憑依系男子のIS世界録   作:幼馴染み最強伝説

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原作五巻〜すれ違う二人〜
生徒会長に碌な奴はいない


 

九月三日。二学期初の実戦訓練は一組二組の合同で始まった。

 

「はあああああ‼︎」

 

「くっ……やるわね、将輝!」

 

クラス代表者同士ということで始まったバトルは始めこそ、鈴が押していたものの、気づけば将輝が押していた。

 

その理由は単純明快。将輝がISに慣れたという事に他ならない。

 

夏休み。福音戦との傷が癒えるまでの間、ISによる生命維持のバックアップを受けなければ、すぐにでも死に至る状態にあった。その為、ISによる模擬戦闘は行えず、さらに副作用によって加減の効かなくなった力をコントロールする事に専念していたのだが、つい先日、傷もほぼ完治し、ISとの同調を解除した事でチート級の筋力こそ失われたものの、その際の筋肉の破壊と再生で偶発的に手に入れた筋力は健在で、超人的レベルまで引き上げられていた反射神経はその二ヶ月の間でごく自然に身についていた。

 

始めは二ヶ月間、ISを使用できなかったために感覚を戻す事に必死で防戦一方だったものの、今は超人的な反応速度を駆使して、殆どをスウェーで躱すという代表候補生である鈴も度肝を抜かれる程の動きを見せていた。

 

「これで終わりだ!」

 

またもや鈴の《双天牙月》をスウェーで躱すと将輝は一気に距離を詰めて、逆袈裟斬りで甲龍のエネルギーを全て奪い取ると試合終了のブザーがなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「結局二回とも負けた………しかも二回目なんて殆ど当たらなかったし……」

 

前半戦、後半戦ともに将輝の勝利で幕を閉じた実戦訓練。その後の片付けを終えて、将輝達いつもの面々は学食にやってきていた。

 

「大体おかしいわよ。完全に隙をついたはずなのに当たる直前で躱すなんて、代表候補生クラスでも至難の技だってのに」

 

文句を言いながら、鈴はラーメンを啜る。文句を言いたくなるのも無理はない。今回の将輝の人外じみた動きにはあの千冬でさえ、感嘆の声をあげていた。

 

「藤本将輝よ。まだ感覚が鋭敏なままなのか?」

 

「ああ。どうにも抜けきらないみたいなんだ、ラウラ。フォーク投げてみてくれ」

 

「いいだろう。そら」

 

ラウラは食事を終え、手にしていたフォークを将輝に向けて投擲する。二人の距離は僅か一メートル程しかなく、ラウラの手元から放たれたフォークの速度はかなり速い。だというのに将輝は顔色ひとつ変えず、当たり前のようにフォークを掴み取った。

 

「どうだ?」

 

「反射的に取ってるっていうより見えてるんだけど、身体もそれに対応出来るから避けられるし、受け止められるのかもしれない」

 

「私も見ていてそう思った。私が投げてすぐにお前の左腕は私達の目で追える速度を超えて、キャッチしていた。おそらく力をコントロールしようと訓練していたのが原因だろう。本来なら目で見えても身体はついてこないはずだが、それに耐えうる肉体に成長したから動いてしまうのだ」

 

「そんなに凄いなら千冬姉の出席簿も受け止められるんじゃないか?」

 

「そしたら次は拳骨が飛んでくるよ。反射的に防がないように努力しないとな」

 

なまじ反応速度が凄まじいだけに下手をすると千冬の攻撃も条件反射で避けかねないし、防ぎかねない。出席簿を防ぐか、或いは避けるまでならまだ良い。後から来る拳骨までも防いだりした暁にはさらに酷い罰が待っている。ISとの同調を解除した今では鈍った痛覚は徐々に戻りつつあるのだ。

 

(まぁ、この分なら生徒会長が仕掛けてきても問題な………い……?)

