-Ruin-   作:Croissant

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後編

 

 

 フ……とエヴァは口元に笑みを浮かべていた。

 

 それは微かに苦笑を含んでいたのであるが、小鹿を抱えて右往左往している茶々丸には解らない。

 何だか加速度的に人間っぽくなって来ている気がするけど。

 

 そんな彼女の頭の上にいる所為だろう、ぶんぶん振りたくられてその姉は余り機嫌がよろしくない。

 尤も、それは振り回されているという理由よりもそんな妹の体たらく(、、、、)に呆れているというのが正しいのかもしれないが。

 

 ——やはり(、、、)…か……

 

 そんな二人(二体?)に主の呟きは聞こえていない。

 

 第一その呟きは自分の従者達……魔法と科学の結晶である妹や、霊波動を受けて妙に人間臭さを増してきている姉……に向けたものではなく、新たに得た下僕に向けたもの。

 冷静さを取り戻し、ネギの事を気にし出した、あの“突き抜けたバカタレ”に向けられたものだ。

 

 エヴァの課した試験は、実のところ然程難しいものではない。

 何せ倒す必要は無いのだ。

 要は勝てば良いだけ(、、、、、、、)なのだから、幾らでも手はあるのである。

 

 一番簡単な方法の例を挙げるなら、ボケを言わせてツッ込むというのもある。

 

 お笑い芸人気質を地で持っている横島だ。ツッコミを避ける能力はない。

 現に、チャチャゼロが本気で戦っても掠らせもできないくせに、ツッコミだけは誰の放つものでもバシバシ受けているのだし。

 その代わりと言っては何だが、耐久力もギャグ入っていて異様に頑丈になっているようだけど。

 

 まぁネギは横島の事をそんなに詳しく知る訳がないので気付ける筈もないだろうし、真面目で知られるコドモ教師であるからそんな方法は思いもつくまい。無論、横島がそんなアホな負け方をすればエヴァも只では済ます気はないが……

 

 どちらにせよ、やはりネギは今一つ状況判断が鈍い気がする。

 

 

 「−ああ、ネギ先生……」

 「ぴ゛ぴ゛ぃ゛〜……っ」

 

 「ヲイ ばかタレ! ナニヤッテンダ!」

 

 

 ……その隣でまだ茶々丸が焦りまくっており、強く抱きしめられた かのこが苦しそうだった。

 チャチャゼロが頭をばしばし叩いて気付かせないとエラい事になっていただろう。

 まぁ、それは横に置いといて——

 

 一週間前、エヴァはネギに師を請われた時は面倒だったしどーでもよかった。

 有耶無耶になっているし、そこそこ気に入ってはいるが、一応、ネギと彼女は敵同士。

 『正しい魔法使い』らにとって、エヴァという『悪の魔法使い』は永遠の敵なのだから。

 

 だからてきとーにお茶を濁そーかとまで考えていた。

 

 

 が、今は違う。

 

 

 あの男——横島忠夫という下僕を持ち、魔法使い相手の戦いを叩き込んでゆく中で彼女の中に芽生えたもの……

 

 教師欲……とでも言えば良いだろうか。

 卵の殻が取れていない未熟なひよっ子を自分好みに育て上げるという楽しみ……それにウッカリと目覚めてしまい、更にムクムクと膨らませてしまっているのだ。

 

 何せ横島という男は物覚えが悪い。

 死の縁に叩き込み、何度も三途の川をメドレーリレーさせねば技の裾にすら手が届かないほどなのだから。

 

 しかし、その代わり彼は異様に欲深かった。

 

 一度掴むと決してその技術を手放そうとせず、必死に喰らいついて貪欲にそれを会得して行く。

 実際、投げまくりはしたが投げを教えた訳ではないし、誰か…或いは何かを投げさせた憶えも無い。

 女に手を上げられない男であるから、チャチャゼロやその妹達は元より、エヴァに対しても投げを行なう事(技術的に実現可能かどうかは別として)ができない。

 

 

 だから直に叩き込んだ。

 

 

 柔術の極め投げを身体で憶え、そして“流れ”をムリヤリ掴ませるべく、エヴァはかなり本気で投げ続けた。

 普通は無茶であり、達人クラスのエヴァの投げであるから、覚える云々以前に一撃目で死亡してしまいかねない。

 無論、最初は死なない程度の手加減を加えていたし、死ななければ腕を折ろうが足が砕けようが頚椎を痛めようがどうにでもなる。

 彼の“珠”を使用してムリヤリ回復するのだから。

 

 幸い“珠”は、十分程度は物質として存在するので、その間中痛めつける事ができる。

 

 それを良い事に修行はどんどんエスカレート。

 ネギが目にすれば失禁しかねないほど、どう贔屓目に見ても拷問かリンチにしか見えない鍛練を課す事が出来た。 

 

 だがその甲斐あってか、或いは素質があったのだろうか、横島は僅か二ヶ月で基本中の基本であり且つ最重要である“極め”と“投げ”をモノにしたのである。

 

 面白い——

 

 面白い!

