魔法少女が許されるのは15歳までだと思うのだが   作:神凪響姫

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原稿やら文化祭やらで忙しかった関係上、書く時間がとれず、ちょっと後半急ごしらえになってしまいました。

後で変更するやもしれませんのでご了承ください。




あ、でも守護騎士らの人格に変更ありませんので諦めて下さい(え


第二話 再会なんてこんなんです

 

 

 

 前回のあらすじ

 

 幼女かと思っていたら長身のお姉さんだったで御座る。ハァーがっくし。

 

 

 

 始まります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なのはは若干満足げに頷くと、腕を組みました。

 

「して、ヴィータ君とやら。私の攻撃して来た理由は分からんが、お互いやむにやまれぬ事情があると推察できる。ここは一度、冷静になって話し合いの場を設けたいのだが、どうだろうか」

 

 出ました、なのはお得意の『話し合いをしましょうと持ちかけて決裂したら即バスター』です。恐らく『振り込め詐欺』に続く新しい詐欺方法『OHANASI詐欺』というのが今年最後に世間を騒がせる事件となること請け合いでしょう。

 

 なのはの(表面上は)平和的提案に対し、赤い服を来た少女・ヴィータは、ハンマー状の武器を構えたまま熟考しますが、それでも表情は険しいままでした。

 

「今更話すことなんてない。オマエにも恨みはないが……倒す」

「ほう……その口ぶりからすると、私の他にも同様に襲い倒した者がいるようだね? 推察するに、先日の魔力反応も君のものだろうか」

 

 少女は答えません。その態度が実質答えでした。

 

「貴様……そうやって今まで理由もなく襲いかかられた人間の身を案じたことはあるのかね?」

「オマエは今まで食ったパンの枚数を覚えているのか?」

 

 問いに対し、ヴィータは鼻で笑う様に言いましたが、

 

「私は米派だ!」

 

 なのははキッパリ言いました。

 

 ……ヴィータは、「じゃあオマエ、今まで食った米粒の数を覚えているのか?」と尋ねようとしましたが、大人げない気がしたのでやめました。ついでに「オマエ最初会ったときサンドイッチ食ってたじゃねーか!」と突っ込もうとしましたが、言ったら負けな気がしたのでやめました。

 

 話し合いは不可能だと断定したのでしょう、ヴィータはハンマーを振りかざしながら突進してきました。

 

 なのはは防御魔法を展開しようと手を差し出しましたが、そこで思い至りました。

 

「いかん、このままでは戦えん」

 

 じゃあとっととその謎覆面脱げよと思うでしょうそうでしょう、私もそう思います。

 

 しかしどうするか、なのはは二秒ほど考えた末、止むを得ず馬頭を投げ捨てました。

 

 これにはヴィータ、とてもビックリしました。

 

(どういうことだ? アイツは魔物じゃないのか。でもさっきまでの声は魔物っぽかった。けど今は女の子だ。魔物が変身しただけなのか? それはただの変態だな。けどその変態がアタシの攻撃を受け止めたのも事実。しかし変態っぽいな。どんだけ強いのか見当もつかねぇ。変態だから仕方ないのか。いやだけど―――)

 

 そのうち少女は考えるのを止めました。

 

 どういうわけか動きを止めてしまったヴィータに警戒しつつも、なのははレイジングハートを構えます。

 

「おーい、聞こえてるのかね?」

 

 声をかけますが、ヴィータは固まったまま動きません。

 どうしたことか、となのはは一瞬思考しますが、

 

「戦場で動きを止めるのは命取りと知れ……!」

 

 高町なのは、容赦無し。

 

 

 

 ちゅどぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおんッ!!

 

 

 

 ぶっ放しました。

 

 爆発が生じ、煙が立ち込めます。

 

 やや遅れて、ヴィータが煙の中から飛び出してきました。

 その手には、ボロボロになった紅い帽子があります。先程の衝撃で焦げており、白い人形のような物がとれそうになっていました。

 

「テメェ、アタシの帽子を……!」

「おや、それが君の素かね? 随分生き生きとした表情をする」

 

 顔を赤くして憤慨するヴィータ。帽子を飛ばされた怒りと言葉遣いが素に戻ってしまった羞恥心とのダブルパンチで顔が真っ赤っかでした。

 

 許さない―――ヴィータは帽子を投げ捨て、轟! とハンマーを振り上げます。

 

 

 

 

 

