-Ruin-   作:Croissant

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中編

 学園祭の喧騒を遠くに聞きつつ、彼女達――少女三人、男一人――の四人は茂みを割ってその場に到着した。

 

 茂み、とは言っても草ぼうぼうという程ではなく、生垣程度で単に人の出入りを感じないというだけで、一,二度だけちょいと跨ぎもすればその場にたどり着く事が出来る。

 青年が手を引いている(何となく青年が手を引かれている感もあるが)幼い少女ですら労せず跨げる程度であるし。

 更には小鹿が茂みに道を開けさせている(、、、、、、、、、)のだから苦労なんかする訳がない。

 

 尤もこの場所は街外れであるし尚且つ廃墟の教会。

 普段とて好き好んで来るような場所ではないし、折角の祭りの日に好き好んでこんなところに来たりする酔狂な者がいるとは思えない。

 無論、人気がないのだからカッポーとかが“しけこむ”為に訪れないとも限らないのだが、幸いと言うかなんと言うかそういった手合いがいる気配はないようだ。

 

 全く自慢にならないが、覗きで鍛え上げられた青年のセンサーに引っかかっていないのだから間違いはないだろう(本当に自慢にならない)。

 

 しかし、普通廃墟に女連れで来るという理由はやたらと限られてくる。

 何せ内一人は十歳にも満たない年齢ではあるが三人とも必要十分以上の美少女。それ以外の理由が思いつかないほど。

 とするとこの青年の方がしけこむ側という事か。

 その相手は未成年の少女二人と一人の幼女(しかも義妹)……それもペット同伴で、という鬼畜の所業。この外道!! オニっっ!! もげてまえっ!!

 

 「? どないしはったん?」

 

 「………何かしらんがボロクソに言われとる気が……」

 

 

 ――まぁ、冗談は横に置いといて。

 

 確かに、廃墟の教会なんぞに女連れてひょこひょこやって来る理由なんぞおもっきり限られる訳であるが、ここは普通の街ではない。

 

 魔法使い――それも関東魔法教会の拠点があったりする、魔法使い達の街でもあるのだ。

 

 だからこそ“普通の人間”からすれば不条理極まりない理由やら仕掛けがその辺に隠れていたりする。

 

 「何だろ……?

  ここ、やたら空気が澄んでるような気が……」

 

 「あ~ ホンマやぁ。まだ効いとるんやろか」

 

 「? このか何か知ってるの?」

 

 「前は横島さん、楓とくーふぇとここで修業しとったんやて。

  それで……え~と……は、ハンペンやったっけ?

  横島さんがそれでここ清めてから使うた言うとったえ」

 

 「ハンペン?」

 

 「反閇(へんばい)な」

 

 この青年。生来の霊能力者という訳ではなく、十代の後半になってからやっとオカルト世界に接し始めた浅い経歴持ちだったりするのだが、接し始めた時期こそ遅かったのだが質そのものは異様に濃く、半年も経たない内にそこらの霊能力者では影すら踏めない神魔らの世界におもっきり近寄ってしまっていた。

 

 尤も、何故かこの青年は人外に好かれ易いというナゾ体質持ちで、別世界の方が彼に向かって全力で駆けて来きただけという感もあったりなかったりするのだが……まぁ、それはさて置こう。

 

 その為というだけでもないのだが、オカルト世界にどっぷり浸かり(漬かり?)込む速度も深度も異様としか言えない経験ばかりで、気が付けば知識こそペーペーとどっこいどっこいであるのだが、実体験や霊的な器用さだけなら一級レベルのGS(“こちらの世界”で言う退魔師のようなもの)にすら『あれ? そんな事もしらねぇの?』と言えるほどになってしまっていた。

 

 しかも彼の雇い主であった女性は外見だけなら超一級の美女ではあったのだが、その中身は銭ゲバの化身のような人間で、

結果的に彼の事をどうこう言えないほどトラブルを引き込んで来るものだから必然的に周囲は濃くなり続ける。

 よってそんな雇い主やその周囲のトンデモ人間、自分の友人らもひっくるめた存在自体がオカルトにも程がある連中が巻き起こす、涙と笑いの命がけのトラブルに塗れていた。

 そんな状況下で命を守る為には、ビンボーで金がなく、自業自得もあったが四六時中金欠でピーピー言っていた彼自身が是が非でも高い防御法を学ぶ必要が……せめて寝る場の安息だけでも……あったのである。

 ぶっちゃけ、冗談抜きにいつ何時しょーもない理由でポックリ逝くか解ったモンじゃなかったのだし。

 

 そんな彼が覚えたのがひたすら金の掛からない清め技 反閇(へんばい)

 

 反閇とは道教の兎歩(うほ)を起源に持つと言われている歩行法で、主に陰陽道で用いられている呪術的歩行である。

 足を三回運んで一歩とし、合計九回の足捌きでもって“九星”を踏んで行くとされており、その独特な力強い足捌きで足踏みをして、それで悪星を踏み破って吉意を呼び込むというお清め儀式歩行法だ。

 彼のいた世界でも、札を貼れば結界ができてしまう為にあまり使われていない技であったが、実力は世界レベルであるがドビンボーであった彼はこれを覚えてかなり重宝していたりする。

 

 しかし、何だかんだで世界最高レベルの霊能力者であり、尚且つ“ここの世界”で唯一と言っても良いだろう神々の存在を知っている彼だ。

 元いた世界なら兎も角、神秘とて空想で片付けられてしまいかねないこの世界では、彼が持つ『神の実在という確信』は元々の効果以上の力を発揮させる。

 結果、聖域の如く清め上げられた広場が廃墟の中に出来上がってしまったという訳だ。

 

 「ほれで、ここで何するんえ?」

 

 だから当然こんな疑問が湧く。

 

 今も彼は、ひったらひったらとミョ~なリズムで反閇を行って場を清め直しているのだから、よっぽど重要な事をするに違いない。

 ……そんな彼の後を足運びを必死に真似て、横を付いて行ってる妹が微笑まし過ぎるにも程があるのだがそれは兎も角。

 

 『円殿は気付いているあろうが、昨日の朝と同様の波動を今日は朝から何度も感じてな。

  どうも世界樹が関係しているようなのだ』

 

 彼女らの問いに答えたのは、彼ではなくその彼の額――正確には額のバンダナだ。

 青年でも説明できない事もないのだが、どうもニュアンスが変になるのでお任せ状態なのである。

 

 「そうなん?」

 

 その説明を受け、隣にいる級友に確認を取る。

 バンダナの言葉を疑っている訳ではなく、単に問うただけでそれ以上の意図はない。

 

 「え? あ、うん……

  それは確かに今日も朝から何か感じたような気はしてたけど……」

 

 『学園祭の開始から昼過ぎまでに三回。

  中等部校舎と、世界樹近辺でそれはあった。

  前に高畑殿から学園祭の期間中は世界樹に溜まった魔力が事件を起こすと聞いた事があってな。

  だからそれが関係していると踏んだのだ』

 

 言うまでもないが、情報不足による勘違いである。

 

 モノがモノだけに、どんな事態になるか想像も出来なかった学園側……特に魔法教師達の余計な気の使い方がヘンな方向に向いてしまっているのだ。

 普通、溢れ出た魔力が恋愛関係にのみ働くなどと誰が想像できようか。生まれ出でてそう日が経っていないAFなら尚更だろう。

 