 

 エヴァは“業”の一端を掴まれた時、そう心の中で叫んでいた。

 

 

 技術を叩き込む事がこんなに面白いとは思わなかった。

 

 如何に無様であろうと、叩き込んだ技術を必死に会得してもらえる事がこんなに楽しいとは思わなかった。

 

 ——そして彼女は認めた。

 久方ぶりに思い出さされた“面白さ”“楽しさ”に酔っている……と。

 

 だから求めている。

 

 ぐっと求めている。

 

 

 ネギと一戦やらかした時、あんな子供が自分に付いて来られる事が楽しいと感じていた。

 

 ぼーやが泣き出すほど追い込みはしたが、抗われた時にはホッとしていた。

 

 自分と同数の精霊を駆使して魔法を使われた時、我知らず笑い声を上げてしまった。

 

 

 それは目を掛けている生徒に出した課題を解かれてゆく気分に似ているのではないだろうか。

 

 

 認めよう——

 今の私は一人前の魔法使いとなったぼーやを見てみたいのだと。

 

 認めよう——

 ぼーやを私自身の手で魔法使いとして鍛え上げてみたいのだと。

 

 

 もし、あのぼーやが“そう”であるなら、

 

 優れた才能を腐らせず己を研磨して行く者なら、

 

 身に付けた技術を己の中で研ぎ澄まし、鋭く鋭角に仕上げて行けるのなら、

 

 

 

 私は……——

 

 

 

 

 

 

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             ■十六時間目:功夫・Hustle (後)

 

 

 

 

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 「お前さんの欠点は、余りと言えば余りにも真っ直ぐ過ぎて次にどこをどうするか気付かれる事だ。

  まぁ、それに“誘い”を混ぜられたら勝ち目あんだけどな〜」

 

 踏み出した足と共に拳が襲い掛かるが、横島は手で弾いたりせず、腕に手を添えるようにして()なすだけ。

 

 だがそれは、振り子のように腕の振りで反対側の拳を叩き込もうとしていたネギにとっては最悪の避けられ方で、勢いを逃がされたのだから腰を軸とした突きを出す事ができなくなっている。

 無理に出そうとしても隙が大きくなるばかりだろう。

 

 

 「ああ、今のも拙い。

  左で出した崩拳が誘いで、本命は右拳だろ?

  初めっから右手に意識が向いてんだからフェイント見え見えだぞ」

 

 「く……」

 

 

 ならばと逃がされた勢いのまま軸足で旋回し、彼のいる方向に身体を捻って拳底を振り込むネギ。

 ぬぉっ!? と僅かに驚く横島であったが、その腕を防御するふり(、、)をして誘い入れ、身体を捻ってネギを引っ張り投げた。

 

 

 「わぁっ!?」

 

 

 ころんっと転がりかけるネギ。

 が、彼も然る者で、そのまま足から着地して勢いを殺さぬまま横島に再度踏み込む。

 

 横島はちょっと感心した眼をしてそれを迎え、振り出された腕を外側に弾き、そのまま上から手で押して掬い落した。

 

 『え……?』と、ネギが驚いた時にはもう遅い。バランスを崩されたまま、軸足を払われてもんどりうって倒れてしまう。

 無論、頭を打ったり頸椎を傷めないよう細心の注意を払われてであるが。

 

 

 「ネ、ネギ——っ!!」

 

 

 慌てて声を上げる明日菜。

 

 確かに頭部を庇ってもらえてはいるが、ひっくり返されている事に何の変わりも無い。

 

 “裏”の事情を知らないギャラリーの少女らは押し殺したように悲鳴を零すのみ。

 さっきまでとはかなり違う。

 

 尤もそれは、皆が揃いも揃って口を押さえているからであり、好き好んで応援をしなくなったわけではない。

 

 

 楓らから話を聞いて直、明日菜らは声を荒げて声援を送っていた祐奈達の下に駆け寄り、ネギを応援する事こそがネギを追い詰める事になると教えた。

 

 フツーなら理解できそ—にない話であるし、『何でっ!?』という疑問の声が飛ぶが、皮肉にも横島のクラいワライが見えてた事が説得力を生んでいて、彼女らは訳が解らないが一応納得をし、口にチャックをしてくれている。

 

 尤も、声を出さないだけで応援は続いている為、無言でポンポン振りたくったりして応援している様はちょっと異様であったりするが。それは兎も角——

 

 

 問題は、相手に対する美少女の声援という火に注がれるナパーム弾は無くなった事により、その所為で横島の冷静さを取り戻す速度は上がっている事だろう。

 

 彼女らは知らない事であるが、冷静になった横島は余計に始末が悪くなったりするのだ。

 

 現にさっきよか隙が減り……いや、眼に見える隙の全てがフェイクであり誘いで、ウッカリ踏み込んでしまうネギはコロコロ転がされまくっている。

 声援を送れば攻撃力が上がり、送らねば戦闘力が上がる。何と厄介な相手であろうか。

 

 

 「はわ、はわわわ……ぜ、全然手も足も出ぇへん……」

 

 「……た、多少はできるとは思ってはいましたが……」

 

 

 木乃香らも唖然としてそれを見守る事しか出来ないでいた。

 そして横島の強さを改めて思い知らされたのから刹那の驚きは大きい。

 

 あの式神集団との戦闘の折、僅かの時間ではあったが戦闘機械のような状態になっていた彼を目の当たりにしている。

 

