-Ruin-   作:Croissant

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後編

 

 おもむろに胸元に手を入れ、そこからカードを……いや、札(デザイン的にカードというよりは、札の方が正しい)を取り出す。

 

 そんなに使い込んでいる訳でも無いのに、何だか手に馴染んでいるのはその特性の所為なのかもしれない。

 

 ふと隣に視線を向けると零れる笑みと共に眼がかち合う。

 どうもお互い、同じタイミングで同じ事を考えていたようだ。思わず苦笑がもれてしまったのも当然だろう。

 

 酒の勢いで作ってしまったというイタイ思い出はあるが、やった事自体に後悔はしていない。

 

 

 契約を結んだ相手である彼は口に出さないし、態度にも出していない。

 

 彼自身が心の疵に気付いていないのかもしれないし、或いは痛みに気付かないフリをしているのかもしれない。

 

 もしくは自分一人で抱え込むつもりでいるのだろう。

 

 人に心配をかけさせる事すら忌避するおめでたい男なのだから。

 

 

 だが、そうは問屋が卸さない。

 

 

 そんな彼と——

 

 どれだけ普段の行動が馬鹿そのものであろうと、底抜けに優しく真っ直ぐな彼を、

 “ある意味”この世界で一人ぼっちである彼を一人になんてさせて堪るものか。

 

 気持ちも心もどこか宙ぶらりんだった彼を、そのままどこかに行かせたりするものか。

 

 

 だからやったまでの事。

 

 

 二人とも、この想いには毛一筋程の後悔も無い。

 

 この札こそ、エロオコジョの奇怪な行動に気付き、酔った頭で利用する事を考え、それを実行した結果なのだから。

 

 

 件のエロオコジョの言葉通りというのがちょっと業腹っポイが、結果的にこの行動があったからこそ彼との絆は深まり、この力があったからこそ級友の助けにもなった。

 結果オーライといえばそこまでであるが、全てが良い方に転んだのだから文句を言っては罰が当たるだろう。

 

 

 ——まぁ、普通はカードが出る筈が札が出てきたし、おまけにその札は大きさこそ多少違いがあるもののどう見ても花札。

 起きる筈もない契約事故にエロオコジョがそーとー混乱していたのも記憶に新しい。

 

 流石の大首領様も盛大にひっくり返ってしまってるし。

 

 

 「な、なっ……何だコレは———っっ!!??」

 

 「知らんわぁ——っ!! オレに言うな——っ!!」

 

 

 ……まぁ、普通はそういう反応だろう。

 魔法に深く携わっている者であればあるほど、魔法理論の外で起こる現象についていけないものである。

 

 

 「ふぇえ……コレはコレで綺麗やわぁ……少し日本画っポイとこがええなぁ〜」

 

 「……でも、何で花札なわけ?」

 

 「さぁ……それは拙者らにもサッパリ。

  あのオコジョも解らないそうでござるし」

 

 

 逆に仮契約というものに対して馴染みの薄い少女らの方が『こんな事もあるんだろう』的に受け入れてたりする。

 その頭の柔らかさこそが若さの特権なのかもしれない。

 

 まぁ、そのエヴァにしても口でぎゃあぎゃあ言いつつ彼の非常識さを思い知らされているのでそんなにショックは受けていなかったりする。

 “慣れ”と言っても良いだろう。あんまり嬉しくもないだろうが。

 

 しかし——

 

 

 「ぴぃぴぃ」

 

 「ん? かのこちゃん、どないしたん?」

 

 

 何かを口に咥えて差し出している小鹿。

 それを手に取り目を落とすと……

 

 

 「あれ? これ……」

 

 

 二人と同じような札がそこに。

 

 何だかよく解らないが、精霊であるかのこまで仮契約(モドキ)をしているではないか。

 

 

 

 「オイィ——っっ!!!

  一体どういう事だぁあああ——っっ!!??」

 

 「オ レ が 知 る か ぁ あ あ ——っっ!!!!」

 

 

 流石にカードを花札化させただけでなく、精霊と契約して花札出した。何てコトかまされたりしたら……流石に、ねぇ?

 

 

 

 

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         ■十七時間目:漢のキモチ♂ (後)

 

 

 

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 「それで、どういうアーティファクトなんだ?」

 

 

 ぜぇぜぇと息を乱しまくったエヴァがどうにか呼吸が整ったのは、横島に当りまくって憂さ晴らしを終えてから十分も経ったくらいの事であった。

 流石の彼でも動かないジャンクと化してしまうほどであったが、そこは横島。その有様にぴぃぴぃ()く かのこの声に導かれ、驚きの復活を終えていたりする。泣く子と地頭には勝てないと言う事だろう。いや、ちょっと違うか。

 兎も角(それはいいとして)

 

 刹那や明日菜が目にしているのは古が使用していた鉄扇トンファーだけ。

 その能力も気になっているが、楓のアーティファクトがどんな物かも気になっている。

 

 ミーハー……とまではいかないにしても、そんな女の子っぽい好奇心は今までの刹那にはなかったもの。

 木乃香と打ち解けられた為に少しは女の子らしさが増しているのかもしれない。

 

 しかし、皆も彼女らのアーティファクトが気になるのか、おもいっきり期待している目で二人(+一匹)を見ていた。

 

 楓と古は内心苦笑し、札を構えてワードを口にする。

 

 

 ——それも、これまたパクティオーカードと全く違うワードで。

 

 

 「−こいこい−」

 「−来々−」

 

 「ぴぃー」

 

 パァッ!!

 

 

 一瞬の輝きの後、二人と一匹の姿が変化する。

 

 楓の方は、メタリックシルバーの葉団扇をもった天狗のコスプレ……薄桜色の鈴懸、小豆色の袈裟に、材質不明の頭巾、そして一本歯の高下駄を履いた姿となった。

 尤も、本職(?)の山伏が目にすれば怒り出すであろう程、エラい露出度の高い修験者の格好であるが。

 何か横島の趣味が混じってそーな気がしないでもない。本人は泣いて否定するだろうが。

 

 古の方は余り違和感がない。何時もの稽古着とデザイン的にはほぼ同じなのだから。

 ただその色合いは普段着ているものよりシックで、それでいてあり派手。いや……“鮮やか”と言った方が良いか。

 裾がやや短めのチャイナ服。そしてその衣装の柄は赤い空に浮かぶ月と満開の桜。派手ではあるが、何故か落ち着いた色合いを見せていた。

 

 そしてかのこは、見事な角を生やした大鹿の姿になっている。

 パッと見は解らないだろうが、神話の概念がくっ付いているからか角のある雌鹿なので不自然極まりない。

 それでも目だけが小鹿の かのこのままでくりくりとしたつぶらな瞳のまま。外見もアンバランスだが、人懐っこさも元のままで結構可愛かったりする。

 

 楓の手にあるメタリックシルバーの葉団扇が得物なのと同じ様に、トンファーとして使える骨太の黒い鉄扇が古の得物なのだろう。

 流石に かのこには得物はないようだが、その首にはペンダントのようなものが掛かっている。それがアーティファクト(?)なのだろうか。

 

 「拙者の魔具の名は<天狗舞(てんぐまい)>。

  この鋼の葉団扇の力で三つだけ天狗の力が使えるでござるよ」

 

 

 ただし、その使える力は完全にランダムであるし、連続使用も十分間のみ。

 その代わりその十分の間ではあるが山神の神通力が使えてしまう。

 

 「私のは<宴の可盃(べくはい)>。

  飛び道具だたら鉄砲の弾でも魔法でも撃てきた相手に反射できるみたいアル」

 

 

