-Ruin-   作:Croissant

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中編

 

 

 ――おはようございます

   麻帆良祭当日まで あと16時間です

 

   各イベントサークルの責任者は当日10時に学祭実行委員会本部へ……

 

 

 移動用プロペラの音なのだろうか、くぐもった低いエンジン音を立ててゆっくりと麻帆良の空を移動する、実行委員会の飛行船。

 麻帆良学園所有の飛行船というところに、この学園の無茶さ加減が見えて来るわけだが、“慣れ”なのか例の認識阻害なのか或いはその両方か、然程気にする者はいないようだ。

 外と中にテックレベルの認識に物凄い差が出来る訳であるから、考え様によっては拙い事この上もない仕組みであるのだけど、この地から離れれば曖昧になるようであるし正しく遊園地のノリでやって来る訳だからそれに救われているようだ。

 

 無論、問題が起こらない訳ではない。

 認識が曖昧になる結界なのだから、時と場合によっては裏に直結している危ない場所に近寄ってしまう可能性だってあるのだ。

 だからこそ見回り組も大幅に仕事が増えるのであるが、幾ら結界に守られているとはいえ一般人どころか学園にとっての“常識との水際”に誰とも知らぬ者達まで招き入れるのは如何なものだろう?

 こんなノリの土地を半世紀以上も続けている関東魔術協会には、別の意味で頭が下がる。よくもまぁ、大きな事故が起こらなかったものだ。

 

 さて――

 

 そんな世界との常識格差の話は横に置き、ンな事知りませーんと学生達は前夜祭に向けてラストスパートを駆けていた。

 学園祭当日の出し物のチケットから、前夜祭特別イベントのチケット、果ては後夜祭のチケットも既に販売されてたりする。

 

 其々の学年別、そしてクラス別やクラブ、或いは学部の出し物は兎も角として、個人やサークル等のものを入れればそこらのテーマパークより出し物が多い。

 当然ながら場所が取り辛くなる訳だが、結局は短期間での販売or演出となるのである意味書入れ時と言えるだろう。

 その為、街は乱痴気騒ぎ寸前の喧騒に覆われる訳で――

 

  ゴ ッ

 

 このような鈍い音が響いたとしても“異常”だと気付きにくい。

 

 どう見てもヨーロッパの街並そのまんまであるのだが、実のところ学園内の施設の只中であるので、必需品の搬入時等以外は車の立ち入りは禁止されている。

 だから無骨なガードレールは無く、歩道と自転車道とを隔てるポールやら手すりやらがあるのだが……その一つが、何の前触れも無く今の鈍い音と共にいきなりひん曲がった。

 

 それでも往来の人々は、一瞬立ち止まりはしたものの、気の所為かと首を傾げる者が数名いた程度で、そのまま歩き去ってゆく。

 別に調子に乗った訳ではないだろうが、そのまま壁やら街灯やらも同じように凹んだり折れたりする。

 いやそれどころか花火の音に紛れてはいるが、何もない空間からも打撃音だとか衝突音も発生しているのだが、やはり誰も気付かない。

 

 この街に敷かれている認識阻害の魔法……何かしらの理不尽な事象すら誤魔化されてしまうという危険も孕んでいるそれもあって意識に残り難いのだろう。

 

 人々は祭り騒ぎの平和な光景に混じり、激しい打ち合いなどを感じても認識できず歩き去ってゆくだろう。

 理不尽な速度で、何かと何かが戦闘を行っている――等と理解する事も無く。

 

 

 

 

 「うぉおっ!? しつこいっっ!!」

 

 「蹴り足に勢いを感じ無いアル。そのくせ踏み込みが早いのは……」

 

 「式鬼……いや、使い魔の類でござろうな」

 

 立ち並ぶ建物や人ごみの隙間を縫い、三つの影が走る走る。

 壁を蹴り、屋根を蹴り、目に見える足場を蹴り、時に何も無い空すら蹴って駆けている。

 

 一の影は風のように軽やかに。

 二の影は鋭くしなやかに。

 三の影は……何というか、垂直の壁や屋根を滑る様に掛けているのだが……飲食関係者は耳にしたくないカサカサという音と共に。

 

 ぶっちゃけ最後の一人は人類判定したくないのであるが、兎も角その三人は一人の少女を守るべく、ハウンドドック並にしつこい追っ手から絶賛逃亡中なのだ。

 だが敵も然る者。件の追跡者は速度は兎も角として、前述のようにひたすらしつこく、ずっとずっと付いて来る。恰も、こちらにビーコンでも付いているかのように。

 

 『恐らく超殿の霊波……いや、魔法的なものでターゲットロックでも仕掛けているのだろう。

  術者の知覚範囲を超えないと無理だろうな』

 

 「つっても、こうも蝿みたくしつこいと難しいぞ」

 

 相手を探ってくれている額の相棒の言葉にやや安心させられるのだが、そのしつこさに定評がある彼ですら呆れるその付きまといには溜息が出る。

 尤も、相手を蠅扱いしている当の本人は疾走するゴキブリの様。彼が会得している唯一の魔法。命がけで覚え(させられ)た身体強化魔法の詠唱そのものがそーなんだからしょうがないのだけれど。

 

 とは言っても、彼の引き出しはそれだけではない。手荒な事になるのだが退散させる手がだって持っているのだ。

 

 しかし――

 

 「鈴ちゃん、あいつら何なんや!?」

 

 殺……もとい、ヤって良いのか悪いのか判断に困るので、念の為に被害者(?)に問う事にした。いや、実のところ術者と繋がりを持っている式神寄りの使い魔等、倒すのは難しくないのである。

 すると彼の直側を並んで駆けている背の高い少女の腕の中、当の被害者(?)は、自分の周囲にフォーカスを掛けて眼を潤ませつつキラキラと輝かせるという胡散臭さ爆裂な雰囲気で、

 

 「実は私……悪い魔法使いに追われてるネ。皆に助けて欲しいヨ」 

 

 等と言いやがった。

 

 前述の通り胡散臭さ爆裂で、ナニこの美人局と言いたくなるほど わざとらしさ満々でムンムンである。

 ちったぁ気の利く人間なら即行で、『ウソだっ!!』と鉈でも持って叫ぶだろうし、それ以前にその辺の人間でもジト目を見てしまうだろう程のざーとらしいレベルだった。

 要はバレても良いと思っているだろう程度の演技レベルでのウソなのだろうが……

 

 

 「何とそうだったでござるか!?」

 

 「確かに、超はスゴイ天災……いや天才アルよ!!」

 

 「成る程っ 相手は所謂一つの悪の魔法使いか!!」

 

 

 コイツらは揃いも揃ってバカだった。

 

 信じてくれるのはありがたいのであるが、どーにもこーにも単純すぎて後頭部にでっかい汗が浮かぶ。 

 特に小麦色の中華な娘は親友であるだけに、そのチョ○Qのゼンマイ並な単純思考には涙が出そうであった。主に未来的な心配で。

 

 兎も角、一大イベント麻帆良学園学園祭の前夜祭は、朝からこんな問題だらけで始まりを迎えるのだった――

 

 

 

 

 

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         ■二十五時間目:イマをイきる (中)

 

 

 

