ソードアート・オンライン ~黒の剣士と絶剣~   作:舞翼

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ども!!

舞翼です!!

今回はユウキちゃんメインかな!(^^)!

それではどうぞ。


第82話≪シノンの闇≫

左右を流れていくビルと廃車両の量がどんどん減り、気付くとバギーは島中央の都市廃墟を抜けて砂漠地帯に突入していた。

キリトがスピードを落として、慎重な運転で砂丘の間を進んで行く。

シノンは、左手首に着けている時計に眼をやった。

針が示す時間は、午後九時十二分。

驚いたことに、河床(かわどこ)から上がり廃墟に突入してから、約十分しか経っていない。

その僅かな時間の間に、シノンのBoB本大会――いや、GGOというゲーム其の物(そのもの)が、大きく色合いを変えてしまっていたのだ――。

背後から、キリトがユウキに話し掛けていた。

 

「なぁユウキ」

 

「どうしたのー?」

 

「いや、スタジアムのあんなに広い場所から、よく俺と合流が出来たな、と思ってな?」

 

「四回目のサテライト・スキャンの時には、ボクは中央スタジアムに居たんだよ。 戦闘準備をしながらマップを見たら、kiritoとSinonがスタジアムに向かって来てるのを確認したんだ。 銃士Xさんを一撃で倒して、すぐに合流しに向かったんだ。 その時にシノンさんが居なかったから吃驚(びっくり)したよ」

 

「お前が気付いてくれなかったら、手遅れだったかもしれないんだよな。――何で死銃の存在に気付かなかったんだ……。 あいつはさっき、シノンの近くに現れたよな。 死銃は、自分を透明化する能力でもあるのか? 橋の所でいきなり反応が消えたり、衛星に映らなかったり、その力を使ったから透明化が出来たのか?」

 

シノンは両手でへカートを抱えながら、力なく囁いた。

 

「……だぶん、≪メタマテリアル光歪曲迷彩(オプチカル・カモ)≫っていう能力。――ボス専用って言われたけど……その効果がある装備が存在しても、不思議はないわ」

 

「なるほどな」

 

「此処でなら足音に耳を澄ませば大丈夫だよ。 下は砂だから、透明になっても足音は消せないし、足跡も見えるからね」

 

俺とユウキが言ってから、バギーを停止させた。

 

「……やれやれ、こうも見晴らしがいいと、隠れようにもなぁ……」

 

この砂漠に身を隠し、安全に態勢を立て直す為には、ただの砂丘やサボテンの影に隠れるだけでは不足だ。

シノンは周りを見渡し、少し離れた場所の岩山を見つけると、そちらを指差した。

 

「……あそこ。 多分、洞窟がある」

 

ユウキが手を打った。

 

「あそこの洞窟に隠れて、衛星スキャンを回避するんだね」

 

キリトはバギーのアクセルを踏んで切り返し、シノンが指差した方向に走らせた。

数十秒で岩山に到着し、周囲を回る。

北側の側面には、ぽっかりと開いた大きな洞窟の口が見つかった。

速度を落とし、バギーごと洞窟の中に走らせる。

洞窟の中に入れてエンジンを切り、キリトとユウキはバギーから降りると、大きく伸びをした。

 

「取り敢えず、此処で次のスキャンを回避しよう。 うん、そうしよう」

 

「ボクたちの端末にも衛星の情報が来ないのかな?」

 

シノンはバギーから降りて、壁際に移動してから苦笑した。

 

「あんたたち、こんな状況でもそうして居られるなんて凄いわね。――結論から言うと、私たちの位置情報は衛星に映らないわ。 もし近くにプレイヤーが居たら、グレネードを投げ込まれて揃って爆死よ」

 

「「な、なるほど」」

 

俺とユウキはシノンの左右に座り、HPを回復させる為にベルトのポーチを探って筒状形の緊急キットを取り出すと、首筋に当て、反対側のボタンを押す。

HPを三十パーセント回復出来るが、百八十秒も掛るので戦闘中に使っても意味はない。

シノンは左手首に着けている時計を確認した。

今の時刻は九時十五分、五回目のサテライト・スキャンが行われる時間だ。

だが、この洞窟の中は衛星からの電波は届かないので、端末のマップを確認しても意味はない。

シノンは左手を降ろし、洞窟の壁際に背中を預け、呟いた。

 

