舞翼です!!
はい、アンケート結果が出ました。
3のキャリバー書いて、後日談ですね(^^♪
誤字脱字があったらごめんよ。
それではどうぞ。
秋葉原 某所。
あの事件の後、警察が到着してすぐに、新川恭二は逮捕された。
それから数時間後、新川昌一、金本敦が逮捕された。
俺と木綿季と詩乃は、御茶ノ水の病院で検査を受けてから、軽い事情聴取を受けた。
その日はそのまま病院で一泊した後、早朝に覆面パトカーでそれぞれの家に送ってもらった。
翌々日。
学校が終わった放課後に、学校終わりの詩乃を連れ立って、秋葉原のとある喫茶店に訪れていた。
俺たちの眼の前の席には、眼鏡をかけたスーツ姿の役人、菊岡誠二郎が座っている。
菊岡は、スーツの内ポケットから黒革のケースを取り出し、一枚抜いた名刺を差し出した。
「はじめまして。 僕は総務省総合通信基盤局の菊岡と言います」
穏やかなテノールで名乗られ、詩乃も慌てて名刺を受取り、会釈を返す。
「は、はじめまして。 朝田……詩乃です」
言った途端、菊岡は口許を引き締め、ぐいっと頭を下げた。
「この度は、こちらの不手際で朝田さんを危険に晒してしまい、本当に申し訳ありませんでした」
「い……いえ、そんな」
慌てて、詩乃は頭を下げ返した。
菊岡はニッコリ笑い、
「それじゃあ、全容解明には至っていないんだけど……。 判った範囲で今回の事件を説明するね」
「……菊岡さん。 事件の説明してくれるのはありがたいんだけど……」
木綿季が一言文句を言おうとした所で、先程注文した物がやってきた。
「お待たせいたしましたー♪ご主人さま♡お嬢様♡」
フリフリのエプロンドレスに身を包んだ女の子が、注文した物をテーブルに並べた後、笑顔で戻っていった。
女の子を見送った後、木綿季が文句を口にした。
「……菊岡さん。……何で事件の説明をする場所が、
「……私も思っていたわ」
「……ああ、俺もだ」
「え? だって、三人共この後も用事があるんだよね? なら、なるべく近くの秋葉原を選んだんだけど……。 それに、ほら。 一度こういう店も体験したかったからさ。 さ、君たちも食べなよ」
笑顔でそう言いながら、眼の前に置かれた、プリンアラモードにスプーンを立てる。
「なぁ、普通の喫茶店にする選択肢はなかったのか?」
「ずっと前から、入ってみたかったんだよメイドカフェ」
菊岡はニコニコ笑いながら、プリンを口に運んでいる。
「……詩乃さん、警察に通報しようか。 公務員が女子高生をナンパしてますって」
「通報よりも、ツイッターに書き込んだ方がいいかしれないわ」
「うわぁーッ! そ、それだけは勘弁してっ!?」
慌てた様子で、木綿季と詩乃を止めに入った菊岡は、それでも最後のプリンの一欠片を食べた後、居住まいを正した。
俺は、恐る恐る聞いた。
「……それには、俺は入ってないよな」
「大丈夫。 和人は入っていないから」
「そうね。 命の恩人だもの」
「そ、そうか。 よかった」
菊岡は咳払いし、
「――話す内容があれだからね……。 少しでも気分を上げようと思ってさ」
「そういう事にしといてあげるよ」
木綿季の言葉を聞き、ホッと安堵の息を漏らした菊岡は、傍らに置いてあったビジネスバッグからタブレッドを取り出して、話始めた。
――三人の死銃について。
まず判った事は、GGOの中で死銃を操っていたのは、SAO時代は《赤目のザザ》だったプレイヤー、名前は新川昌一。
新川昌一は、新川恭二の実の兄であった。
そして、彼ら兄弟と組んでいた共犯者、金本敦。
SAO時代の名前は、《ジョニー・ブラック》。
《ラフィン・コフィン》では、ザザとコンビを組んでいた毒ナイフ使いだ。
金本がどの段階で計画に加担したかは、現在事情聴取しているらしい。
少なくても、最初の二件の殺人は新川兄弟の犯行らしい。
