-Ruin-   作:Croissant

20 / 77
十時間目:独立愚連隊ニシへ
前編


 

 

 「まったくもー……

  ちょっと、どーすんのよネギ!

  こ——んなにいっぱいカード作っちゃって一体どう責任取るつもりなのよ!?」

 

 「えうっ!?

  僕ですか!?」

 

 

 

 狂乱の夜が明けた修学旅行三日目の朝。

 昨夜のゲームの事を楽しげに話している3−Aの面々を向こうに置き、

 全然全く知らない内にその中心に置かれていた子供先生ネギは、何だか不条理な事に明日菜に責められていた。

 

 見回りを行っている隙に勝手に仮契約の陣を仕掛けられて勝手に女の子と契約を結ぶ策を講じられたのだから、ホントのとこそんなに罪はなかろう。

 まぁ、主犯格のカモの扱いはネギの使い魔のようなものなので監督不行き届きと言えなくも無いが。

 

 

 『まぁまぁ、姐さん』

 「そーだよアスナ。もーかったってことでいいじゃん」

 

 「朝倉とエロガモは黙ってて!!」

 

 

 あまりに軽薄な事を言う友人に、明日菜は目をくわっと剥いて怒る。まぁ、当然であるが。

 理屈上、当人らに内緒で勝手に契約する事後契約なのだから性質が悪い詐欺みたいなものなのだ。

 

 初めから裏にいた刹那は当然として、最近になってやっと魔法の事を知った明日菜ですらその危険な行いに気付いているくらい。

 

 情報というものの怖さを知っているはずの朝倉が気付かないのは意外だが、とっくに裏を知っている筈のカモまでがチョーシこいてあんな事をぶちかましたのだから、明日菜の怒りも当然であろう。

 だからカモはエロガモと称され、けっこーショックを受けていたのだが誰も気にしていない。

 

 

 

 

 で、

 

 

 そんな風に少女らが騒いでいるのを尻目に、どよ〜〜〜んと暗雲を引っ張って歩く少年の姿があった。

 

 足取りの重さは敗残兵のそれ。日本的に言えば落ち武者である。

 漫画のように数本の折れた矢とかが刺さっていたら完璧であろう。

 

 少年は隈が浮き濁った眼をちらりとネギらに向け、直に前に戻して深く溜め息をついた。

 

 

 「はぁあああぁああ〜〜〜…………………………」

 

 

 その吐息だけで木々枯れて落ち葉が舞いそうだ。

 少年はそれほど黄昏ていた。

 

 

 「ん? 横し……いや、タダキチ君。どうかしたのかい?」

 

 

 これだけの落ち込み様なら普通なら耳に入らないであろう何気ない言葉。

 だがしかし、それが女の——それも美少女っポイ声(何でそれが判るのかはナゾであるが)ならば話は別なのだ。

 

 問い掛けられた方向に反射的に顔を向け、声の主を確認してみれば、そこには麻帆良中等部の制服に身を包んだ妙に大人っぽい少女の姿。

 黒いストレートロングの髪を後に流し、中等部の制服を着てはいても年齢度外視の色気と雰囲気を漂わせている少女……龍宮 真名である。

 

 大人に相対する時の雰囲気や、モーションを掛けてくる男どもをあしらう様から女子中学生だと言っても誰も信じはすまい。

 何せその何気ない仕種の中にも隙が全く無いのだから。

 

 それも当然で、彼女はこれでも“裏”でプロとして働いているのだ。

 つまり<タダキチ(セブン)>事、横島の裏の顔を知っている数少ない一人である。

 

 

 「真名ちゃんか……」

 

 「ん…?」

 

 

 やや馴れ馴れしく名前を言われても真名は微笑むだけ。妙に余裕がある。

 それにしても実年齢では勝っている“筈”の横島より大人びているのは如何なものか?

 

 そんな真名の身体のごく一部……まぁ、言ってしまえば胸であるが……を一瞥すると、横島はまた溜め息を吐いた。

 こーゆーケシカランオパーイを持っている美少女がいるから自分は苦しむのだ……と。

 

 何と自分勝手で身勝手な意見であろうか。無けりゃあ無いで文句言うくせに。

 

 真名は凡その見当がついていたが、ただ苦笑するのみ。やはり大人である。

 

 「流石に子供がそんなこと(、、、、、)で溜め息ばかり吐いてたら目立つんじゃないか?」

 

 「ほっといて」

 

 

 何だか不貞腐れたかのような横島の様子に、真名はくくくと笑いを忍ばせた。

 

 昨夜の事は真名もよく覚えている(、、、、、、、)

 

 というのも、普段とは違う友人(ライバル)の様子に気付いた彼女は、物陰から2班の後を追い様子を見守っていたのだ。

 

 自分のような“眼”を持っているわけでもないのに横島の“跡”を追い続け、

 ゲーム終了を阻止せんと新田に煙幕を投げ付けたり、ナニに暴走したかは知らないが、ネギを粛清せんと襲い掛かる横島を古との見事な連携で確保したり……

 

 

 そして——見た(、、)

 

 

 「夕べはお楽しみだったようだね。

  両手に花だったみたいじゃないか」

 

 「あ゛あ゛〜〜〜〜っ!!

  言わんといてぇええ〜〜〜〜〜っ!!!」

 

 

 有名RPGの宿屋のオヤジみたいなセリフを真名に言われ、イキナリ身悶えしつつ転がって泣き出す横島。

 そのリアクション、昨夜の自分の担任の悩み方に似てなくも無いがハッキリ言って規模が違う。

 

 ごろんごろんと団栗のように可愛く転がるのがネギなら、ゴロロロロロロッ!! とベアリングもびっくりな大回転して悶えるのが彼だ。

 壁にぶち当たるとそのまま壁を転がって天井に辿り着かんとする勢いである。

 今時のアクション映画の特撮でもここまでの動きにはお目にかかれまい。

 何もかも間違っている気がしないでもないが、素晴らしいと言えなくも無いだろう。多分。

 

 そんな横島のうおーんうおーんという獣じみた泣き声は中々笑いを誘ってくれるが、このままでは目立ち過ぎてしまう。

 

 真名は襟首をむんずと掴んでそのまま角まで引き摺って行き、泣き崩れている彼を立たせてやった。

 

 

 「やれやれ、世話が焼けるな」

 

 「うう……スマンのぉ……」

 

 

 幼児然とした外見も相俟って、情けなさに拍車が掛かる。

 まだネギの方が大人っぽく見えるのだから不思議だ。

 

 何だかしっかり女房(楓)に養ってもらう宿六のようだと真名は思った。

 

 

 「それで今日はどうするんだい? ネギ先生は確か……」

 

 「えっぐえっぐ……

  あ、う、うん……アイツは今日、西の本山に行くはずだけど……」

 

 

 普通に考えれば、横島もネギに付いてゆく事になるだろう。

 何せ彼が請け負った仕事はネギの持つ親書を守る事なのだから。

 

 だが、1日目の襲撃から鑑みれば、“奴ら”の目的は——

 

 

 「アイツの親書“だけ”じゃねーだろうなぁー……」

 

 「多分ね」

 

 

 無論、親書到達の足止めくらいはされるかもしれないが、真名も横島もそれだけで終わるとはコレっポッチも思っていない。

 いや……下手をすると親書を狙っているのは物のついで(、、、、、)、或いは囮なのかもしれないのだ。

 