 防御オンリーであるが、魔法にせよ実弾にせよ受け止められるし受けた衝撃もほぼ全て吸収する事ができると言う、破格の防御力を持っている。

 

 かのこの魔具<月精石(ムーンストーン)>は発動させるとその石の力によって月の波動が使えて、ほぼ無尽蔵な魔力を持てるようになり、尚且つ横島の足にもなれるという優れものだ。

 尤も、如何に横島とて鹿語なんぞ解る訳もないので、同属性を持つ楓がいなければ意思疎通は不可能だったので力も名前も不明だっただろう。

 しかし意思疎通できればできるほど解るインチキ具合は凄まじい。地力を上げられる上に天然自然を味方につけて操る事も出来たりするようになるというのだから反則にもほどがあるだろう。

 

 兎も角、二人(+一匹)の共通点はド反則。

 仮に森の中で小鹿と戦う羽目になったら絶対に優位に立てないだろうし、古の魔具は魔法使いや狙撃者にとって悪夢のような能力を持っている。

 楓のにしても少女らが天狗という人外をはっきりとは理解できていない為、その反則さが良く伝わっていないようだが仕える能力は大盤振る舞いと言ってよいモノでシャレにならない。

 

 尤も、直に楓の持っている妖怪の知識と、茶々丸のデータベースから引き出した妖怪知識によって説明がなされ、楓らの非常識さが浮き彫りになるのであるが。

 どちらにせよ、普通のアーティファクトとはどこか違うような気がする能力であった。

 

 

 ——因みに、

 

 

 『そ、そういやぁ姉さん達よぉ。そのアイテムの名前と使い方は何で解ったんだ?

  あん時は余裕がなくて気にならなかったんだけどよ……』

 

 

 楓らの持つ札の発動時のショックが大き過ぎて疑問すら湧かなかった事を今になってカモが口にしたのであるが……

 

 

 「「へ? この札持ったら懇切丁寧な取説みたいなのが頭に伝わってきた(アルよ?)でござるよ?」」

 「ぴぃ」

 

 

 等と、とんでもない答を二人は返して下さった。

 

 

 「な……何だその便利機能は!!??

 

  ふ ざ け る な ———っっ!!!」

 

 

 イロイロあって沸点が下がっていたエヴァが再沸騰した事は言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

        ******      ******      ******

 

 

 

 

 

 

 

 「大丈夫でござるか?」

 

 「ウン……オレ、イキテル」

 

 「セリフがチャチャゼロみたいアルな」

 

 「ケッ オレハコンナニ無様ジャナイゼ」

 

 

 揶揄されたと言うか、比較されたと言うか、引き合いに出されたチャチャゼロはぶすったれた様にそうぼやく。

 

 横島は今、額にハンカチを当てられて横たわっていて、その横に大きな かのこがぺたんと腰を下ろして彼の顔を舐めたりしていた。

 

 非常識であるのだけど、どこか安心できる陽だまりのような光景。

 

 

 「うんうん。ええわぁ〜

  見てみいな、せっちゃん。正に家族や。

  ハルナ風に言うたらラブ臭が漂ぅとるってトコやわぁ」

 

 「は、はぁ……」

 

 

 そんな光景を、ウンウンと頷きつつ、おもっくそ嬉しげに語るのは木乃香。

 話を振られた刹那が困ってしまうほどに。

 

 楓らの魔具発現を初めて目にした横島であったが、それはそれでかなりショッキングな出来事であった。

 

 いや、かのこは良い。見た目的には単に大きくなる程度なのだから。

 雌鹿なのに角がある、と言うのは問題ではないし。散々っぱらお世話になっていた管理人の龍神様だって生えてたのだから気になる訳がない。些細な事だし。

 

 ただ、他の二名。

 その二名が拙かった。

 

 何せ古にしてもスリット付きのミニチャイナである。

 確かにシネマ村でもちょこっとだけお目にかかった衣装であるが、あの時は刹那達が危機的状況だった事もあり、眺めるとか鑑賞するとかの心の余裕も暇も無かったのだ。してたらしてたらで彼的にタイヘンだったであろうが。

 

 古も楓もかなりの美少女。

 ロリ否定などと言う無駄な行為を続けている横島でも、スリット付きミニチャイナという衣装もかなり似合っており、改めてじっくり見てしまうと心にクるものがある。

 

 いくらミニチャイナの下にスパッツみたいなのを穿いていようと、スリットがあるというだけで煩悩が刺激されてしまうらしい。

 

 

 そして楓である。

 何せ彼女の衣装はモロ『それ、どこのエロゲ?』と問い質したくなるほど露出度が高い。

 小豆色の袈裟、頭巾、そして一本歯の高下駄。そこまでは良い。それだけなら、まぁ、修験者のコスプレか何かに見えなくも無いから。

 

 が、その他がいけなかった。

 

 まず薄桜色の鈴懸に袖が無い。そして裾が異様に短い。まるで半襦袢だ。

 それだけならまだしも胸元と脇の部分が大きく開いていて、それぞれは紐で結ばれているだけ。

 

 下に穿いている方も拙過ぎる。

 前部の“合わせ”の部分が小さい上、腰の部分から太腿にかけて深いスリットが入っているのだ。

 

 彼女の戦闘装束に勝るとも劣らないほどの露出度の高さ。視覚心理戦にも対応しているとでも言うのだろうか?

 幸いと言うか、そんな戦闘装束を所持していたお陰で彼女もこれを着ても気にせず行動できるのであるが……

 そうでなければこんな風俗嬢まがいの衣装など着れるものではないだろう。

 

 もう御解りだろう——

 横島がひっくり返っている理由。それは……二人(特に楓)の衣装を目にし、鼻血を噴いて貧血を起こしてしまったからだ。

 

 自覚がないのが物悲しいが……何気に終わってるっポイ。

 

 

 んでもって横島は、古の膝枕で横になっていて楓に濡れ手拭を替えてもらっていた。

 

 極自然にそうしてもらっている彼であるが、チャチャゼロは何故か彼の胸の上に馬乗りになっていて、と周囲は女の子(?)だらけである。

 ドコの御大尽? と問い詰めたくなるような有り様であった。

 

 膝に掛かかる重さが何か嬉しそうな古と、それをどこか羨ましそうに見ている気がしないでもない楓。

 目を潤ませて心配そうにしてはいるが、彼が頭を撫でてくれるのですぐに眼を細めて甘えている かのこ。

 ある程度とはいえ、自力で動けるようになっていると言うのに、横島の胸の上にぺたんと座り込んでいるチャチャゼロ。

 そんな彼女らの様子に木乃香が喜びを見せている理由も解るというもの。

 

 因みに、膝枕は古が楓との勝負(ジャンケン)にかった褒美らしい。

 

 

 「あ゛〜〜っ!! そんな目で見んといてぇ〜〜っ!!」

 

 

 別にナニを言われている訳ではないのであるが、楓らの眼差しを生温かく感じているのだから自覚があるのだろう。

 

 古の膝の上でゴロゴロ転がって身悶えする横島。

 

 

 「あ、ちょ、老師、だ、だめアル!」

 

 

 膝の上をぐりぐりされて何だか古の吐息が色っぽい。

 そーゆートコに気をつけてないから深みに(はま)ってゆくとゆーのに、本当に迂闊な男である。

 大体、そんなにロリ疑惑が嫌なら頭をどければよいものを、乗せっぱなしにしているのだから。まぁ、そんなトコが実に彼らしいっちゃあ、彼らしいのであるが。

 

 

 「あ、ダ、ダメ……そんな……そ、そこ…は、あぁあ……っっ」

 

 「あ゛あ゛あ゛〜〜〜〜っ オレってヤツぁ〜〜〜〜っっ」

 

