、ときたまなのはの方を見ては、すぐに目を逸らしています。

 

 

 そして、

 

 

 なのはは腕を組み、機嫌が悪そうに顔を堅くして、目を閉ざしています。

 

 

(な、なのはが怒ってる……! なんでか分からないけど、すっごく怒ってる……)

 

 

 この時、ユーノの慌てっぷりは過去最高のものでした。幼少時におねしょしたのがバレることを恐れて幼馴染の少年の布団と魔法でエクスチェンジして誤魔化した時以来です。

 

 

 なのはの常軌を逸した言動を嫌というほど実感しているユーノは、恐る恐る話しかけました。

 

 

「なのは……?」

 

 

 怒気が飛んできました。

 ユーノは一瞬で3メートル飛びずさりました。

 

 

「なんだねユーノ君。私は今非常に忙しいのだが」

 

 

 そう見えねぇよ、と突っ込むと確実に殺意が押し寄せるので口をつぐんだユーノ君でした。

 

 

「な、なのはさん? 怒ってませんか……?」

「何、私は怒ってなどおらんよ。……怒ってなどいないよ? 別に怒ってなんかいないんだからね?」

「怒ってる! 理由は分からないけどスゴく怒ってる! テンプレで言うくらい怒ってるよコレ……!」

「何! 私は怒ってなどおらんよ! 怒ってなどいないよ! 別に怒ってなんかいないんだからね!」

「やっぱり怒ってる―――ッ!」

 

 

 何故こうなったのでしょうか。ユーノは自分が彼女を不愉快にさせたのではないか、と思い、過去を振り返ります。

 

 

 考えてみます。

 考えてみました。

 

 

(わ、分からない……)

 

 

 とうとう考えるのを止めたユーノは、思い切ってなのはに聞くことにしました。

 

 

「な、なんでそんなに機嫌が悪いの……?」

 

 

 なのはは舌打ちでもしそうな表情で睨みつけました。野犬なら2秒で発狂しそうな眼光でした。

 

 

「……よかろう。教えてあげようではないか」

 

 

 もったいぶった言い方をして、なのはは語り始めました。

 

「私はどちらかというと肉より魚が好みでね、桃子さ……母にお願いして、今晩は魚料理と頼んでおいたのだよ。だが、」

 

 

 だが? と問うたユーノは、見ました。

 阿修羅をも凌駕しそうな形相をした、なのはの怒れるその瞳を。

 

 

「何者かによって魚が食べられてしまい、泣く泣く諦めることとなった。……さて、この家には私以外に日中一人、否、一匹しかいないのだが、犯人が私ではないとすると、自然とそやつを疑わざるを得ないよね……?」

 

 

 一瞬でユーノから血の気が失せました。

 

 

「ま、待ってよなのは! 確かに普段君以外だとこの家には僕しかいない! けどそれこそ早計ってものじゃないか! その魚がどうしてなくなったのか知らないけど、僕を疑ってどうするんだよ! 第一この身体じゃ冷蔵庫を開けられるか定かじゃないし、そんなにいっぱい魚を食べられるわけが、」

「ほほう。『いっぱい』とな? 私は具体的な量を述べたつもりはないのだが」

「だ……だって、一匹だけなら別に問題ないんじゃない? 例えば僕の分を抜くとか……」

「ユーノ君、これはあくまで知的好奇心からくる質問なのだが」

「な、なに?」

「腹に魚肉がついているぞ」

 

 

 急いで腹を見ました。

 何もありませんでした。

 何もありませんでした……。

 何もありませんでしたが、

 

 

「ほう。これはこれは、なんとまぁまぁ」

 

 

 非常に愉快そうな笑顔を浮かべるなのはが黒いオーラを漂わせていました。

 

 

「ちちち違うんだよなのは! ただちょっと川釣りしていた幼少時の記憶を懐かしむために魚を拝借しただけで……!」

「はははユーノ君、知ってるかね? ……川釣りには『チンチン釣り』というものがあるのだが、よく分からないので今君の身体で実践してみても、」

 

 