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 毎年の事であるが、この時期になると麻帆良の中はテーマパークと区別がつかなくなる。

 

 元々ノリが良過ぎる人間が集まっている事と、『こんな事もありえる』と思わせられてしまう魔法結界による認識阻害による相乗効果か、毎年どんどんエスカレートしてゆくらしい。

 今も大通りの向こうには(木製とはいえ)凱旋門がどどーんと突っ建っており、道化師モドキやらキグルミ,ぬいぐるみが練り歩き、ロボットは駆け、仮装行列が突き進む。

 建物の間は旗で繋がり、色とりどりの垂れ幕や暖簾なんかが街の色彩を変え、空には大学部の飛行機が飛び、何でこんなものが…と慣れぬ者は呆れ返ってしまうほど巨大な飛行船も浮かび、開幕(?)の余興か色とりどりの風船も舞う。

 

 ココって日本? と首を傾げてしまう光景。

 写真を一枚パチリと撮って校区外で見せれば、誰一人として学園の町並みだと信じてくれまい。それほどの異文化な光景と賑わいなのだ。

 

 そのように街は浮かれ返っており、文字通り浮き足立っている。

 追跡者達はその人間達の喧騒を見下ろすかのように建物の上を駆けていた。

 

 「半分は片付けたアルが……まだ十体はいるアル」

 

 「本命は後ろの……三人? に分かれてるようでござるよ。

  一人は……屋根の上から来てるでござるな」

 

 「あの影法師、屋根の方の動きには合ってねーな。

  つー事は残りの奴らか」

 

 流石に二人は氣を追えるからだろう、そう状況を告げると、心眼ごしに様子を窺っていた横島はゲンナリしながらそう補足した。

 彼女らは頼もしいのであるが、それ故に付いて来れる奴らが嫌過ぎるのだ。

 

 「影は散開してないみたいアルが……」

 

 「後ろの三つが二手……いや、ギリギリ三方に散りつつあるでござる。

  実に解り易い包囲戦でござるな」

 

 イタリアの朝市なんだか下町の商店街なんだか判断が難しい光景の陰に身を潜めていた三人と一人。

 やり過ごそうとはしているのだが相手は追尾型の使い魔らしく、中々その眼を誤魔化し切れない。

 尚且つ念話か何かで連携を取っているようで、どう距離を置いても微妙に位置をズラしつつ迫ってくる。

 とはいえ、追われる側も只者ではないので追う込もうとしているのは直にピンと来ていた。

 

 しかし大半が本体ではなく使い魔だというのも問題である。

 どれだけ退散させてもそのつど召喚されれば、戦っている分こちらの疲労が大きいだろう。

 

 いや連戦ができないという訳ではない。単にそうなるとかなり派手な戦いとなってしまうのだ。前日という事もあって外部の人間も多いので目立つのは拙いのである。

 

 「まぁ、実のところ倒すだけなら簡単なんだが……」

 

 「真でござるか?

  してそれは如何なる……」

 

 「いや、あの銀髪のガキ用に考えてた方法でな。

  言っちまえば呪いとか<返りの風>の応用で、

  式神やら使い魔を介してこちらの攻撃を本体に届かせるって方法なんだ」

 

 「ほほう」

 

 『尤も、まだ思いついて直なのでそんなに鍛練できておらん。

  というより、方法が方法なのでそう鍛練する訳にもいかんのだ。だから加減が難しうてな。

 

  何せヨコシマは霊力集束が特化し過ぎておる。

  こんなバカげた高出力霊波で使い魔を依り代に霊撃を与えると大変な事になる。

  最低でも相手の霊気中枢が完全にイカれてしまうだろうよ』

 

 「つまりぶっちゃければ、最悪呪殺しちまうんだなー これが」

 

 「そ、それは……」

 

 それはちょっと……と楓と古は眉を顰め、超は冷や汗を垂らしていた。

 

 さっきからずっと感じていた事であるが、この三人は彼女が知る人間たちよりずっと戦いなれし過ぎている。

 特に横島は自分より強い者との戦いに慣れているのか、軽口は叩いても用心は怠っておらず、楓達にも相手を直接見たりなるたけ姿を見せたりしないようにと指示をしているのだ。

 だから手加減なんぞは殆ど考えていないようで、無理だと判断すれば彼女らが危ないと判断すれば躊躇なく先ほど口にした手を使うかもしれない。

 

 確かに超からすれば追っ手の“女性”は邪魔者の一人。そんな障害が消えてくれる事そのものはありがたいと言えるのであるが、流石にこんな事で“彼女”を犠牲にするのは哀れ過ぎる。

 そうなると不必要に用心を深くされ、自分らの行動の重い足枷となるだろう。覗き魔の逃走レベルの事件が、謎の勢力によるテロ攻撃という大事件になればそれも当然か。

 可愛い女の子が関わっている事と、戯言をそのまんま受け取ってしまうアホ三人がいるのだから当然の事態だったのかもしれない。

 

 そんなに簡単に<呪殺>ができるという横島にも戦慄していた事もあるが、内心、超は頭を痛めていたりする。

 

 「いや殺っちまっても霊波攻撃だから何がなんだか解んねーだろーし、

  知らぬ存ぜぬを貫くって手も……」

 

 「その代わり立派な前科持ちでござるな」

 

 「バレなきゃ犯罪じゃないもんっ」

 

 何だか話が予想通りどんどんヤバイ方向に向かってゆくよーに思うのだが……おそらく気の所為ではあるまい。

 横島的に言うと、後々の禍根を断つだけなのでアッサリしたものであるし、尚且つ美少女と謎の敵を天秤にかければ、揺れる事もなく美少女の方が地に付くだろう。謎の敵なんて曖昧なものは羽毛より軽いのだ。

 確かに今の彼は前以上に女子供に甘く、未だトラウマを癒せられないので手を上げられない。

 だから術者が女性だった場合、胸の一つも痛むかもしれないのだが――それが彼の知人を傷付ける<敵>なら話は別だ。

 

 楓達と一緒に居る上、横島としてもこれだけしつこく追われているのでイラつきも増している。

 これ以上時間をかけて追っ手を増やされるのも面倒であるし、向こうが手段を選ぶ事をやめてしまった場合は碌な事になるまい。

 そうなって周囲の少女らに危害が及ぶのは是が非でも避けたい。

 だったら自分が泥を被った方が手っ取り早いと、短絡思考に傾きかかっているのもまた事実。

 

 しかしそんな横島らは兎も角、超は追っ手が何者か解っているのだ。

 だからここで軽い怪我をさせるだけでも事は大きくなり、動き難くなってしまう事も当然理解している。

 

 「あー……私としてはここを逃げ遂せるだけでOKヨ?