ゲームの中を恭二が、現実世界は昌一が担当していたらしい。
そして、今回の死銃のターゲットだったのは、《ゼクシード》、《薄塩たらこ》、《ペイルライダー》、《ギャレット》、《シノン》。
「……あの」
詩乃は、この問いを聞かずにはいられなかった。
「新川君……。 恭二君は、これからどうなるんですか……?」
菊岡は指先で眼鏡を押し上げながら、
「昌一は十九歳、恭二は十六歳なので、少年法による審判を受けることになるわけだが……。 四人も亡くなっている大事件だからね。……彼らの言動を見る限りでは、医療少年院へ収容される可能性が高いと、僕はそう思う」
「そう……ですか」
詩乃はポツリと呟き、俯いた。
詩乃は数秒間何かを考えた後、顔を上げ、正面から菊岡を見る。
「あの……恭二君との面会は出来ますか?」
「すぐには無理ですが、面会は可能ですね」
「そうですか。――私、彼に会いに行きます。 会って、私が今まで何を考えてきたか……。 今、何を考えているか、話したい」
その言葉に、菊岡は本心からと見える微笑を浮かべると、言った。
「あなたは強い人だ。 ぜひ、そうしてください。 今後の日程の詳細は、後ほどメールで送ります」
それから別の用事があると言う事で、店を出た。
♦♦♦♦♦♦♦♦
菊岡と別れた後、ノストラジックな下町の風景が広がる、御徒町の路地を右左に分け入り、やがて一軒の小さな店の前に到着した。
黒光りする木造の建物は無愛想で、そこが喫茶店だと示しているのは、ドアの上に掲げられた、二つサイコロを組み合わせた意匠の金属板だけだ。
そこには、≪
無愛想なドアに掛けられたプレートは、《CLOSED》側になっている。
「……ここ?」
「「ああ(うん)」」
俺は、躊躇いなくドアを押し開けた。
“かららん”、という軽やかな鐘の音に共に開いたドアを支えながら、木綿季、詩乃と続いた。
店内は、スローテンポなジャズミュージックが流れている。
「いらっしゃい」
そう言ったのは、カウンターの向こうに立つ、チョコレート色の肌の巨漢だった。
戦歴の兵士といった感じの相貌とつるつるの頭は迫力があるが、真っ白いシャツの襟元に結んだ小さな蝶ネクタイがユーモラスさを添えている。
店内には、学校の制服を着た、二人の女の子がカウンターのスツールに座っていた。
彼女たちのブレザーが、二人の制服と同じ色に、詩乃は気付いた。
「二人とも、おそーい」
「明日奈さん。 いじけないの」
そう言ったのは、栗色の長い髪を背中ほどまでに伸ばした女の子と、長い黒髪を背中ほどまでに伸ばした女の子だ。
「悪い悪い。 クリスハイトの話が長くてさ」
二人はすとんと床に降りて、慣れた様子で割って入った。
「それより、早く紹介してよ。 和人君、木綿季ちゃん」
「あ、ああ……そうだった」
詩乃は俺に背中を押され、店の中央まで進み出た。
「ボクが紹介するね。 こちら、ガンゲイル・オンライン三代目チャンピオン、シノンこと朝田詩乃さん」
「や、やめてよ。 木綿季」
思わぬ紹介の仕方をされ、小声で抗議するが、木綿季は笑いながら言葉を続けた。
栗色の、長い髪を揺らす女の子を示し、
「こっちの女の子が、ボクの唯一無二の親友、結城明日奈」
「はじめまして、結城明日奈です。 よろしくね」
明日奈は微笑みながら、詩乃に軽く会釈をした。
木綿季は、もう一方の女の子に左手を向ける。
「それでこっちの女の子が、ボクの姉ちゃん。 紺野藍子」
「はじめまして、紺野藍子です。 よろしくお願いします」
藍子も微笑みながら、詩乃に会釈をした。
木綿季はカウンター奥のマスターに左手を向けた。
「で、マスターのエギルさん」
エギルはにやりと笑みを浮かべると、分厚い胸板に右手を当て、言った。