「アイじぇン、カートリッジロード!」

 

 

 

 

 

 噛みました。

 

 台無シズム全開な台詞とは裏腹に、強い魔力が放出されていくのが分かります。

 訝しげに見つめるなのはの前で、ハンマーの金属塊のやや下から、何かが飛び出してきました。アレこそが力の放出の原因だと推察したなのはは、直後、更に驚きました。

 

「ラケーテンフォルム!」

《Raketenhammer》

 

 音声が聞こえ、ハンマー後部から凄まじい勢いで魔力が噴射されました。強い推進力を得て、ヴィータは回転する勢いも味方につけ、突撃を仕掛けてきました。

 

 なのはは息を呑み、それを受け止めるべく構えていましたが、その得体の知れない力に若干不安を抱きます。が、今まで理不尽な力を誇ったなのはです。ちょっとやそっとではシールドを打ち砕くことなどできやしないでしょう。

 

 そう、高をくくっていたのがまずかったのでしょうか。

 バリアはものの数秒で砕かれ、危ういところで避けたなのはは、しかしレイジングハートに過負荷を与えてしまい、

 

《System Error.》

 

 宝石が光を瞬かせています。このまま負荷を与え続けると破損の恐れがあると警告していました。

 

 いかん、となのはは焦ります。レイジングハートに無理をさせすぎると魔法が使えなくなってしまいます。かと言って、今の状態ではロクに戦うこともできません。

 じゃあ素手で戦えばいいじゃねーか、と思われるかもしれませんが、

 

「そんなことできるわけないだろう、常識的に考えて」

 

 常識を説かれました。何のための訓練だったんでしょう。

 

 再度アイゼンというハンマーを振りかざす少女を前に、なのはは言いました。

 

「防御できないなら避ければ良いね?」

 

 それができたら苦労はしません。

 猛追してくるヴィータに、万全の状態とは言い難いなのはは避けられるか微妙でした。

 

 

 

 

 

 が、それが届く前に、

 

「サンダー・スマッシャー……ッ!!」

 

 落雷が生じました。

 

 

 

 

 

 聞き覚えのある声。ふわり、と降り立つ少女の背中。

 

 なのはは呆れるように肩をすくめ、しかしどこか嬉しげに顔を緩めます。

 

 その少女―――フェイトは振り向きました。

 何故か涙目で。

 

「なのはー! 宿題が終わらないよー!」

 

 幻聴がリアルになりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   A’s編

 

   第二話 再会なんてこんなんです

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふむ、色々言いたいことはあるが、まず最初に言っておこうか」

 

 腕組みしていたなのはは、どこか嬉しげに、降り立ったフェイトに微笑みます。

 

「久しぶりだね、フェイト(・・・・)。変わらぬ君の姿がとても嬉しく思う」

「! う、うんっ! ボクもだよなのは!」

 

 感極まった様になのはへ飛びつこうとするフェイト。感動の再会です。

 

 が、その直前、なのはが手を伸ばし、頭をガシッ!と掴みました。

 

「だが貴様……私との約束をすっかり忘れているようだね? ん? 君の頭はカボチャかね? 三日経つと忘れてしまうのかね? ん?」

「イダダダダダダッ!! やめてなのはっ! ゴメンボクが悪かったからぁーっ!!」

 

 しかしどこか嬉しそうなフェイトです。だんだん毒されていっております。嘆かわしい話です。

 

「まぁ、君の幸せそうなアホ面を見ていたらどうでも良くなってしまった。ともあれ、助太刀感謝するよ」

 

 視線を動かし、いつの間にかフェイトの後ろに来ていた女性に目を向けます。

 

「アルフ君か。面倒をかけるね」

「フェイトのためだからね。手は貸すよ」

 

 人の良い笑みを浮かべ、アルフは頼もしげに胸を張りました。

 

 なのはは満足げに頷き、……後ろに浮かんでいた獣に気づきました。

 

「おやユーノ君、いたのかね。存在感がなかったからまったく気づかなかったよハハハ」

「ひどいよなのは! せっかく助けに来たのに、空気扱いなんて!」

「ユーノ君、勘違いしてもらっては困る。……空気は騒がないのだよ?」

 

 空気以下でした。

 ユーノは真剣に泣きたくなりました。

 

「まぁともあれ、久々の再会を祝うのは後回しにしよう。あそこの小娘をどうにかせねばな」

「なのはは休んでなよ、ボクがやる」

 

