-Ruin-   作:Croissant

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六時間目:寺へ…。
本編


 その子は一人、個室の中で蹲っていた——

 

 

 己の不遇を嘆き、涙を流し、

 心に受けた傷の痛みに一人耐えかね、

 人の気配が無いのを良い事に、しゃくり上げながら声を出して泣いている……

 

 何時の世もセクシャルハラスメントという罪は存在し、それを行使して悦にいる者と被害を受けて泣く者とに分かれている。

 そしてその子は後者——被害者だ。

 

 誰に訴えたところで苦笑されるか相手にされないか。世は何時も弱者に冷たかった。

 

 

 何であんな酷い事をして笑っていられるんだろう?

 

 何でこんな目に遭わされているのに誰も助けてくれないんだろう?

 

 

 ぐるぐると自問自答が頭の中で回り続け、涙の量も増え続ける。

 

 

 ぶつぶつと神の名が呟かれ、嘆きの言葉が交互に漏れ溢れてゆく。

 

 それだけ傷が大きいのだろう。

 それだけ傷が深いのだろう。

 

 

 だからその子は———

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「おかん…東京は怖いトコじゃあ……」

 

 

 子供の姿をした横島忠夫は、過去に行った自分の所業を心の棚に置いて勝手な事をほざいていた。

 

 

 「神様もお目こぼしくらいくれてもええやん。

  主にバイーンとかボイーンとか、ボンっキユっボンっとか……

  贅沢言うてへんのに……頭良くて美人で可愛くて甘えさせてくれる美人さんで、

  ほんでもって美人で美女で美少女やったら文句ないんやし……」

 

 

 何様のつもりであろうか?

 立川在住の神々もスプーンを全力射出してきそうである。或いは怒るか?

 

 兎も角、そんな意味不明な事を呟きながら、洋式便器の上に腰掛けてシクシク泣いていた横島。

 

 今はまだ修学旅行中の新幹線内である。

 言うまでもなく車内トイレであるが、彼は隙を見て少女らから脱出し、そこに逃げ込んでガッチリ鍵を掛け、その上“珠”の力でもって気配を完全に消した上で蹲って泣いていたのである。

 

 ……因みに、具体的にどんな目にあったかは彼のトラウマになりかねないので解説は控えさせてもらおう。

 

 

 「うう……もう、お婿さんにいけない」

 

 

 意外と酷い目にあったっポイ。

 箍が外れた女子中学生は油断ならぬという事か。ううむ侮れん。

 

 ……尤も、実は彼がショックを受けているのはそれだけではなかったりする。

 

 女の子らのやーらかい香りに包まれ、そーゆー目に遭いつつも何となく『いいかも…』とか思っちゃったりした事が強いショックとなって残っているのだ。

 そりゃあもう、ガガーン!!とか、ガビーン!!とか、そういうレベルで。

 

 だから彼も未だに復帰できていなかったのである。

 

 

 「えぐえぐ……

  せやけど何時までもここにおられへんしなぁ……いつ襲撃受けてもおかしないんやし……」

 

 

 子供のフリをし続けた所為か、妙に関西弁の色合いが強くなってしまっているのだがそれは兎も角、

 

 袖で涙を拭ってトイレットペーパーで鼻をかみ、便器の中に放り込んで水で流して手を洗ってから“珠”を解除し個室から出て行く。

 

 その際、周囲の気配を窺う事も忘れない。

 気配の無い事を確認しても、野生動物の如く慎重に一歩を踏み出し、キョロキョロと見回してから、ぶはぁ〜〜……とやたらでかい溜息を吐いて安堵する。

 

 何もそこまで怯えんでも…という気がしないでも無いのだが、それほど事態は深刻なのだろう。主に超倫理回路(ジャスティス)が。

 

 このままトイレの中で泣き続けるのもナニであるから、別車両の自分の席にトンズラぶっこくという手もある。

 どう考えてもその方が無難であるし、何よりおもいっきり休めそうだ。

 仕事の方は楓も聞いていてくれたらしいし、自分がいる事でこっちに眼が集り西側の動きが掴み難くなる可能性だってある。何より彼女らの方が圧倒的に席が近いのだし。

 

 

 てな訳で、やや言い訳じみている気がしないでもないが、ちょっとだけ休ませてもらおうかな〜? 等と横島は一般車両に移ろうとした。

 

 

 その時。

 

 

 「?! 悲鳴?!」

 

 

 

 向こうの…自分を辱めていた少女らの車両が何だか五月蝿いではないか。

 

 すわ襲撃か?! と緊張が走ったのだが、聞こえてくる声はカエルがどーのとかいう悲鳴。

 なんじゃらほい? と首を傾げつつ前の車両の目を走らせると……

 

 

 ビュ…ッ

 

 「わっ?!」

 

 

 その瞬間にドアが開き、小さな影が物凄い速度でこっちに迫ってきた。

 

 それが何であるか、等と確認する暇などありはしない。

 何か影の様なものが走った…と感じるのが精一杯。

 

 ましてや小さな鳥が猛スピードで新幹線の中を飛んでる等と誰が予想できようか。

 

 それでもここに居たのは横島忠夫である。

 非常識が服着て歩いているようなヘンな生き物である。

 

 脊椎反射…と言うほどでは無いが、チョロリと動く小動物を捕らえてしまう猫の様な反射的動作で、

 

 

 「なんだこれ?」

 

 

 おもいっきり無造作に“それ”を掴み取っていた。

 

 

 「燕…?

