ソードアート・オンライン ~黒の剣士と絶剣~   作:舞翼

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ども!!

舞翼です!!

今回も頑張って書きあげたぜ。

1万字超えたしね(笑)

誤字脱字があったらごめんよ。

それでは、どうぞ。



第50話≪二人の手掛かり≫

翌日。

 

俺は、埼玉県所沢市に建つ病院に親と車で向かっている。

木綿季を迎えに行く為だ。

…本当は俺一人で迎えに行きたかったのだが、母親の翠に『私も一緒に向かえに行くわ。 いいね。』って言われ、押し切られてしまったのだ。

俺は助手席に座っている。

車の運転をしているのは、母親の桐ケ谷翠だ。

俺は聞きたいことがあったので、翠に声を掛けた。

 

「そういえば、木綿季の部屋どうするんだ??」

 

「木綿季ちゃんの部屋が建て上がるまで、和人と一緒の部屋ね」

 

「マジで」

 

「うん、マジで。 問題ないでしょ、SAOでは一緒に暮らしていたんだから」

 

まぁ―、確かに問題ないな。

SAOで結婚してから木綿季とは、毎日一緒に寝ていたしな。

ランとも一緒に寝ていたけど。

 

「了解」

 

「着いたわ」

 

「おう」

 

母さんは、『駐車場に車を止めてくるから、和人は木綿季ちゃんが居る病室に先に行っていなさい』と言い、病院の入り口付近に下ろしてくれた。

 

「じゃあ、行くかな」

 

受付窓口でパスを受け取り、入り口付近にあるエレベーターに乗ってから木綿季が居る十五階まで移動した。

数秒で十五階に到着したエレベーターから降り、木綿季が居る病室まで向かった。

ネームプレートの下にある一本の細いスリットに、受付窓口で受け取ったパスをスライドさせ、電子音と共にドアがスライドした。

俺はノックをせず、病室に足を踏み入れた。

木綿季と俺の目が合った。

俺は固まってしまった。

なぜなら、木綿季が着替え中だったのだ。

 

3秒後。

 

「和人のエッチーー!!」

 

「うぐ!」

 

木綿季が投げた枕が、俺の顔に命中した。

俺の顔から枕が落ちた。

俺の顔は真っ赤になっていた。

木綿季の肌は白くて、スタイル抜群だった。

 

「この覗き魔」

 

「うっ、ワザとじゃ無いんだ……。 ごめん」

 

「今度から気を付けるように。 わかった?」

 

「……わかりました」

 

そう言った後、木綿季は布団で体を隠した。

俺はベットの横に設置してある丸椅子に座った。

 

「ほら、後ろ向いてて」

 

「……あい」

 

俺が後ろを向いて数秒後。

 

「もういいよ」

 

木綿季から『いいよ』と声を掛けられたので、前を向いた。

俺はこれからの事を話すことにした。

 

「荷造りは終わったのか?」

 

「うん、終わったよ。 てか、ボクの部屋ってあるの?」

 

「しばらくは俺と同じ部屋だ」

 

「うん。 了解」

 

扉からノックする音が聞こえてきた。

木綿季が『いいですよー』と言ってから、扉が開いた。

病室に入って来た人物は、俺の母さんだった。

 

「あら、二人で話していたの、お邪魔だったかしら」

 

俺と木綿季は、顔を左右に振った。

母さんは、俺と木綿季を見てから言った。

 

「一階の総合窓口に行きましょうか」

 

「わかりました、翠さん」

 

「あら、私のことはお義母さんでいいのよ、木綿季ちゃん。 あと私には、敬語を使わなくていいわ」

 

「お、お義母さん……。 早く……行こうよ」

 

「一階の総合窓口に行きましょうか」

 

母さんはニッコリ笑うと、病室から出て行った。

木綿季はベットから立ち上がり、床に足を付け、俺が座っている丸椅子の隣に移動した。

俺は木綿季の荷物を持ってから、木綿季に声を掛けた。

 

「行くか」

 

「うん」

 

 

♦♦♦♦♦♦♦

 

廊下を歩いていた時、木綿季が俺の肩を優しく叩き声を掛けてきた。

 

「重くない?」

 

「おう、大丈夫だぞ。 良いリハビリにもなるしな」

 

「ありがとね」

 