「はじめまして、アンドリュー・ギルバート・ミルズです。 今後ともよろしく」
詩乃はぺこりと頭を下げた。
「さ、座ろうぜ」
俺は六人掛けのテーブルに歩み寄ると、椅子を引いた。
詩乃と木綿季、明日奈と藍子が椅子に座るのを待って、エギルに向かって指を鳴らす。
「エギル、俺はジンジャーエール」
「あ、ボクも」
「あ……じゃあ、私も」
「明日奈さんと私は、お冷で」
注文が終わった後、俺は椅子に腰を下ろした。
「それじゃ、あの日何があったのかを、明日奈と藍子に簡単に説明するよ」
BoB本大会での出来事プラス、菊岡に聞かされた事件の概要を話終えるのに、ダイジェスト版でも十分以上要した。
「――と、まぁ、まだマスコミ発表前なんで、実名とか細部は伏せたけど、そういうことがあったわけなのでした」
話を締めくくると、俺は力尽きたように椅子に沈み込み、二杯目のジンジャーエールを飲み干した。
藍子と明日奈が身体を乗り上げ、
「……和人さんのバカ!」
「……木綿季ちゃんのバカ!」
と言い、額に軽くデコピンした。
「なんで、私たちに相談してくれなかったんですか」
「そうだよ、私たちも力になれたのに。 抱え込むのは、和人君と木綿季ちゃんの悪い癖だよ」
「「……ごめんなさい」」
俺と木綿季は、顔を俯けた。
「今度からは相談してくださいね」
「絶対だからね。 いい?」
「「……わかった」」
明日奈と藍子は椅子に座り直し、俺と木綿季は顔を上げた。
「あの……朝田さん」
「は、はい」
「私がこんなこと言うのは変かもしれないけど……。 ごめんなさい、怖い目に遭わせてしまって」
「いえ……そんな」
詩乃は明日奈の言葉を聞き、急いで首を左右に振り、ゆっくり答えた。
「今回の事件は、たぶん、私が呼び寄せてしまったものでもあるんです。 私の性格とか、プレイスタイルとか……過去とかが。 そのせいで、私、大会中にパニックを起こしてしまって……木綿季に落ち着かせてもらったんです」
「あの時の木綿季は、お姉さんしてましたね」
「うん、私も見たよ」
明日奈と藍子は、ばっちり洞窟シーン見ていたらしい。
「ともあれ、女の子のVRMMOプレイヤーとリアルで知り合えたことは、嬉しいですね。 これからよろしくお願いします」
「そうですね。 色々、GGOの話とかも聞きたいな。 友達になってくださいね、朝田さん」
明日奈と藍子は穏やかな笑みを見せると、テーブルの上に、手を差し出した。 白く、柔らかそうな手を見て――突如、詩乃は竦んだ。
友達、という言葉に胸が
ともだち。 あの事件以来、何度も望み、裏切られ、そして二度と求めないと、心の底に己への
友達になりたい。 そう言ってくれた明日奈と藍子という、深い慈愛を感じさせる少女の手を取り、その温かさを感じてみたい。
一緒に遊んだり、他愛も無いことを長話ししたり、普通の女の子がするような事をしてみたい。
しかし、そうなれば、何時か彼女達も知るだろう。
詩乃がかつて人を殺したことに、詩乃の手が、染み付いた血に汚れていることに。
その時、彼女達の瞳に浮かぶであろう嫌悪の色が恐ろしい。
人に触れることは――自分には許されない行為なのだ。 恐らく、永遠に。
詩乃の右手は、テーブルの下で固く凍り付いたまま、動くことはしなかった。
二人の少女が首を僅かに傾げるのを見て、詩乃は眼を伏せた。
このまま帰ろう、そう思った。
友達になって、というその言葉の温かさだけでも、暫くは詩乃の胸を温めてくれるだろう。
ごめんなさい、と言おうとしたその時――。
「詩乃さん」
微かな囁きが、怯え、縮こまった詩乃の意識を揺らした。
ぴくりと身体を震わせて、詩乃は左隣に座る木綿季を見た。
視線が合うと、彼女は小さく頷いた。
大丈夫だよ、とその眼が言っていた。促されるように、再び二人の少女に視線を向ける。
