舞翼です!!
今回はユウキちゃんメインかな!(^^)!
それではどうぞ。
左右を流れていくビルと廃車両の量がどんどん減り、気付くとバギーは島中央の都市廃墟を抜けて砂漠地帯に突入していた。
キリトがスピードを落として、慎重な運転で砂丘の間を進んで行く。
シノンは、左手首に着けている時計に眼をやった。
針が示す時間は、午後九時十二分。
驚いたことに、
その僅かな時間の間に、シノンのBoB本大会――いや、GGOというゲーム
背後から、キリトがユウキに話し掛けていた。
「なぁユウキ」
「どうしたのー?」
「いや、スタジアムのあんなに広い場所から、よく俺と合流が出来たな、と思ってな?」
「四回目のサテライト・スキャンの時には、ボクは中央スタジアムに居たんだよ。 戦闘準備をしながらマップを見たら、kiritoとSinonがスタジアムに向かって来てるのを確認したんだ。 銃士Xさんを一撃で倒して、すぐに合流しに向かったんだ。 その時にシノンさんが居なかったから
「お前が気付いてくれなかったら、手遅れだったかもしれないんだよな。――何で死銃の存在に気付かなかったんだ……。 あいつはさっき、シノンの近くに現れたよな。 死銃は、自分を透明化する能力でもあるのか? 橋の所でいきなり反応が消えたり、衛星に映らなかったり、その力を使ったから透明化が出来たのか?」
シノンは両手でへカートを抱えながら、力なく囁いた。
「……だぶん、≪メタマテリアル
「なるほどな」
「此処でなら足音に耳を澄ませば大丈夫だよ。 下は砂だから、透明になっても足音は消せないし、足跡も見えるからね」
俺とユウキが言ってから、バギーを停止させた。
「……やれやれ、こうも見晴らしがいいと、隠れようにもなぁ……」
この砂漠に身を隠し、安全に態勢を立て直す為には、ただの砂丘やサボテンの影に隠れるだけでは不足だ。
シノンは周りを見渡し、少し離れた場所の岩山を見つけると、そちらを指差した。
「……あそこ。 多分、洞窟がある」
ユウキが手を打った。
「あそこの洞窟に隠れて、衛星スキャンを回避するんだね」
キリトはバギーのアクセルを踏んで切り返し、シノンが指差した方向に走らせた。
数十秒で岩山に到着し、周囲を回る。
北側の側面には、ぽっかりと開いた大きな洞窟の口が見つかった。
速度を落とし、バギーごと洞窟の中に走らせる。
洞窟の中に入れてエンジンを切り、キリトとユウキはバギーから降りると、大きく伸びをした。
「取り敢えず、此処で次のスキャンを回避しよう。 うん、そうしよう」
「ボクたちの端末にも衛星の情報が来ないのかな?」
シノンはバギーから降りて、壁際に移動してから苦笑した。
「あんたたち、こんな状況でもそうして居られるなんて凄いわね。――結論から言うと、私たちの位置情報は衛星に映らないわ。 もし近くにプレイヤーが居たら、グレネードを投げ込まれて揃って爆死よ」
「「な、なるほど」」
俺とユウキはシノンの左右に座り、HPを回復させる為にベルトのポーチを探って筒状形の緊急キットを取り出すと、首筋に当て、反対側のボタンを押す。
HPを三十パーセント回復出来るが、百八十秒も掛るので戦闘中に使っても意味はない。
シノンは左手首に着けている時計を確認した。
今の時刻は九時十五分、五回目のサテライト・スキャンが行われる時間だ。
だが、この洞窟の中は衛星からの電波は届かないので、端末のマップを確認しても意味はない。
シノンは左手を降ろし、洞窟の壁際に背中を預け、呟いた。
「………ねぇ。 あいつ……《死銃》が、さっきの爆発で死んだ、って可能性は……?」
シノンの問いに、キリトが応じた。
「いや……、トラックが爆発する直前、金属馬から跳び下りるが見えた。 あのタイミングじゃ無傷じゃないと思うけど……あれで死んだと思えないな……」
