魔法少女が許されるのは15歳までだと思うのだが   作:神凪響姫

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あけましておめでとうございます。

昨年はお世話になりました。今年も宜しくお願い致します。

おかげ様で、にじファン時代から連載しております当小説は、多くの方にご覧いただいてるようで、私自身とても嬉しく思っております。
気がつけば書き始めてもうすぐ一年、いえ、まだ一年といったところでしょうか。思えば長いようで短い一年でありましたが、皆様は昨年は如何でしたでしょうか? 私は毎月何か物を落としたり失敗して悔いたりと、あまり良い思い出がありませんが、今年こそはと決意を新たに、筆の進みを速めていく所存で御座います。


……さ、堅苦しい挨拶はこの辺にしておきましょうか。

ではそろそろ本編の方を始めていきたいと思います。


第八話 作戦なんて皆無なんです

 

 おまけ

 

 

 映画版準拠に伴い存在をオミットされた人……

 

 

「ちょ、ちょっと待ってくれんかなぁ! ワシ結構良いキャラしてると思うんじゃけど、何故ハブられとるんでな!?」

「ははは御老体、ここに天から届いたメッセージがあるよ? しかるに『話が面倒くさくなりそうな気がしたのでカットしました。ていうか別にいなくても問題ないよね?』とのことだ」

「そんな殺生な―――っ!!」

 

 

 ギル・グレアム。都合により消滅……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   A’s編 第8話

 

   作戦なんて皆無なんです

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 警報が鳴り響いたのは、デバイスを受け取って間もなくのことでした。

 

 

 てっきりプレシアがまたなんかやらかしたのかと予想していたなのはですが、司令室に入ると緊迫した空気が漂っていました。

 

 

「一体何事かね」

 

 

 扉の前に立っていたクロノが邪魔なので蹴り倒したうえで踏みつけて突入すると、指令室は慌ただしい空気に包まれていました。毎回ここに来ると忙しない空気だね、となのはは思いました。原因の7割がたはこやつのせいだと思いますが。

 

 

 立体映像にあったのは、海鳴市に張られた結界、それを展開する守護騎士らの姿でした。

 以前見た覚えのある三人と、もう一人の姿もあります。

 

 

「やれやれ。この年末の忙しい時期に面倒なことをする」

「まったくだね! 少しは静かに生活ができないのかな」

「オメェらもやってることは大して変わらねぇと思うんだが」

 

 

 クロノが良い機会だからと言わんばかりに突っ込みますが、下手人二人は涼しい顔をしています。

 

 

「おやフェイト。呼ばれているようだぞ」

「ええ~ボクがぁ? なのはじゃないの?」

「どっちもだっつーの!」

 

 

 クロノは指を突きつけました。なのはとフェイトは揃って後ろを向きました。芸人ですか。

 

 

「ふむ……我々は特別悪行を働いた記憶はないのだが。せいぜいビルを幾つかぶち壊した程度だろう」

「そうだよ! 家をいっぱい燃やしたくらいだ!」

「それが悪いっつってんだよォオオオオオオッ!」

 

 

 怒声を張り上げるクロノ。最早突っ込みとしての立ち位置を確立しておりました。

 

 

 と、そこでなのはがようやく気づきました。

 

 

「ところでリンディ提督の姿が見当たらないのだが、この非常時に彼女は何処へ?」

「ああ。―――買い物に出かけたら結界に取りこまれた」

 

 

 

 

 

「ちょっとおじさん! このトマト128円って高くないかしら……って、あら? 結界? 丁度いいわこのお野菜いただきましょウフフ爆アドktkr」

 

 

 

 

 

 ひとまずリンディは置いておこう―――アースラ乗組員の答えは全会一致でした。どうせほっといても自分でなんとかするだろうという皆からの厚い信頼が寄せられるリンディ・ハラオウンでした。

 

 

 指揮する立場の者がいないので、止むを得ずクロノが指示を出しております。仕方ねぇなぁとか言いながら人を顎で使う立場が嫌に様になっております。ついでに調子に乗ってエイミィに束縛されているのも様になっております。

 

 

「クロノ君。お楽しみの最中申し訳ないが、我々もそろそろ出撃すべきではないかね?」

「どこが楽しんでるように見えるんだよ!」

「冷静に突っ込んでるあたりちょっと楽しそう……」

 

 

