魔法少女が許されるのは15歳までだと思うのだが 作:神凪響姫
……さ、本編始めましょうか。
あ、余談ですが、シリアス展開要ります?
番外ってことで本編とは別に用意した方がいいかなとは思ったのですが、どうでしょう?
なのは撃墜。
その知らせにアースラ一同は耳を疑いました。
「え? 今日って四月一日だっけ?」
「そう言って俺たちを陥れるつもりか……」
「ははは御冗談を」
なんてことを言って後でシバかれること確定な連中もいましたが、実際その目で見ていた者たちは驚き混じりに、こう思ったのでした。
「ああ、あいつも人間なんだな。なんか安心したわ」
台詞を口に出して安心した様子の某執務官ですが、後々その台詞を公開する羽目になるとは夢にも思わないのでした。
第三話 失敗なんて当然なんです
モニター前に集結した、フェイト、アルフ、ユーノ、リンディ、クロノ、エイミィといういつものメンバー。
まさか汚名……勇名轟くなのはが撃墜されるなんて夢にも思わなかった―――いえ、悪夢になら見たかもしれませんが、ともかく想像したこともない一同は揃って驚きましたが、命に別状はないと知ると、なぁんだ、とでも言いたげにため息をつきました。相手が手心を加えたからというよりなのはのしぶとさが黒い生命体Gを遥かに超越してると思ってるからに違いありません。
「ぶっちゃけアイツのことだから死んでも肉体に宿った怨念だけで戦いそうだと思ってたぜ」
妖怪並の扱いでした。
「…………」
「フェイト、アンタのせいじゃないんだから、しっかりしとくれよ」
唯一不安と後悔の色を隠せないフェイトを励ますアルフ。良い子ちゃんすぎて異端になりそうな勢いでした。
「けど、リンカーコアが小さくなってますね。幾らなのはちゃんでもリンカーコアをやられてしまっては……」
「さすがのアイツもどうしようもねぇってか。今なら静かに過ごせそうだぜ」
その代わりその平和が終わりを告げると再び地獄が訪れるでしょう。
「ねぇ」
唐突に、フェイトは手を上げて問います。
「リンカーコアって何?」
フェイトのかなり天然な発言にクロノは驚愕を通り越して呆れました。
「リンカーコアってのは、魔導師が魔法使うのに必要な素養みてーなモンで、これが小さくなると魔法が使えなくなっちまうんだよ」
「そうなのかー」
「なのはのヤツは現状、リンカーコアが小さくなってっから、魔法が使えねぇ。けどま、そんだけだ。日常生活には影響ねーだろうよ」
「そうなのかー」
「オメェ本当に分かってんのか?」
「うん!」
「実は分かってねぇだろ?」
「うん!」
ぱぺーと無邪気に笑うフェイトに、クロノは危うくキレかけましたが抑えました。真の紳士は女性に優しいものです。なんだかオブラートに包んでるだけでその実変態って言ってるように聞こえるのは気のせいでしょうか。
「ところで艦長、彼女らが使用していた魔法やデバイスですけれど」
「ええ、私も気になってたところよ。……エイミィ」
「はい」
コンパネを弄ると、眼前に映像が浮かびました。
先日の戦闘映像です。なのはやフェイトが空中で戦っているシーンでした。
変な映像が出るんじゃないかと突っ込む準備をしていたクロノは肩すかしを喰らった気分でした。どこか物足りなさげでした。
「んー、見たことない術式だねぇ。なんだいありゃ」
「あ、あれはね、ベ「昔、ミッドチルダ式と二分した魔法体系でな。なのはみてぇに遠距離からドンパチやるようなタイプとは正反対で、近距離戦闘に特化したタイプだ。優れた使い手は騎士って呼ばれてるらしいぜ」…………」
台詞を奪われ撃沈するユーノ。そのうちきっといいことがある、とは限らない、かもしれません。
映像に出てきたのは、ヴィータと名乗る少女の姿です。他二名は諸事情で削除されました。お察し下さい。
「あの金色のやつは何? いきなり魔力が噴き出してたけど」
「あ、あれはね、カ「ベルカ式特有ので、カートリッジっつーもんだ。圧縮した魔力を詰め込んで、ロードすることで瞬間的に圧倒的な魔力を放出して高い破壊力を得るもんだ。結構危ねぇ技術だよなアレ」うぅ………」
何かユーノに恨みでもあるのでしょうか。ますます影の薄さが加速するユーノでした。
「本当は、なのはちゃんにも教えておきたいんだけどね。説明したりすると、二度手間だし」
「まさか。あと半日は目覚めねぇだろ、あの調子じゃ」
「なのはちゃんだったらすぐ起きそうだけどね」
「案外壁の向こうで聞いてたりしてな」
ははは、と笑い合うクロノとエイミィ。
と、そんな時でした。
ドゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!!!
