魔法少女が許されるのは15歳までだと思うのだが   作:神凪響姫

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書くのが久々すぎて何がやりたかったか分からなくなってきましたよ?(問題発言


相変わらずクオリティと投稿スピードがいい加減になってきてますが、ご了承下さいまし……






第十二話 暴走なんて大変なんです

「あー、どうも。最近影が薄いとか言われているクロノ・ハラオウンだ。

 

 え? もっと影薄いヤツいるじゃねーかだって? 知らんそんな奴。

 

 あ、そういや聞いてくれ。クロノさん新しい挨拶考えたんだけどよ、どうせだからここで聞いてってくれや。

 

 とゆーわけで……行くぜ! せーの、オッh―――」

 

 

 

 

 

 ~しばらくお待ちください~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   第12話 暴走なんて大変なんです

 

 

 

 

 

 

 はやては病室で外を眺めていました。

 

 今日はクリスマス、雪が今にも降り出しそうな天気でした。ホワイトクリスマス、という言葉が浮かび、はやては雪が降らないかな、とちょっと期待していました。

 

 

 しかし今日はクリスマスだというのにまだ誰も見舞いに来ておらず、はやての部屋はしんと静まり返っていました。

 

 

「ふん。騒がしい連中がいなくてせいせいするわ」

 

 

 などと言いながらも、部屋が散らかっていないか気にしたり鏡を見ながら身だしなみを整えたり窓の外から玄関付近を眺めてみたりと、ひたすらそわそわしていました。

 

 

 と、ここでドアがノックされました。

 

 

「ひゃあ!?」と叫びかけたはやてはベッドから転げ落ちました。動揺しすぎでした。

 

 

 慌てて身を起こしたはやては、ふと一体誰が来たのかと思いました。

 

 この時間に来客の予定はありませんでした。もしかしたら不審者か、それともまたネタをセットしてきたシャマルか……変な予想を漂わせながら、はやてはドア越しに問いかけます。

 

 

「何者だ?」

『はやてちゃん、私です。すずかです』

 

 

 ああ、と思い至ったはやては、肩の力を抜きました。

 

 さすがに枕下に隠したコルト M1908 ベスト・ポケットをぶちかますことはしませんでした。

 

 

「はやてちゃん、久しぶり!」

「どうも、こんにちは!」

「……ど、どうも…………」

 

 

 入って来たのは、先日知り合ったすずかの他、見慣れない金髪の少女二人でした。はやては一瞬目を丸くして驚きましたが、すずかの友達だと知ると、肩の力を抜きました。

 

 すずかの友達なら、きっと良い子なのだろう。はやてはそう思いました。思ってました。

 

 

 そこでタイミングを狙ったように遅れて登場する輩が。

 

 

「こんにちわー♪」

 

 

 偽りの無邪気全開、仮面被ったなのは降臨。

 

 

 はやてはすずかの友人だと思い、「こんにちわ」と言いかけたところで、急に身動きを止めました。

 

 そしてなのはもまた、笑みを携えて入室したところでフリーズしていました。

 

 

「? どうしたの、なのはちゃん」

 

 

 すずかの声も届かず、無言で視線を交わす少女二人。

 

 なのはとはやてはこう思っていました。

 

 

 

 

 

((こいつ、猫を被っているつもりか……!))

 

 

 

 

 

 妙なシンパシーを感知していました。

 初見でお互いの本性を見抜いておりました。

 

 なのはは素の自分を学園の友人の前では出せず、はやては初対面の人間には素を見せずに大人しそうな子を演じようとしております。てめぇすずかの前じゃ素トレートだったじゃねーか――誰かがそう言いそうですがそれはそれということで。

 

 

 なのはに対し警戒心を抱いたはやては、隙を見せまいと窺いつつ、

 

 

「おおきになぁ、わざわざクリスマス前なのに来てもろて」

 

 

 いつもより少し、いや大分、いやむしろかなり控えた状態で客人を出迎えました。ちょっと風変わりな少女を演出することで注意をそちらに逸らし、我が秘すべき本性を隠蔽する……我ながら完璧なプラン! と意味不明なことを考えてしましたが、

 

 

「あれ? はやてちゃん、いつもと話し方違うね?」

 

 

 二秒で瓦解しました。

 

 

