-Ruin-   作:Croissant

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 予約投稿試してみました。
 ちょっと使い辛かったです。
 私の理解力がカスなだけなのかしらん?



後編

 

 ——はっきり言って、おもっきり年下の女の子に迫られた事は初めてではない。

 

 

 “向こう”にいた時、それはもー何度もあった。

 そう聞けばモテテええのぉ〜とか言ってくれるかもしれないが、然にあらず。

 相手があまりに身近に居過ぎた為に妹分という観念を強く持ってしまっており、またその想いが強過ぎてそんな嬉しいものではなかったりするのだ。

 

 それに男というものは女の子の押しが強過ぎれば逆に引きが入ってしまうものなのである。

 

 

 

 例えば自称弟子である人狼族の少女。

 

 ある一件から外見年齢に+10歳の補正が掛かり、女子中学生の外見でずっとじゃれ付かれていた。

 確かにそれから何年も経ち外見もボンッキユッボンッにはなりはしたが、何だかんだで中身はおもっきり子供のままだったので気を抜いていたのが失敗だった。

 ある春の日、ついに精神が生理年齢に追いつき、ものごっつアプローチに力が入ってきたのだ。

 

 何せムリヤリ引っ張り出された散歩途中に唐突に茂みの中に押し倒されたり、ラブホテルに引きずり込まれかかったりしたのだ。

 泣いて助けを呼んでお巡りさんに救ってもらった時は、何時も逃げていた相手であるにもかかわらず心から感謝したほどである。

 

 

 そして職場の居候、九尾の狐の転生体。

 

 前述の人狼娘と同じイヌ属であるが、性格は猫寄りなのでイマイチ行動が読み難かったのが災いし、いつも素っ気のない態度だったので警戒をしていなかったのだ。

 それがツンデレの“ツン”であったと気付いた時にはそいつはしっかりデレっていやがった。

 何せコイツに至っては幻術で外見を変えてくるものだから始末が悪い。

 力いっぱいストライクゾーンの別人を装ってアプローチ掛けてきやがるのである。

 幸いにもギリギリのところで例の人狼娘が乱入してきて事無きを得ていたのであるが……

 コトもあろうにコイツはコトが終わってから幼女の姿をとって責任取らせる気でいやがったのである。

 

 

 後は蝶の化身である妹分。

 

 ぶっちゃけ、コイツには手の打ち様がない。何せ基礎能力からして負けまくっているのだから。

 単純霊力だけで言っても100倍はある。どーやったって勝てやしない。

 外見はけっこー育ったのだけど、実年齢は十歳。その実年齢の勢いと、魔族パワーでガンガン攻めて来る。勘弁してくれってヤツだ。

 だからごっつ危なかった……もうちょっとで大人に“させられて”しまうところだったくらい。

 

 竜神族の管理人様が乱入してくれなければ、お婿さん決定だっただろう(その後で何故か自分がメインに怒られて半殺しの目に遭ったのには納得いかなかったが……)。

 

 

 言うまでも無いが彼女らが人間じゃないからイヤという訳ではない。決して。

 つーかそんな些細な事はどーだっていい。心から惚れた女だって魔族だったんだし。

 

 ハッキリ言って、可愛ければ種族の壁なんてあって無きが如し……いや、“無い”のだ。

 

 

 だからそんなモンに拘るほど人間を無くしてはいない。

 

 

 だが……

 

 

 

 「タダキチ君……」

 

 

 赤い頬。

 

 こちらの身長が下がっている所為で真っ直ぐ迫り来る眼差し。

 

 そして近寄ってくる唇。

 

 

 自分の前にいるのはとっても可愛い女の子……ではなく、とっても可愛い男の子だった。

 

 

 

 

 

 「キス……してもいいよね?」

 

 「……けんな」

 

 「……うん?」

 

 

 

 

 

 

 「 っ ざ け ん な ゴ ラ ぁ あ っ ! ! ! 」

 

 どぶしゅーっっと音を立てて涙が噴出(ふきだ)す。

 

 軸足が自然と捻られ、

 縮地を髣髴とさせられる人生最高の踏み込みを見せ、

 拳が霞み、掬い上げる様に少年の顎に突き刺さり、

 全身のバネを使って真っ直ぐに伸び上がった。

 

 

 

 もしその場に人がいたならこう述べたであろう。

 

 

 ——真っ直ぐ立ち上がる虹を見た——と。

 

 

 

 少年は心底ホモが嫌いだった。

 

 

 つーか、種族の壁なんぞどーだって良いし、外見的は兎も角として年齢の差はだって気にしない。

 

 が、性別の壁だけは越える気は全く無いのである。

 

 

 

 ホモなんかより、ロリの方まだずっとマシじゃいっ!!

 

 

 

 そう思ってしまうほどに——

 

 

 ………どーやら解脱は一気に進んだ様である。

 

 

 

 

 

 

 

 ——少女は困惑の極みであった。

 

 

 今自分を押し倒し、唇を寄せているのは彼女の担任教師。

 

 尚且つ自分の親友が告白し、返答を待っている男性である。

 

 

 「ネ、ネギ先生、見損ないましたよ!!

  のどかに告白されておいてすぐ私に迫るだなんて…それはないでしょう!?」

 

 

 当然、少女は抗う。

 

 自分が押し倒されかかっている布団の中には、彼に告白した当の本人が横になっているのだから。

 友情を重んずる彼女から言って当然の抵抗だ。

 

 しかし彼は躊躇をしない。

 いやより一層迫ってきている様にも見受けられる。

 

 —接吻(くちづけ)

 ……知識では知っているものの、実体験は無い。

 

 その相手がまさかこんな子供とは——

 担任教師とは思いもよらなかった……

 

 

 『って、受け入れてどうするですか!?』

 

 

 そう自分を叱咤する少女。

 

 自分のアイデンティティの為にも――もとい、大切な友人であるのどかの為にもここで受け入れるわけには行かない。

 残る微々たる力を振り絞って身を起こそうとするも、そうすると彼との距離がより一層縮まってしまう。

 

 慌てて身をそらせたのはよいが、腕を掴まれた挙句、圧し掛かられた格好となり、非力な彼女はついに抵抗する術を完全に失ってしまった。

 

 

 友人を思い、振りほどこうとは思うのだが力が入らない。

 ぐるぐると思考が別方向に回りだしてしまい、逃げようとする思いを見失う。

 

 やがて彼の右手がぐいっと彼女の顔を引き寄せ、その距離を更に縮めてきた。

 

 

 「う……」

 

 

 吐息すら伝わる至近距離。

 

 電車内とかで出会う中年などの男臭さも無く、清潔そうな布団の匂いしか感じられない。

 

 男性……と言うにはやや若すぎる感もあるが、それでも熱い眼差しは男のそれ。

 こういった場合には子供でもこんな目をするのかと妙な感心をしてみたり……

 

 

 『いえ、ではなくて……

  や……あの……ちが…………』

 

 

 本当に抵抗したいのか、そうではないのかもはや自分では解らない。

 現に、既に手は自由になっていというのに縮こまらせているだけで押しのけようともしていない。

 

 そしてその距離は更に縮まり、吐息すら絡み合う距離と——

 

 

 だ……

 

 だめです————……ッ

 

 

 

 

 どごーんっ!!

 

 

 

 「!?」

 

 

 突如として伝わってきた衝撃に、はっとして目を開ける少女、綾瀬 夕映。

 というか、瞼を閉じてキスを待つ体勢に入っていた自分に驚愕していたり。

 

 とりあえずは何の衝撃だったのか首をめぐらせて見れば……

 

 

 「な……っ!?」

 

 

 点きっぱなしになっている部屋のテレビモニターには、

 

 数人のネギが少女らに迫っているのが映し出されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

————————————————————————————————————

 

 

 

                 ■九時間目:PROJECT えー (後)

 

 

 

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 ドシャァアアッッ!!