俺と木綿季は、ナースステーション付近にあるエレベーターに乗り、一階へ移動した。

一階に到着したエレベーターから降り、総合窓口に向かった。

 

「退院手続きが終わっていたわ。 多分、木綿季ちゃんのご両親が既に手続きを済ませていたのね」

 

「じゃあ、早く行こうぜ」

 

「行こうよ、お義母さん」

 

俺と木綿季と母さんは、駐車場に止めた車に乗り、桐ケ谷家に向かった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦

 

木綿季は俺の家を見て、感嘆の声を上げた。

 

「わぁ~、大きいね~」

 

「そうなのか」

 

「うん」

 

いや、木綿季さん。

あなたの家もこれ位の大きさですけど。

俺の家は約45坪程度、外には縁側もある家だ。

まぁ―、大きい家なのかもしれんな。

俺は木綿季の手を引き、家の敷地に足を踏み入れた。

玄関前まで移動し、玄関の扉を開く。

 

「「ただいま~」」

 

「おかえりなさいー」

 

スグが俺と木綿季を出迎えに来てくれた。

 

「今日からお世話になります。 紺野木綿季です」

 

木綿季は俺とスグにぺこりと頭を下げた。

木綿季は今日から桐ケ谷家の家族だな。

まだ苗字は紺野だが。

 

「おう。 今日から此処は木綿季の家だと思ってくれ」

 

「そうですよ。 木綿季さん」

 

「うん。 あっ、敬語は使わなくていいよ。 スグちゃん」

 

「うん、わかったよ。 木綿季ちゃん」

 

さすが木綿季、俺と違ってコミュ力が高い。

 

「俺と木綿季は、荷物を置きに二階に行くわ」

 

「じゃあ、ご飯が出来たら呼ぶねー」

 

「ん、じゃあ、行くか」

 

「了解ー」

 

 

♦♦♦♦♦♦♦

 

俺の部屋の広さは6畳。

デスクの上にパソコンのモニターが2つ、部屋の中央には小さなテーブル、隅には本棚、窓際にはベットが設置してあるだけだ。

本棚の一番下の段には、悪魔の機械《ナーブギア》が置いてある。

 

「ここが和人の部屋か~」

 

「まぁな、何も無いだろう。 取り敢えず荷物をベットの上に置いておくな」

 

俺はそう言い、手に持っていた木綿季の荷物をベットの上に置いた。

それからベットの上に腰を下ろす。

俺は隣をポンポンと叩いた。

それを見て木綿季は俺の隣に腰を下ろし、悲しい表情をして言った。

 

「姉ちゃんと明日奈は、いまどこに居るのかな……?」

 

「……二人は、二ヵ月前から目を覚ましていないんだよな」

 

「……うん」

 

俺は木綿季の頭をくしゃくしゃと撫でてあげた

俺に出来ることをしてあげよう。

 

「よし!! 明日は二人のお見舞いに行こうか」

 

「うん!」

 

「荷物の整理をするか」

 

「だね」

 

1時間後。

荷物の整理が終わった。

 

「「終わった!」」

 

と言った直後、下からスグの声が聞こえてきた。

 

「お兄ちゃん~、木綿季ちゃん~。ご飯が出来たよ~」

 

どうやらメシの準備が出来たらしい。

 

「いま行くよ~」

 

俺は大きな声を出し、スグの言葉に応じた。

 

「行くか」

 

「うん。 行こっか」

 

俺と木綿季は立ち上がり、部屋を出てから一階にある台所へ向かった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦

 

「「「いただきま~す」」」

 

俺と木綿季とスグは合掌してから箸を手に取り、料理を口に運んだ。

 

「美味しいよ、美味しいよ、スグちゃん」

 

「よかった~。 木綿季ちゃんの口に合って」

 

俺も率直な感想を言った。

 

「確かに旨いぞ、スグ」

 

「お兄ちゃんの口にも合ってよかった~」

 

スグは、美味しそうに食事を摂る俺と木綿季を見てニッコリと笑った。

 

「そういえば、木綿季。 風呂はどうするんだ?」

 

木綿季はこちらを振り向き言った。

 

「和人と入ろうかな」

 

いや、ダメでしょ、木綿季さん。

ほら、スグが俺のことを『じ―っ』と見てるじゃん。

『お兄ちゃんの回答しだいでは』的な目でさ。

 

「……ダメだ……。 一緒には入らないぞ」

 

「SAOの中では、一緒に入ったじゃんよー」

 

アウトーーッッ!!

