-Ruin-   作:Croissant

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十一時間目:月ノ輝クヨルニ 
前編


 

 

 そこらの少女なら兎も角、武道家の二人にとって正座は結構慣れたものである。

 流石に露天風呂の岩の上は痛かったが。

 その()もぶっちゃければ自業自得。

 

 大人の男性に対し余りと言えば余りにも無防備過ぎる姿をぶち曝し、彼を堕天(解脱という気もしないでもないが……)させかけた罰としては破格とも言える。

 

 が、怒られている暴走乙女らには反省は薄かった。

 

 『石の上に正座なんて……乙女の柔肌に傷がついたらどーしてくれるアルか?』等とぶちぶち文句を零しつつも、『あ、でも責任とてもらえるかもー』とか思考が連結してしまうのは年頃故なのか?

 いや、適齢期にはまだ遠いが。

 

 見た目が超高校生クラスであるくノ一ちゃんも、『おお、それも良いでござるな』等とヘンな同意をかます始末だ。

 

 『何考えとんじゃ——っ!!』等と普段セクハラかまして殴られまくっていた青年ですら滂沱の涙を流しつつ怒りのツッコミを入れてしまう程に。

 

 これが若さか? いや、ちょっと違うだろう。

 

 

 「……ものごっつ疲れたから寝る」

 

 

 流石にイロイロな出血も多かったし、昼間の一件で青年も疲労困憊。

 マトモに話を聞いてくれなさそーな二人にそう言い残し、心配そうに見上げている かのこを引き連れて貧血気味でフラフラと頼りない足取りで自分の……今朝までタダキチ少年が使用していた……部屋へと戻っていった。

 

 

 風呂の中の懲りない二人も流石にやり過ぎたかな〜と、少しだけ後悔していたのであるが、よく見ると彼の“氣(霊力)”はフルチャージされており、肉体とは反比例して元気爆発がんばるがー状態だ。

 だから寝るだけでどーにか回復するだろうと確信し、けっこうアッサリとロビーに戻って来ていた。

 昼間のあのキョドりはどこへやら。お前らの所為でもあるんだから心配くらいしろよと言いたい。

 

 

 まぁ、何か用事あってロビーに移動したと言う訳でもないのだが。

 

 

 単に修学旅行の最後の夜なのだから勿体無い気がするだけ。

 まだ宵の口にも達していない時間であるし、古はその日に起こった一件で静かな興奮状態が続いていて、そのまま寝るなんて事ができないのだ。

 

 

 だからという理由だけでもないが、特にする事も無い二人は外で購入した菓子の残りのポテチを片手に、仲良くペットボトルの烏龍茶を買って話をしながら歩いていた。

 

 何と言うか……とても謎の理由によって露天風呂の中でキャットファイトを行った間柄には見えない。

 

 

 「それにしても、古は腕を上げたでござるな。氣の密度がまた上がってたでござるよ」

 

 「いやぁ……まだまだネ。

  楓の分身くらい密度を上げられないと実戦にはあまり向かないアル」

 

 

 等と会話も穏やかだ。内容は物騒だが……

 

 

 男が関わらなければやはり仲良しで名が知られている3−Aの級友。

 おまけに武道四天王の二人なのだから話も合う。そして今や同じ男の相棒をしている者同士なのだし。

 

 ……何とも微妙な立ち位置も含まれてたりするのであるが。

 

 

 「……しかし古。

  あの刺客の者ども……諦めると思うでござるか?」

 

 「……多分、無理ネ。

  隙を窺ているだけ思うアルよ」

 

 

 楓もそう思っていたからだろう、古の言葉に『で、ござろうなぁ……』と溜め息を吐いていた。

 

 露天風呂の中では間違った乙女心が暴走特急かましていた二人であったが、実のところ結構状況を真面目に考えている。

 

 こういったところをもっと横島にも見せていれば好感度アップのフラグが立つ事は間違いないのだが、いかんせん彼の側にいるとミョ〜にはしゃいでしまって上手くいかない。

 

 尚且つ、それが好意を持つ異性の側にいるからだという自覚もイマイチ足りていないので空回りは続いている。

 超や真名の心労は如何なものか?

 

 閑話休題(まぁ、それはさておき)——

 

 

 自分の責務をしっかり自覚している二人は、結局同じ話に戻ってきていた。

 

 無論、その責任感を悪いとは言わないが、修学旅行中だというのにこんな話ばかりというのも考え物だろう。

 普通の少女らなら襲撃の恐怖で堪ったものではないだろうし。

 

 だが、二人とも中学生とは言っても既に達人クラスの武道家でもある。

 その心はそれでもリラックス…とまではいかないが、然程プレッシャーを受けているように感じられない、落ち着いた雰囲気で二人は空いている席を見つけて歩いて行く。

 

 めいめいに散っていた他のクラスメート達も大半が戻ってきているので私服でいる者は少ない。

 目に入るクラスメートは全員が入浴後なため浴衣を着ているので、ばっちりチャイナを決めている二人はやたら目立っていた。

 

 楓は胸のボリュームがかなりのものであるし、古にしてもボリュームと言う点では劣ってはいるがやたらプロポーションバランスが良い。

 そんな二人が何の意味があるのか着飾ってたりなんかするものだから、ホテルの従業員の目すら引いてしまっている。ドコの接客商売の方なのか問い掛けたくなるほどに。

 

 男らの眼差し等気付いた風もなく、如何なる連絡も付き易いようにフロントからちょっと離れたソファーに腰をおろす楓。

 足を組んで座るものだから、スリットから零れる長い足が強調されて殊更色っぽい。おまけに無自覚。性質が悪いにも程がある。

 

 しかし、そーいったエロっポイ……もとい、色っぽいチャイナを着ている理由はというと、無論動き易さを重視して……と言うだけではなく、何とゆーか……某青年の目がスリットに釘付けになるであろう事が面白くて着用しているよーな気がしないでもない。

 ちゃっかり便乗しているのが古であるが、本家中国人がチャイナ服の尻馬に乗るのは如何なものか?

 

 

 「うーむ……どうせなら横島殿の部屋にこの格好で突撃をかけた方が面白そーだったでござるな」

 

 「……安眠妨害アルね。

  そんな事したら老師に嫌われるアルよ?」

 

 「むぅ……」

 

 「私だてガマンしてるアルから、楓もガマンするネ」

 

 

 ——しかし、“敵”の動きについての考察以外の会話はやっぱどこか子供っぽい。

 

 二人して妙な色気漂わせてはいるが、男に関しての話はコレであるし、持っている物はポテチの袋。

 何とも微妙な取り合わせであった。

 

 

 と、妙な方向に和んだ話を続けていたそんな時、

 

 楓の持っていた携帯電話が音楽を奏でた——

 

 

 「お? ゴッドファーザー 愛のテーマ曲アルか?」

 

 「拙者の携帯でござるよ。

  おろ? リーダーからでござるな」

 

 

 ちょっと前までは通常着信音だった音楽であるが、横島に(というより“裏”に)関わってからは夕映専用に変えてある。何せ学園長との仕事上の直通コール、横島や高畑との緊急用直通コールまであるのだから。

 