 

 

 足元から虹をおっ立てるアッパーをかまされ、その少年は鈍い音を立ててソウルフルにスピンしつつ顔面から床に墜落した。

 

 木目までバッチリ読めるほど天井は高くは無いのであるが、どういう訳だか天高く吹っ飛んで見えたよーな気がしないでもない。

 

 そんなフィニッシュブローをぶっ放った方はというと、殴られた筈の少年より痛々しい顔色をしており、涙目&怯えで土気色だ。

 拳を放った後の体勢のままゼェゼェと息を荒げているのも哀れさに拍車をかけている。

 その恐るべき迫力に恐怖したのだろう かのこも逃げだしており、自販機の陰に隠れてしまったほど。

 

 尤も、その原因は同性愛に対する恐怖なのか、ロリを肯定してしまった自分に対するショックだったのかは定かではないが……

 

 と――

 

 

 ボウンッ!!

 

 

 殴り飛ばされ床に転がっていた少年の身体が突如爆発し、その後にはヒラリと紙切れが舞った。

 

 その爆発にビクンっとはしたが、足元に舞い降りた紙切れを見て直様“それ”が何であるかを理解する。

 

 

 ——ミギ——

 

 

 その人型に切られている紙には、そう書かれていた。

 

 ゆっくりと前かがみになりその紙切れを手にとる。

 

 念の為、霊波を探ってみるとやはり式“紙”。

 

 彼の“向こう”での知識の中に、式神ケント紙というお手軽アイテムの存在があった。

 何か書いてある名前が違うような気がしないでもないが、アレによく似た使い方をするのだろう。

 

 

 くくく……

 

 

 グシャリ。

 

 その紙を握りつぶし、少年…偽ネギを殴り飛ばしたその子供は異様に肩を震わせ、異様に黒いワライ声を漏らしていた。

 

 

 ぐわっと顔を上げたその目は鬼のように釣りあがっている。

 

 

 「かのこ……」

 

 「ぴ、ぴぃ!?」

 

 

 何時もは素っ頓狂ではあるが優しい彼であるが、コトがコトだけに堪忍袋の緒はぶっちぶちに切れていた。

 

 かのこの方に振り向かず声を掛けていてもプレッシャーが伝わって来るほどに。

 

 

 「イイコだから部屋に戻って大人しく寝てなさい。

  オレの布団使っていいから」

 

 「ぴ、ぴぃっ!!」

 

 

 付き合いは浅いが何だか逆らい難い声音に直立不動で応えた かのこは、恰もカートゥーンのようなコミカルな動作で、瞬動もかくやと言った速度でもって彼の部屋にすっ飛んでいった。

 やや涙目だったのは、そーとー怖かったのだろう。

 

 それでも嫌っていないようなのは流石というか何というか。

 

 

 しかしそんな彼であったが かのこが認識外から離れた瞬間、放っていたプレッシャーを瘴気の如く澱ませている。

 

 恰も怨念と怒りをごっちゃ混ぜにして煮詰めたかのように……

 

 

 「そーかそーか……

 

  やはりアイツは年齢詐称の中年エロ親父で、

  自分にとって邪魔者であるオレをホモの道に誘う変態魔法使いだったって訳か……」

 

 

 開き直ってロリの道に進むとしてもそれは仕方がない(?)と諦められるのだが、BLやホモ道は何が何でも言語道断一心不乱に一生涯御免である。

 

 横島的に言えばそんな道に引きずり込もうとするヤツは悪魔か外道。存在すら認められぬ悪鬼羅刹なのだ。

 

 ぶっちゃけ超絶誤解であるが、今さっきまでギリギリのラインまで追い詰められていた心理状況と今までの(横島的見解による)状況証拠からいえばそう取られてもしょうがないのかもしれない。

 

 それに頬を染めた少年にキスを迫られ、自我を守る為にウッカリとロリ肯定してしまった八つ当たりもあったりなかったりする。

 そうなると追い詰められていた分、キれるのは早い。

 

 

 ボゥワッと彼の手の中で式符が燃え落ちる。

 静かな怒りが霊波に混じり、符の発火点に達したのだろう。

 

 

 そんな横島の内宇宙に住まう”ジャスティス”。

 

 何気に温厚気味な彼(?)であるが、流石にモーホーワールドに対しては狭量だった。

 

 

 顔だけは優しげ。

 

 その顔に浮かんでいる仮面のような微笑にも何気にフォーカスが掛かって見えるほど。

 

 

 なれどそれは無慈悲な死刑宣告。

 

 彼とて横島の一部。

 

 そーゆー罠をかけるモノを生かしておくつもりは更々無い。

 

 

 ジャスティスは作り物めいた微笑を浮かべたまま、右手の親指をググっと立て、

 

 

 

 『Go——……

 

    GO—……

 

       GO—…

 

         GO…』

 

 

 

 声にエコーをかけ、その親指をキュッと下に向けた。

 

 

 

 「 ぬ っ 殺 ー す っ ! ! 」

 

 

 

 ——かくして、煩悩魔人様はお怒りになられたそうじゃ……

 

 

 

 

 

 

 

        ******      ******      ******

 

 

 

 

 

 「あっ、先生。どちらへ!?」

 

 

 頬をうっすら染めたあやかが走るネギを追う。

 

 

 「ああっ、ネギ君どこいくのー!?」

 

 

 何だか照れたまき絵が駆け出したネギを追う。

 

 

 「あっネギ先生逃げた——っ!」

 「まて——っ! ネギ先生ーっ!」

 

 

 風香と史伽が逃げ出したネギを追う。

 

 

 

 眼前のネギが偽者である事に気付き、持ち歩いている本で撲殺……もとい、撃退し、何とか意識を取り戻した のどかと共に部屋を出た夕映。

 その二人が騒ぎを聞きつけ、ロビーに向ってみると……

 

 

 『ええ〜〜〜っ!?

  ネギ先生がいっぱい〜〜〜!?』

 

 

 三つの班と三人のネギが一同に会していた。

 

 

 センセがイッパイ……

 

 

 ……なんだか腐女子的発言が聞こえてきたよーな気がしないでもないがそれは兎も角、

 さっき偽ネギを撃退した際に、名前が書かれた人型の紙切れを見ていた夕映は、

 

 

 『気をつけて!

  おそらく朝倉さんが用意したニセモノです!!』

 

 

 と小声で皆に注意を促した。

 

 モノがゲームなのだから言わずとも良いのであるが、そこは人の良い夕映の事。

 結局はそんな助言を与えてしまう。

 

 

 

 「こ、これは大変だ——っ!?

  複数のネギ先生が一気に集結!! 各班一体どーするのか!?」

 

 

 その疑いを掛けられた朝倉はというと、何だかんだいってもちゃんとアドリブをかましており、あたかもイベントだったかのように装って少女らの混乱を小さくしてゆく。

 見事といえば見事であるが、

 

 

 『大騒ぎだなこりゃ……』

 

 

 カモの言う通り、混乱が小さくなるだけで騒動そのものは大きくなってゆく。

 

 

 「コラーっ!! 一体何の騒ぎだっ!?」

 

 

 その騒動に気付いたか、三階を見回っていた筈の新田が何時の間にかロビーに迫っていた。

 

 

 『まずい!! みんな、新田だよっ!!』

 

 

 と既に当の新田に捕獲され、逃げ遅れた千雨と共にロビーの電話機の前で正座させられていた祐奈が小声で注意を促すがもう遅い。

 角を曲がれば全員が視界に入るところまで新田は迫っていた。

 

 

 しかし、鬼の生活指導員の足先が廊下の角から突き出た瞬間、

 

 

 ボゥン…っ!!