 まぁ確かに、以前の彼であればそんな事を知ったらどんな暴走をして『わはははは… ハーレムじゃあっっ』等といった大バカタレな事件を起こさないとも限らなかったのであるが、何だかんだいっても“今の彼”の精神は大人であり、十代のパトスはバーゲンセールに出してもタンカー一杯分は余るほど持ち合わせてもいるが分別はキチンと持ってたりする。

 それにホレ薬関係で碌な眼にあった事ないのだ。自分を知り過ぎている彼はオチまで妄想で築き上げるだろう。

 

 『解ってんで~

  どーせ刀子さんとかの美女見っけて告ろうとしたって、

  その瞬間に鳴滝姉妹とかがドーンと割り込んで来たりするんや。

  或いは古ちゃんとかに殴り飛ばされた野郎が間に入るとかなぁ~

 

  よりにもよってロリ姉妹や男なんぞと相思相愛に……

  尚且つMCって……

  イヤじゃぁああ~っっ!! ワイは騙されへんぞーっっ!!!』

 

 てな感じに。

 

 しかしそんな風に罠に掛かって堪るかとヘンに用心深くなっている彼であったのだが、初っ端に霊力回復モード(暴走セクハラ)を魔法女教師にぶちかましており、それを目の当たりにしている学園側に誤解というか深読みされている。

 

 その所為で彼に説明をして警備させるという行為は運任せになると思われていた。

 よって詳しい説明はせず、近寄らせないという手段に出た訳であるが……

 

 これが失敗その一となる。

 

 「あー

  そう言うたら、せっちゃんがその事件の取り締まりの仕事するって」

 

 「え゛? そんなのあるの?」

 

 「ウチも世界樹が魔力持っとるや初耳やったわ」

 

 そう苦笑する少女であったが、彼女も詳しい話は聞いていない。

 単に昨日、件の幼馴染の少女から『お嬢様は危ないから近寄らないようにしてください』と念押しされただけである。

 

 何でも高まり過ぎて噴出してしまった世界樹の魔力が何故か呪式形態をとり、偶然ポイントにいた人間の心に作用してしまうらしい。 

 この少女の事を気遣って遠ざけたのは良かったのだが、モノが恋愛問題という事もあってか言葉が上手く紡げず、その件に関して詳しい説明を抜かしてしまっていたのである。

 

 これが失敗その二だ。

 

 そうこう話している内に妹と共に広場を三周して場を清め終わった青年は、その辺に落ちてた木の枝を拾って場の中央だと思われる位置歩き、そこにしゃがんで地面に何か描き始めた。

 

 何をしているのか興味を持った二人も近寄り、彼の妹と共にそれを見学する。

 

 「何を描いているんレスか?」

 

 「ん? ああ、魔法陣……みたいなモン。

  一応は描けん事も無いと思うやけど、

  記憶が歯抜け状態やから正確には描けねぇからテキトーだけどな」

 

 確かに適当だ。

 大き目の丸を一つ描いて、その周りに均等に六つ丸を描いてるだけなのだから。

 ドコが魔法陣だと問いたい。幼児用のケンケンパの輪っかと言った方が説得力がある。

 

 「そんなんでええの?」

 

 『良くは無いが、あまり正確に描き過ぎると力を吸い上げ過ぎてこの場所が持たん。

  だから適度に力を吸い上げるにはこのくらいか良い。正しく“適当”なのだ』

 

 「ふぅん?」

 

 納得したのしていないのか甚だ疑問であるが、とりあえずの相槌を打つ少女。

 まぁ、考え様によってはラクガキっポイ魔法陣の方が彼らしいと言えなくもないので、それはそれで納得できる気もする。

 

 本来の“陣”というものはきちんとした公式の上で成り立ったもので、方位を合わせる事、其々の位置に書かれる文字や円の大きさ等の全てに意味があった。

 

 イマイチ信用できないオコジョ妖精ですら契約の魔法陣を描いてから仮契約をさせるのだが、この青年と少女とを繋ぐ仮契約の魔法陣は彼が特異な星の元にある所為か上手くいかなかった。つまれはそれだけパーソナルデータの正確さも必要とされている訳で、それなり以上の魔法や儀式をきちんと執り行うのなら年月を越えた正確さで陣を描くのも必要と言えるだろう。

 

 しかし、悲しいかな彼は偶然描かれた魔法陣でも成功してしまう事を知っている。

 いや、思い知らされている。

 

 元いた世界において、“奇抜なライトアップを目指したら影が魔法陣の形になっちゃってマネキンに悪魔が宿っちゃった☆”という事件に関わった経験があるのだ。

 

 その際、悪魔に不意打ちを喰らった挙句、あっさりと他の被害者と同様にマネキンにされた上、服を奪われて女性用下着を着せられ、しかもそれを令子とキヌに見られて変態扱いされるという恥辱を味わっていた。

 不幸にも常軌を逸した記憶持ちとなっている彼はその時の事を思い出してしまったりのだろう、脳裏に浮かぶ克明な屈辱のシーンにその身を震わせていたり。

 

 考えてみれば、雇い主が昔持っていた着せ替え人形には奴隷にされかかり、自業自得とは言え中国石像(男性武人)には求愛され、チョコゴーレムには襲われて何リットルもチョコを飲まされ、呪いの雛人形にはツルッパゲにされている。どーにもこーにも彼は動く人形とは相性が悪いようだ。

 

 今も元キリングドール、現人形妖怪の女子中学生にも何か口で負けまくって性的なネタでいからかわれまくっているし。

 

 

 『描けたようだな』

 

 「あ、ああ……」

 

 兎も角、そんなトラウマ(笑)に苦しみつつも“なんちゃって魔法陣”を描き上げていた彼は相棒の言葉によって我に返り、懐からハンカチに包んだ串と釘を取り出して中央の丸の方に串を刺した。そして周囲六つの丸には釘を刺してゆく。

 

 実のところこの串と釘がミソで、これもまた重要な仕掛けの一つである。

 

 「それ何なん?」

 

 「これ? 世界樹の若枝から削りだした串」

 

 「世界樹の、枝?」

 

 「うん」

 

 彼らのマスター……というか、彼にとっては“大首領様”の吸血鬼少女であるが、その少女は自分の下僕の新しい身体を削りだした後ぐらいから、妙に木を削ることが多くなってきていた。

 

 今も何かチョコチョコ作っているようだが、そのお陰か別荘にいくと世界樹の木屑が簡単に手に入る。

 この木屑を更に細く削り出し、二十センチほどの串状にしたものを中心の円に突き刺したのだ。

 

 「じゃあ始めるとすっか。

  悪りぃけど、二人ともナナ連れてちょっと下がってて。

  後で説明すっから」

 

 「はいな」

 

 「う、うん」

 

 二人とも、彼との会話がちょっと硬かった事に不満はあったのだが、後で説明すると言われて大人しくナナの手を引いて後ろに下がる。

 

 そこだったらと言われたところに来たら魔法陣モドキから十メートル近く下がらされていて、崩れた石塀……いや、石塀の跡のところまで来ていた。

 丁度瓦礫があるので上に乗ってるであろう砂埃等を息で吹き飛ばし、ちょこんと座って自分達の妹分を膝に乗せて三人で彼の様子を見守る。

 

 

 ――そしてこれが三つ目の失敗。

 

 