 群がる式神をものともせず……いや、無視するかのようにラッセル車宜しく前方の障害だけを“除去”していた横島。その時の怖気は今も忘れられない。

 

 が、再会してみればあの時の彼はどこへやら。人当たりが異様によく、人懐こそうな笑顔を見せるそこらの一般人そのものだった。

 彼女の目をもってしても、そんな彼の様子が作り上げたもの……演技とはとても思えなかったし、素であるとしか感じられなかった。

 

 

 そんな彼が今、刹那から見ても巧みだと言える技を出している。

 

 余りにもころころと印象が変わってしまう為、判断がつきかねているのだ。

 

 

 

 声無き応援している少女ら。それも戦いの素人である少女らからしてみればもっと手加減してくれてもいいでしょう!? となるだろうが、横島は彼なりにではあるがかなり手加減をしていた。

 その事は古と楓の二人はよく解っている。

 

 何せ横島は何だかんだ言って女子供に底抜けに甘い。

 

 だから確かに“しっとマスク”になりはしたものの、相手が本当に十歳だと解っている横島の怒りパワーの持続時間はとてつもなく短いのだ。

 それはカウンターといっても、ダメージにならないよう気を使っている事からも見て取れる。

 

 それに彼の真骨頂である縦横無尽の回避逃亡行為は封じられており、メインである霊能力も無し(自覚は無いだろうが、彼の霊能力は結構目立つ)。

 

 言うまでもないが“珠”は論外。

 下手をすると神秘が曝されるし、何より只でさえ薄いネギの勝ち目がマイナスになる。

 

 だからこれ以上の手加減具合、公平さは無いだろう。

 単に横島が別空間での二ヶ月という僅かな時間で強くなり(、、、、)過ぎているだけ(、、、、、、、)なのだ。

 

 

 ——しかしそんな事よりも、二人には気になっている事があった。

 

 

 「や、やぁあっっ!!」

 

 「おっと」

 

 

 何処に気合が残っていたのか、まだ腹から声を出して横島に突っ込んで行くネギ。

 

 対する横島は叩き付けてくるような気合に臆する素振りも無くそれを受け、あまつさえするりと横に流している。

 

 そう言った気合は人外のレベルを体感し続けてきている横島だ。

 確かに年齢度外視の波動を持ってはいるが、まだまだ人間の範疇であるからか然程の動揺も無い。

 

 

 「横島殿……」

 

 

 だが、楓は——

 楓達は、見事に避け切っている横島が、何だか痛々しく感じられて仕方が無い。

 

 

 久しぶりに会った彼は、会わなくなった時より幾分すっきりとした表情をしていた。

 

 彼に迷いの霧があったのかと問われれば返答に困るのであるが、あの修学旅行での戦い以降、微妙に思いつめていた気がしないでもないのだ。

 

 “それ”がマシになっていた——のだ。さっきまでは。

 

 

 「老師……?」

 

 

 古も彼の表情が僅かに曇ってきた事に気付いたのだろう、怪訝そうな声を漏らしていた。

 

 攻撃を受ければ受けるほど、

 いや、捌けば捌くほど彼の心が傷ついて行くような……そんな感じがするのである。

 

 

 「横島殿……」

 

 「老師……」

 

 

 ほぼ同時に、二人の口から思わずそんな声が漏れた。

 

 何気ない声ではあったが、もどかしそうで、それでいてどこか腹立たしそうな、そんな声。

 

 心配の色を多分に含んだ、女の子然としたそういう声。

 

 木乃香と刹那は『え?』という眼で二人を見た。

 

 迷いに沈んだような声が不思議だった事もあるが、その二人顔を見てまた『え?』と戸惑う。

 

 

 何故かは本人すら理解できていないだろう。

 いや、そんな顔をしているという自覚は無いだろう。

 

 彼女らには、一度も攻撃らしい攻撃を受けていない横島が、何だか見えない拳で殴られ続けている……

 その痛みに耐えかねて泣いている。

 そう感じられて仕方が無いのである。

 

 だから木乃香らが目にしたその二人の顔は、

 今にも涙が滲み出てきそうな泣き顔になっていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 解らないという事は歯痒いという事でもある。

 

 ものにもよるが、気付けない、気付く事ができないと、

 

 相手の吐いた“優しい嘘”に気付けず、思いもよらない悲しみを背負い込んでしまう事がある。

 身を以って(、、、、、)それを知っている横島であるからこそ、チクリと感じた僅かな痛みを無視する事無く観察する癖を持ってしまっていた。

 

 

 だからこそ“気付けてしまった”。

 

 だからこそ“見えてしまった”。

 

 

 向ってくるネギのその目に浮かぶのは、悲しいかな“知っている光”。

 何かに躓いて傷を負っても気付けず進んでしまうかもしれない。そんな我武者羅な想いの光。

 

 輝きと見間違えそうに成る程強いのだけど、単なる反射発光のようなそれ。

 

 目標ばかりに気が入っているようで、その実は何かから必死に目を逸らせている。

 

 そんな事に気付けても嬉しくも何ともないが、解ってしまったものだから胸が痛む。

 

 