  下手に死傷者が出た方が厄介な事態を押しつけられるかもしれない訳だしネ」

 

 だからだろう。そう被害者(?)である当の超からそう言ってきたのは。

 その言葉に、あぁそれもそうかと思い立つ三人。

 成る程。確かに死傷者が出れば学園サイドも揉み消すのは大変であるし、裏で大事にされかねない。

 『そんな人は来なかった』とする方法も無いではないが、学園内に入ったという証拠が残されていた場合、それを逆手に取られて何故隠す? と詰め寄られたらもっと拙くなる。

 

 いや、どさくさに彼女の研究データを持ち出されかねないではないか。

 そう考えてみると、余り事を起こすのも拙いと感じられた。

 

 三人が手を考え始めてくれた事を見、内心ホッと安堵の溜息を吐く超。

 自分の事を本気で按じてくれている事はとても嬉しいのであるが、無駄に頭が回る三人であるからこそカッ飛んだ思考をしてくれている訳で、単純バカであり思慮深いという訳の解らない特性持ちの三人の扱い辛さを痛感し、超は疲労の溜息を吐いた。

 

 しかし、そんな超の心情を知る由もない三人は、追撃もダメだとするとどうすれば良いというのか? という事に策を練らなければならなくなっていた。

 このまま駆け続けるのは心労が堪るし、こちらは念話が使えないので助けも呼べない。結界でも張られているのか携帯は何故か圏外になっているし。

 

 ――とすると?

 

 「なるほど……

  ならばオレの真骨頂。後ろに向かって全力前進を行うとしよう」

 

 フッ 等とわざとらしく前髪をかき上げて格好をつけるのだが似合わないにも程がる。それにぶっちゃければ大逃亡であるし。

 それにしても即座にこの一択を自信満々に口にするところにはやはり横島である。尤も、事を大きくしないようにするにはそれ以外手がないのだが。

 

 『ま、妥当な選択だな。

  コヤツのみっともないが感嘆する逃げ足に敵う生物など地球上に存在せん。

  何者かは知らんが向こうもそんなに大事にはしたくはないだろうし、見失えば諦めるだろう』

 

 「では拙者らが撹乱に出た方が良いでござろうな。

  拙者とて遁走が出来ない訳ではないでござるが、

  横島殿の害虫もひれ伏す逃げ足は次元が違うでござるし」

 

 「……何だろう?

  信じてくれているし褒めてくれているのも解るんだけど、

  物悲しさばかりが湧き上がってくるのは?」

 

 極自然に交わされるあんまりな言い様に、しゃがみ込んで涙という墨で鼠を描き始める横島。

 それでも彼女らは全く気付かぬように手筈を整えている。つーかガン無視だ。

 哀れさを増した彼の煤けたその背中は、それて見た超が思わず肩に手を置いて慰めたくなったほど。

 

 「で、私も足止めアルか?」

 

 「古は防御専門となれるでござろう?」

 

 「ああ成る程」

 

 撹乱ならば横島の右に出る者はいない。世界最強と言って良いだろう。

 だが、それより何より逃げ足は更にその上を行き、楓の言うように敵う者はいない。何せ神魔とタメ張れるレベルなのだ。

 

 それでも足止め役に楓が古を選んだのは、彼女の身体能力も裏に届くほど人外じみているし、何より土地勘は横島よりずっと上だからだ。

 無論、横島が変態的な超感覚を持っている事も知っているし、いざとなったらどんなド反則だってこなすだろうも理解している。

 

 だが相手は超を、三人共通の知人を追っている。

 

 追跡者が何者かは不明であるが、横島が件の者達を<敵>だと判断してしまうと手加減は消え、始末に回ってしまう可能性が高い。

 口には出さずとも解る。楓も古もそれを危惧しているのだ。

 

 相手を気遣っている訳でも、学園側や超の迷惑を危惧しているのではない。

 横島に掛かる迷惑――いや、彼が後に一人で後悔し、傷つくかもしれない。その事“だけ”を心配しているのだ。

 

 二人のそんな心遣いを知ってか知らずか、横島は意外なほどあっさりと分担を受け入れると、楓から超を受け取って抱き上げている。

 その際、『むぅ…っ』等と何やら羨ましげな唸りが聞こえたよーな気がしないでもないし、直後に超がニヤリとして横島の首に腕を回した事も興味深いが、それはさて置こう。今は気にしている暇はないのであるし。

 

 「ん~と……鈴ちゃんのコレ、何か仕掛けあんの?」

 

 抱き上げた際、コートに触れた彼はそう問うた。

 こんなに目立つ姿で逃げまくっていた事もあるが、直に手に触れた横島の勘に何となく引っかかっている。いや何よりこの娘なら仕掛けの一つや二つくらい施してしていそうなのだ。

 

 尤も、携帯が繋がらないのも彼女の装備品であるジャマーの所為だったりするのだが、テクノロジーなのでそれには気付けていない。

 

 「アイヤ よく解たネ。このコート、私特製の魔力迷彩付きヨ。

  まぁ、アイツらの抗生魔法喰らて故障中だけどネ」

 

 「魔力迷彩って……どこまで非常識なモン発明してんだ」

 

 非常識さで人の事言えんの? と三人(+額から)の視線がプスプス刺さるが気の所為だろう。

 

 「んじゃ、ちょっと暑っ苦しいだろーけど我慢してくれ」

 

 「お?」

 

 横島は超のコートの襟に垂らしているフードを立て、彼女の顔を包むように隠す。

 そして大き目の白いコート……間近で見るとローブと表現した方が正しいようだ……でくるりと完全に包み込み、所謂お姫様だっこのままタイミングを待つ。

 その際、『アイヤ 私お持ち帰りされるカ?』等と保護対象にからかわれたり、何か二人分くらいの妬ましげな視線がじりじりと焦げ付くように熱さを増した気がしないでもないがそれはやっぱりスルーである。

 

 ――しかし、彼女の視界を覆ったのは敵(?)からの認識を誤魔化すだけの理由ではない。

 

 横島は身を隠す為に立膝の体勢で様子を窺っている様であるがその実、超を抱き支えるのにあまり使わなくなっている左手に霊気を集束していたのである。

 

  「――あ」

 

 と二人が気付くより前に、彼は生み出した奇跡の珠に『直』と一文字入れ、超のコートの背中側に押し付けた。

 

 バシュ!!

 

 「?」

 

 押し付けたのが腰の側だった為かフードに遮られて超には解らない。それでも異様な波は感じられたようだ。ピクンと彼女が反応している。

 しかし如何な天才であろうとその珠の持つ不条理で不可思議な力は理解は出来まい。まさか機能が停止していた魔力迷彩が復活している等と。

 彼が心眼に確認するように意識を向けると、額から『ウム』と肯定が帰ってくる。心眼が見えるような霊気まで遮られるわけではないものの、奇妙な“ぼやけ”が発生していたのが解ったのだろう。

 

 その所為かどうかは不明であるが、今までしつこく追い続けてきた使い魔(?)が戸惑うように足を止めている。

 横島はそれを確認すると、新たに二つの珠を生み出し、素早く文字を入れて無言で楓と古に渡した。

 

 「例え撒けても九分くらいしたら使って。それと目標は“家ン中”な?」

 

 「承知」

 「了解アル」  

 

 そこに込められた文字を見、二人は即座に納得。彼の策の大よそを一瞬で理解していた。

 ならば拙者から、と楓はクナイではなくその辺の石を拾って氣を込め、礫として立ち竦む影に放つ。

 

 ぱぁんっと風船が弾けるような音がし、やはり風船のように弾ける影。

 放つと同時に楓は地を蹴り、古もそれに続く。

 