 イロイロあって追い詰められていた彼は、溜まりまくっているモノを霊力によって使い切ってしまおうと躍起になっていた。

 

 そんなモノが残っていたら女子中学生の魅力にコロンと転んでしまう率があまりに高く、そして追い詰められている事もあってか焦っていたのだ。

 だから早く使い切ってしまおうとしていた……筈であった。

 

 その筈なのになんでこの場に女の子連れてくるかなぁ~? という説もあるのだが、困った事にこの男、女の子の悩みとかの機微にやたらと敏感なのだ。

 だから何か悩みがあるっポイ女の子二人をほったらかしにしておく事が出来ず、見学したいという願いをウッカリ了承してしまったのである。

 尤も、幾らそうだとしてもこんな人目の付かない場所に連れて来てしまい、内心ドキマギしているのだから世話がない。人それを本末転倒と言う。

 

 こんな人目の付かない場所を選んでいる理由は、一般人に見られると不味いからであり他意はない。

 だが周辺に人気がないということは、何かあっても救援が来難いという事でもある。

 

 つまりは最初から失敗の種と要素が積み上がっていたのだ。

 

 「んじゃ、やるぞ……

  心眼はコントロールな。かのこも霊流の見鬼頼むぞ」

 

 『ああ』

 

 「ぴぃ」

 

 そんな中でコトを始めてしまった訳である。

 

 後の騒動は最早必然だったかもしれない。

 

 

 

 

      そして騒動の種は、

 

 

 

 

                 芽吹く―――

 

 

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        ■二十六時間目:エンチャンテッド (中)

 

 

 

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 横島の同僚に、氷室キヌという少女がいる。

 まぁ、今となっては異世界の話となるので、正確にはそういう少女が“いた”となるのだが、それは横に置いといて――

 

 出会った当初の彼女は幽霊であり、成仏したいが為に横島の命を狙った自縛霊モドキな凶行に及ぶ困った天然さんであった。

 しかしその実、彼女は記憶を失っていたが実はとある妖怪の封印の要となるよう霊体と肉体を切り離した存在であり、山神というか管理人のようなものであったらしい。

 

 尤も、当時の横島とその雇い主はそんな事などとは露知らず、

 成仏も出来ないオチコボレ幽霊として見ており、よりにもよって霊脈からその少女を切り離し、依頼を受けていた除霊対象の元山岳部の幽霊をその位置に縛り付け、彼女を連れて山を下りてしまっていた。

 その結果、大妖怪が復活して日本中の神社仏閣や教会が破壊されたり、東京が襲われたりと大災害が発生したりするのだが……それもさて置く。

 

 結局何が言いたいのかというと、その時に彼の雇い主は山の地下を流れる霊脈を別のモノに繋ぐという離れ業を、神通棍という道具を介しはしたもののそれだけで成し得たという事だ。

 

 つまり……

 

 「ほな、横島さんは世界樹の力の流れをここと結ぶ言うん?」

 

 「えとえと、そう言ってたレス」

 

 ナナのたどたどしい説明であったが、何とかかんとかその事を理解出来た……と思われる二人。円と木乃香は、改めて力を集中させている横島に眼を戻して感心していた。

 

 直見していた訳ではないので解らなかった事であるが、周囲六ヶ所の丸に刺している釘には番号が書かれており、更に“縦”に割られている。

 

 そしてその切断面は世界樹の方に向けられており、実は既に打ち込んでいる向こう側のポイントの釘と同じ番号の釘の切断面がお互いを向いている形にして突き刺していた。

 

 尚且つ中心の串は世界樹と同じもの。

 これはつまり、この場と世界樹周辺とを呪的に繋ぎ、同じような場として作り上げているという事であった。

 

 世界樹からあふれ出た力が六ヶ所のポイントに噴出すというのなら、仮初の世界樹から間接的に吸い上げてしまえば良い。

 

 幸いにも集中力は怪奇現象レベルであるし、力を集束する能力も世界一と言って良い彼だ。

 人間に作用してしまう魔力のトリガーとなってしまう分だけを彼の力で持って“適当”に吸い上げ、それを押し固めて別の事に使ってしまえばよい。彼はそう考えたのである。

 

 まぁ、それもこれも彼ならばこそ思い付き、そして彼だからこそできる事なのであるが、それだと扱いに困り果てるほど飛び切りでかい力を持った珠が出来てしまうような気がしないでもない。

 だがあの珠は力のベクトルをほぼ100%コントロールできるという、魔法使いらが聞いたら顎が墜落してしまうほど超絶なまでの使い勝手の良さがある。

 

 だから珠を小刻みに作って片っ端からしょーもない事に使ってしまうという手すらあるのだ。

 

 その使用法の例として、鳥人間コンテストをやってる湖をスゲェ綺麗にするとか、この廃墟の雑草の花を咲かせるとか。もっと考えて使えやっ!! と言ってしまいたくなるほどつまんない使い方である。

 

 しょーもない事に使用する理由は、スーパーアイテムだと気付かれ難いようにする為であるが、もったいない事この上もない。

 

 無論、後先考えないのなら幾らでも良い使い方はある。

 

 例えば出来上がってゆく珠を使って後に出来た珠を更に『集』『束』させるか、『安』『定』させて以前の珠のように発動するまで持ち歩けるようにして『護』の字を入れて女の子達に渡すとか、『豊』とか入れて砂漠に『転』『移』させて全く似合わないが平和貢献っポイ事をしてみるとか。

 

 何せアスファルトにスポンジ以上の弾力を持たせられるほどの理不尽でド反則な力である。

 その使い勝手の良さは悪の魔法使いはおろか、正しい魔法使いに知られる事すら危険な程。

 だからこそ安易に他者に知られるなと大首領様も口をすっぱくして言い含めているのである。

 

 しかし、仮に件の儀式をやるとしても『え゛? でもそれをおっ始めるにはドスゲェ霊力がいるでね?』という疑問が出てくる。

 依代を使うにしても、バイパスを繋ぐにしても、余波とはいえあの超巨大な樹の魔力を吸い上げるのだから、生半可な事ではないはずなのだ。

 まぁ、だからこそ学園側もこういった手を使うとは毛先ほども考えていないのであるが……残念ながらというか不幸中の幸いというか、その問題“だけ”はどうにかなっていた。

 

 前に心眼が、悶々としたものが溜まり過ぎて苦しんでいる横島に言った、これを行えばどうにかなるかもしれんという言葉の意味がそれだ。

 

 つまり、溜まりまくっているモノを横島の霊能力によって霊力に変換。この一連の作業を行うことによって全て搾り出して使い切ってしまおう、というのが心眼の考えだった訳である。

 

 人に自慢できないし、魔法使い達から言っても非常識極まりないのであるが、煩悩スターターという厄介極まりない能力を持った横島ならではと言えるだろう。

 

 霊気の流れを見る事ができる心眼がいるし、神通棍はないがそれに匹敵――或いは凌駕する霊能具である珠がある。そして無駄に高まっている霊力。

 この三本柱がこの作戦の要であり全てである。

 しかしそれでも彼にとっては必要十分以上の揃えであり、“普通であれば”今の悶々パワー持ちなら心配は無用であった。

 

 横島がぱんっと音を立てて勢いよく手を合わせ、呪式に意識を集中させる。

 