 

なんとなく、視線を感じた将輝は食堂の入り口へと視線を向ける。見えたのは一瞬ではあったが、その一瞬見えたものは水色の髪と後ろ姿。まるで誘っているかのような絶妙なタイミングで視界に映った人物は歩き去った。

 

関わりたくない、面倒事になる。それが将輝の本音だ。今視界に映った人物は束程ではないにしろ、人を巻き込むタイプの人間だ。関わったところで碌なことはない。だが、あちらから絡んでくれば、タイミングによっては収拾のつかない事態になる。そう考えてからの将輝の行動は早かった。

 

「将輝?」

 

「悪い。用事を思い出した」

 

そう言って席を立つと将輝は食器を片付けるのも後回しにし、後を追いかけた。

 

歩き去ったのはつい数秒前のこと。すぐに追いつけるはずと早歩きで人混みを抜け、廊下に出たものの、其処には目当ての人物の姿はなかった。階段のある場所まで探しに来たところで将輝は寒気を感じ、思わずその場から飛び退いた。

 

「あら、凄い反応速度ね」

 

手にしていた扇子で口元を隠しつつも、微笑を浮かべているのは先程の水色の髪の毛をした女生徒。何時の間にか背後に回られていたという事自体には驚きはしない。将輝の知っている彼女ならそれは当たり前だ。無意識に反撃しかけた方が将輝としては驚いていた。

 

「初めまして、藤本将輝くん。私が誰だかわかる?」

 

「IS学園生徒会長更識楯無。一年の簪さんのお姉さん」

 

「ビンゴ〜♪訊いてた通りの鋭さだね。流石は簪ちゃんのお友達」

 

バッと改めて開かれた扇子には『偉大』と書かれていた。

 

(別に友達っていう訳じゃないんだが…………ていうか、簪の友達ってだけで其処まで凄いか?………いや、確かに凄いな)

 

ふと簪のキャラやコミュ力を思い出し、あれの友達になれるなら某青春ラブコメの主人公とすら友達になれるかもしれないと思い至る。少なくとも、簪よりは簡単かもしれない。もっとも、あちらから勝手に懐いてきたというのが正しいかもしれない。

 

「で、俺を試して何がしたかったんですか?」

 

「うーん、試す、っていうのはちょーっと違うかなぁ。試すでもなく、君は優秀な人間だから」

 

「些か買いかぶりすぎですね。俺は凡人ですよ」

 

「確かに。君は織斑一夏くんと比べて才能は劣る。けれど、その分脳みその回転は尋常じゃないよね。無人機襲撃の際、君が誰よりも早く対応した事で負傷者は君だけに落ち着いた。VT事件も君がいたからセシリアちゃんは助かった。福音の時も君は死の淵から一度蘇生し、その手で打倒した。この三ヶ月、目ぼしい事件を解決したのは紛れもなく藤本将輝くん。君よ」

 

「………」

 

これには流石に将輝も押し黙った。それは図星だからというわけではない。言い返そうと思えば、言い返せる。だが、言い返した場合、それは面倒事を自らが引き込んでいるのと同義となってしまう為、ここはあえて黙った。

 

「織斑先生にも聞いたわよ。貴方の予測は予知と同義だと。まるで事前情報でも持ち合わせているかのようだって」

 

「何を馬鹿な。初めから知ってればそもそも全部やらないようにすれば良いじゃないですか」

 

「それこそ愚かな行為よ。もし止めてしまったら、貴方は防ぐ術を失うわ。それに貴方はどうやってそれを防ぐつもりなのかしら?」

 

楯無の言う通りだった。防ごうと思えばそもそも全ての理由を話し、中止にするか延期にさせることも出来た。だというのにそれをしなかったのは将輝がイレギュラーの発生を防ぐ為だった。ただでさえ、本来いないはずの自らが居合わせているというのにそれ以外のイレギュラーを起こしてしまえば齟齬程度では済まない。実際、原作では爆発しなかった無人機は自爆し、福音事件では密漁船が一隻増えていた。それから鑑みても事前にそれを防ごうとしなかったのは正解だったと言える。

 

「私は貴方があえて事が起こるまで静観していた事も含めて評価しているのよ。仮に一夏くんが知っていたとしたら、静観するなんて選択肢はとらなかったでしょうね」

 

「プロファイリングってやつですか?」

 

「そんなところね。こう見えてもお姉さん、そういう事には精通してるから………あ、一応聞いておきたいんだけど、私の家の事も知ってる?」

 