 小声でぼそっと呟きが聞こえました。 

 

 はて、聞いたことあるようなと思い、振り向くと、見覚えのある少年が立っていました。

 

 

「―――おやユーノ君! そういえば先日から姿が見えないと思っていたらどこで油を売っていたのかね!?」

「ちょっと待って! なのは今まで気がつかなかったの!? 僕調べ物があるから出かけてくるって行ったじゃないか!」

「ははは、ユーノ君。勘違いしてもらっては困る。……私が知らないならそれは事実ではないのだよ?」

 

 

 なかったことにされました。

 

 せっかく皆のために色々調べ回っていたユーノは本気で降板を考えました。

 

 

「……闇の書に関して、詳しい情報が手に入ったから、わざわざ持ってきたんだよ」

 

 

 調査結果をまとめた紙束をクロノに投げてよこしました。自分で束縛から逃れたクロノは手にとり、読み上げました。

 

 

「え、えーと……ほ、ほー、ほけっ。きゃっ きょっ」

「ウグイスか貴様」

 

 

 じれったいのでなのはが奪い取って読みました。

 

 読み始めた途端、眉をひそめました。

 

 

「なんだこのわけ分からん古代象形文字は。誰が読めるんだこんな珍奇地底人の呪文」

「なのは。それ逆さまだよ」

 

 

 おっと、とひっくり返しました。しましたが、結局古代文字っぽいもので描かれているので読めません。考古学に詳しいユーノしか読めないということでした。ここに来てユーノが己の有用性をプッシュしていますが、そんな彼に送ったなのはの「没個性」の一言で木端微塵でした。

 

 

「何はともあれ、今はあの連中をどうにかすんのが先決だ。なのは、フェイト。オメェらの出番だぜ」

「一つ聞くが、どんな手を使っても良いのかね?」

「ふふふ、ボクが本気出せば一網打尽さ!」

 

 

 始まる前から色んな意味で危ぶまれました。

 

 

「……まぁやる気出してるとこ悪いが、連中に話色々聞くことあっから、無事な状態で連れて来てもらいてぇんだが」

「成程。まずは彼らと、お話する(とっ捕まえて、ぶっ殺死)と」

「ちっとも分かってねぇな」

 

 

 クロノは諦めました。

 どうせ自分は即席指揮官なんだから、と言い訳しています。そんな逃げ根性ではいつか痛い目見るでしょう。

 

 

「結界内部に突入したら、守護騎士を全員見つけ出せ。後から俺らも行く、極力捕まえて武装解除させておいてくれよ」

「了解した。では以前同様、赤髪の女性は私が受け持とう」

「じゃあボクはあのちっちゃいヤツと戦うよ」

「アタシは金髪の女どうにかするかねぇ」

 

 

 となると、自然と残った者は誰が担当するのかというと、

 

 

「あ、あのー。僕、あんなマッチョなのと戦いたくないんで、できればなのはかフェイト辺りにお願いしたいんだけど」

「「嫌だね。そんなことするくらいなら世界が滅んだほうが遥かにマシだよ」」

 

 

 声をそろえてキッパリ言いました。

 

 やはりザフィーラは受け入れ難い存在のようです。見た目的にもキャラ的にも。

 

 

 

 

 

   ―――ピキュイーン!

 

 

「ぬ…………」

「どうしたザフィーラ、深刻そうな顔をして」

 

 

 突然険しい顔をして虚空を振り向いたザフィーラに、ヴィータが怪訝な顔を向けました。

 

 

 何か察知したのか、と不安な顔をするシグナムらも見る前で、唸りながらザフィーラは答えました。

 

 

「いや……プリキュアの録画を忘れてしまった気がしてな」

「おいシグナム、こいつを殴ってくれ本気でもいいぞ」

「案ずるなザフィーラ。ちゃんと録画してあるでござる」

「今の私は阿修羅をも凌駕する……!」

 

 

 ヴィータは無視しました。

 

 

 最近、他の次元世界へ足を運んでいたヴィータ達守護騎士一同は、管理局の存在に気づいていました。監視されている、と分かっていながらも、彼女達は蒐集行為を止めるつもりはありません。偏にはやてのために、これからもずっと生きていくために、どうしても必要なことでした。

 しかし監視網が敷かれている現状、遠出して作業効率が低下するより、危険と承知で近場で補う方が早い、と判じた四人は、高い魔力反応を探っていました。

 