 と同時に、六ヶ所の釘がキィン…と甲高い音叉にも似た音を発して呪的にポイントと共鳴している事を伝えてきた。

 それに合わせて掌の中にある『束』の文字が浮かんでいる珠を発動させると、釘の丸から集った力がそ中央の円に集ってくる。

 やがて中央の円にポゥ…と静かに光が灯り、空中に力が集って凝り固まってゆく。

 串が立てられている円の左右には其々『安』『定』の文字が付いており、その力が妙な余波を出さずに無理なく力を集めてゆく。

 

 彼一人なら不可能だったであろうが、心眼とかのこのサポートがあるからこそできてしまう偉業。

 

 其々から集まって来る力のバランスを心眼が取り、小鹿は六か所から集まって来る力の圧力加減を地脈に整えさせる。

 この絶妙なトリオだからみそできてしまった(、、、、、、、)事態であった。

 

 

 ……余談になるが、ナナは兎も角として木乃香は彼の奥の手である“珠”どころか霊能力すらまとも見た事なかったりする。

 大丈夫なのか? という疑問も無いではないが、当の彼女が凄いなぁと感心してるだけであんまり気になってないようだし、何より横島はおろか心眼すら気付いていないようなので気にしない方向で。

 

 「わぁ……」

 

 「ふあぁ……」

 

 「ひゃあ……」

 

 色々と問題のある彼であるけど、こういった時の彼の集中力は人智を超えていて、普段のおちゃらけさは欠片も見えない。

 いや、言ってしまえば真剣に呪式に向かい合っている様はキリリと引き締まっていて妙にカッコ良く見えてたりする。

 そのお陰か所為か、横で見守っている三人から三者三様の溜息が漏れた。

 

 やっている事が詳しく解る訳ではないのだが、それがどれくらいとてつもなく、そして“裏”の常識からもド外れているかだけは理解できる。

 

 しかも命令された訳でもなく、頼まれてやっている訳でもなく、単に皆が困っているだろうからやっている事で、端的に言うとお節介であるのだが、お節介の一言で済ませるレベルの技術ではない。

 だからそんな技術を惜しげもなく、皆が困らないように無料奉仕で行っている事と、好意を持っているという下駄が働きかけて普段の彼より三割り増しでカッコ良く見えていたりするのである。

 

 そんな彼女達の熱い視線を受けている彼であるが、そのバケモノじみた集中の裏では激しい葛藤とは悶えとかが鬩ぎ合って大変な事になっていた。

 

 具体的には

 

 『ちゃうんやーっっ!!

  ワイはそんな眼で見てもらえる男とちゃうんやーっっ!!

  そんな眼で見んといてぇーっっ!!』

 

 『くうぅううっっ!!

  あんな風に無防備に腰掛けたら見えるっちゅーにっっ!!

  紺のセーラー服の円ちゃん!! キタコレーッ!!』

 

 『違うんやぁーっっ!! ワイはロリコンやないんやーっっ!!』

 

 『ああっっ!! 膝にナナを乗せとる木乃香ちゃん!!

  二人の可愛さが相俟って1000万パワー!! ドンブリ三杯はイケるっ!!』

 

 でな感じだ。

 

 何やら彼にとって取り返しがつかない思考が混ざっている気がしないでもないがそれは兎も角。

 まぁ、ポロリと考えている事をもらしてしまう何時ものアレは起こっていないのが幸いか。

 

 一般人はこんな雑念てんこ盛り状態で集中もヘッタクレもないのであるが、彼は横島忠夫である。一般人などではなく、言うなれば逸パソ人。

 雑念やら煩悩こそ彼にとってはスターターでありターボエンジン。その無駄な思考こそが彼の集中力を怪奇現象のレベルにまで引き上げてゆく材料なのである。

 霊力のラインを見守っている心眼も呆れ返る人外さであるが、これでもまだ煩悩全開ではないのだからどれだけドふざけた存在であろうか。

 

 元々の計画では、溜まりまくった煩悩を追い出すように霊力に込めて搾り出し、その無駄にドでかい霊力でもって世界樹から溢れた魔力を押し固めて悶々を使い切るつもりであった。

 

 しかし、円達が付いてきてしまった事、そして最近横島を見つめる視線に熱が篭り始めている木乃香が付いてきてしまい、思惑はいきなりズレを見せてしまっている。

 

 初っ端から躓きを感じていた心眼であったが、それでもこのまま悶々を抱えさせるよりはマシかと思い、不安を拭えぬまま彼女らが見守っている前で呪式を執り行う事にしたのだった。

 

 キャパシティが半端ない木乃香や、円ほどの感受性があれば今の横島から立ち昇る煩悩のトドメ色オーラが感じられない筈もないのであるが、眼前の珠にそれすら集束していっているので彼も一安心。

 

 まぁ、そんなろくでもないものが集束している珠は大丈夫なのかという不安もない訳ではないのだけど。

 

 ともあれ、そんな風に何だか色々と問題事が山積みのまま、横島らが考えたろくでもないお節介は始まったのであった。

 

 

 

 

        ******      ******      ******

 

 

 

 

 異常気象の所為と言われてはいるが定かではないが、確かに世界樹に溜まった魔力はその幹に、枝に、葉に漂っている。

 

 無論、一般人には何も見えないし感じられないレベルであるが、それでも勘の良い人間は光っているような気がするという程度には感じられているだろう。逆に言えば、そこまで魔力が高まっているのであるが。

 そのままならただあるだけ(、、、、、、)の魔力であるが、何故か学園祭の期間中になるとその魔力は一定の方向性を持って動き出してしまう。

 

 世界樹がうっすらと光る夜。

 その樹の下で意中の相手に告白をすると相手がその気持ちに答えてくれる。

 

 よくありそうな都市伝説――いや、都市は都市でも“学園”の都市なのだから学校伝説でもあるだろうが、『卒業の日にあの木の下で』とか、『あの鐘の鳴る音の元で』等といったものと同じような、どこでも聞きそうな伝説である。

 

 が、ここ麻帆良のそれはモノが違う。

 何せ本当に叶ってしまう(、、、、、、、、、)のだから。

 もっと正確に言うと『相手の気持ちもヘッタクレもなく叶えさせてしまう』だろう。

 

 これこそ先に述べた世界樹の魔力の効果であり、学園が警備している理由だ。

 何故かは知らないがこの世界樹の魔力、22年に一度の間隔で大解放の日を迎えて周囲六ヶ所のポイントがそれに接続してしまい、そのポイント近くで告白するとその願いを問答無用で叶えてしまうのだ。

 

 理由はサッパリ解らないが、『金が欲しい』やら『ギャルのパンティおくれ』といった即物的なものはこれに掛からないくせに、どういう訳かモノが告白となると達成率120%という無茶なレベルで成功させてしまうのである。

 

 ただ、どういう訳か発動のキーは恋心だという事だけは判明しており、傍迷惑にも程があるのだが学園側はその危険期間の間はポイント近くで告白行動に出ようとする者を力尽くででも排除していた。

 

 ナニこの乱暴者ドモ? と憤慨する者もいらっしゃるかもしれないが、学園側……魔法使い達にもこんな無茶をする理由は一応あるのだ。

 

 何せ『告白が成功する魔法』といえば聞こえは良いのだが、その実は相手の本心を無視して気持ちを作り上げる厄介なもので、いわば洗脳に値するものである。

 魔法使い達にとって洗脳系の魔法はタブーであるし犯罪だ。

 