 

 

 突如として彼の視界を煙幕が覆い隠した。

 

 

 「なっ!?」

 

 

 驚いたのは彼だけではない。少女らもそうだ。

 

 何せ鬼の新田の怒声が聞こえたと思った瞬間、その姿が煙に覆われたのだから。

 

 しかし、そういった感情が“無い”モノもここにはいた。

 

 

 「「「チュ——っ!!」」」

 

 「ぬごっ!?」

 

 

 ゴ…ッ と実にイイ音がして偽ネギらの膝が新田の顔に入った。

 

 簡易式神なので驚愕といった感情の動きが無い。だから少女らが硬直して隙を見せた瞬間に動きを見せたのだ。

 

 

 「あわあわわ……

  に、新田先生が——……」

 

 「こうなってはもはや後戻りはできませんね」

 

 

 とりあえず夕映は手に持っていた枕の一つを新田の頭の下に敷いておく。

 理屈やカラクリは解らないのだが、偽モノである事は夕映ものどかも理解はしている。

 だが気絶した新田はネギが蹴ったとしか認識していないだろう。

 

 

 「ネギ君、逃げたよ——っ!!」

 

 「ええいっ ヤケですわっ! 追いますわよっ!!」

 

 

 もはや小声は諦めたらしい。

 

 指導員を気絶させた時点でオシオキは必至。

 ならば開き直って、せめてキスだけでも成功させねば割に合わないのだ。

 

 

 

 

 

 「待って——

  ネギくーんっ!!」

 

 

 スタートダッシュの差か、コンパスで勝っている筈のまき絵よりずっと前をネギは駆けていた。

 

 人気が無いとはいえ深夜の廊下を、浴衣を乱しつつ走り回るのは如何なものかと思われるが、本人らはそれなりに必死だ。

 

 今や中継カメラと化した防犯カメラがその二人の姿をライブで追い続けている。

 

 

 まき絵は懐から、何故か待ち歩いている新体操で使う愛用のリボンを取り出し、ネギに投げ付けようとした。

 使い慣れたそれを彼女は、あたかも鞭が如く使う事ができるのである。

 

 しかし、逃げるネギも然る者。

 投げかけられる瞬間も角を曲がって回避した。

 

 

 と——?

 

 

 ドズムッ!!

 

 

 鈍い音がして逃げた筈のネギが吹っ飛んで帰って来る。

 

 

 「あ…♪ よーし!!」

 

 

 何だかよく解らないが、そこは細かい事は考えないバカレンジャーが一角。

 そんな隙を逃さず、まき絵はリボンでネギを絡めとり、

 

 

 「エヘへ……ネギくぅん♪」

 

 

 と、唇を寄せた。

 

 

 ボゥンっ!!

 

 

 

 

 

 視界の外——

 

 それでも認識界内である曲がり角の向こうで爆発が起こった。

 

 

 「チ……っ

  ニセモノか……霊波が少ねぇと思えばやはりな……」

 

 

 しゅうう……と拳から湯気を出しているのは、タダキチ事、横島である。

 怒れる彼は怒り心頭に達した“向こう”の雇い主のように、拳に霊力を一点集中させてぶん殴ったのだ。

 

 無論、そんなフィニッシュブローにも似た折檻パンチを喰らって生きていられるのは同じ霊波によって殴られ続けた彼であるからこその話。そこらの人間が喰らえば頭部は木っ端微塵である。

 相変わらず自分がそこらの霊能力者を遥かに凌駕する霊的防御力を持っている自覚は無いようだ。

 

 そんな自分の霊力の高さなど知る由も無い彼は、殺り損なった事を悔やんでいた。

 

 殺ったらアカンやーんっ!! という説もあるが、今の彼は正気ではなかったりする。

 

 

 「監視カメラまで仕掛けおってからに……

  そーかそーかそんなにオレが邪魔だと申すか……

  ふっふっふっ……SAY-BYE してくれる」 

 

 

 気分はもうエセ時代劇(何気に悪役気味)。

 “成敗”ではなく、“SAY-BYE”なのがポイントだ。

 

 覗きで鍛え上げたその能力を持ってすれば死角内を駆け抜ける事など朝飯前の晩飯前。

 カメラには影すら残るまい。

 

 というか、防犯カメラ(現中継カメラ)を監視カメラだと勘違いしている時点でイロイロと手遅れっポイ。

 

 それより何より、彼の認識外にあるはずのカメラの死角に無意識に身を隠せてしまうのは如何なものか?

 流石は“向こう”で雇い主が仕掛けた物理&霊的トラップを掻い潜って何度も覗きを成功させただけはある。

 

 無論、誉められたモノではないが……

 

 

 「次は…………

  向こうか……」

 

 

 蜘蛛の巣が如く意識の糸を伸ばし、それに掛かったネギらしき霊波に向って駆け出す横島。

 

 幾ら絨毯の上とは言え、羽毛ほども音を立てずに駆け抜けてゆく技量はアサシンすら感銘するだろう。

 

 如何なる者も単なるセクハラスキルの一端だとは思うまい——

 

 

 

 

 

 『ぬぅ……また気配が遠退いたでござるな……』

 

 『流石は老師アル』

 

 

 ロビーの柱の陰から姿を現した二人は、足元にひっくり返っている新田に一瞥もせず、横島の気配が消えた方向に意識を向け続けていた。

 それでも正座させられている千雨と祐奈の死角にいたりするのは流石と言えよう。

 

 

 ——あの場……

 

 

 新田が騒ぎを聞きつけてロビーに現れた時、あの場にいた全員が彼に認識されるとゲームが終わってしまう可能性が大きかった。

 

 だから楓はニンジャの嗜みで所持していた煙球を用い、新田が煙に巻かれた隙に皆を逃がそうとしたのであるが……

 まさか偽ネギによって彼が気絶されられるとは思いもよらなかった。

 

 

 『ネギボウズのニセモノが出回っているとは思わなかったでござるが……

  これも魔法の力とやらでござろうな』

 

 『ナルホド……

  流石は魔法。何でもありネ』

 

 

 無論、刹那がアイテムを渡した事など二人が知る由も無い。

 

 というか、ニセモノが走り回っている理由を考える余裕が無かったりする。

 

 

 『兎も角、これでは余計にネギボウズと“誰か”を間違えてしまいそうでござるな』

 

 『……?

  おおっ! 確かにそうアルね!! アイヤ、大変アルよ〜〜♪』

 

 

 一瞬、何を言っているのか解らなかった古であるが、流石に勉強以外の事なので要領が良い。

 

 すぐに手を打って相槌を打つと、

 

 

 『じゃあ、そろそろ老師…ではなくネギ坊主を追うアルね』

 

 『あいあい♪』

 

 

 楓と共にその場を後にした。

 

 

 

 「ん? 誰かそこにいなかった?」

 

 「知らねーよ!

  クソっ……も、もう足が痺れて……」

 

 

 

 

 

 

 

 「捕まえた」

 

 「ネギ先生——」

 

 

 二人の美少女に挟まれ、左右の頬に唇が寄せられた。

 

 ちゅ…と可愛らしい音を立てて送られた柔らかいキス。

 

 外見だけなら三人は同じ年齢のように見えるので実に微笑ましいのであるが……

 

 

 バフ——ンッ!!

