魔法少女が許されるのは15歳までだと思うのだが   作:神凪響姫

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投稿できなかったので一日あいてしまいました。


もうしばらくしたら投稿ペースが落ちるかもしれませんが、今のところは毎日一話くらいずつ投稿していきます。


第12話 全力を尽くしましょう

     

 

 

 

 

 

 

   第12話 全力を尽くしましょう

 

 

 

 

 

 

 

 

 帰還後。

 当たり前のように怒られました。

 

「オマエなぁ……! あんだけ偉そうなこと言っておいてジュエルシード全部ブン盗られてんじゃねぇーよ!」

「ごめんなさいと言わせて頂こう」

 

 ふんぞり返って言うセリフではありません。

 

「む。何か不満でも? 悪いと思っているからこうしてきちんと頭を下げているだろう?」

「ええ、そうね。……ふんぞり返ってる分だけ頭下がってるから」

 

 しかもまったく反省が見られません。

 

 ユーノは少しは責任を感じているようですが、主犯が肩で風を切ってる状態なので如何ともしがたい今日この頃です。

 

「許して……くれないの……?」

 

 心なしか、不安そうに上目づかいをするなのは。

 

 それを見たアースラ一同はこう思いました。

 

 

 

(((こやつ……許さなければ我々をデストロイする気だ……!)))

 

 

 

 背後で黒い悪魔のような影がうすら笑いしている気がするのは錯覚ではないでしょう。

 

「はぁ……。まぁいいわ、今回のことに関しては目を瞑っておいてあげる」

 

 止むを得ず、リンディの方が折れました。

 

(ふ。御しやすいものよ……!)

 

 醜悪な笑みを晒そうとしましたが思いとどまりました。

 なのはは驚いたように言いました。

 

「リンディ艦長……私は貴女のことを誤解していたようだ。これほど寛容な方だとは……見た目は小さいが懐は大きいのだね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、なのはァアアアアアアアアアアッ!」

「すげぇ、アイツ壁にめり込んでるぞ……!」

 

 口は災いの元でした。

 

 

 

 

 

 

 五分後。

 

「……して、今後はどういった方針で?」

 

 何事もなかったかのようになのはは言いました。

 その背後の壁はしっかりと人型の穴が空いていますが最早マリーラ○ドの住人が来ても誰も気に留めることはないでしょう。

 

「そうね。何はともあれ、作戦会議ね」

「そうだな。とりあえず焼き鳥でも用意すっか?」

「酒も用意しないとねー」

「私は焼き肉が良いのだが」

「宴会するんじゃないのよ!」

 

 リンディの額に青筋が浮かんでいたので三人は自重しました。

 

「しかし艦長。私が言うのもなんだが、手がかりが何もないのでは向こうの出方を窺うしかないと思うぞ?」

「大丈夫よ。こんなこともあろうかと、潜伏場所をつきとめるよう指示しておいたから」

 

 流石艦長、抜け目がありません。

 

 が、

 

「艦長。さっき自分で計器類が破損して追跡できないって言ったばかりじゃないですか」

「あらら」

「ははは、艦長もお茶目だね?」

「うふふ、もうなのはちゃんったら」

 

 なんとも危機感のない人たちでした。

 ユーノが突っ込もうか否か考えてますが、常識人ぶっても何もかも手遅れです。

 

「安心しろよ艦長。転移先は分からなかったけどよ、バックに控えてそうな奴を見つけたぜ」

 

 大変珍しいことに、クロノが役に立っていました。

 

「珍しいものだ、クロノ君が役立つとは」

「おい、オメェひょっとして二回くらい失礼なこと思わなかったか?」

 

 なのははそっぽを向きました。

 

「クロノ。調べたことをモニターに出して頂戴」

「ああ、もちろんだ。おいエイミィ」

「はいはい」

 

 すると、モニターにある画像が表示されました。

 

 縄で縛られて悶えているクロノの映像でした。

 

「あ、間違えちゃった」

「おいィイイイ! いつの間にこんなん撮ったんだ! とっとと消せェエエエエエエエ!」

「今回の黒幕と思しき人物のデータを出します」

「無視すんなァアアアアアアアアアッ!!」

 

 もう日常風景と化したやり取りをスルーしつつ、モニターに出た人物……黒紫色の髪をした女性を見ました。

 

「名前はプレシア・テスタロッサ。専門は、次元航行エネルギーの開発。ミッドでは偉大な魔導師の一人だったのですけど、違法研究とある事故を起こしてから行方不明になっています。

 あとなんかファッションデザイナーとかやってたみたい」

「今はそれは関係ねぇだろ」

 

