魔法少女が許されるのは15歳までだと思うのだが   作:神凪響姫

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さて終わりが見えだした第11話でございます


第11話 相手を想いましょう

 

 

 その頃、高町家では。

 

「どこだ……俺の妹はどこだァアアアアアアアーッ!」

「恭ちゃん! いい加減諦めて!」

「まだだ……まだ俺は、自分を敗者と認めてはいない……!」

 

 まだやってました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   第11話 相手を想いましょう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なのはが協力を申し込んでから、既に十日が経過しました。

 

 既に多くのジュエルシードを確保し、残る6つの捜索を続けていました。

 

 アースラの面々のバックアップ、もとい、証拠隠滅が優秀だったからこそ、この手際の良さです。なのはが面倒くさがって辺りを焦土に変えてから捜索する焼畑作戦やら敵を容赦なく撃って撃って撃ちまくって疲弊したところにまた撃ってと悪逆の限りを尽くしてから回収する粉砕玉砕大喝采作戦などを敢行しなければもっと早かったことでしょう。

 

 これにはさしものクロノも意見しました。

 

「いい機会だから言わせてもらうけどな。……オメェさんもうちっと自重してくれ。ちょっとでも気に食わないことがあると一に砲撃二に口撃、三四連射で五にトドメぶっ放すのは勘弁してくれよ。というか勘弁して下さいお願いします」

「ほう。つまり私に死ねと申すか」

「こいつ微塵も反省してねぇ……!」

 

 何度も根気強く注意してきましたが、結局全て無駄ボーンでした。

 

 ともあれ。

 

 なんだかんだでなのはとユーノは、管理局員と上手くやっているのでした。

 

 

 

 

 

 

 アースラの食堂にて。

 

「―――つまり、君はご両親の代わりに、部族の方たちに育てられたということかね」

 

 いつでも出撃できるよう、準備を完了させていた二人は、小休止とばかりに食堂でおやつをとっていました。

 ユーノは珍しいのか、スナック系を口にし、なのはは焼き魚定食です。

 それおやつじゃねぇだろうが! って? 気にしたら負けです。

 余談ですが焼き魚定食は断じておやつに含まれません。なので遠足の時、先生に『先生! 焼き魚定食はおやつに含まれますか!』などと堂々叫んでも頭が弱いと思われますので気をつけましょう。

 

「うん。物心つく前から両親がいなくてね。けど、別に寂しいとは思わないかな。最初からいなかったから比べようもないし、それに部族の皆はいい人ばかりだから、楽しかったよ」

「その甲斐あってこんな立派な男子(変態)に成長したと……」

「なのは、僕思うんだ。普通の文章でも一部を改ざんするだけで立派な罵倒になるんだって」

 

 なのはは無視しました。

 

「君はご両親が健在だけど、こうして離れて寂しいとか思わない?」

「私かね?」

 

 言われて、考えてみます。

 

 ……が、答えなど分かりきったものでした。

 

「別に」

 

 言葉を叩きつけるような言い方でした。

 

 どこかそっけなく、無感動な言い草に、ちょっとユーノは鼻白みました。

 なのはは付け足すように、言います。

 

「私の父は怪我が原因で入院していてね。その間、兄と姉は母と共に店の経営に忙しくなり、一人でいる時間が多くなったことがあってね。それと同じ状況になっただけだよ。だから別段、寂しいと思うことはない」

「そ、そう……? さすがだなぁなのはは。強いんだね」

 

 強い、という言葉に、なのはの手が止まりました。

 それは、肉体的なものなのでしょうか。それとも精神的なものなのでしょうか。

 

 今も知識から湧いて出た情報を元に、虚言を作り上げユーノを欺いただけです。本当は入院していた時期の記憶など、なのはにはありません。だから寂しい思いをしていたとしても、その頃の『なのは』の記憶がないため、何も言えないのでした。

 

 寂しい、と人は言うのでしょう。しかし、今のなのはには、それが分かりません。

 

(私は……)

 

 一体何なのだろう、という問いに、答えなどありませんでした。

 

 

 

 その時、突然アラートが鳴り響きました。

 

