憑依系男子のIS世界録   作:幼馴染み最強伝説

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番外編:セシリアルート6

もう何度目の打ち合いになるだろうか。

 

この機体と戦い始めてかれこれ五分が経過した。

 

片腕を失い、本調子ではないのにこんな化け物と未だ打ち合っているのは奇跡に等しいが、何も偶然というわけじゃない。夢幻のお蔭だった。

 

どういうわけか、この機体は俺がピンチの時に限ってあり得ない性能を発揮する。正確には違うのかもしれないが、兎にも角にも俺はこれのお蔭で今もなお無人機と対峙している。

 

だが、それも時間の問題だ。

 

打ち合うたび、相手の攻撃が徐々に俺に届いていくのがわかる。俺の一撃が離れていくのがわかる。それは俺自身の限界が近づいているのと敵の性能が上がっている事の証明だった。

 

おまけに敵のISはISの絶対防御を阻害する何かを持っているのか、掠っても傷は付いていた。斬り落とされた左腕から考えてISのシステム全てを阻害するものではないらしい。血は止まっているようだし。止まっていなければ今頃俺はそこら辺に転がっていた。

 

「はは、ここらが俺の限界って事か」

 

回避不可能。あまりにも明確に、確実に迫る死に俺は嗤ってしまった。

 

自暴自棄になったわけじゃない。これが俺に与えられるべき罰だとそう思ったからだ。

 

過去全てをかなぐり捨てようとして、それを求める彼女に出会った。

 

新しい人間として生きようと考えたのに、その過去を利用した。ただの記憶喪失だと偽って。いつ戻るかもわからないかもしれないのに甘い言葉で誤魔化して、彼女との接点を断ちたくないと。

 

初めから俺が彼女に関わるべき人間ではないとわかっていたのに。それでもわからないふりをして彼女と関わり続けた。それを彼女が望んでいるから、それにつけ込むように。

 

だというのに。耐えられなくなったのは俺の方だった。

 

彼女が望むならそうあろうと頑張った。彼女の笑顔さえ見られればそれで良かった。だが、楽しそうにしている彼女を見て、太陽のような笑顔を見せる彼女を見て、それを向けているのが自分ではない事に。

 

彼女を突き離したのは彼女自身と謳いながらも俺自身が逃げる為にそれを理由にした。

 

弱いのは他でもない俺自身だというのに。

 

それでも………あれだけの罪を犯したとしても………彼女を護りたいと思うのは傲慢なのだろうか。

 

人を愛した事のない俺が、初めて好きになった人。命を賭してでも護りたいと思えた人。彼女を脅かすものは何であろうと許さない。例え腕を斬られても、確固たる死がそこに待ち構えていても。俺は立ち上がろう、剣を取ろう。勝てる勝てないの問題じゃない、俺の後ろに彼女がいるのなら俺は倒れてはいけないのだから。

 

「行こう、夢幻。これが最後のやり取りになる」

 

ここまで俺の命を繋ぎ止めてくれた相棒にそう告げる。いくら夢幻が成長しようと、例え俺の体調が良くても俺はこいつよりも弱い。強さ=勝者というわけじゃないけれど、何度も続いたやり取りの中で相手は俺の動きを把握しているはずだ。裏をかくなんて行為は至難の技。だが、出来ないことはない。俺の命を計算から排除してしまえば。

 

操縦者保護機能を必要最低限までカット。絶対防御もカット。全てを加速と火力につぎ込む。

 

これが最後の一撃だ。受け取れ、木偶野郎っ!

 

スラスターをフル稼動させた瞬時加速で、俺は敵ISに肉薄する。

 

急な加速で意識がブラックアウトしかけるが、必要最低限でもISは俺の意識をこっちに繋ぎ止めた。

 

「おおおおおおっ‼︎」

 

激しい痛みと倦怠感か襲う中、俺はそれをかき消すように叫び、斬りかかる。

 

どれも今までの中でも最高の一撃。以前の無人機や福音ならば瞬殺してしまえそうな程。それでもなお、届かない。避けられ、捌かれ、反撃こそされていないものの、敵は余裕そうに俺の攻撃を回避し続けた。

 

それでも俺は手を止めるわけにはいかない。今の一撃で届かないというのなら次の一撃を当てる。その次もダメならその次を。常に最高の一撃を叩き出し、相手を戦闘不能にする。例え倒せなくても、時間が稼げればそれでいい。

 

斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る………届いたっ!

 

僅かに敵の腹部を掠めた。大したダメージにはならないだろうだが、一撃でも届いたのなら、次の一撃も当てられる!