  手紙なんか咥えて……向こうの車両にはお人好しの王子様の像でもあるんか?」

 

 

 それなら宝石だろう? と、微妙に知識のいるツッコミを入れてくれる殊勝な人物はこの場にはいなかった。

 自分から解かり難いボケをかましたくせに空振りは痛いらしく、横島はガックリと肩を落としてその手に僅かながら力を入れてしまう。

 

 ジタバタともがいて脱出を試みていた燕であったが、きゅっと握られた時についに諦めたのだろうか、ぐったりとしてその動きを止めた。

 と同時に、燕はその存在を失って鳥の形に切られた紙へと戻り、咥えていた手紙がはらりと舞い落ちた。

 

 どうやらその燕は式神だったようだ。

 ボケはかましても実はちゃっかりその事に気付いてたりする横島。逃がしたか…と小さく舌打ちしつつその手紙を拾い上げる。

 

 普通のサイズの手紙であるが、封の部分にはなにやら立派な印が押されており、只ならぬ手紙である事が窺い知れ……

 

 

 「って、これ親書やんっ!!

  魔法先生ナニやってのっ?!」

 

 

 燕に手紙を盗られるなんてどんなファンタジーなんじゃぁ?! と頭が痛くなってきた。

 流石は異世界。侮れねぇ〜……

 

 等と感心半分呆れ半分でいた彼の背を、

 

 「ッ!?」

 

 明らかに自分に対して意識を集中させているであろう視線が貫いていた。

 

 焦らない。クールクール。

 挙動不審をピクリとも表わさず、すぐさま心中でそう言い聞かせる横島。

 流石…と感心しそうになる方も多かろうが差に非ず。単に元雇い主の部屋等をあさっていて発見された時の言い訳経験によって築き上げられた生存の知恵。お世辞にも誉められたものではないのだから。

 

 それでもまぁ、このシチュにおいては大活躍。

 一瞬で自分を取り繕い、普段の横島……あ、いや、タダキチ少年という何も知らないオコサマキャラのパーソナルデータを被って振り返る。

 

 

 「え……?」

 

 

 そこに居たのは自分を凝視している一人の少女。

 

 左手には白鞘の刀…であろう得物が逆手に持たれており、見るとも無しに気付いてしまった事なのだが既に鯉口は切られていた。

 

 色白で小柄な身体つきの少女であるが、その鞘の内にあるだろう剣のように気配が鋭い。

 隠しているつもりかもしれないが、横島から言えばバリバリに感じられるほど少女は内に氣を練っている。

 

 

 「あ、これ、お姉ちゃんの?」

 

 

 キョトン…

 正しくキョトンとした子供の表情で横島はその少女に手紙を差し出す。

 

 演技の巧みさは“向こう”で修業済み。

 この、“何も知りません係わり合いありません私は何も見なかった攻撃”は、彼の人となりを知る女性以外ならまず間違いなく騙せる技である。

 

 覗きが見つかった時や、謂れの無い浮気(横島主観)がハッケソされた時等に非常に役に立つ技だ。誤魔化しの上級技というだけなのであまり自慢にはならないが。

 それでも“雇い主”を騙せる確率は軽く1%を下回っていたりする。ホントに無関係だとしても疑わしきを罰する女性であったし。つかムカついたから八つ当たり等とゆー理不尽すら通常運転だったし。

 

 それは兎も角として、その女性はそんな子供の雰囲気に腕をピクリと動かした。

 

 

 『あかんっ!! 来るっ!?』

 

 

 こーゆータイプは行動はイタイほど理解している。無論、物理的に。

 マジで骨身に染みているからだ。何しろ懲りずに何度も何度も経験しているから。

 

 だからこそ彼はあえて腕を引っ込めない。

 

 避ければもっとイタイという状況を受け続けていた横島だからこその一瞬の判断だ。

 

 彼女のようなタイプは何より自分の勘を信じる事がある。

 単なる思い込みであったとしても、その確証が得たいからだ。

 それに、横島は少女の前で飛んでくる燕を無造作に手で掴み獲るといった荒業を披露してしまっているのだ。どんな剣豪だと問いたい。

 

 彼からすれば某霊山の竜神管理人様よかずっと遅いし、何より自分の雇い主だった女性のパンチや、グレートなママンの拳よか遅くて軽い。尚且つ“向こう”での弟子であった人狼少女よか動きが読み易い。だから掴み獲る事など余裕のよっちゃんである。

 

 何せこの横島忠夫、フルオート連射を叩き落していたバケモノなのである。

 音速より遅い燕の回避速度を上回る事等造作もなかったりする。

 非常識さ120%であるが。

 

 ま、目の前の彼女がそんな事を知る由も無い。

 

 

 一見幼い彼の手の甲を、バシッ打ち据える音が高く響いた。

 