 ……まぁ確かに、方法の無茶さは認めざるをえないのであるが。

 

 何せ告白しようとすれば強制撤収やら特殊弾による狙撃で意識を奪ったりしてるのだから。二十二年に一度っちゅーくらい間があるとゆーのに手を考えとかんかったんか?! と問いたい。

 兎も角、そんな学園側の緊張とは裏腹にお気楽ご気楽な学生らや噂を聞きつけた圏外の人間らが大量に物見遊山やらでやって来ていた。

 

 当然ながら我らが子供先生もそれに借り出されている訳であるのだが……何故か真名に同行して強制撤去を手伝う破目に陥っていたりする。

 

 「た、龍宮隊長~っ!!」

 

 「誰が隊長だ」 

 

 「これじゃあ銃撃戦(それも乱戦)じゃないですかぁーっ!!」

 

 彼が半泣きで喚くのも当然だろう。

 

 真名は見た目の落ち着きが中学生という範疇を飛び越えているし、長い黒髪をたたえたクールな美人。その人気は彼女が所属しているバイアスロン部だけでなく、高等部や大学部等の外部にも及んでいる。

 そんな彼女であるからだろうか、当然のようにモーションは多い。尤もその全てを断り続けているのであるが。

 

 だがドしぶとい事で知られている麻帆良の学生らはこの程度ではへこたれない。

 

 真名がこの世界樹エリアの警備についている為、この場から離れられないのであるが、そんな情報をドコで得たものか“諦めの悪い男ども”かせ大挙して訪れ、一縷の望みを世界樹伝説に賭けて彼女に対して連続アタック仕掛けてきているのだ。

 その上、タイミング悪く告白体勢に入っているカッポーも激増して告白者センサー(原理不明)が煩くなっていた。何と間の悪い話であろうか。

 

 だから真名は、周囲にガンタカを披露しまくって手っ取り早く告白者達を一掃していたのである。

 

 「ネギ先生 ここは戦場なんだ。

  安っぽいセンチメンタルは敵も味方も危険に巻き込むぞ。自重しろ」

 

 「自重も課長もないですよーっ!!

  ってゆーか、ここは学園内です!!」

 

 本日、三回目(、、、)となる一日目の午後。

 一回目は失敗(実は超の謀だったらしい)で終わり、二回目は超探しとのどかとのデート。

 

 その後、流石にサボり続ける訳にはいかないので、彼女らともに午後の時間に戻ってきた四人(+一匹)は、二手に分かれてやっと警備役に就いたのである。

 

 が――

 

 「そうは言うがな……

  感情反応がセンサーに引っかかるのはギリギリだし、

  樹が反応してからでは遅すぎるんだ。

  問題が起こる前に排除した方が安全というものさ。

  疑わしきは罰せよと言うだろう?」

 

 「そ、そうなの……かな?」

 

 『姐さん パネェっス……』

 

 しかし、ガンカタ使いの美女と妙に可愛いショタ坊やが一緒にいるものだから目立ちまくって逆効果という気がしないでもない。

 

 何かの撮影と思えるほど顔立ちの非常にヨロシイツーショットであるし。

 当の真名はそんな注目なぞ知った事かと言わんばかりに、ハンドガンからマガジンを引き抜き、新しい弾を装填してゆく。

 アレ? モデルガンって聞いたよーな気がするんだけど……とネギとカモが慌てるが当然無視。

 スカートなのに片膝立てて突撃銃の弾倉交換をするという、周囲の男どもに対するサービスまでかまして見せていた(無論、カモは大興奮)。まぁ、視線など気にしていないし無意識にであろうが。

 

 何だか知らないが異様な説得力があるし、何より問答無用。

 つーか、こっちが一の行動で止めようとしても十の速度で射殺(?)しまくるので追い付きゃしない。

 そんなこんなでネギができる事は、これ以上カッポーの被害が出ないよう、コッソリと魔法を使って危険エリアである広場か引き離す事しか出来なかった。

 

 地獄の特訓の果てに絶望の猛特訓を受けさせられている彼であるが、こういうコントロールの絶妙さにその成果が窺える。

 

 まぁ、平和活用できているのだから本望とであろう。

 

 「本末転倒のよーな気がしないでもないんだけどね……」

 

 『兄貴?』

 

 しかし若い男女を上手く真名の凶弾から逸らせられればられるほど、肩が落ちて行くのは何故だろう?

 

 戦争で得た技術を平和利用しているようなものだから気になるのだろうか?

 だとしたら、もっと平和活動する為には地獄の戦場を味合わねばならぬと言うのだろうか?

 何でもないよカモくん…と溜息にも似た暗い笑いが出てしまうのも……まぁ、仕方がないと思って上げよう。彼の為に。

 

 それでも一通り溜息を出し尽くしてしまうとネギも何とか気を取り直して仕事を再開。センサーが反応しかかっている男女を広場のエリアから引き離し続けた。

 

 無論、真名は相も変わらずスナイプしまくっているのだが。

 

 時に物陰から撃ち抜き、時に相手に接触するような死角から撃ち、集団のド真ん中でガンカタを披露しつつ乱射、と情け無用の問答無用。

 にべも無いというかクールというか……いやそれよか無茶にも程があるのだが、ネギにはある意味学ぶべき点は多いとも思えた。

 

 やってる事は自分以上にハチャメチャであるのだけど、世界樹の魔力は想像していたより広い範囲に作用してしまうようで、何だか知らないけど昨日より圧倒的に魔法関係者の少なくなっているように感じられる。

 

 だからこうでもしないと魔法というものの秘密も、魔法からの被害からも守れない。

 

 確かに引き受けた仕事であるとは言え、彼女の責任感の強さは尋常ではないらしく、その為には想い人に似た人間にすら引き金を引いたほどだ。

 ネギの生徒であり中学三年。無論、担任よりは年上であるのだけど、それでもそうまで出来るほどの覚悟を彼女は持ち合わせていると言うのか。

 

 ……まぁ、彼女の経歴を聞いたら年齢詐称疑惑も深まったりしてるのだけどそれは兎も角。

 

 『必要な割り切りってヤツかもな』

 

 「僕にはまだできないけど……

  それでも何時かは選ばなきゃならない日が来るのかな……」

 

 カモですら感心を見せているのだから、相当なのかもしれない。

 周囲の女生徒のインチキ臭い強さもあって自分の強化が遅々として進まない気がしているネギには、気が重くなる現実であった。

 

 「……尤も、

  バ楓が横島さんとかを連れて来て世界樹の力で告ろうと言うのなら話は別だが」

 

 「『は?』」

 

 「無論、古がノコノコやって来て混ざるのも可。

  いやいっそ二人一緒にゲットさせるというのも良いな」

 

 しかし、突如キリッとした顔でそんな事を当の真名に言い放たれたりしたら反応に困る。

 カモなんかは『おおっっ?!』とナゾの興奮を見せたりしているのだが、やはりナゾはナゾだ。

 

 「いやいや、今なら零と釘宮もつけるぞ。

  そしてこの期間中特別企画として近衛もサービスだ。

  メインの二人にこの三人をセットで付けてこれが何と……」

 

 「いや、いやいやいやいや、テレビショッピングじゃないんですから!!