 

 するとどうでしょう。スーパーの中から反応がありました。何故かさっきから動く気配がないので、最初に気づいたヴィータは他の三人が集まって来るのを待っていたのでした。

 

 

 が、どうにもやる気が窺えない三人に、額に青筋が浮かびます。

 

 

 業を煮やしたヴィータは、頭を掻いて奥の手を出しました。

 

 

「ああもう! オメェらやる気出せっつーの! ちゃんと蒐集したら後で好きなモンおごってやらぁ!」

「久々に本気で戦う機会に恵まれたな」

「ああ、今日は戦場を血染めの華で彩ってくれよう……」

 

 

 馬鹿二人がやる気を出していましたが、比較的シャマルは平常通りでした。

 

 

「んだシャマル、やる気ねぇのか?」

「んー、ちょっと疲れ溜まっててね。残念だけど、今回私はサポートに徹し」

「オメェが欲しがってた同人ゲーム三本用意してやる」

「腸をブチ撒けてやる」

 

 

 目覚めてはいけないものが覚醒を果たしました。

 

 

 さぁ行こう。修羅と化した四人はスーパーの前へ静かに降り立ちました。未だに動きが無いとはいえ、魔力反応のある相手です。十中八九、魔導師、それも管理局と縁ある人物とみて間違いないでしょう。

 警戒心を強めながら、シャマルを待機させ、退路を断つべくシグナムを裏手に寄こし、ザフィーラに頷きを送ってから、正面口に立ちます。手際の良さは過去最高レベルでした。毎回こんな順調なら二カ月で闇の書は完成していたでしょう。そしてすぐ浪費していたでしょう。

 

 

 やがて、明かりの消えたスーパー内で蠢く影を捉えました。割と小柄であることから、先日の少女ら動揺、嘱託魔導師なのかもしれないと予測しつつ、ザフィーラと共に接近します。

 

 

 間もなく射程圏内に入ろうとしたところで、蠢いていた影が止まりました。

 

 

 気づかれたか? いや、もう遅い―――ヴィータは隠れるのを止め、物陰から出ました。

 

 

「動くな。……オメェに恨みはないが、魔力をいただ、」

 

 

 ヴィータの言葉が停止しました。

 

 

 どうした、と無言で咎めるザフィーラは、遅ればせながら物陰から出て、前方の影を見ました。

 

 

「……………………………………あら?」

 

 

 見れば、人気のなくなった食品売り場から、買い物かごにこれでもかと野菜を突っ込んでる少女の姿がありました。

 

 

 どう見ても火事場泥棒の現行犯でした。

 

 

「………………」

「………………」

「………………」

 

 

 三人の時間が凍結しました。

 

 

 やがて動き出した少女は、パンパンと手を叩いてから、胸元の銀色のカードを引っ張り出しました。ついでにプチトマトも零れ落ちました。

 

 

「色々聞かせてもらうわよ? 闇の書について、ね」

 

 

 その人――リンディ・ハラオウンは、目線を強めて言ってのけました。

 

 ポケットからニンジンをはみ出しながら。

 

 

「……まぁ、いい。どの道コイツをぶっ飛ばすことに変わりはねぇ。おいザフィーラ、一緒にやるぞ。……ザフィーラ?」

 

 

 隣の巨漢に声をかけるも、反応がありません。

 

 

 どうしたんだと思って目線を向けると、リンディを睨みつけたまま動きません。何か思うところがあるのでしょうか、険しい顔のままです。リンディも不審に思ったのか、構えた状態のまま、ザフィーラの動向を窺っております。

 

 

 ややあってから、ザフィーラは唐突に崩れ落ち、四つん這いになって、呟きました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バスケがしたいです…………」

「「なんで!?」」

 

 

 絶叫がこだましました。

 

 

 

 

 

     ○   ○   ○

 

 

 

 出撃準備を行うなのはとフェイト。

 

 

 彼女らの手には、改造を施された新デバイスが握られています。真新しい輝きを放つそれは、プレシアの手によって大幅に強化されています。この短期間で目を見張る技術と性能がふんだんに盛り込まれたのは、ひとえにプレシアの尽力の賜物でしょうか。まぁ煩悩とか親馬鹿というのが九割を占めていること間違いなしでしょうが。

 

 