 

 

 すぐに司令室へ向かったなのはとユーノは、慌ただしい雰囲気が全身を包むのを感じました。

 

「状況は? 何が起こっている? 私の出番かね? ついでに聞くが縄はどこかね? 誰か状況を説明したくれないか?」

「おいおいおいおいちょっと待てよ。オメェ質問は一度に一つまでって母ちゃんに教わらなかったのか? ていうかなんで縄が必要なん、」

 

 なのははおもむろにポケットから取り出したスイッチを押しました。

 

 するとクロノの足元の床が割れて、中へ吸い込まれて行きました。

 

「ボッシュートかよォオオオオオオオオオオオッ!!」

 

 エコーがかかっていましたがどうでもいいのでさっさと穴をふさぎました。

 

 ちなみにアースラ搭乗員が周囲にはいましたが、一度声の方向を見ると、何事もなかったかのように元の位置へ戻って行きました。アースラは本日も平常運転です。

 

「エイミィ君。状況はどうなっている?」

 

 閉ざされた床を呆然と見ているユーノを放置し、モニター前で腕組みしているエイミィの元へ駆け寄りました。

 

「ああ、例の子が見つかったんだって。しかもジュエルシードも」

「ほう。それは本当かね?」

「うん、だけど……」

「あの子、海中にあるジュエルシードを無理矢理起動しようとしているみたいなのよ」

 

 言葉を濁すエイミィに代わり、リンディがそう言いました。

 

「そのようなことが可能なのかね?」

「ほとんど不可能に近いわ。けど、向こうもそれだけ追い詰められているってことなんでしょうね。魔力流を発生させて、ジュエルシードを暴走させるのが目的みたい。そうして封印を施す……結構乱暴なやり方だけれど、成功すれば全てのジュエルシードを掌握できるわ」

 

 ふむ、となのはは腕組みし、モニターを見ました。

 

 そこには黒い少女と、使い魔である橙色の髪の女性がいました。巨大な魔法陣を展開し、膨大な魔力を消耗しつつも、フェイトは懸命にジュエルシードを封印しようと足掻いていました。

 

 その光景を見たなのはは、真剣な顔で、一言。

 

「ぶっちゃけ一個ずつ探すのが面倒だから適当にやってしまえ感が溢れているね?」

 

 身も蓋もない発言でした。

 

 ともあれ、荒れ狂う魔力の奔流をかわしつつ、空中で踊るフェイトを見つつ、なのはは思考を張り巡らします。

 このまま、ただ黙って見守るのも手段の一つでしょう。彼女とは友好を築いているわけでもないですし、そもそも今まで顔を合わせれば即戦闘という間柄だったのです。助けようなどという気が起きないのは当然でしょう。

 

(まぁ、彼女も命を捨ててまで挑むほど愚かではあるまい。体力を消耗したところで捕獲するなりすればよかろう)

 

 いつも通り、冷静な思考が確実な判断を下しました。

 そう、いつも通り。

 それが正しいと、自分が確定したのだから、何も問題はないのだと。

 

 

 

 ……ですが、

 

『母さんのために……! ジュエルシードは、渡せないんだぁあああああああっ!』

 

 何故か、かつて叫んだあの少女の声を、思い出してしまいました。

 

 

 

(母、か……)

 

 ふと、考えてみました。今いる自分が育ったという家、そこで生活する者たち。

 自分を笑顔で送り出してくれた人。頼りがいのある笑みを浮かべていた人。心配そうに見ていた人。自分を案じて怒ってくれた人。その全てを、今、鮮明に思い出しました。

 

(そういえば、今の私にも、家族はいるのだったね……)

 

 それが例え偽りの絆であろうとも、例え自分の本当の家族でないとしても。

 例え『高町なのは』に向けられたもので、なのはと呼ばれる自分に対するものではないとしても。

 

 あの日、あの時。

 自分に向けてくれた笑顔は、確かなものだと思うのです。

 

 

 

「―――……。艦長、出撃許可をもらいたい」

 

 

 

 ぽつりと、なのはは小さく、しかしハッキリと言いました。

 

