-Ruin-   作:Croissant

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遅くなってしまいました。音信不通でゴメンナサイ。

そして主人公(横島)、超☆出番なし……


-参-

 

 

 第一戦目から盛り上がりを見せている武闘大会。

 こういう大会だからして主催が女子中学生だとかそういう話はどうでも良い。どれだけ盛り上がり、どれほど楽しめるかが大事なのであるが、その点は合格だろう。

 会場集客数は既に限界を超えているし、学園中でLive中継されていてHit数もうなぎ上り。会場近くの出店も場内をうろつく売り子も大繁盛。その収益は想像もできない。

 間違いなく学園史上残る大成功のイベントである。

 

 しかし、如何に面白いバトルとはいえシロウトには解り辛い所も多々ある。

 実際、漢魂を始めとした遠当なんぞ現実にあるとは思ってもいなかったのだから。

 

 だからと言ってその辺の武術系部員をとっ捕まえて質問したとしても教えてくれるとは限らない。

 見た目だけ一端(、、、、、、、)という部員も少なくないのだから。

 

 よって――

 

 『-さぁ盛り上がってまいりました麻帆良学園武闘大会本戦。

   司会は私、女子中等部三年 絡繰 茶々丸が務めさせていただいております』

 

 こういうポジションも必要となってくる。

 

 

 『-解説は、先ほど姉さ…もとい、絡繰 零選を相手に奮闘いたしましたが、

   敢え無く一蹴されました大豪院ポチ選手です』

 

 「……一言余計だがよろしく」

 

 なんとなく身内贔屓が目立ってきた茶々丸は、初対面相手でもこんな具合。

 まぁ、こんな口調の方が親しみ易いだろうし、大豪院は大人の余裕で流してくれているので結果オーライか。

 

 『-それにしても大豪院選手は見事なラッシュでしたが、上級者相手には無謀の一言でした。

   予想だにしなかった強者と当たってしまった訳ですが、如何でしたが?』

 

 「しかし何気に酷いな……

  だが基本を忘れ、()のある攻撃をしてしまったのは事実。

  その隙を無駄のない円の動きに突かれたのだから負けて当然だ」

 

 『-ははぁ…つまり戦う前から敗北していたと』

 

 「何かやたらディスられてないか?」

 

 何故に茶々丸が司会をしているのかは知らないが、大豪院が解説に大抜擢された理由も謎だ。

 とっとと負けてくれたのをこれ幸いにと仕事押し付けたという感も無きにしも非ず。

 それでも根が真面目なのか、ちょっとわざとらしく疑問を投げかけてくる茶々丸にもしっかり対応していた。

 

 『-Bブロックの中村選手と広野選手の試合も一瞬で終わってしまいましたが、

   あの技は一見体当たりのようにも見えましたが……?』

 

 「ふむ…あれは中国武術の鉄山靠に見えますね」

 

 「テツザンコウ? 一体それは?」

 

 こんな感じに。

 何だかんだで上手くハマってると言えなくもない。

 大豪院も何か口調が丁寧になってるし。

 

 そうこう私見を混じえた解説を交わしている間に舞台清掃も終了し、次の選手が姿を現す。

 

 

 

 兎も角、様々な裏を覆い隠したまま、大会は進んでゆく

 

 

 

 『-片や学園で知らぬ者のない広域指導員。

   死の眼鏡(デスメガネ)の高畑とまで言われている大人の男性です。

   トトカルチョでは圧倒的に不利となっていネギ先生ですが……

   解説の大豪院さんは如何思われますか?』

 

 「ええ、確かに昨日の予選でも手を触れずに他の選手を倒すという技を見せていました。

  自分も以前に高畑が鎮圧…

  もとい、生徒を沈静する場を目にした事がありますが相手が勝手に意識を失ったようにしか見えませんでした」

 

 『-ほう、勝手に?』

 

 「未熟な自分では視認できなかっただけの話でしょうが、

  どちらにせよ我々とは一線を隔した強さを持っている事に違いないでしょう」

 