 「ろ、老師ぃ……」

 

 

 なんつーか……ベクトル違えど勝手に盛り上がっているではないか。

 

 木乃香はナニが嬉しいのかバシーんバシーんと刹那を叩いて喜んでいるし、その刹那は顔を赤くして固まっていた。

 のどかも『はわわ……』と真っ赤になっていて取り止めが無い。というか、歯止めが無い。

 

 横島忠夫という男はぱっと見が情けない上、異様に理解し辛い性格をしている。

 その為、誤解を受けやすく嫌悪感を持つ者も少なくない。

 

 が、一度彼の本質に触れてしまうとその印象が大きく変わってしまう。

 今度は逆に離れにくくなってしまい、何だかんだで無茶を聞いてしまったりしてしまうのだ。

 

 おまけに彼も何だかやけに甘えるのが上手いとキている。

 

 だから古も自分の膝の上でごろんごろんと身悶えされているというのに、それが故意的なものでなければ拒絶し辛いのだ。

 

 元より自分らで買って出た膝枕。

 くすぐったくはあっても嫌悪する気持ちは更々無い。

 

 となると、もはやこの女子中学生は堕ちてしまうしか道は無いではないか。

 

 

 嗚呼、哀れ古 菲。

 十四歳にして堕ちてしまうのか。  

 何せ本人が嫌がっていないのだから、止める手立てなんぞ()ぇーし。

 

 担任であるネギは明日菜と何か話しててこっちを気にもしてないし、木乃香は何だか煽ってる。

 刹那とのどかも真っ赤っ赤になって話にもならないとキた。

 

 

 そう、つまり残る手は——

 

 

 

 「 い い 加 減 に す る で ご ざ る …… 」

 「 イ イ 加 減 ニ シ ヤ ガ レ …… 」

 

 

 

 

 関係者にお任せするのが一番だ。

 

 

 

 「「ひゃいっ!?」」

 

 

 

 古と横島の二人は、恐怖の余り抱き合って飛び上がったという。

 

 無論、火に油なのであるが……

 

 

 

 

 

 

        ******      ******      ******

 

 

 

 

 

 

 「こ、怖かたアル……」

 

 「美神さんの完殺の気を思い出した……」

 

 

 何だかよく解らないが、ものごっつ怖い目を見た二人。

 仲良く並んで正座させられ、明王のような憤怒の気を放つ楓に説教喰らっていた。

 

 横島の胸ポケに場所を変えたチャチャゼロに倫理について説教されていたのがまた笑いを誘う。

 ついでに彼らを真似るように、ぺたんと横に座り込んでいる かのこがいるものだから尚更だ。

 

 無論、横島も古も弁解の仕様が無いのであるが。

 

 

 暴走と言うか悪ノリと言うか、じょしちゅーがくせーの膝の上で蠢いた挙句、悶えさせたのだからそれは問題だろう。

 

 横島はもっと早く正気になるべきであったし、古は言葉だけでなく身体で嫌がるべきだった。

 

 お互いがウッカリと許容してたのだからそりゃ止まるまい。

 

   

 「全く……横島殿も横島殿なら、古も古でござるよ」

 

 「「面目次第もございません……」」

 

 

 何だか出来の悪い弟妹を叱る姉のようだ。

 

 

 「ちぇ〜 もっちょっとやったのに〜」

 

 「お、お嬢様?!」

 

 

 木乃香はちょっと残念そうだが。

 

 

 「考えてみれば、この場にはネギ坊主もいたでござるな。

  担任教師だというのに、学生の態度を叱らないのは問題でござるよ。

 

  全く……学生の節度というものを説いてもらわないと困るでござるな」

 

 

 『いや、アンタがそれを言う?』

 

 

 と、内心ツッコミをいれた者もいたりするが、その憤慨の波動に口には出せない。

 

 『そう言うたらツッコミ担当者のアスナも静かやなぁ』等と木乃香も首を傾げ、楓と共に目でネギと明日菜を探した。

 

 

 と……?

 

 

 「かっ……

  関 係 な い っ て 今 さ ら 何 よ そ の 言 い 方!!」

 

 

 

 「うぇっ!?」

 「ぴぃっ!?」

 「ひゃぁっ!?」

 

 

 その怒声に横島ら二人(と一匹)がひっくり返った。

 

 いきなりの怒声に刹那と のどかは驚きを隠せないが、やはり木乃香は動じていない。何とも底が知れないお嬢様である。

 

 

 「いえ、僕は無関係な一般人のアスナさんに危険が無いようにって……」

 

 「無関係って……こ、この……」

 

 

 何だかよく解らないが、ネギは明日菜に襟首掴まれて怒られていた。

 彼女のその表情から、本気で怒っている事が伺いしれる。

 

 

 「ちょ、な、何だぁ? 明日菜ちゃん、何怒ってんだ?」

 

 「さ、さぁ……元々アスナは気が短いアルから……」

 

 

 正座したままコロンとひっくり返っていた二人と かのこであるが、すぐにダルマの様に身を起こして仲良く首を傾げた。

 

 それなりに気も短く、口よりも先に拳が出てしまうような明日菜であるが、その本質はかなりお人好しで優しい彼女があそこまで激昂する事は珍しい。

 尤も、ネギとは初対面時から何か合っていないのであるが。

 

 

 「私が時間の無い中、わざわざ刹那さんに剣道習ってるの何だと思ってたのよ——っ!!」

 

 「えええっ!? 僕、別に頼んでないです、そんなの。

  何でいきなり怒ってるんですかアスナさん!?」

 

 

 自覚は全く無かろうが、第三者が聞けば正しく売り言葉に買い言葉。

 ネギは匠の技で狙いすませたピンポイント攻撃によって明日菜を怒らせ続けている。

 

 ただ、ネギは全く持って無自覚に言い放ったのであろうが、その言い様に楓と古、そして横島の眉毛がピクンと跳ねた。

 

 

 「あんたが私のこと、そんな風に思ってたなんて知らなかったわ!!

  ガキ!! チビッ!!」

 

 「ア、アスナさんこそ大人気ないです!!

  年上の癖にっ 怒りんぼ!! おサル!!」

 

 

 「あ、ああ……」

 

 「久しぶりやな あの二人……」

 

 

 言い合っているセリフは子供の喧嘩そのものなのであるが、その勢いは強い。

 

 明日菜の逆ギレに慣れている木乃香は兎も角、そんなに間近で目にしていない刹那は口を挟めない。

 

 茶々丸や かのこ等はわたわたと慌ててしまうが、楓も古も口を挟んでいないくらいなのだから。

 

 誰もが見守る事しか出来ない状況下で、二人の口喧嘩はヒートアップして行く。

 

 

 「拙い…か?」

 

 「え?」

 

 

 横島の呟きに古が反応した直後、何だかよく解らないのであるが、

 

 

 「毛も生えてないガキが生意気言うんじゃないわよ!!」

 

 「アスナさんだってパ○パンでクマパンのくせにっ!!」

 

 

 言い合いが脇に逸れだした。

 

 『ちょ、まっ、白牌は今関係ねぇだろ!?』等と口を挟む間も無く、明日菜の頭にカッと血が上ってゆくのが見て取れる。

 

 

 横島が先に気付けたのは、ぶっちゃけ女の激昂に対する“慣れ”だ。

 

 何せ勝手に自問自答をおっ始め、唐突に自分に八つ当たりをかましてくださるおねーさまと ず〜〜〜っと一緒にいたのだ。何が何でもその段階を読み取る能力がなければ死に繋がる。つーか、高卒まで生きていられたかどうか……

