魔法少女が許されるのは15歳までだと思うのだが   作:神凪響姫

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リニス……どうしましょうね



第5話 他者を敬いましょう

 

 ●前回までの簡単なあらすじ

 

 

 

 私、高町なのはは、そこら辺に転がってるような石ころじみた無個性な人間とはちょっと違うフツーのお☆ん☆な☆の☆こ♪

 

『YOUJO! YOUJO! Yearhooooooooooo!!!』←バックコーラス

 

 うるさい。

 

 ところがある日、異次元の狭間から迷い込んだと言ってはばからない日本語しゃべるケダモノが突如言いました。

 

「君は僕と魔法です」

 

 意味がわかんねぇYO! とキックで突っ込みを入れたのがきっかけとなったのでしょうか、なのはは光に包まれ、気がつくと大人の姿になっていたのです……!

 

「その割には胸がつっかかるパーツもないズゴックのようだが」

 

 気にするな。

 

 魔法を得たなのはですが、やったストレス解消グッズktkrと言わんばかりに杖を構えてバカスカ撃ちます。環境破壊? 知らないの♪

 

『ドボォッ! ギャギィン! ドグォオオオッ! メメタァ!』←効果音

 

 ええいまどろっこしい。最早これまでと思い立ったなのはは、漢らしく肉体で語り合う北斗の道を選びます。我が拳 お話する人 おいでなさい。

 

「真の魔法を継承する者の名はなのは! このなのはより、真の魔導師の伝説は始まる……!」

 

 こうしてなのはは、僅か一日で生きる伝説となったのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 冗談です。

 

 

 では本編、始まります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第五話 他者を敬いましょう

 

 

 

 

 

 

 

 上空に現れたのは、黒い衣装を纏う、なのはと同年代と思しき少女でした。

 

 

 長い金髪をツインテールにし、兎のような赤い瞳を強く輝かせ、滑らかな唇の両端をぐぃと釣り上げて笑い、まだ成長期に入ったばかりで薄い胸を大きく張り、短いスカートから伸びる細い足を下へ突き出し仁王立ちしています。

 

 

 そして、その手には、長い柄の先に斧のような物体をつけた、武器のようなものがありました。

 

 

 それを見たなのはは、しばしの間沈黙し、ややあってから、心の中で一つの結論を出しました。

 

 

(この位置だとパンツが見えそうだね)

 

 

 この子の目の付けどころはおかしいと思います。

 

 

 なのはが黙っていることに気を悪くしのたか、その少女・フェイトは口を尖らせ、腕を組みました。

 

 

「なんだオマエ、リアクション薄いなー。もうちょっとこう、でっかく驚くことできないのか?」

 

 

 割と無茶な注文でした。

 

 

「まぁどうでもいいけど、それはボクがお母さんのところに持って帰るから」

 

 

 邪魔すんなよなー、と言いました。

 

 ここで普通に秘密をバラしていますが、フェイトは頭のネジが緩んでるので気づきませんでした。

 

 

 この言い分には、なのはも開口して異論を唱えました。

 

 

「ふむ。唐突に横からしゃしゃり出ておきながらその物言い……近頃の子供はなってないね? まったく近頃の若者は」

 

 

 おめぇがそれを言うのか、と言いたげなユーノは足で弾いておきました。

 

 余談ですが最後の台詞は古代エジプトから存在するようです。つまり古今東西あらゆる時代にここにいるような珍妙な若者がいたということでしょうか。嫌すぎますねそんな世界。

 

 

「とはいえ、ジュエルシードは子供の手に余る代物だ、君は手を引きたまえ。丁寧に言ってあげようか? ……ハ・ウ・ス! お分かりかね? お子様は帰って刑事コロ○ボでも見ていたまえ」

 

 

 人を舐めているにも程がある台詞でした。

 

 そしていつの時代の人間なんでしょうかこやつは。

 

 

 案の定、挑発されたフェイトは顔を赤くして怒りました。

 

 

「な、なんだとこらぁーっ! ジュエルシードはボクが持って帰るんだっ! オマエは引っ込んでろよ!」

 

 

「いや、ここはこの美しい私が素早く見事に封印してみせようではないか」

 

 

「いーやボクの方が絶対早い!」

 