「い、いややわぁすずかちゃん。私は元々こんなんやで?」

「えー、そうだったかなぁ。このあいだまで『我にできぬことなどないわぁ!』とか言って、車椅子で車道を爆走してお巡りさんに補導されかかっていたよね?」

 

 

 思いっきり恥をさらしていました。

 

 

「え~? はやてちゃんそんなことしてたんだー。おかしい」

 

 

 けらけら笑うなのはにはやては思わずブチ切れそうになりましたが必死にこらえました。

 

 

 が、

 

 

「え? それの何がおかしいんだ?」

 

 

 フェイトのマジ発言に一同がフリーズしました。

 

 

 そういえば似たようなのがここにもいたわ……。常日頃からうははー強いぞカッコいいぞーとか叫んでいるイタい少女の存在になのは達は後ろを向いて溜息をつき、はやては小首を傾げました。

 

 

 

 

 

 さて、色々ありましたが、ひと段落したところではやてにクリスマスプレゼントを送る四人。

 

 この面子の中では一番社交的なアリサは既にはやてと打ち解け、フェイトは最初かなり距離感のある対応でしたが、はやてが自重しつつ話しかけると、やがて少しずつ話しかけてくれるようになりました。微笑ましい光景ですね。どっかの誰かさんも爪の垢を煎じて飲んで頂きたいものです。

 

 ちなみになのははフツーに話していますが、はやてに思いっきり睨まれています。面の皮の厚さでは百年経っても勝てないでしょう。

 

 

 すずかとアリサのプレゼントを受け取り、満更でもなさそうに微笑むはやて。

 

 今度はフェイトが、

 

 

「こっ、これあげるよ!」

 

 

 そう言って差し出したのは、どっかで見た事ある橙色の犬のぬいぐるみでした。

 

 

「可愛いだろー」

 

 

 ぱぺーとでも効果音がつきそうな無邪気スマイルだったので、はやては眩しすぎて顔を背けました。

 

 なので、足の肉球のところに書いてある『Made by Presia』の文字は見えませんでした。

 

 

 で。

 

 

「はいこれ」

 

 

 そしてなのはが渡したのは細長いピンクの包み。

 

 どことなく嫌なオーラを発していると思えるのは気のせいでしょうか。

 

 

(ふん。くだらんモノだったら窓から投げ捨ててくれる)

 

 

 などと思いつつも、ちょっと嬉しそうに頬を緩めたはやては、がさごそと包みを開いていきます。

 

 すると中の物体が顔を覗かせました。

 

 

 青汁でした。

 

 

「健康にいいかなって」

「おばあちゃんか貴様!」

 

 

 しかし身体に良いのは事実ですし、そこまで常識外の物品ではなかったので有り難く頂戴することにしました。

 

 なお、なのはが嫌にニコニコしていたのではやては思い切りガンを飛ばしましたが華麗に無視されました。

 

 

 

 ―――それからは穏やかで賑やかな時間が流れました。

 

 

 食事時になりますと患者用の食事が出されますが、はやては小食気味なのかあまり口を付けたがりません。病院のご飯って健康面に配慮しているせいか、あまり美味しくないんですよね。最近はそうでもないかもしれませんが昔はひどかったのです。

 

 そこに目を付けたのは、頭カラッポな分夢つめこんでる健康優良児フェイトでした。

 

 

「なんだよーオマエ、そんなちょっとしか食わないから身体弱いんだぞ! もっといっぱい食べないとだめだよ!」

「そうだよはやてちゃん。そんなんだから『三人娘で現実的には一番妥当だけど地味だからなんか微妙』とか言われるんだよ」

 

 

 納得してしまいそうな流れに思わずはやては頷きかけましたが、二秒後すごい形相で振り向きました。

 

 

「ほら、だからこんなにお腹が痩せちゃって……」

「そこは我の胸だ!」

 

 

 青筋を浮かべたはやてが突っ込みました。

 

 

「でもはやてちゃん。ちゃんと食べないと」

「そうね。今が大事な時期なんだし」

「うんうん、ちゃんと食べようね。身長2メートル、スリーサイズトリプル100くらい目指して」

「横綱か!」

 

 

 道端で会ったら無言で道を譲られそうです。

 

 