「え?」

「あ? オメェ正気か?」

 

 驚くリンディといつの間にか復活していた怪訝なクロノ。それはそうでしょう。なのはの性格を少しでも知る彼女らは、なのはがこういった時に非情に合理的で現実的な判断を下すことを知っています。今まで回収して来たジュエルシードの捜索及び回収の任務中、非情なまでに冷静な彼女を見て来ています。加え、フェイトを擁護するような発言は今まで一度もありませんでした。既に敵と見なしているとリンディらも思っていましたし、なのはがそんな温い考えを持っているとは微塵も思わなかったのです。

 

 だから、ともすればフェイトを助けるともとれる発言に、誰もが驚きました。

 

「んだよオメェ、もしかしてアイツに同情でもしちまったのか? 珍しいこともあるもんだな。けどまぁ止めとけよ。ほっときゃいずれ勝手に自滅してくれるだろうし、仮に自滅しなかったら力尽きたところを俺らで一網打尽にしてやりゃいい」

 

 鼻をほじりながら言うクロノですが、彼の言い分は正しいものでしょう。

 

「なのはちゃん……助けたいと思うその気持ちは大事よ? でも、これが現実なのよ。辛いかもしれないけど……」

 

 なのはが真剣な顔で言ったものですから、リンディも真摯な対応をしました。

 

 二人は席から離れないでしょう。このまま静観し続けることでしょう。なのはが何を言ったところで、意志を変えることは無いでしょう。

 なのはと違い、二人には立場もあります。勝手な行動は慎むべきであり、感情に振り回される愚行を犯しては、部下への示しもつきません。

 

 それは、なのはも重々承知していました。

 傍らにいるユーノは、はらはらとした様子で事態を見守っています。

 

 やや沈黙が流れ、しばしの間、モニターから流れる音だけが、空間を漂っていました。

 

 やがて、

 

「そうか。分かった」

 

 と、なのはは納得の笑みを浮かべました。

 

 暴れやしないかと内心戦々恐々としていた搭乗員たちも安堵の息をつきます。

 

「ところで、ちょっと催してきたのでお花を摘みに行ってもよろしいだろうか?」

 

 そう言って、レイジングハートを持ったまま部屋を出ようとしました。

 ついでにセットアップもしておきました。

 

「ちょっと待てコラァアアアアアアアアアア! テメェまったく分かってねぇだろォオオオオオッ!!」

 

 すかさずクロノが突っ込みました。

 

「はて、何のことかね? 私は少々お手洗いに用があるだけだが」

「だったらデバイス置いてけェエエエエエエッ! ついでにセットアップしたまま行くんじゃねぇよ! やる気満々じゃねぇかァアアアアッ! どこで済ませる気だ! それともトイレを戦場にするつもりか!!」

「汚物は消毒だ……!」

「お前の頭を消毒しろォオオオオオッ!」

 

 派手に叫ぶクロノを放置して、なのはは勢いよく走りだしました。

 

「おい、テメッバカッ、待ちやがれェェエエエエエエ! 今すぐ止まれェエエ!」

「ははは、生憎時間は常に流れるものだからね、今と言う時間は既にさっきになってしまっているから私は止められない止まらない」

「テレビのCMかァアアアアアアッ!」

 

 なのはが走り出すのと同時、ユーノも追走しようとしましたが、少し走ったところで、やがて立ち止まりました。

 

「なのは、行って! 僕が時間を稼ぐから!」

「ユーノ君……。非常に申し訳ないが、そんなことをしても君の出番は増えないよ?」

「メタ発言は自重して……!」

 

 ここ一番の活躍を見せようと張り切るユーノでした。

 

 そして慌てて立ち上がったクロノですが、魔法を使う暇もありません。とても少女の走りとは思えない爆走で転送ポートへ向かうなのはに追い付けず、ユーノに妨害されては到底無理だと悟ったのか、エイミィの方へ振り向きます。

 

「エイミィ! 逃すんじゃねぇぞ!」

「ようがす」

 

 と言って、エイミィは赤いボタンをプッシュしました。

 