 

 

 やはり任務が終了したので式であったネギは爆発し、風香と史伽は吹っ飛んで意識を失ってしまった。

 

 目をぐるぐる回して意識を手放してしまう二人。

 ポテっと絨毯の上に倒れこんでしまう。

 

 

 「!? この二人は……

  お、おい、風香ちゃん! 史伽ちゃん!」

 

 

 直後、その破裂音に気付いたのだろう、横島がその場に現れた。

 

 慌てて駆け寄り、二人を抱き起こすもやはり目はナルト。

 見事に気を失っている。

 

 知っている女の子が倒れているのだから当然の如くカメラ等無視する彼であるが、幸いにも二人はたった今脱落したので中継は終了しておりカメラの眼は向けられていない。

 

 怪我らしい怪我は無いようで、横島もホッと胸を撫で下ろしたのであるが……

 

 

 ハラリ……

 

 

 「ん?」

 

 

 そんな横島の足元に、一枚の紙切れが舞い落ちた。

 

 

 —やぎ—

 

 「………」

 

 

 横島は無言でその紙を拾い上げグシャリと握りつぶし、二人を廊下の脇に置いてある来客用のソファーに寝かせてやる。

 

 幸いにも旅館内はゆるく空調が利いているので風邪は引くまい。

 それでも一応は別のソファーからカバーを剥いで二人にかけておいてやった。

 

 男ならば当然そこまではすまいが、一度たりとも夕飯を奢った(奢らされた)相手であるし、女の子という事もあるからけっこう気も使えてたりする。

 

 

 「ふ……ふふ、ふっふっふっふっふっ……

 

  真 面 目 に 地 獄 へ 行 か せ て や る」

 

 

 無論、大勘違いが続いている事は言うまでもない。

 

 

 

 

 

 「わぁ……っ!?

  ヘイト!? ヘイトなの!?」

 

 

 イキナリ旅館と道路を繋ぐ橋の袂で自分を抱きしめて蹲ってしまう少年。

 

 楓が想像していた横島のセリフと似たようなもんである事がけっこう笑える。

 

 

 兎も角、そんな頭の異常を疑われるようなセリフをぶちましたネギであったが、直に正気に返って立ち上がった。

 突然感じた恐怖の正体は不明であるが、周囲の様子を窺うも別にこれといって異常は感じられない。

 

 

 「あ、あれ? 僕、何言ってたんだろう……?」

 

 

 どうやら無意識に言葉を紡いでしまったのだろう。

 彼自身が何故そんな事を口走ってしまったのか覚えていないようだ。

 

 何と言うか……謂れの無い怒気と怨念を浴びせ掛けられたよーなそんな気がして魂が悲鳴をあげたというか……

 兎も角、そんな感じがしたのである。

 

 

 「うう……何だか嫌な予感がする……」

 

 

 とゆーかヒドイ予感?

 このままではエライ目に遭って(遭わされて?)しまうようなそんな気が……

 

 

 「も、もう還ろ……もとい、帰ろう」

 

 

 何だか表現し難い怯えにより、踵を返して旅館に駆けて行くネギ。

 

 

 まさかその旅館に、牙を剥き爪を磨いでいる怒りの魔人様がいらっしゃられるとは思いもよらなかったという事じゃ……

 

 

 

 

 

 ボンッ!!

 

 「ぷっ!?」

 

 

 大きな音を立てて人型は破裂し、ポテ…っと少女はその場に倒れてしまう。

 

 

 「しまった!! 遅かったか!?」

 

 

 慌てて駆け寄るがその少女……雪広あやかの意識は吹っ飛んでいる。

 

 中学生とは思えないようなバランスの取れたプロポーション。

 動き易いよう、ポニーにまとめられている為にうなじも見えて何とも色っぽいのであるが、そこは何だかんだでフェミニストである横島。そんな有られもない格好に気を取られるより前に、今の破裂で負傷していないかどうかの方が気になっている。

 

 しかしそんな心配は要らなかったようで、やはり彼女も目をナルトにしてグルグル回しているだけ。

 横島ほどではないにしても麻帆良の生徒らは丈夫なようだ。

 

 

 「く……また被害者が……オノレ淫行中年め……」

 

 

 まだ勘違いしっぱなしの横島は、落ちていた式符……ホギ=ヌプリングフィールドと書いてあった……を拾って握り潰す。

 

 

 「大体なんだこの式符は?

  ヌプリングフィールドだぁ? オノレ……何とオゲレツな響きの名前を……」

 

 

 そう連想する彼の方に問題があるのではなかろうか?

 

 兎も角、やはりあやかを抱き上げてソファーに寝かせ、そばにあった新聞を掛けておく。無いよりかはマシだ。

 

 新たなる勘違いを……もとい、正しき怒りを胸に、霊力を高める為に目をつぶり、再度ターゲットの位置を探る横島。

 

 彼が出会ってしまった状況からすれば、ネギという男は女子中学生を自分の分身にキスさせて喜んでいる変態である。

 無論、いくらノリがよい麻帆良の生徒とはいえ、女子中学生がネギとキスをするゲームがおっ始まっている等とは予想もできないだろう。つーか予想できていたとすれば余計にネギを許せまいが。

 

 少なくとも普通に考えれば、古らから聞いているネギの年齢の技量でここまで本人に似せた式は作れまいし、十歳程度で女子中学生に分身にキスさせて喜ぶ趣味はあるまい。

 というか、その発想は余りにオッサン的過ぎる。

 

 それに年齢詐称薬がある以上、ネギの実年齢はオッサンで、うら若き乙女の唇を狙う変態魔法使いでもおかしくないのでは?

 無論、そんな無茶苦茶な発想にたどり着いてしまうのは横島ならではであるが……

 

 

 「む……!?

  この霊波は…… ミ ツ ケ タ ゾ ……」

 

 

 霊波を探り続けていた横島の目が細められ、ギィイ……ン!! とロボ的な輝きを見せた。

 その言葉遣いは何だか怨霊っポイが気にしたら負けだ。

 

 

 ちらりと眼差しをあやかに送り、もう一度無事である事を確認してから、

 

 

 「斬る(Kill)……」

 

 

 と横島は一言呟いて煙のように姿を消した。

 

 

 危うし、ネギ!!

 

 

 

 

 

        ******      ******      ******

 

 

 

 

 

 「ネギ先生がこんなアホな騒ぎに参加するとは思えません!

  だからホンモノは別の場所にいるはずです!!」

 

 「う、うん!」

 

 

 先にニセモノを見出していたお陰か、或いは図書館島の地下でネギという少年の人柄に接していた所為かは解らないが、真面目な彼がこういった事に関わるとは思っていない夕映は、他の班の代表がネギを追って駆け出した時に、のどかの手を取って別方向へと駆け出していた。

 

 それが項を制したのだろう、彼女ら二人は偽ネギの爆発に巻き込まれずに済んでおり全くの無傷である。

 

 

 それにしても私としたことがあのように巻き込まれてしまうとは……

 

 10歳の子供……

 しかもニセモノに……!

 

 のどかにああ言っておきながらなんとアホな……

 いえ愚かな!

 

 しかし……あのタイミングであの音が聞こえなければ……

 

 い、いえ、モニターが点いてなかったら私は……

 私はネギ先生と…………

 

 

 「どうしたの? ゆえ」

 

 「いっ、いえ! 何でもないですよ!? ホントに!!」

 

 「う、うん……?」

 

 

 等と他の追跡者から離れ、そんな事を言いつつ窓際を走っている二人。

 二人して同じ方向に顔を向けたのが良かったのだろう、

 

 

 「あっ!!」

 

 「いた——っ!!」

 

 

 周囲の見回りから戻ってくるネギの姿が目に入った。

 

 

 

 

 

 

 

 イタ……——

 

 

 気分はもう、狂戦士。

 

 カタカナで喋っているところがそれっポイ。

 

 

 ダンッ、ダンッ、ダンッと木々の間を蹴り抜けて、夜の闇に紛れて怪鳥の様に影が飛ぶ。

 

 視認はほぼ不可能。

 余りの速さと勢いの鋭さは常人の眼では捉えられまい。

 

 その人を超えた動きはドコのサーヴァントだ? と問い詰めたくなってしまうほど。

 

 

 クライ眼の輝きは敵に対する憤怒のものか、獲物を見つけた悦びか。

 感情だけを前に向け、“それ”に向って突き進む。

 

 夜の闇を縫ってやや歪な直線を描きつつ突き進むその影は、歪んだ怒りの気配も相俟って恐ろし過ぎる。

 

 オカルト的な恐怖より、ホラー的な恐怖を強く感じられる波動をぶち撒いてゆく影であるが、周囲にはその波動を欠片も感じさせていない。

 

 恐らくその感情波はターゲットだけに収束して向けられているのだろう。

 

 

 びぐぅッ!!