 『-ほほう

   ネ ギ 先 生 で は 分 が 悪 い と お っ し ゃ る ? 』

 

 「彼の強さのほどを見ていないから断言はできませんが……

  って、何か妙に機嫌悪くないか?」

 

 『-………気の所為です』

 

 等と若干の贔屓を漂わせつつ解説が進行されてゆく中、二人の選手が舞台に上がっていった。

 

 一方は悠然と、もう一方はどこかに希望を落としてしまったかのようにトボトボと。

 何しろ大人vs子供。ウッカリすると虐めに見えなくもないのが物悲しい。

 どこをどう見たって子供先生の勝利はあり得ない。裏も表の人間もそう思う者が大多数であった。

 ネギを応援す者ものいないではないが、それは健闘を願っているだけで勝機なんかこれっぽっちも感じていない。

 

 そんな中、僅かながら勝機を信じて声援を送る者もいた。

 彼の頑張りを知る のどかと夕映だ。

 自分らの部活、図書館探検部のイベント中にやってきているのでハルナ(よけいなやつ)もいる為に素振りは見せていないが、魔法世界の情報が中途半端にしか持っていない為、まだ勝機を信じる事ができている。

 ついでに木乃香もいるが、彼女はエヴァに接する時間がのどか達より多い為に早くも諦めムード。怪我せぇへんようになー と遠まわしに負けると決め込んでいた。

 

 後は選手控え席には明日菜。

 尤も明日菜は建前上は高畑の応援をしてはいるが、は元より刹那や零、楓と古の姿もあった。

 明日菜は建前こそ高畑の応援だが、その実口から出るのはネギの心配事ばかりで、刹那も苦笑しつつ彼女同様に自分の今の担任(、、、、)を応援していた。

 ネギの健闘っぷりにも期待しているが、実際には高畑の実力が見たいだけだったりする楓と古はまぁ良いとするが、零は論外。

 この元殺人人形は高畑の実力を知っているものだから、ネギの潰され方を期待して見物に来ているだけなのだから。

 

 

 

 僅か数メートル向こうの舞台に立っているのは対戦相手。

 

 はっきり言って場違い。

 スーツにメガネ。その手もポケットに入れられていて、ぼーっと突っ立っている男性の姿。

 

 しかし侮ることなかれ。

 裏の世界、魔法界でも彼こそはと知られている実力者。

 様々な悪の組織(、、、、)をたった一人で壊滅してきたという現代の生きる伝説。

 魔法を唱えられない(、、、、、、、、、)Aランクの魔法使い(、、、、、、、、、)、タカミチ=T=高畑その人である。

 

 この余裕を見せているスタイルも、相手が子供だから侮っているのではない。

 これこそが彼が戦う時のスタイルなのだ。

 相手の隙を窺っている訳でもなく、油断をしている訳でもない。自分の調子を保っているだけなのである。

 

 この麻帆良の武闘大会。

 “表”の試合であるものの、一癖も二癖も…どころか、現実を疑って頭イカレた心配しちゃうほど飛び抜けた強さを持つ者たちが出揃っていたりする試合の中でも突出している人間の一人だ。

 

 他にも魔法を使える女子高生だとか、神鳴流という剣術の奥儀が使える女子中学生とか、何でか魔法を無効化しちゃう女子中学生とか、

 元殺人人形で、気を抜いたらウッカリ対戦相手を切り刻んでしまいかねない女子中学生とかいたりするがあくまで例外なので無視するとして--

 まぁ、そんな奴らがムサイ男どもに混じって出場している訳だ。

 

 そしてそんなトンチキな強者の中で、ぱっと見でやたら目立つ人間がいた。

 

 「タカミチ……」

 

 「やぁ、ネギくん」

 

 今大会最年少。イギリスからやってきた理不尽。

 誰が見たって小学生だが、実は女子中等部の教師。ネギ=スプリングフィールドである。

 