 因みに古も同様の理由で着信を色々割り振っているらしいが、楓のチョイスに『何故に夕映の呼び出し音が? でも何か似合ているよーな気もするアル……』等と呟いていた。

 

 そんな彼女の呟きに苦笑しつつ、楓は携帯を取り出して……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      着信ボタンを、押した——

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 「遅いですわっ!」

 

 「ごめーん。イインチョ」

 

 

 浴衣を着てすっかり寛いでいたあやかであったが、それでもクラス委員という責任感もきちんと持ち合わせている。

 

 全ての班がきっちり戻って来ているかロビーでチェックしていたのだ。

 

 

 そんなあやかに遅くなった事を然程悪びれてもいない祐奈は、片手で拝むだけというおざなりな謝罪を行った。

 

 あやかはあやかで、とりあえず無事に戻って来てくれたので一安心してホッと胸を撫で下ろしていた。無論、顔には出していないが。

 

 

 「やれやれ……」

 

 

 そんな祐奈の班の最後尾を溜め息を吐きつつ真名が歩いていた。

 

 アトラクション好きの祐奈らの希望でUSJで1日過ごしていたのであるが、何だかみょーな虫の知らせが続き、イマイチ楽しみ切れていなかったのだ。

 

 それは嫌な予感とかではなく『ムカつく』とかいった類のもの。

 そのヤな虫の知らせを飛ばしてくれた者には見当がついていたりする。

 

 

 『おのれ楓め……ドコだ?』

 

 

 ワケ解らん理由で心労を溜めさせおってからに……こーなったら行き着くトコ行かせて引導渡してくれる。

 

 『場合によっては二人に媚薬を盛って布団部屋にでも……』とかなり物騒な思考に傾いていた。

 

 ぶっちゃけ言い掛かりの上に八つ当たりであるが、戦場で鍛え上げられている彼女の勘はバッチリ当たっているのでどーしよーもない。真にくだらない事に活用されている勘ではあるが……

 

 

 しかし捜索する必要も無く、真名はそのターゲットの少女を直に見つけ出す事となる。

 

 

 「む?」

 

 

 彼女がロビーに入ったのとほぼ同時に、当の楓がソファーから立ち上がったのだ。

 

 

 「楓……?」

 

 

 こちらに背中を向けているのでその表情を読み取る事はできないが、それでも言い様の無い緊張感がその背中から伝わってくる。

 

 彼女を見上げる形となっている古もやはり緊張の面差しをしているではないか。

 

 

 「……古。

  すぐに横島殿をお呼びするでござる」

 

 「わ、解たアル!」

 

 

 古はその電話の内容を聞いてはいない。

 

 しかし、楓より伝わってくる空気からただ事ではないのが解るのだろう、何か問う事無く横島の部屋へと駆けて行く。

 

 

 「クーフェイさん、廊下を走ってはいけませんわ!」

 

 「すまないアル!!」

 

 

 途中、あやかに怒られるが口先だけの謝罪で走り抜けてゆく古。

 

 あやかにしても何時もなら追いかけたりしてもっと説教臭いセリフを吐くであろうが、古の雰囲気から何かを感じ取ったか直に口を噤んでその背中を見守るのみ。

 

 何だかんだ言われている彼女であるが、やはり聡明ではあるのだ。

 

 そんな様子を見やってから、真名はゆっくりと楓に歩み寄って行く。

 

 

 「真名……」

 

 

 しかし楓は振り返る事無く携帯を閉じ、歩み寄って来ているであろう彼女にそう声を掛けた。

 

 

 「何だ?」

 

 

 気付かれていた事に驚く事も無く、真名は何時もの様に……

 

 

 ——いや、極自然に言葉を返しつつその雰囲気を切り替えていた。

 

 

 イラつかせた級友に仕返しをしようとしていた女子中学生のそれから、

 

 

 「………仕事か?」

 

 

 プロのそれへと——

 

 

 

 その言葉にやっと楓は振り返り、幾分緊張したその顔を真名に見せた。

 

 

 

 「……のようでござる。

  お主に依頼せねばならぬ程、厄介な事態が起こってしまった故……」 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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              ■十一時間目:月ノ輝クヨルニ (前)

 

 

 

 

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 凄まじい数の桜の木々から零れ落ちる花びら。

 

 狂い咲き——という言葉があるが、正にそれを体現しているかのよう。

 

 

 大きく欠けた月の下。

 

 屋敷の内外を舞う花は雪花と見紛うばかりで、狂気と紙一重の美しさがあった。

 

 

 

 しかし——

 

 

 

 「こんな……」

 

 

 手に握り締めている父の杖。

 

 その手に篭る力は怒りか、自分に感じる無力さからか。

 

 

 倒れ付す二人の少女——腹に一撃を喰らってうめいている刹那と、全裸で横たわっている明日菜とを庇うようにネギは己を奮い立たせつつ目の前に立つ“敵”——

 

 

 「こんな酷い事をするなんて……僕は許さないぞ!!」

 

 

 銀髪の少年の凶行を強く否定していた。

 

 

 ——美しい筈の花弁の舞いは、本山で行われた凶行を彩る材料にしかなっていない。

 

 

 

 親書を何とか届ける事に成功したネギは、木乃香の実父であり関西呪術協会の長である詠春に歓迎の宴を受け、何故か付いて来ていた和美らと共に楽しい一時を過ごしていた。

 

 しかし、その夜——

 

 自分の生徒らの悲鳴を耳にし、彼女らの部屋に駆けつけた彼が目にしたものは、動かなくなっている自分の生徒……石に変えられたのどか達の姿だった。

 

 そして刹那と合流したネギの目の前で、長までもが魔法によって石に変えられてしまったのである。

 

 

 狙いは木乃香。

 

 

 何と敵はその木乃香を奪取する為であろうか、邪魔にならぬよう本山の人間全員に石化魔法を使用したというのである。

 

 敵が如何なる手段を用いて守護結界内に侵入してきたかは不明であるが、それに気が付いた二人は慌てて明日菜と共にいるであろう彼女を探し始めた。

 

 が、既に五体満足な者は本山に残っておらず、木乃香の守りは明日菜ただ一人。

 

 幾ら強力なアーティファクトを所持していようと明日菜は戦いの素人。

 敢え無く倒され、理由は不明であるが全裸で横たわっていた。

 

 そして刹那すら不意を突かれて一撃で倒されてしまったのである。

 

 

 この、目の前に立つ銀髪の少年ただ一人に——だ。

 

 

 「許さない?」

 

 

 ネギから発せられる気。

 

 それはその年齢からは考えられないほど強く激しいものだ。

 

 

 だが、その少年からしてみれば微風にも満たない。

 

 

 よって感情に揺らぎという波紋を齎す事も無い。

 

 

 「……それで、どうするんだい?

  ネギ=スプリングフィールド……」

 

 

 ネギを真っ直ぐ見据える少年。

 

 その眼差しには嘲りや侮りも無く、やはり感情は感じらない。

 

 だが、ネギは気付いていないようであるが、その少年は緊張を全く解いていない。

 

 まるで何かを警戒しているかのように。

 

 

 「僕を倒すのかい?