 そうだね、とエイミィは言いました。

 

 なのはは無言で話を聞いています。

 

 

 

 クロノやエイミィが色々調べたようですが、今の彼女らの目的に関しては、まったく分かりませんでした。

 

「今分かってるのはこれくらいかしら?」

「まぁ、素性が割れただけでも上等ってことにしといてくれや。これ以上調べようにも、最近の情報まったくねぇし、家族構成も詳細データはほとんど末梢されてらァ。本局に問い合わせくらいはしたけどよ、そもそもこれからは、アースラの修理やシールド強化にも時間割かなきゃいけねぇからな」

「そうね。……なのはちゃん、ユーノ君。申し訳ないんだけれど、ひとまず帰宅許可を出すわ。今のうちに休暇をとって、親御さんのところに行ったらどうかしら?」

 

 傍観していたなのはに目を向けました。

 

「ほう。こちらとしては有難いが、そんなに悠長なことを言っていても平気かね?」

「他にやるべきことがないからね。それに、今後は休暇をとる時間もないだろうし、いいんじゃない?」

 

 エイミィの言うこともご尤もですので、なのはは、ふむ、と頷いてから、

 

「ではそうしよう。ユーノ君、帰るよ?」

「なのは、最近思うんだけど、僕の存在って必要なのかな……」

 

 何故かしょげているユーノがいました。

 どうも最近の影の薄さを嘆いているようです。

 

「安心たまえよ。ユーノ君の存在は名探偵コ○ンのネクストコ○ンズヒントのコーナーくらい重要だ」

「あれってそんな重要性ないよね!?」

 

 ユーノの叫びがこだましました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ピシャッ! と、鞭で肉体を叩く音が響き渡りました。

 

「フェイト。あれだけ時間をあげたのに、たったこれだけしか集めてこれなかったの?」

「か、母さん……」

 

 パァン!

 

「ひどいわフェイト……あなたはそんなに母さんを悲しませたいの?」

「でもボクは、うわぁっ!!」

 

 バシッ!

 

「口答えするの? いつからそんな子になったの……!」

「うく……っ!」

 

 ビシィッ!

 

「なんとか言ったらどうなの!」

「ひぐぅッ!」

 

 

 

 

 

 

「……何やってるのかしら、フェイト。それにアルフも」

 

 額を押さえながら、呆れたようにプレシアは言いました。

 

「いや。暇だったから、『もし母さんが性悪ババアだった時はきっとこんな感じで怒られるんだろうな』ごっこを」

「あたしゃこんな遊びツマンナイって言ったんだけどねぇ」

「やめなさい、今すぐに」

 

 はーい、と素直に従うフェイトとアルフ。

 ……やけに人形がリアルで凝ってるな、とプレシアはどうでもいい感想を抱きました。

 

「それで、フェイト。ジュエルシードは手に入ったの?」

「うん! アルフが六個もとってきてくれたんだよ!」

 

 嬉しそうに報告するフェイトに、プレシアはほんの僅かに笑みを作りました。

 

「アルフ、ジュエルシードを頂戴な」

「……ああ」

 

 若干不満げな顔をしたアルフは、やや躊躇ってから引き渡しました。

 元々、アルフはある事情から、プレシアと反りが合わないのです。

 その理由は、間違いなくフェイトのことでした。

 

(フェイトはアンタの都合のよい人形じゃないってのに……!)

 

 しかし、フェイトの望みはアルフの望みです。

 だから嫌々ながらも、ジュエルシードを渡しました。

 

「……これでアルハザードへまた一歩、近づいたわ」

 

 小さく呟きながら、自分の部屋へと戻っていくプレシア。

 

 アルフはそんなプレシアに、不快な感情を隠せませんでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 地下で一人、ジュエルシードを眺めるプレシアは、誰にも見せたことのない、不安な表情を浮かべました。

 

「もう、時間がないの……やるしかないわ。今こそアルハザードへ」

 

 多くのジュエルシードを手中に収めたとはいえ、まだ不完全でした。

 

 それでも、プレシアの決意は揺るぎませんでした。

 

 

 

 と、背後から何かの気配が近づくのを察知しました。

 

 

 

 プレシアはバリアを展開しますが、それを軽々突き破って現れたのは、怒りの表情を浮かべる、アルフでした。

 

「……何かしら、アルフ」

 

 顔色一つ変えないプレシアに、ますますアルフの怒りは募ります。

 

「もう、見てらんないんだよ……アンタの人形のままじゃ、あの子は幸せになんてなれない!」

「……だからあの子を連れていく、とでも?」

 