 彼の経験からして、ああいう女の子(、、、、、、、)の口に険が混ざってくると後は早い。 

 あっという間に臨界点に達し、安全弁が吹っ飛ぶ事は火を見るより明らかなのだから。

 

 何せ明日菜は横島の知るそのおねーさまに非常に良く似た気性をしている。

 

 幸いにして明日菜という少女は“その女性”と比べればずっとおしとやか(!?)であるが、それでも気の強さと短さからなる流れは然程変わるまい。

 

 

 となると次は……

 

 

 「この……」

 

  −Adeat−

 

 

 自分が気にしている点を突かれたからか、カッとなった明日菜は思わずアーティファクトを呼び出す。

 

 それを見たネギもやっと危機を察知し、防御魔法を唱えかけるも彼女の瞬発力に間に合う訳が無い。

 

 

 「やっぱりか!!」

 

 「! 老師!?」

 

 

 振りかぶられた明日菜のアーティファクト<ハマノツルギ>。

 

 これの能力なのか、明日菜が特殊なのか不明であるが、ともかく彼女に一撃を喰らうと魔法は無効化してしまうのだ。

 よって間に合ったとしても意味は無かったであろう。

 

 

 「はうっ!? 風楯……」

 

 

 その事を知っている筈なのに障壁を張るネギ。

 避けると言う選択肢は思いつかないようだ。

 

 

 「 ア ホ —— っ ! ! 」

 

 

 唸りを上げて襲い掛かってくるハリセン(?)。

 

 必死こいて防御に力を入れるネギ。

 

 無論、この攻撃を受ければ魔法は解けるか砕けるのであるがそんな事は双方の頭に無い。

 

 ぶっちゃけ、ネギが一方的に危なかったりする。

 

 

 スパ——ンッ!!

 

     バシィイン!!

 

 「へぶぅっ!!」

 

 

 景気の良いハリセンの音と、風の障壁が何かを弾く音、そしてカエルか何かが潰されたよーな音が響いた。

 

 普通に考えれば、ネギの障壁が明日菜によって破壊され、そのまま張り飛ばされるシーンが展開された筈である。

 

 しかし幸いにもネギは無事であるし、障壁も張られたままだった。

 

 明日菜の攻撃が効かなかったのか?

 

 

 「……あ、あれ? き、きゃあっ!!??」

 

 「わ、わぁっ!?」

 

 

 最初に気付いたのは、攻撃を仕掛けた明日菜。

 続いて、それを挟んでしまった(、、、、、、、)ネギだ。

 

 明日菜のハリセンが音を立てたのも、ネギの障壁がまだ存在しているのも、間にクッションがあったお陰なのだから。

 

 そしてそんな酔狂なクッションは……

 

 

 「え? あ、あれ? ろ、老師ぃ!?」

 

 「横島殿!? い、何時の間に……?」

 

 

 当然、横島だった。

 

 元々パワフルな少女である明日菜は見た目以上にパワーがあり、修学旅行の騒動の時に戦った式神達もそのパワーで殴り飛ばされた者もいたようだ。

 

 よって、ウッカリと防御に失敗して明日菜のハマノツルギと風の障壁に顔をサンドイッチさせて防ぐという身体を張ったギャグをかましてしまった横島にもかなりのダメージが入っている。

 

 しかしそれでもハリセンにしばかれた事により、芸人魂には満足なのか、

 

 

 「う、ぐぐぐ……nice bo……もとい、ナイス・バッティング……」

 

 

 グっと親指を立ててから意識を沈没させたのだった。

 

 

 

 

 

 

        ******      ******      ******

 

 

 

 

 

 

 「「……ゴメンナサイ」」

 

 

 ネギと明日菜。

 仲良く二人並んで正座し、頭を下げる。 

 

 その前に仁王立ちして睨んでいるのは古。

 

 

 『二人して大人気ないアル。

  冷静さを見失たばかりか周囲の迷惑を考えず喧嘩を始め、

  あまつさえ止めようとした人物に危害を加えるなど言語道断!』

 

 

 今度は古に、どの口がそんな事ほざく? という言葉でもって説教かまされてたりする。

 明日菜もネギも、アンタ(師匠)には言われたくないとでもいいだけな目をしてはいるが奇跡的に口には出していない。

 その言葉はギリギリで飲み込んでいる。何だか知らないがドスゲェ怖いし。

 

 で、ハマノツルギと障壁に頭部を挟まれて菩○掌モドキのダメージを頭部に喰らった横島は、楓の膝の上で伸びていた。

 楓曰く、『今度は拙者の番でござる』だそうだ。

 その顔を小鹿モードに戻った かのこが舐めてヒーリングぽいものを続けている。

 

 何となく楓の機嫌が良さげなのが興味深い。

 

 

 「う゛……」

 

 「ぴぃっ」

 「あ、気が付いたでござるか?」

 

 

 しばらくして、横島は頭に乗せていた濡れタオルを握りながら身を起こした。

 

 ちょっと記憶が飛んでいるのか、無意識にかのこの頭を撫でつつ『よぉ、カールぅ』等と寝ぼけたようなセリフをぶっこき、ぼんやりと見回したりしている。

 

 

 「あ…れ……?」

 

 「オイオイ。シッカリシロヨナ。頭無事カ?」

 

 「あ、ああ……悪ぃ」

 

 

 ポケットの中に入れたままのチャチャゼロが解り難い労わりの声をかける。

 その頃には横島も、ああそう言えばと何が起こったか思い出し(正気に返っ)ていた。

 

 

 「楓ちゃんもゴメンな」

 

 「何の。御気になさらず…… なれど……」

 

 「ん?」

 

 「い、いや、別に何でもござらぬよ?」

 

 

 よいしょっと腰を上げて明日菜達の方に近寄って行く横島。心配そうに付いてゆく小鹿が健気だ。

 その背を見送りながら、色ボケブルーが『ゴロゴロは?』等と呟いてるよーな気がしないでもないが空耳だろう。

 

 楓と一緒に看護をしていた木乃香のニヤつきは深みを増し、

 

 

 「お嬢様……」

 

 

 これからの刹那は気苦労が増えそうであった。

 

 

 

 

 「よ、よう……」

 

 

 へろりと足元をふらつかせつつネギらに声をかける。

 

 トロールもびっくりな耐久力を持つ横島にここまでダメージを入れてしまったのだ。

 流石に二人してシュンとしており、幸いにも喧嘩の勢いは沈み込んでいた。

 

 それはそれでOKなのだろう、横島はこっそりと笑みを浮かべてたりする。

 

 

 「まぁ、何だ。

  お互い怪我がなくて何より」

 

 「……いや、老師という被害者がいるアルよ?」

 

 「オレは三途の河原を見慣れてるから、然程でもない」

 

 

 それで納得できるアルか!? と今さらながら目を見張る古の横に進み、正座させられている二人の前にどっかと腰をおろす。

 そして当然の様にかのこがその横にぺたりと座った。

 

 横島は苦笑して小鹿の頭を撫でるが、その目に責めの色はない。

 しょーがねぇーなーという溜息くらいだ。

 

 懐が大きいというか、何と言うか……

 

 

 「で、お二人さん。仲良さげだったのに何喧嘩してたんだ?」

 

 「「う゛……」」

 

 

 こんな質問をされて素直に答えられる明日菜ではないのであるが、不可抗力とは言え今さっき殴ってしまった気不味さがあり、黙っているのも心苦しい。

 

 かと言って、すっぺらこっぺら語りまくるのも恥ずかしかったりする。

 

 どうしたらよいのか解らず、明日菜はただ、首の上の温度を上げるのみ。

 

 

 「……OK。言い難そうだから明日菜ちゃんはいいよ。

  で、ネギ」

 