「なぁ、なのは。アタシら全員で行くのはいいんだけど、今回なんか策とか用意してないのかい? 無策で突っ込んだら、下手すると前回の二の舞になっちまうよ」

 

 

 アルフの至極まっとうな意見に、なのはは大丈夫だ問題無いとでも言いたげな、いつもの不敵な笑みを返します。

 

 

「私にいい考えがある」

「………………」

「………………」

「………………」

「………………」

「何かね、その沈黙は」

 

 

 某サイバトロン司令官並の信憑性の無さに全員が不安になりました。既に『なのはの良案=何者かが犠牲になる』の図式はアースラでは常識でした。

 

 

「オメェの名案っつーのは大概ロクでもねぇ結果にならねぇから心配になってんだよ」

「失礼な。私に任せておけば絶対に大丈夫だ。タイタニックに乗ったつもりでいたまえ」

 

 

 100パー沈没します。

 

 

 なのははやや神妙な顔をし、集まるよう手招きしました。いつもと違うなのはの様子に皆は一度顔を見合わせ、すぐになのはの元へ集まります。

 

 

「良いかね? 前回の反省を生かし、失態を見せるわけにもいかん。ゆえに、今回は全員の力で挑む必要があるだろう」

「そうだね」

「分かってるけど、具体的にはどうすんのさ?」

 

 

 ああ、となのはは頷いてから、言いました。

 

 

「私の予測ではこうだ。……恐らく結界に侵入した時点で敵が一人減っているだろうから、突入時に散開して私とフェイトが以前の二人を担当、ユーノ君とアルフ君が残る一人を押さえ込み、クロノ君の到着を待つ。大雑把だが敵の討伐より捕獲を優先される今回は持久戦を前提にした方が宜しいだろう。以前よりパワーアップを果たした私とフェイトなら余裕だし、ユーノ君とアルフ君とて二人がかりならば遅れをとることはあるまい?」

 

 

 てっきり全員カミカゼ特攻弾になって散ってこいと厳命されるんじゃないかと思っていたユーノ達は拍子抜けし、そんな自分がなのはに毒されていると思い愕然として落ち込みました。

 

 

「そうだね! もっと強くてもっと格好良くなったボクらの力を見せつけてやるんだ、なぁなのは?」

 

 

 例外としてフェイトはなのはを信じているのか、ちっとも驚いた様子はありません。

 

 

「ってちょっと待て。なんで一人戦力が減ってるなんて思うんだよ?」

「既にリンディ提督がいる。彼女とて無力ではなかろう、抗う術の一つや二つ持っているだろう。それが根拠だ。あとは……」

「あとは?」

「私の勘だ」

 

 

 フッと笑うなのはに、ユーノは違和感を抱きました。

 

 

 いつもはインチキ臭い理詰めのトークで他者をよく分からんうちに無理矢理納得させるのが常道と化しているなのはですが、今回は自分の直感をあてにしています。彼女のことですから、自分の直感さえも神の予知に等しいのだよハハハとかぬかしそうですが、いつもと少々雰囲気が異なるなのはに、なんだか不安を抱きました。

 

 

 けれども不敵な横顔は、いつも通り妙な安心感がありました。ユーノの知る、決して揺らぐことのない魔法少女の姿が。

 

 

 気のせいかな、とユーノはそこで考えるのをやめました。

 

 

 隣では、また出費が、とクロノが嘆いております。彼女らを最前線に送り込むことに反対しないことを疑問視したユーノは尋ねます。

 

 

「でも毎回なのはを出してるよね? なんで?」

「ああ、そりゃ簡単だ。……あいつが出撃すると出費がかさむ。あいつを出さないと俺が出張らないといけない。二つに一つ、だったら俺は―――母ちゃんにブン投げて寝る」

「結局何も解決してないじゃないか!」

 

 

 けどまぁ、いつも頭痛の絶えない立場にいながらも、なのは達をきちんと導いているクロノに、頑張るなぁと呑気に思うユーノ。しかしクロノが万が一レギュラーから外れたら間違いなく突っ込みと言うお鉢が回ってくることに気づいてないのですかね。

 

 

 そんなユーノの目線に気づいたクロノは、口の端を釣り上げ、笑いました。

 

 