 無言で構えるアルフ。

 それが答えでした。

 

 そして、プレシアもまた、無言のまま、魔法を紡ぎました。

 

 視認不可能な速度で飛来した黒い光弾が直撃しました。腹から空気を吐き出す苦悶の声がし、吹き飛ばされたアルフは、自分を見下すように立つプレシアと目が合いました。

 

 ヤバい

 

 確信したアルフは、心の中で自分の主に謝罪しながらも、転移を開始しました。

 

 それを興味なさげに見ていたプレシアは、自室に控えているであろうフェイトに念話を飛ばします。

 

「フェイト、聞こえてるかしら?」

『! 母さん……』

「ジュエルシードをあと数個、確保してきて頂戴。それも早急にね」

『けど、アルフがまだ……』

「アルフなら逃げたわ」

 

 その言葉に、息をのむ気配が伝わってきましたが、何故そうなったかも説明せず、プレシアはフェイトの反応を待ちました。

 

 ややあって、分かったよ、と返答し、フェイトは念話を切りました。

 

「もうすぐ叶うのね、やっと……」

 

 待ち望んでいた日が来る……そう思えば、顔もほころぶというものです。

 間もなく来るであろう待ち焦がれた日に思いを馳せながら、プレシアは静かに嗤うのでした。

 

 

 

 

 

 

 どうでもいいですが、静かに佇むプレシアは太腿が眩しいミニスカでしたがフェイトもアルフも突っ込みを入れませんでした。

 

 

 

 

 

 

 息をつく暇もないとは、まさに今のフェイトの状況を指すのでしょう。

 

 ジュエルシードを奪取すべく、フェイトは飛び立ちました。

 

「母さん……ボクは、」

 

 母のために戦う。それに異論はありません。例えアルフがいなくても、最後までやり遂げる。その思いに嘘偽りはなく、今もその心は不動のままです。

 

 だというのに、

 

『君の力になりたいのだよ。私はね』

 

 その言葉が、どうしても忘れられませんでした。

 

 ……続くその後の言葉は綺麗さっぱり忘れている辺り、さすがフェイトと言うべきでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。

 

 久しぶりに学校へ行くことになったなのはですが、その顔はどこか晴れません。無理もないでしょう。まだ何も解決していないというのに、日常を満喫できるものでしょうか。こうしている間にも、フェイトがどこかで戦っている……そう思うと夜も眠れず不安も顔に出るのも止むなしといったところでしょう。アリサやすずかが前々から心配そうに見つめていたしたが、ここ数日のなのはの欠席が更に不安を煽るのでした。それでも二人は親友を信じていますので、アリサは自分に対して話してくれないことに怒りながらも、すずかも少しだけ寂寥感を抱きながらも、親友がいつも通り明るく元気になってくれると信じて待つのでした。

 

 ……という感じだったら実に美しい話なのですが、生憎ここにおわすは外道を突き進む現人神なので、学校に来るなり、

 

「おはよう、アリサちゃん! すずかちゃん!」

 

 さわやかに挨拶をかますのでした。

 あれ私たちの心配って無意味だったんじゃ? という顔をするアリサとすずかですが、それは常人のリアクションなので問題ないでしょう。

 

「なのは。何かいいことでもあったの?」

 

 アリサは尋ねますが、なのはは嬉しそうに答えます。

 

「お外でいっぱいしたらスッキリしただけなの~」

 

 担任が驚異的なモノを見る眼を向けましたが、アリサは『運動でもして気分転換でもしたのかしら?』と順当な結論を出し、すずかは『なのはちゃんが元気になったらそれでいいや』と嬉しそうに笑いました。

 どんだけ人間ができてるんでしょうねこの子たちは。

 

 

 

「そういえば、昨日ウチの近くで犬を見つけたのよ」

 

 お昼になってお弁当をつまんでいると、ふと思い出したかのようにアリサが言いました。

 

「へぇー、どんなの?」

「オレンジ色の毛並みの、大きな犬なんだけど、なんだか怪我してたみたいだから、ウチでちょっとお世話することにしたのよ。なんだか元気なくってね。一応手当はしてあげたんだけど……」

 

 オレンジ色の大型犬と聞いて、なのはが鋭く反応しました。

 

「アリサちゃん、その子見たいんだけど、いいかな?」

 

 珍しく積極的な姿勢のなのはに、二人はキョトンとして顔をしています。

 

「いいけれど、どうしたのよなのは? 珍しいじゃない」

「うん。なんか気になっちゃって」

 

 にこり、と笑うなのはですが、その横顔が何かよからぬことを企んで嗤っているようにしか見えませんでした。

 