 「ハ、ハイ?」

 

 「明日菜ちゃんに何言った?」

 

 

 やはり横島。こーゆータイプの女性の扱いは慣れまくっている。だからアッサリと明日菜に対する質問を止め、今度はネギに話を振った。

 

 無論、質問を振られたネギの方は困ってしまう。

 

 何せ自分は悪い事を言ったつもりはないのだ。

 だというのに明日菜はいきなり怒り出してしまったのだから彼だってサッパリ解らない。

 

 だからどう説明すればよいか思いも付かないのである。

 

 

 「ふぅ〜む……

  なぁ、のどかちゃん。明日菜ちゃんとネギはナニ言い合ってたんだ?」

 

 「え? え? 私、ですか?」

 

 「うん。そう」

 

 

 ネギは説明に窮し、明日菜は言い難い。

 そうなると第三者に語ってもらう方が良いという事となる。

 

 楓と古は自分といたし、木乃香と刹那もちょっと二人からは離れていた。

 だったら何だかんだでネギの会話に耳を傾けている のどかが何か耳にしているだろうと判断しての事だ。

 

 

 「え、えと……その……」

 

 

 実のところ、彼女もそんなに詳しく話を聞いていたわけではない。

 

 それでもネギの言っている言葉だからか、ある程度は耳にしていた。

 

 のどかがつっかえつっかえしながら説明した事によると、

 

 

 実は昨日、ネギはのどかと夕映を連れて図書館島へ行き、危ない目にあったらしい。

 で、明日菜はその時に何で自分に声をかけなかったのかと腹を立て、ネギを問い詰め出した——との事。

 

 内容その物は簡単すぎる事柄であったが、話を楓と古は微妙な顔をし、横島は顔を顰め、

 

 

 「あんなぁネギ……

 

      お 前 は ア ホ か ? 」

 

 

 「え、ええっ!?」

 

 

 何か深く溜め息を交えつつ、横島はいきなりそう言った。

 

 

 「ええっ!? もクソもあるか。

  明日菜ちゃんは置いてったくせに、ドコをどう考えても非戦闘員の娘は連れて行くたぁ どういう了見だ」 

 

 「え、と……それは……」

 

 「それとも、全くサッパリ危険はないって確信してたのか?」

 

 「い、いえその……」

 

 

 裏の世界。

 魔法使い達の世界はとっても危ないもの。それはネギ自身が口にしたセリフである。

 

 彼の認識よりやや大げさに言ったのであるが、それは二人を怯えさせて危険に近寄らせないようにという理由だ。

 

 ネギも、魔法の危険性は十分承知しているつもりであるし、修学旅行の一件で再認識した筈だった。

 

 だが、父親の手がかりが間近にある事を知り、いても立ってもいられなくなったネギはそのまま地下迷宮に突っ込んで行ってしまったのである。

 いやそれだけならまだ叙情酌量の余地はあろうが、その時に非戦闘員である件の二人を連れて行ってしまっているのだ。

 

 コドモだと言われればそこまでであるが、それにしたって浅慮という感は否めない。

 

 

 「大体、聞いた話によるとお前さんらは前にもあのクソ馬鹿でかい図書館島でエライ目に遭ったんだろ?

  だったらなんでもっと気ぃつけんのだ?

  魔法のトラップがあるかもしれないから今日は自分だけで行く……とか言えんかったんか?」

 

 「うう……」

 

 

 確かに図書館島は彼女らの方が詳しかろうが、魔法に関しては素人以下だ。

 だから魔法の危険を知っている筈のネギがそれに気付かなかったのは、やはりどうかしているとしか言えまい。

 

 

 ネギを知ってからずっと思っている事であるが、この少年は『注意深いくせに不注意』という変すぎる特徴がある。

 

 それとも正しい魔法使いとやらになるのは、こんなちぐはぐな性格が必須なのか? と、横島は首を傾げざるを得ない。

 

 

 「……で? 明日菜ちゃんはそんな矛盾してる事を怒ったと……」

 

 「う、うん……それもあるけど……」

 

 

 いきなり話を振られてちょっと身を竦ませはしたが、別に怒りとかの眼差しではないからか明日菜に然程の緊張はない。

 

 だがそれでも歯切れは悪かった。

 

 

 「? 何だそんなに言い難い事なんか?」

 

 「そんなんじゃあ……」

 

 

 怒ってるような照れているような不思議な表情でもじもじしている明日菜。

 

 不覚にもちょっと萌えてしまった横島であったが、背後と胸元から凄まじい殺気を感じてしまって直にそれも治まった。

 

 横島はコホンとわざとらしく咳払いをし、誤魔化すかのように言葉を紡ぐ。

 

 

 「だ、だったら『民間人はしゃしゃり出てくるな!!』的な事を言われたとか?」

 

 

 まっさかなぁ……オレじゃあるまいし。と、横島は昔実際に言われた事を口にして茶化したつもりであったが、明日菜はムっとして顔を上げ、そのまま何も言い返さない。

 

 アレ? 否定しないの? と、半信半疑で明日菜を見るがやはり憤っているような表情はそのまま。

 

 マジか!? と、今度はネギに目を向けるが、

 

 

 「そ、そんな……僕、そんな事言ってませんよーっ!?」

 

 

 と、思いっきり否定していた。

 

 

 「言ったわよ!! 言ったじゃないの!!

  アタシは無関係な中学生だって!! もう首を突っ込むなって!!」

 

 「そ、そそそそんな!? 僕はそんな事……っ!!」

 

 「待てっ!! モチツ……じゃない、落ち着け!!

  こら、泣くなっ!! 手ェ上げんなっ!!

  暴れんなっ!! 話聞け——っ!!!」

 

 

 何というか……前の世界とポジションが変わってしまった為だろうか、横島の負担が何故か増えてたりする。

 

 自分は騒動を抑える側ではなく起こす側であり、その所為で折檻を受けた挙句に庇ってもらうというお笑いキャラの筈。

 

 何でこんな訳の解らん苦労をせねばならないのか?

 

 

 『ちくしょーめ……

  気晴らしにシスター・シャークティや刀子しぇんしぇーにでも飛びかかろーかな……

  何かそんなコトしてた方が自分を取り戻せそうな気もするし……』 

 

 

 二人の諍いを止めながらナニを考えているのやら。

 

 素晴らしい思いつきのような気がしないでもなかったが、頭で考えただけで何故か背後の少女らと胸ポケ辺りから黒い瘴気みたいな物を感じて慌ててその妄想を振り払う。

 

 ザナドゥに到達できるのなら折檻も怖くない彼であったが、何故か知らんがその気配はチビリそーなくらい怖かった。実際、かのこも頭抑えて蹲ってるし。

 

 

 「お、おちちゅいたかね二人とも」

 

 「ええ……」

 

 「ま、まぁ、何とか……」

 

 

 怯えの所為かなんか声が裏返ってたりするが、怖がってる小鹿をナデナデして何とか平静を保っている“風”を装う事に成功した横島。色んな意味で安堵だ。癒しキャラ万歳である。

 

 

 「ま、これで大体の事は解ったろ?