「………ねぇ。 あいつ……《死銃》が、さっきの爆発で死んだ、って可能性は……?」

 

シノンの問いに、キリトが応じた。

 

「いや……、トラックが爆発する直前、金属馬から跳び下りるが見えた。 あのタイミングじゃ無傷じゃないと思うけど……あれで死んだと思えないな……」

 

あれほどの近距離爆発に巻き込まれれば、普通なら大ダメージを受けるだろう。

――普通のプレイヤーなら。

でも、死銃は普通じゃない。

シノンは『そう』だけ答えると、へカートを壁に立て掛け、両の腕で膝を抱えた。

シノンが呟いた。

 

「さっきのお礼がまだだったわね。 助けてくれてありがとう」

 

「ボクたちも、助けるのが遅くなってごめんね」

 

「ああ、怖い目に合わせて悪かった」

 

キリトとユウキは小さく頭を下げてから、言った。

 

「……俺たちは行くよ。 シノンは此処で休んでるといい。 本当はログアウトして欲しいけど……大会中は出来ないもんな……」

 

「シノンさんは此処で休んでいてね……。 ボクたちは決着を付けてくるよ……」

 

俺とユウキは上体を起こし、光剣のバッテリー残量を確認した。

 

「え、待って……。 二人は死銃と、戦う気なの……?」

 

掠れた声でシノンが言うと、小さな頷きだけが返って来た。

二人からの言葉は勝利の確信ではなく、その逆だった。

 

「ああ、あいつは強い。 黒い拳銃がなくても、それ以外の装備やステータス、何よりプレイヤー自身の力が突き抜けている」

 

「ボクたちの力を合わせても、五分五分かもね。 これはボクたちの戦いだよ。 シノンさんを、これ以上付き合わせるわけには行かないよ」

 

最強。と言われている光剣使いの意外な言葉に、シノンは思わず光剣使いの顔を見た。

二人の瞳は、揺れているように思えた。

 

「…………二人でも、あいつが恐いの?」

 

俺とユウキは光剣を腰のスナップリングに吊ってから、苦笑した。

 

「ああ、恐いよ。 昔の俺なら、本当に死ぬ可能性があろうと戦えたかもしれない。 今は守りたいものが出来たからな。 命を軽く扱う事は出来ないさ」

 

「ボクも恐いよ。 ボクにも守りたいものがあるからね。 それを守る為に、ボクは戦うよ」

 

「守りたい、もの……?」

 

「そうだ。――俺たちには、仮想世界でも現実世界でも、守らなくちゃいけないものが沢山あるんだ」

 

シノンは、二人の言葉は人との繋がりを言っているのだろう、と感じた。

口から勝手に言葉が漏れる。

 

「……二人とも、このまま洞窟に隠れてればいいじゃない。 BoB中は自発的ログアウト不可能だけど、大会が進んで私たちが誰か一人が生き残れば、その時点で脱出出来る。 自殺して、その誰かを優勝させればいい。それで大会が終わるわ」

 

キリトとユウキは、『そういう手もあったね』と、微笑した。

だが、二人は首を横に振った。

 

「そう手もあるな。 でも、そういうわけには行かないんだ」

 

「そうだね。 これはボクたちにしか出来ない事だからね」

 

――――――やっぱり、君たちは強いよ。

守りたいものがあると言いながら、命の危険を(おか)して、あの死神に立ち向かう勇気を失っていない。

私は失おうとしているのに。

死銃に黒いハンドガンを向けられた時、完全に竦み上がった。

骨の髄まで凍り付いた。

逃走中も悲鳴を上げ、己の分身であるへカートのトリガーが引けなくなった。

氷の狙撃手シノンは、消え去る瀬戸際にいる。

このまま洞窟に隠れていたら、二度と自分の強さが信じられなくなるだろう。

そして、全ての銃弾が標的を外すだろう。

シノンは眼を逸らし、呟くように言った。

 

「……私……逃げない……」

 

「「……え?」」

 

「逃げない。 此処に隠れない。 外に出て、あの男と戦う」

 

俺は眉を寄せ、低く囁いた。

 

「だめだ、シノン。 あいつに撃たれば……本当に死ぬかもしれないんだ。 俺とユウキは、完全な接近戦タイプで防御スキルも色々あるけど、君は違う。 姿を消せるあの男に零距離から不意打ちされたら、危険は俺たちの比じゃない」

 

シノンは暫く口を閉じた後、静かに唯一の結論を口にした。

 