あれほどの近距離爆発に巻き込まれれば、普通なら大ダメージを受けるだろう。
――普通のプレイヤーなら。
でも、死銃は普通じゃない。
シノンは『そう』だけ答えると、へカートを壁に立て掛け、両の腕で膝を抱えた。
シノンが呟いた。
「さっきのお礼がまだだったわね。 助けてくれてありがとう」
「ボクたちも、助けるのが遅くなってごめんね」
「ああ、怖い目に合わせて悪かった」
キリトとユウキは小さく頭を下げてから、言った。
「……俺たちは行くよ。 シノンは此処で休んでるといい。 本当はログアウトして欲しいけど……大会中は出来ないもんな……」
「シノンさんは此処で休んでいてね……。 ボクたちは決着を付けてくるよ……」
俺とユウキは上体を起こし、光剣のバッテリー残量を確認した。
「え、待って……。 二人は死銃と、戦う気なの……?」
掠れた声でシノンが言うと、小さな頷きだけが返って来た。
二人からの言葉は勝利の確信ではなく、その逆だった。
「ああ、あいつは強い。 黒い拳銃がなくても、それ以外の装備やステータス、何よりプレイヤー自身の力が突き抜けている」
「ボクたちの力を合わせても、五分五分かもね。 これはボクたちの戦いだよ。 シノンさんを、これ以上付き合わせるわけには行かないよ」
最強。と言われている光剣使いの意外な言葉に、シノンは思わず光剣使いの顔を見た。
二人の瞳は、揺れているように思えた。
「…………二人でも、あいつが恐いの?」
俺とユウキは光剣を腰のスナップリングに吊ってから、苦笑した。
「ああ、恐いよ。 昔の俺なら、本当に死ぬ可能性があろうと戦えたかもしれない。 今は守りたいものが出来たからな。 命を軽く扱う事は出来ないさ」
「ボクも恐いよ。 ボクにも守りたいものがあるからね。 それを守る為に、ボクは戦うよ」
「守りたい、もの……?」
「そうだ。――俺たちには、仮想世界でも現実世界でも、守らなくちゃいけないものが沢山あるんだ」
シノンは、二人の言葉は人との繋がりを言っているのだろう、と感じた。
口から勝手に言葉が漏れる。
「……二人とも、このまま洞窟に隠れてればいいじゃない。 BoB中は自発的ログアウト不可能だけど、大会が進んで私たちが誰か一人が生き残れば、その時点で脱出出来る。 自殺して、その誰かを優勝させればいい。それで大会が終わるわ」
キリトとユウキは、『そういう手もあったね』と、微笑した。
だが、二人は首を横に振った。
「そう手もあるな。 でも、そういうわけには行かないんだ」
「そうだね。 これはボクたちにしか出来ない事だからね」
――――――やっぱり、君たちは強いよ。
守りたいものがあると言いながら、命の危険を
私は失おうとしているのに。
死銃に黒いハンドガンを向けられた時、完全に竦み上がった。
骨の髄まで凍り付いた。
逃走中も悲鳴を上げ、己の分身であるへカートのトリガーが引けなくなった。
氷の狙撃手シノンは、消え去る瀬戸際にいる。
このまま洞窟に隠れていたら、二度と自分の強さが信じられなくなるだろう。
そして、全ての銃弾が標的を外すだろう。
シノンは眼を逸らし、呟くように言った。
「……私……逃げない……」
「「……え?」」
「逃げない。 此処に隠れない。 外に出て、あの男と戦う」
俺は眉を寄せ、低く囁いた。
「だめだ、シノン。 あいつに撃たれば……本当に死ぬかもしれないんだ。 俺とユウキは、完全な接近戦タイプで防御スキルも色々あるけど、君は違う。 姿を消せるあの男に零距離から不意打ちされたら、危険は俺たちの比じゃない」
シノンは暫く口を閉じた後、静かに唯一の結論を口にした。