  ネギは、明日菜ちゃんは元々魔法と関係ない生活してた訳だから余り迷惑をかけたくない。

  そう言いたかったんだよな?」

 

 「ハ、ハイ……」

 

 「そーなの?」

 

 「で、言い方が悪すぎて伝わり切らなかった……と。

  まぁ、空気読めなかった事もあるんだろーけどな」

 

 「うう、ゴメンナサイ……」

 

 

 実際、エヴァに師事を願いに出たのも自分の力不足を認識できたからだ。

 

 明日菜や刹那、のどかに楓や古、真名、そして被害者である木乃香、更に横島の力なくしてあの修学旅行の事件は解決に至らなかったであろう。

 

 特に身近で戦ってくれた明日菜には感謝の念は絶えない。

 

 だからこそ彼女にこれ以上負担を増やしたり、迷惑をかけたくなかったのである。

 

 ——尤も、かなり見当違いな物言いで気持ちがひん曲がって伝わってしまったようであるが。

 

 

 「んで、明日菜ちゃんは本気の本気でネギを心配してて、

  それだけ心配してんのに、自分がどれだけ動いても関係ないって感じに言われてキれたと……」

 

 「うう……改めて他人に言われると恥ずかしい……」

 

 

 あんまり心配してるものだから余計に無関係的な発言がカチンときたのだろう。

 ガキの戯言と取れればよかったのであるが、元からお人よしであり直情的な明日菜には酷な話だ。

 

 横島が(文字通り)身体を張って間に入らねば余計にこじれてややこしくなっていたに違いない。

 

 

 「まぁいいさ。お互いが誤解してたって気付けたんだろ?

  後は謝ったら終わりだ」

 

 「う、うん……ゴメン、ネギ……」

 

 「あ、その……こちらこそゴメンナサイ。言葉足らずで……」

 

 

 ネギと明日菜はやや反りが合っていないように見えるが、その実かなり相性が良い。

 

 これはお互いの事を無意識に認めているからかもしれない。

 

 更に魔法的なラインが持てた訳であるから、その繋がり……いや、絆は更に深まっていると言える。

 

 まぁ、だからこそこう言う“水臭い事”で喧嘩がおっ始まってしまうわけであるが……

 

 

 要は喧嘩するほど仲が良いという見本だった訳である。

 

 

 「それにしても、横島さん。アスナの誤解、よう解ったなぁ……

  ウチも横で話し聞いててやっと解ったのに」

 

 「ん? ああ、明日菜ちゃんはオレの元雇主と性格が似てて解り易かったしな。

  ネギの方もダチに似てるヤツがいてさ……」

 

 

 直情なのを取り成すのは(悲しいかな)慣れまくっているのだ。

 そもそも明日菜の方が随分と穏やかな性格であるし。

 

 ネギにしても、セリフで誤解生みまくるパターンの間は知り尽くしているから楽だった。

 

 何せ同級生にだったダンピールが思い出されるし。

 

 正義感と責任感が強く、みょーな勘違いをしまくる上、ヘンに感動屋でおせっかい焼き。

 優等生で、更に色々と恵まれた能力を持ってて努力家で修行を怠らないクセに何故かヘタレでビビリ。

 成程。確かに似てなくもない。

 

 

 「……そう言やぁ、四方八方にモテるトコも変わらんな……」

 

 「え、えと……横島、さん?」

 

 

 急に禍々しい気配を放ちだした横島に驚いて刹那が声をかけるが、ククク……と黒い笑みを浮かべるのみ。

 

 尤も、貴重なたんぱく質(差し入れの弁当)をめぐんでもらっていた(強奪とも言う)事を思い出したので直に元に戻ったのであるが。

 

 どちらにせよ喜怒哀楽がストレートに出てくる正直な男である。

 

 

 「ま、まぁ、誤解も解けたよーで良かったでござるよ」

 

 「本当アル」

 

 

 楓にしても古にしても、付き合いが三年目に入れば明日菜のややこしい性格は見て取れている。

 

 焦りまくってわたわたする様は第三者的に眺めているだけならお笑いで済むが、こう間近な事でもめ事を起こされると止めざるを得ない。

 しかし明日菜は、そのタイミングがこれまたややこしい少女なのである。

 

 確かに彼女が恋焦がれる高畑であればあっという間に止められようが、彼は何だかんだで明日菜の事を信じているので彼女自身が気付いて解決するさと静観してしまう可能性がある。

 或いは、高畑に対する外面によって納得した風を全力で装い、実際には全く解決せぬままに終わってしまうとかだ。

 

 だから横島のように明日菜を手早く納得させた上で解決してくれる大人はかなり貴重なのである。

 

 

 これも“あの”元雇主の矢表に立たされていたお陰であろう。

 

 そう考えるとちょっとは……ほんのちょっとは横島も報われるかもしれない………多分。きっと。めいびー……

 

 

 「つまんねー事でぐぢぐぢしてる美少女見んのはイヤだしな。

  それに気が付けば解決も早いと思ったんだ。

  こーゆー娘は聡いし、勢いがつけばどんな娘より真っ直ぐ相手見て謝れるし」

 

 「へぇ……」

 

 

 殆ど接していないのにここまで彼女を理解しているとは……

 流石は楓と古が師と見ているだけの事はあると刹那も感心していた。

 

 強者なんだかオマヌケなんだか判断がし辛い青年であるが、流石にこういったところを見せられると見直さずにいられないだろう。

 

 ちらりと視線を後に向ければ、木乃香もニコニコして自分のルームメイトらを見守っている。

 

 横島に諭されたとは言え、何時も以上に早く自分から気付いてくれた事が嬉しいのだろう。

 

 のどかもちょっと離れた場所で胸を撫で下ろしているのが解る。

 

 和やかになった空気を読み、刹那も微笑んで目を戻したのであるが……

 

 

 「んじゃ、誤解も解けたよーだし……

 

 

   そ ろ そ ろ 説 教 に 入 る と す る か 」

 

 

 

 

 「「い゛い゛っ!?」」

 

 

 

 彼はそこで終わったりしないのだ。

 

 

 

 「まず、明日菜ちゃん」

 

 「な、何よ?」

 

 「ネギのこと心配してるのも解るし、自分にできる範囲で鍛えてるのも解る。

  刹那ちゃんに剣道習ってるとか言ってたけど、今やってるのは基本程度なんだろ?

  そんなレベルで『何とかなる』なんて考えるんだったら、ネギをどうこう言えないぞ」

 

 「う゛……で、でも……」

 

 「あの銀髪のガキは、キミが剣道を習ってる刹那ちゃんを一撃で沈めたんだって?」

 

 「あう……」

 

 

 かなり厳しい言い方ではあるが、さっき明日菜が言っていた事は剣道を習っているからマシと言ってるようなもの。

 

 だが、『剣道を習っている』というレベルで裏の人間を相手にする事は出来ない。

 

 実戦剣道というのなら兎も角、いくら常軌を逸した体力を持ち、魔法を無効化する妙な力を持つ明日菜とは言え、習い始めでは素人よりマシという程度である。

 これは過信ともとれるだろう。或いはあの時何とかなってしまったが故に、無意識に過信しているのかもしれない。

 

 明日菜自身あの少年にはかなり悔しい思いをさせられている。

 何せネギを守ろうにも、庇おうにも、相手との力の差があり過ぎて手も足も出せず、一矢報いたのが限界だった。

 横島が割り込みを掛けてこなければどうなっていた事やら……考えるのも恐ろしい。

 

 そんな明日菜をややキツ目に睨む横島。

 

 言うまでもなく普段より物言いが厳しいのは明日菜を心配しての事。

 でなければどこか突き放したようなこんな言い様はしない。

 

 

 「んで、ネギ」

 

 「ハ、ハイ!?」

 

 

 そしてネギに向けた眼はもっとキツかった。

 

 

 「あの銀髪のガキみたいなのに関わったらどんな目にあうか解ったもんじゃない。

  だから魔法に関わらせないように思った……ってぇのは良い。丸をつけてやる」

 

 「あ、ハ「だけど、それはこの娘らを関わらせる前の話だ」イぃ!?」

 

 

 声のトーンが変わり、ネギの身が竦む。

 ネギは何だか解らないのだが、横島は楓らですら驚くほど怒っていたのである。

 

 

 「あの事件の時の調書読んだか?」

 

 「え、えと……ハ、ハイ……」

 

 

 急に雰囲気が変わった為、少女らも慌てていて口を挟めない。

 

 それはネギの横で座っている明日菜にしてもそうだ。

 だが、明日菜は横島の正面にいるのでネギに向けられている眼差しを見る事ができていた。

 

 

 『え……な、何で?』

 

 

 彼は、怒ってはいるのだがどこか悲しそうな目をしているのだ。

 

 

 「あのガキみてぇなタイプはな、大切な事の為には多少の犠牲はしょうがないって考えんだよ。

  実際、あん時本山にいた人間全員を石にしてたろ?