「ま、いいさ。どうせ俺らは公務員、苦労も辛苦も人のため、人のためは我が身のためってことよ」

「よくぞ言ったクロノ君! 人間、謙虚な心と感謝の念を忘れてはならない! 昨今の傲慢な人間たちに君の剛毅な姿勢を見せてやりたいものだ!」

「そうだなー! 最近の人間ってやつは苦労しないで楽ばっかりするからな! 好き勝手やるばっかの人間も見習って欲しいよ!」

「お前らが言うんじゃねぇぇえええぇええええええええええッ!!」

 

 

 やっぱりいつもの通りでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 出撃寸前、エイミィが警戒を促しました。

 

 

「一筋縄じゃいかない相手だよ、十分注意して!」

「二筋縄でもいかねぇぞ!」

「ほう。では何筋縄でならいけるかねエイミィ君」

「え? そ、そうだなぁ……10筋縄くらいかな?」

「なのはとボクで二筋縄……いけるよ!」

「そこに本気を出せば倍率ドン! 更に倍!」

「そこへ通常の二倍の回転を加えることにより更に倍!」

「「これで八筋縄だ……!!」」

「よっしゃ行ってこい! 成果を上げろォオオオ!!」

「高町なのは! レイジングハート、推して参る……!」

「フェイト・テスタロッサ! バルディッシュ、行きます!」

 

 

「……あれ? よく考えたら八筋縄じゃ足りなくねぇか?」

「あ、しまった! 二人を止めないと!」

「無理だよ、二人とももう行っちゃったし」

「もうダメだこの人達……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結界内は騒然としておりました。

 

 

 時折爆発が生じ、続いて何かが倒壊する音が断続的に響き渡ります。ガラガラと瓦解するビル群の間を縫うように、小さな影が飛び交っております。

 

 

 結界内部に取り込まれたリンディの他に、今回の下手人たる守護騎士四名。それ以外に生物らしき影はなく、辺りは静まりかえり、不気味な空間が延々と続いております。

 

 

 先行する影は一つ。続く影が一つに、もう二つがすぐ後に続きます。

 

 

 当然のことながら、逃げるリンディと、それを追いかけるヴィータ達守護騎士の姿―――

 

 

「貴様らぁあああああああ! いい加減にしたらどうだ!!」

「そりゃこっちの台詞だザフィーラァアアアアアアアアッ!!」

 

 

 ―――ではなく、リンディを逃がそうと立ち塞がるザフィーラと、青筋浮かべて突撃するヴィータと静かについてくるシグナムの図でした。

 

 

 どうしてこうなった。混乱しつつもヴィータは割とマジな勢いで反撃してくるザフィーラにブチ切れ三秒前です。

 

 

「テメェどういうことだ! 今更になって裏切るのか!?」

「黙れBBA予備軍、もう俺は我慢ならん! 未来ある子供を傷つけ、平和な明日を創る……それに何の意味があると言うのだ!」

「当初の目的忘れてるだろ!?」

「否! 覚えているとも……! 俺はかつてこう誓った! ―――主と世界の幼女のために、この身は災いを受け止める盾となるのだと!!」

「余計なの混ざってんじゃねぇーか!」

「ゆえに許されない! お前と言う存在も!」

「オマエってヤツはーっ!!」

 

 

 遂にブチ切れたヴィータが殺意全開で襲いかかろうとするのをなんとかシグナムが押さえています。彼女もあきれ顔ですのでいかにこの状況が偏差値の低いものか如実に物語っております。

 

 

「さぁ、そこな幼女! 俺が盾となる間に、安全なところにまで逃げ」

 

 

 言い終える前にリンディは背後に立ちました。

 

 

「私を気遣ってくれるのはとても有り難いのだけれど、その前に言っておくべきことがあるわ」

「ぬ……?」

 

 

 言い知れぬ不穏な感覚に、ザフィーラは振り向こうとしましたが、その前に腹をガッチリホールドされました。

 

 

「―――私はもう大人なんじゃぁああぁああああああああああパイルドライバーァアァァァアアアァアアアアアアアアアアアアッ!!!」

「ばばあぁあぁああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!???」

 

 

 ブン投げられたザフィーラは落ちてきたところで脳天杭打ちを喰らいました。

 

 

 ビルに犬神家よろしく突き刺さるザフィーラを眺めていたヴィータとシグナムは、邪魔者がいなくなってこれ幸いとばかりに武器を構えて相対の意志を見せます。仲間の犠牲は無駄にはしない……といえば美しいのですが、既に彼女らの中でザフィーラという男は思い出の中で語られるだけの存在でしかないので眼下でビクビク痙攣している物体は味方でもなんでもないというのが互いの見解でした。