 タキオン粒子の速さで土下座しました。地面にめり込む勢いでした。ユーノちん没。失礼しました。

 

 

 しかし怒れる魔王は頭一つで静まるほど穏やかではありませんでした。

 

 

「なのは……ごめん……許して……!」

「何、死は一瞬だ。何人たりとも止められはしない……」

「詩人みたいなこと言ってないでやめてぇええええええええええええ!」

「否、死人だ。……君がね? レッツ冥府」

 

 

 

 

 

 悲鳴が上がりました。上がりましたが、隣の家に住むおばちゃんは水を巻きながら、『またあの家か』と変な納得をすると、そのまま家の中へと引っ込みました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ある日のこと。

 

 

「ユーノ君。お弁当なるものを作ってみたのだが、是非試食してみてはくれないだろうか」

 

 

 朝の訓練を終え、あとは汗が引くのを待ちつつ休憩していた時でした。

 

 

 なのはの驚異的な発言を聞いたユーノは、今世紀最大の驚愕的事実を得たかのように顎を開いて目を見開きました。驚きすぎです。そんなんでは心臓が百個あっても二日ともたないでしょう。

 

 

 危うく顎のジョイントがエマージェンシー入りかけたユーノですが、すぐに意識を取り戻します。

 

 

「え……なのは、君、料理できたの?」

「うむ。これもレディとしての嗜みだよ。ああ、安心したまえ。妙なアレンジなど加えておらんし、味見もきちんと行ったよ」

 

 

 そう言われると非常に安心できますが、料理人がなのはですので、裏をかいて『味覚音痴ですから辛いか甘いか分かりますえーん』などと食した後に言われてもまさにあとの祭り。いや、もしかしてその裏をかいて普通に美味しいんじゃ……いやいや、そのまた裏をかいて……

 

 

 と、エンドレスに考えていたユーノが顔を上げると、これまた珍しいことに、なのはが顔を歪めていました。

 

 

 それも怒りではなく、悲しみの感情を得たものでした。

 

 

「ユーノ君……食べてくれないのかね?」

 

 

 今にも泣きそうな顔をしているなのはでした。何一つやましい心を持たず本心から言ってると理解したユーノは急いで言いました。

 

 

「いやいやいやいや! たたた食べますよ!? 食べるよちゃんと今すぐにでも! すいません土下座しますから泣かないでください!」

「別に構わないの……食べたくないならいいもん。泣いてなんかいないもん……」

「ああっ、やめて! そんな悲しそうな顔して偽った口調で話さないで! 僕が悪かったたから! 謝るから!」

「嘘! そんな言葉……今更聞きたくない!」

「ごめんなのは! お願いだから僕の話を聞いて!」

「優しい言葉で私を惑わさないで!」

 

 

 まるで男女の濡れ場のようでした。

 

 

「……そこまで言うなら、ちゃんと食べてくれるのかね?」

 

 

 涙目で、どこか頼りなさげに言うなのはは破壊力50万パワーでした。恭也辺りが見たら戦闘民族の血が覚醒しそうなレベルでした。

 この仕草にはユーノも仰け反りかけましたが、普段のなのはを思い出すと速攻で冷静になりました。まさに賢者モード。

 

 

「はい。ではしっかり食べてくれたまえ」

 

 

 と、なのはが突き出したお弁当箱は、小学生用なのでとても小さいのですが、中には色とりどりの食べ物が詰まっていました。半分近くを占める白いご飯の上に乗せられた肉のそぼろと細長くカットされた卵焼きは、無難と言えばそうですがメジャーなもので見る者の安堵を誘います。ラップで油が移らないよう仕切りになっており、朝の定番とも言えるお魚は、綺麗な橙色を輝かせる紅鮭で、その隣には申し訳程度に飾られたひじきの姿が。おっと、野菜が少ないかと思えば、アルミホイルで区分けされた部位には、削り節をふりまかれたホウレンソウのお浸しが顔を覗かせています。

 

 

 元々朝ごはんというよりお昼ごはんとして作ったのを流用した形みたいですが、ユーノからすれば目を見張るものがあります。

 

 