 

加速する剣戟は徐々に敵の腕や足、肩や腹部に当たり始める。防御を完全に捨て去った此方の火力は敵のISの絶対防御を貫く。当たれば必殺なのは俺も相手も同じだ。違うのは相手を倒すことが出来れば死んでもいいと思っている俺と機械だからこそ、壊される可能性のある攻撃は絶対に避けようとする無人機の差。捨て身で挑めるかどうか、それが戦況をわける時もある。

 

ギィィィンッ‼︎

 

敵のISの腕が宙を舞う。細いせいか、斬り落としたというのにその感触は意外なまでに軽い。

 

しかし、そんな事を気にしている余裕はない。一気にカタをつけようとしたその時…………腹部を何かが貫いた。

 

「がふっ」

 

腹部を貫いたのは先程斬り落としたはずの腕。手先からエネルギーの迸る刃を出現させており、それで俺の腹部を貫いていた。

 

口から大量の血が溢れ、全身から力が抜けるような感覚に陥る。多分、今ので臓器の幾つかが焼き切られたのだろう。ただでさえ、無理に動いていたところに致命傷にも等しい一撃を受けた俺に戦闘を続行できる力は無かった。

 

ずるりと刃が引き抜かれると同時に浮遊感がなくなる。

 

ISは纏っているが、操縦者である俺が戦闘を続行することが出来なくなったからだろう。其処から始まるのは自由落下だ。絶対防御をカットしている現状ならおそらく即死だろうが、それよりも前に無人機によって俺は殺される。

 

もう片方の手に光が収束していくのがぼんやりとわかる。どれほどの一撃かはわからないが、あれを喰らえば死体も残らないだろう。まぁ、一瞬で死ねるならそれはそれで幸せな事だろう。

 

無人機の手から放たれた一撃が俺を包み込む…………はずだった。

 

「え……?」

 

目前まで迫っていたその一撃を突如目の前に現れたビームシールドが弾き、俺の自由落下も其処で止まった。

 

「すみません。遅れてしまいました」

 

俺の耳に届いたのはもう聞くことはないだろうと思っていた人の声。

 

「セシ………リア…?」

 

「はい」

 

振り向くと其処にいたのは専用ISブルー・ティアーズを纏ったセシリアだった。だが、俺の知るブルー・ティアーズとは姿が違った。

 

まず目についたのは彼女の肩部分に浮いているはずのものが存在しない事だった。ミサイルビットを収納しているはずの脚部装甲もすらっとしたスリムなものに変わっており、頭部についていたはずのスコープも消え失せていた。だが、そのどれよりも目を奪われたのが背中についている神々しさを放っている六つの羽を模した蒼い翼だった。

 

「申し訳ありません。わたくしが不甲斐ないばかりに………」

 

「いや………いいんだ。これが、俺の……選んだ道、だから。それよりもセシリア………その姿は」

 

「わたくしにも詳しい事はわかりません。ですが、わたくしの想いにブルー・ティアーズが応えてくれました」

 

ここまでの形状変化があるということ、そしてどういう理由かISを使用出来なかったはずのセシリアが今ISを纏ってるということは…………もしかしてしたのか?二次移行(セカンド・シフト)を?

 

「将輝さんはすぐに病院へ。ここはわたくしが「いや、俺も闘う」な⁉︎ダメです‼︎そんな傷でISと闘うなんて!」

 

「セシリアだけ闘わせるなんて出来ない。こんな死に損ないじゃ足手まといになるかもしれないが、最後の我儘だ。セシリア………君を護らせてくれ」

 

こんな事を言える立場ではないけれど、それでも最後に通したい我儘なんだ。もしここで彼女に任せっきりのまま死んでしまったのなら、死んでも死に切れない。例えセシリアが勝っても負けてもだ。

 

「ですが…………いえ、わかりました。わたくしを護ってくださいまし。その代わり……」

 

《無想》を握る手をセシリアはそっと支えるようにそえてきた。

 

「わたくしは将輝さんを護ります。その為にわたくしはこの力を得たのですから」

 

その言葉だけで十分だ。例え、この言葉が情けから来たものだとしても俺は満足だ。最後に彼女の隣に立てるのなら。

 

「じゃあ、いつものやついくか?セシリア」

 

「そうですわね。相手が機械である以上、おかしくはありませんわ」

 

隣に立ったセシリアとそんなやり取りをしつつ、俺は《無想》を、セシリアは形状が完全に変化した《スターライトMkⅢ》を構える。

 