その発言はアウトですよ、木綿季さん。

ヤバい……。

スグの目が『お兄ちゃん。 この事はお母さんに言うからね』っていう目だよ……。

マズイ、何か話さないと。

 

「……あのな、スグ……。 これには、深――い事情があったんだ」

 

「へー、深――い事情があったんだ」

 

ちょ、ジト目はやめてくれ。

よし。 此処は戦略的撤退だ。

俺は口の中にご飯を掻き流した。

 

ごひぃひょうさま(ごちそうさま)

 

俺はそそくさに席を立ち、自分の部屋に逃げたのであった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦

 

「ふー、助かった。 いや、本当に助かったのか…? ……少し横になろう」

 

部屋の扉がノックされた。

部屋の外からは、『和人―、入っていいかな』と言う木綿季の声が聞こえてきた。

俺は起き上がり、木綿季に向かって声を掛けた。

 

「いいぞー」

 

ドアが開き、木綿季が部屋に入って来た。

木綿季の髪は少し濡れていた。

 

「お風呂に入ってきたよ。 あと、歯磨きもすませてきたよ」

 

風呂に入ったから髪が濡れていたのか。

てか、風呂?

俺は時計を見た。

俺が横になってから、約二時間が経過していた。

どうやら、眠ってしまったらしい。

 

「和人もお風呂に入ってきたら?」

 

「おう。 そうするよ」

 

「あっ、お風呂の件は、ボクが無理やりってことにしといたから大丈夫だよ」

 

「おう。 了解した」

 

俺は内心でほっとした。

あのままだったら色々とやばかったしな。

俺は部屋を出て、風呂場に向かった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦

 

風呂から上がり、歯磨きをしてから自分の部屋に向かい、ノックをしてから部屋に入った。

ベットを見やると、木綿季が寝息をたてて眠っていた。

俺は木綿季の横に腰を下ろしから、木綿季の上にタオルケット掛けてあげた。

 

「おやすみ、木綿季」

 

俺は木綿季の隣に横になり、体の上にタオルケットを掛けてから眠りに就いた。

 

 

翌日。

俺は何時もより早く起床した。

だが、状態がヤバかった。

 

「ちょ、これはヤバい」

 

木綿季の顔が目の前にあったのだ。

髪からはいい匂いがする。

ちょと待て、この状況は非常にマズイ。

とりあえず落ち着くんだ、桐ケ谷和人。

ふー、よし、窓を開けて外の空気を吸おう。

俺は木綿季を起こさないように起き上がり、窓を開け、外の空気を吸った。

 

「はぁー、現実世界と仮想世界がこんなに違うとは、これから大丈夫か…マジで」

 

「和人~、おはよ~」

 

木綿季が目を擦りながら、俺の隣までやって来た。

 

「おう。 おはよう木綿季」

 

ヤバい。 木綿季の顔を見たらさっきの光景がフラッシュバックする。

あっ、そういえば、今日の予定を話していなかったな。

 

「朝メシ食べてからお見舞いに行くか」

 

「うん」

 

「じゃあ、行くか」

 

俺は木綿季の手を引き、階段を下りた。

それから台所で食事を摂ってから、自転車(木綿季は俺の後ろ)に乗り、二人が眠る病院へ向かった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦

 

埼玉県所沢市 総合病院 最上階 601号室

 

中央に設置されているベットに、紺野藍子が眠っている。

俺と木綿季は、ベットの横に設置されている丸椅子に座り、藍子に声を掛けた。

 

「久しぶりだね、姉ちゃん」

 

「久しぶりだな、藍子」

 

藍子の頭は、ナーブギアによって包まれている。

ナーブギアのインジケータのLEDが三つ、青く輝いている。

ときおり星のように瞬くのは、正常に通信が行われている証。

今この瞬間にも、彼女の魂は何処かの世界に囚われている。

 

「姉ちゃん。 ボクと和人は正式な婚約者になったんだよ」

 

「木綿季のことは絶対幸せにするって誓うよ」

 

背後から扉が開く音が聞こえてきた。

 

「あら、来てたの」

 

俺と木綿季に声を掛けてきた人物は、木綿季と藍子の母親、紺野春香だった。

俺は立ち上がり挨拶をした。

 