 ポカンとする子供は音を鳴らせた自分の右手を見、親指辺りが赤くなっている事に気付いて自分の手が彼女に打ち据えられた事を初めて知った……という男の子に完全になり切っていた。

 恰も100%天然果汁であるかのように、だ。

 

 呆然とする幼子の手から舞い落ちた手紙がふわりと床を滑る。

 勢いがあったからか、それとも狙ったものか。その親書は床を滑って少女の靴にコンっと当たって停止した。

 

 と同時に、子供の…横島の顔がくしゃりと歪み、目元に涙が膨らみ始めた。

 

 

 「え…?」

 

 

 これには少女の方が面食う。

 剣でもって切られるとしたら流石に避けるだろう。しかしそれでも万が一の事を考えて剣で切りかかるフリをし、二本の指刀で手を打ちすえたわけであるが……

 

 まさかこうもきれいに攻撃に対して無反応だとは思いもよらなかったのである。

 

 フツーは『迫ってくるものが剣じゃ無いから当たってもいっかな〜〜 美少女の攻撃だし』と、一瞬の間に目視で判断した等という非常識な事は考えまい。変態チックだし。

 

 

 「えぐ、えぐ……びぇええ〜〜〜〜〜〜っ」

 

 「え? あ、ちょ、ちょっと、その………」

 

 

 まるで的のように微動だにせず指刀を自分から受けた横島。

 

 同情を引く為の泣き真似は行い慣れているのでめっさ上手い。

 ランクAの技術点で、本当に六,七歳の子供の様にペタリと座り込んで大泣きするという演技を披露して見せている。

 コツは口を閉じずに下唇を動かす事。これで子供のマジ泣きだ。

 

 流石に少女もこれには困った。

 

 いや、只者では無いと確信しての行為だったのだが、性根はお人好しである彼女だから、こんな様を眼にすれば自信も揺るぐというもの。

 

 何しろ(見た目)男の子のマジ泣き。

 こう泣かれると自分が見た燕の掴み獲りが単なる偶然で、本当に無関係な単なる男の子ではないのか? 今の自分の行為は単なる悪事以外の何物でもないと思い知ってしまう。

 

 この少女自身、戦闘能力を含めてまだまだ人生経験が足りず、修業不足なのだからそう“誤解”してしまうのも仕方の無い事なのかもしれない。

 相手が悪いだけとも言うが。

 

 

 「あ〜〜っ?! ナニ泣かせてるアルか〜〜〜っ」

 

 「え? あ、古…」

 

 

 少女がオロオロしている間に、いつの間に駆けて来たのだろうか、同級生であり自分と同じく武道四天王の一人である古が子供教師と二人連れでこっちに駆けつけて来ていた。

 

 

 「あ、あれ? 刹那さん」

 

 

 手紙を奪われるという大失態を披露し駆け付けたまでは良かったが、そこで見た光景は自分より年下っぽい男の子を泣かせた(であろう)教え子の姿。おまけのその手には奪われたはずの親書まで握られている。

 そりゃあ固まりもするだろう。

 

 

 「こんなコドモ、泣かせてはいけないアルよ?!

  お〜ヨシヨシ。怖かたアルか〜〜?」

 

 

 古は横島に駆け寄り、これ見よがしにギュッと抱き締め頭を撫でてあやした。

 

 

 

 「ちょ、まっ!! 古ちゃん!! アンタどさくさに紛れてナニを……うぷっ」

 

 

 

 無論、彼の小声の訴えなど完全スルーの方向で。

 

 少女…桜咲刹那からは陰になって見えていないようだが、古の口元はニヤリと歪められており、チャンスとばかりにこのボーイ忠夫にセクハラ気味の虐めを行っていた。

 ひーんひーんと逃げようとしているのだが、先に演じたのが“叩かれた男の子”なので痛がっているようにしか見えず、逃走の助けにもなりゃしない。自業自得というよりタイミングが悪いだけなのだが。

 

 そんな不幸な少年がズルズルと引っ立てられてゆく様を目の端に入れつつ、子供先生は刹那から眼を離さないでいた。

 

 刹那としてはかなり気拙い状況であるが、今更あの子供に謝ろうにも叩いた理由は挙げられない。

 下手の口を挟めばあの古が一緒なのだから騒ぎが大きくなってしまう可能性が高い。それでは護衛としては勤まらないではないか。

 

 それに表立った行動は拙い。

 自分の得物は何とか鞘袋に収められたのだが、それでも子供に対して何かやったという事実はどうしようもなかった。

 

 

 はっきり言って、今まで護衛をしてきた中で一番の失態だ。

 

 

 あの男の子に対してかなり心を痛めてはいたが胸の内だけで謝罪し、刹那は子供教師に落し物ですと手紙を手渡して、注意を促すに止めその場を後にした。

 

 

 その甲斐あって、刹那の背を見送っている子供先生事ネギ=スプリングフィールドは、

 

 

 『あんな子供を泣かせて謝りもしないなんて……

 

  やっぱりカモくんの言ってたように桜咲刹那さんが西のスパイなの……?』

 

 

 と、誤解を深めてしまっていたのだが。

 

 

 

 

 影に隠れて護衛するが為、魔法の飴を使って子供となった横島忠夫。

 