 あの眼鏡姉ちゃん(千草)や刹那の話からして、本命は西の長の娘である木乃香だと、横島は踏んでいる。

 

 木乃香の魔力は確かに“ちょっと大きめ”というレベルであるが、『うわっ!? スッゲェ〜〜っ!!』と眼を見張るほどではない(注※ 横島視点)。

 まぁ、属性や性質によっては何かの鍵になったりする事は間々ある事だ。だからそれを狙っているとも考えられる。

 現に横島の同僚の女性は然程強力な霊力を持っていた訳でも無いのに300年間も人柱にされていた訳であるし。

 

 まぁ、西の長の娘なので、その立場を利用しようとしているのかもしれない。

 その割に妙に騒ぎを大きくしようとしているのは本末転倒な気もするが……

 

 

 「やっぱ何かの<拠り代>とかに選ばれたんかなぁ……

  確かに人間の女の子にしては(、、、、、、、、、、)ちょっと大きいし……でもなぁ……う〜ん……?」

 

 「……一度魔力について話し合わないといけないセリフだね」

 

 「でも事実じゃん」

 

 「……ま、いいけどね……」

 

 

 何度も言うが、横島の“大きい力”の基準は神族や魔族とかである。

 人間が逆立ちしたって届かない位置にいる事は言うまでも無い。

 

 更に、人間で大きい力の持ち主はと言うと、かなりド外れた存在が出てきてしまう。

 

 真っ先に思い浮かぶのは自分の“元”雇い主とか、その母親とかだ。

 

 その元雇い主の母親という人物は、原子力空母の全発電エネルギーを吸収して自分の霊力に変換ができる 怪 獣 である。

 

 横島本人は見た事はないが、同僚らの話によれば推定霊力数値は通常の百倍近くは出ていたらしい。

 当然ながらポテンシャルはその母親を超えている元雇い主だってできるだろう。

 

 そんなのを知っているからこそ彼の判断基準はかなりトチ狂っているのであるが、それは兎も角。

 

 

 「じゃあ、やっぱり今日も人員を割くのかい?」

 

 「ああ……しゃあないしな……」

 

 

 確かに任務のメインは親書を持つネギの手助けであるが、木乃香を守る事も仕事の一つである。というか、横島的に言えば女の子を守る方がずっと重要だ。

 かと言って親書が届かなくとも良いと言うわけではない。

 

 親書を届けるという話が向こうに広く伝わっているのなら、その手紙が届かねば『友好を結ぶ気がない』という口実を与えてしまう事になりかねない。それはそれで大変困った事となるであろう。

 

 世話になっているとはいえ、学園長(ジジイ)らがどれだけ困ろうと大して気にしない横島であるが、美少女の未来に幸多かれと部分的聖人君子な想いを持っている彼からすれば、木乃香に害が及ぶのは何としても避けたいところ。

 つーか及ぼす奴らは私刑ケテーイである。

 しかし、そうなると木乃香とネギとを別々に見守る必要が出てくるのだ。

 

 

 「木乃香ちゃんの護衛をメインにするのは当然として、あのボウズの方も……」

 

 

 ——無視する訳には行かない。

 

 はっきり言って、こう言った現状になったのは近衛も西の長も読みが甘すぎた為と言えよう。

 

 親書が必要なのは当然であろうが、木乃香と共に京都に来たのは失敗だった。

 何せ西にとっては“姫君”にあたる木乃香をチラつかせているのだ。ロコツに引かせればどんな難題を吹っかけられるか解かったもんじゃない。

 

 確かに本山の一部にあんなおポンチな輩がいるとは予想外だっただろうが、把握し切れていないのなら長も長だと言える。

 長が知りえていないのだから関東の方も知らないのはしょうがないかもしれないが、双方ともが同レベルで情報の面で負けているのはいただけない。

 

 

 「あのじーさん。

  この本山の不手際を餌にして長に責任追及するなんて事しないよな?」

 

 「意外とよく回る頭だね。

  そこらでありそうな話だけど、今はその臭いは無いよ」

 

 「ふうん……

  プロの鼻がそう言ってるんだったら信用するか」

 

 「おや何の事だい?

  私はしがない一中学生だよ?」

 

 「はいはい」

 

 

 まぁ、裏があるにせよ無いにせよ今さら悔やんでも遅きに遅しで、双方共が下手に人員を動かす事ができないのが現状だろう。

 

 それに近衛も言っていたが、木乃香は魔法に関わらせない様に育てられている。

 西と東の本山の血を引いているくせに何を……という気がしないでもないが、そういった裏のことを知っているからこそ、魔法関係に近寄らせたくないのだろう。

 そんな意味でも安全かもしれない(、、、、、、)という程度の信頼しか置けない本山にネギ達と向わせる訳にも行かないのだ。

 

 となると、当然として木乃香の護衛と、ネギの護衛に分かれねばならなのであるが……

 

 

 チラリと真名に目を向ければ、

 

 

 「うん? 依頼かい?」

 

 

 と、笑顔で返してくる。目は笑っていないが。

 

 「いんや……まだ(、、)いいよ」

 

 「そうかい?」

 

 

 ふ…と肩を竦ませて了解の意を示す。

 

 “まだ”と言ったのは、状況が変われば依頼する事を示している。そして真名もそれを解ってくれたのだ。

 

 友人関係の話であるというのに遠まわしに金銭を要求してくる真名。

 

 だが横島も文句を言うつもりは無い。

 

 彼女はプロだと聞いているのだ。プロが一々情で動いては話にならないし、“外部”も信用すまい。

 自分の“元”上司もそうだったのだし。

 

 まぁ、件の上司と同様に、彼女もギリギリでは情で動いてしまうだろうとは予想しているが。

 

 それよりも、今はネギの事であるが……

 

 

  

 「拙者が行くでござるよ」

 

 

 

 「え゛!?」

 

 

 思考に沈んでいる隙に接近を許してしまったのだろう。

 何時の間にか横島の後に楓の姿。

 

 朝食直後なので真名と同じく制服姿だ。

 似合っている様で、微妙にコスプレっポイのが何だか犯罪チックである。

 

 

 「何だい?」

 

 「い、いや別に……」

 

 

 そんな感想を真名に読まれたか、横島は眼を逸らして誤魔化す。

 

 それでもすぐ楓に向き直し、その顔を見た。

 

 彼自身はそのつもりはなかったのに、何故か凝視してしまう。

 だかそんな横島に対し楓は、

 

 

 「何でござる?」

 

 「いやその……」

 

 

 と、横島は未だに昨日のキス騒動をずるずる引き摺っていると言うのに、彼女はサッパリと言葉を返してきたではないか。

 

 本当ならこーゆーのを気にする歳ではないのであるが、精神が肉体に引っ張られているのか、元々の純情さも相俟ってちょっと情けないくらい気にしてたりする。

 

 

 『やっぱ女の方が強いんやなぁ〜〜……』

 

 

 今時の少女はキス程度では気にならないのだろうか。

 ジェネレーションギャップというか、性差というか……いや大人のくせに気にし過ぎている横島が悪いのかもしれない。

 

 

 「解ってないね……」

 

 「へ? 何か言った?」

 

 「いや別に」

 

 

 そんな意味深な事を呟いた真名が気にならない訳でもないが、このまま楓と相対して突っ立っていても話は進まない。

 

 彼女も退屈しているのか顔が白みがかってきたし——

 