 気配を消し、人ごみを縫いつつ素早く駆ける影二つ。

 おまけに礫を放ちつつ移動を始めた事により、別の意味で目立った動きを見せた“囮”に、使い魔(式神?)の意識はそちらに集中していた。

 

 そして横島はそんな隙を見逃すような男ではない。

 

 「ふ……」

 

 ズシャァアッ!! と音が聞こえてきそうなほどの自信を満々々々溢れさせ立ち上がるこの男。

 

 術師と使い魔の意識が逸れた一瞬の隙。その隙のその無音の旋風は巻き起こった。

 そして彼が立っていた場所に残るものは何も無い。

 居たという形跡は塵も残さず消えさり、潜んでいたかもしれないという可能性も残さず、通行人達の疑念や何かが通ったという認識すらも置き去りにし、只でさえ家具の隙間を駆け巡るゴキブリすら平伏する すばしっこさを持っているというのに『隠』という珠すら用いて彼は大遁走を行っていたのである。

 

 もはや裏だろうがなんだろうが、人間の技や術程度では彼を追うなどという事は出来まい。まさしく次元が違うのだ。

 

 尤も――

 

 「ふははははは……

  このオレを追うなどと笑わせてくれる。何者かは知らんが舐められたものよ。

  魔族らをも感嘆せしめたこの逃げ足、とくと味わうが良いわ!」

 

 悲しいかなその神域に手が届きそうな自信は余りにスカタンで物悲しいものだった……

 

 

 

 

 

 (魔族“ら”を感嘆……?

  こちらの世界にはそんなに悪魔達が出ていたという記録は……となると……)

 

 

 

 

 

        ******      ******      ******

 

 

 

 

 

 ―二手に分かれた……? やはり複数犯か―

 

 ―どうなさいます?―

 

 認識阻害の魔法を絡め、一般人の意識から逸れて人ごみを縫って駆ける影三つ。

 一つはスーツ姿のスリムな黒人。

 ここ、麻帆良学園の魔法教師ガンドルフィーニ。

 人々の目には認識されにくい状態になっているが、それ以上に彼の動きは風のように素早く獣のようにしなやかだ。

 

 二つ目は女性……それもまだ年若い少女だ。

 その着ている制服は麻帆良学園の高校生、聖ウルスラ女子高等部のもの。

 実際、彼女はウルスラの二年生であり、この学園の“裏”に関わる魔法生徒だ。

 

 最後の一つもやはり魔法関係者。

 着ている物から解る女子中等部のそれ。手にしっかと握り締めている箒がやや周囲から浮いているが、認識阻害のお陰か然程でもないようだ。

 

 朝の会合中、その箒を手に持っている少女が空から様子を窺っていた“機械”に気付き、上役であるガンドルフィーニらと共に仕掛けた不審者であろう人物を追っていたのである。

 その距離は徐々に詰められていき、応援に連絡を入れられた事とウルスラの女生徒が影使いである事もあって、余裕を持って対象を確保出来る間合いをずっと計っていた。

 確かに最初の方こそ相手も認識阻害(のようなもの)を使用していたようで意識を向け辛かったのであるが、何とか抗生魔法を使用してターゲットロックに成功。後はずっと位置を特定できていたので詰め寄って確保、という段階になっていたのであるが……何と唐突に対象の逃走速度が上がり、尚且つ反撃まで行ってきたのである。

 

 これには流石にガンドルフィーニも驚き増援を急がせ、自分らは足止めをしようと追撃パターンを変えたのであるが、何と相手は追い込もうとする方向とは真逆の方向に逃げる。

 

 打ち上げられる花火の音に合わせて威嚇攻撃も行うのだが、あろう事か相手はその攻撃を読んでいたかのようにその方向に飛び、尚且つ攻撃を完全に捌いてこちらが怯んだ間隙を潜って真反対側に駆け抜けて行く。

 

 無論、三人とてド素人ではない。ならば…とガンドルフィーニは女生徒の操る影と連携してわざと間隔をあけて呼び込むように動くのだが、どういう訳かそういったものには全く反応せず、全力で駆け抜けて行くのだ。恰も迎撃をかけてやろうと待ち構えている時に限って隙間に逃げてゆくゴキブリが如く。

 

 『『『な、何て嫌らしい逃亡者……』』』

 

 等と三人でそうぼやいてしまうほどに。

 

 だが困惑はそれだけではない。

 何とターゲットの位置認識がぼやけたと思った瞬間、イキナリ二手に分かれたのだ。

 ギョッとする三人。だが理由に感けて愚図愚図している暇はない。

 ガンドルフィーニは慌てて指示を飛ばし、自分と少女らとを二手に分けて追撃を再開した。罠臭いのであるが他に方法がないのだ。

 

 だがしかし、彼の苦労は悲しいかな空振り。肝心の捕獲対象はとっくの昔に認識外だったりする。

 読みが甘いっちゃあ甘いのだが、彼らの想像より更に斜め上の存在なのだからしょうがない。

 

 しかしそんな事を知る由もない彼らからしてみれば、このままではジリ貧という苛立ちの最中。

 二手に分かれたという事もあり、しっかりとした足止めをかけねばならない。

 

 ガンドルフィーニは気持ちを切り替え、懐から銃を取り出して相手の軸足が向かうであろう所に向かって引き金を引いた。

 周囲の喧騒と術によって消音が程よく効いている。タタタンと軽いノックのような三点バーストの音が響くが誰に気にならない。

 足払いにも似た射撃によって体勢を崩させ、その隙に距離を詰める。まぁ、普通の戦法であるが、魔法による強化も相俟ってかなり効率が良く手堅い戦法なのであるが……

 

 「なっ!?」

 

 刹那、強化された彼の感覚が、自分に向かって飛んでくる何かを察知し、思い切り身を捻って“それ”をかわした。

 命中こそしてはいないが、風を切った音と手にしている銃を掠めた時の衝撃によって何かは解る。何より風切り音で理解できる。

 

 「撃ってきた?! 銃を持っているのか?!」

 

 飛んできたのは銃弾。それも三点バーストで撃ち返してきた。

 これは勘であるが、恐らく相手の得物は自分と同じくもの(M93R)だろう。

 おまけに魔法でもって狙いをつけているのか恐ろしく精密な射撃であった。

 

 「これは……思ったより厄介な相手だったかもしれんな」

 

 彼は懐からナイフを取り出し、未だ影しか追えぬ相手に対して本気で戦うという決意を固める。

 その心構えすらも空振ってしまう等と知る由もなく――

 

 

 

 

 

 「くっ 犯罪者の分際で……っ」

 

 ガンドルフィーニと共に、不審者を追っていた魔法生徒、高音=D=グッドマンもまた詰めに入れず苛立ちを隠せなかった。

 

 彼女と妹分ともいえるパートナーの佐倉愛衣が受け持った方は、ムカつくほど回避能力が高く、また性格も悪いのかやたらと挑発めいた行動で翻弄してくる。

 それがまた彼女らのストレスとなり、使い魔と連携攻撃の大半が間をズラされて空振り。当たらないのではなく、“上手くいかない”ようにされているのだから性質が悪い。

 いや確かに自分の攻撃は当たるし、愛衣の武装解除の魔法も命中するのであるが、当たったと! と喜んだその瞬間、対象はミョーに大げさなジェスチャーと共に弾け、空気に溶けるように消えてしまうのだ。

 

 「分身……? いや、幻影?