 子供というメリットを最大限に生かせた所為でおもっきり周りに迷惑を振りまいている訳だが……

 

 やはり天才的なトラブルメイカー。

 ドコに世界にいようとも誤解を飛び火させてゆくのは相変わらずのようである。

 

 

 

 

 

 

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                 ■六時間目:寺へ…。

 

 

 

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 初っ端から何だかトラブルが発生していた様であるが、それでも気を取り直すのが早い事で定評のある3−Aの少女達。

 京都に着き、清水寺に到着した辺りで既にテンションは回復していた。

 

 予定では14:00到着であったのだが十五分ほど遅れてしまっている。まぁ、修正の範囲内であるが。

 

 

 「京都ぉ——っ!!」

 

 「これが噂の飛び降りるアレ」

 

 「誰かっ!! 誰か飛び降りれっ」

 

 

 騒がしい事この上も無い。

 こんなクラスで委員長をしている少女の心労も凄そうだ。

 

 清水寺——

 正式には音羽山清水寺といい、造られたのは今から千二百年以上昔。西暦にして七百八十年くらいで、奈良時代の末あたりだとされている。

 

 結構、古い歴史を持つ寺院ではあるが当時の木造建築の寺の常か、何度も火災にあって徳川家光に再建してもらってた。

 

 少女らが騒いでいた本堂の“清水の舞台”……所謂『清水の舞台から飛び降りたつもりで…』のアレだが、あそこは観音様に能や踊りを披露する場で、現在は国宝に指定されているそれはそれは大切な場だったりする。当然、バンジージャンプの会場ではない。

 

 因みに飛び降りる理由は自殺とかでは無く、観音様がいらっしゃられる補陀洛浄土へ旅立とうとしたのが大半だったとか。

 仏教の思想から言えば自殺という重罪を犯した者は地獄行きという気がしないでもないのだが。

 

 ここで、飛びおりれと…まぁ、口にしたのは鳴滝風香であるが…提案した清水の舞台から飛び降りる行為であるが、実のところ意外に生存率は高かったりする。

 無論、生存確率が“高い”というだけで死なない訳ではないのだから危険行為である事は言うまでも無い。

 

 如何に奇人変人集団として知られている3−Aの生徒とはいえ飛び降りようとする少女は流石に少ないのだが、“飛び降りられる少女”はそこそこいたりする。

 それでも何とかそーゆー行動をかます生徒が出なかったので“いいんちょ”事、雪広あやかもホッと胸を撫で下ろしていた。

 

 何せ、その“飛び降りられる”生徒の筆頭である長瀬楓は、電車内で乗り物酔いでなってしまったのか顔色が悪くグッタリとしていたのだから。

 

 

 「う゛〜……」

 

 「大丈夫アルか? 楓」

 

 「まだちょっと気分が悪いでござるよ……」

 

 

 楓と古は同じ班の少女達…超 鈴音、四葉 五月、春日 美空、葉加瀬 聡美の四人からやや遅れてクラスの最後尾を歩いていた。

 

 当たり前であるが横島は班行動には加わってはいない。

 幾らなんでも子供を混ぜて一緒に歩くのは目立ちすぎるのだ。只でさえ子供が教師をしていて目立つのだから。

 だから彼は覗きで鍛えた穏行でもって二人について来てたりする。

 

 

 『正直、スマンかった』

 

 

 寺社の影から謝る声が聞えてきた。

 

 相変わらず無茶苦茶なレベルの穏行で、楓ですら姿を見出せないのであるが不思議と彼が土下座している事だけは古にも解ってしまう。

 穏行しつつ土下座する男。相変わらず規格外だ。

 

 

 「あ〜……

  いや、拙者らも悪乗りし過ぎてたでござるからお気になさらずとも結構でござるよ」

 

 「そーアルな…ちょとやり過ぎたアル」

 

 

 楓も古も珍しく反省の意を見せている。

 本当に珍しいのであるが、新幹線から降りて冷静になってみるとやり過ぎの感は否めなかったのだ。

 

 

 彼女らの反省とは、言うまでもなく車内でのドタバタ騒ぎの事である。

 

 

 無自覚ではあったが、二人は横島と共に行動する事を知って浮れていたようだった。

 だからこそあんな無茶な設定を披露しまくってたのだし、平気で自分の胸に掻き抱いたりできたのであろう。

 

 現に今になってかなり恥ずかしい事をしたと思い知らされているし。

 

 

 そしてそんな楓に横島が謝り倒している理由は、新幹線内で発生した謎の事件……“108匹カエルさん大発生事件”が関わっていた。

 

 何だかよく解からないのだが、恐らくは西の刺客の妨害工作(悪戯?)。

 横島が少女らから逃亡してお手洗いに身を隠している間に、彼女らの車両が108匹ものカエルで満たされてしまっていたのだ。

 

 一応、全てのカエルは古達の活躍で捕らえられたのであるが、こんな珍事件が勝手に発生する訳も無い。当然、仕組んだ者がいる筈。

 あの時、古が子供教師ネギと共に車内を駆けていたのは、早くこの件を横島に伝えようと古が急に駆け出したネギの後を追う様に捜しに出ていたからだ。

 

 引き摺られている道中で横島はその全ての話を聞き終えていたのであるが、彼は西の行動が本気なのかおちょくっているだけなのか判断に苦しんでいた。

 

 カエルの式で持って騒動を起こして親書を奪う…というのが狙いだとでもいうのだろうか? 