 するとクロノの足元の床が割れて、クロノが吸い込まれて行きました。

 

「なんで俺ェェエエエエエエエエエエエエエエッ!!??」

 

 落ち行くクロノを誰もが静かに見送りました。

 

「あ、ありがと」

「例なら要らないよ。ボタン押し間違えちゃっただけだし」

 

 エイミィは素っ気なく答えます。

 

「……それに、私だって納得してるわけじゃないから」

 

 小さく呟き、聞いたユーノは、艦長の方を見ました。

 

 リンディはただ静かに、懸命に戦うフェイトを見つめていました。

 

 どうでもいいですけど自分の息子は心配じゃないんでしょうか。

 

 

 

 

 

 

 結界内では、フェイトが熾烈な攻防を繰り広げていました。

 

 さすがに6個同時と言う大雑把かついい加減かつ適当な手段を用いたのが失敗だったのか、次第に追い詰められていきます。

 

「ぐ……っ!」

「フェイト!」

 

 苦悶の声を上げるフェイトですが、それでも一心不乱に封印措置を施そうと躍起になっています。

 

 しかし、それも長くは続きませんでした。

 

(魔力が……!)

 

 多大な負荷を身体にかけたからか、それとも不慣れなことをして予想以上に消費したのか、魔力が思ったよりも早く尽きかけていました。

 

 このままでは、と心が揺らぎかけた、その時でした。

 

 

 

「ははは困っているようだね? 手助けは必要かな?」

 

 

 

 どこまで余裕なのか分からない少女の声が聞こえました。

 

 見れば、いつの間にか結界内部に入り込んだなのはが、フェイトの後ろで仁王立ちしていました。

 当然ながら、傍にいたアルフが噛みつきます。

 

「アンタ……! またしょうこりもなく!」

 

 掴みかかろうとしたアルフを一瞥したなのはは、

 

 

 

「邪魔」

 

 と、端的な言葉と共にアルフの手を弾いた後腕を絡め取り一本背負いしてから手を離し吹き飛びかけたアルフの両脚をがしっと掴んでその場で高速回転しつつ溜息をついて頭上へブン投げた後上空へ瞬間移動して無防備な腿と顎を下から掴むアルゼンチンバックブリーガーを軽くキメてから飽きたとばかりにその辺に放り投げました。

 

 

 

 あー、と落下していくアルフを無視して、なのははフェイトに向き直りました。

 

「さて、久しぶりだね。元気そうで何よりと一応言っておこうか」

「……何しに来たんだよ、オマエ」

 

 警戒心を露わにするフェイトですが、そこに以前はあったはずの嫌悪感はありませんでした。この危機的状況において、ジュエルシードとコヤツのどちらが危険か測りかねているだけかもしれませんが。

 

「何、君のお手伝いをしようという私の粋な計らいだよ。大いに感謝したまえ」

「え……?」

 

 戸惑うフェイトを放置し、なのははフェイトの背中に触れました。

 そして、

 

「ふん……!」

 

 魔力を分け与えました。

 どうやってと聞かれても、それは『気合』としか言えないので言及はお控え下さい。

 

「なんで、オマエは……」

 

 俯くフェイトの口から、思わず言葉がこぼれました。

 

「どうして、敵対してたクセに、助けてくれるんだ……?」

 

 その疑問に、なのはは笑みを携えて答えました。

 ただし、そこにいつもの不敵な笑みはありませんでした。

 

「君の力になりたいのだよ。私はね」

 

 どこか力のないその笑みに、フェイトは何故か目が離せなくなりました。

 

 

 

 

 

 

 一方、アースラでは。

 

「あーあーあー、やっちまったよなのはのヤツ。こっちの話も都合も全部無視かよ。ぜってぇB型だよアイツ。ついでにあっちの黒いのもB型だよ間違いねぇな」

 

 頭を掻きつつそう言いました。

 すると映像が浮かび、なのはの顔がアップで表示されました。

 

『クロノ君。ドヤ顔で言ってるところ悪いが私はA型だ。ハハハやーいこの馬鹿め』

 

 うぜぇ、と青筋を浮かべつつも、クロノはクールを装います。

 