 何だかまだギクシャクしているのが物悲しいが、

 

 

 「じ、じゃあ、頼めるかな? あのお子様先生のお守り」

 

 「承知したでござる」 

 

 

 ニ…っと笑って了承する楓。

 昨日の事があった所為なのだろう、その笑顔がめっさ透き通って見える。

 

 自然とその口元に眼が向いてしまい、ああ……あの唇にオレは……と妙に上気してきた。

 

 アホぉな妄想に沈みかかったコトを自覚し、慌てて頭を振ってそれを吹っ飛ばそうとする。

 

 

 「おやおや? 楓の何が気になってるんだい?」

 

 「べ、別に気になってへん!! 楓ちゃんの艶やかな唇や見てへんぞ!!!」

 

 

 真名に指摘され、更に必死になって頭を振って誤魔化そうとする横島。

 誤魔化すと言っても、何を? と問われると困るだろうが、それでも涙をぶち撒きつつブンブカ首を左右に振って否定する。

 

 だが、『そうかい?』と真名にミョーに生暖かい視線を浴びせられては、ズキズキ痛むハートも耐えられなくなってしまう。

 

 例によって例の如く、「違うんや——っ!!」と絶叫してどこかへ駆けて行ってしまった。

 

 

 「あ……っと……

  うーん……ちょっと虐め過ぎたかな?」

 

 

 その背を見送ってから溜め息を吐いて反省し、やれやれといった表情のまま楓に顔を向ける。

 

 視線を向けられた楓と言うと、何だか笑顔のままで横島の消えた方向を見つめ続けているではないか。

 

 

 何時もの楓。

 何時もの読み難い笑顔。

 

 横島が見た通り、なんだか生っ白い顔のままニコニコとしたまま、今はもう見えなくなっている彼の背を追い続けいてた。

 

 が、真名からすれば一目瞭然なのだろう。

 

 

 

 「楓。もう横島さんは行ったぞ」

 

 

 

 と、彼女の耳の側で聞こえるようにそう言ってやった。

 

 

 その瞬間——

 

 

 ボッシュウウウウ……っ!!!

 

 

 実にイイ音を立てて楓の顔が燃えるような赤に染まって蒸気を噴き、そっくり返るように真後ろに倒れて行く。

 

 

 「おっと」

 

 

 真名はそれが解っていたか、するりと楓の背後に回り、倒れ掛かる彼女の体を支えてやった。

 

 

 「やっぱり無理をしてたか……」

 

 「ううう……」

 

 

 どうやら横島の前で冷静さを取り繕っていただけの様で、遂に限界を突破して急激に血が上った所為でひっくり返ったようだ。

 

 

 「それにしても器用だな……顔色を変えないのだから」

 

 

 突然広がった血管を虐める訳にはいかないので、冷たいペットボトルなどで冷やすわけにはいかない。

 パタパタと旅行のしおりで扇いで熱を下げてやるだけだ。

 

 

 「……氣で筋肉を操って頚動脈を引き締めてたでござるよ……」

 

 「死ぬぞ? お前」

 

 

 そりゃあ確かに顔色は変わるまい。

 間違いなく無理し過ぎであるが。

 

 

 「……なれど……」

 

 「うん?」

 

 

 やや俯き加減でそう呟く楓に、真名はどうかしたのかと顔を覗き込もうとする。

 相変わらず眼を細めたままであるが、プルプルを肩を震わせていて何時に無く混乱している様子だ。

 

 

 『あー……やっぱまだショックを引きずってるのか……』

 

 

 と、真名が納得した瞬間、

 

 楓は爆発した。

 

 

 

 「ど、どどどどうすれば良いでござるか!?

  酒の勢いがあったとはいえ、あんな事をしてしまうとは〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっ

 

  せ、拙者は、

  拙者わぁあああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっっ!!!」

 

 

 ゴロゴロゴロゴロゴロ……ッと頭を抱えて転がり回る楓。

 

 

 「わぁっ!? 楓姉!?」

 

 「ど、どーしたの!?」

 

 

 何と言うか……実に横島と同じ様な悶え方をしてしまっている。

 

 照れていないとか、気にしていないどころの騒ぎではない。実は楓、素面に戻るとおもっきり気にしまくっていた。

 

 以前の楓であれば見知らぬ男に肌身を見られたとて然程気にする事も無かったであろうが、何せ相手は無自覚であるが好意を高めていっている男なのだ。そりゃ恥ずかしくもあろう。

 

 ぶっちゃけキスだけでそこまでぶっ壊れてどーするという気もするのだが、一部接触した挙句にそれを思い出して悶える程、“女”が成長しただけマシか……と真名は妥協してムリヤリ納得するのだった。

 

 

 

 

 

———————————————————————————————————

 

 

 

 

               ■十時間目:独立愚連隊ニシへ (前)

 

 

 

 

———————————————————————————————————

 

 

 

 

 

 

 少女らの京都・奈良での修学旅行三日目は完全自由行動である。

 

 

 得てして女の子と言うものは、そういった遊びが関わる時のみ綿密な計画を立てて行動するもので、修学旅行に出る前には何時にドコへ行き、何を買うなどまで計画は煮詰められていた。

 

 真面目な教師などは問題が起こさないか、或いは問題に巻き込まれないかとハラハラしてたりするが、事前に計画表の提出が義務付けられているのでそんな無茶な行動に出る事は余り無い。少女らもわりと正直に行き先を記入するし。

 

 

 で、魔法先生の端くれであるネギ=スプリングフィールドはというと……

 

 朝食を食べ終え、昨夜のカードの話をしたあと直に少女らと同様に私服に着替え、何だか弾むように旅館の外へ駆け出していた。

 

 

 何だかそれだけはどうしようもなく目立つ魔法の杖を背中に背負い、大切な親書を鞄に携え、パートナーである明日菜と待ち合わせている大堰川を目指す。

 

 子供とは言えイギリス紳士の端くれ。

 女性を待たせてはいけないし、早すぎて気を使わせる訳にもいかないので時間よりやや早い程度で待ち合わせの場所に着いた。

 

 

 木乃香は刹那に任せてあるし、彼の任務は親書を届けるだけ。

 根が真っ直ぐ過ぎる上、ついこの間まで悪い魔法使いの存在にさえ気付けずにいたネギであるからこその思考の流れだ。

 魔法に関わるという事は危険に近くなると言う事。その所為で故郷の一つを失っているというのに……

 

 

 だが、幸いにもその部分のフォローは整っている——

 

 

 

 「ネ——ギ先生♪」

 

 「え?」

 

 

 何だか親しげな声で背後から呼びかけられ、ネギが振り返ってみると、

 

 

 何だか悪戯が成功した事を喜んでいるかのような表情で笑っているハルナ。

 

 やや照れた表情を見せつつ、何時ものようにアヤシゲな飲み物を手にしている夕映。

 

 やはり照れた表情で、皆より一歩後にいるのどか。

 

 幼馴染の側にいられてうれしいのだろう、笑顔を見せている木乃香。

 

 申し訳なさそうにコッソリと謝罪の意を見せている明日菜。

 

 そして何時ものように努めて表情を隠そう……として、幼馴染の側にいる事からか隠し切れていない刹那。

 

 

 それと——

 

 

 チャイナ系の私服しか見た事無いのだが、明日菜達とさほど差の見られないミススカートとトレーナー姿という珍しい格好の古。

 赤いバンダナを頭に巻き、Tシャツにジーンズ、バッシュ姿のタダキチがそこに並んでいるではないか。

 

 

 「わ〜〜っ 皆さん可愛いお洋服ですねー」

 

 

 そう女性達のお洒落を反射的に誉めるのはイギリス人の性であろうか?