「こんにちは、春香さん。お邪魔しています」

 

「あら、お義母さんでもいいのよ」

 

「あ、はい。 お義母さん」

 

「よろしい」

 

春香は立て掛けられていたパイプ椅子を広げ、木綿季の隣に腰を下ろした。

俺もそれに合わせて座り直す。

 

「藍子の意識はどこにあるんでしょうね」

 

と春香さんが呟いた。

 

「「………」」

 

俺と木綿季は答えなかった。

いや、正確には答えられなかった。

 

「ごめんね。暗くなっちゃったわね」

 

「大丈夫ですよ。 お義母さん」

 

「大丈夫だよ。 お母さん」

 

春香は、藍子に話し掛けた。

 

「藍子。 和人君と木綿季は一緒に暮らしだしたのよ。 大丈夫かしら? 和人君と木綿季は」

 

「「ちょ、お(義母)(母)さん」」

 

「藍子も早く王子様を見つけないとね。 木綿季にどんどん追い越されちゃうわよ」

 

「きっと見つかるよ」

 

「だな。 藍子は美人なんだから」

 

あっ、やば、今の発言は。

木綿季がこちらを振り向き、言った。

 

「……和人」

 

「いや、違うぞ。 俺は木綿季のことを愛している」

 

俺はきっぱり言った。

木綿季は俺の言葉を聞き、顔を真っ赤にした。

 

「和人……。 此処には、ボクのお母さんが居るんだよ」

 

「え、だって本当のことだぞ」

 

「和人君には自覚が無いと思うけど、それって結構照れくさい言葉なのよ」

 

と春香さんに言われた。

照れくさい言葉なのか?

よくわからん。

 

「藍子も和人君のような人を見つけなさいよ」

 

俺と木綿季は立ち上がり、春香に声を掛けた。

 

「じゃあ、俺たちはそろそろ」

 

「またね、お母さん」

 

「わかったわ。 またね和人君、木綿季」

 

俺と木綿季は春香と言葉を交わした後、病室から出た。

 

「次は、602号室に行こうか」

 

「うん」

 

602号室、此処の病室には木綿季の親友、結城明日奈が眠っている。

俺は、『結城明日奈 様』と書かれたネームプレートの下のある、一本のスリッドにパスを滑らせる。

微かな電子音と共にドアがスライドする。

俺と木綿季は、病室の中に足を踏み入れた。

中央に設置されているベットには、血盟騎士団副団長《閃光》のアスナが眠っていた。

俺と木綿季は明日奈の隣まで移動し、明日奈を見た。

俺と木綿季は、明日奈に自己紹介をすることにした。

 

「初めまして、俺の名前は桐ケ谷和人だ。 アインクラッドの内部では、キリトと名乗っていた」

 

「初めまして、紺野木綿季です。 アインクラッド内部では、ユウキって名乗っていたよ」

 

俺と木綿季が自己紹介をしていたら、背後でドアが開く音がした。

振り返ると、二人の男が病室に入って来た。

前に立つ恰幅のいい初老の男性が、言った。

 

「君たちは誰かね?」

 

「ご挨拶が遅れました。おr…僕は、桐ケ谷和人と言います」

 

「ボk…私は、紺野木綿季と言います」

 

「ははは、何時も喋り方でいいよ。 こんにちは、私は明日奈の父親、結城彰三だよ」

 

結城彰三と言う名前は聞いたことがある。

確か、総合電子機器メーカー《レクト》の最高経営責任者の名前だ。

 

「君たちは明日奈と、如何いう関係だったのかな?」

 

「俺は親友の友達です」

 

「ボクは明日奈の親友です」

 

「そうだったのか、この子が世話になったね」

 

そう言うと、彰三氏は笑みを浮かべた。

背後に居た男が、俺と木綿季に自己紹介をしてきた。

 

「こんにちは、須郷伸之です」

 

須郷は木綿季の前まで移動し、木綿季に握手を求めた。

だが、俺が須郷と握手をした。

こいつ、木綿季を嫌らしい眼つきで見てきやがった。

俺は少し手に力を入れて、自己紹介をした。

 

「初めまして、桐ケ谷和人です。 よろしくお願いします」

 

「こちらこそ、よろしく」

 

この会話が終わった後、俺と須郷は手を離した。

 

彰三氏が俺と木綿季を一瞥し言ってきた。

 