  でも、質量を持つ幻影なんて……」

 

 向かい合うは十を越す白マント。

 最初姿を見せた時は確かに一人だったのであるが、あっと驚く間も無くいきなり分裂したかのようにその数が増え、使い魔と戦いを始めたのである。

 

 その背丈は自分ほどかそれ以上。だが、正確な体格は不明。

 姿を見せるのは空を跳んでいる瞬間くらいで、マント……どうもどこかの屋台のテント部分っポイ……の長い裾が足先を覆い隠しているのでサイズを曇らせているのだ。

 

 顔……も、この学園祭の乱痴気カーニバルで使われているのだろう、烏の羽っポイもので作られたデザインのマスクで隠されていてサッパリである。

 そのデザインも狙っているのか偶然なのか、こちらの使い魔のそれに似ていて腹立たしい。

 そいつらがこちらの攻撃が当ったら当ったで、大げさにやられたーと演技をしてポンっと間抜けな音を残して弾けるのだ。

 

 手ごたえはある。あるのだがニセモノ。そして弾けた後に『やぁ、残念』とばかりに別のが出て来た肩をすくめるのだ。それがまた腹立たしい事この上もない。

 

 「バ、バカにしてぇ……っっ」

 

 いや苛立ちからする言いがかりなのだが、実のところ全然間違っていない。

 逃亡者側は相手の攻撃からやや実直過ぎる事を見抜いており、『真似た』り『わざと姿を見せた』りして挑発しているのだ。

 

 ……この辺、師事している者の人となりが解るというもの。

 

 ―お姉様っっ!!―

 

 「!?」

 

 悲鳴のような愛衣の念話を聞き、自分が一瞬ではあるが思考に気をとられてしまっていた事に気付きハッとして頭を上げる。

 

 だが少し遅い。相手の仕込みは終了してしまった。

 白マントが空中で体勢を崩した……ように見える。

 それを機と見たのだろう、高音が集中し切れていなかった為かオートで動いていた使い魔達が殺到すた。

 

 その瞬間、

 

  ダ ラ ラ ラ ラ ラ ッ ッ ! ! !

 

 ドラムのを叩くような音と共に、使い魔たちが蜂の巣になったのである。

 呆気にとられる高音と愛衣の目の先で、存在構成が分解して消えてゆく使い魔。それを確認したのだろう、屋根の上で白マント達がイエーイとハイタッチをしている。実におちょくりが堂に入ってて腹立たしい。

 

 ―お、お姉様……―

 

 「く……」

 

 愛衣からの念話にも動揺が伝わってくるのだが、高音もそれを隠せない。

 別に相手をそんなに侮っていた訳ではないし、手を抜いているつもりも無かった。

 だが、相手が殆ど実力を見せていない上、逃げるばかりで戦い方も見せていなかったので技量を測りかねていたのだ。

 

 「今のは……単純な物理射撃ではありませんわね。

  かと言って、魔法の矢でもないようですし……?」

 

 ――弾丸に氣を込めていたような?

 

 と思いはしたのだが、氣を使う戦闘で知られる神鳴流は飛び道具を使わない。というよりあの流派は剣氣を放つ事が飛び道具と言えよう。

 或いは魔力で修正する魔弾を放つ者がいるというが、それに近い……様な気がするし。

 

 「どちらにせよ……」

 

 ああいった攻撃が加えられるという事は、本体も近くにいるという事である。

 それが確認できただけでも上等だ。そう高音が気持ちを切り替えると同時に、足元の影がゆらりと立ち上がり彼女の身体を包み込んでゆく。

 

 その姿は裾の短いドレスの様。

 

 生真面目な彼女の性格と異なり、どこか色気すら感じるビスチェのようなデザインの影のドレス。

 使い魔を鎧の様にして身を包み、攻防一体で戦う。それこそが彼女の本気の戦闘スタイルだった。

 

 「ただのネズミではなかった、という事ですね……」

 

 そして背後で立ち上がるヒトガタ。これもまた影。

 

 影の衣を身に纏い、影の従者を連れて強い眼差しを向けるその姿は、彼女の品も相俟って影の王女を思わせる。

 彼女の本気具合を見て愛衣はごくりと唾を飲み、白マントは――

 

 ふ~……ヤレヤレと言わんばかりに肩を竦めてアメリカンなジェスチャーでそれに応えた。

 

 ビキリっと音を立てて高音の額に浮かぶ血管。

 

 「……良いでしょう。

  私の力、思い知らせて差し上げます!!!」

 

 

 哀れ高音。

 

 いきなりペースをおもっきり崩されるのだった。

 

 

 

 

 

        ******      ******      ******

 

 

 

 

 

 「そ、それにしても結構な腕アル」

 

 時折跳んでくるナイフに合わせ、銃弾が振ってくるのは流石に怖いものがある。

 

 そこらの女子中学生が銃雨を浴び慣れている訳がない(真名は例外)ので、掠めるだけで萎縮したっておかしくない……筈だ。

 だがそれは、“そこらの女子中学生”というカテゴリー内の話であって、元からそこらの女子中学生というカテゴリーから外れている上、ここのとこの鍛練でさらにド外れている。

 

 よって『どのような弾であろう当らなければどうと言う事はない』という認識を、実戦形式で叩き込まれているのだ。

 そんな鍛練を喜んで続けているのは正気を疑えばよいのか、流石と言うべきか。

 

 だが、そんな彼女でも相手の技量に舌を巻いていた。

 

 最初に<月見>で跳ね返した時に気付かされたのであるが、相手は迫ってくる弾丸に反応して避けた。

 彼女が“発射に気付いて防御する”のに対し、向こうは“迫ってくる弾丸に反応して対応する”のだ。これに感心しないのはおかしい。

 

 例に何度か反射したのであるが、その内の何度かは撃ち落されている。

 

 「……シャレにならないアル。

  老師に匹敵する反射神経アルか」

 

 そこで彼が出てくるところにイカれ具合が解るという物。尤も、比較法としては間違ってはいないが、どちらにしても横島が人外だと言ってる事に変わりはない。

 今まで横島と色々組み手を行ってきた彼女であったが、実のところまともに当たった例はない。となると必然的にこの手ごわい追手にも当たらないという事になってしまう。

 

 とはいえ、今回は戦う事がメインではなく撹乱が主。

 

 戦いたくないと言えば大嘘になるのだが、そんな欲より大切な事……老師と親友の逃亡の手助けという仕事を忘れる訳にはいかない。

 これが普通の相手なら接近戦を挑んで時間を稼ぐのも手であるのだが、相手は使い魔を操っているからして魔法使いだろう。

 となると、下手な接近は命取り。心を読まれてしまう可能性だってゼロではないのだ。

 

 友人に<いどのえにっき>なんてアーティファクト持ちがいるからか、ちょっと用心し過ぎの感もあるのだが、顔を覚えられると後々の問題に繋がりかねないのもまた事実。このくらいの用心はやって損がないと言えなくも無いのである。

 

 古は近くを歩いていた通行人が被っていたお面を、

 

 「ちょと借りるアルよ」

 

 「え? あ、あれ?!」

 