 等と一瞬ボケてしまったネギであるが、

 

 

 『……じゃなくて!!

  なな、なんでアスナさん以外の人がいるんですか〜〜っ!!』

 

 

 直に我に返って小声で明日菜にツッコミを入れていた。

 

 

 『ゴメン。パルに見つかっちゃったのよー』

 

 

 さっきから謝っていたのはその事なのだろう。

 

 何せ人の恋愛感情の気配をラブ臭と称して感じているハルナだ。

 ひょっとしたら魔法使い並の勘を持っているのかもしれない。

 

 

 「ネギ先生。そんな地図もってどっか行くんでしょー? 私達も連れてってよー」

 

 

 まぁ、当ねハルナはお気楽極楽であるが。

 

 そして昨日同様、夕映らと共に着いて来ていた横島はというと、

 

 

 『ムム……見事な一人ノリツッコミ……まだまだ浅いが光るモノがあるな……』

 

 

 と、ネギに対して訳の解らない感想を述べていた。

 

 

 「え〜〜と……5班の自由行動の予定が無いのは聞きましたけど、その……クーフェイさんの方は……」

 

 

 基本的に夕映ら図書館組は、のどかとネギの仲を取り持つ事に集中しているので取り立てた予定は入れていない。

 いや、元々古都に詳しい夕映に京都を案内してもらおうとは思ってたのであるが、のどかが勇気を振り絞って告白に成功なんかしたもんだから予定を全てキャンセルしてネギの行動に合わせているのだ。

 

 そして古の方はと言うと……

 

 

 「忘れたアルか? ネギ坊主は老……タダキチの担当者アルよ?

  そして私は付き添いネ。ちゃんと許可はとてアルよ」

 

 「う……」

 

 

 何だかよく解らないが、ネギがタダキチの面倒を見るよう新田に進言されているのだ。

 もちろん新田にそのように進言するように話を持っていったのは、瀬流彦としずなの二人である。

 

 新田にしてもネギの負担を増やす気は更々無いのだが、家族の全てを一気に失った(と言う設定である)タダキチに触れるのは歳が近いネギの方が良かろうと許可を出しているのだ。

 無論、何かあった場合の責任は自分で取る覚悟もつけている。そこら辺は立派な教師なのだし。

 

 ただ、ネギにしてみれば大変だ。

 何せ何が起こるか解らない状況であるのに、足枷をつけられているようなもの。無視する訳にも行かず、トホホと頭を痛めていたりする。

 

 しかし——

 

 

 『話はかえでから聞いてるヨ。

  このかの事は私らに任せて、ネギ坊主はネギ坊主のやるべき事をするアル』

 

 

 古にそう耳元で囁かれ、ハッとした。

 

 慌てて刹那に顔を向けると、彼女もコクリと小さく頷いている。つまり、古も“こちら側”という事なのか。

 

 

 安心し切れた訳ではないが、それでも幾分は気が楽になった。

 

 兎も角、何も知らない木乃香らを上手くまく為にも皆と回る方が良いだろう。

 そう判断したネギは、明日菜にもコソコソとその事を伝えてとりあえず皆で嵐山の名所を歩く事にしたのだった。

 

 

 『でも……何だか今日のクーフェイさん。何だか表情が硬い気がするなぁ……

  それだけ警戒してるのかな……?』

 

 

 

 

 

 『うう……古ちゃんもガン無視かい……』

 

 

 と、こっちはこっちで悩んでいる横島。

 

 ネギと明日菜が皆をまいて本山へと向かい、その後を楓がつけてゆく……そう話は整っていた。

 

 

 チラリと目を脇に向ければ茂みの中につぶらな瞳。まぁ、かのこなのだが。

 流石にそこらを連れて歩く訳にはいかないので、スマンけど隠れてついて来てくれない? とお願いしているのだ。

 使い魔にお願いかよ…という疑問が湧かなくもないが、横島なのだから然もありなんと納得できてしまうのだから不思議である。

 

 そして次に後方の土産物屋の店の陰に意識を向ければ……その陰の中にあった気配がたわみ霧散して行く。

 何者か——というか楓がそこに潜んでいるのだろう。

 

 楓が側にいて急に消えるとハルナ達が不審がるだろうし、流石に刺客らも気付く筈だ。

 だから最初から陰に忍んでネギらの後を追う。それが刹那と楓が話し合った策であるらしい。

 

 らしいのであるが……

 

 

 『オレに直接言うてくれへん……』

 

 

 という事が横島を落ち込ませていたりする。

 この話とて真名から携帯メールで教えられた情報なのだ。

 

 ……実は単に顔を合わせれば慌てまくってドジっ娘くノ一と化してしまうので、それを防ぐ為“だけ”の措置だったりする。

 

 ラノベ等のラブコメに登場するウッカリ忍者となってしまう日が来ようとは、楓自身想像すらしていなかったのであるが、実際になってしまうと想いの他こっ恥ずかしい。

 

 だからさっきの顔合わせが限界で、今は横島に視線を向けるどころか顔すら見せられない有様なのである。

 彼女をライバルとしている真名が涙を禁じ得ないほどに。

 

 

 そして古。

 

 一見、彼女は極自然に振舞い、何だか凄く冷静に行動しているように見える。いや、“見えてしまう”。

 

 ネギや明日菜、それどころか刹那とてそう見ていることだろう。

 

 だがしかし、よく見れば解る事だ。

 

 古はやたら汗をかいている。

 首筋にもそれが見えているほどに。

 

 だが、顔どころか額にも汗など一筋も滲みを見せていないのである。

 

 いや——?

 

 顎の奥。

 顔と首の付け根の部分。

 そこに目を向ければハッキリと見て取れるだろう。

 

 よく見るとその部分に継ぎ目のような線が入っており、そこから汗がにじみ出ていると言う事に。

 

 

 —<超>謹製、スペシャルマスク Ver.古 菲—

 

 こんな事もあろうかと、超が用意してあった普段の古の表情がそのまま表現されている<そっくりマスク>である。

 

 材質はゴム等ではなく、特殊合成樹脂でつくられたもので、

 

 

 「ふ……

  茶々ま…もとい、ロボ研(ロボット工学研究会)のロボ用に生み出した人工皮膚を元に古専用ブレンドで作り上げたものネ。

  無論、空気は通すようにしてあるから蒸れる事もないヨ」

 

 

 との事だ。

 

 尤も、流石の超の発明品であろうとも世には予想外というものがある。

 彼女の発明品のそれは飽く迄も普段の古を基にして作られているので、異常である古にはちと足りていないのだ。

 

 まぁ、人生最大の焦りをかましている古がここまで大汗をかくとは思ってもいなかっただろう。何しろマスクの継ぎ目から汗がドバァドバァと溢れ出てたりするくらいなのだから。

 

 

 『こ…これは計算外ネ……』

 

 

 つまり、見た目は無表情の古であるが、そのマスクの下では……

 

 

 『あぅうう〜〜………っ!!