「でもフェイトちゃんの言う事も一理あるんだよはやてちゃん」

「そうよ。日々の生活が大事なのよ」

「そうだよだはやてちゃん」

「し、しかしな……病院の食事とはこれほどまでにマズいとは思いもしなかったのでな……」

「そうだけど、その分ちゃんと栄養バランス整えてあるんだよ」

「この際だから好き嫌いなくしちゃいなさいよ」

「そうだよはやてちゃん」

 

 

 いちいち尻馬に乗って来るなのはにそろそろ堪忍袋の緒が切れそうになったはやては口の端を引き攣らせていました。

 

 

「ほら、顔色がこんなに悪いし」

「それは花瓶だ!」

 

 

 花瓶をブン投げました。なのはは首の動きだけで回避しました。

 

 

「安心しろよ! こんなこともあろうかと、ボクが良いモノ持ってきてやったから!」

 

 

 なんてことを言いつつフェイトが鞄から取り出したのは、さっきと同じ色の包み紙です。心なしか形状が数秒ごとに変化している気がします。猛烈に嫌な予感を抱くなのは。

 

 

「フェイトちゃん。一応聞くけど、それはなぁに?」

「え? 見て分かるだろ?」

 

 

 誰も分かりません。

 

 

「実はうちで作ったんだよ! ―――クッキー」

 

 

 バイオテロ再び。

 

 

 なのはが『おい止めろ馬鹿この子の人生は早くも終了ですね』と思って制止する前に、はやてが、ありがとうと言って受け取りました。受け取ってしまいました。するとはやての視界がホワイトアウトしました。脳裏に忘れかけていた思い出が浮かび上がります。父と母、優しかった両親の笑顔。抱かれる感触。遊んでもらった日々。家の中を走り回った時間。押入れの中でかくれんぼした光景。ひっくり返すダンボール。出てきた何十冊ものノート。なんとはなしに開いてみる。書かれてあった両親の若き日々の記録。ちょうど中学二年の頃。魔王を倒す勇者の伝説。唸る右腕。秘すべき第三の眼。伝説の剣ジェノサイドギガブレード一振りで相手は全員死ぬ。もう一冊を見る。世界を救済するダークネスエンジェルの転生体。絶世の美女ウルテミス。愚者を導く最高権力者。世界観にのめり込むこと一時間。そのノート掲げて親元へ行くはやて。頭抱える父親。冷や汗全開の母親。なんとも言えない空気……

 

 

 ここまで思い出した瞬間、はやては意識を取り戻しました。

 

 

「大変だったんだぞーこれ完成させるのに失敗十三回もしたんだからなっ!」

 

 

 なんちゅうフォローや。はやては人生初の絶望に突き当たりました。

 

 

「フェイトちゃん。ちょっといい? ……それどこで作ったの?」

「え? どこって勿論自宅で」

 

 

 笑顔でサムズアップします。おい誰かその指へし折ってくれ、なのはは思いました。

 

 

「大丈夫だよ! ちゃんとアルフに試食してもらったからさ!」

 

 

 アルフが欠席した理由が判明しました。

 

 プレシア女史は何をしていたんだ。なのはは思いましたが、あの子煩悩な母親がフェイトの頑張る姿を見て止めに入るとはノアの大洪水が起きても止めないとも思ったので、自分に飛び火するなよと珍しく真摯に願いました。

 

 

 いかん、このままでははやてがお天道様の下を自分の足で歩くことなく最終回を迎えてしまう……! と、そんな頭の悪いやり取りをしている時でした。

 

 扉がノックされ、返事をする間もなく誰かが入ってきました。

 

 

「おーいはやて。見舞いに来てやったぞー」

 

 

 どこか聞き覚えのある声が聞こえてきました。

 

 

 はやての親族だろうか、となのはとフェイトは振り向きます。

 

 

「あ、お邪魔してま―――」

 

 

 言いかけたところで止まりました。

 

 入って来た三人も、部屋の中にいた客人の姿にフリーズしました。

 

 

 硬直する面子に疑問符を浮かべるすずかとアリサ、そしてはやて。

 

 

 

 

 

 

 ~それぞれの心境をご覧ください~

 

 

 

(コイツら……こないだの!)

 

 

 警戒心を高める赤毛。

 

 

(あ。あのお菓子美味そうでござる……)

 

 

 バイオ兵器に目をつけてしまった子供。

 

 

(幼女がこんなにたくさん! 8人中6人も! 推定幼女率0.75! 平均打率五割超えなんてメジャーでもいないわウヒヒwwwwおっとよだれが……!)