 横島とて学園長の語っていた“魔法の秘匿”という点をわりと守って生活を続けている。

 そりゃあ確かにオコジョになんぞされたかないが、仕事として受けた以上は守秘義務はついてくる。その程度の事くらいは弁えているつもりだ。何だかんだいってプロのGSなのだから。

 

 だからこそ、そんな“秘匿”という言葉から掛け離れたその珍騒動を起こした向こうの考えに頭を痛めているのである。

 

 何つーか……やる気を削がれる一件やなぁ……

 それが狙いだとしたら大した……モンでもないか…作戦のアホらしさがオレと同レベルやんか…

 

 等と溜息を吐いている間に彼は古の手によって少女らが満載の車両に連れ帰られていた。

 

 彼がやっと気付いて慌てても時既に遅し。

 横島は又しても古の膝の上に拘束されてしまったのである。

 

 

 オレのアホぉ〜〜……

 

 

 そう唸っても後の祭りである。

 そん時、楓がぐったりとしているのを見つけて、理由を聞いた横島は『実はカエルか苦手☆』という彼女の弱点を知ったのだ。

 

 普段なら絶対にしない行為であるのだが、性犯罪の被害者宜しくトイレでべそをかいてしまう程にまで追い詰められていた横島は、『今、復讐の時!!』とばかりに自分の持てる全ての知識をもって楓に対してカエル談義をおっ始めたのである。

 

 その話は多岐にわたり、日本でのカエルの分布図やら生態、背中にオタマジャクシをペタリと貼り付けて移動するヤドクガエルの話やら、カエルに寄生して生きる生物、カエルの妖怪、はたまたエグい系の御伽噺まで含まれていた。

 それらを臨場感たっぷりに楓に伝えまくる横島の無駄な技術には眼を見張るものがあり、超や五月も感心して耳を傾け、横でウッカリ耳にしていた美空ですらカエルの幻臭を感じてしまった程だ。

 

 当然ながら楓が食らったダメージは計り知れない。

 何せ彼女は、古の膝の上に拘束されている横島をマジ泣きの眼でやめてやめてと見つめていたくらいだ。

 

 そこに至り、横島は我に返った。

 

 何だかんだで人の良い彼は、楓に対してとんでもない事をしてしまったと自覚した瞬間、古の拘束から完全に脱し、空中で土下座してそのまま床に着地するという、伝説の技の一つ『空中土下座』を披露し、全身全霊の土下座でもって楓に謝り倒していたのだった。

 

 楓も途中からやり過ぎたと自覚があったし、ここまで真剣に心から謝罪している横島に憤りを感じる事も無かったので直にその謝罪を受け入れている。

 古にしてもイっちゃった目でカエルについて動物学者も真っ青に知識を語りまくっていた横島に引き気味だった事もあり、やりすぎを痛感していたのでそれで手打ち。今に至っているという訳だ。

 

 こんなしょーもない事で“程々”という“加減”を理解した(思い知った?)三人だった。

 

 

 さて——

 横島の熱血カエル講座によってのダメージはまだ楓から抜け切っていないので、古と共に最後尾を歩いているのだが……そのお陰というか何と言うか、横島と作戦を練るチャンスが訪れている。

 

 

 『まず、今回は楓ちゃんがあの子…ええ〜と、近衛 木乃香ちゃんね?

  彼女に着いて行って守ってほしいんだ』

 

 「承知」

 

 

 物陰とはいっても、完全に護衛ターゲットが目に入る場所。そこら辺は覗きで…じゃない、プロとして鍛えられている。

 

 黒髪ロングの可愛らしい少女で、おだやかに京都弁を喋り優しげな雰囲気を漂わせてせた大和撫子。

 プロポーションにややボリューム欠けるが、それがまた年齢相応で可愛らしさに拍車を掛けている。

 

 四,五年もすると横島は声をかけずにはいられないであろう、将来性が非常に高い美少女だ。

 はっきり言って、近衛(あのジジイ)の孫とはとても思えない。

 鳶から鷹…は良く聞くが、福禄寿が弁天様…はあんまりだと横島は思う。それ以前に福禄寿は爺さんだから、もし産んでしまったら絶望するが。誰得だというのか。

 

 それにしても似てない爺孫だ。欠片も共通点がない。

 よっぽど優性遺伝子がかんばったんだろうなぁ…と横島は元より、楓や古すらも感心しきりである。

 

 その楓らの話を聞いても、かなりマイペースである事を除けば悪口に当たる点は思いつかないとの事。

 横島にしてもあーぱー娘の護衛より、木乃香のような心身共に美少女な娘を守る方がやり甲斐があるというものだからコッソリ張り切ってたりするし。

 

 

 極自然に、親書の件より美少女護衛の方へと優先順位が移っているのが実に彼らしい。

 

 