  ……止めた方がいい。

 

  今の君では無理だ」

 

 

 少年は客観的な事実を淡々と述べる。

 

 

 ネギだけではなく、刹那や長、この本山の関係者らもこの少年の話はちゃんと聞いていたし、念の為にと結界も強化されていた。

 

 にもかかわらず侵入を許し、尚且つ本山で務めている術師を含む巫女達全員を石化されて、あまつさえ木乃香までもまんまと攫われるという大失態を犯している。

 

 

 いや、“これ”は単純に油断だったという訳ではない。

 

 この少年の()が違っていただけなのだ。

 

 

 しかし彼は何かを気にしていた。

 

 何かを気にしているからこそ、“それ”の襲来を回避するように術を使用しているのだ。

 

 

 「あ…っ!?」

 

 

 ネギから視線を外すと同時に足元から水が巻き上がり、少年の身を包んで行く。

 

 慌てて止めようとするが一歩も二歩も遅く、少年は水に沈むようにその場から姿を消した。

 

 

 またしても水を使った転移術。

 

 

 ネギも、そして刹那らもその術には見覚えがある。

 

 初日の夜に襲撃を掛けて来た千草達を逃がした“あの”水魔法だ。

 

 

 ネギは、あの晩と同じ様に、敵に撤退を許してしまった。

 

 

 「く……っ」

 

 

 後に残ったのは水溜りのみ。

 

 

 『兄貴、こりゃああン時と同じ、水を使った移動魔法だ。

  ヤローかなりの高等魔法使いのよーだぜ!?』

 

 「……」

 

 

 それでも無念で涙が滲む。

 

 自分がもっと気をつけていれば……

 

 本山に着いた後ももっと気を張っていれば……

 

 そんな想いの輪の中に陥りそうになってくる。

 

 

 

 

 

 あの雪の日のように——

 

 

 

 

 

 『兄貴、アニキっ!!』

 

 「あ、わぁっ!?」

 

 

 思考に沈みかかったネギを引っ張り上げたのはカモの声だ。

 

 その声に蹴り上げられるように背を伸ばし、魔法でタオルを手繰り寄せて明日菜に掛けてやり、刹那に駆け寄って抱き起こす。

 

 

 「刹那さん、大丈夫ですか!?」

 

 「ネ、ネギ先生……ぐ…っ」

 

 「見せてください。軽い傷なら僕にも治せます」

 

 

 やや強引に服を捲り上げ、色が変わっている腹部を見てやや眉を顰めるネギ。

 

 幸いにも打撲で済んでいるだけであるが、それでも女の子に暴力をふるっているのだから許す事はできないのだろう。

 

 

 右手に魔力を集め、治療魔法を開始する。

 

 木乃香が攫われた事もあって時間が無く、応急手当くらいしかできないがそれでもかなりマシな筈だ。

 

 

 治療されている刹那にしても悔しくてたまらない。

 

 まんまと木乃香を攫われてしまっただけでなく、同じ相手に二度も不覚を取っているのだから。

 

 

 『二人とも落ち着けって!!

  わざわざ石化を使ってきたって事は、堅気に危害を加えるつもり無いってこった!!』

 

 「私、エラい目にあったんだけど……」

 

 『それは兎も角っ!!』

 

 

 くわっ!! と目をかっ開いて明日菜の訴えをスルーするカモ。

 

 処置が終わったのか、刹那もすっくと立ち上がり、得物を握り締めて後を追おうとしていた。

 

 

 『見ての通り、あのガキは長の言ってたよーにタダ者じゃねぇ。

  無防備に突っ込んでも石像が二つ三つ増えるだけだぜ?』

 

 「で、ではどうしろと……?!」

 

 

 焦る刹那を諭すようにカモは手(前足?)を前に出して静止を促す。

 

 我ニ成算アリと言わんばかりに。

 

 

 ただ……ニヤリとしたアヤシイ笑みも浮かべてはいるが。

 

 

 

 

 『刹那の姉さん。兄貴の事……好きかい?』

 

 「え゛っ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

          ******      ******      ******

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ただ風が木々を撫でて行く音だけが響いている巨大な門前。

 

 夜間である為か不可思議な光を灯らせているが、普段は温かみを感じさせてくれるそれすら沈黙という空気を照らし出すのみ。

 かかる現状ではざわめきという静寂を彩る材料と化している。

 

 不思議な事に、三日月の灯りすら煌々とした輝きに感じられてしまう。

 

 それほど生者の息吹が感じられないのだ。

 

 いや、感じられなくなっていた。

 

 

 と——

 

 

 

 キュバッ!!

 

 

 突如としてその門の前の空間が弾けた。

 

 

 「わぁっ!?」

 「何と…」

 「へぇ……」

 

 

 現れ出でたのは三人の少女。

 

 

 帰ってきてすぐの着の身着のままの真名に、チャイナドレスの楓と古。

 

 そして——

 

 

 「古ちゃん、こっちか!?」

 

 「え? あ、うん。そ、そうアルよ」

 

 

 その少女らを引き連れて瞬間移動を……『転』『移』を行った横島忠夫と使い魔のかのこである。

 

 

 長距離の瞬間移動という荒業に驚いている少女の心情すら気付かず、閉じられている山門に突撃を掛けていた。

 

 しかしやはり彼は焦っているのだろう。

 仮にも西の本山を守っている山門を、どんどんと叩いて手で開けようとしているではないか。

 

 

 「横島殿……それは」

 

 

 流石に楓が止めようとする。

 

 その結界強度の程は知らないが、それでも守護結界というのだからかなりの強度を持っている事は何となく理解できるのだから。

 

 だから手を伸ばして彼の肩を——

 

 

 「 開 け っ つ っ て ん だ ろ っ ! ! ! 」

 

 カッ

 

 

 彼の手の中、

 

 一瞬で意味が込められた“珠”が光を放ち、『開』という概念が門に叩きつけられる。

 

 如何に防御力が高かろうと魔法結界が強かろうと、“概念”に抗する力を持たせる事はまずできない。

 そして概念を変えられたらそれに従わざるを得ないのだ。

 

 

 バンッ!!

 

 まるで西部劇に出てくる酒場の戸のように勢いよく内側に(、、、)開いてしまう門。

 

 余りの事に少女らは呆気にとられるが、今の横島にはそんな彼女らに気を使っている余裕が無い。

 既に開いた瞬間には、中々開かなかった事に舌打ちをしつつ駆け込んでいたのだ。

 

 

 「ぴぃっ」

 

 「あ、老師!」

 「待つでござる!!」

 

 

 先に追従したのは かのこ。

 次いで再起動をはたして二人が後を追う。流石に使い魔は戸惑わないようだ。

 

 

 真名もそれに続くが、門を潜って直に“蝶番”部分を覗き込んでみた。

 

 案の定、その部分は逆方向に(、、、、)ひん曲がっている(、、、、、、、、)

 

 

 御山の守り。

 関西呪術協会のの要とも言える表門が、内側に(、、、)開いているのだ。

 

 門というのは元来守りに入るよう出来ている。

 よって攻められた場合になるべく持つよう外開きなのは常識だ。間違っても“内側”に開く事などありえないのだ。

 

 その奇怪な現象を頭の隅に残しつつ、真名は三人の後を追って駆けて行った。

 