 意気揚々に挑みかかるフェイト。

 

 大丈夫なのか……そこはかとない不安を抱くなのはですが、レイジングハートが故障している今、空を自由自在に飛び回れる敵に対し、空中に浮かぶのが精いっぱいのなのはに戦う術はありません。もし地上だったら鉄パイプを武器に戦えたかもしれません。絵面としては最悪でしょう。

 

 代わるようにユーノが近くにやってきました。

 

「なのは。手を出して」

「虐めて欲しいのかね?」

「なんでそうなるの!? 手怪我してるでしょ、治してあげるから出しなよ!」

「君が私の至近距離に入る時は大抵君が被虐精神を解放している時だと思っていたが」

 

 ユーノは姿を人間に変え、無言で治療を開始しました。

 チッ、となのはが舌打ちしたのは気のせいかもしれませんがそれは神のみぞ知る話です。つまりなのはだけでした。

 

 一方、フェイトの接近に身構えていたヴィータは、その光景に呆気に取られました。

 

「な……! フェレットが人間になっただと!?」

 

 僅かに動揺が生じました。

 

(どういうことだ……アイツ、実は人間だったってことなのかよ!? いや、でも待てよ、使い魔って可能性は十分ある。けどさっきまでのアイツはちょっとアレだがどう見てもフェレットだった。けれど今のアイツはどっからどう見ても人間だ。使い魔じゃないとしたら、フェレットか? いや、これは恐らくは擬人化ってヤツだ。日本人は未来に生きてるから自分のペットを人間にすることさえ可能にするという。これまさに日本神秘の力。ん、そうするとアタシはペットと戦うことになんのか? いや、でも今のあいつは人間だ。どういうことだ……アイツ、実は人間だったってこと―――)

 

 以下ループで。

 そのうち考えるのを止めたヴィータは、すぐ目の前に浮かぶフェイトに反応が遅れました。

 

「おい」

 

 フェイトがバルディッシュを突き付け、真剣な目を向けました。

 

「ここではみかん人への攻撃は禁止されているんだぞ」

「民間人だろ?」

「…………」

「…………」

「管理法違反でオマエを逮捕してやる……!」

 

 なかったことにしました。

 

 瞬時に加速するフェイトのスピードに驚いたヴィータは、僅かに思考が飛びました。

 

 慌ててハンマーを斜めに構え、柄の部分で受け止めます。

 舌打ち一つ。フェイトとは別方向から来るアルフを視界に収めたヴィータは、長身の利点を生かし、小柄なフェイトを蹴り飛ばし、振り向きざまに横スイング。アルフは突きだす拳で迎撃します。

 

 衝撃。ハンマーが拳で受け止められるも、勢いに負けてアルフが引き下がります。

 

(くっ……管理局め、時間がないってのに!)

 

 忌々しげに敵を見つめるヴィータの顔に、徐々に焦りが強く浮き出ていました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方。

 モニターで観察、もとい監視していたアースラ一同は、フェイトたちに指示を飛ばしながら、ヴィータの放つ魔法に注視していました。

 

「よっしゃ、隙があったらバインドで拘束しろ!」

『はははクロノ君、久しぶりだが自分の趣味を他人に押し付けるのはよくないと思うよ?』

「いいからとっとと捕まえろォオオオオオオオオオオッ!!」

 

 挨拶もそこそこに平常運転するなのはにクロノは絶叫。

 

 その傍ら、リンディとエイミィはヴィータの動きに注目しています。

 というより、見たことのない魔法陣に関心がいっている様子でした。

 

「艦長、見ました?」

「ええ、エイミィ。分かってるわ」

「あの子、……白ですね?」

「ええ、純白――ってそうじゃないでしょうが!」

 

 艦長がボケた……! と感動するアースラ一同。ついでに合掌しました。

 

「見たことない魔法陣ですね。ミッドチルダ式とは違うみたいですけど」

「何か、彼女には秘密がありそうね……」

 

 考え込んでいると、状況に変化が生じました。

 バインドでヴィータを拘束して悦んで……ではなく、喜んでいたクロノですが、突如何者かが介入してくると眉を潜めました。

 

 増援か? というアースラ一同の嫌な予感は、的中しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 フェイトは横から飛び込んだ影に突き飛ばされ、やや離れたところで体制を整えました。

 影は二つ。一つは女性で、もう一つは男性です。

 