 ともあれ、一応は横島も気をつけてはいるのだが、あまり近寄ると余計な騒動を生む気がビンビンにする。

 特にあの鞘袋を持った少女はずっと護衛対象である木乃香に意識を向け続けているのだから。

 

 いや、説明すれば事足りるのであるが、横島はまだその少女剣士である桜咲刹那と正式な顔合わせを行っていない。

 それに、楓の話によれば彼女は横島に対して良い印象を持っていないとの事。

 

 

 『オレ、何かしたか…?』

 

 「いや…拙者にもサッパリ」

 

 

 美少女に嫌われるという事に慣れてはいるが痛くない訳ではないのでやっぱり心が痛い。

 

 

 まさかロリ否定の最終防壁超倫理回路(ジャスティス)すら気付かぬ内に夢遊病者が如くセクハラをかましていたとか……?

 いや、まさか…だがオレだし……

 

 

 自分に自信が無く、絶対に中学生にセクハラなんぞやる気は起きないぞ!! と言い切れ無い悲しさがそこにあった。

 

 実際は楓の説明がやたら無意味に深読みさせているだけなのであるが、横島はもとより当の楓すらその事に気付いていない。

 

 まぁ、旅行から帰れば誤解を解くチャンスもあらぁ…と深く溜息を吐いてその件を棚に置いた。

 

 

 『で、古ちゃんはあの先生に着いてって欲しいんだけど……』

 

 

 そこまで口にし、横島はふと欄干から京都の街を見渡し、

 

 

 「わ——スゴイ

  京の街が一望できますね——♪」

 

 

 等と楽しそうにしているスーツ姿の子供に眼を向けていた。

 

 少女らの胸くらいまでしかない小柄な体。

 見事な赤い髪。

 知的なんだか背伸びをしているだけなんだか判断の難しい印象の眼鏡。

 背中に背負った背丈より長い杖……

 

 いやそれより何よりも、

 

 

 『なぁ、古ちゃん。

  あの子が先生なんか? 担任の?』

 

 「そうアルよ?」

 

 

 最初、車内で出会っていたりするし、名前も近衛から聞いてはいたのであるが……まさかあんな子供が教師だとは塵程も思っていなかった。

 

 つーか、もっと先に近衛に写真なり提示してもらえという話もある。

 しずな先生がいる時点で教師らの顔を見回す優先順位が変わってしまって無理だろうとは思うが。

 

 因みに、もう一人魔法先生が着いて来ているのだがそっちは自然にスルーされている。

 独身で美形は生涯の敵なのだから。

 

 

 「何アル?」

 

 

 そんな横島の葛藤(?)等知る由も無い古は、彼がいるであろう建物の陰に向って首をかしげる。

 

 

 『あのさ…労働基準法って知ってる? あの子ってどう見ても小学校低学年だよ?

  それともオレみたくあの飴食って若作りしてんのか?』

 

 

 いや、十歳(数えであるから実年齢は九歳)に若返って教師をする意味はあるのか? という疑問はさておき、横島としてはそこんトコをツッコミをいれたくなる。

 

 横島から見ても可愛らしい子供であるのが何だか腹立たしい。

 将来は確実に自分の怨敵になるであろう容貌と、妙に美少女に纏わり付かれているモテモテマンなオーラが横島の勘にビンビン警鐘を鳴らしている。

 

 親書の一件が無ければ見捨てたいよーな気さえしてくるのだ。

 

 

 「何やら不穏なオーラを感じるよーな気がするアルが……ネギボウズは間違いなく子供アルよ?

  老師みたいな下心見え見えのエセ子供心は感じられないアル」

 

 『悪かったな——っ!! 穢れた大人でスマンの——っ!!』

 

 

 

 

 そうこう話している間に、少女らの群れは移動を再開する。

 当然、楓らも後を追い、横島は正しく影のように二人の後を追った。

 

 少女らを追うより、楓と古に意識を向けて追った方が他者に発見され難いであろうとの判断である。

 

 

 『それ以前に、これだけ見事な穏行を見破れる人間が果たして何人もいるものでござろうか……?』

 

 

 楓としてはそこにツッコミたかった。

 何せ自分でも声を掛けてくれないと気配の“け”もつかめないのだから。

 尤も、そんな楓の疑問なぞ知った事ではなく、少女らの列は予定通りに見学コースに向かうのだが。

 

 何が楽しいのかサッパリであるが、少女らの一団はキャイキャイ騒ぎつつ、それでも順路通りに境内を抜けて行く。

 

 そしてその最後尾を何だか妙に落ち着いた雰囲気を漂わせつつコドモ先生が着いて行っているのが見えていた。

 

 ……なんつーか、妙にジジむさい。

 

 じっと子供教師に眼を向けていると、先程の年齢詐称の疑念が高まって行く。

 

 いや、学園を出るまでは小学校低学年のはしゃぎっぷりを披露していたというのに、現地に着いたら急にこれなのだ。無理もなからろう。

 

 そんなコドモ先生を見つめていると、件の先生が肩に乗せている小動物に話しかけつつ歩いているのに気付く。

 

 はて? 動物を相手に独り言?