 

 

 

 

 

 関西呪術協会の本山は、横島らが宿泊しているホテルから結構離れており、移動には電車を利用せねばならない。

 

 しかし切羽詰っているこんな状況で悠長に駅に駆けつけて電車を待ち、乗って移動するなどという手順を横島が取れるわけが無い。

 

 

 当然、彼は最短時間で本山にたどり着く方法をとった。

 

 

 木乃香を送って行った古も、ネギに付いて行った楓も本山の位置を覚えている。

 

 だから彼は二人の記憶を明確に『伝』えてもらい、その記憶されている場所に『転』『移』したのだ。

 

 屋敷の中ではなく山門の方に出てしまったのは、楓が中に入っていないからで、より記憶を鮮明にする為に二人の記憶を“同時”に『伝』えてもらったが故の弊害である。

 

 それでも然程の時間を取った訳ではないが、こんな状況では一分一秒が惜しい。

 

 

 「くっ……人の気配がしねぇっ!!」

 

 「手分けして探してみるでござる!」

 

 

 多少の混乱はあったものの、屋敷に入る事ができた三……いや、四人と一頭。

 

 しかし本山にはやはり人の気配は全くしなかった。

 

 

 連絡を入れてきた夕映はとっくに外に出ているから無事であろうが、そのお陰で中で何が起こっているのか解らないのだ。

 

 

 「?」

 

 

 そんな中、真名だけは外部に力の奔流を感じていた。

 

 それほど離れた場所ではないが、さりとて近いと言うにはちょっと距離が離れている場所に、確かな魔力を察知したのである。

 

 

 『召還……か?

  しかしここに攻め入るにしては……遠過ぎるな』

 

 

 警戒はしているが、今は調査も大事だ。

 

 何だかんだで3−Aの面々には愛着がある。

 そう簡単に見捨てるつもりは更々無いのだから。

 

 

 

 

 屋敷内はさながら化石の森だった。

 

 

 会う人会う人……

 いや、ある物ある物(、、、、、、)が石にされた人間なのだ。

 

 

 抗おうとする者、戦おうとしている者、そして逃げる者。

 

 様々な状態で、ここにいる老若男女の全てが石へと変じさせられていた。

 

 

 「クソっ……」

 

 

 普段ならば大喜びをするであろう巫女の群れ。

 

 それらまでもが石に変えられている光景は、女子供に対して底抜けの優しさを持っている横島の導火線を更に短くして行く。

 

 口から出る言葉に勢いは無いが、その代わり異様に重い。

 彼の後を駆けている古の方が物理的に圧力を感じてしまうほどに。

 

 

 「老師……落ち着くアル」

 

 「 解 っ て …… っ っ ! !

  ……うん。解ってる……ごめん」

 

 

 思わず語尾を荒げかかるが、直前にジーンズの裾を かのこが噛んで引っ張った。

 引き止められた事と古の悲しげな視線に気付き、何とか気を静めて言い直す。

 

 一瞬、びくんっと身を竦ませかかった古であるが、思っていたより横島に冷静さが残っているようでホッとしていた。

 

 彼は嗚咽する時のように震えつつ息を吸い、大きく吐いて爆発寸前の感情を無理やり抑え込んでいる。

 

 大丈夫、大丈夫だから、と かのこの頭を撫でているのだが、それはまるで自分に言い聞かせているようであった。

 

 

 古はそんな横島を見て身体が震える。

 

 いや、彼の事が怖いのではない。

 彼の何か(、、)が無くなってしまいそうで怖いのだ。

 

 

 

 「!? 老師っ!!」

 

 

 

 そんな古が突然立ち止まり、横島を呼び止めた。

 

 その切羽詰った声に横島も反応して慌てて振り返って何事かと古を見る。

 

 

 「どうかしたのか!?」

 

 「あ、あれ……」

 

 

 古はそこから眼を離さず、彼に教えるよう指を差した。

 

 その指先に促されてそこに目を向けると……

 

 

 「? 誰だ?」

 

 

 大きな屋敷の部屋に面している廊下。

 

 その廊下の中ほどにポツンと佇んでいる人影一つ。

 

 言うまでも無く石化しているのだが、その石像は数少ない男性のものだ。

 

 しかしその裾長浄衣姿は身分が高そうな気がしないでもない。

 

 

 「あのヒト……このかのパパさんアル……」

 

 「んなっ!?」

 

 

 

 

 無念そうな表情を浮かべたまま石と化していたのは、この関西呪術協会の長であり木乃香の実父、

 

 

 近衛 詠春その人であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「楓。そっちはどうだった?」

 

 

 彼女の直側に姿を現した楓に対し、驚いた風もなくそう問いかける真名。

 

 しかし楓の表情は硬く、黙って首を横に振るのみ。

 

 解ってはいたが、現実の言葉として与えられると流石の真名も表情が苦くなる。

 

 

 この本山の者達にしても、残念ながら真名の眼を持ってしても(この場合は不適切な表現であるが)生存者は見つからない。

 

 尤も、確かに高レベルの魔法ではあるが永久石化のタイプではないだろう。

 

 ならばそれなりの術者であれば……例えネギ先生クラスでも解呪は可能だろう。それだけが救いである。

 

 

 しかし、だからといって安全だとは言い切れるものではない。

 

 

 「……反旗を翻した……という訳ではないようでござるな」

 

 「ああ……」

 

 

 本山関係者を全員石にする……というのはクーデターとしてはおかしい。

 

 いや、確かにクーデターだから全員抹殺せねばならないという訳ではないのだが、それにしたってやり方にかなり疑問が湧いてくる。

 

 確かに関西呪術協会は西洋魔法に対してよい感情を持ってはいない。

 楓は兎も角、真名や刹那は情報としてその事を知っている。

 

 しかし、良い感情は無くとも本気で戦を起こしたいとは思ってもいない筈だ。

 

 大体、内部の者ならここの長が関東魔法協会理事の娘婿だと知っている。

 誘拐事件にしても何だか騒動が大き過ぎるし行動が支離滅裂。シネマ村で襲撃して誘拐しようとするなど、認識阻害が掛かっていない一般施設で起こす事件では無い。

 魔法の秘匿という魔法関係者なら誰もが知っている約束事を破棄しかねない愚行なのだ。

 

 

 それに、ハルナや和美等の一般人を巻き込んでいる。

 

 

 ただでさえこんな強硬手段は上に対する反抗策であるのに、いくら関東魔法協会サイドの学校に通っているとはいえ、ハルナと和美は間違いなく一般人なのだ。

 

 こうなると無差別テロであり、最悪の場合は両方を相手取った大掛かりな戦争となってしまいかねないではないか。

 それでは相手が大き過ぎて勝機が薄過ぎる。

 

 無論、本山に対して東が先制攻撃を仕掛けた……というでっち上げをかます手もあるだろうが、それも何かおかしい。

 

 もしそんな策だったとしても話が大きくなり過ぎる事に変わりはなく、結局は魔法関係者をどんどん巻き込んでしまう可能性が高いではないか。

 

 となると、別の思惑があるのか、或いは……

 

 

 ……いや、今はそんな事件の矛盾に意識を取られている場合ではない。

 