  どーしたんですか!? 龍宮隊長、しっかりしてくださいよっっ!!」

 

 『パネェッ!! やっぱパネェっスよ姐さん!!』

 

 何だか知らないが楓の事が頭に浮かんだ途端、いきなり暴走してしまった真名。

 

 修学旅行からこっち、ずっと彼女らにストレスを与えられ続けられている為かクセになってしまっているのかもしれない。

 

 よく考えてみると、この時期のこの広場の危険性や警備の件は真名は予め解っていたのだ。

 にも拘らず、いやこれだけのアドヴァンテージを握っていたというのに、何でこれを思いつかなかったのか?

 ネギの表情を読んでいる内に、真名の思考はついにそこに突き当たり、その悔やみから感情の制御がヘンになってしまっているのである。

 

 それに――

 

 「……万が一の為、安心させて欲しかったんだがな」

 

 真名にはネギに洩らせない別の思惑があったのだ。

 

 余計なお節介ともいえるし、彼女らに対して失礼だとも言える。

 だが、それでも気持ちに区切りを付けていてくれれば、もし自分がいなくなる事態になったとしても別の土地で安心できていただろう。

 

 彼女らのごちゃごちゃした想いのほつれ。それが気掛かりなのだから。

 

 だから自分がいる内にどうにかなって欲しいと背を押し続けてきて、イラ立ちからおかしくなってしまっていたのであるし。

 可能性としてゼロではない、例の一件の後の逃走。ここ麻帆良を去らざるをえないかもしれない未来。

 加担した者としては無駄な行動ともいえるのだが……思っていたより真名は、

 

 「意外と気に入っていたんだな。ここが……」

 

 そう苦笑しつつトリガーを引いてまた告白未遂者を撃ち抜いてゆく。

 ころころと反応が変化しまくる真名に戸惑ってムンクと化したネギを他所に、彼女は気を取り直してターゲットを撃ち続ける。

 

 「やはり男女の仲は思う様にはいかんな。

  あいつ等の誰かがアクションを起こしてくれてたら少しは安心できたのだが……」

 

 と、思わず洩らしてしまったその言葉は誰の耳にも届かなかった。

 

 

 ポゥ………

 

 

 「……おや?」

 

 「え゛?!」

 

 『な、んだぁ? 樹が……』

 

 ――訂正。

 

 その“樹”を除いて、だ。

 

 

 

 

         ******      ******      ******

 

 

 

 

 あちこちで起こっているシリアス気味な空気何ぞ知る由もなく、横島は心の奥から湧いてくる煩悩を吐き出しまくっていた。

 

 ……何だか文章だけなら別の意味に取られ深読みされそうであるがそれは兎も角。

 

 今まで溜めに溜めたストレス(煩悩)を霊力スターターとして変換。その莫大な霊力と集中力でもって魔法陣モドキの力場をコントロール。依代を介して集まってくる魔力を更に変換して凝縮、珠の『安』『定』でもって一個の力へと凝縮してゆく。

 

 はっきり言って、超人的というよりは信じ難い神業である。

 しかし、こんな離れ業を行っている、“行えている”原動力が女子中学生達に篭絡されかかっている理性の反動だと知ったなら世の魔法使い達は涙目であろう。っざけんなっ!! てなもんだ。

 

 だが無常にもその儀式は滞りなく進み、尚且つ成功に向って爆走中であった。

 

 何せ彼も、このままでは人格が問われる事をやっちゃいそうなのだから文字通り必死なのだ。

 女の子達を大切に思えば思うほど、ギリギリと踏み止まっている理性が青息吐息になって即行で『もういいよね? パト○ッシュ』と挫けようとするし、モラルを守るはずの守護騎士達は信用が出来ない。

 今は幼いナナがいるからマシであるのだか、エヴァの別荘にいる茶々姉達が裏で何かやっててスゲェ怖い。<お兄ちゃんのお嫁さん計画>とか言ってたのがマジだったらどうしよう?

 『ふふふ……あのお嬢様達の何方がナナの“本当のお姉ちゃん”になってくれるのでしょうね?』

 等と脅してもくるし。

 そんなペースで進めば、夏休みには手を出してしまう事は必死。いや、必至!

 

 流石にそれは不味い。最後の砦であるロリ否定だけは死守したい。手遅れ感が異様に強いけど、気の所為だ! 気の所為にしといてっ!

 てな訳で彼は、本気の本気の全力全開でもって事に及んでいるのである。

 

 こんなアホタレな気合でやっている儀式ではあるが、脇で見ている側からすれば彼の表情は真剣そのものでシリアス状態。

 それは歴戦の退魔師が命を懸けて魔獣を封印している様にしか見えぬほど。

 

 シリアスな彼は役に立たないというが、内容がシリアスでないのなら別ベクトルで働きを見せるのかもしれない。

 現に見守っている少女らも、めったに見られぬ彼のシリアスな表情にボーッとしていたりする。

 本人のやる気と“ヤる気”のベクトルが全く繋がらないのであるから難儀な話もあったものだ。

 

 そんな訳だけでもないだろうが、霊気の流れに意識を傾けつつ心眼は内心で感心していた。

 確かに話の突端だけを聞くのなら、力の原動力は抑圧された理性の解放だし、スターターは煩悩だしと、常識人からすれば『ふざけんなっ!』てなものである。

 だが、よくよく考えてみるとこの男は煩悩というマイナスの力でもって空間を浄化したり、怨霊悪霊を浄化したり、迷える浮遊霊達を成仏させたりできるのだ。

 

 根本がドふざけたものであるので、多くの者が話半分にしか聞こうとしないのだが、ただ一人“それ”に気付いた者がいる。

 それは、“表”の真面目な魔法使い達ではなく、多くの魔法使い達から忌み嫌われている吸血鬼であり、所謂“悪の魔法使い”であるエヴァンジェリンその人であった。

 

 確かに根本は自分を繋ぎとめている呪いからの解放かもしれないが、それでも彼の為になっているのだから心眼も彼も感謝の念は失わない。

 

 彼の根本の力は狭い範囲の“概念”の書き換え。

 

 珠はその力そのものが具現したに過ぎず、初期の力であるサイキックソーサーですら物理法則を無視した防御を望めるのは、向ってくる攻撃の“拒否”だという。

 

 そう言われてみると当時はバンダナと呼ばれていた心眼の記憶にある力も、対戦相手の霊弾を翳したソーサーの前で裂いていた。霊弾の衝撃も破壊力も肉体に届かせずだ。こんな事は物理的にありえない。

 

 あの栄光の手という霊波の小手も、精霊から借りた霊波すら効かないゾンビ兵を一蹴しているらしい。

 

 精霊の力+本人の力よりも、一人の霊能力が勝れる。或いは浄化できてしまう等、霊動力学から考えてもおかしいにもかかわらずだ。

 

 『(あれから……こんな遠くにまで来てしまったのだな……)』

 

 魔法陣の魔力と霊力を共鳴させるという離れ業を行っている横島の波動を感じつつ、奇妙な感慨を感じて心眼は心の中でそう呟くのだった。

 

 

 木乃香はその儀式に取り組んでいる横島の顔をボ~っと見つめながら、何でこんなに気になってしまうのかと首を傾げていた。

 

 イケメンかといえばそうではないし、三高なんぞ夢また夢で程遠い。

 

 幾ら裏の仕事をしているとはいえ、表の職業は用務員なので年収だけで考えたら普通の女性なら足も向かないだろう。

 

 普段の行動もバカっぽくお間抜けであり、色仕掛け等にビックリするほど弱く、楓が腕にしがみ付くだけで理性が悲鳴を上げているのを目にする事も多々。

 これでどうして好意を向けられると言うのだろうか?