「死んでも構わない。……私、さっき、すごい怖かった。 死ぬのが恐ろしかった。 五年前の私よりも弱くなって……情けなく、悲鳴を上げて……。 そんなんじゃ、ダメなの。 そんな私のまま生き続けるくらいなら、死んだ方がいい……」

 

「……怖いのは当たり前だ。 死ぬのが怖くない奴なんて居ない」

 

「嫌なの、怖いのは。 もう怯えて生きていくのは……疲れた。――別に、貴方たちに付き合ってくれなんて言わない。 一人でも戦えるから」

 

そう言ってからシノンは腕に力を込め、立ち上がろうとした。

だが、その手をユウキが掴んだ。

 

「一人で戦って、一人で死ぬ気なの……」

 

「……そう、たぶん。 それが私の運命だったんだ……」

 

重い罪を犯したのに、シノン/朝田詩乃は裁きを受ける事はなかった。

だから、あの男が亡霊となって帰ってきたのだ。

然るべき裁きを与える為に――決定されていた運命。

 

「……離して。 私……行かないと」

 

振り解こうとした手を、ユウキは更にきつく掴んだ。

そして右手を上げ、『パァン!』と、大きな音が洞窟内に響いた。

 

俺はそれを見て驚いてしまった。

ユウキが初めて手を上げるのを見たからだ。

 

「シノンさんは間違ってる! 人が一人で死んじゃう、なんてことは有り得ないんだよ! 人が死んじゃう時は、他の誰かの居るシノンさんが死んじゃうんだよ! ボクの中のシノンさんが死んじゃうんだよ!」

 

シノンはユウキを睨み付けながら、

 

「そんなこと、頼んでない!……私は、私を誰かに預けた事なんてない!」

 

「ボクとシノンさんは関わり合っているんだよ!」

 

その瞬間、凍った心の底に押さえ付けられていたシノンの感情が、一気に膨れ上がった。

軋む程に歯を食い縛り、片手でユウキの襟首に掴みかかる。

 

「――なら、あなたが私を一生守って生きてよ!!??」

 

突然視界が歪み、頬に熱い感覚があった。

眼に涙が溢れ、滴っていることに、シノンはすぐに気付かなかった。

 

握られた手を強引に払い、シノンは固い拳を握ってユウキの胸に打ちかかる。

二度、三度、力任せにどんどんと叩き付ける。

 

「何も知らないくせに……何も出来ないくせに、勝手なこと言わないで! こ……これは私の、私だけの戦いなのよ! たとえ負けて死んでも、誰にも私を責める権利はない!! それとも、あなたが一緒に背負ってくれるの!? この……」

 

握り締めた手をユウキの前に突き出す。

血に塗れた拳銃のトリガーを引き、一人の命を奪った手。

火薬の微粒子が侵入して出来た、小さな汚れた手。

 

「この、ひ……人殺しの手を、あなたが握ってくれるの!!??」

 

記憶の底から、詩乃を罵る幾つもの声が蘇ってくる。

他の生徒に手を触れたら、『触れんなよ人殺しが! 血が付くだろ!』と罵られ、足で蹴られ、背中を突き飛ばされた。

詩乃はあの事件以来、誰かに触れられた事がない。 一度もないのだ。

その拳を、最後にもう一度思い切り打ち付けた。

この島は全体が保護コードがないバトルフィールドで在り、恐らくユウキのHPは打擲(ちょうちゃく)のたびに極僅かに減少しているはずだが、それでも彼女は身じろぎ一つしなかった。

 

「う……うっ……」

 

抑えようもなく涙が零れ落ちる。

泣き顔が見られるのが嫌で、勢いよく俯くと、額がどすんとユウキの胸にぶつかった。

強くユウキの襟首を掴んだまま、力任せに額を押し付けて、シノンは食い縛った歯の間から嗚咽を漏らし続けた。

 

「嫌い……大嫌いよ、あんたなんか!」

 

「(これが、シノンさんの心に住み付いている闇なんだね)」

 

どんな闇かボクには解らない。

シノンさんは、この闇に苦しみ続けて来たんだね。

ボクはシノンさんを抱きしめ続けた。

 




次回はキリト君を出しますよ。

今回は出番が少なかったからね。

さて、シノンの過去が出てきましたね(笑)

ユウキちゃん、シノンにビンタしちゃいましたね(笑)

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