 

 とりあえずは連絡を入れてくれた夕映の保護。

 そして、本山に姿が無かった木乃香らの奪回だ。

 

 そう無理矢理割り切って二人は横島のいるであろう場所へと駆けて行く。

 

 

 カッ

 

 

 「むっ!?」

 

 

 すると、前方で何かの光が見えた。

 

 慌てて速度を上げてその場に駆けつけると……

 

 

 

 「……くっ

  わ、私は……?」

 

 「このかのパパさん、大丈夫アルか!?」

 

 

 「……何っ!?」

 

 

 真名と楓の目に、石化していた筈の人間が……詠春が一瞬で解呪されるという驚きのシーンが飛び込んできた。

 

 

 それは恰も映画の巻き戻しが如く——

 

 

 幾ら真名とは言え、解呪というものをはっきり見た事はそんなには無い。

 しかしゼロという訳でもないから凡その事は解っているつもりだ。

 いや、つもりだった(、、、)

 

 真名には特殊な“眼”があり、その力を持って今まで生き抜いてきている。

 

 その眼が反応していない以上、魔法的なものではないだろう。

 だが、今の解呪は儀式も何も無く、単に何かしらの能力で持って行われた事に間違いはない。

 

 

 それをやったようなのだ。

 

 だれが? そう、“彼”が——だ。

 

 

 石化が解けたからか、或いは何かの弊害かは解らないが、解呪された直後の詠春の上体がぐらりと揺れた。

 直に側にいた古が支えて事無きを得たが、何が起こったのかよく解っていないのだろう。キョロキョロと周囲を見回している。

 

 

 「……よ、横島殿?」

 

 

 彼の気無茶苦茶さは知っているつもりであったが、こんな不条理な事を連発されれば流石の楓も驚きを隠せない。

 

 当の横島はそんな彼女の混乱に全く気付いた様子も無く、何とか状況を理解し始めている詠春に詰め寄った。

 

 

 「おっさん! 一体ここで何が起こったんだ!?

  木乃香ちゃん達はどうなった!?」

 

 「おっさん……」

 

 

 仮にも西のトップに何たる暴言。

 

 状況が状況であるが、真名は後頭部にでっかい汗を掻いていた。

 

 幸い、詠春はそんな彼の暴言も気にしていない。

 多少はひきつった気がしないでもないが。

 

 

 「……き、君は……?」

 

 「オレの事はどーだっていいだろ!? それよか木乃香ちゃんや刹那ちゃん達だ!!

  あの娘らは無事なんか!?」

 

 

 些か朦朧としていたようであるが、そこはかつての英雄の一人。

 彼の言葉にあった娘の名を再度耳にすると忽ちの内に意識がはっきりとしてくる。

 

 

 「そ、そうだ、娘は…このかは!?」

 

 「そりゃ、こっちが聞きてぇよっ!!」

 

 

 詠春が横島の後に来ていた二人に目を向けると、楓らは無言で首を横に振る。

 見ていない…という事は明白だ。

 となると……

 

 

 「いけない……ネギ君がっ!?」

 

 

 はっとして動こうとするが、魔法を全力でレジストした後遺症なのか、些か心もとない。

 

 何せ支えている古を振り払えないのだから。

 

 

 「おっさん!! だから何があったか教えてくれっつってんだろ!?

  こっちは変なガキが襲ってきたって事くれぇしか解んねぇんだ!!!」

 

 

 そして横島が彼の肩を掴んで止めている。

 

 意外に強いその力は、少なくとも今の詠春なら物理的には逃れられない。

 

 自分も娘の事でかなり焦っていると気付いた詠春は、息を整わせて状況の説明を始めた。

 

 

 「……その変な子供の……

  銀髪の少年がここに襲撃を掛けてきたんです。

  本山の者全員……警備の者も、そして私もその少年の魔法によって石にされて……」

 

 

 『かつての英雄たる詠春がか?』と、真名は内心眼を見張った。

 

 言うまでも無くネギの父親というサウザンドマスターは最強の魔法使いだ。

 不意を突かれたとは言え、そのパーティメンバーだった彼を易々と魔法の餌食にするなど普通の術者ではない。

 

 

 しかし現実に強力な守護結界がある本山に易々と侵入を許し、あまつさえ長である彼までもが石にされ、愛娘である木乃香の救出をまだ幼いネギと刹那に頼らざるを得なくなった……という事らしい。

 

 

 「そいつの目的ってなんだ!?

  単に木乃香ちゃんを次期の長に祭り上げるにしても、

  手駒用の式兵隊を作るにしても、やり方が大雑把過ぎるじゃねぇか」

 

 

 それは……と仮説を口にしようとし、詠春は言葉に詰まった。

 

 実際、いくら反対派とはいえ、彼の言うようにその動きは大雑把過ぎる。

 

 まだ本調子に戻っていないぼやけた頭で何とか答を導き出そうとするも、どうにも“ここ”には色々とありすぎて今一つ動向が思いつかない。

 

 それでも何とか仮説を口にしようとしたその瞬間、

 

 

 「……すまないが、私も一つ聞きたい事がある」

 

 

 真名が割り込んできた。

 

 こんな時に何を……と、横島がやや憤りを見せたが真名は無言でそれを制し、突然話に入ってきた彼女に驚いている詠春に尚問いかけた。

 

 

 「え?」

 

 「いや、向こうの方角に何かあるのか?」

 

 「向こう……ですか?」

 

 「ああ」

 

 

 彼女の指し示す方向——

 

 本山の結界と同等の結界が張られており、認識阻害まで掛けて何人の侵入をも拒んでいる泉がある場所。

 

 いや、正確には要石(、、)がある泉。

 

 

 『まさか?』という想いはあった。

 

 

 確かに可能性としてはゼロではない。

 

 かかる現状においてはそれが尤も可能性が高いと言えるだろう。

 

 

 しかし、自分だけでなく、化け物じみた魔力を持つサウザンドマスターと二人がかりで封印した“あれ”をどうこうできるとは考え難い。

 

 いや、“そんな事をする”とは考えたくなかった。

 

 

 「この近くに突然、大量の式神が召還されている。

  ここを襲うにしては距離がありすぎるし、どこかへ移動する事もしていない。

  となると、あの方向に行く事を妨害しているとしか思えないでね」

 

 

 しかし、真名の証言によって心のどこかが否定し続けていた可能性がはっきりと姿を現してしまう。

 

 嬉しくも無いが、千草の目的がこれではっきりした。

 

 

 「……まさか……本当に……」

 

 「おい、どういう事だ!!」

 

 

 そのただ事ではなさそうな雰囲気に横島はまた焦る。

 

 そんな彼を諌める事も無く、詠春は今や真実味を深めさせられてしまっている仮説を口にした。

 

 

 「−リョウメンスクナノカミ−

  千六百年前、討ち倒された飛騨の大鬼神です。

  おそらく千草らはこの封印を解き、このかの魔力で持って制御するつもりなのでしょう」

 

 

 日本書紀に宿儺(スクナ)と呼ばれる鬼神の話がある。

 

 

 その姿の説明だけを聞いても、

 

 

 −壱つの體に両つの面有り 面、おのおの背けり

 

