憑依系男子のIS世界録   作:幼馴染み最強伝説

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束の間の平穏

 

いよいよやってきた学園祭当日。

 

一般開放していないために開始の花火などは上がらないものの、生徒達の弾けっぷりはそれに匹敵するくらいにテンションが高かった。

 

「うそ⁉︎一組であの織斑くんと藤本くんの接客が受けられるの⁉︎」

 

「しかも執事の燕尾服!」

 

「それだけじゃなくてゲームもあるらしいわよ!」

 

「しかも勝ったら写真を撮ってくれるんだって!ツーショットよ、ツーショット!これは行かない手はないわね!」

 

とりわけ一年一組の『ご奉仕喫茶』は盛況であった。

 

それもそのはず、そのご奉仕喫茶では二人しかいない男子が執事服を着て、接客をするというのだから、人気が出ないはずがなかった。

 

だが、忙しいのは男子のみで他のメンツは楽しそうにしていた。

 

「いらっしゃいませ♪こちらへどうぞ、お嬢様」

 

とりわけ楽しそうなのはメイド姿のシャルロット。その理由は元からメイドに興味があったことと、それを一夏に褒められたことによるものだ。

 

接客担当は男子二人に専用機持ち。

 

発案者たるラウラはともかくとして、箒がこのような姿をするというのは一夏にとっては意外だった。

 

(その辺はやっぱり将輝の影響が大きいのかな………箒も機嫌良さそうだし)

 

接客をしている最中も箒は仏頂面になることなく、自然な笑顔で接客をしていた。

 

(しかしまあ、なんというか……)

 

メイド服を翻して働く一同に、一夏は言いようのない感覚を覚えた。

 

以前に友人の五反田弾が言っていた『メイド服とスク水とブルマ!これに反応しない男はいない!』を思い出し、そういうものなのかと首を傾げていた。

 

(おいおい、朝より列が長くなってんぞ。学園祭が終わるまでに捌ききれるのか、この人数)

 

教室の外で「二時間待ちでーす」というクラスメイトの声を聞き、自然とため息を吐いていた。

 

一年生の教室の前には長蛇の列………以上の人の山。

 

「ヘイ、ちょっとそこのイケてる執事!テーブル案内よろしくぅ!」

 

聞きなれたトーン……というよりもその妙な言い回しに一夏は嫌な予感を感じつつ、振り返る。

 

「………鈴か」

 

「今の間は何?さては私に見惚れてた?」

 

というのも、鈴の今の姿は普段の制服姿ではなく、一枚布のスカートタイプで、大胆にスリットが入っている。真っ赤な生地に龍のあしらい。金色のラインと凝っているチャイナドレスを着ていたからだ。

 

「鈴の所は中華喫茶か?」

 

「露骨に話を逸らしたわね……まあいいわ。一夏はあたしに見惚れてたって事にしておくから。そうよ、中華喫茶やってんだけど、お客がこっちに食べられちゃってね。暇だから遊びに来たの。嬉しいでしょ?」

 

「忙しいから遊んでる暇なんてないよ」

 

笑みを浮かべる鈴に一夏は溜息を吐く。

 

暇だから遊びに来たと言える鈴とは対照的に暇という単語が地平線の彼方にある一夏は今すぐ立場を変わってくれとすら思っていた。もっとも、変われるはずはないので思うだけにとどまってはいる。

 

「とにかく案内よろしくね」

 

「はいはい。ーーそれではお嬢様、こちらへどうぞ」

 

「よろしい」

 

何故か妙に偉そうな鈴をスルーしつつ、一夏は鈴を空いているテーブルへと案内する。

 

因みに内装は学園祭とは思えないほどの調度品が置いてあるのだが、それらは全てセシリアが手配したもので、テーブルと椅子の拘りは凄まじく、ワンセットで聞くのもバカらしいような値段がするのだが、「一年の学園祭は一度だけですわ」とセシリアはもっと凄いものを置こうとして、周囲に止められていた。

 

ティーセットも当然拘りの品々で、全てがこの日のために用意されたオーダーメイド。

 

この学園祭が終われば記念の品として保管するとの事を聞いた調理担当のクラスメイトたちは落とさないように全力で気を張っている。

 