 底が浅く愚直。

 真っ直ぐと言えば聞こえは良いが、単なる直情行為であり、何も見えていない。

 それが自分どころか周りすらも傷付ける事になると気付けない。

 

 自分がそうであるからこそその事が解ってしまい、そして思い出す。

 

 

 乗り越える事は不可能だと気付いたから、癒す事は不可能なのだから、嫌でも苦しくてもそれを受け入れ、前を見据える。

 それが出来た時にやっと出発点に立てる。

 

 それに気付けた時の事を……

 

 

 自分に迫ってくる拳。

 

 

 この拳にどれだけの想いが篭っているのだろう。

 窮鼠(きゅうそ)猫を噛む……ではないが、何となく追い詰められた攻撃に見えなくも無い。

 

 

 試験に受かる為に必死になっている——

 

 成る程、そう聞いていればそう見えるかもしれない。

 事実、そうであっただろうし、その気持ちに偽りは無いだろう。

 

 

 だけど“それだけ”とは思えない。“それだけ”には見えない。

 

 横島の眼に映るのは、“想いに駆り立てられている少年”のそれではなく、“想いに追い立てられている少年”の姿だった。

 

  

 子供のはずなのに、まだ十歳程度の筈なのに、何でこんなに余裕が無いんだろう。

 

 こんなに余裕を無くす程の事があったのだろうか?

 

 

 何だろう?

 奇妙な親近感を感じているのは。

 

 何故だろう?

 以前の自分に似たモノを感じているのは。

 

 

 疑問と同情が入り混じったややこしい感情を治められない横島は、力を振り絞って殴ってくるネギの腕の動きに合わせ、ゆっくりと手を前に動かした。

 

 

 

 

 

 

 

 パン……ッ!!

 

 

 風船が爆ぜるような音が場に響き、少女らは我に返ったようにビクンと身を竦めた。

 

 始めて横島が防御らしい動きを見せ、ネギの拳を掌で受け止めたのである。

 

 

 何せ横島は攻撃というものに入らない。

 

 ネギがいくら魔法でもって己を強化しようとも手を出したり邪魔をしたりしないのだ。

 

 だから魔法による強化は未だ続いており、幾ら防御できているといっても、掌で拳を受けた横島にはそれなり以上のダメージが行っている筈。

 

 それでもその表情には痛みを耐えていると言う色はなかった。

 

 

 「……なぁ、ネギ……」

 

 

 自分から受けに入ってくれた横島に驚いているネギに対し、横島はそう静かに問い掛けた。

 

 

 「さっきも聞いたけど、お前、何でそんなに強くなりてぇんだ?」

 

 「……え?」

 

 

 質問しながら横島はネギの拳からゆっくりと手を離してゆく。

 

 案の定というか、当たり前であるが魔法強化された拳を受け止めたのだからその掌は真っ赤だ。

 それでも彼は痛みを訴えない。

 

 ——……いや?

 

 受けるよりも前に何らかのダメージを負っていた……そんな気がしないでもない。

 

 

 「キティちゃんトコに弟子入りするって事は、とんでもねー修行をするって事だよな?

  お前、それ解ってんだろ? だったらなんでそんな思いまでして強くなりてぇんだ?」

 

 

 疑問符だらけの質問。

 

 それだけの疑問を彼が感じている——というのではなく、何というか……何かを確認しようとしているような気がする。

 

 少なくとも、楓らはそう感じていた。

 

 

 「それは……」

 

 

 彼が何を知ろうとしているのかは解らない。

 

 どうして今そんな事を聞こうとしているのかも解りはしない。

 

 だけどそう言って自分を見つめてくる眼には、何か抗い難いものがある。

 

 不思議とその気持ちが解らないでもないような気すらしてくる。

 

 

 乱し切った呼吸の所為か、困惑の所為かは知らないが、少し間を置いてネギは、

 

 

 「……目標にしている人がいるんです」

 

 

 そう答えた。

 

 

 

        ——心に焼き付いているのはあの雪の日の思い出——

 

 

 

 

 穏やかで優しく、何だかんだ言って皆が皆して見守り続けてくれていたあたたかい日々。

 

 

 それだけの世界しか知らず、その枠内の世界しか知らず、

 

 

 あぶなくなったら助けに来てくれる人を呑気に信じ、

 

 

 魔法という世界にいるにも関わらず危険を知らずにいたあのシアワセな日々。

 

 

 

 

 ——そんな日々の終わり。

 

 

 

 

 「昔から僕は本当に弱くて……

  いえ……今も本当に弱くて、何時も肝心な時に力が及びません。

  “あの日”だって、ただ震えて泣く事しか出来ませんでした」

 

 

 “あの日”……

 

 この間の修学旅行の事件ではなく、彼が心に秘めている事件の事だ。

 

 ネギのいた村に襲撃を掛け、ネギの周りに合った優しいもの達を動かないモノに変え、紅い絶望の直中にいたネギの前に現れ、<こわいもの>全てを叩き伏せていった絶対的なヒト。

 

 異形の集団をものともせず……いや、その集団にすら恐れられてしまうほど圧倒的な強さを持っていたそのヒト……

 

 

 自分にもあの力があれば、あの強さがあれば守る事ができたかもしれない。

 

 

 せめて一人でも助ける事ができたかもしれない。

 

 