 女性の方が、なのはによって弾かれた帽子を拾い上げ、ヴィータに手渡しました。

 

「チッ、どこで油売ってたんだよオメェら」

「そう言うな。これでも急いで来たのだぞ」

「お前が倒れると主が心配する。あまり無茶をするなよ」

 

 仲間なのでしょう、介入して来た二人は、ヴィータの傍に立ちました。

 

「お前ら、そいつの仲間か?」

 

 その問いに、二人は答えました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私は守護騎士、烈火の剣士・シグナムだ」

 

 と、120cmにも満たない非常に小さい少女は名乗り、

 

「……盾の守護獣・ザフィーラだ」

 

 と、筋骨隆々ガチ☆ムチ☆クマーな青年はフェイトをガン見しながら名乗りを上げました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シグナムは腰元から一本の剣を引き抜き、ザフィーラは拳を構えました。

 

「ザフィーラ、あの金髪は私がやる。お前はあっちの使い魔を頼む」

「ふむ……ババアの相手などしたくはないのだが、致し方あるまい」

 

 アルフはブチ切れました。

 

「んだとコラァ! まだアタシは○歳だぁーっ!!」

「馬鹿め! 幼女と認められるのは最低1hyde以下だ……!」

 

 キリッとした顔で言っていますが、ザフィーラの落ち着いた巌のような雰囲気や精悍な顔立ちといったプラス要素を今の一瞬で全てマイナスまでもっていきました。

 

 キレたアルフの猛攻を防ぎながら、ザフィーラは場所を変えるべく離れて行きます。さすがに多人数で戦うのは不利と踏んだのでしょう。それでもきちんと見える位置で戦う辺り、仲間を心配しているのでしょうか、それともただ単に戦う少女らをこの目で拝まんとする紳士の真摯な意識の表れでしょうか。真相は皆さんの心の中に(お

 

 シグナムは敵を見定めるように睨み、愛剣を手に力を解放します。

 

「行くぞ、レヴァンティン!」

 

 剣を構えました。

 ……構えましたが、背丈に合わせて作ったのか、爪楊枝を持っているようにしか見えません。

 

「参る……!」

 

 勢いよく突撃してきました。

 

「……、よいしょっと」

 

 フェイトはバルディッシュをまっすぐ構え、シグナムの額を押さえました。

 シグナムは腕をぐるぐる回しながら前に進もうとしますが、当然前に行けません。

 

「コノヤロコノヤロ!」

「…………」

「コノヤロコノヤロ!」

「…………」

「はぁ、はぁ……」

 

 疲れたのか、下がって肩で息をするシグナム。

 やがて息を整えたシグナムは、仕方なそうに言いました。

 

「……きょ、今日はこのぐらいで勘弁してやるでござる」

 

 涙目でした。

 

「コイツ馬鹿だっ!」

 

 今、世界中で『お前が言うな!』という突っ込みが生まれました。

 

「無礼な、貴様に言われたくない! アホの子みたいな顔して!」

「ボクはアホじゃないやいっ!」

「じゃあ馬鹿だ、馬鹿でござる!」

「ボ、ボクは馬鹿じゃないやいっ!」

 

 反論しますが無駄な抵抗でした。

 例えるなら人一人が必死に叫んだところで読売ジャイ○ンツが優勝するわけではないということです。失礼しました。

 

 気を取り直し、シグナムはレヴァンティンを今一度構えました。

 

「レヴァンティン、カートリッジロード!」

 

 何かが来る、と悟ったフェイトは、思わず身を強張らせます。

 すると、レヴァンティンの柄付近で、何かが動き―――

 

 

 

 

 

 バシュッ ボンッ!

 

 

 

 

 

 煙が吹き出ました。

 

「…………」

「…………」

「…………」

「…………どうしたんだ?」

 

 フェイトが恐る恐る尋ねると、シグナムはレヴァンティンを覗きこみ、ややあってから顔を上げ、晴れやかな顔で言いました。

 

「ジャムったでござる」

 

 フェイトは攻撃を開始しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、ザフィーラとアルフはというと、

 

「管理局はあんな幼女を侍らせているのか……このロリコンどもめ!」

「アンタが言うかぁああああああああッ!」

「否、俺はロリコンではない! ロリコンだとしても、ロリコンという名前の守護獣なり……!」

「ロリコンは死ねぇぇええええええええええええええッ!!」

 