 表向きの職業からしてコドモ教師なのだから おもっきりフィクションじみているとゆーのに、裏に『正しい魔法使い』見習いという何ぞコレ? な正体を持っている理不尽の塊。

 魔法界で有名な英雄の血が流れていて、尚且つイギリスの魔法学校卒業の際には主席。

 当人自覚はないが顔も整っていて美形であり、好意を抱く少女らも多いという恵まれ過ぎにも程があるだろうjkな少年だ。

 

 そんな彼であるが、流石に現役バリバリの英雄である高畑を前にしては緊張を隠せないでいた。

 

 「あれからどれだけ強くなってるか楽しみだよ」

 

 高畑はそう微笑んでネギを迎える。

 実際、この少年は恩人であり憧れである英雄の息子。それにほんの数日手ほどきをしただけではあるが教え子に変わりはない。

 独学で魔法学校主席となり、今もかの有名な魔法使いエヴァンジェリンに鍛えられているこの少年が、あれからどれだけ強くなっているか楽しみにしているのだ。

 勿論まだまだ拙いであろう事は解っているのだが、楽しみである事に変わりはない。

 自分にとっても弟のようなものなのだから……

 

 「うん。

  まだまだ修行不足で世間知らずで頼りなくてか弱い僕だけど、

  タカミチの胸を借りるつもりで全力で戦うね」

 

 「いやそこまで卑下しなくても……」

 

 「だから

 

 

 

 

 

 

  だから、僕が死んだらお墓は海が見えるところがいいなぁ

  それとウェールズのお姉ちゃんとアーニャにありがとう大好きだったよって伝えてね……」

 

 「え、えと……?」

 

 ナニこの遺言みたいな台詞。

 まるで死地に赴く決死兵のようではないか

 

 ふと思い浮かんだのはエヴァンジェリンのヴィジョン。

 稲光が見える黒い雲の中で蝙蝠の羽を広げ、ふはははは…と邪悪に笑っている彼女の姿。

 

 一体はネギくんに何をした?

 もんのすごい冤罪な気がしないでもないが、彼女の性格が性格だからそんな言いがかり浮かぶのもしょうがない話だ。

 

 ――いや?

 

 その暗雲の更に闇の向こう。

 しっと渦巻くドドメ色の雲の中で 節くれだった角を頭に生やした青年がぐははは…と笑うヴィジョンが更に浮かぶ。

 邪悪に笑いながらも、唐突に涙を流して憎々しげ悔しげな顔で、美形は敵じゃあーっと雄叫びをあげたりするその男……

 何故だろう。彼が記憶する悪の魔法使いよかその男の邪悪な様が浮かんでしまうのは。

 

 ま、まさかね。

 いやいや ははは……

 

 そう必死こいて妄想を振り切り、意識を目の前に少年に戻す。

 再度力量を図る意味で相手の目をじっと見た。

 ……やっぱり肉屋に置かれた豚の頭のように悲壮感漂う悲しい目をしている。

 

 エヴァ…横島君……一体君たちはこの子に何をしたんだ?

 

 完全な当てずっぽうではあるが、彼の勘がそう訴えてたり。

 そんな憤りというか呆れというか、言いようのない感情が湧いてくるのもまた仕方のない話。ネギが美少女だったらンな想像も起きなかったのだけど。

 

 

 そして悲しいかなその想像は当たってたりする。

 何しろどう上手く戦ってもお先真っ暗なのだから。

 

 ここで負ける⇒再修業⇒地獄の特訓⇒地獄の猛特訓⇒オワタ

 ここで勝ってしまう⇒試合という名の死闘⇒オワタ

 或いは、よく戦った⇒褒美に修行のグレードを上げてやろう⇒特訓がもう特訓に⇒オワタ

 

 何とバッドエンド√のみではないか。ひどいクソゲーもあったものだ。

 だからといって、ウッカリ手加減を期待したり気を抜いたりしたトコを見られでもしたら更に地獄。

 過酷…あまりにそれは過酷……っっ

 神、所謂ゴッドは幼い少年に何をどうしろと仰られておいでなのか?