「いや私の見せ場の方が駅から近い」

 

「いやいやボクの方が!」

 

「いやいや私がだね!」

 

「いやいやいやボクが!」

 

「いやいやいや君が!」

 

「オマエが! あ、間違えた! ボクが!」

 

「おや認めたね? では私の勝ちでよろしいかな? ん?」

 

「くぁあぁぁああああこいつムカツク……!」

 

 ……………………。

 

 …………。

 

 ……。

 

 

 

 

 などとエンドレスなやりとりを繰り返すこと十分あまり。

 

 

 

 

「……ふむ、君と話していても埒が明かないね」

 

 

 壮絶(笑)な舌戦を繰り広げても息一つ乱していないなのはは、腕を組みつつ言いました。

 

 

 対照的に、フェイトは肩で息をしています。戦う前から疲労困憊でした。

 

 

 

「もういい! さっさと終わらしてやる……!」

 

 

 勇ましい台詞ではありますが涙目です。

 

 

 一方、なのははというと、悠々としすぎて相手のやる気が霧散しそうな雰囲気でした。

 

 

「さて、参ろうか我が相棒・レイジングハート。初戦と言えど敗北を喫するわけにはいかんのでね、期待させてもらうよ?」

 

『OK.Let's stand up to the victory.』

 

 

 相方はやる気その気大好きといった気合の入りようです。

 

 

 フェイトがデバイスを構えると、宝石付近から光の弾が幾つも浮かび上がりました。

 

 射撃だと踏んだなのはは、すぐさま行動に移ります。

 

 

「レイジングハート!」

 

『Flier Fin.』

 

 

 猫目がけて連射される光弾。それを受け止めるべく、なのはは猫の元へと飛翔しました。

 

 

『Wide Area Protection.』

 

 

 飛来した弾丸を全て弾きました。

 

 

 端から見れば猫を守った正義の味方のように見えますが、

 

 

「これは私の獲物だ……!」

 

 

 目が猛禽類のようでした。

 

 

 フェイトは一瞬ビクッと身体を震わせますが、怖気づきそうになる自分を奮い立たせます。気合で恐怖を跳ね除けました。幼いのに頑張るその姿は、見る者の関心を強く引き寄せます。

 

 

 デバイスを構え、再び光弾を放ちました。今度は一発に威力を集中させたもので、バスケットボール程度の大きさがありました。

 

 

 バシュゥッ! と大きな音を立ててなのは目がけて飛びました。

 

 

 対して、容赦と手加減と常識をどこかに忘れてきた少女・なのはは、向かってくる光弾を一瞥すると、さして怖気づく様子も見せず、悠然と構えます。

 

 何故かレイジングハートも傍観しています。

 

 

 そして眼前にまで迫った、その瞬間、動きました。

 

 

 

 

 

 

「そォい!!」

 

 

 

 

 

 

 蹴り返しました。

 

 弾き返しました。

 

 

「えぇええぇぇぇええええええ!!??」

 

 

 フェイトは目玉が飛び出す勢いで驚きました。

 

 

 まさか自分に跳ね返って来るとは思いもしなかったフェイト。そりゃそうでしょう。

 

 

 

 光弾は一直線にフェイトに迫ります。が、慌てていても見事回避を行いました。なのはよりも魔法に慣れているのでしょう、機敏で無駄の少ない動きでした。

 

 

「チッ」

 

 

 露骨に舌打ちするなのはの顔は893顔負けでした。

 

 

「まぁいい。このような児戯に等しい真似で落とせる相手ではないのは承知している。次は無いと思いたまえ」

 

 

 高町なのは容赦せん! とでも言い出しそうな形相でした。吸血鬼もビックリでしょう。

 

 すると今まで茂みの中で傍観していたユーノが慌てて出てきました。

 

 

「な、なのは落ち着いて! 君ってばカルシウム不足しがちなんだから怒ってはだめだ! まさに短気は損気……!」

 

 

 雑音はキックで黙らせました。

 

 

 レイジングハートを構えると、宝石が輝きました。すると虚空から光球が現れ、次第に光を増します。

 

 

「行け!」

 

 

 次々と飛翔し、フェイト目がけて殺到しました。

 

 

 その光景は、さながら乱射されるマシンガンのようでした。

 

 