 “皆”を元に戻せたかもしれない。

 

 

 思い上がりだと解ってはいても、そう今でも思う事があり、今でも悔やんでしまう事がある。

 

 

 

 「けどその人は、僕とお姉ちゃんを助けてくれたあの人は……

  僕なんかよりずっと強くて、ずっと高いところにいて、

  ……ずっと遠い所にいるんです」

 

 

 自分は弱い。

 

 

 本当に弱い。

 

 

 魔法学校を主席で卒業する事は出来たけど、学校で教えてもらった魔法だけではエヴァンジェリンに追いついていけなかったし、魔法無しでは自分の生徒にも敵わない。

 

 

 現にあの“白い髪の少年”手も足も出なかった。

 

 

 明日菜や刹那、真名や古や楓の手を借りねば、何一つ出来ず、木乃香を救う事などとてもじゃないが叶わなかっただろう。

 

 

 

 だから——

 

 

 

 「僕はあの人に少しでも追い付きたい」

 

 

 

 だから強くなりたい。

 

 

 

 「“この間の事”でよく解りました。

  結局僕は、僕だけの力じゃとても強くなれません。

  強くなる道にすら及べないんです」

 

 

 だからこそ、自分が知る者の中で一番強いヒト。

 

 

 一番強い魔法使いであるエヴァンジェリンに学びたい。

 

 

 学んで強さを覚えたい。

 

 

 もっともっと強くなりたい。

 

 

 あの人のように高く、強くなりたい。

 

 

 それを欲して止められないのだから。

 

 

 

 ネギは語りながら掌を握ったり広げたり。

 言葉を見失わないようにしているのか落ち着きがない。

 

 或いは弱い自分に対しての苛立ちかなのもしれない。 

 

 

 目指しているのは遥かな高み——

 

 見えているのに遠い、背中がそこにあるのに高過ぎる壁であり目標。

 

 

 少しでもそこに近付きたい。追い付いて行きたい。

 

 その想いを抱えたまま、この六年を過ごしてきたのだから……

 

 

 そんな想いを吐露している。

 

 そんなに親しくも無い横島に吐露している。

 

 その行為が横島に対する攻撃になっているのだと気付く事も無く——

 

 

 言葉ではなく想いでそれを語る。

 

 正直な言葉にせずに口にする。

 

 自分にない全てのものを持ち、自分じゃ出来なかった事をやって助けてくれたヒトの事。

 

 自分に杖を与えて別れを告げたあのヒトの事。

 

 そしてそのヒトの背をずっと追い続けている事……

 

 

 「……そっか……」

 

 

 無論、魔法云々の話は混ざってはいない。

 

 後に一般人のギャラリーがいるのだから口にしてはいない。

 

 何かしらの事故があり、その事故の中で出会い、別れた。その程度の認識しか持つ事は出来ないだろう。

 無論、それを願っての事なのだが。

 

 

 しかし横島には何となく理解が出来ていた。

 

 いや、理解できてしまっていた。

 

 

 だからネギを見る彼の眼はどこか痛々しいものを見るようで、どこか同情じみていて、

 

 

 どこか、懐かしそうで……——

 

 

 

 尤もそれは、ネギの置かれた環境にではなく、ネギの持っている……

 否、持ってしまった(、、、、、、、)心境。

 横島はネギの想いを知り、()を知り、はぁ……と溜め息をついた。

 

 なんでこんなに……と小さく呟くがそれに気付いた者はいない。

 そしてその後に、『まだ抜け出せていねぇんだな……』と呟いた事も。

 

 だがその顔に、横島の顔に僅かの暗さが増した事に気付いた者は若干名いた。

 

 

 「横島殿……」

 

 「老師……」

 

 

 この二人と、

 

 

 「……」

 

 

 一体の生人形。

 

 

 使い魔の小鹿はそんな彼の心境が解っているのかいないのか、大人しく見守り続けている。

 

 二人と一体、そして一匹が見守っている中、彼は気を取り直すかのように息を吸い込み、深い溜め息を零す。

 

 

 『そーゆーコトか……』

 

 

 という重い確信と共に……

 

 

 これは全くの勘であり、思い込みと言って良いのかもしれない。

 

 だが、霊能力者である横島の勘はかなりの確率で的中する。

 

 だからこその溜め息であり、だからこその覚悟。

 

 

 ——この子供は、前の自分と同じ様な痛みを持っている。

   そして、違う事に目を向けてその痛みから心を守っている——と。

 

 

 だがそれを教える事は出来ない。

 

 教えるのは簡単であるが、この痛みは自分で理解が出来なければ癒す手立てを見つけられない。

 

 経験から横島は、その事を思い知っていた。

 

 

 あんな想い——

 

 この歳でこんな目をする子供に、あんな想いをさせたくない。

 

 

 横島の腹は決まり、決心の眼差しを真っ直ぐネギに向けた。

 

 

 

 「……構えろ。ネギ」

 

 「え……?」

 

 

 す……と腰を落す横島。

 

 今までと纏う空気が変わり、彼に漂っていた軽さが消失している。

 

 何時もの遊び人の気配が完全に見えなくなった。

 

 「これから思いっきり手加(、、、、、、、)減した本気(、、、、、)を見せる」

 