 

 

 放課後。

 

 アリサの家へやって来ると、案の定、檻の中で静かに眠っていたのは、橙色の毛を持つ獣―――アルフでした。

 

『やはり君だったか』

 

 なのはの声に身を起こしたアルフは、唸り声を上げました。

 が、怪我をしているせいか、どこか覇気がありません。

 

『……何しに来たんだい? アタシを笑いにでも来たか?』

『そうだ。ふはは檻の中にケダモノがいるでな……!?』

『この野郎……!』

『ノンノン、私は生物学的に女なので女郎というのが正しい言い方だよ?』

 

 あまりのウザさにアルフは一瞬で高血圧になりましたが貧血気味なので倒れそうになりました。

 

『冗談だから安心したまえ。私が来たのは、何故君「一人で」ここにいるのか問い質しにきたわけだよ』

『……管理局の連中もいるんかい?』

 

 なのはは無言で頷きます。

 

「……なのは、どうしたの? 頷いたりなんかして」

 

 アリサが不審な目を向けてきますが、なのはは冷静に対処しました。

 

「なんでもないよ。もうちょっとこの子見て行きたいから、アリサちゃんとすずかちゃんは先行っててくれる?」

 

 どこか有無を言わさない雰囲気のなのはに、アリサは首を傾げていますが、まぁ珍しい犬種なのでなのはも興味が湧いたのだろうと推察すると、すずかと一緒に家の中へ入って行きました。

 

「クロノ君。見ているのだろう? とっとと返事をしたまえ」

 

 すると、すぐ横に以前見たようなタイプの映像が浮かびました。

 

『おいおい、いきなり虚空に向かって話しかけんなよ、変な奴だと思われるぜ? つーか見られたら俺まで変な奴だと思われるじゃねぇか』

「案ずるなクロノ君。もしかしたらそれがきっかけとなって彼女らとフラグが立つかもしれんよ?」

『マジで!? 災い転じて巫女とナース!?』

 

 意味が分かりません。

 勿論そんな可能性は皆無どころか絶無ですが。

 

「して、アルフ君とやら。できれば事情を話して欲しいのだがね? 何故君がここにいるのか、あの少女がジュエルシードを集めるのに躍起になっているのかを」

「僕らは別にあの子に危害を加えたくてここにいるんじゃない。ただこれ以上、争うのは嫌なんだよ」

『まぁ、色々面倒な事情とかあるかもしんねぇけど、悪いようにはしねぇから安心しとけ』

 

 悪人・変態・ドMが口々に言いました。

 信憑性の無さもここまでいくと清々しいでしょう。

 

「……分かった。話すよ」

 

 この外道連中に話してしまうくらい追い詰められている、それだけは確かでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。

 なのはとユーノは、早朝の道を走っておりました。

 

 まだ朝日が顔を出していない時間帯ゆえ、人気は皆無です。

 

 そんな道を、急げや急げと焦らんばかりに足を前へ踏み出します。

 

 

 

『……成程。事情は分かった。何企んでるかイマイチ分からねーが、こないだのアースラへの攻撃だけでも逮捕状が出るだろうぜ。プレシアがとっ捕まるのも時間の問題かねぇ』

「しかし、問題が一つ残っているだろう」

 

 なのはが言うまでもありません。

 フェイトのことです。

 

「彼女は多分、こっちのジュエルシードを欲してるはずだ。だから近いうち、僕らの前に現れる……」

「だがこちらが一方的に待つのは時間の浪費だよ」

 

 じゃあどうするの? と言いたげなユーノの前で、なのはは懐から何かを取り出しました。

 白い便せんです。

 

「アルフ君。これを是非フェイト君に届けてはくれまいか?」

「いいけど……どうすんだい?」

 

 なのははニヤリ、と笑いました。

 彼女らしい、不敵な笑みでした。

 

「果たし状だよ」

 

 

 

「……まったく。なのはが突飛なことするのは慣れたと思ってたけど、実はそうでもなかったんだなぁ」

「ははは、何を言うかね。人間刺激を忘れては怠惰な人生に埋没するだけだよ? その点私の傍なら少なくとも退屈はしない。最高だね?」

「僕は最悪の気分だよ……」

 

 沈鬱な表情のユーノでした。頑張れ明日はもっといいことがあるよ多分! 誰かがそう言っていた気がします。

 

 とん、と着地した音と、何かが走る音が聞こえてきました。それもすぐ隣から。

 見るまでもなく、獣姿のアルフでした。

 