 とはいえ、フェイトは口だけではなく腕も確かなようで、間断なく放たれるなのはの光弾を軽々避けています。

 

 

「ふむ。まるで当たらないね」

 

 

 自分の行動が無駄と知るや否や、なのははため息のように一息つきましたが、

 

 

「倍プッシュだ」

 

 

 押してダメならもっと押せ、なんて言葉が誕生しそうでした。

 

 

「だ、ダメだよなのは! まずは話し合いを図らないと……!」

 

 

 手が離せないのでかかと落としで沈めました。

 

 

 全開よりも三倍以上の量が襲いかかりました。

 

 これにはフェイトも悲鳴を上げました。

 

 

「ま、待ってよ! なんでそんな急に……!」

 

 

 

「たぶん、答えても意味がないの。……何故なら君はここで撃ち落とすから」

 

 

 立場が逆な気がしますが、このなのはの性格なら至極当然の成り行きでした。

 

 

 しかしバカスカと光弾を撃ちますが、フェイトのスピードにまったくついていけません。虚空を突き抜けるばかりで、如何になのはの魔力量が人間離れしているとはいえ、無駄撃ちしては勝ちを得られません。それどころか、このままジリ貧な展開が続けば、疲労したところで反撃される可能性さえありました。

 

 

 しからば、となのはは作戦を変更します。極力上の方へ狙い、フェイトを地上付近に誘導する策をとりました。

 

 

 初心者の魔法なので当たっても防御をしっかり行えば大したダメージもないでしょうが、フェイトは割と余裕そうな表情で一つ一つ丁寧に避けています。自分のスピードに自信があるのでしょうか。

 

 

「ふーんだ! そんなに撃ったって当たんないよーだ」

 

 

 余裕をぶちかましているフェイトですがマントの裾がこげています。かすったようです。

 

 

 が、いつしか自分が先程より低い位置を飛行していることに気づきました。

 

 それは、連射していたなのはが大きく飛翔したのと同時でした。

 

 

「なっ……!?」

 

 

 フェイトが驚く前へ、杖を大きく振りかぶったなのはが現れました。慌ててフェイトは自分のデバイスを構え、振り下ろされるレイジングハートを受け止めました。

 

 

「ほぉう……」

 

 

 感嘆した声は勿論なのはのものでした。自分の予測よりも遥かに上回る反応速度だったのです。

 

 

「やるではないかね! 私に汗を流させるとは見上げたものだ……!」

 

「オ、オマエ砲撃魔導師じゃないのか!? しかもそのデバイスはボクのバルディッシュと同じタイプの……!」

 

「はて、何のことやら。生憎こちらは魔法を知って一週間程度なのでね、戦闘スタイルなどという固定観念など知らん! それに……」

 

 

 離脱を図りたいフェイトですが、相手の動きからして接近戦主体と判断したなのはは、向こうが体勢を整え冷静を取り戻す前に追撃をしかけました。

 

 

「戦いに主義も名誉もクソもない、ただ正義は一つ。それは……勝つことだ!」

 

 

 実に正論ですが最早どっちが悪者なのか第三者からは判別できない発言でした。

 

 

「くそっ……バルディッシュ!」

 

『Blitz Action』

 

 

 瞬間、フェイトが忽然と姿を消しました。引き下がったのでしょう。

 

 

 距離をとられましたが、それはこっちの予測した結果でありました。まさに計画通り。

 

 

「レイジングハート、目標を撃墜する」

 

『OK.Divine Buster,stand by.』

 

 

 射撃体勢に入りました。

 

 

 ぎょっと目を剥くフェイト。それを見つめるなのはの目はいつも通り冷静沈着です。

 

 

「撃ちたくない……撃たせないで……」

 

 

 今更優等生ぶった口調で言っても時既に時間切れでしたが、

 

 

「でもこれが現実なんだから仕方ないよね?」

 

 

 今日一番のさわやかスマイルで悩みも爆散しました。

 

 

 さらば少女、君のことは忘れない……心中で十字を切り、射撃を放とうとしました。

 

 

 が、その時。背後で妙な動きを察知しました。

 

 

 振り返ったなのはは、見ました。見てしまいました。

 

 巨大化した猫の口の中に、ユーノがおさまっているのを。

 

 