 ひょいと掠め取って被って顔を隠し、物陰で素早く髪をほどいてポニーにまとめハンカチで縛る。これだけでかなりイメージが変わるのだ。

 そして鉄扇トンファーの特製を<月見><花見>と巧みに切り替えて服の柄を変え、歩行速度も通行人の合わせたりして緩急を加える。

 相手の戸惑いを感じたら人気の無い場所に移動し、服の柄を元の派手なものに戻して発見させたりして追っ手を引き付け続けていた。

 

 「まー こういうのも修業アルな」

 

 射撃によって追い込まれかかっている事は感じている。

 何だかんだ言って行かせようと仕向けている方向は変わっていないからだ。

 一見、無駄弾に感じる射撃すらそれの牽制なのだろう。

 

 尤もそれが解るのは彼女の見立てではなく、鍛えられている霊感なのであるが。それが解っていても今の彼女には誘いに乗ってゆくしか道がない。

 何せ彼女は防御以外のスタイルは接近が主体。中距離戦には向かないのだ。

 だから距離を離されると非常に厄介。高度差をつけられるのも痛い。

 

 「さてさて……カエデの方は上手くいてるアルか?」

 

 しかしそれでも彼女にはまだ余裕が残されている。

 

 彼からアイテムを渡されており、これを使うだけでどうにでもなってしまうのが強みなのだ。

 だから古は向かわされる方向から感じているプレッシャーにも負けず、そろそろ詰めに入っているだろう事を感じてただひたすら時間稼ぎに従事するのだった。

 

 「どちらにしても、あんな怖い教官ほどではないアル」

 

 等と鍛練を思い出してゲンナリしながら……

 

 

 

 

 

 

 『Only when spoken to,and the first and last words out of

  your filthy sewers will be "ma'am"!!』

 

 『『ma'am,Yes,ma'am!!!』』

 

 『I can't hear you.Sound off like you got a pair!!』

 

 『『M、ma'am,No,ma'am!!!』』

 

 

  *** 諸般の事情で未訳にいたしております ***

 

 

 「……何で唐突にあのシゴキを思い出してしまうでござるか……」

 

 空を跳ぶ白マント……まぁ、楓の分身なのであるが……は、使い魔達の攻撃を捌きつつ、本体の楓は肩を落として顔色を悪くしていた。

 

 実のところ、彼女が相手をしている魔法使いの女性(少女?)は、まだまだ戦術が拙く、使い魔の能力に任せた戦い方を行っている。パートナーなのだろう、時折少女魔法使いから魔法の矢が放たれるのだがそれもまた弱く、軽く腕を振ったら弾く事が出来てしまうのだ。

 その所為だろうか、ウッカリと気を抜いた時に突如として“あの日々”が思い浮かびこうなってしまったのである。

 

 何でも彼が『再』『現』してくれた相手はモノホンの軍人。魔界軍の特殊部隊員で大尉だそうだ。

 ハッキリ言って、真正面からやり合ってくれたのはありがたいのであるが、途轍もなく強い上に手加減が(横島の意志が介在しているにも拘らず)全く無く、射撃やらナイフ戦術やらでガシガシ攻撃してくるし、戦術やらの座学にしても鬼のように厳しかったのである。

 

 いや確かに勉強にはなったものの、ベレー帽がトラウマになりそうな猛特訓だった。

 だからこそ、拙い戦術を見ると妙にホッとしてしまうのも仕方がないと言えなくもないのだ。

 

 無論、そうは言っても相手は魔法使いなのだから油断は禁物であるが。

 

 現に件の使い魔の主――どうやら彼女は影使いのようで、自分の影を身に纏って身体を強化させて向かってくる。

 その少女が被っていた帽子がややベレー帽っポかったので戦慄してしまう楓であったが、十字架のマークが付いていたので『違うでござる違うでござるよ』と直ぐに気を取り直し、冷静に攻撃を捌いていた。

 何せ彼女らは既に魔法によって強化しているらしいのであるが、その身のこなしも楓らほどでもはないそこそこの程度で、それを影による防御能力強化で底上げを行っているのだ。技術的にはそれは見事だと言えよう。普通の人間では手も足も出ないだろうから。

 

 そう――普通の人間なら、だ。

 

 古もそうであるが、楓はエヴァや横島の修業にずっと付き合っている。

 今さっき述べたような魔界の軍人から邪龍、神剣の使い手、根性ババ色の銭ゲバ女。地獄の呪術女やら、泣き虫暴走超新幹線女とか色々だ。

 

 対して影使いらは単純なパワーだけでも横島が再現している神々はおろか、全力が出せない状態のエヴァにも劣る。戦術や策に至っては言わずもがなだ。

 横島に比べてフェイントは単純だし、大首領とキリングドールズに比べて連携もイマイチ。

 

 軽い挑発におもいっきり乗ってくるし、ちょっいと使い魔を片付けただけで戸惑いを見せる。

 様々な戦術や戦略で戦わされ、鍛錬を続けていた楓らからすれば、失礼な言い方であるが『チョロい』と感じてしまうのも仕方のない話であろう。使い魔にしても暴走した十二匹のアレに比べたら怖くも何ともないし。

 

 まぁ、横島やエヴァみたいな規格外の二人と比べる事自体が間違っているのだろうけど、それにしても実戦経験の差を強く感じられ……

 

 「――って、

  考えてみたら横島殿は十年選手でござるし、大首領は600年の経験があったでござるな」

 

 こりゃだめだーと肩を竦める分身達。全員一致の仕種で中々よろしい。

 

 「ば、馬鹿にしてぇーっっ」

 

 「お、お姉様、落ち着いて……」

 

 「おろ?」

 

 何かタイミングが悪かったのか、怒った声が聞こえた。

 まぁ、本気で向かって来ているだろうのに、遊び半分っぽい仕種を見せられればキレもするだろう。

 楓は失念していた事に気付き、いかんいかんと自分の頭をコンコンと叩いた。

 

 「むきーっっ」

 

 「お姉様ぁーっ」

 

 「あ……」

 

 悪いタイミングもあったものである。

 

 

 挑発が効き過ぎている感もあるが、結果的におびき出しに成功しているので由としよう。ウン。

 

 

 相手に失礼極まりないのだが、はっきり言って楓の方の陽動は物凄い楽であった。

 

 何せ、天狗舞を使用していたのであるが、鉄葉団扇には『念』が出ていたのでそれを使用。ぶっちゃけ飛び回っているのは修業によって霊力強化できるようになった分身であり、それらを『念』を使用して質量を増加させているだけ。偶に放つ飛礫も『念』でコントロールできるのだから相手は堪ったものではないだろう。

 

 その上で横島と付き合っている内に更に鍛え上げられてしまった穏行を行い、本体だけが身を隠して安全地帯にしゃがんでたりするのだ。

 ここら辺の小狡さに横島との関わりの深さを感じさせられる。尤も本人はそれが何か誇らしかったりするのだけど。

 

 そして念の為に分身らの姿を見せているのも大きい。

 

 だから楓のやる事と言えば、冷静に時を待つ事と古が追い詰められるのを待つだけ。そう言っても良いのだ。何せもう一つの力でもって、ずっと古の行方を追えているのだし。

 

 