  老師の顔がマトモに見れないアル〜〜〜〜っっ!!』

 

 

 と、前述の通りに大汗を書いた挙句、頬どころか顔そのものを真っ赤っ赤に染め上げていたりするのだ。

 

 ファーストキスというだけでも酒の力を借りなければ踏ん切りがつかなかったほど恥ずかしかったというのに、余りと言えばあまりに濃厚なキスをぶちかました(された)古である。

 何だかんだ言っても根は純情な彼女の事、そうそう冷静でいられる訳が無いのだ。

 

 

 物陰では蹲ったくノ一が、

 

 『あ゛ぁ゛〜〜……横島殿の唇の感触がぁ〜〜っ!!

  いや、イヤという訳ではないでござるが、いや嬉しいという訳では……

  い、いや、いやいや嬉しくないという訳ではなくて、

  嬉しいという訳ではない事もない事も無きにしも非ずでない訳でござって……

  あ゛あ゛〜〜〜っっっ!!』 

 

 

 横島の横では一見無表情なカンフー娘が、

 

 『う゛う゛……老師の舌が、舌が、舌がぁ〜〜〜〜〜………っ!!

  イヤ、嫌という事違う、じゃなく、

  違うと違うから、い、いや、嬉しくない訳でもない訳でもなくて、その……うう……

  何か、その……甘かたような、違うような、違わなくないような気持ちよかたような……

  あ゛あ゛〜〜〜っっっ!!』

 

 

 

 そして当事者である横島はというと……

 

 『ぐぉおおお……ナニ気にしてんだオレっ!?

  キスしちゃったコトは置いといて……いや、置いといたらいけねーんだけど、置いといて、

  それを気にしてない二人見て慌ててるってどーよ!!??

  コッチ向いてくれへんの気にしてるってナニ!!??

  やっぱりオレは堕天しちまったってぇのかぁああ〜〜〜〜〜っ!!??』

 

 

 

 段々と二人の感触を思い出していき、ロリ否定していた気持ちすら見失い、またも慌てふためいていた。

 

 

 

 三人が三人して大混乱である。

 

 一人(一匹)だけ置いてけぼりの かのこが首を傾げるほどに。

 

 

 

 

 

 

 「む……!? すんごいラヴの香りがプンプンと……っ!?

  極近い場所でのどか以外の何者が……!!??

  あ゛あ゛っ!! 反応が大きいのに位置が特定できないっ!!!

  馬鹿なっ 質量を感じるラヴ臭だと!?」

 

 「……何アホな事言ってるですか」

 

 

 オコジョ妖精には特殊能力があり、それは人の好意を測るというイヤなものである。

 それに似たものをハルナは感知できるのだろう、楓と古と横島の間で漂っているものを敏感に嗅ぎ取っていた。

 だが、楓と古が好意を向けているのは横島であるがタダキチではない(、、、、、、、、)。それが対象をぼかしているのかもしれない。だとすると逆にとんでもない能力であるが。

 

 

 そんな首を傾げまくって悶えているハルナを尻目に、ネギの肩の上でカモはその騒動に関わらず物思いに耽っていた。

 

 

 『あの嬢ちゃん達のカード、けっこう強そうだったんだが……』

 

 何というか、夕映の足技によって(、、、、、、)結ばれたのどかとの仮契約(PACTIO.)であるが、彼女のカードは直接戦闘向けではないものの、何か強い力を秘めていそうだった。

 

 ただ、のどかが戦闘に向くかどうかというと、彼女の性格上、不向きと言わざるをえない。

 

 だからゲームの報酬ということでカードの複製は渡したものの助力を申し出たりはしていないし、魔法に関する事は何一つ伝えていない。

 となると他のカードに期待をせねばならない訳であるが……

 

 

 『手元にあるのは姐さんのカードと、スカカード五枚……後はあの……』

 

 

 楓は潜んだままなのでチラリと古に眼を向けるカモ。

 

 彼女は無表情なまま横島の横で佇んでいる(ように見える)。

 

 

 そんな彼女が目に入った時、カモの頭に今朝の一件が思い浮かんだ。

 

 

 

 

 

 

        ******      ******      ******

 

 

 

 

 

 

 明日菜達にカードの説明をした後、兎も角皆が外出着に着替えるというので一時解散となった。

 

 ネギも明日菜と共に旅館を出ると騒動になると理解したのか、外で待ち合わせる事にし、自分の部屋へと戻って行く。

 その際、

 

 

 『兄貴、ちょっとオレっちは手洗いに行ってくるぜ』

 

 「あ、うん」

 

 

 と、カモはネギから離れ、さっき話をしていた自販機の側……ではなく、裏庭の池の隅に向って駆けて行った。

 

 それでも何というか気が進まない。

 いや、別に悪い事をしているわけではないし、バレると拙い事をした訳ではない。

 

 パクティオー大量GET大作戦は悪い事じゃなかったのか? と問われると返答に困るのだが、その件では新田に正座させられているし、さっき明日菜に叱られ、挙句エロガモというありがたくない称号までもらっている。

 だからもうチャラである。と、カモの中では解決済みだ。

 

 それでなんで気が重いのかというと……

 

 

 『あんな事初めてだし、聞いた事もねぇ……

  だけど、できちまったんだから契約は結ばれたって事だよな?

  それでもやっぱり入金はされてねぇ……

  なら姉さん達は何とどういう契約を結んだんだ?』

 

 

 カモが悩んでいる事はその事なのである。

 

 

 しかし、幾らけっこう大きい旅館とは言え、ロビーから裏庭までの距離がそんなに時間が掛かる訳も無い。

 カモが答えをはじき出す前には到着してしまっていた。

 

 はぁ……と溜め息をつきつつ、腹をくくって待ち合わせの場へと足を向わせて行くと……

 

 

 『……は?』

 

 

 奇妙な光景が目に飛び込んできた。

 

 

 

 「う゛う゛う゛う゛……私、何て事してしまたか……

  顔が合わせ辛いアル〜〜〜〜……っ!!

  舌が、舌が、舌が、舌がぁああ……う゛う゛……

  初めてだたアルのに気持ちよかたなんて……あ゛う゛〜〜……」

 

 

 顔を真っ赤にして湯気を立てつつ、蹲って悶えている古。

 

 

 「拙者は、拙者は、拙者は……

  あ゛あ゛、こうなっては責任をとってもら……

  イヤイヤイヤイヤイヤ、流石にそれは失礼でござるし……

  いや、嫌という訳ではない事もない事もない事もない事もない事も………

  あ゛あ゛あ゛あ゛………」

 

 

 これまた顔を赤くしつつ旅館の壁にヘッドバットしている楓。

 

 

 何というか、ステキにカオスな光景がそこに広がっていた。

 

 

 流石のカモもリアクションに苦しんでいる。

 

 後頭部に汗を垂らしつつ、数秒の間熟考し、

 

 

 『兄貴も待ってるし、帰るか……』

 

 

 と、アッサリと見なかった事にして踵を返した。

 

 

 がしっ

 

 「ドコに行くでござる?」

 「逃げる気アルか?」

 

 

 『ひぃいいい〜〜っ!!』

 

 

 言うまでも無く、逃げられるわけは無かったのであるが。

 

 

 

 

 

 

 

 「で? 件の式は成功したでござるか?」

 

 『へ、へぇ、姉さん。一応、成功しやしたでゲスよ』

 

 

 昨夜に引き続き正座させられているカモであったが、何だか異様に腰が低い。まぁ、無理も無い。

 