「それで、ご注文は何になさいますか?お嬢様」

 

「そうね……じゃあ『執事にご褒美セット』。貴様を、ご指名だ!」

 

「当店ではそのようなサービスはしておりません!」

 

「チャイニーズジョークよ!大いに笑いなさい!」

 

「……失礼ですが、お客様。当店では祭はしておりません」

 

完全に暴走を始めていた鈴を止めたのはハリセンを持った将輝だった。

 

「一夏をご指名するのは構いませんが、騒がれるのは困ります」

 

「あたし、お客様なんだけど⁉︎」

 

「ではお静かに。我々としましても、お客様を叩き出すのは本意ではございません」

 

満面の笑顔でそう告げる将輝にさしもの鈴も引いた。

 

笑顔であるはずにもかかわらず、そこにあるのは無言の圧力。異論があるなら、論破してつまみ出してやろうという意思の表れだった。

 

「ご理解いただけたようで何よりです。では、ごゆっくり」

 

踵を返し、去っていく将輝を見ていた鈴は嵐が去ったことに胸をなでおろした。

 

「将輝。なんかピリピリしてない?」

 

「疲れてるからな。なのに鈴が騒ぐからだよ」

 

「うっ……わ、悪かったわ。あれはなんというか………そ、その場のノリよ」

 

「頼むから大人しくしててくれよ。はい、どうぞ」

 

将輝が鈴に対して説教を行っている間に、一夏は『執事にご褒美セット』の内容であるアイスハーブティーと冷やしたポッキーを持ってきていた。値段にして三百円と格安。

 

お客様の笑顔は宝物です、と言いつつも、一夏は当然ながら気が進んでいなかった。それもこれも内容が内容だけに仕方のないことではある。

 

「では、失礼します」

 

「へ?」

 

一夏は鈴の正面に座る。二人がけのテーブル席に差し向かい、片方は燕尾服、片方はチャイナドレスと異様な光景だが、それはご愛嬌。

 

「なんで座ってるのよ?」

 

「では、ご説明させていただきます。ご注文なさいました『執事にご褒美セット』はご指名されました執事に食べさせてあげる事の出来るコースとなっております」

 

「はぁ?金払って、お菓子あげるってどういう仕組みよ……」

 

「俺が知るかよ………」

 

鈴の問いかけに一夏も頭を悩ませていた。

 

というのも、このシステム。はっきり言って買っている方に殆ど得はないはずなのだが、どういうわけか、人気があるのだ。男子に食べさせてあげられるからにしても三百円を捨てているようなものである。

 

「まぁ、お金払ったんだし、サービスしてもらうわ。はい、あーん」

 

「あーん」

 

ぱきっと弾ける音が口の中に響く。

 

器のパフェグラスごと冷やしていることもあり、食べてもすぐには溶けず、薄い膜のような感触が数秒続いたものの、やはりすぐに溶けてしまうが、その時の甘さが心地よくもある。

 

「じゃあ、次はあんたが……どしたの、一夏?」

 

一夏の意識が自分以外に向いていることに気づき、鈴は一夏の視線の先にいる人物の方へと視線を向けた。

 

視線の先にいたのは今の一夏と鈴と同じように『執事にご褒美セット』を頼んでいる少女ーー更識簪と将輝の姿があった。

 

だが、違う点が一つだけあった。

 

それは簪が無表情を貫きながらも、将輝に不思議な圧力で迫っているところだった。

 

「さあ、早く」

 

「お、お客様……当店ではそのようなサービスは……」

 

「違う。そもそも『執事の』サービスという捉え方がおかしい。寧ろ、このやり方は私がサービスしているとの捉え方が正しい」

 

「いや、確かに世間一般ではそうだけどさ、ここは例外じゃ……」

 

「ご褒美のあげ方は人それぞれ。いい加減に諦めた方がいい」

 

「二人とも、何を言い合ってるんだ?」

 

見るに見かねて、一夏が二人の言い合いに割って入った。

 

というのも、将輝と簪が言い争っているという光景はかなり珍しい。

 