「……知りませんよ。ストーカーじゃないんですから」

 

「ストーカーなら今頃テトラポットに括り付けられているわ」

 

「極道か何かですか……」

 

「さぁ?別に今知ってても知ってなくても、私と関わっていればいずれ知る事になるわ」

 

「願わくば会長。貴方とは必要最低限の関わりしか持ちたくありませんけどね」

 

「いやん。そんな事言われるとお姉さん傷つくなぁ。けど、私は貴方の事気に入っちゃったからガンガン絡んでいく感じだからよろしくね♪」

 

「あんた人の話聞いて「そうそう、藤本くん」なんですか?」

 

「今、何時だと思う?」

 

「一時五分………あ、ああああぁぁぁぁぁ⁉︎」

 

将輝は携帯に表示された時刻を見て声を上げた。何故なら五限目開始の時刻を既に五分過ぎているからで、授業の担当教員は何を隠そう織斑千冬だからである。

 

「ハ、ハメやがったな……更識楯無」

 

「あら、何のことかしら?私はただあなたと楽しくおしゃべりしていただけよ?」

 

楯無は悪戯っぽい笑みを浮かべて、小さくウインクする。それが妙に様になっている分、なおのことタチが悪い。将輝は怒鳴りたい衝動に駆られるが、これ以上の時間のオーバーは避けたいし、楯無の言っている事も正しかった。

 

将輝は楯無を一瞥するとそのままアリーナまで走っていった。

 

「大人びてるけど、ところどころ子どもっぽいところがあるわね。猫被りなら監視も必要かと思ったけどその必要もなさそうだわ……ただ」

 

ーーー面白そうだから個人的にちょっかい出してみようかしら。

 

その悪魔の呟きが将輝に届くことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遅れた理由を聞こうか、藤本」

 

「えっと、ですね。生徒会長に足止め紛いの事をされていたというかなんというか……」

 

「更識か。ちょっかいを出すなら放課後にしておけと言っておいたんだが……」

 

額に手を当て、千冬は溜め息を吐く。その様子に将輝は助かったとホッと胸を撫で下ろしたが………次の瞬間、両手は振り下ろされた出席簿を白刃取りしていた。

 

「あ、あの、織斑先生?許してくれたのでは……」

 

「理由は聞いたが、許すとは誰も言っていない。それとその手をどけろ、藤本。ぶち抜くぞ」

 

「いや、既にぶち抜こうとかなり力込めてますよね⁉︎これこのまま手を離したら頭蓋骨陥没しますよ!」

 

「一度は死んだ奴が何を言うか。今更死にかけたところで問題ないだろう」

 

「貴女の発言に激しく問題がありますが⁈」

 

そんなやり取りをしている間にも出席簿にはどんどん力が込められ、それに比例するように将輝の腕の骨がミシミシと悲鳴をあげていた。

 

(うおおおおお、死にたくない、死にたくないでござるぅぅぅぅ!)

 

片手であるというのに将輝の両手と拮抗している千冬はやはりと言うべきか人外だった。だが、なかなか押し切れない事に業を煮やした千冬は蹴る方に切り替えたのだが…………器用にも将輝はそれを足で受け止めた。

 

「……」

 

「違うんです、わざとじゃないんです!条件反射で勝手に防御しちゃうんです!ですから怒らない「藤本、歯を食いしばれ」へ?ぎゃんっ‼︎」

 

握り締められた拳が将輝の腹部を深くえぐった。反応が出来なかったわけではない。単に両手と右足は防御に、左足は踏ん張るために使用していた為、最早喰らう以外の選択肢が残されていなかったのだ。ボディに抉りこむような打撃を受けた将輝は身体がくの字に折れた後、そのまま力なくその場に沈んだ。

 

「ふぅ……手こずらせおって。では授業を再開する。そこに寝ている馬鹿は当分起きんだろうから、邪魔だからどけておけ、織斑」

 

「は、はい!(将輝、生きてるかな?)」

 

「し、死ぬかと思った……」

 

『蘇生早っ⁉︎』

 

沈んで間もなく、平然と立ち上がった将輝を見て、千冬を含むその場にいた全員がそういった。


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