いきなり壁が爆砕しました。
「呼ばれたから来たぞ」
「そういうダイナミックな登場は心臓に悪いので今後は控えてくれ。控えて下さいお願いします」
病人用の衣類を着たまま、なのはが颯爽と現れました。魔法が使えないのに壁を粉砕してなおかつこの平然とした振舞い……半年くらい経ってもまったく成長してない少女でした。
「ちょっとなのは。アンタ、あんだけのことやられといてなんでそんなピンシャンしてんだい?」
「何、私の目覚めなど当然のことだ。それに……私が留守にしたせいで、町の秩序が乱れてしまったら大変ではないか」
「ちょっと何言ってるか分からないですね」
心の底からそう思うアルフでした。
「にしてもなのは。どうして壁を粉砕しておいて無事なのさ……」
「生憎と私は頑丈にできているのだ。どこぞの軟弱な黒い男と違ってな」
「おいコラ、俺を名指しすんじゃねぇ」
「そうだよなのはちゃん。クロノ君、結構耐久力あるんだよ」
余計な事を口走りました。
「ふむ。その話題には非常に興味があるのだが「頼むから触れないでくれ」まぁ要件があるので先に済ませようか」
要件? と一同が嫌な予感を抱きつつも首を傾げます。
「リンディ提督。私のレイジングハートを改造していただきたい。……カートリッジシステムを搭載するための、ね」
誰もが驚きました。こいつどんだけ地獄耳なんだ、と。
非常に言いづらそうにリンディは答えました。
「あのね、なのはちゃん。申し訳ないのだけれど、カートリッジシステムは危険なものなの。それにレイジングハートの修復も終わってないし……」
「何、私のレイジングハートならばどうにかなるだろうよ。―――気合で」
それでどうにかなるのは貴女だけです。
「いいかなのは。改造するには幾らか足りないがある」
「ほう。何かね、言ってみたまえ」
「改造するのに必要な時間と、カートリッジシステムを取りつける技術と、技術者のやる気と、時間だよ!」
「なのは。コイツ時間を二度も言ったよ」
「何、これもクロノ君なりに意味のある行いなのだよフェイト。深く察してくれたまえ」
「意味なんてねぇーよ! ごめんなさいでしたぁーっ!」
馬鹿でした。
「けどよォなのは、あんま無茶ぶりすんじゃねぇよ。俺らがどんだけ苦労してっか分かってんのか?」
「クロノ君、君は黙っていたまえ」
「いいや、これだけは言うぜ。お前って奴はn」
「クロノ君、君は黙っていたまえ」
「あの、ちょっと俺のセリh」
「クロノ君、君は黙っていたまえ」
なのはのチョップが炸裂しました。机に。
すると板チョコみたいに真っ二つになりました。恐ろしい破壊力と非常識力でした。
「クロノ君、君は黙っていたまえ」
「はい。すいません。ゴミムシのように無音で過ごしておきます」
体育座りして事務机の下で丸まるクロノ。いつの間にか隣にはユーノがいました。同情を寄せてるようですが既に彼自身が自分で空気と認めているようでした。
傍目にも怒り心頭のなのはに一同は怖れおののいております。よっぽど無様な姿を晒したことが遺憾なのでしょう。今まで無双していた罰が当たったのかもしれませんね。
「して。これ以上の戦力アップは図れないのかね?」
ここで首を横に振ったらどうなるのか……アースラ司令室に緊張が満ちました。なんでこんな最終戦みたいな緊張感が溢れているんでしょうね。
「あ、あのさなのは? 気持ちは分かるけど、いくらコイツらだってそう何でもできるってわけじゃない、ん、だか、ら……」
なのはに蛇睨みされ、アルフは犬形態になると尻尾を丸めてフェイトの後ろに隠れました。なのは最強説が浮上して参りました。
と、パチパチとパネルを操作して何事かを調べていたエイミィが言いました。