 

 

 妙な計算をしだす不審者。

 

 

(あ、茶柱が……)

 

 

 まったく気に留めていない輩一匹。

 

 

(この人たち誰だっけ?)

 

 

 既に忘れ去っている無邪気少女。

 

 

 

 

 事情を知らぬすずか達やはやてがいる手前、迂闊に動けない守護騎士3名。え? 何故かって? ヴィータはともかく他二名ははやてに怒られるのが怖いからです。

 

 

 ヴィータは今すぐにでも飛びかからん形相ですが、さすがに一般人の前で暴れる愚行はおかしませんでした。

 

 シグナムはなのは達が不審な行動を見せたら即切りかからんばかりに構えていましたが、フェイトがそんなシグナムを見て何を思ったのか、クッキー(状態:毒)を差し出しました。

 

 

「お菓子食べるか?」

「ありがとうございます」

 

 

 真面目な顔で受け取りついでに握手も交わしました。後ろでヴィータが額を押さえて仰いでいました。

 

 

 十秒後、悲鳴が上がったのは言うまでもありませんでした。

 

 

 

 

 

 ひとまず警戒はしつつも客人として迎え入れる方向性で定まったらしく、表面上は笑顔を浮かべるヴィータ。さっきのクッキー事件はフェイトの犯行と疑っていたようですが涙目のフェイトを怒鳴りつけるのは良心が酷く痛んだので水に流してやることにしたようです。

 

 なお、シグナムは復活して早々にケーキ(※なのは持参)で懐柔され、シャマルは幼女が楽しげに語らう姿を一瞬たりとも見過ごすまいとガン見していました。

 

 

「そういえばなのは、アンタ家の手伝いしなくて大丈夫なの?」

「大丈夫! お父さんたちが頑張ってくれてるから、問題ないの!」

 

 

 誰だコイツ、みたいな目で守護騎士達が見ていますが見慣れたものでした。

 

 

「……(おいシャマル。ちゃんと通信傍受してんだろうな? 管理局の連中に嗅ぎ付けられたら面倒だぞ)

「……(大丈夫よ。ジャミングは施したわ。連絡はさせないわよ)」

 

 

 そうか、とひとまず安堵の息をつくヴィータ。さすがのシャマルもそこまで抜けていないようです。

 

 

 一方、はやてと談笑するすずかとアリサを遠目に小声で会話するなのはとフェイト。

 

 

「……(フェイト。先程からポケットの中が振動しているようだが)」

「……(あ、お母さんに連絡したんだよ。闇の書? の守護騎士とそーぐーしたよって)」

「……(ふむ。ならば体調が回復次第アルフ君に来るよう伝えてくれたまえ。ついでに出番が少ないユーノ君も)」

「……(いいよー。あ、クロノはどうする?)」

「……(アレは面倒くさがりと見せかけてその実構ってちゃんだから放っておいても来るだろうよ)」

 

 

 そっかー、と頷くフェイト。

 

 

 そんな聞き捨てならない会話にヴィータは半眼で振り向きました。

 

 

「……おいシャマル。一体どういうことなんだ?」

「嘘!? ちゃんと結界張って妨害してるのに!」

「その結界は一体いつ用意したんだ?」

「え、つい今しがただけど」

「そうか。―――じゃあちょっと前までは何もしてなかったんだな?」

「ええ!」

 

 

 胸を張って答えたのでヴィータはキックをかましました。

 

 そりゃ妨害されてなきゃマッハでTELするに決まってますわ。

 

 

「どうすんだよおい! 管理局に見つかったら大変なことになるってことくらい考えなかったのかよ」

「愚問ねヴィータちゃん。―――私の頭の中は幼女のことでイッパイよ!」

 

 

 キリッとした顔で言ったのでタンスの中に蹴りいれておきました。

 

 

 

 

 

      ~その頃のアースラ艦内~

 

 

 

「何? 守護騎士どもの居場所が分かった?」

 

 

 椅子の上でDSをいじっていたクロノは怪訝な声を出しました。

 

 

「どうやら主らしき人物が入院中みたいだねー。フェイトちゃんの報告によると、『よく分かんないけどなのはもいっしょだからへーきへーき!』ってことだから多分いいんじゃないかな」

「何がいいのかまったく分からねぇが……とにかく、出動準備はしねぇとな。おいお前ら! すぐに出っぞ!」

 