 

 「な、何?!」

 

 

 迫り来る怖気を感じたのだろうか、少年は怯えるように身を竦ませた。

 

 こんな物騒な輩が迫ってきている時に、身を縮ませるのは単なる自殺行為。

 ハンカチを投げられただけで仮死状態になってしまうスナネズミが如く、肉食獣を前にして『食べて☆』と懇願するようなもの。

 

 

 『 デ ス ト ロ ー イ 』

 

 

 旅館に女の子がいる手前、怯えさせないように心中で雄叫びを上げる気遣いは流石と言える。あらゆる意味で間違っているが。

 

 霊能力者が言うセリフであるから説得力もあるが、説得力があるが故にその行われようとしている行為は物凄く拙い。

 

 “栄光の手”に八つ当たりと憤り……もとい、愛と正義のパワーが篭り、少女を汚す悪漢(ネギ)めがけて必殺の一撃が襲い掛かろうとしている。

 

 精神コマンド<必中><魂><直撃>を発動したかのようなスーパーダメージがネギに襲い掛かるだろう。

 

 

 

 と、思われていた——

 

 

 

 「ぐぇっ!?」

 

 

 直前、横島の首に紅色の縄状のもの……浴衣の帯紐が巻き付き、ネギは九死に一生を得た。

 

 同じ様に充分に氣が乗った帯紐が迫り、横島の身体に蛇のように絡み付くとその身は素早く茂みの中に引きずり込まれてしまう。

 

 

 スパーン!! というハリセンで引っ叩いたよーな音がし、そのまま“三つの気配”が遠ざかると辺りは完全に静けさを取り戻していた。

 

 

 「あ、あれ………?」

 

 

 怖気やら恐怖やらが去り、恐る恐る頭を上げるネギ。

 

 別に怪しいところは無いし、妙な気配も感じられなくなっている。

 

 出る前と同じ様に静かな旅館の玄関だ。

 

 

 「……な、なんだったんだろう?」

 

 

 まだ心臓がバクバクしていたが、流れ出る汗を拭いつつネギは旅館に戻っていった。

 

 

 

 「あ……宮崎さん……」

 

 「せ……ネギ先生……」

 

 

 

 親友の後押しを受け、勇気を出して一歩を踏み出した少女の元に……

 

 

 

 

 

 

 

 

        ******      ******      ******

 

 

 

 

 

 

 「堪忍や——っ!!」

 

 

 ひたすら額を擦り付けて謝る少年。

 

 その土下座——某演歌の大御所の弟子が深く感銘を受けるであろうほど、一分の隙も無い見事なものであった。

 

 言うまでも無く、これほど高レベル土下座が行える少年は二人といまい。

 今だタダキチ形態の横島忠夫である。

 

 

 ここは騒動から離れた旅館の裏庭。

 楓と古が屋根から見下ろしていた池のほとりだ。

 

 子供の姿で女子中学生に不埒な行為を行っていたネギ男(仮名)に対し、正義の死者たる横島が鉄槌を下さんとした瞬間、何とか間に合った少女らに拉致られてここに引き摺って来られたのである。

 

 その道中、アレは見張りをする為に放たれたネギのデコイが暴走しただけだと怒られるわ、子供相手にやりすぎだと説教喰らうわで全然良いトコ無しである。

 というか、そんなテキトーな説明を受けて納得してしまうところが横島らしいといえるかもしれない。

 

 それに横島自身も冷静になればやり過ぎだと自覚できていたのが大きい。

 何時もの事……と言えばそれまでであるが。

 

 なんてこったい。

 二十歳越えたってのに、十代のバカのまんまかよ……と落ち込みそうである。

 

 

 「まぁ、被害ゼロだからいいでござるよ」

 

 「ウム。私らに黙て女の子介抱したりするから、そーゆーコトになるネ。

  老師はもっと気をつけるアルよ」

 

 「すんませんすんませんすんませんすんません……」

 

 

 楓らの言っている事は何だかオカシイのであるが、横島は謝るのに必死で全然気付いていない。

 一体、何度目の『正直スマンかった』であろう。パート4ぐらいか?

 

 とはいえ、別に楓らも横島に謝罪して欲しいが為に捜し続けていた訳ではい。

 

 本当なら『ウッカリ間違えてしまたアルよ。てへ☆』な流れに持っていきたかっただけである。

 まぁ、流石に“あんな事”に発展しようとは思いもよらなかったが。

 

 だから、という訳でもないがえっぐえっぐと泣いている彼に別に良いでござるから……と直に気を取り直して手を貸して立たせてやる。

 

 

 「うう……楓ちゃんは優しいなぁ……」

 

 「うぐぅ……べ、べちゅにいいでごじゃるよ」

 

 

 直に許しただけでモノホンの礼を言う横島に、流石の酔った楓ですら面食らって赤くなる。

 いやまぁ、赤くなったのはそれだけではなかろうが。

 

 横島がストレートに礼を言うのも無理は無かろう。

 何せ“向こう”で横島の周囲にいた女性らはそう簡単に許してくれたりはしなかったのだ。

 

 バチバチと怒りの霊気で放電して見える神通棍でプチ殺されかかったり、何でか金色がかった狐火でローストにされたり

 人狼の全力出力の霊波刀でナマスにされかかったり、元幽霊の巫女に友達の浮遊霊集団を呼ばれてフクロにされたり

 机の中の無人校舎に閉じ込められて人格崩壊しかかったり、魔力っポイもんが混ざった鱗粉で半死半生にされたり……

 

 記憶を消失させているというのにそんな事だけ憶えているのが物悲しいが。

 

 それでも思い出すだけでその身がガタガタと震えだしてしまう。まったく、よく自分は生きているもんだ。

 

 そんな風にトラウマを刺激されている横島の後で、楓は古にジト目で睨まれて冷や汗を掻いてたりする。当然のように彼は気付けなかったのだが何時もの事である。

 

 

 「よ、横島殿」

 

 「んぁ!? な、何……?」

 

 

 古の視線を誤魔化す為か、急に楓は横島に話し掛けてきた。

 

 余りに突然だったが為、彼の返事はどこか間抜けだ。

 

 

 「横島殿……その……」

 

 「?」

 

 

 何時ものように……いや、何時も以上にもじもじとして、話し掛けてきたくせに中々本題に触れない。

 

 そんな楓に萌えを感じないでもないが、『ン、ウンッ!!』とヘタクソな咳払いをする古に二人とも気を取り直す。

 

 

 「そ、その……横島殿……

  拙者は……その……横島殿のパートナーでござるな?」

 

 「んあ? ん、うん……まぁ……」

 

 

 何を今更……というのが彼の本音だ。

 

 こっちの世界に来てから毎日のようにツルんでいる少女、楓。

 

 なすびジジイ(近衛)に『それじゃあ、長瀬君と組んでもらおうかの』といわれた時には、美少女だし気が置けなくなっているからラッキーだと両手を上げたものである。

 ……ちょっとナニな隙が多すぎて後でイロイロ困る事になったが……

 

 

 「私もいちおう協力者だから、同じようなものアルね?」

 

 「え? あ、う、うん……」

 

 

 これも何故に今更? である。

 確かに最初は“巻き込まれに来た”というけっこう困った出会いであり、ずっと彼女に困らされ続けている気がしないでもないが、側に来られて迷惑だと思った事は無い。

 

 つーか、この二人は横島的対象年齢がストライクゾーンから外れていただけで、彼が知る女の子の中で飛び抜けたレベルの美少女二人が“慕うかのように”付いて来てくれているのだから文句など出ようはずも無い。

 

 だからこそ、ややどもりながらも即答した。 

 それに彼女らの眼差しが(やや焦点が定まっていないような気がするが)真剣みに溢れているのだ。こんな目で言われた言葉を否定する事は横島にとって超難問なのだ。

 

 それに何だか知らないが、横島がそう言っただけで二人はウンウンと嬉しげに頷いている。

 さっぱり意図が読めないし、酔ってるよーに見えなくもないが、喜んでもらったのだから我に悔い無しではなかろうか?