  頂合いして項無し

 

  おのおのに手足有り

 

  其れ膝有りて膕踵無し 力多くして以て軽捷なり

 

  左右に剱を佩き四つの手に並べて弓矢をつかふ

 

 

 とあり、そこだけを聞いてもその姿が人間の其れとはかけ離れており、異形の鬼神と言われるだけのことはある。

 

 無論、神話における悪神なのだから多くのそれと同じ様な末路をたどっている。

 難波(ナニワ)根子武振熊(ネコタケフルクマ)という武将に、方法は不明であるが討たれたのだ。

 

 

 言うまでもないが“こちら”と“向こう”の差があり、横島の知る“神族や魔族がそこらを歩いている世界での正史”と違う点も多い。

 

 ひょっとしたら他の古の神……横島の知る範囲であればヒミコやアルテミス等……のように話を聞く耳を持っているかもしれないし。

 

 しかし、詠春はどういうものか知っているのだろうか、焦りと緊張に満ちた顔をしている。

 

 その様子からして穏やかな性格だとは考え難い。

 

 

 だが、横島にしてみれば気になったのはそんなところではない。

 

 確かにそんなものの封印を解くのは許されざる行為であるが、それより何より聞き捨てなら無い話があったのだ。

 

 

 「こ、木乃香ちゃんの魔力を……何だって?」

 

 「このかの魔力の内包力はネギ君や、彼の父親であるナギすら凌ぐものがあります。

  おそらくその巨大な魔力をもって……」

 

 

 「ンな事ぁどーだっていいっ!!

  木乃香ちゃんをそんなモンを制御するのに連れてったのかって事だっ!!!」

 

 

 その勢いに詠春の言葉すらとめられてしまう。

 

 

 近視感……

 

 そう、詠春は確かなデジャヴュを感じていた。

 

 

 彼は知っている。

 こういった人間を。

 

 全くの他人。

 見ず知らずの少女が戦争に使われるというだけでその只中に突撃して行く大バカ者を。

 

 

 “あのバカ”に比べると圧倒的に力は劣る。

 

 自分の娘はおろか、幼いネギにも遥かに劣るだろう。

 

 

 だがしかし、彼から発せられる爆発的な圧力は詠春の想像を遥かに越えていた。

 

 その氣……正確に言えば霊圧なのだが……は、自分の友人にして盟友の、ネギの父親に匹敵しているのだ。

 

 

 

 横島の脳裏には木乃香の泣き顔が浮かんでいた。

 

 

 

 幼馴染に嫌われたのかと肩を落して泣いている木乃香。

 

 

 刹那が死にかけ、必死になって泣きながら呼びかけている木乃香。

 

 

 そしてその刹那が助かり、泣いて喜んでいた木乃香……

 

 

 確かに家柄は凄いだろう。

 代々続く呪術師の家系だ。

 

 そして血も凄いだろう。

 何せ西洋魔法協会の血と、関西呪術協会の血のハイブリットだ。

 

 

 だが、彼女はただの女の子だ。

 

 どのような力を内包していようと、普通の女子中学生だ。

 

 

 今の今まで魔法に関わった事も無い、本当に普通の女の子である。

 

 家柄や血なんか横島は知ったこっちゃない。

 

 

 そんな普通の女の子を、

 

 友達の為に泣けるような優しい女の子を、

 

 

 利用しようと、『使おう』としている——

 

 

 

 「……ざけやがって」

 

 

 

 「ろ、老師……」

 

 「横島殿……」

 

 

 ミシミシと床板が軋む。

 

 霊圧を受け、体重が増したかのように軋ませいてる。

 

 

 カタカタと障子の桟が音を立てる。

 

 横島から発せられる霊波が、物理的な干渉をしているのだろう。

 

 

 そんな彼を目の当たりにし、詠春は確信した。

 

 この少年は“彼”と同じなのだと。

 

 

 ならば当然、娘を……木乃香の力を利用しようとする輩を、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

         絶 対 に 許 す 事 な ど で き る は ず が 無 い

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 横島の心の中、何かがシリンダーを回すが如く切り替わり、そして……

 

 

 

 何かの撃鉄が——鳴った。

 

 

 

 

 

 

 

 

        ******      ******      ******

 

 

 

 

 

 

 

 数が多い。

 

 多過ぎる——

 

 

 それが、第一に刹那が思った事だった。

 

 

 木乃香の奪還を誓い、ネギ、そして何とか衣服を身に纏った明日菜と銀髪の少年を追って山に入ったまでは良かった。

 

 何とか木乃香を抱きかかえる式神猿を操る千草、そして悪魔のような姿の式を従えている例の銀髪少年に追いつけたのだから。

 

 しかし、本山の防御結界を抜けている事で余裕を持っている千草は、ネギらの言葉に少しも慌てず、

 

 

 「あんたらにもお嬢様の力の一端見せたるわ。

 

  本山でガタガタ震えとれば良かったと後悔するで」

 

 

 そう言い放ち、召還符を木乃香に貼り付け、彼女の力で持って手当たり次第に式神を呼び出したのである。

 

 

 しかし、それだけではない。

 

 

 「……念には念を入れた方が良い」

 

 

 少年がそう呟き、懐から式符を取り出すと、

 

 

 「ラーク」

 

 

 悪魔型式神まで召還したのだ。

 

 その数五体。

 

 数は少ないが、密度と力量は桁違いだった。

 

 

 「ここまでせなあかんか?」

 

 

 と、流石の千草も眉を顰めたが少年の表情はやはり不変。

 

 

 「……何時も何時も油断し過ぎていた。

  ネギ=スプリングフィールドだけに集中し、

  第三者の介入を予測していなかったのはこちらの不手際だよ。

  だったら……」

 

 「……念を入れとくに越した事は無い……ということどすか……」

 

 「そうだよ」

 

 

 まぁ、三人とも子供であるし、殺す事“だけ”禁じておけばいいだろう。

 

 その結果がどうなろうと、首を突っ込んできた方が悪いのだから自業自得だ。

 

 そう納得して千草らは目的の場へと向って行った。

 

 

 後に残ったのは、凄まじい数の式神。

 

 そしてネギ達の三人——

 

 

 

 「こンのぉっ——っ!!」

 

 

 得物はハリセン。

 

 しかし、見た目より遥かに威力があり、尚且つこれで攻撃を受けると還されてしまう。

 

 だから明日菜の一撃を防ぐのは技量だけしかない。

 

 

 が、その彼女の身体能力は常人のそれを大きく引き離している。

 

 

 二メートルはある鬼の一撃を掻い潜り、拳を振り上げた隙に脇腹に一撃を放つ。

 

 余りの速さに気付けなかったのか、鬼は何が起こったのか理解できぬまま異界へと引き戻されてしまう。

 

 そんな様子を目に入れる事も無く振り向いて背後から距離を詰めてきた二体の式……人間サイズで鬼の面と狐の面を着けている……の懐に飛び込んでゆく。

 

 

 『ぬっ?!』

 『こ、こいつ!!』

 

 

 手にしている剣をぴくりと動かした時には、振り下ろしと振り上げという僅かニ動作で一撃づつ肩に受けて送還させられている。

 