 

 クロノの声に、果たして返事はありませんでした。無音の司令室に虚しく響き渡るだけでした。

 

 

 あれ? とクロノが見渡すと、エイミィ以外の職員がいませんでした。どういうこっちゃ、と首を傾げるクロノでしたが、すぐに理由が判明しました。

 

 

「あ、他の職員達なら揃ってどっかに出かけたよ?」

「そうか。…………………は?」

 

 

 目を剥くクロノとは対照的に、淡々と語るエイミィ。

 

 

「なんでも『え? クリスマス? ししし知ってますよ? だっ、だから今日は予定があるんだもんね! 本当なんだからね!?』とのことで、だったらとっとと帰って家族サービスしろよオラァと言ったら泣いて帰宅したよ。よっぽど嬉しかったんだろうね」

「ちょっと待て。今長期遠征中だろ、どうやってミッドに帰ったんだ」

『私に不可能は無いわ』

 

 

 突如画面が浮かびサムズアップしているプレシアが出ました。

 

 何余計なことしてんだババァ――クロノは思いましたが口にはしませんでした……けれども頭上から落雷が生じて黒焦げになりました。

 

 

「プレシアさん、お子さんの方は大丈夫なんですか?」

『ええ、なんとか落ち着いてるわ。……あとは時間さえあれば平気よ、そうすればきっとアリシアは元に戻るのよ……!』

 

 

 なんだか狂気が見え隠れし始めたのでエイミィは話題を変えることにしました。

 

 

「闇の書の解析はどうですか? 過去のデータだけじゃ大したこと分からなかったかもしれないけれども……」

『ああ、それならもう終わったわ』

 

 

 え? と耳を疑うエイミィ。

 

 

『解析自体なら時間を要さなかったわよ、ただ深層領域に展開された不可解な文字の羅列とか、意味不明な文章に惑わされたせいで手間取っただけ。案外ザルね、もっと強固なプロテクトが張られてるかと思ってたけど』

 

 

 なんてことをあっさり言ってのけました。ユーノ涙目とかそんなレベルではありませんでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぶぇっくしょい! ……ううん、誰か噂してるのかな? ふふふ皆寂しがってるかなぁ」

 

 

 一ミリもそんな様子ありません。

 

 

 

 

 

『まぁそんなわけだから、もう少しで向こうの事色々判明するだろうから、もうしばらく時間を頂戴な』

 

「けどよォ、今なのは達がいるんだし、そんな無理して焦らなくても大丈夫なんじゃねーか?」

『彼女達は確かに戦力的には申し分ないけれども、知識面だと不十分よ。一人くらい専門家がいるべきでは?』

「今から乗り込んだらかち合わせになりそうで怖いが……どうすっかね」

 

 

 うーん、と、隣でエイミィは考え込みます。

 

 

「今なら一対五だけど、クロノ君一人でもなんとかなるんじゃない?」

「ほう。まぁ、そうかもしれねェな。けど、主は動けねェなら一対四じゃねーか?」

「ううん、あってるよ。……守護騎士+なのはちゃんだから」

「いや、なんでなのはが敵側になってんだよ! たしかに普段から俺の敵だけど!」

「その方が面白そうだからなのはちゃんやってくれるかなって」

「世界の危機になるかもしれねーのにそんなチャランポランな意見で寝返られてたまるかァアアア!」

 

 

 クロノはシャウトしました。

 

 

「じゃあ、一対六の方がいいよね?」

「なんで問題無いね? みたいな言い方なんだよ! ありまくりだろ! しかもフェイト含まれてんじゃねーか!」

『そうなった場合は漏れなく一対Pになるわね』

 

 

 後ろで魔王が嗤ってました。

 

 

「と、ともかく! 敵さんの居場所も分かったことだし、俺らもそろそろ―――」

「夜の街を練り歩くの?」

「そう、雪の降る中ネオン街へと消えて―――行かねぇよ! そんなアブない展開はないから!」

『自分から言い出したんじゃない』

 

 

 的確な突っ込みにクロノは咳払いしました。

 

 仕切り直して、クロノは立ち上がります。

 

 

「行くぜ、海鳴市へ乗り込むぞ! オメェらついて来い!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 数時間後。

 