 殺されはしていないし、怪我も負っていない。しかし、八つ当たり気味に死ぬ思いはさせられたのだから。

 具体的に説明は省く事になるが、トラウマ物であった事とだけは言っておこう。

 

 

 『忍の拷問術は伊達ではないでござる』とか、『数千年の拷問の歴史を舐めてはいけないアルよ』とか言ったセリフはスルーの方向で……

 

 

 「で? 首尾はどうだたアル?」

 

 『へ、へぇ……それなんスが……』

 

 

 古の催促であったが、カモは何だか語尾をボソボソと窄めていって要領を得ない。

 

 だが、そういった返答の遅さにちょっと不安定な少女らの眼がすぅ…と細くなり、その手指がピクリと動いた瞬間、カモはガチンっと身体を固くして直立不動で立ち上がった。

 

 

 『ヘイ!! これでヤンス!! これが姉さんたちのカードでゲス!!』

 

 

 とドコからか三枚のカードを取り出し、二人に差し出したカモ。『ドコに持っていたのか?』等と聞いてはいけない。

 

 ものごっつセリフが変であったが二人は気にもせずそのカードを見、自分の絵が入っているそれを風のように奪い取った。

 殺気(特に古のは食気混じりで恐怖に拍車をかけていた)が遠退いた事に安堵し、ズルズルと座り込むカモ。

 

 

 「む? 何でござる? この一枚は」

 

 自分らは二人。なのに出された札は三枚なので当然気になるというもの。

 

 楓がそうつぶやいたので古も何だと覗き込んでみた。

 

 

 「ほえ?

  あ、かのこアル」

 

 

 そう。

 そこに札絵は横島の使い魔である かのこの絵だった。

 

 実は楓は、奈良から戻ってから会話らしい会話を殆どしていなかったので、聞きそびれていたのである。

 問題が問題なので横島も瀬流彦と学園長にしか詳しく話をしていないし。

 

 何故に古が知ってるでござる? と、しょーもない事で空気が緊張したのだが、横島がウッカリ精霊契約を知らぬ間に結んでしまった事まで話すとその空気も軽くなった。

 いや、どちらかというとそういった事で契約してしまった小鹿を連れて帰ってまで面倒をみる事にした彼を思い何だか嬉しそうですらある。

 

 しかし、流石にこの小鹿が自分らと同様、仮契約を行なっていた事にはちょっと驚いていた。

 

 昨晩の騒動直後、何が何だか解らない内に無理矢理仮契約とやらを結ばされた挙句、照れた古に吹っ飛ばされた横島であるが……その所為でいつものよーに彼は意識を失っていた。

 

 向こう(、、、)でもそうであったが、そーゆーコトがあった後は大抵は自力回復するまで放ったらかしになっている。

 

 しかしこちらには一番弟子に勝るとも劣らないレベルで慕っている使い魔かのこがいた。

 

 如何に精霊とはいえ、姿形は小鹿である かのこはまだヒーリングといった事は得意ではない。というか出来ない。

 

 それでも自然界から生まれ出でたモノであるし、やはり動物の外見をしている以上、嘗めて癒そうとするのは当然の行動だった。

 

 一番弟子の人狼少女だって顔ばっか嘗めていたのだ。かのこがやらない訳がない。

 それが偶々キスとして判断されたのだろう、見事かのこと横島の間に仮契約が成されてカードが出現していたという訳である。

 

 

 無論、カモにっとて精霊だろーがなんだろーが契約を結んでくれりゃあオコジョなる単位のナゾ金が手に入る訳であるから文句をいう義理も何もないはずであるのだが、コトがコトだけに話は別だという事らしい。

 

 精霊が使い魔としてくっ付いていたというのも初耳であったが、何より『あっし以外に精霊が!?』という自分の立場に関わる存在に戦慄とショックを受けているようなのだ。

 つーかオメーは妖精なのだから別モンだろう? という説もあるのだが関係ないらしい。

 

 だからだろうか、『契約後に別口契約!? ふざけんな!!』と、奇怪なイチャモンをつけていた。

 

 

 尤も楓らからすればカモの文句なんぞ『ウルサイ』の一言で終わらされてしまうレベルだ。

 

 あの横島に強い絆ができ、尚且つ仲よくしているようなのだ。だったら何も問題ないではないか。

 

 絆をなくして寂しそうな彼を目にする事に比べれば、カモの訴えなんぞアンパンに乗っかっているケシツブより小さい。

 

 

 「大体、かのこは可愛いアルよ? その時点で大敗してるネ。

  つか比べる事もおこがましいアル」

 

 『あっしだって可愛いじゃありやせんかーっ!!』

 

 「日本語に対する侮辱でござるよ。

  国語学者の金田一センセーの前で切腹してお詫びするレベルでござる」

 

 『そこまで!?』

 

 

 まぁ、彼女らからしても かのことカモでは和三盆の生菓子と100円ショップの輸入麦チョコくらい差があるので本気でどうでもいい話。比べる事自体がナンセンスなのであるし。

 

 るる〜と涙にくれるカモを他所に、横島と行動する事になっている古が かのこのカードを預かる事にきまり、改めて世界に一枚しかない自分らのカードを調べ始めた。

 

 作りもきれいなもので、絵の色遣いもやや日本画っポイが自分達そっくり。ちょっと恥ずかしいが満足の出来栄えだ。

 縁まできっちりと補強されているし、こういうのを生み出すのも魔法なのかと感心してしまった。

 

 

 ただ、一つだけ疑問が湧いている。

 

 

 その疑問は当然ながら二人とも感じていたもので、預かっている かのこの札も手にとって自分らのと見比べていた。

 

 あ、あれ? 何か問題でも? とビクつくカモの前で、手にとったそれを再度ジ〜っと穴が空くほど見つめてから、

 

 

 「……ところでカモ殿」

 

 『な、なんでゲしょう?』

 

 「どうして私達のカードは……」

 

 

 二人同時にカモに見せ付けるかのようにその図柄の面をカモに突き出し、

 

 

 「「こんなにアスナ(殿)達のと違う(でござるか)アルか?」」

 

 

 と、押し付けるようにカモに迫った。

 

 

 『知らないっスよ〜〜〜〜っ!!!

  こっちが聞きたいくらいっスよ〜〜〜〜っ!!!』

 

 

 彼女らのカードは、明らかに仮契約カードのそれではなかった。

 

 まずサイズからして、タロットカードのような仮契約カードと違って、その辺のゲームで使用するカードと同じ寸法である。

 正確に言えばブリッジサイズ(日本での一般的なトランプサイズ)の形状だ。

 

 そしてデザインもまるっきり違う。

 

 

 仮契約カードにはその従者のパーソナルデータが刻まれており、

 まずカードには従者の綴りがラテナイズ(ラテン語表記)された従者の氏名、そしてその能力や性格を表す称号が記されており、

 プラトンの『国家』によって論ぜられた四元徳にコリントの信徒への手紙に記述する三つの得を加えた「ヨーロッパ七元徳」が記載されている。

 そして東・西・南・北・中央の五つの方位 (directio)、

 素性や運命等を反映した色調 (tonus)、従者の持つ素性に応じた天体的性質である星辰性 (astralitas) 等が表されているのだが……

 

 

 二人のカードにはどの一文も記載されていないのである。

 

 カードそのものの色合いにしても、明日菜やのどかの持つカードと違って小豆色の縁取りがあり、裏側も同色で塗られている。

 尚且つその厚みも三倍あった。

 