『た、助けてなのは~!』

 

 

 ええいこの役立たず。なのはは思いっきり舌打ちしました。

 

 

 

 しかし、そちらへ一瞬でも意識を向けたのが仇となってしまいました。

 

 

『Arc Saber.』

 

「ぬ……!?」

 

 

 反射神経そのままに振り向きと防御を同時に行いました。レイジングハートが気を効かせてくれたおかげもあり、障壁がしっかり間に合いました。

 

 しかし爆発のせいで煙が立ち込め、視界が悪くなってしまいます。

 

 

 煙から逃れ、外へ飛び出します。

 

 隙が生じました。

 

 

 フェイトはそれを見逃すほどのお馬鹿さんではなかったようです。

 

 

『Photon Lancer.Get set.』

 

「貫け雷光……! 槍よ、我が手中に出で参れ!」

 

 

 あれそんな詠唱あったっけ? とでも言いたげなバルディッシュでしたが、空気を読んで黙ってスルーしました。

 

 

「ぶち抜けろ……!!!」

 

 

 バルデッィシュから大きなスパークが生じ、なのはに向かって雷の槍が連射されました。

 

 

 また蹴り返してくれようかと構えていたなのはですが、流石にこの大きさは困りものです。というかそう何度も蹴り返されてはフェイトからすればたまったものではないでしょう。

 

 

 回避するかと思い、そこで踏み止まりました。

 

 上空から撃った魔法を避けてしまうと、ものの見事にユーノと猫に直撃する立ち位置となっていたからです。

 

 

 なので回避は行えず、外道じみたカウンターを仕掛けられるレベルでもなく、とっさの防御も間に合いませんでした。

 

 

 直撃しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚めたのは、夕方になってからでした。

 

 

 林の中で倒れたなのはを、ユーノが館の近くまで運んでくれたようで、それを偶然すずかたちが発見したそうです。オメェ一体どうやって運んだんだよ? とでも言いたげな視線をユーノに向けますが彼は顔を逸らしました。

 

 

「アンタ、林の入り口の近くで倒れてたのよ……一体どうしたのよ?」

 

 

 至極まっとうなアリサは、怒っているように見えますがその目は今にも涙が出てきそうでした。

 

 

「ちょっとスッキリして眠くなっちゃっただけなの」

 

 

 大人組が全員俯きました。

 

 アリサは疑問符を浮かべています。すずかは「お日様が暖かくて眠くなっちゃったのかな?」と勝手に自己完結しました。

 

 

 幸い怪我はほとんどなく、ちょっと腕の辺りを切った程度でした。

 

 

 

 

 自宅に戻り、自室へと直行します。

 

 扉を閉めた瞬間、逃げようとしたユーノを踏んづけて捕えました。

 

 

「ユーノ君……初心者の私がミスを犯すならともかく、貴様が痴態を晒してどうするのかね? ん? 馬鹿かね? 死ぬのかね?」

 

「ああっなのは! そこは! そこはうひゃひゃひゃ弱いのほほほほほ!!」

 

 

 これ以上奇声を上げられると家族に聞こえてしまうので渋々解放しました。

 

 

「しかし、今回ジュエルシードを回収できなかったとはいえ、収穫はあったね」

 

「うん……僕らと同じ、ジュエルシードを集めようとしている魔導師の存在」

 

「そして我々の戦力が向こうに比べ圧倒的に劣っていることも、だ」

 

 

 なのはの性格上、敗北を認めたがらないと思われるかもしれませんが、彼女なりに今回のことは重く受け止めていました。人間、完璧なんてあり得ませんからね。彼女も人の子だということでしょう。

 

 

「次こそは絶対に痛い目を見せてやろうではないかフフフ……」

 

 

 なのはは「次こそちゃんとお話するの!」と言いました。

 

 

 本当に人の子なんでしょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、フェイトは自室で一人、物憂げに俯きながら、ベッドに座っていました。

 

 

「お母さん……すぐに帰るから。ジュエルシードは、全部ボクが集めるから……」

 

 

 寂しげに呟きながら、写真を手に静かに微笑むのでした。

 

 

 そしてその写真の中には、母親が笑顔を浮かべていました。

 

 

 そう、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 セーラー服を着た母親が。

 

 

 

 

 

 


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