 以前、エヴァの別荘で零に、

 

 『アレの長所は側にくっ付いてないと解りゃしねぇぜ?

  選ぶとしたらそーとーマニアックな奴だろうよ。

  性質の悪りぃ事に気付いちまったら離れられねぇとキてる』

 

 と、褒めてるのやら貶しているのやら判断が難しい説明をされていた。

 この場合の側にくっ付く、というのはじっと様子を見てるという事も含まれているらしく、実際に彼を観察している内に木乃香も目が離せなくなってしまってる。

 円もその口らしく、最初は自分の身を守る為にその方法を学ぶ為だけの関係だった筈なのに、何時の間にやら口説いてもらう時を待つ体勢になっているし。

 

 楓と古はもうちょっとややこしい理由があるらしいのだけど、それでも似たり寄ったりの過程で今に至っているらしい。まぁ、取り返しがつかないとも言うのだけど。

 

 この流れのままであれば、木乃香は最初の目的のように刹那の相手としてチェックを入れていただけで終わったかもしれない。

 自分の幼馴染が受けていたという謂れの無い差別なんかする人間では決してないし、それこそ彼女の心を全力全開で守ってくれるだろう。

 彼の事だから、もし仮にまたそんな眼で見るような輩が現れたとしても、以前教えてくれたように相手を鼻先で笑って見下して哀れみ、散々コケにした挙句に有耶無耶にしてくれるだろう。そうやって怨み辛みが彼女に向わないようにしてくれるだろう。

 何しろ横島は美少女を差別する存在を心の奥底から本気の本音で哀れみ見下してくれるだから心強い。

 

 独特の空気を持っている彼がいてくれれば、苦労はあっても不幸にはなるまい。

 

 怒声はあっても悲哀はないだろう。笑いは出ても悲しみは訪れまい。

 

 喧嘩をしても仲は崩れまい。それほど相手の気持ちに合わせる事が巧みなのだ。

 

 そんな彼だからこそ木乃香が眼をつけるのも当然であるし、刹那の相手にと観察し続けていたのも必然であった。

 

 その彼女の想いが形をかえたのは……

 別の想いへとスライドしてしまった決定的な事件は、彼とその愛妹であるナナとの距離を感じ取ってしまった時からだ。

 知らない者が見たって想像も出来ないだろうが、この二人は血の繋がりはない。いやそれどころかナナは人間ですらない。

 血の繋がりのない女の子。それもゴーレムを引き取って家族として暮らし、妹として接している。

 それだけならまだしも、『人間の女の子』として接しているのではなく、『ゴーレムで妹』として接しているのだ。それも心底。

 

 “裏”の世界を知る刹那やエヴァからそれなりに話を聞いているのだが、ここまであっさりと熔け込ませられる人間なんぞ聞いた事がないらしい。

 

 相手の気持ちごとあるがままを受け入れ、ゴーレムの女の子として、

 可愛いゴーレムの妹(、、、、、、、、、)として真っ直ぐぶれず接している。

 

 自分が“お嬢様”である為だろう、麻帆良に来るまでどこか一枚壁を感じさせられていた彼女からすれば、そのまま丸ごと受け入れて接している彼の所作は好意を上げる事にしかならず、そして眩しくて仕方がなかった。

 そしてこの間見てしまった、二人(正確には、三人+一匹であるが)のお昼寝。

 大切な家族を愛しむお兄ちゃんと、そんな彼が大好きな妹の姿以外の何物でもない、あまりに眩しい光景がそこにあった。

 聞けばナナは時折スライム状態で抱っこして添い寝してもらっているらしいし、何よりスライム状態で肩に乗せて一緒に散歩している姿も目にしている。その事からも彼が姿形なんぞ全く拘っていない事が解る。

 

 口に出すのは恥ずかしいのだけど、ナナがちゃんと愛されている事がはっきりと解るのだ。

 それを感じ取れているからこそ、愛妹の笑顔が本物で、尚且つあれだけ幸せに輝いているのだろう。

 彼女の頭の中で決定的な変化を自覚してしまったのはあの瞬間だった。

 

 ――ナナちゃんがあれだけ幸せそうにしとんやったら……

 

    横島さんに想うてもろたら、どんな気持ちになるんやろ……?

 

 本当に何時からだろう。

 木乃香がそんな事を気にするようになっていたのは。

 

 

 円からしてみれば横島はややこしい想い人である。

 腹立たしい事に、この男は想えば想うほど気持ちを返してくれやがるから始末が悪い。

 大抵の男どもは、相手に想われているのが解ると調子に乗って色々求めだしやがるし、何より自分の都合に合わせた行動をとり始める。

 簡単に言うと、好きだったらこれくらいいいだろう? というヤツだ。

 

 だが、横島は中身が大人だからか、或いは素なのか解らないが、相手に好意を持たれると妙に初心くなりやがる。

 もうちょっとデンと構えて欲しい気がしないでもないのだが、好意を向けるとテレが大きいのかコチコチに緊張してくるのだ。

 その上、良い意味でこちらに思いっきり隙を見せまくるのだから始末が悪い。

 またそれがヤンチャ坊主のそれを思わせられて、円にクリティカルなのだ。

 

 「……」

 

 我知らず洩らしてしまう吐息。

 

 そんな彼がめったに見せない真剣な顔をして呪式に挑んでいるのだ。

 普段の彼とのギャップが大きく、また彼のシリアス顔は意外な程かっこ良く見えちゃうものだから仕方がないと言える。

 

 どうしてこうなった、という疑問が湧かないでもない。

 だけどそんな疑問もナニを今更という感がすぐさま塗り潰す。

 

 これは皆にも言われている事であるけど、彼は決してイケメンではない。

 

 行動も自他共に認められてしまうほどのトリックスターであり、行動言動共におバカな道化師のそれだ。

 

 本人の能力や才能、“裏”の顔を横に置いた表向きの職業は用務員でお世辞にも高給取りとは言い難い。少なくとも『彼です』と紹介して自慢できるランクには程遠いだろう。

 

 では嫌か? と問われると『ううん、全然気にならない』と答える自分を幻視できる。

  兎に角、この男は中身が濃い。

 いや“濃厚”、或いは“得濃”と言った方が良いだろう。

 人間的な厚みも凄いし何より経験が半端ではない。彼は異世界(異宇宙)人なのだから当然であろうが、それを差し引いても濃い。

 その濃過ぎる人生経験は当然ながらそこらの男なんぞ足元にも寄せない厚みと深みを持たせているし、何よりちょっと意外なくらい今風のチャラチャラしたものがない事も円のポイントを高めている。

 

 確かに彼は、複数の女の子に慕われていて誰かを選べない優柔不断な男にしか見えないのであるが、その理由を知っているのなら文句は言えない。というか、知っている上で皆が慕っているのだからしょうがない。

 誰も選べないと言うより、“誰かを切る”といった『選択』ができなくなっているのだから。

 そして何より皆が皆してそれすら受け入れている。

 腹立たしい事に自分もその受け入れている一人なのだ。

 