 そしてその図柄……

 

 それに関しては他の仮契約カード同じで、誰が書いたのか不明であるが綺麗な絵が描かれている。

 何というか、見ようによっては契約者である魔法使いが死んだ場合のカードに似てなくも無いが、そのカードからは確かな力が感じられるのだ。

 

 

 おまけにその絵は——

 

 

 「拙者のこれは……」

 

 「……えと……何アルか? この衣装」

 

 

 赤や黄色、藍色の大きな紅葉が舞う中、彼女の忍服の様に大きくスリットの入った修験者のような服……鈴懸(すずかけ)を着、

 銀色の葉団扇を持った楓の姿。

 足元は一本歯の高下駄、そして赤い袈裟を引っ掛けており、ご丁寧にも額には頭巾(この場合は“ときん”と読む。よく修験者がつけている八角形のアレ)を着けている。

 

 何というか、天狗のような格好をした楓の絵がそこにはあった。

 

 

 「で、私のは……」

 

 「これは……杯でござるか?」

 

 「否、これは……」

 

 

 古の方は、大きな黒い杯を持った古の姿。その内側には“可”の一文字が描かれている事から、可盃(べくはい)だと思われる。

 可盃とは、主に酒宴等で待ちいられている底に穴が空いてたり尖ってたりしていて、とにかく注がれた酒を飲み干さないと零したりして置けないようされている酒杯の事。

 尤も絵の中の形状はどう見ても大きな(さかずき)であるが……

 

 それを持った古の姿は演舞用だと思われるチャイナ服を着込んでおり、その衣装には赤い空に浮かぶ月と満開の桜の柄が描かれている。

 そして背景には大きく黄色い花……菊が描かれていた。

 

 

 そしてこのカード……

 

 ややベースの絵と違いはあるものの、似たような物を二人は知っている。

 

 首を捻りつつ顔を見合わせ、もう一度絵に目を戻して再確認。

 

 二人にはこれがやっぱり“あの”札としか思えない。

 

 

 「えと……」

 

 「コレは……」

 

 

 

 

 

 

 「「花札(アルか)でござるか?」」

 

 

 

 

 そう、大きさは兎も角、形状とか色使いとかが花札そのものなのである。

 特にハッキリと|それ(、、)だと解るのは かのこのカードで、二人のちょうど中間ともいえる、“月の原で跳ねている角の生えている雌鹿”だ。

 

 モロに月の札の中に紅葉の鹿がお邪魔している、という感じの絵なのだから。

 

 本人(本鹿?)よりちょっと大きく育っており、首には白いペンダントが掛っているが、そのつぶらな瞳は間違いなく かのこだと古は確信しているし、本物とやや違うとはいえ図柄的には明らかに花札を連想させるものだった。

 

 そんな二人の感想を聞き、カモは『やっぱりか!? やっぱりかぁ〜〜〜っ!?』と頭を抱えている。

 

 それもそのはず、カモからしてみれば例えネギとの仮契約でなくとも、仮契約は結ばれたのであり、どれだけ形が違おうともカード(札)が出現したわけであるから仮契約が結ばれ15万オコジョ$は+された筈だったのだ。

 だが、これはドコをどー見てもCharta Ministralis……仮契約カードではない。これで報酬よこせなんつっても寝言は寝て言えとつっぱねられるだろう。

 

 

 『くっそぉおお〜〜〜……

  やっぱり兄貴用の契約方陣にムリヤリ他人の名前を書き込んだのがダメだったのか?!

  それとも宿星が解んなかったから、テキトーに書き込んだのが悪かったのか!?

  うう15万オコジョ〜〜……』

 

 

 たかが15万されど15万。

 オコジョ$とやらが一般では如何なる金額になるかは不明であるが、彼の悲しみ具合からそこそこの金になると思われる。

 

 だが、彼の悲しさ理解できるのであるが、そんな事を二人の前でポロリと口にするのは戴けない。

 

 

 「ほほう……? テキトーでござるか……

  なかなか興味深い話が聞けそうでござるな……」

 

 「私も詳しく話が聞きたくなてきたアルね……」

 

 

 

 そう——

 

 少女二人は恥ずかしい思いをしてまで期待していたわけで……

 だからそんな二人を前にし、そう言う事を口に出してはいけないでのある。

 

 

 『あ、あれ………?』

 

 

 

 

 

 

      ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

      ※※※※※※※※しばらくお待ちください※※※※※※※※

 

 

 

      ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 「つまり、生年月日から割り出した星の位置……宿星に問題があった可能性があるでござるか?」

 

 『ハ、ハイ……残ル可能性ハソンナモノカト……』

 

 

 カード……というか、花札の図柄を見ながら楓が足元に転がっているモザイクに問い掛けると、何だかヤヴァイ形になった物体がボソボソとそう返してくる。

 

 

 “それ”が言うには、契約者である魔法使いのパーソナルデータに異常があるか、誤解があったにもかかわらず、偶然リンクが繋がってしまったが為、エラーが走った可能性があるとの事。

 無論、詳しく調査せねばそれが原因かどうかははっきりしないのであるが……

 

 

 しかし、口には出していないのであるが、楓は凡その事が解ったような気がしていた。

 

 

 横島自身が言っていたように、彼はこの世界……宇宙の人間ではない。

 

 だから1976年6月24日という生年月日が解っていても、“こちら”の宇宙の宿命星と位置が違う可能性があるのだ。

 

 だが、それだけではないという事も漠然とではあるが解っている。

 魔法知識が皆無といってよいのでそれが何かは解らないのであるが……

 

 

 「それで? コレは使えるアルか?」

 

 

 何気なく問い掛けられた古の言葉に、楓はハッとして頭を上げた。

 

 いや、ネギが持っているパクティオーカードのような魔力注入によるパワーアップを期待しているわけではない。

 

 ただカードの能力として術者との“繋がり”がある。

 それを求めたからこそ、(あんなコトをしてまで)強引に仮契約に出たのだ。

 

 古が問い掛けたのはそう言った意味合いでの『使えるか?』なのだ。

 

 奇怪なカードとはいえ、如何なる歪みがあろうと成立しているからこそ、横島との魔法的(霊的?)な繋がりができているからこそ札が出現しているのだ。

 それが使えない事はありえない。“ハズ”である。

 

 

 『え、えと……カードを通じて魔力を注いでもらうのは……』

 

 

 何とか肉体を修復しつつ、下半分をモザイクに隠したままそう問い掛けるが。

 

 

 「今は……無理アルな」

 「でござるな……」

 

 

 二人は、顔を赤くしてプイと他所に顔を向けてしまう。

 

 ナニやら乙女的なナイショがあるようだ。

 

 何というか……可愛い事は可愛いのであるが、赤いモノが付着している拳とか、それが滴っているクナイとか握っているので台無し気味。

 

 それに試してみようにも肝心の彼がここにいない。

 試す云々以前に二人ともまだはっきりと顔を合わせられないので説明できないのだ。

 

 

 『うう……じ、じゃあ、アーティファクトの召還を……』

 

 

 パクティオーが結ばれれば、カードを通じて専用の道具が与えられる。

 

 術者が召還し、従者に渡す事もできるが、従者がカードを使用して呼び出す事もできるのだ。

 

 『呼び出すコマンドはAdeat(アデアット)っスよ』

 

 「ふぅん……」

 

 