「どうだろうか? 自分ではそれなりのレベルだと思っているが」

「いや……小学生でこれだけできるなら十分だと思うよ」

 

 

 素直に称賛の言葉を送りました。

 

 

 遠慮するとまたややこしいことになると思い、ユーノはスプーンを借りて、いただきます、と手を合わせました。

 

 

 が、

 

 

「あれ? ちょっと待ってよなのは。この身体だとこんなに食べられないし、そもそも僕はひじきが嫌いだって知ってるはずじゃ、」

「ちなみに残した際の罰ゲームは鼻腔内にからし・わさび・トイレの芳香剤を塗りたくるコースなのー」

 

 

 遠まわしな死刑宣告でした。

 

 

 やっぱりなのははなのはだと思うユーノでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ある日のこと。

 

 

「なのは、ちょっといい?」

 

 

 公園に出かけようと靴を用意していると、姉の美由希が待ったをかけました。

 

 

「んー、なに?」

「公園に行くなら、気をつけなさいよ」

 

 

 小首を傾げたなのはは、なんで? と言いました。

 

 

「最近、変な子供を見かけるって噂を聞いたのよ。なんでも奇声を上げながら小動物を追いかけまわしてるとか、外道じみた笑い声出しながら人々を恐怖のどん底に突き落とすとか、生き物を調教して無辜の民を惑わすとか」

 

 

 心当たりしかありませんでした。

 

 

「そういえば、よく公園に行くみたいだけど、何してるの?」

「公園で運動してるのー」

 

 

 嘘は言っていません。

 

 

「いいけど、日が暮れるまでには帰りなさいよ? あまりお友達に迷惑にならないようにね」

「大丈夫。(ユーノ以外の)人には迷惑をかけてないの」

 

 

 嘘は言ってません。

 

 

 美由希と別れ、玄関を出たところで、なのはは考えました。

 

 

(私は迷惑をかけていただろうか……)

 

 

 かなり今更な疑問を抱きました。

 

 

 ふっと立ち止まり、過去の記憶をあさり始めました。

 

 

 

 

 

 

『ユーノ君、今日は「殺されかかっても死なない特訓」をしようではないか。手っ取り早くこの場で臨死体験でもどうだね?』

『それ僕がやっても意味ないじゃん!』

『ちなみにAコースからDコースまでとより取り見取りだが……』

『全部結果は一緒じゃないか!』

『物事において大事なのは結果ではない、その過程さえも重要なのだよ』

『僕からすればひたすらどうでもいいよ!』

 

 

 

『ユーノ君。射撃の練習がしたい、何か良い的を用意してくれたまえ』

『なのは。とりあえず聞くけど……なんで僕の後頭部に狙いを定めてるの?』

『手間は減らしたいのだよ』

『それって探す手間なのそれとも僕を始末する手間なの!? どっち!?』

『ユーノ君。真実はいつだって一つだよ』

『死!』

 

 

 

『ユーノ君。今晩は肉鍋にしたいと……思ってるのだが、何故逃げるのかね?』

『止めて! そのロープで僕を縛ろうとしないでお願いですから勘弁して下さい!』

『何か勘違いしているようだが、別に私は君をとって食おうなどとは思っておらんよ』

『ほ、ほんと? 嘘じゃない? 実は今だけエイプリルフール実施中とかじゃないよね?』

『些か懐疑的すぎるが……いや。単純に、食料の調達を頼みたいのだよ』

『そっかー。……ならこのロープは一体何?』

『獲物を捕まえるには餌が必要だろう? ははは大丈夫だ問題ないよこう見えても狩りには自信があってね?』

『誰かーッ! 一番良い餌を用意してぇええええええッ!!』 

 

 

 

 

 

 

(……そうでもないね)

 

 

 ユーノ君も愉しんでたしね、と結論づけました。つけてしまいました。

 

 

 今日も一日頑張ろう。なのはは拳を作り、気合を入れました。

 

 

 

 

 

 三時間後。黒焦げになったユーノが己の短い人生を振り返っている間、なのはは手応えを感じ、満足げに頷いていました。

 

 

 

 

 

 

 


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