『……オマエの手助けなんかなくたって、ボクは一人でもやれるよ』

 

 魔力を分け与えてもらっておきながらこの言い草ですが、今までのなのはの言動を顧みると何も言えません。

 

「随分意地張ってるわねぇ……」

「だから言ったろ、B型の女は人の話聞きゃしねぇってよー。頭がティラノサウルス並みなんじゃねぇのかアイツ。もちっとアレだ、一般人のA型レベルにまで落ち着いてくんねーかな」

 

『ボクA型なんだけど……』

 

 聞こえていました。

 

「あらら、A型って確かクロノ君と同じだよね? 道理で……」

「道理でってどういう意味だァアアアアアアア! 一緒にすんじゃねーよあんなチンチクリンと! 血液型くらいで一緒くたにされちゃたまんねーよ!」

『クロノ君、そんな君にいい言葉を贈ろう。「目クソ鼻クソ」』

「誰が同レベルだコラァアアアアアアアアアアアッ!」

 

『やってやる……やってやるぞ……!』

 

 余計やる気を出させてしまいました。

 

「え、あー、落ちつけよおい。んと、その、あの、アレだ。A型だっていいとこあんだぞ? おい高町、テメェ確かA型なんだろ、何かいいとこ言えよ」

『私に振るのは止めて欲しいのだがね。自分で言いたまえよ』

「テメェ同じA型ならいいとこくらい言えんだろが! 適当に上手いこと言って説得しろや!」

『ははは、神に等しい私と卑しい小市民を同じにされてもらっては困るね? というかこの場で自画自賛するのは恥さらしな気がするので君が述べたまえ』

「なんでこんな時だけ常識的になるんだよ!? A型は非常識が当たり前じゃねぇのか! 恥知らず平常運転じゃないのか!」

「そうね~多分クロノ君も恥知らずだからね~だから緊縛プレイがお好みなんだよね~」

「ちょっとぉぉおおおお!? この会話向こうにダダ漏れしてるんだから変態を晒さないでよ!」

 

 ユーノが止めに入りましたが、既にフェイトは肩を震わせ涙目になりながらもやる気全開になっていました。

 

 こりゃあかん、とまともな部類のリンディに彼らを止めてもらおうと一縷の望みを託しました。

 が、何故か椅子の上で体育座りして縮こまっていました。

 

「あの、艦長……なんで泣いてるんですか?」

「泣いてません」

「いや、滅茶苦茶涙声なんですけれど……」

「泣いてません」

「いや、だって。あれ、もしかして艦長もAが……」

「泣いてないって言ってるでしょ! 泣いてる本人が泣いてないって言ってるんだから絶対泣いてないのよ! いい加減になさいよ! しまいにゃ泣くわよそしてアンタも泣かすわよ!!」

「えぇええぇぇえええええええええ!?」

 

 艦内は騒然としていました。

 

 もうダメかもしれない―――誰かの呟きが聞こえました。

 

 

 

 

 

 

 どうしよう、と考え込んでしまうフェイトですが、考えることに没頭するだけの猶予はありません。

 ここでなのはに協力を仰ぐか、それとも意地でも一人でやってのけるのか。

 

「……? バルディッシュ?」

『Sealing form』

 

 何はともあれ、まずは封印を――そう伝えようと変形する相棒の姿を見て、フェイトは自分が何を為すべきか、考えました。 

 

 そして、ジュエルシードの暴走を抑えようと奮闘しているアルフと視線が合いました。

 

「…………」

 

 頷かれ、こちらも頷きを返します。

 分かっていると、そう伝えるように。

 

「……一気に行くぞ!」

 

 決断したフェイトは、バルディッシュを大きく掲げ、範囲攻撃の準備にかかりました。

 

「よかろうて」

 

 そして、いつもの不敵な笑みを浮かべたなのはもまた、レイジングハートを掲げました。

 

「さぁ、レイジングハートよ。本日最大にして盛大な花火を上げてみせようぞ……!」

『OK.I will destroy fack'in fantasy.』

 