 

 ……まぁ、何だかんだ言って今まで耐えてこられたもんだからそーゆー目に逢ってるのだけど、それは言わぬが華か。

 

 

 『 そ れ で は A ブ ロ ッ ク 第 二 戦 を 行 い ま す ー っ っ ! ! 』

 

 

 そのアナウンスに場内の歓声が上がった。

 

 何せコドモ先生は兎も角、タカミチ=T=高畑といえば裏の世界はもとより、表の世界でも広域指導員のデスメガネという二つ名で知られ、不良達はおろか武術系のクラブの間でも畏怖され、或いは尊敬されているほどなのだ。

 そんな彼が試合で戦うというだけで驚きと期待が集まるというもの。

 

 『まずは言わずと知れたタカミチ=T=高畑選手!!

  我が麻帆良で知らぬ者はない、広域指導員だーっ!!

  溢れるダンディズム。

  しかし年齢の割に老けて見えてしまう彼の実力は如何なるものかーっ!!?』

 

 「おいおい」

 

 流石に大人の余裕で紹介の台詞を流す高畑だが、やや眉を顰めていたりいなかったり。実は気にしているのかもしれない。

 エラい目に逢ったりお世話(、、、)になったりした生徒たちからブーイングが上がるが、概ね応援の声なのは隠れ人気があるからか。

 実際、選手の控え席から『なんてコトいうのよーっっ』等と怒声も上がってるし。誰が叫んでいるかは推して知るべし。

 

 『対しますのは…な、何と年端もいかない少年だーっ!!

  しかーし見た目に誤魔化されてはいけません!!

  その実力は中武研のお墨付きっ!!

  イギリスからやって来た紳士な子供っ!

  噂の女子中等部教師、ネギ=スプリングフィールドだぁ!!』  

 

 流石に最初ネギを見て期待する者はいなかったが、その紹介を聞きイメージは一変。

 園内でその強さを知られている中武研のお墨付きだというからにはそれなり以上の実力者という事ではないか。

 それによく見ると、予選において放たれまくる氣弾を悉く回避していた少年ではないか。

 これは思っていたより面白いカードなのかもしれない。

 

 その新たに湧いた期待感と、可愛らしい外見による女性の声も混じって大きな歓声でもって迎えらた。

 

 「あばばば……」

 

 まぁ、当人は意外な応援にわたわた慌てるだけなのだが。

 

 「ははは…すごい人気じゃないか」

 

 高畑は、そんな少年の人気に懐かしいものを感じていた。

 

 彼の父親もそうだった。

 どこに行っても人気で、誰彼からも慕われていた彼。

 最強の魔法使い。魔法世界の英雄。

 千の魔法を使うとまでいわれた(実際にはちょっと違うが)彼……

 

 そんな憧れの人の血が流れる少年の実力は如何なるものか。

 高畑は、大きな声を上げている観客達より大きな期待をネギに掛けていた。

 

 少年にとってありがた迷惑以外の何物でもないのだけど。

 

 

 『それではAブロック第二戦-』

 

 

 実際、その過酷な状況下で育てられている華は実を結んでいるのだから世の中理不尽である。

 

 

 『 F I G H T ! ! 』

 

 

 

 

 

 

 

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        ■二十七時間目:始めの一歩 <参>

 

 

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 口にしてはいないが———

 

 

 高畑は両の手をポケットに手を入れたまま。

 相手に対する侮りか、或いはただ余裕の表れなのかは不明であるが、掛け声が放たれた今も変わらない。

 

 しかし相手は格上の実力者。その体勢から何をされるか解ったもんじゃない。

 その事をネギは思い知っていた(、、、、、、、)。 

 

 「…っ!?」

 

 その瞬間、ぞくりと怖気が立ち、体をひねって左斜め前に踏み込むネギ。

 別に避けようと思った訳ではない。

 体が勝手に動いたのだ。

 