ボケとツッコミという点においては常日頃からではあるものの、普通に言い合っているというのはまだ知り合って間もないとはいえ、よほどの事なのだろうと一夏が間に入った。

 

本来なら引っ張りだこの一夏が仲介に入るのは非効率であるのだが、奇跡的なタイミングで一夏以外の全員が注文の品を取りに行っていたり、待ちの確認をしに行っていたりとホールにいなかった為、一夏が止めに行くことになった。

 

「大丈夫。言い合ってはいない。説得しているだけ」

 

「説得っていうか、尋問ていうか。なんというか」

 

「それは失礼。私は事実を述べているだけ」

 

「事実?」

 

一夏が聞くと簪は解説を始めた。

 

「うん。この『執事にご褒美セット』。説明では『執事に食べさせてあげられる』と言われた。そうなるとどういう形で食べさせてあげられても、人道的なら全く問題はない」

 

「まぁ、確かに」

 

「つまり、手で渡そうが、口で渡そうが、それで間接的にポッキーゲームになろうが問題はないはず」

 

「まぁ、そうだよ……んん?それはマズくないか?」

 

「マズくない。途中で意図的に折れば、互いに触れることはない。非人道的ではない。多少はドキドキするかもしれないけど、それ以上はない」

 

「うーん、それなら大丈夫……なのかなぁ」

 

「阿呆か!」

 

「痛ぁっ⁉︎」

 

一夏の頭上にハリセンが振り下ろされる。

 

「丸め込まれてどうする⁉︎お前こっち側の人間だろうが⁉︎」

 

「いや、でも言ってることは筋通ってるぜ」

 

「………これを容認したら、お前も同じ目にあうが良いのか?」

 

「それも問題ない。次からは無くせばいい」

 

「……って、言ってるし」

 

「お前俺の立場知ってる上で言ってんのか?ぶっとばすぞ」

 

拳を強く握りしめ、顔をひくつかせながら、将輝は一夏に言う。

 

とはいえ、一夏もここで引くわけにはいかない。

 

常日頃から、というわけではないものの、一夏も一夏で将輝から微妙にイラっとする悪戯や鈴やシャルを煽ってのプチ騒動などの被害をこうむっている。

 

その一つ一つは微々たるものではあるが、やはり反撃するならここしかない。そう一夏は判断し、白けつつも簪を援護していた。

 

「将輝。お客様は?」

 

「………か、神様…です」

 

「今回は俺達の方に非があったわけだし、今のうちにメニューを全部回収して訂正しておこうぜ。そうすれば、次からは万事解決だ」

 

「……今は?」

 

「……………悪いな、将輝。これも尊い犠牲なんだ」

 

「ふざけるな!俺を殺す気か!」

 

「箒なら許してくれるはずだ!」

 

「そういう問題じゃねぇぇぇぇ!」

 

「二人とも。ここは喫茶店、静かに」

 

「「あ、なんかすいません」」

 

何故か元凶であるはずの簪に諌められ、二人はぺこりと頭を下げる。

 

「じゃあ、俺はメニュー回収してくるから」

 

そして自然な動作で一夏は鈴のいた場所へと帰っていった。

 

流れるような動作に将輝は見送った後に逃げられたことに気がついた。

 

「ん」

 

「ん、じゃねえよ。何当たり前のように口に咥えて食べさせようとしてんの、キミ?」

 

「貴方の彼女がいない間に済ませてあげようとしている私の配慮を考えて欲しい」

 

「いっそ、最初からしないでくれよ……」

 

「………」

 

「だあああ、もうわかったよ。やればいいんだろ、やれば」

 

簪の無言の圧力に屈し、箒がいないうちにこの罰ゲームにも等しい行為を終わらせようと将輝は僅かに身を乗り出し、簪の咥えているポッキーの先端を咥える。

 

「さあ、食べて」

 

(なぜに目を瞑る)

 

簪の言われるがまま、将輝は慎重にポッキーを食べ始める。

 

警戒しつつ、半分まで食べ終えても、当然のごとく、簪は微動だにしない。

 

(てっきり何かしてくるものとばかり思っていたけど、何もしてこないな)

 

そう思いつつ、鼻と鼻が触れそうになったところで将輝が意図的にポッキーを折ろうとした時だった。

 