「ん。でもなんとかなるかもしれないよ」
「なんだと!?」
「一瞬で機嫌良くなったね……」
なのはの機嫌は小豆相場並みでした。
「さっきからレイジングハートとバルディッシュがエラー出してて何かなと思ってたんだけど、ようやく分かったよ。CVK-792……これ、カートリッジシステムに必要なパーツの型番だよ」
「ほぅ。つまりそれさえあれば強化が可能ということかね?」
「けれど、完成には時間がかかるわ。修復する時間も必要だし、パーツも取り寄せないと」
なだめるようなリンディに、なのはは腕組みをして、ふむ、と頷いてから、
「そうか。……ならば今すぐ作れ。さぁ作れ。作るまで寝られると思うな。既にこの部屋の出口は封鎖してもらったぞ」
「「「お前馬鹿かァアアアアアアアッ!」」」
耐え切れなかったなのは以外の者たちの怒号が響き渡りました。
八神家では夕食後、穏やかな時間が流れておりました。
居候している身として、食後の皿洗いは皆で協力して行っております。が、結局シグナムが皿を割りまくりザフィーラは犬の匂いがするので結局三人でローテーションを組んでいるのでした。
終えると、テレビを見つつ各々が時間を有意義に過ごしていると、九時を過ぎていました。恐らく五人の中で最も外見的には年少のシグナムが口を開きます。
「主よ。明日は病院だ、早めの就寝が肝要かと」
「うむ、大義であるぞシグナム。我もそろそろ床につくべきか」
「その前にお風呂入りましょうねーはやてちゃん」
スチャッ
どこからともなく拳銃を取り出し構えるはやてさん。
「貴様、それ以上接近すると……分かってるな?」
「もーはやてちゃんって私に対して冷たくないですか? せっかく人が親切にお世話してあげようとしてるのに。ねぇヴィータちゃん?」
「その前にヨダレ拭けよ」
ヴィータの指摘に袖で口元を拭うシャマル。
見境がないようでした。
「そうだぞシャマル。ここは盾の守護獣、もとい、紳士たるオレが直々に世話をし」
ばきゅんばきゅんばきゅん
「何か言ったか?」
「いいえ」
案山子のようなポーズでフリーズするザフィーラ。
盾の守護獣でも防げないものがあるようでした。
ヴィータに抱きかかえられ、風呂場へ向かうはやて。年齢不相応な言動が目立つはやてもヴィータには割と素直に接しているようで、こうして抱き上げられても嫌な顔一つしません。他の面子がアレだからまともな部下……もとい、人間は大事にしようと思ってるからかもしれませんが。
「おいシグナム。オメェはどうする? 一緒に行くか?」
「私は明日入る。先に入るといいぞ」
やんわりと断りを入れるシグナム。相変わらず生真面目な口調ですが、テレビでやってる教育番組にかじりついている姿は突っ込みを入れたくてもそれをさせてくれない雰囲気がありました。
仕方なく、二人は風呂場へ向かいます。背後から忍び寄って来る不審者二名を威嚇しながら、脱衣所へ。
「にしても、貴様ら今日は帰りが遅かったな」
「ああ、悪いな。シャマルが意地張ってて時間かかっちまった」
適当な嘘で誤魔化すヴィータですが、あまりに信憑性が高い嘘なので、はやては疑うことなく納得してしまいました。最早全ての事象を『まぁシャマルだし』で納得してしまいそうでした。
「近頃、貴様らが我に内緒で何事か企んでいるのは知っている」
ヴィータは息を呑みました。
ふん、と鼻を鳴らし、どこか寂しげな顔をしながら、しかしそれを見られないよう俯いて、はやては続けます。
「だが我は貴様らの行動を拘束するつもりもなくば意思を束縛するつもりもない。どこで何をしようと自由だ。そこまで狭量な我ではないぞ」
「はやて……」