 ネギの足が着いた音と、ゴっという鈍い音が響いたのは同時。今の今まで少年が立っていた場所に目に見えない衝撃がぶち当てられた。

 

 「へぇ…?」

 

 高畑は思わず感心する。

 牽制…というかものの試し程度の攻撃であったが、少年は反射して回避して見せた。

 

 観客の方は何が起こったか解ってる者はいないと言ってよいだろう。

 尤も、気付けた少数の者にしても如何なる攻撃が行われたかまでは解っておるまいが。

 

 「い、今のひょっとしてパンチ?」

 

 「おや? ひょっとして気付けたのかい?」

 

 「気付けたというか、微かに見えただけで……」

 

 自信無さげな少年の言葉であったが、高畑は目を見張った。

 

 普通人どころかそこらの魔法使いの目を持ってしても見えないであろう素早い一撃。

 その一撃———拳圧は予備動作すら感じさせぬもので、尚且つ不可視のレーザーのように正確に顎を狙っていた。

 如何に身体を鍛えていたネギであっても、いやさ一端(いっぱし)の武術家であろうと『入り』に反応できねば昏倒していた事だろう。

 だからこそ見えた(、、、)と言った少年に、高畑は本気で感心していたのである。

 

 ……まぁ実のところ高畑の速度は神速とはいっても本当の意味で神の領域に入っている訳ではない。

 

 斬ると口にされた時には既に斬られた後でした-とか、一発殴ると言われた時には霊氣弾で連打されてました-等というふざけた過ぎる相手に虐め…もとい、鍛えられまくったお蔭であろう。

 怪我の巧妙と言えなくもない。ちょっと違うか?

 

 

 「おぉ よく反応できたでござるな」

 

 「氣か魔法かまでは解らなかたが、抜きが見えたら大丈夫アル」

 

 「アレが見えとんかい……」

 

 『姐さん達パネェぜ……』

 

 そして当然ながら超高速攻撃に慣れている楓と古にはハッキリ見えていた。

 何しろネギより長い時間あの存在(、、、、)に鍛えてもらっているのだ。調子(リズム)に着いて行けなければ単なるサンドバックである。

 勝率こそゼロのままではあるが、今や反応だけは見せられるようになっていた。

 

 「だが、高畑先生は一体何を行っているんだ?

  氣弾…いや拳圧だという事は解るのだが」

 

 刹那ほどの腕があるならあの舞台上で立ち合っているのなら気付けたかもしれないが、残念な画に今は舞台脇。

 高畑とネギの間の空がときおりブレたりするのを視認できる程度だ。

 しかし今も攻撃は続いており、ネギは必死に回避しまくっている。何しろ時折 舞台の一部が弾け飛んだり抉れたりしているのだから。

 

 だがぱっと見の高畑は両の手はポケットに入れられたままで隙だらけ。ノーガードにしか見えない。足運びも硬さが見られない自然体。

 そんな体勢から殴り込んでいるとは思えないのだが。

 

 楓は舞台から目を外さないまま、戦っている二人に気を遣った小さな声でポツリと洩らした。

 

 「居合…

  そう、居合拳でござろうな」

 

 

 

 

 

 

 

 『い、居合拳ですか?

  それは一体……?』

 

 大豪院が呟いたその技に、茶々丸はやはりわざとらしく問いかける。

 解説側にはこういったものも必要なのだ。

 

 「ええ居合拳。

  ポケットを鞘とし、振り抜く事で加速させるという技だ…です。

  真田流居合拳という流派も文献では確認した事はありますが……

  いやこの目で見る事ができるとは思わなかった」

 

 『-と言いますと、相当珍しい技なのでしょうか?』

 

 「都市伝説レベルですね」

 

 『-ははぁ テケテケとかカシマレイコのようなものですか』

 

 「いや全然違うぞ」

 

 実際、その名を耳にした事もないではないが、ポケットは手前に引いて抜くものなので方法が全く解っていない。

 居合刀術は鞘というレール(、、、)を走らせる事により初めてできる技(業)。

 よってポケットから振り抜く(、、、、)という不可思議な方法でどうやって居合を成すのかはサッパリ不明のままなのである。

 

 「わっ!