 そげぶ! とでも叫び上げそうな相棒の頼もしげな声に、鷹揚な頷きを返しました。

 

「打ち鳴らせ羅針盤……! 今こそ轟け、孤高の稲妻よ……ッ!」

「万物を葬る慈悲無き一撃を……!」

 

 ……後に、なのははこう語りました。

『私としたことが、ついカッとなって必殺技どころか頭の悪い詠唱なんぞをしてしまった……反省はしているが後悔はもっとしてる』

 

「サンダぁああああああレイジィイイイイイイイッ!」

「ディバインバスター・フルパワー……ッ!」

 

 金色の閃光と桃色の砲撃が、空を切り裂きました。

 

 巨大な魔力の爆発と共に、ジュエルシードは6個全て封印されました。

 

 爆発の余波を受けて、海水が上空に弾け飛びます。

 水しぶきを受けながら、6個のジュエルシードを手にしたなのはが、静かにフェイトの前までやってきました。

 

「これを君に渡そう」

「え……?」

 

 差し出されたジュエルシード。それは、事情を知らないとはいえ、なのはが集めていたものだと知っているフェイトは、僅かに困惑しました。

 

「構うことはない。既に君に一つ譲渡しただろう?」

「あれは……! でも、どうして……」

「何、気にすることは無い。……が、どうしても受け取れないというのであれば、条件を一つ付けよう」

 

 条件? と小首を傾げるフェイトに、なのはは言いました。

 

「君の母親プレシア・テスタロッサとの面会を要求する」

「―――ッ!?」

 

 視界の端でアルフが身構えるのを察知し、しかしそれを無視したなのはは、表情一つ変えぬまま、動揺するフェイトに言葉を投げます。

 

「なんで、オマエがボクの母さんのこと……!」

「自分で口走っておきながらよく言う。が、今は理由などどうでもいい。必要なのは、私の問いに対する答えだけだ。既に対価はここに用意してある。前金も既に払っているが……さて、私の要求に対する君の返答は如何に?」

 

 指を突き付けるなのはに、フェイトは口をつぐんでしまいます。

 

 どう答えればいいのだろう……。フェイトはなんとも言えぬまま、静かな時間が流れます。 

 

 そんな二人をよそに、暗雲が頭上の空を漂い始めていました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……それは、不幸な事故でした。

 

 プレシアが丁度、娘の部屋を掃除していた時のことでした。

 

「あらフェイトったら、こんなに部屋を散らかして……掃除機をかけなきゃ」

 

 と言って、掃除機をかけたのはいいのですが、いかんせん埃がたまっているものですから、舞い上がるハウスダストが鼻腔を撫でます。

 

 そして、

 

「は、は……はっくちゅ」

 

 くしゃみをぶちかましました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突然、上空に巨大な魔法陣が浮かび上がりました。

 

「―――、これは!?」

「この力、まさか母さん……!?」

 

 驚愕する二人の頭上で雷鳴が轟き、二人を包まんばかりの稲妻が落ちました。

 

「ち……っ!」

 

 舌打ちしたなのはは、呆然とするフェイトのどてっぱらを全力で蹴りつけました。

 その反動で後ろに下がり、二人は落雷を避けることに成功しましたが、

 

「しまった……!」

 

 ジュエルシードと距離をとってしまいました。

 

 すかさず飛び込んだアルフが全てを抱え上げ、すぐさま退散の準備に取り掛かります。

 

「急いでフェイト! 今のうちだ……!」

「あ、うん……」

 

 まだ正気を取り戻せていないフェイトの腕を掴んで、アルフは逃走を開始しました。

 

 追いかけるべきか、となのはは考えますが、

 

「艦長。追尾は可能かね?」

『……無理ね。今の落雷で計器類が全て故障しちゃったわ。一度態勢を立て直さないと』

 

 そうかね、と息を吐いたなのはは、肩の力を抜きました。

 

「ジュエルシードは奪われた。が、しかし……」

 

 無駄ではなかったね。

 なのはは口の端を小さく上げ、二人が飛び去った方角を見つめました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




さて、若干シリアスな感じが漂い始めましたが一時的なものですのでご安心ください(あ

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