 

 

 無論——

 

 

 「なら、その……拙者と仮契約して欲しいでござるよ」

 

 

 そんな彼の考えは浅はか以外の何物でもないのだが——

 

 

 「実は私も仮契約結びたいアルよ〜」

 

 「は? 仮契約?」

 

 実は横島、仮契約(パクティオー)というものを知らなかった。

 

 何せ彼は霊能力者ではあるが魔法使いではない。

 その能力は確かに氣に近いものなのだから近衛も退魔師として接しているので従者仮契約であるパクティオーの事をまだ説明していないのである。

 

 既に楓は真名から仮契約の事を聞いていたし、古も楓から聞いている。

 そしてその方法はカモを脅……もとい自主的に(、、、、)教えてもらっていた。

 

 ぶっちゃけ、今の“裏”の関係者の中で横島だけ(実は現時点では刹那も大して…であるが)がその事を知らなかったりするのである。

 

 

 それでも当然のように疑問も湧く。

 

 仮とは言え『契約を結んで』と言われてハイそーですかと言わないところはスーパービジネスマンを両親に持ち、ずる賢さでは魔族にすら一目置かれている雇い主がいてくれたお陰か。

 そういう類の話には勝手にブレーキがかかるのである。

 

 「拙者は……拙者()は心配なんでござるよ……

  横島殿は心に何か抱えたまま、本心を隠したまま拙者らに接してるでござる……」

 

 

 だが、彼が疑問を口にする前に楓は“本音”を漏らした。

 

 

 「老師はこのかに言てたネ? 大切なモノは無くしてから気付く……と」

 

 

 そして古も“本音”を語りだす。

 

 

 「私……私“達”はホントに心配してるアルよ。

  老師は確かにイロイロ気遣てくれるし、教えてもくれる……

  でも、本音は言てくれないネ……」

 

 

 何だかんだ言っても、氣……“霊気”の使い方を教えてくれる横島。

 

 ゲートの騒動に古が関わった時、もしあんな事に再度関わって彼女が怪我をしたりしないようにと教える気になったのである。

 

 最初は気付けなかった古であるが、ゲートでの戦いを例にして気の高め方や固め方、流し方を散々言われれば流石のバカイエローとて彼の思いに気が付いてくる。

 当然、楓とてそうだろう。

 

 

 彼は、不器用ながら必死こいて、ヘトヘトになりながらも支えてくれている——

 

 

 無償の……という訳ではないだろうし、見返り(お姉ちゃんを紹介してくれる等)を期待しない訳ではなかろうが、そこらの男以上に女の子に対してそれに近いもので支えようとしてくれるのである。

 

 

 彼自身は気付いていないだろうが、横島は必要以上に女の子を傷つかないように行動し続けている。

 そして、無意識に女の子を守ろうとしている。

 

 まるで失ったモノを捜し求めているかのように……

 

 

 古は兎も角、楓はその事を薄々気付いている。

 彼女が知る誰より優しい彼は、この世界で新たに組まれ様としている絆を誰よりも大切に思っている——と言う事を。

 

 

 だからこそ不安なのだ。

 

 

 絆を求めて彼が自分から何かの流れに吹き飛ばされるのではないかと……

 

 

 だからこそ——

 

 

 「拙者らが、絆になるでござるよ」

 

 「え…………?」

 

 

 だからこそ彼には“錨”が必要だと思った。

 

 “枷”となり、彼を繋ぎとめる存在が必要だと。

 

 だからこそ仮契約というものは渡りに船だったのである。

 

 

 「私らが仮契約者として老師と繋がりを持つアル。

  そうしたら老師は一人じゃないネ」

 

 

 古は知らない。

 横島が異邦人である事を。

 

 だが、麻帆良の皆を大切に思っていてくれている事だけはきちんと解っている。

 

 だからこそ彼の笑顔を増やしてやりたいと思った。

 

 木乃香と刹那という“他人事”であんな辛そうな表情を見せる優しい彼に……

 

 

 「楓ちゃん……古ちゃん……」

 

 

 横島は声が詰まってしまった。

 

 

 学園長以上に自分の事を語っている楓にだって全てを話してはいないし、古に至っては異世界人である事すら明かしていない。

 

 にもかかわらず、彼女らは解って欲しい部分を自力で気付いてくれていたのだ。

 

 

 『こういったトコは何時まで経っても女の子には勝てないなぁ……』

 

 

 確かに事故でこの世界に“存在”してしまっている彼は孤独だ。

 二十数年にも及ぶ全ての繋がりを完全に無くしているのだから。

 

 行くこと……自分が居た“であろう”世界への道は完全に閉ざされているし、その座標は全くの不明。よってこの世界で生涯を閉じる事となる。

 その事は理解しているし、自覚も出来ている。

 

 できてはいるが……やはり完全には孤独感を払拭できてはいないのだ。

 

 

 そんな横島に対し、二人は自分より心遣いを見せてくれている。

 

 自分でも気付いていなかった、“淋しさ”に二人は気付いてくれていた。

 

 楓も大人っぽいしが可愛らしいところを持っているし、古もその腕っ節とは裏腹に可愛いらしい。だがそんな外見的な物だけでは無く、ちゃんと良い女の予備軍として下地もちゃんと持っているではないか。

 

 こんな女の子たちを仲間としてここに存在できている自分は何と運の良い男なのだろう。

 

 横島は改めて二人に深く感謝の念を募らせていた。

 

 

 「うん……ありがとな。

 

  何だかよく解らないけど、女の子にそうまで言ってもらって断る訳にもいかないよな。

  だから……その、オレなんかで良ければ喜んで仮契約とやらを結ばせてもらうよ」

 

 

 だから、横島は笑顔でそう答えた。

 

 二人の思いやりがあたたかくて、

 二人の言葉がありがたくて……

 

 

 そして……

 

 

 「横島殿……」

 

 「老師……」

 

 「うん……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「「言質は(とたアルよ)とったでござるよ」」

 

 

 ——蜘蛛の巣に掛かった。

 

 

 「は?」

 

 がしっ

 がしっっ

 

 

 攻撃ではない為、如何に人外の回避能力を持っている横島とて回避不可能。

 左右から両の腕をガッチリ掴まれ、身動きが取れなくなってしまう。

 

 

 「え? ええっ?! な、何だ!? 一体何を……」

 

 

 焦りまくる横島。

 

 おかしい。

 何だかおかしい。

 

 さっきガンガン音を立てていた警鐘が、頭部を左右に振りたくるほど打ち鳴らされている。

 

 つーか、あの感動的な流れからこーなるってどゆコト?! 

 

 

 「ちょ、まっ、ナニこの流れ!?