 まだやってました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃。

 白金の髪を持つ女性、シャマルは、公衆電話で自宅に電話をかけていました。

 

「もしもし、はやてちゃん?」

『む、シャマルか。どうした、帰りが遅いではないか』

「ええ、ちょっと頼まれていた本……じゃなかった、オカズが見当たらなくて」

『ほほう。そのオカズとやらは一体何か申してみよ』

「あらやだはやてちゃんったら! こんな公衆の面前で痴態を晒せだなんて……素敵!!」

『いいからとっとと戻ってこんかぁあああああっ!』

「えー!? まだ良いオカズ買ってないから帰れませんよ!」

『食材だけ買えェエェェエエエエエエエエーッ!!!』

 

 耳をつんざくはやての声に、まぁまぁ、と落ち着かせるようにシャマルは言います。誰のせいだと思ってるんでしょうか。

 

「皆を連れて帰りますから、もうちょっとだけ待ってて下さい」

 

 通話を終え、シャマルは一息つくと、結界の内部へ意識を向けます。

 

 と、視界の隅に一人の少年の姿が映りました。

 

「おっとこんなところに美少年が……ゴクリ」

 

 思わず生唾を呑んだシャマルですが、ここはぐっと我慢です。

 

 光が全身を包み、フェイトたちが戦う戦場を見つめながら、ヴィータたちと同じ衣装――騎士服を身に纏いました。

 

「あー、早く帰って新刊読みたいなぁ。ドゥフフwwwwwおっとよだれが……」

 

 見目麗しい女性が薄気味悪い笑みを浮かべる姿はどこまでも不気味でした。

 

 

 

 

 

 フェイトは思った以上に苦戦しておりました。手を抜いてたからとか、油断していたからだとか、無駄に長い技名を大声で叫んでるからだとか、全部該当しているからとか、色々推察できますが、シグナムの振るう剣の威力に顔をしかめて後退を余儀なくされます。調子に乗ると痛い目に遭うというのをなのはで学ばなかったんですかね。

 

 一度距離をとると、シグナムは冷静な顔を崩さず……まぁ汗だくで肩で息してますが、いつもの無愛想な顔のまま問いました。

 

「一つ問うが、あやつは貴様にとって、家族か何かなのか?」

「あ、あいつはボクにとって、その……大事な……」

「大事な?」

「…………」

 

 ポッ

 

「と、友達なんですっ!」

 

 何故か敬語でした。

 

「え、そうなの?」

 

 当然の疑問でした。

 思わず素で返してしまったシグナムでした。

 

「そ、そうなんだよっ! ボクとなのはは仲良しなんだぞっ! な、仲がいい……と思うよ! 思ってるんだからなっ!」

 

 ちょっと自信を無くしてました。

 

 まぁ今まで戦ってばっかで仲良く会話したことなど数えるくらいしかないほど友好を育む時間がなかったので仕方ないのですが、言ってて不安になったフェイトは、ついなのはの方を向いてしまいました。

 

 すると、

 

「ははは喰らうがいいスチール缶を撃ち抜くなのはパンチを……!」

「ちょっとなのは狙いが荒いよってか僕に当たぎゃあああああああッ!」

「テメェ自分の味方倒してどーすんだ!?」

「はて、何のことかね? 私は私の味方、あとは知らない。さぁ邪魔な障害物は取り除いたぞフフフかかってきたまえ……!」

「こいつ……!」

 

 ステゴロで特攻を仕掛ける少女がいました。

 

 フェイトとシグナムは無言で顔を見あわせると、

 

「こちらにも事情があるでござる。悪いが負けるわけにはいかんのだ!」

「ボクだって、負けられないんだ!」

 

 見なかったことにしました。

 

 

 

 

 

 で、素手でも互角な勝負に持ち込める……なんて甘い話があるわけがなく、なのはは次第に追い詰められていきます。

 

「くそっ、こんなことなら、徹夜でオメガ13Zを開発しておくんだった……!」

 

 勇者王みたいな声で言わないで下さい。

 

 と、隙を見たヴィータがすかさず殴りかかってきます。

 

「危ないなのは!」

 

 それを見たユーノは、手助けすべく駆けだしますが……

 

 

 ※現在の位置関係を分かりやすく表示いたします。

 

 

 

 

 

                                 なのは

                             ヴィータ

 

 

 

      → ユーノ 

 

 

 

 遠っ!!!