簪は少しだけ口を開くとポッキーをかじるのではなく、そのまま残り全てを飲み込み、将輝と唇を重ねた。

 

「ッ⁉︎⁉︎⁉︎」

 

「ふぅ……ご馳走様」

 

触れ合っていたのはほんの数秒。

 

すぐに離れることも可能ではあったが、油断していたときにされた事で将輝は完全に不意を突かれる形となった。

 

簪が離れたところで、混乱していた意識が覚醒した将輝は当然のごとく、すぐに抗議した。

 

「話が違うじゃねえか!」

 

「うん。初めからそのつもりだった。昨日読んだラノベ(これ)に『キスの味は砂糖よりも甘い』と書いてあったから気になって試してみた」

 

「試してみたって……あのなあ」

 

「安心して。今のは私のファーストキス」

 

「余計に安心できない⁉︎」

 

さらっと告げられた突然のカミングアウトに将輝はツッコまずにはいられなかった。気になったから試してみたということにも驚きではあるものの、それ以上にその為にファーストキスを捧げるという簪の感性にも驚いていたからだ。

 

「大丈夫。何も男の人なら誰でも良かったわけじゃない。貴方だから試してみた。少なくとも、今まであってきた男の人の中では一番好き」

 

「好きって……あれだろ?友達として……」

 

「求婚されたら結婚するくらいには」

 

「意外に大きいな、おい!」

 

「けれど、貴方と彼女の関係はとても強固。裂くつもりもない。貴方と彼女はベストパートナー。運命の赤い糸で結ばれた男女。そこに私の入る余地はないし、二人がそうしている方が私は嬉しい」

 

「簪……」

 

「………というセリフがあったから使ってみた」

 

「色々と台無しだ!」

 

「我ながら素晴らしいタイミングだと思う」

 

そう言って簪は小さくガッツポーズを取った。

 

そろそろ将輝は頭が痛くなってきたのか、額に手を当てる。

 

簪の相手は疲れることには疲れるのだが、将輝自身、それなりに楽しんではいる。

 

しかし、今回ばかりはやる事なす事精神的な疲労が著しく、楽しむよりも気が滅入る方が大きかった。

 

「そろそろ私は戻る」

 

「ああ……出来れば今日はもうここには来ないでくれ……」

 

「その心配は無用。貴方の話した通りに事が進む以上、今日はもう来られない」

 

簪の言葉に将輝の雰囲気が変わった。

 

「………首尾は?」

 

「上々。後は貴方達次第」

 

「そうか。事が終われば、また礼はする」

 

「その必要はない。それはさっき貰った」

 

席を立った簪はそのまま振り返ることなく、一組の教室を後にした。

 

後は貴方達次第。

 

その言葉に将輝は静かに拳を握る。

 

今回の作戦の成功の鍵を握るのは如何にして自分達が『道化を演じるか?』それに尽きる。

 

(さて、その時まで仕事に戻るか)

 

思考を切り替え、席を立った時、そこには阿修羅がいた。

 

「……将輝。理由を説明してもらおうか?」

 

「………はい」

 

数十分の間、将輝はこんこんと箒に説教されるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……疲れたな」

 

「もう終わってる感出してるけど、まだ休憩挟んで二時間あるぞ」

 

「わかってるよ」

 

執事服の上着を脱いで、二人は廊下に出ていた。

 

一組の目玉である二人の男子がいないというのは、かなり問題ではあるものの、やはりあれだけの労働があるので、目玉といえど休憩はしなくてはならない。それにこれにもそれなりに理由はある。

 

「ちょっといいですか?」

 

「はい?」

 

ふと、階段の踊り場で二人に声が掛けられ、一夏が反応する。

 

「失礼しました。私、こういうものです」

 

スーツの女性が差し出したのは名刺。それを慣れた手つきで二人へと手渡した。

 

「えっと……IS装備開発企業『みつるぎ』渉外担当・巻紙礼子……さん?」

 

その人物はふわりとしたロングヘアーがよく似合う美人の女性。

 

声をかけてからずっとニコニコと笑みを浮かべているその人物は、やはりというべきか、『企業の人間』といった風貌であった。

 