   わわっ!!

    わっわぁっ!!」

 

 しかし放つ方も放つ方であるが、避ける方も避ける方。

 機関銃が如く放たれる拳の悉くを回避しまくっている。

 

 流石にこれだけ連打されると煙やら砂塵やらが舞い上がり、それらが一部が掻き消されたりするのでビジュアル的に連打されている事が一般にも見て取れるようになる。

 未だ立っていられるのもそれらを遮蔽利用して回避しているからこそだが、その変態的な回避力を見るだけで誰に鍛えられたか解るというもの。

 勿論、観衆には気付かれないように身体強化の魔法『戦いの歌(カントゥスベラークス)』をコソーリと掛けているからこそだが、それでも初期からいえば大した進歩である。

 

 「ウム。

  老師に劣るが中々の回避術アル」

 

 「そもそも横島殿は身体強化なしに、

  あれよりもっとエゲツなく回避するでござるしなぁ」

 

 「何時も思うんやけど、あの兄ちゃんホンマ人間なんやろか……」

 

 「いや、間は結構解り易いでござるよ?」

 

 何せ物凄く僅かながら、この居合拳なる技には居合より劣っている点があるのだから。

 

 「居合用の刀なら兎も角、どれほど丈夫であろうと、どれほどの速度を持とうと、

  鞘がポケットではどうしようもないでござるな」

 「一瞬止まる(、、、、、)から何とかなるアル」

 

 鞘なら兎も角、ポケットだ。前方に抜くポケットは普通ない。

 前後逆に穿いているのなら話は別だろうが、見た目がアレ過ぎるし。

 そのお蔭で、抜いてホップさせるその一瞬に体を反応させる事ができるのである。

 

 言うまでもないが、小太郎にせよネギにせよ、それに反応せざるを得ない目に遭っている訳だが……追求しないでおくのが優しさだろう。

 特に邪龍の高笑いなどトラウマなのだし。

 

 

 

 「(反応速度がすごいなぁ……それにフェイントに引っかからない)」

 

 尊敬する人の息子さんがそんな悲惨な目に遭っているとはつゆ知らず、高畑は本気で感心していた。

 何しろ自分の見えないジャブが紙一重でかわされているのだ。

 いくら手加減しているとはいえ、緩急をつけた居合拳のジャブをギリギリで回避される事などここ最近なかったのだから。

 その上。回避しつつ距離を詰めてくる。

 偶に瞬動らしき動きを見せているから使えるのだろうが、乱撃を食らって焦り一気に距離を詰める…という行為に入っていない。

 

 「(瞬動は早いけど直線的過ぎるのがネックなんだけど……

   この分じゃ気付いてそうだなぁ。凄いなぁ……)」

 

 高畑レベル…とまでは行かずとも刹那や古のレベルになると『入り』に移った瞬間に迎撃する事できる。

 何せ軌道は直線。足を出すだけで転ばせられるのだ。

 この齢の魔法使いは移動速度に偏りがちだというのに、よくぞ機動回避に気付けたものである。

 

 しかし現実は、『凄い』という関心のベクトルがちょっと違う。

 というより、嫌っ!! というほど痛い目見て思い知っている(、、、、、、、)ネギがする訳がない。

 小太郎と二人して楓と古、そして横島が呼び出した(と、思っている)何かしらの存在によってエラい目に遭っているのだし。

 お蔭で二人とも瞬動はバッチリ使えるものの、小刻みにしか使わなくなっていたりする。

 

 「う゛~っっ

  避ける事ができてもギリギリだよーっ」

 