「死んでも構わない。……私、さっき、すごい怖かった。 死ぬのが恐ろしかった。 五年前の私よりも弱くなって……情けなく、悲鳴を上げて……。 そんなんじゃ、ダメなの。 そんな私のまま生き続けるくらいなら、死んだ方がいい……」
「……怖いのは当たり前だ。 死ぬのが怖くない奴なんて居ない」
「嫌なの、怖いのは。 もう怯えて生きていくのは……疲れた。――別に、貴方たちに付き合ってくれなんて言わない。 一人でも戦えるから」
そう言ってからシノンは腕に力を込め、立ち上がろうとした。
だが、その手をユウキが掴んだ。
「一人で戦って、一人で死ぬ気なの……」
「……そう、たぶん。 それが私の運命だったんだ……」
重い罪を犯したのに、シノン/朝田詩乃は裁きを受ける事はなかった。
だから、あの男が亡霊となって帰ってきたのだ。
然るべき裁きを与える為に――決定されていた運命。
「……離して。 私……行かないと」
振り解こうとした手を、ユウキは更にきつく掴んだ。
そして右手を上げ、『パァン!』と、大きな音が洞窟内に響いた。
俺はそれを見て驚いてしまった。
ユウキが初めて手を上げるのを見たからだ。
「シノンさんは間違ってる! 人が一人で死んじゃう、なんてことは有り得ないんだよ! 人が死んじゃう時は、他の誰かの居るシノンさんが死んじゃうんだよ! ボクの中のシノンさんが死んじゃうんだよ!」
シノンはユウキを睨み付けながら、
「そんなこと、頼んでない!……私は、私を誰かに預けた事なんてない!」
「ボクとシノンさんは関わり合っているんだよ!」
その瞬間、凍った心の底に押さえ付けられていたシノンの感情が、一気に膨れ上がった。
軋む程に歯を食い縛り、片手でユウキの襟首に掴みかかる。
「――なら、あなたが私を一生守って生きてよ!!??」
突然視界が歪み、頬に熱い感覚があった。
眼に涙が溢れ、滴っていることに、シノンはすぐに気付かなかった。
握られた手を強引に払い、シノンは固い拳を握ってユウキの胸に打ちかかる。
二度、三度、力任せにどんどんと叩き付ける。
「何も知らないくせに……何も出来ないくせに、勝手なこと言わないで! こ……これは私の、私だけの戦いなのよ! たとえ負けて死んでも、誰にも私を責める権利はない!! それとも、あなたが一緒に背負ってくれるの!? この……」
握り締めた手をユウキの前に突き出す。
血に塗れた拳銃のトリガーを引き、一人の命を奪った手。
火薬の微粒子が侵入して出来た、小さな汚れた手。
「この、ひ……人殺しの手を、あなたが握ってくれるの!!??」
記憶の底から、詩乃を罵る幾つもの声が蘇ってくる。
他の生徒に手を触れたら、『触れんなよ人殺しが! 血が付くだろ!』と罵られ、足で蹴られ、背中を突き飛ばされた。
詩乃はあの事件以来、誰かに触れられた事がない。 一度もないのだ。
その拳を、最後にもう一度思い切り打ち付けた。
この島は全体が保護コードがないバトルフィールドで在り、恐らくユウキのHPは
「う……うっ……」
抑えようもなく涙が零れ落ちる。
泣き顔が見られるのが嫌で、勢いよく俯くと、額がどすんとユウキの胸にぶつかった。
強くユウキの襟首を掴んだまま、力任せに額を押し付けて、シノンは食い縛った歯の間から嗚咽を漏らし続けた。
「嫌い……大嫌いよ、あんたなんか!」
「(これが、シノンさんの心に住み付いている闇なんだね)」
どんな闇かボクには解らない。
シノンさんは、この闇に苦しみ続けて来たんだね。
ボクはシノンさんを抱きしめ続けた。
次回はキリト君を出しますよ。
今回は出番が少なかったからね。
さて、シノンの過去が出てきましたね(笑)
ユウキちゃん、シノンにビンタしちゃいましたね(笑)
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