 

 

「さて、どうする? アタシら二人相手に勝てると思うか?」

「あら。二対一なら勝てると思っているの? 片腹痛いわ」

「否、それは違うでござる」

 

 

 妙な自信をもって前に一歩出たシグナム。

 

 眉をひそめ、一挙手一投足に注視するリンディは、シグナムが右手に剣を持ち、左手に鞘を持って掲げるのを見ました。

 

 

「両手に武器! これで戦闘力は二倍にばーい!」

 

 

 これ突っ込んだら負けかしら……。リンディが半目で見つめていると、隣のヴィータが片手で後ろに下げました。どう考えても邪魔だと判断したのでしょう。英断でした。

 

 

「けど、いいのかしら?」

「あ? 何がだ」

「いつまでも私に構っている余裕はあるの、という意味よ」

 

 

 怪訝な顔をしていたヴィータですが、突然思考に割り込んだ声に意識を引っ張られました。

 

 

『たいへんたいへん、たいへんなのよヴィータちゃん!』

「どうしたシャマル!? 何があった!」

『空から! 空から女の子と可愛い男の子が! 顔面偏差値80オーバー! 4人のうちショタとロリが三人も! 数値で表すと0.75! 平均打率八割越えなんてメジャーも夢じゃないわフフフおっとよだれが』

 

 

 妄言がうるさいので念話を切断しました。

 

 

 しかしシャマルの通信が嘘ではないと気づいたのは、頭上の結界の先、空から何かが降って来るのを見た時でした。

 

 

「あれは……まさか!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ときにレイジングハート。毎度空からダイビングするのが定番になりかかっている昨今、君はどう思う?」

《Nothing special.(特別何も)》

「ふむ。私は思うのだよ……古いラヴコメでは女の子が空から落ちてくるのが定番である。ならば我々がこう、地上に転移するのが難しいとかぬかして上から投げ捨てられるのも、もしかしたらサダメなのかもしれないね?」

《It's a hard thing.(難儀な話ですね)》

「ああ、まったくだ」

 

 

 腕組みして空中であぐらをかいているなのは。もう高度三千フィートから叩き落とされてもまったく動じておりません。

 

 

 フェイトもそんななのはに感化されたのか、それとも元々飛べるからか、結構余裕の表情です。

 

 

「ねぇーバルディッシュ。部屋を出る時、お母さんに何か言われてたよね? なんて言われたの?」

《Ah……Don't worry,master.Doesn't matter.(えっと……心配しないで下さい。なんでもないです》

「えー、なんなんだよー」

 

 

 バルディッシュは内心汗ダラダラでした。言えない、プレシアにフェイトの至近距離写真を激写してこいと脅されたなんて……紳士バルディッシュの心の声でした。

 

 

「さて。フェイト、突入する前に言っておこうか」

「ん? 何?」

「私は自分でも言うのも何だが、己の定めた速度で前へと突き進む。これからもそうしていくだろう」

 

 

 ゆえに、と言葉を続けました。

 

 

「君にこう問いかけよう。―――ついて来れるか、と」

 

 

 ゆっくりと、伸ばされる手。

 

 

 フェイトは一瞬目を丸くして、直後、自信満々の笑みを浮かべ、応えました。

 

 

「……勿論っ!」

 

 

 ぎゅっと、強く握り返して。

 

 二人は手を繋ぎ、力強い笑みを見せつけるのでした。

 

 

 よぅし、となのはは頷き、レイジングハートを胸元に寄せました。

 

 同時に、フェイトはバルディッシュを手に、前へと突き出します。

 

 

「それでは参ろうか。レイジングハート―――」

「勝ちに行くんだ! バルディッシュ―――」

 

 

 光が溢れ、

 

 

「―――エクセリオン!」

「―――アサルトッ!」

 

 

 結界の中へと、飛び込んで行きました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その数秒後、時間差で出てきたアルフとユーノがいい感じで回転しながら吐き出されて来ましたが、誰も気づきませんでした。

 

 

 

 




レイジングハート・バルバトスとか、バルディッシュ・レクイエムとか色々考えましたがなんか間違ってる気がしたのでやめました。

……間違ってるのは私の頭の方かもしれない(真理

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