 実は寂しい子供だったのかと思ったのであるが、よく見ればその小動物……フェレット? いや…イタチか?…はちゃんと受け答えをしているではないか。

 

 

 『あれ? ひょっとしてアレは使い魔なんか?

  もう使い魔や持っとるんか? あの歳で?』

 

 

 横島の知っている範囲で使い魔を持っていたのは魔法料理店の店長くらいだ。

 彼女とてこんな歳から使い魔を連れていた訳ではなかろう。

 というか、魔法学校を卒業しているという話であるから、やっぱり年齢詐称の線が濃厚である。

 

 

 女子中学生とウハウハする為にコドモの姿となったか。外道め…

 あらぬ疑いは己のアイデンティティ(ロリじゃない)を守る為、全く謂れのない八つ当たりとして暗いエネルギーを高めていった。

 

 と……?

 

 

 「あンッ?!」

 「きゃあ」

 

 「え?」

 「な…っ?!」

 

 

 唐突に少女らの悲鳴が響いた。

 

 楓らも驚いて駆けつけると、恋占いなどで有名な地主神社の境内でそれは起こっていた。

 

 

 「は……?」

 

 

 それを見た横島……と、楓らは唖然とした。

 

 地主神社の御本殿の前には、10メートルほど離れて置かれている膝の高さほどの2つの守護石があり、片方の石から反対側の石に目を閉じて歩き、無事たどりつくことができると恋の願いが叶うと知られている。

 よく言われている話は、一度で辿り着ければ恋の成就も早く、二度三度となると恋の成就も遅れ、また人にアドバイスを受けた時には人の助けを借りて恋が成就するというもの。

 もちろん様々な諸説はあるだろうが、そう言った“謂れ”が地主神社を良縁祈願、縁結びの神社として広く知らしめているのだろう。

 当然の様に3−Aの少女らもノリ良くこれにチャレンジした様なのだが……

 

 何とそのルートのど真ん中に落とし穴が掘られており、チャレンジした内の二人が見事その落とし穴に落下してしまったというのである。

 

 ご丁寧にも中にはカエルが入れられており、こんな場でこんなタイミングでのこんな悪意ある悪戯は明らかに麻帆良の生徒を狙った妨害行動…つーか嫌がらせであろう(楓にとっては必殺レベルであるけど)。

 

 だが、何より驚いたのは、その嫌がらせ具合…というかセコさレベルだ。

 

 

 『……やっぱオレと同レベルか? いやしかし……』

 

 

 何ともくだらない理由であるが、それでも横島に何か近親感を感じさせてしまうほどセコいのだ。

 

 近衛の話によれば、東西の魔法関係の確執が絡んでいるようであったし、京都と言えば千年続く呪術の魔都だ。

 そんなところの組織なんだから、辻の鬼やら追儺やらを使ったおどろおどろしい呪術が行われかねない。

 前世が陰陽術師だったから…という訳ではないだろうが、だからこそ横島も病的ともいえるほど周囲に気を使っていたのであるが……ここに来てまだこのセコイ嫌がらせ(、、、)

 逆にどう対応すればよいやら悩んでしまう。

 

 かといって、油断を誘う為の茶番か下準備の可能性もゼロではない。

 

 呪術を相手にする時は策の探り合いだと身をもって知っているからの考え過ぎであるのだが……まぁ、今はまだ解るまい。

 

 そうこう彼が真面目に取り掛かって良いやらテキトーに接して良いやらと悩み続けている間にも、あっさりと少女らは気を取り直して先に進んでゆく。

 横島達も仕方なく悩むのを止め、慌てて後を追って行った。

 

 

 次に一行が向ったのは三筋の水が滴り落ちる小さな滝を形作った音羽の滝だ。

 

 わりと知られていないのであるが、清水寺の名はここから由来してたりする。

 何百年も前、かの弁慶や義経も口にしたと言われている清水の音羽の滝であるが、その清水は古来「黄金水」「延命水」とよばれ、本来は“清め”の水として尊ばれており、滝行を伝統とした水垢離の行場であり、またお茶の水汲み場となってきていた。

 

 その霊験あらたかな水は、口にすればその願いが叶うとされており、本殿を後ろに置いて向って右から健康・学業・縁結びを意味されているそうな。

 尤も、それは観光用だというのが定説だったりするが、少女らにとっては縁結びが叶うという点に意味があるのだろう。

 当然の様に少女らは左側(、、)に集中していた。

 

 

 「むっ…」

 「!」

 「う、うまい?! もう一杯!!」

 

 

 青汁じゃあるまいし。

 史伽なども、『いっぱい飲めば いっぱい効くかも——』とぐびぐび飲んでいたりする。

 

 因みに、この音羽の滝の水は三筋全て飲めば願いは叶わないし、一杯以上飲む毎にご利益の力は下がってゆくとの事。

 そんな作法など知る訳も無く、少女らはその霊験あらたかな水をがぶがぶ飲み続けていた。

 

 

 「おお、何やら楽しそうでござるな。拙者も気付けに頂くとするでござる」

 

 『つーか、霊験あらたかな水を気付けにするってどーよ?』

 

 「では、そのあらたかな霊験でもって横島殿は邪気を祓ったらどうでごさるか?」

 