「そういえば、桐ケ谷君。 そちらのお嬢さんとはどういう関係なんだい?」

 

「えっと、婚約者です」

 

「ほぉー、婚約者が居るのか」

 

俺の言葉を聞いた須郷は、彰三氏に向き直った。

 

「社長、あの件のことなんですが、来月にでも、正式にお話しを決めさせて頂きたいと思います」

 

「――そうか。 しかし、君はいいのかね? まだ若いんだ、新しい人生だって……」

 

「僕の心は昔から決まっています。 明日奈さんが、今の美しい姿でいる間に……ドレスを着せてあげたいのです」

 

「……そうだな。 そろそろ覚悟を決める時期かもしれないな……」

 

何の話をしているんだ?

あの件って何のことだ?

 

「では、私は失礼させてもらうよ。 桐ケ谷君、紺野君、また会おう」

 

一つ頷いてから、彰三氏は大柄な体を翻し、ドアへと向かい病室から出て行った。

後には、俺と木綿季と須郷が残された。

 

「痛かったじゃないか、桐ケ谷君。 手が赤くなっちゃたよ」

 

「木綿季を嫌らしい眼つきで見たからだ」

 

「へぇー、よく見ているね」

 

俺は須郷の本当の顔を見た。

細い眼からは、やや小さい瞳孔が三白眼気味に覗き、口の両端を上げて笑うその表情は、酷薄という以外に表現する言葉を持たない奴であったのだ。

これがこいつの本性か。

木綿季は須郷の本性を見た途端、俺の手を握ってきた。

 

「桐ケ谷君。 さっき私が彰三さんと話していた、話の内容を知りたくないかい」

 

須郷はニヤニヤ笑いながら言った。

 

「……ああ」

 

「僕と明日奈が結婚するという話だよ」

 

この男は何を言っているんだ?

そんなこと出来るはずがないだろう。

 

「出来るはずないだろう。 明日奈の意思確認が必要だ」

 

「確かに、この状況では意思確認が取れないゆえに法的入籍は出来ない。 書類上は僕が結城家の養子に入ることになる。 ……実のところ、この娘は、昔から僕のことを嫌っていてね」

 

須郷は明日奈が眠っているベットの隣まで移動し、左手の人差し指を明日奈の頬に這わせた。

 

「親たちはそれを知らないが、いざ結婚となれば拒絶される可能性が高いと思っていた。 だからね、この状況は僕にとって非常に都合がいい。 当分眠っていて欲しいね」

 

須郷の指が明日奈の唇に近づいていく。

 

「やめてッ!!」

 

俺の手を握っていた木綿季が動き、須郷の手を掴み、明日奈の頬から引き離した。

引き離してすぐに木綿季は、須郷の左手を振り払った。

須郷は左手を擦りながら言った。

 

「痛いじゃないか、お嬢さん」

 

「お前……、明日奈の昏睡状態を利用する気なのか」

 

須郷は再びニヤニヤと笑うと言った。

 

「利用? いいや、正当な権利だよ。 ねぇ桐ケ谷君。 SAOを開発した《アーガス》がその後どうなったか知っているかい?」

 

「……解散したと聞いた」

 

「うん。 開発費に加えて事件の補償で莫大な負債を抱えて、会社は消滅。SAOサーバーの維持を委託されたのがレクトのフルダイブ技術研究部門さ。 具体的に言えば、僕の部署だよ――つまり、明日奈の命は今やこの僕が維持していると言っていい。 なら、僅かばかりの対価を要求したっていいじゃないか?」

 

待てよ、藍子の命も須郷が握っているのか……?

そして、明日奈の命も……。

須郷は立ち上がると、一人でぶつぶつ呟いた。

 

「何なんだあの仮想体(アバター)は、僕の邪魔ばかりして。何であんな奴が居るんだ、明日奈だけ捕らえたのに」

 

俺は須郷の言葉を聞き取った。

あの仮想体……?

須郷の邪魔をする……。

ていうことは明日奈を守っている……?

明日奈を知っている人物。

もしかしたら……、ランのことじゃないか……!?