  殺さないだけありがたいと思えってトコだろうよ」

 

 「そ、そんな……」

 

 「そん時、のどかちゃんトコにも行ったんだってな」

 

 「ハイ……」

 

 

 木乃香も覚えているであろうのに僅かに表情を硬くするのみ。

 自分の所為だと思っているのだろうと見当がつき、刹那は悔やむように下唇を噛んだ。

 

 楓は実際に目にしているし、古も石像群を見ているのでやはり表情が曇った。

 

 ネギが思い出すのは、のどからに宛がわれていた客間。

 

 

 初めは何かの遊びかと思った。

 

 

 いや、ひょっとしたら解ってて心がそう思い込もうとしたのかもしれない。

 

 起り得ない。起こってはいけない光景。

 

 もう二度と見たくもない、“知り合いが石になっている”光景。

 

 それが目の前で再演されていたのだから。

 

 

 「調書にそん時の事、書いてあったけどな……

  ンのガキ……のどかちゃんをメインに狙ってやがったんだ 」

 

 「「!?」」

 

 

 のどかを気遣ってその話に触れていなかったのか、或いは調書をよく読んでいなかったのかは不明であるが、過分に怒りを含んだ横島の言葉にネギと当事者ののどかが息を飲んだ。

 

 もちろん横島は、

 

 『あ、言っとくけど、結局は全員を石に変える気でいた事に間違いないみたいだかんな?

  単に、先に石にしておかないと行動を読まれる危険性があるって判断しただけだと思う。

  だからキミの所為で同級生が巻き込まれた……何て事はありえないから』

 

 と軽めの口調でのどかをフォローする事も忘れない。

 

 

 「解ってるたぁ思うけど、あのガキみたいなヤツは手段を選ばない。

  あーゆータイプは大義ってのをでっち上げて、その為の犠牲とかを全然気にしないクソ野郎だ。

  ああいう手合いを知らないでいたのなら兎も角、知った今、お前さんがやんなくちゃなんねぇのは何だ?」

 

 

 珍しい横島の真顔。

 

 彼は女子供。特に女の子を平気で危険な目に遭わせるヤツをとことん嫌っている。

 

 ネギを通して、あの銀髪の少年“フェイト”を幻視して怒り、そして彼を幻視して認識の甘いネギに焦っているのかもしれない。

 

 

 「アイツみたいなのから皆を守る為に自分を鍛える……

  うん、その事も大事だけど、そう言った手合いから身を守る方法をこの娘らに教え込むのも大事だろう?

  それが関わらせてしまった、巻き込んでしまったヤツの責任じゃねぇのか?」

 

 「……ハイ……」

 

 

 横島の言葉を聞き、項垂れるように頷くネギ。

 

 少女らの中にはやや言い過ぎととらえる者もいたかもしれないが、彼の言っている事は全くの正論だった。

 

 

 というのも、

 

 

 「……なぁ、刹那ちゃん」

 

 「は、はい?」

 「関西呪術協会ってさ、それなりに手が長い(、、、、)んだろ?」

 

 「え? あ、はい。それは西の本山と言うくらいですから……」

 

 「で、ここは関東魔法協会……東の本山……だよな?」

 

 「はぁ、それが何か……」

 

 「解んねぇか?

  日本を二分する魔法の勢力が合同で追跡してんのに——」

 

 

  未だフェイト(あのガキ)の尾の先も捉えられていないのだ。

 

 

 

 

 「あ……」

 

 

 そう言う事だ。

 

 

 理由として考えられるのは、西と東の組織力は思っているほどではない。実は対した事がない。

 あの少年の完全単独行動なのでバックの動きがないから見つけ難い。

 東西の組織内に支援者or手の者がいる。

 逃げ遂せるだけの実力を持っている……等であろう。

 

 しかし、仮説のどれ一つを取っても、拙いという事に変わりはない。

 

 だから横島はおもいっきり警戒しているのだ。

 

 

 「あんなガキみたいなのが何人もいたら堪んねーけど、ぜってーいねぇって保証もねぇ。

  そうなるとやっぱり自衛手段くらいは教え込んでやんねぇと」

 

 「……うう、確かに……」

 

 

 確かにネギの気も解らぬでもない。

 

 巻き込んでしまった一般人……それも親しくしてもらっている女の子らを危険に巻き込みたくない。その気持ちは横島とて大いに解る。

 

 が、その距離の置き方はあまりにちぐはぐで、何と言うか……母性本能を妙に刺激しつつ、何故か努力しているところを見せてしまったりしているので『実は誘っているのか?』と邪推してしまいそうになるのだ。

 

 

 もし横島が距離を置こうとするのなら、おもいっきり怖がらせたり、酷い行為を連発して嫌われようとしたりするだろう。

 どれだけ嫌われ様ようと、憎まれようとその娘が怪我するよかマシだからだ。

 

 まぁ、そこは横島であるから、嫌われたとしても気を使い続けるというオバカさんなマネもしちゃうだろうが……

 

 乱暴な言い方をすればネギの行為は、子猫を保健所から守る為に拾って帰って安全な道路に捨てる……といった感じだろうか?

 

 

 尤も、横島も男相手ならここまで考えてやったりはすまい。

 せいぜい学園側に忠告しておく程度だろう。

 

 しかし、事に関わってくるのは明日菜に木乃香、刹那にのどかといった将来的に超有望株と成るであろう美少女達……つまりは国宝の安否である。

 

 生来のお人よしと女子供に対してのみ発動する底抜けの優しさも相俟って、横島の頭は通常より200%ほど割増して大回転しているのだ。

 

 

 「おまけに力だけ与えといて、その使い方を教えとらんし詳しく調べとりもせんつーのはどういう了見だ!?

  あんまナメとったらしょーちせんぞコラ!!」

 

 「あひぃいいっ!? ゴ、ゴメンなさーいっ!!」

 

 

 しかしその怒りのテンションは治まりを見せず、何か段々とボルテージが上がってきているように感じられる。

 

 

 それも——

 

 

 「大体、何だ!?

  今学期の初めに明日菜ちゃんの唇奪って、修学旅行中に のどかちゃん、刹那ちゃんやと!?

  美少女の初物を喰いまくるたぁどういう了見じゃゴラァ!!

  ガキの分際で寿命を延ばす気か? ぶち殺すぞ!!」

 

 

 ——主に見当違いの方向に……

 

 

 「は? いや、あの……」

 

 「しゃ〜らぁっぷっ!!!!

  キサマには反論の余地はない! この淫行教師め!!

  美少女を選り取り見取りだと!? ざけんなっっ!!!」

 

 

 何だか最後は血でも吐きそうな勢いだ。

 

 ネギにとって多大なる言い掛かりであろうが、横島的に言えば大悪事以外の何物でもないのだ。

 

 何しろネギが行っている事を横島の現年齢に照らし合わせてみれば二十一歳の女子大生達とキスしまくっているようなもの。

 穢れを知らぬ若芽の内に摘み取られたような気になるのも(横島なら)当然だ。

 

 そりゃ血涙も出したくなるだろう。

 

 

 「そ、そんな事言われても、僕は先生なんだし」

 

 「何やとぉ!? 先生やったら女生徒にナニやってもかまわんちゅーんか!?