 何というか眉唾っポイが、古はその札を掲げ、今教えられたワードを口にしてみる。

 

 

 「あ…あであっと!!」

 

 

 ややアクセントが微妙であるが、更に微妙な明日菜等が呼び出せるのだから大丈夫であろう。

 

 組み込まれた呪式が、登録者自身が唱えたワードに反応し、専用のアイテムを取り出して存在形態がカードと入れ替わる。

 

 明日菜はカードの図柄にあった大剣とは違ってハリセンが出現したのであるが、この札の場合は………

 

 

 

 

 

 し〜〜〜ん……

 

 

 

 

 

 「使えないアルよ〜〜〜〜っ!!!」

 

 『あ゛あ゛〜〜〜〜やっぱりぃいいいいっ!!!』

 

 

 ——それ以前に出現しなかった。

 

 

 やっぱりカードからして通常とは違うのだから、思うように行かないのは当然なのだろう。

 

 

 「このインチキオコジョ〜〜っ!! 丸焼きにして食てやるネ〜〜〜っ!!」

 

 『ひぃいい〜〜〜っ!! あっしの所為じゃないっス〜〜〜っ!!

  お助けぇえええ〜〜〜〜〜〜〜〜っっ!!!!』

 

 

 懐から自前の暗器、鴛鴦鉞(えんおうえつ)を取り出し、カモに襲い掛かる古。

 どーやってそんなものを懐に忍ばせていたかは甚だ疑問であるが、月牙を二つ組み合ったような形状の武器を獲物(カモ)に突きつけ、期待を裏切られた憤りを叩きつけようとする。

 

 ぶっちゃけ理不尽極まりない話で、当然のようにカモはギヤーギャー悲鳴を上げつつ逃げまわる。

 

 だが悲しいかな、カモの方が回避率は高いものの、怒りと憤りが煮詰まっている古はそれに簡単に追いついてしまう。

 大体、彼女が師と仰いでいる横島の回避能力に比べたら、カモなどサンドバックに等しいのだし。

 

 

 「覚悟ーっ!!」

 『ぎゃひぃいいーっ!!』

 

 

 危うしカモ!!

 昼食はオコジョ料理決定か!?

 

 何だか二日通してネギと共に命の危機になっているのだが、

 

 

 「古」

 

 「ん? 何アルか?」

 

 

 三日月型の刃の部分がカモの喉元を捉えかかった瞬間、楓の声によって古の凶刃はピタリと停止し、真昼間の惨劇は回避された。

 

 安堵の為か、腰が抜けたのか、カモは落としたプリンのようにベチャリとへたり込んでしまう。

 

 そんなカモを無視する形で、先ほどから二人のやり取りを無視して札を見つめ続けていた楓は、古に対して札の図柄を突きつけるように見せる。

 

 

 「? コレがどうかしたアルか?」

 

 「古……この札は何に見えるでござるか?」

 

 「何と言われても……」

 

 

 そう言われ、改めて札を見直す古。

 

 楓のは紅葉の札で、自分のは杯(盃)の札……本物とデザインの違いこそあれ、普通に見ればさっき二人が納得したように、

 

 

 「……花札ネ」

 

 「で、ござるなぁ……」

 

 

 ふむ…と頷き、自分の札にもう一度目を落す。

 ネギらの使用するパクティオーカードとやらがラテン語で来たれ(Adeat)と唱えて道具を呼び出す。

 そのカードの形状から見れば、タロットに酷似しているので何となく納得できる。

 

 そして手元の“それ”は花札に酷似している。

 

 

 となると……

 

 

 古も同じ答えに行き着いたのだろう。楓と顔を見合わせ、もう一度自分のカードに目を落とし、ものは試しとばかりに同じ様な言葉を紡いでみた。

 

 

 すなわち——

 

 

 

 

 「−こいこい−」

 「−来々−」

 

 

 

 パァッッ!!

 

 

 

 『うっそぉ〜〜〜〜〜〜〜〜んっ??!!』

 

 

 

 カモの悲鳴も当然であろう。

 

 通常の手順と違った方法で見た事も聞いた事も無い札が出現しただけはなく、その札が自分らの良く知る仮契約カードと同様の機能を見せたのだから。

 

 一瞬の閃光の後に現れたのは、まさに図柄通りの姿をした二人の姿。

 

 横島忠夫の従者として契約を結んだ楓と古がそこに立っていたのである。

 

 

 そしてそれは、カモの知る魔法の常識の崩壊をも意味していた——

 

 

 

 

 

 

 「どうかしたの? カモくん」

 

 『へ? い、いや、何でもないっスよ。兄貴』

 

 

 何時の間にか考え込んでしまっていたようだ。

 

 行く当ても決めずに歩いていた少女らは、何時の間にかゲームセンターに入り、プリクラを撮ろうとしていたのである。

 

 

 『うう……訳わかんねぇ……』

 

 

 のどかとネギを写す時、ちゃっかりポーズを決めつつも未だに“札”の事を悩み続けているカモ。

 

 いや、あのカード……札が使えるかどーかというのなら、“かなり使える”と言って良いだろう。

 

 少なくとも楓の方は、ものごっつランダムで、博打要素が高い能力ではあったが、シャレにならない能力を秘めている。

 その代わり、古の方はサッパリ解らないのであるが……

 

 

 その古にチラリと眼を向けてみると、彼女は相変わらず固すぎる表情のまま、ハルナに引き摺られてタダキチ少年とプリクラを撮らされていた(そして何だか首筋から蒸気を漏らしている)。

 

 昨夜はカメラの視界外であった為、契約を結んだ横島忠夫という人物を目にする事はできなかったし、アーティファクト…(?)も正体不明過ぎて当てにできないときている。

 上手くすれば、いざ西の刺客と戦闘が始まったとしても自分らの戦いに組み込めるやも……と思っていたのであるが、博打要素が大き過ぎて出たとこ勝負になりかねない。

 

 

 『……世の中上手くいかねぇモンだ……』

 

 

 等と、一人(一匹?)黄昏れるカモであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして——

 

 

 

 

 

 「アイツらか?」

 

 「せや……でも、アイツらはそないに気にせんでもよろしおすえ?」

 

 「“アレ”の気配もありませんね〜〜」

 

 「おったら逃げるわっ!!!」

 

 「姉さんらの言う、ヘンタイの事か? そないに強いんか?」

 

 「……あの力は侮れない……

  あれは魔法じゃない。そして氣でもない。もっと別の……何か違う力だった……」

 

 「ハっ! どっちでもええわ。

  来たら来たでぶちのめすだけや!!」

 

 

 

 

 

 ——戦いの時が迫りつつあった。

 

 

 

 

 

 「頼りにしてますえ? 主に全面的に」

 

 「アレが出ました時はお任せします〜〜」

 

 

 

 

 「……………なぁ、新入り。

  あの二人があないに嫌がる敵って、どんなヤツなんや?」

 

 「…………………普通じゃない……とだけ言っておくよ」

 

 「……ワケわからん……」

 

 

 

 





 横っちの生年月日はアニメ版の公式設定です。

 ですから楓(1988年11月12日生まれ)より十二歳年上となりますので、実年齢差はほぼ合ってます。全く狙ってなかったんですが……偶然ってスゴいっスねw

 因みに、楓も古も横島の誕生日(楓に至っては生まれた西暦も)を彼から聞いて覚えています。
 何故かと言うと……ってのは野暮ですねw

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。