「かっ、勘違いするなよヴィータ。我は貴様らの意志を尊重している、それだけのことだ。……それに、我は元より一人で何事もこなすことができる。貴様らの手など借りずとも大丈夫だ」
気丈に振舞うはやてですが、それでも幼い少女に変わりはありません。甘えたい年頃でしょう。外で遊びたい年頃でしょう。何一つ自由にできず、人並みの生活すらできないはやて。
ヴィータは背中から、そっとはやてを抱き締めました。触ってみると分かる、こんなにも小さな背中に、数多くの重しが圧し掛かっているのです。次第に悪化する足の状態など欠片も気にした様子を見せないはやては、出会ってからずっと自分らしく振舞っています。事情を抱えるヴィータら4人に尊大でありながらも優しく接してくれる、これがヴィータにはたまらなく嬉しいのでした。
だから、顔が曇ってしまいます。
今、彼女のあずかり知らぬところで動き続ける4人の所業が、はやてにバレてしまったら。
そして、何もかも手遅れになってしまったら……。
「む? どうしたヴィータ」
知らないうちに力が入っていたようで、はやてが怪訝な声を上げました。
「なぁ、はやて」
「何だ?」
「アタシ達は、絶対諦めねぇから」
「???」
よく分からず首を傾げる仕草が子供っぽくて、普段の言動からギャップを感じヴィータは苦笑しました。
こんな穏やかな時間が、もっとあればと願う自分がいました。
だから、そのためにも、必ず成し遂げなければ。
決意を新たに、ヴィータははやてを抱えて湯船から身を出そうとしました。
ガラッ
「さーてはやてちゃん、今日も身体を綺麗にしましょうねードゥフフwwwwwオフゥwwやはり幼子の素肌は格別ですなwwwwwコポォwwwwwwww」
スチャッばきゅんばきゅんばきゅんばきゅんばきゅん
「それ以上近づけば発砲するぞ」
「はやて、撃ってから警告しても遅いぞ」
シャマルの顔から数センチのところに幾多の弾痕がありました。クイックドロウなんてレベルではありませんでした。
三人が風呂場へと向かった後。
「怪我はいいのか」
唐突にザフィーラが口を開きました。
一通り満喫したシグナムは、ため息をつくと、脇腹の辺りを押さえました。
フェイトの攻撃を受けていたようです。そらそうでしょうね。
「とても澄んだ太刀筋だった。良い師に学んだのだろうな」
言い方を変えると何も考えてないとも言えますね。
「危なかった……武器の差がなければ負けていたでござる」
「頭の差が勝敗を決したと思うのだが」
かなり的を射た意見でした。
深夜。
はやてが就寝し、一緒に寝ないかという誘いをヴィータが仕方なく断り、代わりに寝ましょうそうしましょうと鼻息荒く迫るシャマル&ザフィーラを二人がかりで取り押さえ、外へ出た守護騎士四人。
「現状、340ページといったところか。666ページまでまだ半分……まだ道のりは遠い」
「だが逆に言えば、もう半分だ。折り返し地点にまでようやっと到達できたのだ」
普段とは打って変わって、真面目な表情を作るシグナムとザフィーラ。
視線を落とすシャマル。手中にあるのは、一冊の黒い本でした。はやての部屋に置いてあった、謎の本です。
「ああ、早く完成させたいよな……」
ヴィータが感慨深げに呟くと、他の三人も頷きました。
早く完成させて、静かな生活を―――はやてとの平和な日常を満喫したい。それだけが、彼女らの願いでした。
「けれどこんだけあるとちょっとくらい使っても良い気がするでござる」
「30ページ分くらいパーッと使ってもいいんじゃない?」
「四捨五入すれば同じだから問題ないだろう」
「あるに決まってんだろォオオオオオオオオオッ!!!」
気苦労の絶えないヴィータでした。