  高校教師は女子高生、大学教授は女子大生にお手つきOKってか!?

 

  何て羨ましいんだ!! 恐るべきは学歴社会か!!

 

  おのれ……何と言うウハウハ生活を……テメェ、代わりやがれっ!!」

 

 

 テンションが上がり過ぎて脳がイッちゃっているのか、或いは怒りのボルテージで理性が吹っ飛んでしまってるのか甚だ不明であるが、津波のようなその感情の勢いは正に大自然の猛威。

 全く持って自慢は出来ないのだが、人が吹き飛んでしまいそうなオーラまでもが迸り出ていた。

 

 

 え゛? それって自分も女子中学生とちゅーしたかったって事? 等と言ってはいけない。

 横島自身、テンションに任せて憤りを噴出させているのでナニ言ってるのか理解していない節もあるのだから。

 

 無論、大方の人間にはオレに代われーっな発言にしか届いていない。

 

 

 つまり……

 

 

 

 

 

 

 

 

 「「「ほほう……面白い事を言ってる(でござるな)(アルな)(ジャネーカ)」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「アレ………?」

 

 

 

 ストッパーは勝手に生まれてくださるという事である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

        ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

                  フルボッコ中です

 

        ※※※※※※※             ※※※※※※※

 

                しばらくお待ちください

 

        ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 「理解したでござるか?

  そう言った事は淫行罪であり、横島殿の場合は想像もしてはダメでござるよ?」

 

 「ネギ坊主はネギ坊主、老師は老師アル。

  自分の身の程を知ればいいアルよ。出来ないものは出来ないアル」

 

 「マ、ドーシテモ我慢デキネーッテンナラ オレニ相談シナ。

  イツデモ『(キュウ)ノ刑(去勢)』ニシテヤンヨ」

 

 

 「……ハイ、モウシワケアリマセン……チョーシコイテスンマセン……」

 

 

 

 

 

 何が何だか解らなくなったモザイクがかかった物体に、冷静に懇々と説教する二人……いや、二人と一体。

 

 起こったのは余りと言えば余りにバイオレンス。

 ノクターンじゃないとお目にかかれないようなR18コードバリバリの残虐シーンに、ネギと明日菜は抱き合ってガタブル震え、木乃香は顔を青くした刹那に目をふさがれ、のどかは失神していた。

 

 それでもスゲく自然に説教たれる少女らが怖すぎる。

 

 

 何はともあれ、横島の尊い犠牲(?)によって明日菜とネギの(わだかま)りは取っ払われのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 で、

 そんな騒動を無視してずっと語り合っている者が数名——

 

 

 「成る程……

  契約者の宿星に合わせて方陣を描いてその中で対象が従者として契約するですか……」

 

 『ま、仮の契約ってヤツだがな。

  言っちまえば従者のお試し期間ってこった。

  それでもアーティファクトが使えるからか、割とひょいひょい結ばれてっけどな』

 

 

 無論、表立ってはそうそう行ってはいないのだが、魔法国に行くと街中でも契約屋なる店があるというのだからアバウトなのだろう。

 

 『あっしが本家本元の契約精霊なんだぜっ』とかオコジョが騒ぐが夕映は気にもせず楓らの札と、のどかと刹那、そして木乃香と明日菜のカードを見比べている。

 

 

 「パクティオーカード……

  魔方陣は本に良く出てくる西洋の魔方陣そのものですが、そこに描く内容は陰陽っぽいですね。

  そしてその儀式から生まれてくるカードはタロットカードに似てます。

  反して、こちらの札は手順は同じなのに完全に別物。

  形状は本当に花札……ですね。何だか絵柄までちょっと和風です」

 

 『そーなんだよなぁ……手触りとかも何か違うし、魔力も感じねぇ。

  あの兄さんが魔力を持ってねぇにしても、ちょっとなぁ……』

 

 

 

 向こうの馬鹿騒ぎを無視し、そんな二人の会話を耳に流しつつ木材を撫でるように薄く削っているエヴァ。

 

 チラリとも視線を向けていないのであるが、さっき楓から伝えられている札の裏にある文字の欠片と、横島の在り方を照らし合わせてある程度見当を付けていた。

 

 いや、仮説の域は出ていないのであるが、今までの情報を整理するとそれしか考えられないと確信もしている。

 

 『……かのこの成獣化は能力(、、)かと思っていたが……

  アレがパクティオーカード(モドキ)の力だったとはな』

 

 

 それも想定外だ。

 

 あの男はどれだけ反則街道を突き進めばよいのだろうか。

 

 

 『しかし、あの符……

  呼べば手元に現れるのは、元は従者召喚なんだろうな……

  衣装が変わるのはオマケ機能の着替え……っというところか?』

 

 

 ずっとナイフで力ある言葉を刻み続けていたエヴァは、やっと刃物をテーブルに置き、粉末のように細かい木屑を吹いて飛ばす。

 

 完成にはもうちょっと掛かろうが、思ったより手早く事は進んでいる。

 

 

 『となると……

  やはりアイツが歪めたんだろうな……』

 

 

 ちらりと目の端を向けてみると、何だか感心するほど黒い瘴気を放っている楓と古に説教され続けているモザイク……もとい、アホの姿。

 とてもじゃないがそのアホがあれほどの力を持ち合わせているとは信じ難い。

 

 が、彼のポケットに入れられている自分の下僕が、『ワカンネーノナラ、テメェノ脳みそニ直接刻ミ込ムゾ? 物理的ニ』等とエラい物騒な事言って脅しまくっている。

 

 

 ——その手に、掴める筈もない鉈を握り締めて……

 

 

 

 エヴァの口元に浮かぶ笑みが深まった。

 

 先程も魔法を破壊する力を持つ明日菜の攻撃を横島ごと受けているというのに、エヴァの魔法によって存在している筈の彼女は無事だった。

 そして今も、魔力が無ければ動くどころか喋る程度の事しかできない筈だったチャチャゼロが、手に物を持っている(、、、、、、、、、)……

 

 

 『思った通りなら……いや、おそらく間違いないだろうな。

 

  やはり神々とやらがいるキサマの世界の“枷”は、ここでは……この世界では——』

 

 

 

 適応されぬのだな……——

 

 

 

 エヴァは今度こそ声に出して笑ってしまった。

 

 その笑い声に気付いた夕映とカモにいぶかしげな目で見つめられても、ずっと楽しげに……

 

 

 自分の想像が確信に変わって行くのを感じて。

 

 

 

 




 お読みいただきありがとうございます。

 この時にはまだコスプレダンスしてたりしますし、TTRPGのコンベンションでくろうしてたりします。何かなつかしいw
 頭振り過ぎてムチ打ちになってダンスやめたり、件のゲームマスターが亡くなったりと色々ありました。ヤレヤレです。

 女の子ズの関係はかなりジリジリ。いらいらされる方には申し訳ありませんが、三角関係にもなりませんし恋の邪魔者も出ません。ただ仲が進まないだけで……って、それがイラつくw? 御尤もでw
 まぁ、真面目に本気に恋愛してたらこんなもんです。リアルにもっと酷いのいますし。私もツッコミ入れたくらいのレベル。

 まー 学園祭編辺りから進みますんで我慢してください。
 とゆー訳で続きは見てのお帰りです。ではでは~

 PS...当時やってたゲームは7th。今はVitaで種。こちらも歴史感じるw

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