 

 『や、やるのぉ……』

 

 

 一つ目の巨人も、悔しさよりも感嘆の言葉を口にして消えて行く。

 

 

 確かに彼女は戦いには素人だ。

 動きも無駄だらけであり、隙も多い。

 

 得物の握り方にしても剣のそれではなく、振りかぶって振り抜く事からバットのそれ近い。素人である事がここでもわかる。

 

 しかし、杖に跨ったネギと追いかけっこ出来るほどの体力(ネギの杖は通常でも車程度の速度が出る)を持つ彼女だ。

 如何に戦い方が素人でも、底抜けの体力でそれをカバーできていた。

 

 

 『こ、このガキっ!!』

 

 『いてもうたれ!!』

 

 

 だが、体術があるというわけではなく単なる体力任せなので囲まれると忽ち拙い事になってしまう。

 

 

 「く、来るな——っ!!」

 

 

 棍棒やら剣やらを振り上げ、力押しで押し潰さんと掛かってくる三体の式。

 

 戦いに素人である明日菜。

 冷静さを持っておらず、半ば眼を回しながらもその場で身を沈めて、その内の一鬼の懐に飛び込んで攻撃を回避する。

 

 

 『うぉっ!?』

 

 

 式は焦るがもう遅い。

 

 明日菜は身体を独楽のように回し、一閃!

 

 周囲を薙いだハリセンが僅か一撃でその三体を送り還す。

 

 

 『何とまぁ…』

 

 『やられたー』

 

 

 やられた方はというと、やはり緊張感が無い。

 

 明日菜にしてやられた事がどこか楽しそうでもあった。

 

 無論、そんなセリフを耳に入れる暇も彼女には無いのだが。

 

 

 「はぁ、はぁ、はぁ……

  こ、これで十匹……刹那さんは……?」

 

 

 それでも相方の様子を窺うが余裕だけはできたのか、慌ててキョロキョロと少女剣士の姿を探す。

 

 

 と——

 

 

 

 「刹那さん!?」

 

 

 彼女は、一対五の戦闘を強いられていた。

 

 

 

 

 

 『こ、こついつら……意外に知恵が回る』

 

 

 悪魔型の式……というものは、今回の件で初めて目にしたのであるが、見た目以上にパワーがあり、尚且つ動きが素早くて厄介だった。

 

 彼女の知る人型の式とは違って得物を持ち合わせていないが、その無手の攻撃力が尋常ではない。

 

 爪や腕から突き出ている刃にも似たモノの切れ味は自分の剣ほどもあり、刃を受け止めるだけで精一杯。

 

 かと言ってこちらから踏み込めばふわりと退いてかわすのだ。

 

 時間稼ぎという命令を忠実に守っている。

 

 その上、実に巧妙に明日菜から距離をとらされ、尚且つ彼女の危機に踏み出そうとすると間合いに踏み込まれかかってそれすらも叶わない。

 

 

 明らかに剣士と戦う方法を身につけているのだ。

 

 

 「くそっ!! 退けっ!!」

 

 

 ——そしてこの場にネギはいない。

 

 

 足止めを振り切らせ、木乃香の救出に向わせたのである。

 

 

 何せ足が……移動速度が一番速いのは彼だ。

 

 実のところは刹那自身も“ある方法”をとればそれなり以上の速度がだせるのだが、それを使うのには未だ躊躇いがある。

 

 だから刹那は明日菜と共にここで有象無象の足止め軍団と戦っているのだ。 

 

 

 しかし、ここに一つの難点があった。

 

 

 明日菜と合流して直、カモが提案してきたのはネギとの仮契約だった。

 

 ちびせつなを通して見ていたが、仮契約によって強化されている明日菜の力は中々のものだ。

 

 何せ、ただでさえ破壊力のある明日菜の蹴りが、岩塊をも蹴り壊せるほどまで高められており、尚且つ防御力まで跳ね上がっていたのだから。

 

 そしてカモの説得。

 

 

 『手段なんか選んであの嬢ちゃんを助けられるわきゃねーだろ?

  あのガキをぶったおして嬢ちゃんを助けるにゃあ、できる手段は何でも使うべきだぜ!!

 

  さぁ、刹那の姉さん!! パワーアップだ!! パクティオーだ!! ゴーゴーゴゴーっっ!!』

 

 

 そんな“戯言”をするりと受け入れてしまったのである。

 

 さっさとネギにキスを……もとい、仮契約を行って氣の跡を辿ってここまで追いついたのであるが、まさかの木乃香の魔力を使った式神大量召還という危機。

 

 その木乃香を何かに利用しようとしている以上、ここで何時までも足止めを喰らっている場合ではない。

 そう判断をした刹那は、挟み撃ち状態にならないよう、一緒に残るといって戦い続けている明日菜と共にここでこうやって戦っているのであるが……

 

 

 しかし、この仮契約の力には欠点が一つあった。

 

  

 「神鳴流奥義……雷鳴剣!!」

 

 

 雷を纏った剣が、光の刃のように式を襲う。

 

 普段のと違った下から斜めに掬い上げるような剣の一閃。

 

 その間合いは意外に広く、下がった式も完全には間合いを外し切れずに胸を大きく斬られてしまった。

 

 

 だが、それだけだった。

 

 

 「く……やはりか」

 

 

 弾き飛ばせはしたのであるが、悪魔型の式は膝すら着いていない。

 

 胸にできた傷もすぅ…と消えて行くではないか。

 

 

 あの少年は、ご丁寧にも雷属性の式神を残しているのだ。

 

 

 神鳴流はその文字を“かみなり”とも読める。

 

 その名の通り、退魔の剣技だからかしらないがその剣技属性は雷が多いのだ。

 

 だからこそ、雷獣のような雷属性の敵と相性が悪い。

 

 

 その上ネギとのパクティオーが刹那の全力を阻んでいた。

 

 

 このパクティオーの力には、自分の従者を魔力によって強化するものがある。

 

 確かに自分の耐久力や持久力の底上げを実感できているし、敵に与える一撃一撃のパワーも上がっているのも解る。

 

 しかし、今のド外れた明日菜の様に、この戦闘力はそのネギの魔力に依存している訳なのだが……自分に付与される魔力は、どういう訳か氣と相反して上手く力が出し切れなくなるのである。

 

 

 いや、実質的には弱くなっている訳ではないのだから、“慣れていない”と言った方が良いかもしれない。

 

 それでも実戦においてその“不慣れ”は致命的だ。

 

 

 「……っ!?」

 

 

 瞬き程度の時間にも満たないほんの一瞬の隙。

 

 その隙に黒い何かが割り込みを掛けてきた。

 

 無論、少女という年齢ではあるが刹那も実戦を知る者。それが敵の爪であると理解するよりも前に身体が動く。

 

 

 がぎんっっ

 

 

 鉄塊がぶつかり合うような鈍い音が響き、打ち負けた刹那が後に吹っ飛ばされてしまった。

 

 

 「刹那さんっ!!」

 

 

 結構離されてしまった明日菜の悲鳴が上がるが、刹那はそちらに顔を向けて力強く頷き無事である事をアピールする。

 

 それに安心したか明日菜も得物を振るい、少しでも刹那に近寄って行こうと奮闘を再開した。

 