 

 何故こんなに離れているんでしょうか。絶対こやつなのはを怖れて遠巻きに眺めていたに違いありませんね。

 

 当たり前のように間に合いませんので、最初からユーノを戦力としてカウントしてなかったなのはは当然の如く彼を無視し、守りの体勢に入っておりますが、大破寸前のレイジングハートでは完全に防ぎきることはできません。

 

 しまいにはレイジングハートに亀裂が入り、杖が真っ二つに折れてしまいました。

 

「Oh……」

 

 外人風のリアクションでした。

 

 無防備になったなのはに、振り下ろされたラケーテンハンマーは防ぐことができず、

 

「くらえぇえぇえええええええーッ!」

 

 直撃しました。

 

 爆発が上がり、煙を引いてなのはは地上に落ちていきます。路上に叩きつけられ、奮迅を巻き上げたのを確認したヴィータは、安堵の息をつこうとしますが、

 

「何……!?」

 

 煙が晴れてくると、予想外の結果に驚きました。

 

「危ないところだった……ユーノ君がいなければ即死コースだったろうね?」

 

 腹の上で大腸菌よろしくピクピク震えているユーノはこう思っていました。ああ、近いうち生命保険入ろう、と。

 

 なのははゆっくり立ち上がろうとします。が、思った以上にダメージが入ったらしく、尻もちをついてしまいました。

 

 ヴィータは無言でなのはの前に降り立ちました。

 

「貴様……これ以上ユーノ君を傷つけることは許さんぞ!」

 

 突っ込みどころ満載の台詞でした。

 

 これ以上コイツと話すと頭が弱くなると判断したのでしょうか、何も言わずに虚空から引っ張り出した一冊の本を突き付けました。

 ゆっくりとページが捲られていき、同時に、力の抜けていく感覚に首を傾げます。

 

「む?」

 

 なんか変だな? とでも言いたげな顔でした。それだけでした。

 

 が、急速に力が抜けていく感覚に、思わず意識を手放しかけました。

 

 しかしその寸前、本のページに文字が描かれていくのを見て、

 

(これは……)

 

 何かを思い、そして気を失いました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 結界が崩れ、守護騎士らは散開し、姿を消しました。

 

 フェイトたちは追跡を試みるよりも、倒れたなのはを優先したため、結局何者か判明しないまま、帰還することになりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 町のある一角。

 路地の一つに身を隠すように、一人の女性がいました。

 

 塀に体重を預けて待っていると、散ったはずのヴィータ達が現れました。作戦は概ね成功でしたが、ヴィータの顔は晴れておりません。

 

「シャマル。オメェ、なんで遅れて来たんだよ。何かあったのか?」

「ええ。ちょっと人生と言う名の道に迷ってて」

「だったら右手の本は何だ」

 

 おっと、とシャマルは素早く隠蔽しますが手遅れでした。

 

「しっかりしろよ。オメェがもうちょい手早くやってりゃ手こずらずに済んだってのに」

「ごめんなさいね。せめてヴィータちゃんと戦ってた美少年とイチャイチャできたならもっとやる気がビンビンだったのだけどねぇデュフフwwwwwwおっと失礼よだれが」

「キメェな妄想してじゃねぇ」

 

 アイゼンで頭を叩きました。シャマルは恍惚の笑みを浮かべたまま撃沈しました。

 

 ヴィータは無視。腕組みして黙っていたザフィーラと眼が合いました。

 

「お前もだ、ザフィーラ。あんな犬ッコロ相手、どうにかできたんじゃねぇのか?」

「ああ、相手がBBAだったから本気出なかった。明日から本気出す」

「おいシグナム。アレをどうにかしろ」

「分かった。ザフィーラ、……めっ!」

 

 そんだけかよ、とヴィータは思いましたが、突如ザフィーラは痙攣し始めて卒倒しました。余程怖かったのでしょう。何が彼をそこまで追い詰めたのか知る由はありませんし知りたくもないヴィータでした。

 

 はぁ、とため息をつきます。

 

「こんなんで蒐集終わんのか……?」

「ヴィータ、ガッツでござる。次頑張ればよかろう」

「うっせぇテメェもだ馬鹿野郎。とっとと帰るぞ、はやてが心配する」

 

 転がる二人の襟首を掴み、ヴィータとシグナムは帰路へ着きました。

 

 

 

 

 




以上です。

次はもう少し早めに更新したいと思っておりますが……どうなることやら。

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