「はい。織斑さんと藤本さんに是非我が社の装備を使っていただけないかなと思いまして」

 

その言葉に一夏は将輝の顔を見た。

 

将輝は視線を下に動かす事で頷き、女性に向けて、返事をする。

 

「すみません。僕達としては是非とも、と答えたいところなのですが、自分達の一存では決められませんので。それに今はあまり時間もありませんし、また今度お話を聞かせていただきたいと思います」

 

「本当ですか⁉︎ありがとうございます!」

 

そう言って、巻紙礼子は頭を下げる。

 

その様子は完全に仕事を成功させた人間のそれであるが、無論将輝達にそのつもりはない。

 

「では、また後ほど(・・・)

 

そう言って、将輝と一夏はその場を去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふ、ふ、ふっ……」

 

IS学園の正面ゲート前で、一人の男子がチケットを片手に笑いをこらえている。

 

それは一夏の友人こと五反田弾。

 

遡ること三日前。

 

一夏と共通の友人である御手洗数馬の家でベースの練習をしていた時、一夏からの電話がかかってきた。

 

その内容というのは『招待券があるけど、IS学園に来ないか?』というもの。

 

当然のごとく、弾は狂喜乱舞し、それを承諾。

 

招待券を片手にこうして今日、IS学園にやってきたのである。待ち合わせの時間から既に十分に過ぎているが、別段気にならない。

 

というのも、正面ゲート前でも十分に沢山の女子が見えるため、弾としてはレベルの高いIS学園の女子を見ているというだけで目の保養になる。

 

若干気合の入った服装をしている弾だが、それを抜きにしても一般人ーーそれも、十代男子がいるというのは目立つ為、既に噂になり始めていた。

 

「そこのあなた」

 

「はい⁉︎」

 

不意に声をかけられて、弾はびくりと背筋を伸ばす。

 

振り向いた先に立っていたのは、眼鏡と手に持ったファイルがいかにも堅物のイメージが似合う三つ編みの眼鏡をかけた女性ーー布仏虚だった。

 

「あなた、誰かの招待?一応、チケットを確認させてもらっていいかしら?」

 

「う、うす……」

 

弾はあたふたと焦りながら、握っていたせいでくしゃくしゃになったチケットを差し出す。

 

「配布者は……あら?織斑くんね」

 

「あいつの事……ご存知で?」

 

「ここの学園生で彼のことを知らない人はいないでしょう。はい、返すわね」

 

(やっば!この人、無茶苦茶可愛いじゃん!ど真ん中ストライクなんだけど!……なんか話題ねえかなぁ……)

 

「す、すいません!」

 

「?何かしら?」

 

「あ、いや……いい眼鏡ですね」

 

「オーダーメイドよ。わかる人がいて嬉しいわ」

 

弾の苦し紛れに放った一言は予想外にも好感触で、弾は内心でガッツポーズをする。

 

女性というものに対して、殆ど無縁である弾だが、咄嗟の自分のセンスには内心で褒め称えていた。

 

「では私は行くけど、あまり目立つような行動は控えて下さいね………といっても、目立たない方が無理ですが」

 

「あ、はい」

 

踵を返して去っていく虚の背中を見届けながら、弾はそこで連絡先を教えてもらえば良かったと地味に後悔する。

 

そのとき、入れ違いで一夏と将輝が現れた。

 

「お、いたいた。おーい、弾」

 

「おー、一夏と……」

 

「こうして顔をあわせるのは二度目か。藤本将輝だ、よろしく。好きに呼んでもらって構わない」

 

「ああ、よろしく………ところで二人が燕尾服なのはツッコんだ方がいいのか?」

 

「「スルーしてくれ」」

 

「わかった」

 

口を揃えてそう言う二人に弾はツッコミたい衝動を抑えて、あえてスルーする。

 

「そういや、鈴のやつ元気?つーか、進展した?」

 

「元気すぎるくらいだ……進展?」

 

「すると思うか?一夏だぞ」

 

「だよな」

 

「?なんの話してるんだ、二人とも」

 

「「お前には一生わからない話」」

 

ばっさりと切り捨てられた。

 

「そっか。ところで何処に行く?鈴のところにするか?」

 