 「え……」

 

 

 その瞬間、ネギは息を飲んだ。

 

 横島の周囲の空気が歪んでいる事に気付いたのだから。

 

 背中にじっとりと汗が湧く。

 正体不明の重く鋭い気配が高まって行くからだろう。

 

 

 

 

 

 

 「だから……

 

 

    耐えてみろ」

 

 

 

 

 

 

 

 彼の声と同時に、

 

 

            

            ——空気が、ピンと張った。

 

 

 

 

 

 

 「!?」

 

 

 武道四天王の三人、楓と古、そして刹那が思わず身体を硬くしてしまう。

 

 言葉の使い方としては変であるが、横島を中心として静寂が広がり始めたとしか言えない現象がその場に発生したのだから当然だろう。

 

 

 ゆっくりと身構えてゆく横島。

 とは言え、腰を落したまま、右手を掌底に構えただけ。

 

 

 ——しかし、“それ”が何か拙い。

 

 

 三人の少女ら、そして横島と対峙しているネギにはそう感じられた。

 

 勘に従い、慌てて身構えるネギ。

 

 腕をクロスさせ、尚且つ残ったなけなしの魔力を全て前面防御に回し、次に襲い掛かるであろう衝撃に備えた。

 これが、ネギが今現在で出せる最高の防御力である。

 

 

 横島はそれを視認してからゆっくりと掌を前に突き出してゆく。

 

 ネギは当然避けはしない。

 耐えろと言われたのだから耐えなきゃいけない。そう感じ取っているのだから。

 

 見守っている少女らは、今までと違った緩慢な動きに安堵の色を見せていた。

 

 

 が、楓達……

 いや彼女らだけではない。エヴァですらそれには怖気が走っていた。

 

 ネギに迫る気配(、、)が尋常ではないくらい大きかったからだ。

 

 

 横島のスペックは異様に高い。

 自覚は限りなくゼロであるが、ありとあらゆる状況を能力に覚醒しつつ打破し続けた“能力人外”なのだから。

 

 その反面、基本は全くと言って良いほどできていない。

 

 霊力収束という、人間では殆ど不可能な技を無造作に行えるくせに、基本中の基本である霊力放射等はヘタクソもいいトコなのだ。

 多くの霊能力者が普通に行える霊弾発射などコレっぽっちもできなかった。

 

 

 だがそれでも、霊力収束にかけては人界一なので“こんな事”も出来ている。

 

 

 文珠を生み出す時の莫大な霊気。

 それを本気で纏めようとせず、一般人には見る事すら叶わない緩い収束度で、“綻ばせたまま”ゆっくりと前に押し出してゆく。

 

 彼がGS試験に“臨まされた”時、名をスッカリ忘れているが疵だらけの男と戦った事がある。

 その男、後の友人のように霊気の鎧を纏う事ができるのだが、才能が無いのか力が低いのか、霊気を収束し切れずその鎧は曖昧な形をとっていた。

 その代わりに、収束しきれない霊気は目に見えない波動となって横島を傷つけたものである。

 

 これはそれと似たようなものだ。

 

 しかし、横島はド器用なので“あの時”の“それ”と違って、雪球のようにきれいに霊気を纏めているので触れたとしても傷ついたりしない(これだけでの件の疵男より才能が抜きん出ている事が解る)。

 

 確かに一般人には何も見えないだろうし、魔法使いであるネギには“そこに何かがある”と認識できるだろう。

 

 あると解っているのなら、それを受ける事も出来なくは無いだろう。

 

 それにゆっくりと突き出しているのでタイミングも取り易い。

 

 真にお優しい行為と言えなくも無いだろう。

 

 

 だが、忘れてはならないのは武道家である少女らに怖気が走っていた事。

 

 魔法に関係している人間が戦慄するほど、それには存在感があるという事。

 

 つまり……

 

 

 

 “それ”は、破砕鉄球が如くとてつもなく重かったのである——

 

 

 

 

  ズ ン …… ッッッ!!

 

 

 「ぐ……っ!?

     あ ぁ あ あ あ っっっ!!?」

 

 

 

 「ネ、ネギくんっ!?」

 

 「吹っ飛ばした!?」

 

 「氣とか——っ!?」

 

 

 テレビ等が見せる胡散臭い発勁のそれではない。そんな児戯以下のちゃちな代物ではない。

 

 何せやや前かがみの姿勢のまま、ネギのその小さな身体は爪弾かれた小石が如くすっ飛んでいるのだから。

 

 見様によっては通背拳のようにも見えなくもないが、当然それではないし勁でもない。

 

 いや、ある意味“勁”に近いのだが、そんな緩いモノでは無いのだ。

 ネギは大容量の霊気(、、、、、、)の衝突によってふっ飛ばされたのである。

 

 

 

 

 「 あ ぁ あ あ あ あ っ っ っ ! ! ! 」

 

 

 

 

 飛ぶ。

 

 その最中足掻く。

 

 足先を石畳に引っ掛けようとするが滑る。

 

 手を着こうにも衝撃に負けてこれも滑る。

 

 薄く積もった砂埃を巻き上げ、石造りの柵まですっ飛ばされてしまう。

 

 

 「く、あぁあっっ!!!」

 