 等と泣き言も出ているが、武術系クラブは涙目になる機動回避能力。

 当然のようにそういったクラブ関係者からは感心と声援が飛んでる。

 

 だが、何より目立つのはジリジリと前に進んでいるところ。

 これだけの猛攻を受けつつも引かずに進んでいるのだから。

 

 「(予想と少し違うけど、ホントに強くなったなぁ)」

 

 高畑の感慨も一入である。

 

 こんなに楽しい事があろうか。

 

 彼の血を引く者が、憧れの彼の子供が、昔から知るこの子がこんなに強くなっていただなんて、

 

 

 「だけど……」

 

 

 彼が知る人物は、

 

 このネギの父親は こ ん な も の で は な い 。

 

 

 「この程度じゃ君のお父さんに笑われちゃうからね。

  少し、本気を見せてあげるよ」

 

 

 その事だけでも伝えねばならない。

 

 「左手に『魔力』……」

 

 高畑の広げた左手に力が集まる。

 魔法を唱えられない(、、、、、、)彼であるが、使えない訳ではないのだ。

 しかし、それだけに留まらない。

 

 「右手に『氣』……」

 

 

 「な、に……?」

 『あれは……』

 

 流石に氣を使う小太郎はすぐに気付いたが、何を行おうとしているかまでは理解が及ばない。

 当然カモも解らない。

 

 何せ魔力と氣は相反する力。

 気を使う者が魔力を持てば阻害され、逆もまた然りだ。

 

 だが高等技術故知られていないのであるが、相反し合う力だからこそ使えるようになると

 

 

 「 合 成 」

 

 

 ゴォッッと音を立てて高畑を中心に圧力(プレッシャー)が発生。

 彼の行おうとしていた事に見入っていたネギも後方に後退させられてしまう。

 舞台中継の和美も魔法関係であることは理解しているので、それをぼかして風圧扱い。それでも苦しい言い訳なのだけど。

 

 「こ、これは一体……?」

 

 『-おおっと、解説の大豪院さんも予想していなかった御様子。

   一般武術家も知らないこの技は何なのでしょうか?!』

 

 データ的には理解できていようと、解説者より知っているのはアレなのでやはりわざとらしく疑問形。

 しかし一般武術家も知らない…と遠まわしにしっかり述べている。

 

 それも仕方のない話。何故なら裏の世界(、、、、)で知られる奥儀なのだから。

 

 

 合成され、反発し合う故に大きく膨らんだそれ、

 

 空気をミシミシ軋ませる膨れ上がった(チカラ)

 

 

 「一撃目はサービスだ」

 

 

 その力を込めた拳を 

 

 「 避 け ろ ネ ギ 君 」

 

 「!?」

 

 居合拳で振り抜いた。

 

 

 ドォンッッと轟音が響き渡る。

 恰もそれは大砲の砲撃のよう。

 

 舞台の一部はその轟音の大きさ通りに大きく陥没し、中心地点は砕け散っていた。

 

 その威力に一瞬静まり返る会場。

 今までの連撃も相当であったというのに、明らかに桁が違う攻撃を見たのだから。

 

 無論、ネギとて初めて高畑の本気を見た訳であるから慌てるのも———

 

 

 「ああーっ 隙を見つけ出せないまま本気になられたーっ

  ただでさえ間隙が掴みにくいのにーっっ」

 

 

 当然なのだけど。

 何かちょっと違っていた。

 

 「……怯んでないんだね」  

 

 「怯んでるよ?!