 

須郷はドアを出る前に、俺と木綿季に言ってきた。

 

「式は来月この病院で行う。 君たちも呼んであげるよ。 それじゃあな」

 

と言い須郷は病室から出て行った。

俺は、須郷が居なくなったことを確認してから木綿季に声を掛けた。

 

「木綿季。 もしかして、須郷の邪魔をしている仮想体って」

 

「うん! 姉ちゃんだよ! きっと」

 

「お前も、そう思うか」

 

「うん!」

 

俺と木綿季は明日奈の病室を出てから、受付窓口にパスを返し、駐輪場に止めてある自転車に乗り家へ帰った。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦

 

昼過ぎに家に着いた。

木綿季は、俺の部屋に居る。

俺が木綿季に話しかけようとした時、パソコンから電子音が流れた。

メールだ。

俺は椅子に腰を下ろしてから、メールボックスを開いた。

俺は、送信者の名前を見て驚いた。

送信者は――エギルだった。

エギルとは、二十日前に東京で再会した。

その時にメールアドレスを交換しておいたのだが、連絡が来たのはこれが初めてだった。

タイトルは【LooK at this】となっている。

開くと一枚の写真が添付されていた。

これは、鳥籠か……?

誰か居るぞ、白いワンピースを着た女性が一人。 ぼろぼろのワンピースを着た女性が一人。

 

「アスナ…? ラン…?」

 

「どうしたの和人」

 

俺の隣に来た木綿季にも、写真を見てもらった。

 

「アスナ…? 姉ちゃん…?」

 

「木綿季もそう思うか」

 

「うん」

 

俺はデスクの上に置いてあった携帯端末を取ると、電話帳にある一つの連絡先に電話を掛けた。

呼び出し音が耳元で鳴る。

接続音の後、野太いエギルの声が聞こえた。

 

「もしもし」

 

「久しぶり、キリトだけど」

 

「キリトか。 俺が送った写真を見たか」

 

「ああ、見た」

 

「どう思う。ユウキちゃんに確認を取ってみてくれ」

 

「木綿季も確認したよ」

 

「……話がしたい。 店に来れるか?」

 

「了解。 木綿季と一緒に行くよ」

 

俺はそう言うと通話を切った。

 

「木綿季。 出かけるぞ」

 

「どこに?」

 

「着いてからのお楽しみということで」

 

 

♦♦♦♦♦♦♦

 

エギルが経営する喫茶店兼バーは、ごみごみした裏通りにある。

エギルの経営する店名は≪Dicey Cafe(ダイシー・カフェ)≫。

俺はベル音を響かせてドアを押し開けると、カウンターの向こうでエギルが顔を上げ、ニヤリと笑った。

 

「よぉ、久しぶりだな。 キリト、ユウキちゃん」

 

「おう、久しぶり。 ……相変わらず不景気な店だな。よく二年も潰れずに残ってたもんだ」

 

「うるせぇ、これでも夜は繁盛しているんだ」

 

まるであの世界に戻ったような、気安いやり取りを交わす。

交わした直後、頭が優しく叩かれた。

 

「こらっ和人。 そんなこと言わないの」

 

「ごめん」

 

エギルに連絡したのは、先月の末だった。

総務省の役人から、思いつく限りの知り合いの本名と住所のリストを入手したのだ。

エギルやクライン、ニシダにシリカ、リズベットと。

だが、木綿季のリストだけが入手出来なかった。

その後、エギルが経営している店を訪ねた、というわけだ。

エギルの本名は、アンドリュー・ギルバート・ミルズ。

 

エギルは、俺を見てニヤニヤ笑い言った。

 

「キリトよ。 お前、尻に敷かれてんのな」

 

「そんなことないよね~、和人」

 

「……おう」

 

「まぁ、キリトにユウキちゃん。 取り敢えず座りな」

 

俺と木綿季はカウンターまで移動し、革張りのスツールに腰を下ろした。

 

「で、あれはどういうことなんだ」

 

俺は写真の事をエギルに聞いた。

エギルはすぐには答えず、カウンターの下に手をやり、長方形のパッケージを取り出すと俺と木綿季の方に滑らせた。

俺が指先で受け止める。

これはゲームソフトか?