 

 「ネギっ!!??」

 「ネギ先生っ!!??」

 

 

 背後に迫る石の柵。

 叩き付けられれば只では済まない。

 

 思わず茶々丸が動こうとするが、エヴァの腕がそれを遮った。

 

 

 

 「く……っ!!」

 

 

 

 魔法の防御力を横島の攻撃に使ってしまった為、このままぶつかればダメージはモロに入る。

 

 

 それが解らぬエヴァではなかろうに、何故に止めるのか。

 

 

 茶々丸は慌てて主に非難するような目を向けるが、彼女はネギを見据えたまま。

 

 

 

 「 わ …… ぁ あ あ っ ! ! 」

 

 

 

 だんっ!! と重い音が響く。

 

 

 ギリギリ。

 

 正にギリギリのタイミング。

 

 

 ネギの腰は柵に当たったものの、触れた程度でダメージには至っていない。

 

 防御に使った魔力の残り。

 その残ったなけ無しの魔力を足に回し、踏み込みをかける時の要領で急ブレーキをかけたのである。

 

 

 

 膝をガクガク震わせながらもネギは耐えた。

 

 身を崩さず、倒れていない。

 

 ギリギリではあったが、彼はそれに耐えられたのだ。

 

 

 魔力の酷使と披露で意識は朦朧としてはいたが、それでも気持ちだけは前を……横島の方を向いている。

 

 そんなネギに対し、

 

 

 「おめでとさん。お前の勝ちだよ」

 

 

 という横島の声が掛けられた。

 

 ネギの全身、隅々まで行き渡っている疲労。

 

 その疲労の為か、力が尽きかかっている為なのか、中々その言葉の意味を理解できなかったのであるが……

 ようやくその言葉の意味が理解できると遂にネギは意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

        ******      ******      ******

 

 

 

 

 

 

 「ふん……ま、予想通りだな」

 

 「あ、やっぱバレてた?」

 

 「当たり前だバカモノ」

 

 

 ぶっちゃけて言うと、茶々丸の予想を大きく裏切ってあの試験で横島が勝てる可能性は殆ど無かった。

 

 恐らくネギは終了時間がない事を利用するつもりであったろうが、エヴァはそんなに甘くはない。

 とっくにそんな愚策に気付いており、逆にそれを利用する事にしていたのだから。

 

 

 ネギは横島を倒すしかないが、女子供に底抜けに甘い横島はネギを倒せない。

 

 以前持っていた年齢詐称疑惑が解消されている為、ネギを子供だと理解しているので本気で殴れないのだ。

 

 その上、エヴァによって霊能の使用を禁じられているし、行動範囲も決められている。

 となると、横島にネギを倒す方法は無い。

 

 勝つ為にはネギの体力が切れるまで付き合う必要があるのだが、彼が底力で意地を張れば……

 どんなにボロボロになろうと立ち上がってきたりすれば、横島の良心はズッキンズッキン痛んで必死に負(、、、、)けようとする事(、、、、、、、)は眼に見えていた。

 正に茶番である。

 

 しかし、ならば何故エヴァンジェリンともあろう者がこんな茶番を組んだのかというと……彼女はネギの“ある事”が知りたかったのである。

 

 前述の通り、ネギに魔法を教える事は(やぶさ)かではない。

 寧ろ『悪の魔法使い』の後継者に仕立てても面白かろうと思っているほど。

 

 が、“それ”を知らねば教えられるものも教えられない。

 

 無論、性質の悪い冗談が全く無かった訳ではないが、それでも彼女は彼女なりのマトモな理由でこんな茶番を組んだのである。

 

 

 「キサマの事だから勝った場合に褒美とかを与えない限り本気は出せまい?」

 

 「う゛っ」

 

 「となると良心の呵責に耐えかね、てきとーに反則負けをする……違うか?」

 

 「うう……お見通しか……」

 

 「解り易過ぎだアホタレめ。呆れたぞ」

 

 

 例えば、これに勝ったら女子大生を紹介するとか、美人女教師(例えば刀子とか)の生写真を与える。

 そんな褒美の話を口にしていれば、恐らく開始五秒以内にネギは失神。二度と師事は望めまい。

 

 とは言え、前述の通りエヴァはネギを鍛え上げてみたいと思っている為、負けたら負けたで『情けない。私が鍛え直してやるからありがたいと思え』とか言って鍛えてやる事も出来る訳であるが、今回の茶番の目的の為にはそんなにあっさりと負けてもらっては困るのだ。

 

 

 ネギには、

 ()を見せてもらわねばならなかったのだから……

 

 

 まぁ、それは兎も角、この状況で横島が勝つにはネギが疲労でぶっ倒れるまでやり続けるしかない。

 しかし甘っちょろい横島はボロボロになってまで立ち向かってくるネギに耐えられる訳がない。

 となると、自分から円を出るか、攻撃をして負けを曝すしかないのだ。

 

 そんな事はエヴァの想定内の行動であった。

 

 

 横島の方も、ただ負けるだけではいけないと途中で気付いていた。

 

 何せアレだけの努力家だし、心身共に子供だ。単に自分の負けだと口にしても納得すまいし、ウッカリ続けようとか言いかねない。

 