 その間、ずっとこの二人を引き付けりゃいいのだ。横島やエヴァ、或いは刹那や真名を相手にしている訳ではないので楽なんてモンじゃない。

 

 じりじりと距離を離し、目的地から引き離す。それが出来ればよいのだ。

 

 古の方の難易度が高いっポイが、少なくともこの間の京都よりかはずっと気楽である。

 

 「しまったでござるな……古と相手を代わってたら良かったでござるか」

 

 無論、今となっては後の祭りなのであるが。

 

 

 

 

 ――尤ももしそれを行っていれば、

 

 もし楓を追っていた人間が、古が引き付けている方だったとしら……おそらく未来は変わっていたであろうけど。

 

 

 

 

 

 

        ******      ******      ******

 

 

 

 

 

 

 ―すみません! お待たせしました!!―

 

 ―瀬流彦君か?! 待っていたぞ!!―

 

 援軍到着の念話が届くと、正直ガンドルフィーニはホッとしていた。

 幾らなんでもこれだけ追いかけていて、そして見失いかける毎にチョロリと気配を現されていたら流石に囮だと気付く。

 いや気付きはするのだが、手が足りない以上どうする事も出来なかったのである。

 学園側としても舐めていた感はあるのだが、想像以上に手強く初手で戸惑ったのが流石に痛かった。

 

 だが、逆に考れば囮の人間はまだ彼らの感覚内にいるのだ。

 

 きちんと杖を装備している瀬流彦、ふと眼を凝らせば刀子の姿もあるではないか。これは頼もしい。

 これならば如何なる飛び道具を使おうとも何とかできるだろう。

 囮とはいえ、その人物さえ押さえられればまだどうにかなるかもしれないのだし。

 

 それに高音達の方にも手の空いた者が向かっているとの事。

 

 まだ今の内なら……

 

 逸る気持ちを無理やり押さえ込み、発動具の杖を携えて詠唱を始めた瀬流彦に合わせ、わざと大きく間合いをとって追い込んでいた場所――学園祭広場へと歩を進めた。

 

 

 

 

 ―高音君!―

 

 ―えっ!? た、高畑先生!?―

 

 流石に彼までが出てくるとは思ってもいなかった高音は、驚きを隠せなかった。

 

 ガンドルフィーニ同様、確かに相手を見くびっていたのは間違いない。

 いや、間違いは無いのであるが、そんな実力者であるのならどうやってこの学園に入る事が出来たのか?

 

 それなり以上の実力者であるのなら面は割れているし、この学園のセキュリティに引っかかる。仮に変装やらしていても無駄であるし、変身魔法などを使用しているのなら尚更だ。

 これだけエゲツナイ攻撃が出来、尚且つ名が知られていない実力者となるとお手上げである。

 

 逆に、初めから居たとすると何者なのか? この学園の魔法生徒に裏切り者が居るというのか? という疑惑が浮かんでくるのだ。

 だからこそ高畑という大物が来てくれたのだろう。

 

 覗き魔の確保だと軽く考えていたのであるが……思っていた以上に大事になりそうである。

 高音は唇を噛み締め、相手を見誤っていた事を悔んだ。

 

 ――と?

 

 念話を使って高畑らと作戦を組み、一斉に……とタイミングを計っていた矢先、

 

 「え?」

 

 「は?」

 

 「ム?」

 

 それまで逃げの一手だった白マント達が一斉に動きを止めた。

 

 いや、正確に言うと電柱や街灯、屋根の上等にちょこんと腰を下ろしたのだ。

 立って止まったのではなく、長い裾を下ろしての着座。これはやはり体格を不明にする為だろう。

 だがそうだとしても、動きを止めた意味が解らない。

 

 ―……何を狙っているのか解らないけど、動きを止めたのならこちらから攻める。いいかい?―

 

 ―はいっ!!―

 

 まずは高音。

 彼女は動きを止めているが影だけは動く。

 地面を滑らせて一気に間合いを詰め、その間近で影を立ち上がらせて一気に襲い掛からせる。

 

 『これなら……っっ!!』

 

 座っている以上、真下と周囲からの波状攻撃を回避するには上に逃げるしかない。

 空に浮いたら後は高畑達が仕留めればいい。飛行系の魔法は使っていないようであるし、急に使用したところで彼はそんな隙を逃がすほど愚鈍な男ではないのである。

 

 ――捕った!!

 

 と、誰もが思う。

 

 当然だろう圧倒的な隙であり、チャンスなのだから。

 ただ一人、高畑だけは妙な違和感を感じてはいたのであるが、兎に角一戦交えてからだと思考を切り替え、相手の死角に回って影の攻撃合わせてポケットから拳を振り出しに掛かった。

 

 のであったが……

 

 「「え……?」」

 

 白マントは大仰に右手をくるりと回し、まるで舞台から下がる道化師のように座ったまま一礼をする。

 

 と、次の瞬間――

 

  ぽ ん っ っ

 

 間抜けな音と共に、全ての白マント達の身体がそのマントごと弾けて消滅したのである。

 

 「そ、そんな」

 

 慌てながらも愛衣は意識を集中し、魔法を使って探知するのだが影も形も無い。

 いや周囲に術者やら使い魔やら気配は、自分ら以外に全く無かったのである。

 

 「……やられたな」

 

 呆然とする高音の横に、煙草を咥えた男、高畑が降り立つ。

 まだ事態を信じられないような表情であったが、彼女は彼の言葉に引かれる様に高畑に顔を向けた。

 

 「恐らく、君達が追っている最中に術者はとっくに逃走を終えていたんだろう」

 

 「……え?」

 

 彼の言葉が、ずしんと重く胸に響いた。

 それだけショックが大きかったのだ。

 

 しかしそれは真実の様である。

 

 「逃走の途中でやたら姿を見せていたのも、

  間に攻撃を仕掛けてきていたのも本体がいると思わせる罠。

  それと姿を見せていたのは魔法探知されないようにする為だろうね。

  探知されたら本体が近くにいないとバレてしまう事を危惧してたんだろう」

 

 「そ、それなら……私達は……」

 

 高畑はその言葉に言葉を返さない。

 やはり彼も憤りを感じているのだろう、言葉の代わりに珍しくマナーを無視して煙草を吐き捨ててからそれを踏み躙った。

 

 

 ――彼女らは、

 

 最初から終わりまでずっとからかわれ続けた、と見るのが妥当なのである。

 

 「く……っっっっ」

 

 高音は歯を噛み締めて言葉を飲み込み、俯いてそれを耐えた。

 だが、長い髪に隠された顔の辺りからポタポタと雫が落ちていたのであるが……高畑は見えていない風に新しい煙草を取り出し、再度火をつけて煙で肺を満たす。尤も、フィルター部は噛み千切るように噛み締められていたが。

 

 『……この分ならガンドルフィーニ先生の方も怪しいな……』

 

 単純な覗き魔。

 

 ――彼の勘では元担当クラスの生徒、超一味くらいだろうと思っていたのであるが……

 

 「……思っていた以上に根が深いかもしれないな……」

 

 その言葉を煙と共に吐き出した。

 だが、その言葉にも反応を見せず、高音は俯いて肩を震わせたまま。

 

 高畑は彼女の妹分がやって来るまでずっと高音の横に立ち、苦く煙を味わい続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「馬鹿な……」