二人の少女は微笑みを消すことなく、手を差し出し続けている。
詩乃の腕は、鉛が括り付けたかのように重かった。
それでも詩乃はその枷に抗い、ゆっくり、ゆっくりと右手を持ち上げた。
二人の少女が差し出す手までの距離は、途方もなく長かった。
近づくにつれ、空気の壁が、詩乃差し出す右手を跳ね返そうとしているように感じた。
次の瞬間、詩乃右手は、明日奈と藍子の手に包まれていた。
「あ…………」
詩乃は意識せず、微かな吐息を漏らした。
何という温かさだろうか。 人の手というものが、これほどに魂を揺さぶる感触を持っていることを、詩乃は忘れていた。
何秒、何十秒、そのままでいただろうか。
明日奈は言葉を探すように、ゆっくり喋り始めた。
「……あのね、朝田さん……詩乃さん。 今日、この店に来てもらったのには、もう一つ理由があるの、もしかしたら詩乃さんは不愉快に感じたり……怒ったりするかもしれないと思ったけど、私たちは、どうしてもあなたに伝えたいことがあるんです」
「伝えたいこと? 私が、怒る……?」
言葉の意味が解らず聞き返すと、詩乃の右隣に座る俺が、どこか張り詰めた声を出した。
「……シノン。 まず、君に謝らなければならない」
俺は深く頭を下げてから、漆黒の瞳でじっと詩乃を凝視した。
「……俺、君の昔の事件のこと、明日奈と藍子に話した。 どうしても、彼女たちの協力が必要だったんだ」
「えっ……?」
俺の言葉の後半は、詩乃の意識に届かなかった。
――知っている!? あの郵便局の事件のことを……十一歳の詩乃が何をしたかを、明日奈と藍子は知っている!?
詩乃は全身の力を使い、握られてる右手を引き抜こうとした。
だが、明日奈と藍子は、詩乃の右手を握り続けた。
少女たちの瞳が、表情が、そして伝わる体温が、詩乃に何かを語りかけていた。
だが――何を? この手が拭えない血で汚れていると知った上で、何を伝えることがあるというのか?
「詩乃さん。 実は、私と木綿季と明日奈さんと和人さんは、昨日学校を休んで、……市に行ってきたんです」
藍子の口から発せられた地名は、間違えなく、詩乃が中学卒業まで暮らしていた街の名前だ。
「な、なんで……そんな……ことを……」
詩乃は、何度も首を左右に振った。
木綿季が静かに口を開いた。
「それはね、詩乃さん。 詩乃さんが会うべき人に会っていない、聞くべき言葉を聞いていないからだよ。 もしかしたら、詩乃さんを傷つけるかもしれない。 でもボクは、どうしてもそのままにしておけなかったんだ。 だから、新聞社のデータベースで事件のことを調べて、直接郵便局まで行って、お願いしてきたんだ。 ある人の連絡先を教えて欲しい、って」
「会うべき……ひと……聞くべきことば……?」
呆然と繰り返す詩乃の両隣、そこに座っていた俺と木綿季が立ち上がり、店の奥に見えるドアへ歩いて行った。
《PRIVATE》の札が下がるドアが開けられると、その奥から、三十代くらいの女性と、まだ小学生に入る前だと思われる女の子が歩み出て来た。
顔と雰囲気がよく似ている、きっと親子なのだろう。
でも、詩乃の戸惑いは深まるばかりだ。
なぜなら、親子が誰なのか。 詩乃には解らなかったからだ。
女性は、呆然と座ったままの詩乃を見ると、何故か泣き笑いを思わせる表情を浮かべて、深々と一礼した。
隣の女の子もぺこりと頭を下げる。
その後、俺と木綿季に促され、親子は詩乃の座るテーブルの前までやってきた。
明日奈と藍子が椅子から立ち上がり、詩乃の正面に女性を、その隣に女の子を掛けさせる。
カウンターの奥から、今まで沈黙を守っていたエギルが静かにやって来て、二人に飲み物を出した。
こうして間近で見ても、やはり誰だか解らない。
なぜ木綿季は、この親子が《会うべき人》だと言ったのだろうか?