「んー、今すぐじゃなくてもいいや。折角だし、色々見て回りてえし」

 

「了解。じゃあ、俺も全然見れてなかったし、行こうぜ。将輝もそれで良いよな?」

 

「ああ」

 

そうして、一夏と弾が並んで歩き出し、将輝も並んで歩こうとした時、ふと視界の端を何かが通った。

 

これだけの人混みの中で、視界の端を誰かが通り過ぎるのは当たり前のことだ。

 

まして、見たことのある人間はこの学園に大勢いる。

 

しかし、先程通り過ぎた人間に妙な引っかかりを覚え、辺りを見渡すものの、大勢の人が行き交う中でその人物を見つける事は酷というもの。既にその姿はなかった。

 

「どうしたんだ、将輝?」

 

「なんでもない。気のせいだ」

 

変に不安を掻き立てる必要はないと思い、将輝は適当に誤魔化した。

 

「早く行こうぜ。後一時間したら劇やらなくちゃいけないんだし」

 

「劇?二人とも、演劇部でも入ってんのか?」

 

「いや、そういうガチなのじゃなくて、生徒会主催のやつなんだ」

 

「へー、流石はIS学園。普通のところとはやる事が違うなぁ」

 

(まぁ、普通の生徒会長じゃないしな……)

 

(むしろ、あれが主催者で普通になるわけがない)

 

どこか感心している弾に一夏と将輝は内心で溜息を吐いた。

 

将輝の事があろうとなかろうと行われる予定だったものであり、その内容は一切明かされていない。

 

しかし、それを知っている将輝からしてみれば、作戦とは無関係にそれには報酬があり、そしてそれらは自分達なのだ。波乱に満ち溢れているのは当然のことだと言えた。

 

「ひとまずこの話は置いておこうぜ。時間は少ないけど、英気は養っておかないとな」

 

「だな。弾。どこか行きたいところとかあるか?」

 

「んー、特にねーな。色々回っていこうぜ」

 

「了解。将輝もそれでいいよな?」

 

「ああ、全然見れてなかったしな」

 

特にこれといって目当てもなく、歩き出す三人。

 

色々な部活やクラスで出し物がされているのだが、行く先々で一夏も将輝も女子に声をかけられ、手を振ったり返事をしたりしていた。

 

そんなことを繰り返しているうち、どんどん弾の目が腐り始めていた。

 

「……お前ら、無茶苦茶人気あるじゃねーか……」

 

「一夏と一緒にしないでくれ。モテ要素の塊だぞ。フラグが立ってる数も正直洒落にならん。そんな奴と比べられると悲しくなる」

 

「げっ、マジかよ。ここでも同じことやらかしてんのか……なんか可哀想に思えてきた」

 

「ウーパールーパーみたいなもんだって。ていうか、将輝は箒がいるし、俺よりモテるだろ」

 

「前言撤回。やっぱ同じだわ」

 

一夏の一言で手のひらを返す弾。

 

非リアの人間からしてみれば、例え大勢にモテなくとも、彼女持ちというだけで敵なのだ。

 

因みにそれでも一夏が将輝よりも上に位置しているのは言うまでもない。何せ『気づいていない』だけなのだから。

 

「いいよなぁ。入れ替わりたいもんだぜ」

 

「替われるもんならそれでもいいけどな。なぁ、将輝」

 

「俺としては女子ばっかりの環境はともかく、IS自体に男のロマンがあるし、箒がいることを考えると、そう悪くはないと思うぞ……ああ、後、危険なことさえなければ」

 

「だな。将輝は二回も死にかけたしな」

 

「正確に言うなら一回死んで蘇生してるけどな」

 

「…………え?何それ怖い。ISの実戦って命に関わんの?てか、なんでお前らはそんなにさらっと流してんの?」

 

なんでもない世間話のように爆弾発言をする二人に弾は戦慄する。

 

『女ばっかりでハーレムだぜ!リア充生活ひゃっほー!』と馬鹿なことを考えていたりしていたのだが、それが死と隣り合わせかもしれないと思うと、弾は『やっぱり普通の高校でいいか』と心の底から思うのだった。

 

 

 

 


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