  ひょっとサギ!? これが噂のフィッシィングサギ!?」

 

 

 違うと思うぞ。

 

 

 「つーか放して〜〜っ!! ひぃ〜〜〜っ!!」

 

 

 「ダメでござるよ」

 

 ぐにゅ

 

 

 「そうアルよ。観念するアル」

 

 ぎゅっ

 

 

 「か、かかか観念って……

  ぬわぁっ!! チチがぁっ!! フトモモがぁっ!!」

 

 

 立たせてもらったのに、二人に腕に抱きつかれてまたしてもヘタり込んでしまう横島。

 左腕は楓の胸の間に挟まれ、右腕は同様に古の腕の中。古の場合は流石に楓ほどのボリュームはないが、その代わりに太腿の間に挟み込まれているのでまったく腕を動かせない。下手するとヘンなトコ触っちゃいそうだし。

 

 ジャスティスはジャスティスで、さっきとは違う意味で『Go!Go! GoGo!』と吠えている。それもアナゴさん的ボイスで。ロリ否定というタテマエはドコへ行ったのか?

 

 

 「騙したな!? ポックンを騙したな!?

  親父と母さんと美神さんとエミさんと冥子ちゃんとおキヌちゃんとシロとタマモとパピリオと小竜姫様とヒャクメと神父と雪之丞とタイガーとピートとその他もろもろと同じで、ポックンを騙したんだな!?」

 

 

 エライ騙され様である。

 

 

 「その御仁らがどなたかは存ぜぬが、騙してはいないでござるよ?」

 「そーアルよ。コレが仮契約の手段ネ」

 

 

 普通ならその横島のテンパり具合に引きも入るだろうが、流石に二人は一週間も側にいたのですっかり慣れていた。

 つーか勢いもあってそんな嘆きが効いてなかったりする。

 

 まぁ、羅列された中に女の名前があった所為で、

 そしてそのニュアンスに何かを感じ、二人の額に血管が浮かんでいたりする。

 げに恐ろしきは女の勘と言う事か。

 

 

 「こ、このパラダイス……もといっ! この楽園……じゃなくて!

  こんなキモチエエ……違う! ええと……

  とと、と、とにかく、こーゆー痛し嬉しなコトすんのが仮契約つーんか!?

  泣くぞ!? ええか!? 泣いちゃうぞ!?」

 

 

 彼からすれば堕落の宴であろうが、言っている事はとっくにぶっ壊れている。つーかついに認めた?

 しかし残念ながらそこには気付けていないのか、テンションが上がっている二人はそのまま顔を寄せてきた。

 

 

 「う、うわっ?! 酒臭っ!!

  二人とも酔っとるなぁ〜っ?!」

 

 「いやいや酔ってなんかいないでごじゃるよ〜〜?」

 

 「私ら未成年アル。おしゃけにゃんかにょまにゃいアルよ〜〜」

 

 「ウソこけ〜っ!!

  ヨッパライの『酔ってない』は結婚詐欺師のプロポーズ並に信用できんわ〜〜っ!!」

 

 

 何だか期待しつつ涙目で逃げようとする横島。

 しかし何だか手遅れっポイ。

 

 そんな風に涙を振りまきつつイヤイヤする横島の顔の直横で古は、

 

 

 「……そんなに私たち……いやアルか……?」

 

 「え……?」

 

 

 顔を俯かせ、聞いた事もないような悲しげな声を漏らした。

 

 

 流石の横島も驚き、慌てて真横にある古に顔を向ける。

 

 普段も小柄な古であるが、気落ちしているのか何時もより小さく見えていた。

 

 

 「イヤならイヤとハキリ言てほしいヨ……」

 

 「え? いやその……」

 

 「やぱり……イヤ……?」

 

 「あ、そのイヤじゃなくて……」

 

 「どちアルか……?

  イヤなら私、老師を諦めるアル…………」

 

 

 淋しげであり、真剣。

 短い付き合いであるが、横島は楓らと同様に古の性格を大体つかめている。

 

 だからこそ、彼女がギリギリまで返答に迫られている事を気付く事ができていた。

 

 何故にここまで思いつめているのかはサッパリであるが、真剣な問いかけには真剣に答える。

 先ほど引っ掛けられたと言うのに、それでも懲りないのが長所である横島は、

 

 

 「……そんな事ねぇよ。

  急にそんなこと言われたから慌てただけさ」

 

 「本当……アルか……?」

 

 「ああ」

 

 

 今度は断言。

 軽く、そして力強く頷く。

 

 ここで躊躇するほど失礼な事はないのだから。

 

 

 「じゃあ………仮契約結んでくれるアルか?」

 

 「あ、ああ……何だか知んねーけど、オレで良ければ……」

 

 

 

 

 「じゃあ、拙者から結ぶでござるよ」

 

 

 

 唐突に左側から声が掛かり、ハッとして振り返った。

 

 当然ながら左側には楓がいる。

 そしてその声はすぐ後ろの位置だった。

 

 

 「ン……」

 「楓ちゃ……ンン!!!???」

 

 

 ——初めは何だか解らなかった。

 

 

 視界は髪の毛に塞がれていて何がまん前にあるのか見えもしない。

 いや視界がふさがれているからこそ、他の感覚が強化されてしまうのだが。

 

 自分の顔の前には何だか甘い香りのするがあり、唇には軟らかくてあたたかいものが触れている。

 

 いや、現実逃避しても仕方がない。

 

 実のところ彼とてよく解っている。

 経験と言うものを全て失ってはいるが、実年齢は青年であるので子供のように慌てたりはしない。

 

 

 「ン……ンン……」

 「ん…あ……ふ……」

 

 

 ——ハズだ。多分。

 

 

 いや別の意味で落ち着いているか? 我を失っているだけという気もするが。

 

 

 実際の時間はわからないが、数十秒から数分なのだろう。

 

 ツ……と離れた横島と唇と唇の間には銀の橋が掛かっていた。

 

 普通、ここまでになるには深いキス……つまり舌の交し合いレベルの事を行わなければならない筈である。

 

 しかしながら楓にはそんなスキルはない。という事は………

 

 

 「………」

 

 「あ、あの……楓チャン?」

 

 

 顔を離した楓は唇に軽く指で撫で、何時も以上に眼を細めて横島の唇を見つめ、

 

 

 「わっ!?」

 

 

 一瞬で顔を赤熱化させたと同時に、弾かれたように横島から身を離して夜の闇に飛び込んで姿を消した。

 

 照れているのか、何なのか、兎も角遠くの方でドンガラガッシャ〜ンと何かがひっくり返る音が聞えた気もするので慌てていた事だけは間違いないだろう。

 

 

 「オ……オレってヤツは……」

 

 

 呆然とその消えた方向に眼差しを送り続ける横島。

 

 

 いや、これまた本当は解っている。

 

 キスをしていると理解してしまった瞬間、体が勝手に動いたのだ——と。

 

 とっても“大人向け”のそれをしてしまったのだ——と。

 

 

 「オレは……オレってヤツぁ……」

 

 

 遂に堕ちてしまったという事なのか。

 

 遂にロリ道という冥府魔道への門を開いてしまったと言う事なのか。

 

 

 くぅうう〜……と泣けてくるのも仕方がないと言える。

 

 

 「まぁまぁ、気にしなくていいアルよ。私は老師を信じてるアル」

 

 「うう……古ちゃん……」

 

 

 そんなタイミングで古がそう言って慰めてくれたら流石も縋り付いてしまう。

 まだ自分の腕にしがみ付き、太腿に挟んだままだと言うのに……だ。

 

 もとより気弱になっている横島だ。

 自由になった左手で古の身体にしがみ付くよう腕を伸ばし、その小柄な身体に自分をあずけるという愚行を犯してしまった。

 

 

 

 無論、迂闊である事は言うまでもない。

 

 

 

 「老師……」

 

 「え……?」

 

 「——隙ありっ」

 

 