 

 「そんなどうやって……」

 

 ついに広場に追い込み、全員で捕縛しようと間合いを量り身構えたのであったが、角を曲がった瞬間、その対象はいきなり姿を消したのである。

 

 無論、彼らとて素人ではない。死角から飛び掛らんと柄に手を添えていた刀子さえも見失ったのだ。居合いの達人の感覚からすら逃れたのだからただ事ではない。

 何せあらゆる魔法感覚、剣士の感覚から文字通り消えたのだこれには驚か無い方がおかしい。

 全員でサーチを掛けたのであるが、やはり結果はゼロ。完全に見失っているのである。

 

 「……高畑先生の方は全てダミーだったそうです」

 

 「最悪、こちらの方もダミーだった可能性がありますね。

  しかし二手に分かれて両方ともがダミーというのも……」

 

 流石の瀬流彦も肩を落とし、刀子はずっと気配を探っていたようだったが、諦めて得物を鞘に戻した。

 場所が場所だったので、関係者が寄って来て調べるのだがやはり魔法使用の形跡すらない。触媒が無い以上、そうそう転移といく訳にもいかないし、行えば流石にガンドルフィーニらも気付いている。

 

 となると、やはりダミーだった可能性が高い事に……

 

 「すると最初から逃亡者などいなかったという事に?」

 

 「ひっかけられたという事か? しかし……」

 

 となると、メカヘリコプターを操っていたのは何者か、という事になる。

 彼らの大半は前科がある少女をそれだと思っていたのであるが、幾ら彼女でも……いや彼女ならば、このような大げさなひっかけを行うとは考えにくい。

 尤も、疑惑が完全に消えた訳ではないのであるが。

 

 「……どちらにせよ……我々の負けだな」

 

 「……」

 

 神多羅木がポツリと零した言葉が、教師達の腹にズシンと響き渡った。

 

 確かに、相手にしてやられたという感は拭えない。実際、完全に取り逃がしているのだから。

 彼らも知らない方法があったとしても、その手を“使われた”時点で負けは確定なのだ。

 

 誰とはなしに溢す溜息。

 それは伝染したかのように皆もそれを絞る様に吐き出してゆく。

 

 やるせない気持ちで石畳を見つめている瀬流彦には、吐き出された重い息で足元が沈んでゆくような気がしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 さて――

 

 そう魔法関係者たちに溜息を吐かせ、失意に肩を落とさせた加害者達。

 ほぼ同じ時に、高畑をシリアスに悩ませ、高音に悔し涙を流させ、ガンドルフィーニらに長く溜息を吐かせている犯人達はというと……そんなシリアス無状況を知る由もなく、ついでに緊張感も無く男の部屋の中にいたりする。

 

 「にして、あの分身の使い方は大反則アルな」

 

 「まぁ、其々を勝手に動かせられるでごさるし」

 

 便利は便利であるが、別にそれらが見た事を知る術はないし、刹那の式のようにテレパシー会話もできないのはちょっと痛い。まぁ、これだけできるのだから贅沢は言えないのだけれど。

 その所為で余り追っ手を見る事が出来ず、相手を確認し切れていないのはちょっと痛い。

 高音には悪いが、当然ながら彼女があれだけ悔しがっている事すらも気付いていなかったりする。

 

 その“タネ”は簡単だ。

 

 二手に別れた直後、どーせ珠も含めて十分未満しか持たないでござるな、と楓は宝貝を召喚。

 出た文字は『霊』『念』『透』で、さっきも述べたように『念』と自分の穏行を使用して様子見。落ち着いて時計を見たりして、そろそろでござるな~という時に分身を解除して千里眼の力を持つ『霊』で追い続けていた古の元に駆けつけて『透(要は天狗の隠れ蓑)』で二人を包んで透明になってコソコソと移動し、二人が其々持たせてもらっていた珠の『転』と『移』でもって横島の部屋に飛んだ――という事なのである。

 

 『転』『移』とは言っても魔法による転移ではなく、言ってしまえば超能力のテレポートである。そして何より電車で移動するほどの距離を一気に飛んだのでそりゃ知覚外にもほどがあろう。

 そして更に、彼の部屋には愛妹ナナを危険から守るべく内緒で仕掛けられている、心眼監修,横島手書きによる家内安全の札が貼られていて、それが結界みたく作用していたりするのだ。そりゃ学園側も解るまい。

 後は、二人とも横島から合鍵を預かっているので、部屋を出て鍵を掛けるだけである。

 

 無論、ナナと かのこは不在。

 夜が寂しかろうと昨晩は茶々丸の家(正確にはエヴァの家)で二人(?)してお泊りだったりする。この時間なら、朝から茶々丸と共に超包子の手伝い行っている筈だ。

 

 「後は超包子に行って朝ごはんの弁当を受け取れば良いでござるな」

 

 「何の解決にもなてない気がしないでもないアルが」

 

 「横島殿の方は心配するだけ無駄でござろう。ド卑怯さでは拙者など足元にも及ばんでござるし」

 

 「エラい言い方アルな。否定出来ないアルが……」

 

 等と言いつつ部屋を出る二人。

 念には念を入れて気配を探るがそれらしきものはゼロ。もう良いかと二人はやっと肩の力を抜き、鼻歌交じりにドアを閉めて鍵をかけようとした、のだが……

 

 「ハッ!?

  ひょっとして人に見られたら男の部屋から朝帰りする女子中学生に見られてしまうでござるか!?」

 

 かなりしょーもない事に気付いた楓が、いきなりそんな事をって照れていた。

 

 「私は兎も角、少なくともカエデは女子中学生には見られないと思うアルよ?

  普通に見たらプレイの一環アルな」

 

 「……喧嘩は買うござるよ?」

 

 「……実は不完全燃焼アルから、大安売り中アル」

 

 「ほほう」

 

 魔法学園側が苦悩している事も知らず、何とも呑気な空気をブチ撒ける二人。

 今の二人をやりとりを目にしたら、高音やガンドルフィーニのように真剣に取り組んだ者たちは、憤りと絶望の両方で悶え死にしかねない。

 

 

 だがもし――

 

 楓の相手がガンドルフィーニだったなら、

 既に魔法教師だと知っている彼女が彼を引き付けていたのなら、こんな事にならなかったかもしれない。

 彼女から話を聞けば古とて事がデリケートな事件であると気付き、二人で色々と考えて行動したであろうが、彼女が相手をしたのは見た事も会った事も無い高音である。

 

 横島というファクターがあり、女子高生との接触がマズイと学園側が気遣っていた。

 その事が今になってこんなにも響いていた。

 

 

 一つの事柄がごろりと行く筈の道からズレ、その僅かな変化がドミノ倒しのように連なって正誤のルートすらも不明瞭にさせる。

 

 

 そして彼女らの陽動が――後の流れを別方向に発展させる訳であるが……

 

 

 

 「いくでござるよ!!」

 

 「応ッ!!!」

 

 

 

 誰一人として気付く訳もなかった。

 

 

 

 

 予断であるが――

 その時刻に横島の住まいの前でバトルなんぞおっ始めたお陰で、この二人はアリバイが証明されて容疑が掛からなかったという。

 

 

 


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