 

 「く……っ」

 

 

 しかし実のところ、刹那にはそれほどの余裕は無かった。

 

 直に体勢を立て直せたが式は追撃を行わず、別の悪魔型式がその間に入って更に別の攻撃パターンで攻めて来る。

 

 これにより、今もまた刹那は更に明日菜から距離をとらされているのだ。

 

 

 『これは……間違いない』

 

 

 雷属性を持ち、自分の得物である野立ちの間合いに踏み込んでくるだけの近接戦闘が行え、一切の飛び道具を使って来ない式。

 

 敵は……

 

 おそらくあの銀髪の少年は神鳴流に対する“拍子”を……神鳴流との戦い方を知っている。

 

 

 刹那の背中を冷たい汗が走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『オヤビン……な〜んかオモロなさそうっスね……』

 

 『まぁな……なんつーか、けったくそ悪いんや』

 

 

 式達……子分らが少女二人と子分らが戦っているのを見下ろしつつ、棍棒を携えた巨漢の鬼はそう吐き捨てた。

 

 数で押す戦いは常套であるし、別に殺す必要もない。

 

 戦いは趣味と言っても良いが、女子供の命を奪う趣味までは持ち合わせていないので、受けた命令としてはまぁマシな方と言えよう。

 

 しかし……

 

 

 『向こうさんの鬼……なんや人形じみとるし、気配がド気色悪いんや』

 

 『そーっスねぇ……

  連携せぇ言われても、何やあちらさんはノリ悪いさかい反応し難いっス』

 

 

 何やら式同士にもそういったものはあるのだろう。

 

 二人……いや、二体とも憮然とした顔でちらりと悪魔型の式に眼を送った。

 

 

 相変わらず淡々と攻撃し、受け、避け、入れ替わってもう一人の少女から引き離し続けている。

 

 歯車のような丁寧さで生き物らしさを感じられない戦い方をしているその様子に、彼ら(?)は余計に不快さを感じさせられてしまっていた。

 

 

 『やっぱ気分悪いわ……

  このままやったらあの嬢ちゃん達にも悪いし、とっとと楽にしたれや』

 

 『そうっスね……』

 

 

 友達を助け出そうと孤軍奮闘している少女らに好感こそ持てても憎しみなぞ無い。

 

 さりとて命に逆らえる存在ではない彼らは、気を失わせるなりして無力化させようと、溜め息を吐きつつ手だれを投入し——

 

 

 『あ……?』

 

 『何や? どないした?』

 

 

 

 ——ようとして、変異によってその動きを止められていた。

 

 

 首を傾げかけた親分格であったが、子分の視線を追ってその理由を理解させられてしまう。

 

 

 

 

 その場に、突如として“壁”が飛んで来たのだ。

 

 

 

 

 いや、壁と言う表現には語弊があるだろう。何せ“それ”はかなり小さなモノなのだから。

 

 

 だがしかし、“それ”は壁としか称せない程の圧力を発していた。

 

 

 その大きさ、直径約一メートル程度。

 盾よりも小さく、お盆と形容するのが一番近いかもしれない物体。

 

 それが木々の隙間から面を前にして飛来し、悪魔型の式に迫ってくる。

 

 

 『お゛あ゛』

 

 

 式はそれを攻撃と判断し、無造作にそれをはじこうと腕を振るった。

 

 

 が——

 

 

 ボッ!!

 

 

 消えた。

 

 式は跡形も無く消し飛んでしまった。

 

 

 その現象に初めて驚きの動きを見せた他の悪魔式であったが、時既に遅し。

 

 

 ボッ!! ボシュッ!!

 

 

 先に消えた式の後ろに“いてしまった”二体は、それに弾かれるように消し飛ばされてしまった。

 

 

 「な……っ!?」

 

 

 流石の刹那も驚きを隠せない。

 

 しかし、それでもとっさに式らから距離をとって茂みの中と両方に注意を払う。

 

 

 吹っ飛んできたお盆のような“丸いもの”は、実は円ではない。

 

 六角形の“あるもの”が想像を絶する速度で回転し、プロペラのように飛んで来たのである。

 

 スクリューに巻き込まれたものと同様に、それに触れてしまった式は一瞬でその身を削り取られ、強制的に物質世界から叩き出されてしまったのだ。

 

 

 サイズこそ小さいのであるが、その力は正に壁。

 

 何物も触れる事を許さず、何物の通過も許さない拒絶の壁。

 

 

 しかしてその壁は物体ではない。

 

 刹那には、“氣”でできたモノ……とてつもなく凝縮された氣の塊のようなものだと感じられた。

 

 しかし、そんなものを刹那は見た事が無い。

 

 

 その時、その茂みから魔獣が飛び出してきた——

 

 少なくとも、刹那にはそう見えた。

 

 

 動きが機械じみていた悪魔型式も、乱入者にやっと反応できたのか、あわてて“それ”に対して攻撃を試みる。

 

 

 

 

 「どけ」

 

 

 

 

 しかし極無造作に光る刃を振るわれ、その悪魔型式は消し飛ばされてしまった。 

 

 

 

 

 

                その身を二つにして。

 

 

 

 

 「っ!?」

 

 

 来た……と見えた瞬間には、それは刹那を通り過ぎてあの散々梃子摺らされた式を消し飛ばしている。

 

 

 動きが速い——という訳ではない。

 

 何かしらの眼くらましをかけられた——という訳でもない。

 

 動けなかった(、、、、、、)のだ。

 

 灼熱の恐怖という異質の感情によって。

 

 

 冷たい恐怖なら今まで幾らでも感じた事はある。

 

 長に教えを請うていた時も何度か感じられたし、麻帆良での剣の師である刀子と相対している時にだって何度も感じた。

 

 魔物と戦っている際にも感じた事が無いとは言わない。

 

 木乃香の危機の際にも何度かそれを感じた事はある。

 

 

 だが、流石に身が焦がされるような灼熱の恐怖など初めての事だった。

 

 それでいてその怒りは一種異様なまでに冷たい。

 

 

 

 煮え滾るマグマを内包した永久凍土がそこにある——

 

 

 

 そんな錯覚を憶えるほどに、伝わってくる感情は複雑怪奇。

 

 流石に人生経験の短い刹那では形容する方法が無い、相反し矛盾する感情をそれは放っていた。

 

 

 彼女の動揺など知る由もなく、“それ”は群がる式兵らに怯む事もそして感情も見せず、極無造作に腕を振って行く手を阻むもの全てを斬り飛ばし、真っ直ぐ山へと突き進んで行く。

 

 

 刹那や明日菜の攻撃によって還された者達のような感心の声も驚きの声も聞こえない。

 

 

 悲鳴や叫びも無い。

 

 

 淡々と。

 

 淡々と草でも毟るかのように、効率的に式が狩られて道が作られてゆく。

 

 

 

 突如として現れ、鈍く輝く氣の刃で持って式をなぎ倒して突き進んで行く“それ”……赤いバンダナを頭に巻いた青年は、

 

 

 

 

 

 

 

 

       刹那には、周囲の式たちよりも鬼のように見えていた——

 

 

 

 

 

 

 

 


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