 『この清廉潔白なオレに何を祓えと?』

 

 「日本語に喧嘩売ってるでござるか?」

 

 

 何だかんだで二人で行動している楓と横島は、わりと呑気にそんな話をしていた。

 

 彼女もドタドタと騒ぐより、ぼんやりと風景を楽しみつつ、こんな冗談を言い合って歩く方が好きである。

 それに……何だかとても楽しいかった。

 

 確かに車内では横島によってエラい目に遭わされたのだが、自分も彼をエライ目に遭わせているのだし、自業自得として受け入れれば何の屈託も残らない。

 

 それに今、こうやって話をしているだけで何だか心が軽くなってゆくのが感じられてしまう。

 我ながらお安い女だとは思うのであるが。

 

 ——妙なものでござるなぁ……

 

 等と思いつつも、浮かぶのは小さな笑み。

 彼女がそれに気付いていないのは幸いなのやら残念なのやら。

 

 と——

 

 

 『……ん? 何か酒臭くないか?』

 

 「? はて……そう言われれば……」

 

 

 横島の言葉を聞き、楓も鼻を利かせれば確かに酒の臭いがする。

 それもかなり強い。つまりすぐ近くという事だ。

 

 ハッとして二人が周囲を窺うと……

 

 

 「……何か みんな酔いつぶれてしまったようですが……」

 

 「いいんちょっ しっかりしなさいよ!!」

 

 「ええ———っ?!」

 

 

 「『な……っ?!』」

 

 

 水を飲んだ女生徒が何人も酔いつぶれ倒れ伏しており、ツインテールの少女がクラス委員を揺すって起こそうと努力を続けていたのである。

 

 縁結びの清水を飲んだ女生徒だけ、という点を見、楓は慌てて跳躍して屋根に登った。

 

 

 すると……

 

 何と屋根の上には酒樽が置かれており、ご丁寧にもホースによって縁結びの筋に酒が流れ込むように仕掛けられていたのである。

 

 

 『な、なんつったらいいか……大雑把なのやら周到なのやら……』

 

 「その気持ち解からぬでもないでござるが……被害者の中に……」

 

 『え?』

 

 

 物影に潜んだまま移動し、被害者メンバーの顔を窺ってみると、

 

 

 『く、古ちゃんまで……』

 

 

 何と中華カンフー娘は見事に酔っ払ってうつ伏せにぶっ倒れていた。

 

 横島は呆れ返るだけであったのだが、楓は妙な事が気になっている。

 

 

 ——むむぅ?

   古が……縁結びを……?

 

 

 チラリと彼が隠れ潜んでいるであろう柱の陰に眼を向け、ふぅん…と納得をしてからもう一度眼を回している古に眼を戻す。

 以前から古と横島がじゃれているのを目に入れたときに感じていた言い様の無いムカツキがここに来て復帰してきたようで、楓は微妙に表情を歪めていた。

 

 

 

 「鈍……

  楓よ……まさかまだ無自覚なのか?」

 

 

 気配は全く感じられないのだが、褐色の肌の少女…真名の魔眼には横島の姿は捉えられていた。

 

 その真名すら感嘆するほど隠業術を行使している横島と古に視線を送っている楓の様子に、真名は深い溜息を吐く。

 

 

 彼女はプロであるから無駄な行為は行わない。

 だから雇われてもいない関西呪術協会からの防護班には加わっていないのだ。

 

 だが、クラスメイトとしては何だか助言というおせっかいを掛けたくてしょうがなかったりする。

 

 

 「いい加減、自分を顧みろ。

  異性に感けていれば仕事に支障が出るぞ」

 

 

 直接は語っていないのだが、口には出していた。

 

 直接言ってやりたいのは山々だが、『横島忠夫に想いを持っている』と言霊で括ってしまう可能性がある。

 こーゆーのは自覚が大事なのであるし。

 

 

 やれやれ…と肩を竦め、級友を介抱している少女らの輪の中に混ざってゆく。

 

 何だか先が思いやられると苦笑しながら……

 

 

 

 

 確か相手も魔法関係者であるから、秘匿義務は知っているはずである。

 その中にはちゃんと無関係な人間を巻き込まないという事は明記されている筈。

 

 確かに行為自体はセコく、性質の悪い悪戯というレベルではあるが、完全に一般人を巻き込んでいるではないか。

 

 

 『関西呪術協会……か……』

 

 

 バスの中に女生徒達を放り込んでゆく子供先生らを見守りつつ、横島は手段を選ばない西の刺客に対し一人正義の怒りを燃やしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……の割りに、ちゃっかりと水筒に詰め込んでいるでござるな」

 

 「せやかて、マジええ酒で美味いんやもんっ!!」

 

 




 今回の更新はここまでです。
 つかバイトから帰宅、雨でぬれたもの選択→その間調理→ああいかん課題が→おや? こんな時間…の連続攻撃でヘロヘロっス。我ながら体力値低っ
 投稿する間がなかったよ マイあんくる……

 板での管理だから修正込み楽だからマシなんですけどねw
 ま、ヴィータちゃんが家に来るまでもうひと踏ん張りしますか。

 てな訳で続きは見てのお帰りです。 
 ではでは~

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