「アルフ君。渡しておいてくれたかね?」

「ああ。けど大丈夫なのかい? フェイトはああ見えて結構意志が強いから、余程のことがないと自分の考えを変えないよ」

 

 アルフが懸念を示しますが、なのはは余裕を崩しません。

 

「何、やるべきことはすべて終えた。後は彼女が餌に食いつくのを待つばかりだよ」

「けどフェイトと戦うなんて……」

「私とて争い事は嫌いなのだがね」

 

 あるのは一方的な虐殺くらいなものでしょう。

 

「だが、やらねばなるまい。お互い譲れぬならば答えは一つだよ」

 

 そして、海岸付近の公園に辿り着きました。

 

 

 

 通信を行い、クロノに連絡を行います。

 

「クロノ君。手はずどおり頼むよ」

「ああ。任せとけ」

「分かってると思うが―――全裸になって注意をひきつけてくれたまえよ?」

「全裸の必要性ねぇだろ! ていうか俺の役目ちげぇだろうが!」

「そうだね」

 

 しれっと言うのでクロノのボルテージが上がっていきますが、彼は耐えました。

 

「すまない。苦労をかけるね」

「気にすんな。目的は同じなんだからよ」

「お詫びといってはなんだが肌色コスチュームを着たフィギアスケート選手の写真をくれてやろう薄目で見れば裸に見えるぞ?」

「いらねぇよそんなモン!」

 

 そんなやり取りから一時間後。

 

「来たか」

 

 ふわり、と。

 空から降り立った黒衣の少女が、静かに目を開きました。

 

「オマエか……こんな変な手紙寄こしたのは!」

 

 怒るフェイトは、先日なのはが送った手紙を開いて突きつけました。

 

 

 

 はじめてあってから

 たぶんきがついてた

 しかたないときめて

 じぶんにいいきかせ

 よるもねむれません

 うーぱーるーぱー

 

 

 

 こんな果たし状というか手紙が送られてきたら即刻捨てるべきでしょう。

 ついでに最後のブン投げ感がひどいです。

 

 フェイトはプンスカ怒りながら言いました。

 

「なんだよこれは! 解読するのに二日かかったじゃないか!」

 

 そんなにかかったんかい……物陰にて待機するユーノは心中で突っ込みました。

 

 しかしそれはそれこれはこれ、それがなのはのユスティニアヌス。細かいことなど気にしない彼女は首を振りました。

 

「ともあれ、君はそれを挑戦状と判断し、それを受理したからこそここにいる。違うかね?」

「……」

 

 フェイトは答えません。無言こそが肯定でした。

 

「フェイト、もうよそうよ。あんなヤツの言うことなんか聞く必要ないよ! 今ならまだ、」

「アルフ。前も言ったよね、ボクが為すべきこと……ボクだけが味方だから、やりたいと思うから。それに、ボクはあの人の娘だ。だから、最後までやり遂げる。絶対に」

「どうしてもかね? 今なら殴る蹴るに最適なサンドバッグ付きだが」

「ねぇなのは。そこでなんで僕を見るんだい?」

「ははは、勘違いしてもらっては困るねユーノ君。別に君を見たからと言って君がサンドバッグとは言っておらんよ?」

「そ、そうだよね! さすがのなのはもそんなひどいことしな」

「君は私の大事な―――盾なのだから」

 

 もうユーノは泣きませんでした。何故なら彼は強い子だからです。だけどたまには悲しくて挫けそうなときもあるのでした。

 

 そんな彼を当たり前のように無視して、なのはは一歩前へ出ます。

 

 アルフの説得も空しく、フェイトもバルディッシュを構えます。

 

「よかろう。最早語るまでも無い。互いのジュエルシードを賭けて、勝負といこうではないかね」

 

 まだ何も始まっていない、だからこそ、これからは、本当の自分を始めるために、……最後で最後の勝負をしよう。それがなのはの提案でした。

 

 ……本当の自分が表に出すぎて何言ってんのコイツら感がしますがそこは空気を読んでスルーする方向で一つ。

 

「分かった。正々堂々、一対一で勝負だ!」

「よかろう。かかってきたまえ!」

 

 戦いを始めるべく、なのはが大きく手を上げました。

 

 瞬間、林の中から影が飛び出しました。それも複数。

 

「「「「死ねぇええええええええええええええッ!」」」」

 

 全員殺気立ってました。

 特にクロノ辺りが。

 

「ひ、卑怯者ォオオオオオオオオオオオオオオっ!!」

 

 フェイトの悲鳴が上がりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 十分後。

 

「勝っちゃったんだけど」

「ですよねー」

 

 さして期待してなかったなのはでした。

 

 

 

 

 

 


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