 先に帰宅するというアリサとすずかを見送った後、人気のない屋上へと移動する守護騎士二名となのはとフェイト。ヴィータははやての様子を見てくると言って別れました。かなり不自然な別行動にフェイトが眼を向けましたが、そんな彼女の肩をなのはがそっと叩きます。

 

「フェイト、君には分からないかもしれないが……女には我慢できない日もあるものだ」

 

 階段を転げ落ちる音が聞こえてきましたがなのはは無視しました。フェイトは『そっかー大人って大変なんだなぁ……』などとトンチンカンな答えを口にしました。

 

 

 というわけで、やってきました屋上。

 

 間をとって対峙する四人。

 

 

「ともあれ、色々聞きたいことがあるのだが、よろしいだろうか?」

「貴様らに話すことなど何もない……! 管理局に言われる前に――」

「まぁマカロンでも食べて落ち着きたまえ」

「話を聞こうか」

 

 

 頬張りながら真面目ぶるシグナム。それを見て満更でもない顔のシャマル。

 

 ヴィータがいないとまったく話が進みません。

 

 

「シグナムはこんなだけど、貴女達に話せることなんてないのよ。知らされる前に、悪いけど、口封じさせてもらうわ」

「待ちたまえ。ここでは寒かろう、まともな話し合いの場を設けたいのだが、どうだろうか?」

「そんな分かりやすい誘いに、私達が乗ると思って?」

「今なら人妻系幼女と気弱系金髪ショタが君らを快く出迎えてくれるぞ」

「…………………………………………、くっ!」

 

 

 躊躇いが出すぎです。ていうか前者は何だ。

 

 

「~系というと若者っぽくないかね? 何、これぞまさに前人未到、開拓者スピリッツ溢れる日本人の凄さというものだよ。――言ってて自分でもよく分からんが」

 

 

 脳は大丈夫でしょうか?

 

 

「Oh,no……いや、失敬。言わなければならないような気がしてつい」

 

 

 もう黙ってなさいよ。

 

 

 なんて知能指数の低いやり取りをしていると、突然頭上から何かが降ってきました。なのは達とシグナム達の間に着地したそれは……ザフィーラは、土煙の中に、佇んでいます。

 

 しかも珍しいことに険しい顔をしています。

 

 

 何事、と思いつつ、シャマルは言葉をかけようと口を開きかけましたが、ザフィーラは片手で制しました。

 

 

「シャマルよ、何も言うな。事情は粗方掴んでいる」

「そう……」

 

 

 なら、と言葉を続けようとしたところで、ザフィーラはカッ! と目を見開きました。

 

 

「何故俺を呼んでくれなかった! 幼女フェスがこんなところで行われていたなど俺は聞いてなかったぞ! 残り香から察するに美幼女偏差値85は硬い……! くぅっ、こんなことなら蒐集などしないで天井に潜んでいれば良かった!!」

 

 

 さっき聞いたような台詞に思わずぶっ飛ばしてやりたいところでしたが戦力と言う壁がなくなるので仕方なくシャマルは無視しました。

 

 

「ともあれザフィーラよ、駆けつけてくれたのは有り難い。助太刀願おう」

「ふむ。幼女相手に拳を振るうのは気が進まないが、主のためとあらば……」

 

 

 不承不承といった体で姿勢を変え、なのはと向き合いました。三人の鬼気迫る顔がなのは達に向けられました。一触即発、今にでも襲いかかってきそうな雰囲気に、ちょっとヤバいかね、と呑気に思ったなのはは、少しばかり考えました。

 

 

 やがてなのはは何かを思いついたようで、頭に電球を浮かべました。

 

 後ろに立っていたフェイトを手招きし、何事かを耳打ちします。

 

 

(ふ……何をしようが、この俺の鉄壁の前では君らの攻撃など、幼女の悪戯程度でしかないということを教えてやる……!)