  僕、すごく怯んでるよ?!」

 

 「いや、そういう事じゃなくて……」

 

 自分との実力差を見せられたらもっと心が折れかかるものであるが……ネギは慌ててはいるのだけど心は折れてはいない。

 全然折れていないという訳ではなかろうが、高畑が想像していたより遥かに軽症なのである。

 

 「何時もの死ぬか昏睡するかの修行よりかマシだけど、

  やっぱり負けるのはイヤだよーっっ!!」

 

 何か切実だ。

 負けるのは悔しくて嫌だ…というのではなくて、負けたらドエラい目に遭うからというのが物悲しい。

 

 「うん…何だか可哀そうになってきた」

 

 高畑は、勝っても負けても悲惨な目に遇うだろうこの少年の未来を憂いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「うぉおおおっ!! スッゲェーっっ!!」

 

 「見に来て良かったーっ!!」

 

 「流石デスメガネだぜーっっ!!」

 

 湧き上がる歓声。

 当人の気苦労なんか知る由もなく、見物人は暢気なものである。

 

 だが無理もないだろう。

 素人でも氣を飛ばせる者はいるのだが、そういった技が出来ない者達からすればアトラクション以外の何物でもないのだ。

 

 しかし全員が全員、そんなにお気楽極楽でいてくれる訳ではない。

 

 「何でもかんでもノリで納得するんじゃねぇっ」

 

 恰も酔っ払い集団の中の素面が如く、一度ノリ切れないで置いてけ堀の少女が一人。

 いや、ちょっと違うか。

 何しろ以前からこの少女はこの都市のノリに着いて行きかねていたのだから。

 

 しかしそれだけではない。

 

 「(どういう事だ?

   前々からおかしいおかしいと思ってたが、今日は特におかしい。おかし過ぎる。

   明らかに人間外の離れ業出しまくってんのに何で納得できてんだよ)」

 

 何故か学園祭に入ってから違和感が膨らみ続けている。

 今まで不思議とも思わなかった事や、合わないと思っていた連中との距離感、そして学園外と学園内とのテクノロジー格差。

 非常識だという括りで受け止め、放置していたそれが如何にどれだけ異様な事であったのかと。

 

 そして元担任と現担任とのバトル。

 

 これは違う(、、)

 トリックと思い込もうとしてはいたが、トリックなんかじゃない。恐らく現実(マジ)だ。

 その上、理屈は解らないがこんな不自然な事実を皆が皆してするりと流して生活している。

 

 ラノベじゃあるまいし…と一笑に伏したかったがそうはいかない。

 何故なら

 

 

 『-おおっと 高畑選手ものすごいラッシュです。

   ああ、ネギ先生っ』

 

 「私情が漏れてるぞ」

 

 少女の真横で飛び切りの不条理(クラスメイト)が何故か解説係をしているのだ。

 この娘、四肢の間接に球体パーツが使われており、頭にはメカメカしいバイザーがついている。

 尚且つ髪の色は黄緑色。

 どこに出しても恥ずかしくない、おもっきりロボ娘である。

 

 何でロボ娘がクラスにいるんだとは思いはしたが……よく考えてみればギャルゲーがあるまいし、美少女アンドロイドなんかいる訳ない。

 

 「(何で気が付かなかったんだ……?

   考えみりゃあ、外に比べておかしな事が多すぎる。

   そういえば担任にしてもガキじゃねぇか……)」

 

 綻びは気付かないところにできて広がってゆくもの。

 

 数は少ないものの、違和感という綻びを持った人間は少しづつ現れだし、学園サイドが気付かぬ内に数を増やしてゆく。

 

 件のロボ少女はそんなギャップに戸惑う一人である少女の様子にチラリと目を向け、何事もなったかのようにまた解説に戻った。

 

 

 『-ネギ先生、がんばってください』

 

 「おいっ 完全に贔屓してるだろ!?」

 

 

 計画(、、)の一部が成功している事を確信して。

 

 




 遅くなりましたスミマセン。
 アホみたく卒業制作なるものに時間取られ、あまつさえ寒暖差で身体ぶっ壊してました。
 真に持って申し訳ありません。う゛ぃーたちゃんのPSO2もできなかったヨ……せっかく買ったのに~
 オタ学生からもうすぐ社会人。時間が減りそうですが頑張ります。
 ……その前に黄砂と花粉との戦いががが

 横っちの出番はずっと先ww
 意味はあります。わざと引っ張って書いてますし。
 ではまた……

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