俺はプラットフォームを確認する。

《AmuSphere》なるロゴだ。

 

「聞いたことのないハードだな……」

 

「《アミュスフィア》。 オレたちが向こう側にいる間に発売されたんだ。 ナーヴギアの後継機だよ、そいつは」

 

とエギルが教えてくれた。

イラストの下部には、凝ったタイトルロゴがあった《ALfheim Online》。

 

「アルフ……ヘイム・オンライン? ……どういう意味だ」

 

「アルヴヘイム、と発音するらしい。妖精の国、って意味だとさ」

 

「妖精。 まったり系のMMOなの」

 

「それが、そうでもなさそうだぜ。 どスキル制。プレイヤースキル重視。 PK推奨。それに《レベル》が存在しない。 各種スキルが反復使用で上昇するだけで、育ってもヒットポイントは大して上がらないそうだ。 戦闘もプレイヤーの運動能力依存で、剣技(ソードスキル)なし、魔法ありのSAOってとこだな」

 

「よく売れたな。 こんなマニア向けの仕様なのに」

 

と俺が言うと、エギルは口元に笑みを浮かべた。

 

「今は大人気なんだと。理由は、《飛べる》かららしい」

 

「「飛べる?」」

 

「妖精だから羽根がある。 フライト・エンジンとやらを搭載してて、慣れるとコントローラ無しで自由に飛び回れる」

 

「このゲームの事はだいたい解った。 あの写真はなんだ」

 

「エギルさん。 早く教えて!!」

 

エギルは再びカウンターの下から一枚の紙を取り出し、俺と木綿季の前に置いた。

俺と木綿李は、プリントを凝視してから言った。

 

「やっぱり、間違いない。 この二人はアスナとランだ」

 

「うん。 この二人は姉ちゃんとアスナだよ」

 

「……やっぱりそうか。 キリトとユウキちゃんが言うならそうなんだろうな」

 

「ねぇ、エギルさん。 ここはどこなの?」

 

木綿季がエギルに聞いた。

 

「その中だよ。 アルヴヘイム・オンラインの」

 

エギルはカウンターの上に置いてあるパッケージを取ると、裏返して大樹のイラストを指でこつんと叩いた。

 

「世界樹、と言うんだとさ。プレイヤーの当面の目標は、この樹の上にある城に、他の種族に先駆けて到着することなんだそうだ」

 

「飛んでいけばいいじゃないか」

 

木綿季も首を縦に振っている。

 

「なんでも滞空時間ってのがあって、無限に飛べないらしい。 この樹の一番下の枝にも辿り着けない。 でもどこにも馬鹿なことを考えるやつがいるもんで、体格順に五人が肩車して、多段ロケット形式で木の枝を目指した」

 

「ははは、なるほどね。 馬鹿だけど頭いいな」

 

「うむ。 目論見は成功して、枝にかなり肉薄した。 ぎりぎりで到着出来なかったそうだが、五人目が到着高度の証拠にしようと写真を何枚も撮った。 その一枚に、奇妙なものが写り込んでいたらしい。 そいつをぎりぎりまで引き伸ばしたのが、この写真ってわけだ」

 

俺はパッケージを取り、もう一度眺めた。

パッケージの下部に視線を移す。

メーカー名は《レクト・プログレス》とあった。

俺と木綿季は、その名前を凝視した。

 

「おい、どうしたキリト、ユウキちゃん? そんなにこええ顔して」

 

「「いや、なんでもない(よ)」」

 

俺と木綿季は顔を見合わせ、頷いた。

 

「エギル――このソフト、貰っていいか」

 

「エギルさん――このソフトもう一つないかな?」

 

「お前らならそう言うと思ったよ」

 

エギルは、木綿季にもう一つ用意してあったソフトを渡した。

 

「死んでもいいゲームなんてヌルすぎるぜ。 ……ゲーム機を買わなくちゃな」

 

「ナーブギアでも動くぞ。アミュスフィアは、単なるアレのセキュリティ強化版でしかないからな」

 

「そりゃあ助かる」

 

「だね」

 

「じゃあ、俺たちは帰るな。 また情報があったら頼む」

 

「情報代はツケといてやる。――二人を助け出せよ」

 

「ああ、いつかここでオフをやろう」

 

「ここでオフをやろうね」

 

俺と木綿季とエギルは拳を打ち付け合うと、俺と木綿季は振り向いてドアを押し開け、店を後にした。

 




今回はゲ須郷を出しましたー。

ランちゃんと、アスナさんも出しましたよ(眠っていたが)

う~ん、メインが和人君と木綿季ちゃんになっちゃうんだよな。

なんかすまん。

この小説のキリト君は落ちついているよな~。

お風呂の設定は、SAO内であったということにしといてください。

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