 「?! ンんん……っ!!??」

 

 

 実際、古は楓以上に酔ってたりする。

 飲酒量は楓より多いし、尚且つ楓の様な薬物抵抗を持っていない。

 

 だからこそ暴走は静かに続いていたのである。

 

 古から言えば初めて横島から取れた一本と言えなくもない。

 だが、横島からすれば崖っぷちに追い詰めて助けるフリをして突き落とされるようなものだ。

 

 横島の頭の中は真っ白になり、古と抱き合う形のまま硬直し切ってしまった。

 

 

 「ンんん……? ん、ンンっっ?!」

 

 

 流石に古も驚いた。

 何せ余りの事に横島は心身共に凍りついて動けなくなっているのだ。

 

 つまり、古は唇を重ねたままピクリとも出来なくなっている。

 

 

 「んっ、んん、んんんん……んん〜〜〜〜……っ!?」

 

 

 勢いでしてしまった古であるが、全てが初めての行為。

 ファーストキスなのだから、鼻で息をする…等という事など思いつく訳もない。ややパニクりつつも口で息をしようと躍起になって大きめに開いてしまう。

 開いてしまうからこそ、無意識に出された横島の舌を呼気と共に吸い込んでしまった。

 

 結果、古は初めてと言うには余りにハードなキスを行うハメとなってしまったのだ。

 

 調子に乗ったバツか、横島を慰めるフリをしてひっかけたバツか、 

 はたまた未成年のくせに飲酒をしたバツなのかは不明であるが、半泣きでもがく古に対し追い討ちが如く奇跡が起こった。

 

 

 ぽんっ

 

 「んん…っ?」

 

 

 今まで抱き合うレベルの感触だったのに、唐突に懐に収められるかのようにすっぽりと抱きしめられる感触に変わった。

 

 慌てて手探りで横島の身体を探ると……

 

 

 「っ!!??」

 

 

 年齢詐称薬が切れて十代半ば過ぎの肉体に戻り、

 大きくなった所為で着ているものが破け、ほぼ裸で自分を抱きしめている横島の身体が………

 

 

 「……………………………………………………………………」

 

 

 流石に横島同様、古も頭が真っ白になった。

 

 初めて触れ合った異性の肌。

 ムリヤリ付き合わせた鍛練において気にはなっていたが、思ったよりしなやかで鍛え上げられた筋肉をしているではないか。

 無駄な筋肉を感じない、野生動物のよう……等と冷静に感想を述べている場合ではない。

 と言っても何かしらの反応が出来るほど冷静さはなく、ただ長々と唇を合わせているだけ。

 

 それでもそんな時が無限に続く事は無い。

 どれくらいの時間が過ぎたかは解らないが、重ね合っていた唇の間から何かが滴り、外気で冷えたそれが剥き出しの自分の太腿にポタリと落ちると、

 

 

 「!?

  〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっ!!!???」

 

 

 流石の古もやっと我に返ることに成功した。

 

 身体に残る全ての力を振り絞って身を引き剥がし、恥ずかしさ全開故であろうか、見事な体重移動と円運動を込めた手加減無しの一撃を、

 

 

 ドズムッ!!

 

 「うぼっ!!??」

 

 横島の水月に叩き込み、空高くぶっ飛ばすと先ほどの楓同様にその場を飛び退り、脇目もふらず風のようにその場から逃げて行った。

 

 

 後に残ったのは——

 

 

 ひゅるるるるるる……………どごんっ!!

 

 「ぷべらっ!!」

 

 

 やっとこさ墜落し、頭から屋根に突き刺さって意識を失った裸のまま放置される事が決定した横島 忠夫——と、

 

 

 「ぴぃ?

  ぴぃ——っっ!?」

 

 

 帰りが遅い彼を心配して探しに来た小鹿だけであった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『な……なんだこりゃあ………?』

 

 

 機材一式を持ち込み、簡易放送室と化している旅館のトイレの中。

 

 仮契約カード大量GET大作戦の主犯格であるカモは、撤収直前に目の前に出現した三枚(、、)のカードを見て呆然としていた。

 

 

 何だか思いの他苦労しただけで終わりそうであったのだが、それでも最後には親友のてこ入れのお陰で宮崎のどかのカードが得られ、

 そしてあんまり期待はしていなかったが、カメラの範囲外で少女忍者とカンフー娘がどーにかこーにか契約を結んだようである。

 

 想像していたより遥かに少ない利益であり、大掛かりだったわりに情けない結果で終わったがゼロよりマシだ。

 仮契約カードも合計四枚入ったから由としよう。

 

 そう席(?)を立とうとしたカモであったが……

 

 

 『か、仮契約カードじゃない??!!』

 

 

 後から出現したカードの異様さに気付いて声を上げた。

 

 

 『い、いやそれにしちゃあ力を感じるし……

  だけど方位も徳性も何も無ぇってどういうこった??!!』

 

 

 何しろシンボリズムである“色調”や、天体的属性である星辰性すら描かれていない。

 

 尚且つ、

 

 

 『サイズも半分くれぇしか……』

 

 

 

  ——ないのだ。

 

 自分の描いた魔法陣の不手際という可能性もゼロではないが、のどかのは成功しているし、そのほかのスカカードも一応、自分が知る失敗作のパターン。

 しかし、後に出現したこの三枚は一般の仮契約カードとの共通点が殆ど無い。

 

 

 『そ、それにこのデザイン……

  仮契約カードというよりは………』

 

 

 ヲッサン臭い彼が良く知るカードとデザインが良く似ているのだ。

 

 それは——

 

 

 「ちょっと、カモッち何やってんの!?

  急いでズラかるよ!!」

 

 『お、おうっ!!』

 

 

 何時の間にか食券やら機材やら荷物をまとめ、朝倉は泥棒宜しく背負い袋をしょいこんでドアノブに手を掛けていた。

 

 慌ててカモもその妙なカードをしまって彼女の肩に乗り、この場を後に………

 

 

 「………なるほど。

  朝倉……お前が主犯か……」

 

 

 「へ……?

  ぴぎぃいいっ!?」

 

 

 ……しようとしたのであるが、怒れる新田先生によって遂に確保されてしまうのだった。

 

 

 

 

 関わった連中ごと連帯責任。

 というわけで楓と古を除いた十人+一匹は朝まで正座させられたという。

 

 

 

 

 その二人はというと、正座の罰を喰らったものが部屋に戻る事を許された頃に無言で部屋に帰ってきていた。

 既に同じ班の者は眠りについていたから二人とも一言も語らずそのまま布団の中に潜り込み、

 

 

 

 「「〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」」

 

 

 

 枕を抱え混んで声を殺し、朝方まで悶えまくり続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 「ヤレヤレ……

  若いネ……二人とも」

 

 「これであのバカも少しは自覚が持てればいいのだがな……」

 

 

 

 

 

 これが二日目の夜の顛末であった——

 

 

 

 

 




 こうして楓と古は道を踏み外してしまいましたとさw
 
 この話で苦労したのは、幾らなんでもこの二人は簡単にキスなんてしないだろうという事。
 ネギのような子供が相手なら軽い気持ちで出来るでしょうが横っちは青年。それは軽々とはできないでしょう。
 かと言ってこの状況だけで仮契約する事を決意するというのも何だか理由としては弱い。楓も古もそういった事にはけっこう“お堅い”娘みたいですしね。
 でからドタバタを混ぜ込んでこの流れになりました。

 何せ私はあの二人だったら修業的要因以外でのパワーアップは望まないと思ってますので。

 二人(+1)の契約(仮契約とは言い難い)カードのデザインはわりとすんなり決まってます。
 詳細は次回。つまり、例の映画村のアレとかですね。

 というわけで、続きは見てのお帰りです。
 ではでは〜

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