 どれだけ実力差あろうと、どれだけ経験が不足していようと、“勝ち”を受け入れさせるには(厄介な事に)それだけの材料が必要なのである。

 

 それに、単に『オレの負けていいんじゃね?』と言ったところでブチブチと何かほざきそうだし、そんなコトをすると確実にエヴァがキれる。

 そうなると弟子入りはパーになりかねない。それでは何にもなるまい。

 

 だったら手を抜いてはいても横島の力の一端を見せつつ、ネギ自身も達成感が湧くようなコトをする必要がある。

 

 面倒な手段ではあるが、それが一番丸く収まる方法なのだ。

 

 

 そしてその行為は、エヴァが横島vsネギというカードを組んだもう一つの理由にとっても都合がよかった。

 

 

 『ふん……やはりガキにカウンターを仕掛ける時にも微かに反応するか……』

 

 

 自分の器とゆーか、行動原理がバレバレだった為、スッカリいじけてしまった横島を何時もの様に鼻先で笑い飛ばす——フリをしつつ観察を続けているエヴァ。

 

 

 案の定、横島は試合を始める前より些か気力が落ちていた。

 

 

 底の浅さを露呈してしまった事も若干あろうが、それより何よりネギに攻撃してしまった事とは別の理由で落ち込んでいると彼女は見て取っていたのである。

 

 

 『女だけではなく、ガキに攻撃するのも無理なのか?

 

  ——いや違うな……一応は仕掛ける事ができている。

  となると、別の理由か……』

 

 

 何だかんだ言って、エヴァは身内には甘い。

 

 ひょっとしたら自覚は無いかもしれないが、結構…いや、かなり甘い。

 

 横島が持っているトラウマを僅かにでも軽減する為には、その根本を探らねばならない。

 この茶番は、その一環でもあったのである。

 

 

 何と難解な好意であろうか。

 

 

 そんな自分を無様だとでも思ったのか、僅かに照れた顔を段下の少女らに向けた。

 

 

 ネギは疲労困憊で意識を失ってはいるが、流石は横島。残るようなダメージは入れていない。

 

 ド器用な事だと内心苦笑する。

 

 先ほど微かに意識を取り戻しはしたが、

 

 

 「合格だよ、ぼーや」

 

 

 と告げると満足そうにまた意識を失った。

 

 妙に優しげな顔で膝枕をしている事で冷やかしを受けている明日菜。

 真正面から横島に挑み、結局は意地を張り通せた事にひたすら感動しているまき絵。

 少年のがんばりに改めて感心している刹那。

 自分の力で治せへんかなぁ……と思いつつも、邪魔すんのも悪いしなぁ……とヘンな気遣いを掛けている木乃香。

 表情こそ殆ど変化を見せていないが、ホッとしているのが解る茶々丸。

 そしてそんなネギを労わりつつも結局は茶化すように騒いでいる少女達。

 

 そんな騒動に苦笑を浮かべ、ま、後は若いモンで勝手にやってろと、エヴァは一人、朝日が覗き出して明るくなり始めた場を後にした。

 

 

 ——しかし、何だかんだで高揚があったからだろう。真横にいた横島の様子に気が付いていない事もあった。

 

 

 気付いていた者は僅かに三人と小鹿……いや、二人と一体と一匹。

 

 皆が皆してネギを心配し、介抱している中、その者達のみが横島をずっと見つめ続けていたからだ。

 

 

 

 行動がバレバレだった事を落ち込み、エヴァの横でガックリと跪いていた“様に見えている”横島の顔は、

 

 

 

 エヴァの予想よりも深く、諦めとも後悔ともつかぬ悲しげな表情を浮かべていたのだから——

 

 

 

 

 

 ……そして。

 

 

 

 

 『あの人……』

 

 

 別の角度にいたからか、それ(、、)が偶然 目に入り、

 

 

 

 『何であんなに悲しそうな顔してるんだろう……?』

 

 

 

 ネギを労わる少女らの中で ただ一人。

 ショートカットの少女もそれに気付いていた事も——

 

 

 




 お疲れさまでした。
 これにて弟子入り試験(偽)を終わりです。

 ネギを“当時の”原作の流れからこういう性格にしてます。
 駆け足で目的に向かい過ぎて遊びがない為に空回り。横っちと大きく違いますね。
 表現したかったのはネギのひたむきさと、上手く隠してるけど見え隠れしてしまう横っちの悲しさ。
 ベクトルが違うけど、どこか似てる進み方をしてるって風にしたかったんですよね。ネギも“最初は”そーでしたし。
 神々という、“絶対に越せない壁”で叩きまくったらマシになるかと思いましてww

 さて、エヴァのもとで修業を始める訳ですが、地位は最下位。
 エヴァ>チャチャゼロ>かのこ>別荘の茶々姉ズ>茶々丸>楓&古>横島>ネギという位置で、最初は横島のパシリみたいなポジです(哀れ)。
 この位置から這い上がる事は不可能ですが、頑張ってもらいましょう。
 その苦しさが成長につながると信じて……っっww

 兎も角 修業は開始。
 原作よか若干名師匠(“特別な師匠”込み)が多いので強くなれる……かも?

 というトコで、訳で続きは見てのお帰りです。
 ではでは〜

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