 

 

 格好よさげな台詞を粉微塵にするザフィーラの心情。

 

 

 ややあってから、フェイトはちょっと緊張した面持ちで、上目遣いに言いました。

 

 

 

「お、お兄ちゃん。いぢめないで……?」

 

 

 

 ある意味卒倒モノの一撃をぶちかましました。

 

 

「ごフッ!!!」

 

 

 クリティカルヒットが生じました。

 

 

 思わず生まれたての小鹿状態になるザフィーラ。駆け寄るシャマル。

 

 

「ザフィーラ!? ちょっと貴方幼女だったら何でもいいの!?」

「だ、大丈夫だ……問題無い」

 

 

 フッとニヒルな笑みを浮かべるザフィーラですが鼻血ブーでは台無しです。

 

 

「ああ、危なかった……。寝起きのシャマルの顔を思い出して相殺せねば即死だっただろうな」

 

 

 シャマルがジャーマンスープレックスをキメました。

 

 

「さて、そろそろ良いだろうか? 生憎私にやる気は出ないが、まぁ君らがやる気満々なら仕方ないよね……♪」

 

 

 最後の『♪』がなければ完璧でしたがね。 

 

 

 臨戦態勢に入るなのはとフェイトに対し、身構える守護騎士。若干一名が疲労困憊気味ですが。

 

 

(ようやくやる気になったようだが……時既に遅しだな!)

(馬鹿め! 貴様がこうして話している間に、ヴィータが背後から襲いかかる作戦よ!)

(その不愉快な面にデカい風穴を空けてやるでござる!)

 

 

 お前ら本当に騎士かと言いたくなるような下種い作戦ですが、その上を行く存在がいるとこを知らないのが彼女らの失策でした。

 

 

 一分が経ちました。なのはとシグナム達は向き合ったまま動きません。少しばかり雲行きが怪しくなってきたと、シグナムとシャマルは顔を曇らせました。

 

 

(おかしいな、ここでヴィータが奇襲をかける手筈なのだが……)

(どうしちゃったのかしら……)

 

 

 あのヴィータが作戦をミスるはずもないだろう、と信じ切っていた二人の様子に気づいたのか、なのはは、ああ、と手を打ちました。

 

 

「君達が探しているのは、同じ襲撃を仕掛ける予定のヴィータ君かね? それとも、あれかね?」

 

 

 スッ、と背後を指差すと、死角になっていた階段出口付近が見えるようになりました。

 

 

 

 

 

 そしてそこには―――黒焦げになってバインド喰らってるヴィータの姿が。

 

 

 

 

 

「ヴィータぁあぁあああああああっ!?」

 

 

 シグナムは目玉が飛び出さんほどの勢いで驚愕しました。

 

 一体いつ、誰に……と思うのと同じタイミングで、なのはがぼーっとしていたフェイトを指差しました。

 

 

「こいつがやりました!」

 

 

 え!? と驚くフェイトを尻目に、守護騎士2名は思いました。

 

 

(この子の仕業よね……)

(こいつの仕業だな……)

(こいつの仕業でござる……)

 

 

 下手人が二秒で判明しました。

 

 

「ま、まさか貴女……」

「ああ。――さっき階段登って来てる途中で仕掛けておいた」

 

 

 どうやって、と目線で問うと、デバイスも無しに虚空に魔力弾が浮かびました。数にして十を超える数です。

 

 

「階段の扉を閉ざす前、物音を感知したら襲いかかるようセットしておいたのだよ。ふふふこんなこともあろうかと訓練を重ねた甲斐があったというものだよ」

 

 

 不敵な笑みを浮かべるなのは。まさか―――そんなまともな伏線を張っていたとは。これにはビックリです。クレイモア地雷をセットしておいたという方がまだ信憑性が高いでしょう。日ごろの行いって大事ですよね。常々そう思います。

 

 

 じり、と迫る悪鬼羅刹に守護騎士達は息を呑みましたが、この程度でへこたれるほど歴戦の勇士たるヴォルケンリッターもやわでは―――

 

 

「ヴィータちゃんがやられたようね……」

「フフフ、奴は我ら守護騎士の中では最弱……」

「所詮面汚しでござるな……」

 

 

 いきなり一番強い者がやられて隅っこに引っ込んでガタガタ震えていました。

 

 

「さて。これで君らの中で恐らく主柱となる存在を欠いてしまったわけだが……」

 

 

 どうするかね? とニヤつきながら問うなのは。完全に悪人顔です本当にありがとうございますいません。

 

 

「ままま待つでござる! 早まってはいけない! おおおおおおお落ち着け!」

 

 

 お前が落ちつけよ、となのははレイハさん突きつけながら思いましたが、そんなの無理難題すぎました。

 

 

「心配しなくとも、私は決して怒っていないよ」

 

 

 穏やかな笑顔を浮かべたので、シグナムはようやく安堵の息をつきました。

 

 しかしそれも束の間、

 

 

「だが許さん」

 

 

 


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