いや、どこか記憶のずっと深い所で、何かが引っかかる気がした。
すると、女性が深々と一礼した。
続けて、微かに震えを帯びた声で名乗る。
「はじめまして。 朝田……詩乃さん、ですね? 私は、
名前にも、やはり聞き覚えがなかった。
挨拶を返すことが出来ず、ただ眼を見開き続ける詩乃に向かって、祥恵という母親は大きく一度息を吸ってから、はっきりした声で言った。
「……私が東京に越してきたのは、この子が産まれてからです。 それまでは、……市で働いていました。 職場は……町三丁目郵便局です」
「あ…………」
詩乃の唇から、微かな声が漏れた。
それは――その郵便局は、五年前の事件があった、小さな町の郵便局。
彼女は事件当時、郵便局で働いていた職員の一人だ。
つまり、俺と木綿季、明日奈と藍子は、昨日学校を休んであの郵便局に行った。
そして、既に職を辞し、東京に引っ越していたこの女性の現住所を調べ、連絡し、今日この場で詩乃と引き合わせた。
詩乃はそこまでは理解できた。 しかし最大の疑問は残っている。
なぜ? なぜ木綿季たちは、学校を休んでまでそんなことを?
「……ごめんなさい。 ごめんなさいね、詩乃さん。 私……もっと早く、あなたにお会いしなきゃいけなかったのに……。 あの事件のこと、忘れたくて……夫が転勤になったことをいいことに、そのまま東京に出てきてしまって……。 あなたが、ずっと苦しんでいることは、少し想像すれば解ったことなのに……謝罪も……お礼すら言わずに……」
涙を流す母親を心配するように、隣に座っていた瑞恵という名の女の子が、祥恵を見上げる。
祥恵は、そんな娘の三つ編みにした頭をそっと撫でながら続ける。
「……あの事件の時、私、お腹にこの子がいたんです。 だから、詩乃さん、あなたは私だけでなく……この子の命も救ってくれたの。 本当に……本当に、ありがとう。 ありがとう……」
「…………命を…………救った?」
詩乃は、その二つの言葉を、ただ繰り返した。
あの郵便局で、十一歳の詩乃は拳銃の引き金を引き、一つの命を奪った。
それだけが、詩乃のしたことだった。
今までずっと、そう思ってきた。
でも――――、でも。 今、眼前の女性は、確かに言った。
救った、と。
すると、瑞恵が椅子から飛び降り、とことこテーブルを回り込んで歩いてくる。
瑞恵は、幼稚園らしいブラウスの上からかけたポシェット手をやり、ごそごそと何かを引っ張り出した。
不器用な手で広げられ、詩乃に差し出された画用紙には、クレヨンで絵が描かれていた。
中央に、髪の長い女性の顔。 ニコニコと笑うそれは、母親の祥恵だ。
右側に、三つ編みの女の子。 自分自身。
ということは、左側の眼鏡をかけた男性は、父親に違いない。
そして一番上に、覚えたばかりなのだろう平仮名で、《しのおねえさんへ》と記されていた。
詩乃は、瑞恵から差し出された絵を両の手で受け取ると、瑞恵はたどたどしい声で、でもはっきりと言った。
「しのおねえさん、ママとみずえを、たすけてくれて、ありがとう」
その言葉を聞いた途端、詩乃の瞳から大粒の涙が零れ出した。
大きな画用紙を持ったまま、ただぽろぽろと涙を零し続ける右手を。
火薬の微粒子によって作られた
小さな、柔らかい手が、最初は恐る恐る、しかしすぐにしっかりと握った。
過去を全てを、受け入れられるようになるには、まだまだ時間がかかるだろう。
これからも苦しんだり、悩んだりするだろう。
それでも、歩き続けることは出来るはずだと、その確信がある。
なぜなら、繋がれた右手も、頬を流れる涙も、こんなにも温かいのだから。
~GGO編 完結~
今回は、明日奈さんと藍子さんを出しました~。
GGOに入ってから出ていなかったからね。
あと、死銃の三人は逮捕されましたよ。
さて、GGOが完結しました(^^♪
読者の皆さんが観覧してくれたおかげです!!
次回はキャリバー編ですね。
ご意見、ご感想、評価、よろしくお願いします!!