 出来れば選んでほしいなぁ……という気持ちが全く無い訳でもないのだけど、皆で取り囲んで寄ってたかって慕うという今の状況も嫌いではない。というよりかなり気に入っている。

 何せ濃いというのは、経験だけではないのだ。

 ――そう。皆に振り撒く好意すらも厚みがあるのだから。

 

 

 

 無自覚な内に横島のアプローチを待つ円と、彼に対する気持ちを膨らませ続けた木乃香。

 その二人がたまたま今日寄ってしまった事は偶然かもしれない。

 

 だが、彼が続ける作業を見守っている間、二人して同じ事を考えるという偶然がそれに続いている。

 

 横島の儀式は進み、やがて集束した魔力の高まりと共に簡易魔法陣の光も大きくなってゆく。

 溢れ出た力が物理的な波動を生み、風が纏い上がる。

 そのエネルギーのベクトル誘導と流れを固定させているコントロール能力は正に神業。幾らAFと使い魔のフォローがあるにせよ人智を超える凄まじさだ。

 

 そしてそれを脇で見てる二人の脳裏に浮かんだのは、彼の突拍子もない技術ではない。

 

 魔法陣の中、足元から立ち上がっている魔力。

 そして中から溢れ出ている余波は、彼の霊力と相俟って奇妙な安らぎすら感じられる。 

 

 円はそれ見、仮契約の一件を思い出しており、

 木乃香は話だけは聞いているその契約方法を思い出していた。

 

 特に木乃香は、未来的に誰かと行わざるを得なくなる可能性が強い家柄だ。

 関西呪術協会には仮契約という儀式はほとんど無いらしいのだが彼女は知らない。

 よって何時か行うであろうそれを、魔法陣の前に立つ彼の背中から幻視してしまっていた。

 

 彼とそれ行っている円と、彼からそれを思い浮かべてしまった木乃香。

 ベクトル違えど偶然にも同じ事を思い浮かべる少女が同じ場所に揃っている。

 

 しかし偶然が続けば必然と言う。

 ならばこう(、、)なってしまうのは必然だったのかもしれない。

 

 横島らは失念していたのであるが、この呪式は確かに安全性を高めるという理由だけなら文句の付けようのないものなのだが、その樹の魔力がどう作用してしまうのかという情報が抜けたままなので片手落ちどころか、綱渡り以外の何物でもないものだ。

 

 そして危険な状況は高まり続けている。

 

 何せこの呪式は天然自然のたいべんしゃ代弁者である かのこによって完全な流れを掴まれているのだから。

 つまり、魔の根源たる世界樹周辺とこことの霊的な繋がりを強く持ってしまっているのだから。

 

 奇しくも真名はこのタイミングで、誰かが横島に対して告白のアクションを起こして欲しいと願い、この場にはその願いの中に含まれている者がいる。

 

 そしてやはり必然だったのだろうか、それと同じタイミングで横島の儀式を見守っていた二人は同じタイミングで、ある同様の念を思い浮かべてしまった。

 

 

 『……ム?』

 

 「どうした?」

 

 『何か解らぬが急に魔力の方から流れが変わって来て……』

 

 「は?」

 

 心眼が気付いた時にはもう遅い。

 

 

      カ ッ ! !

 

 

 「ど、どないしたん!?」

 

 唐突に簡易魔法陣とは思えないほどまでに輝きが強まり、強過ぎる波動に横島が怯んだ。

 流石の状況にただ事ではないと驚いて少女達も腰を上げてしまう。

 

 『わ、解らんッ!!

  何かに共鳴したと感じた瞬間、樹の魔力の全てがヨコシマに集中……ッッ!!』

 

 心眼は横島だけでは手に負えぬと判断し、途中で言葉を切って彼を手伝う。

 だがそれでも押し寄せてくる力の本流が大き過ぎて手に負えないようだ。

 

 小鹿も慌ててその流れを変えようとするも、先ほどまでの緩やかさは消え、その魔力の流れは鉄砲水が如く押し寄せてきている。

 そのくせバイパスは全くの無事でいるのだから性質が悪い。

 何かしらの強い指向を持った魔力は怒涛の勢いでここに集まり続けていた。

 

 突然の事態に円達も呆然としていたのであるが、ここからでも見える世界樹が何だか光って見えている事にハッと気付いて二人してある事に思い立つ。

 

 「世界樹が共鳴して……」

 

 「魔力が横島さんに……って」

 

 刹那が木乃香に、広場に基点に魔力が溢れてて危険だから近寄ってはいけないと言っていた。

 

 学園の魔法使い達が、世界樹の魔力が心に作用してしまうから広場に近寄ってはいけないと言っていた。

 

 そして、麻帆スポに乗ってたネタである世界樹伝説。

 世界樹が光っている時に意中の人に告白すると願いが叶う。

 皆で笑って言ってたその話題が二人の頭をよぎり、情報テーブルの其々の席にカチリと収まった。

 

 「「ま、まさか……」」

 

 そして二人は思い至る。

 

 その頬をピンクに染め、自分らが何を考えてしまったかを、

 仮契約を思い出し、何を考えてしまったかを。

 

 『だめだ! もう持たん!!』

 

 「ぴぴぃーっっ!?」

 

 「う、うぉおおおっっ!!??」

 

 珠を使用してまで安定させ、心眼とかのこに手伝わせてバイパスを強化していた事がが仇となり、完全に固定されてしまっている魔力は完全なるベクトルを持って横島に雪崩れ込む。

 

 幾ら人智を超えた能力者であろうと、この都市の魔力の要である世界樹の魔力に敵う筈もなく、蹲って耐えようと焼け石に一雫の水以下。

 僅か一瞬の間にその強過ぎるその力の流れによって彼の意識は飲み込まれてしまう。

 

 直後、その意識と感情は本意を無視したものへと固定され、感情の根源を引きずり出され無理やり貼り付けられる。

 

 学園長がネギ達に呪い級の魔力と説明していた力がこれだ。

 

 「横島さん!!」

 

 「お兄ちゃんっ!!」

 

 我に返った少女らが声を掛けた時には既に遅く、彼は意識はすっかり塗り潰されていた。

 

 つまり――

 

 「……円、ちゃん……?」

 

 「は、はい?」

 

 片膝を付いてしまっていた横島は、何だがゼンマイ仕掛けのようにキリキリと軋むような固い動きで立ち上がる。

 

 その近くでは小鹿が目を回しているし、、

 彼本人からもムーン…ムーン… と、マシンを思わせる奇妙な低い唸りが響いていた。

 

 どこからみても異常がありまくる様だ。

 

 そして魔人を思わせるような輝きを眼に湛えた彼は少女らに顔を向けた。

 

 

 

 

 「さぁ、キス……しようか」

 

 「「え゛?」」

 

 

 

 ここに、突拍子もないパワーで乙女に迫るモンスター……

 

 否——少女らに ちゅーする気持に満々ち溢れた傍迷惑な怪物。

 

 

          キ ス 大 魔 王 が爆誕したのだった。

 

 

 

 

 




 又しても文体が硬くてごめんなさい。

 木乃香は一度情が湧くと、とても熱い女の子だと思ってる私。いや、京女は情が深いですしw
 そんな訳で、かかる状況で無自覚なスターターとして発動してしまった、と……
 呪式で繋がっている為、間接的に力が働いたというのは言うまでもなく私説です。
 理屈合わせと言われればそれまでですがw

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