「「踊れ(りなさい)」」

 

「俺、藤本将輝とーーー」

 

「わたくし、セシリア・オルコットのーーー」

 

「「奏でる円舞曲《ワルツ》で!」」

 

その言葉を皮切りに俺は敵ISに肉薄する。今までと同じ仕掛け方。けれど、俺の後ろには最も信頼できる人間がいる。いつも見ていた。いつかこうなってほしいと焼き付けた彼女の勇姿が。

 

俺を追い越すように無数の閃光が敵ISに向けて放たれる。それは俺を追い越すとさらに無数に枝分かれし、膨大な量となって敵ISを襲う。

 

敵ISは斬りはらおうとするもその圧倒的な量を全て斬りはらう事は出来ず、何発か被弾する。

 

殆ど怯んでいないところを見ると一発一発の威力は低いみたいだ。でも、敵ISがそれを迎撃しにいった事こそに意味がある。

 

被弾した敵ISに続けざまに俺は《無想》を振るう。セシリアの攻撃に対して防御に入った事で俺の攻撃に対する対応が遅れた敵ISはすかさず防御態勢に入り、《無想》を受け止める。

 

でも、それは俺もわかっている。当たるだなんてハナっから思っていない。

 

受け止められた瞬間、敵ISを蹴り飛ばすと相手は大きくのけぞった。夢幻の特性によって引き上げられた攻撃力ならただの蹴りでも十分な威力がある。

 

「行きなさい、ブルー・ティアーズ!」

 

セシリアの号令とともに蒼い翼から八基のビットが飛び出し、縦横無尽に駆け巡る。

 

倍に増えているにもかかわらず、ビットの動きは今までのどれよりも正確に精密により複雑に動き回り、敵ISを翻弄しながら全方位から射撃を行う。

 

おまけにその一撃は普通に放たれるものもあれば、偏向射撃のものもある。しかも偏向射撃は通常一段階しか曲がらない筈であるのに、セシリアのそれは二度曲がっている。

 

複雑に高速で動き回るビットから三つの法則で放たれる一撃に敵ISは避けることも防御する事も殆ど成功していない。本当ならこのままセシリアの攻撃に任せるのが得策なのだろうが…………

 

セシリアの方を見るとビットを操っているその顔からは徐々に血の気が引いていっている。

 

あれだけの高度な操作はそれだけで脳の負担が大きい。今までのブルー・ティアーズの操作だけでも長時間の操作は脳へ負担がかかっていた。だというのに、今はそれよりも更に複雑な動きと攻撃を行い、ビットの数も倍。そうなれば脳への負担は尋常ではないだろう。いくら適正値が高く、空間認識能力に長けているセシリアでも一分保てば良い方だ。

 

ならそれよりも早くに終わらせる。セシリアにこれ以上の負担はかけられない。

 

『セシリア。今から突っ込むから、道を開けてくれるか?』

 

開放回線でそう告げるとセシリアはこくりと頷いた。良し、行くぜ!

 

エネルギーは二割。その全てを一瞬の火力に注ぎ込む。

 

最初にして最後のチャンスだ。しくじるわけにはいかない。

 

と、ここで敵ISが右腕にエネルギーを収束し始めた。その砲口をセシリアへと向ける。それを止めるためにセシリアは腕部分に攻撃するが、敵ISはそれを全力で守る。セシリアさえ、無力化すればビット攻撃が止むとわかっているからだろう。だがそんなことはさせない。

 

「おおおおおっ‼︎」

 

瞬時加速で敵ISへと肉薄すると敵ISの注意はこちらへと向いた。そうだ、それでいい。相討ちでもいい、お前をたたき落とせるなら。セシリアが無事なら。それでいいんだ。

 

敵ISの腕から凄まじいエネルギーの一撃が放たれる。俺が死ぬのが早いか、《無想》が届くのが早いかという賭けを仕掛ける。その一撃は突進してくる俺を消し飛ばそうとする…………だが、それは直前に現れた二枚の障壁によって阻まれた。

 

「将輝さんはやらせません!」

 

八基のビットによって作られたエネルギーの障壁が俺を消し飛ばそうとしていたエネルギーの一撃を阻む、

 

俺の目の前に現れた障壁はエネルギーの一撃を完全に阻み、無力化するが、それと同時に力を失ったかのように地面へと落下していく。

 

縦一線。

 

《無想》の一振りが巨大な一撃を撃った反動で一時的に硬直した無防備な敵ISを頭から足元まで一気に切り裂くと二つに分かれた敵ISは断末魔の悲鳴をあげるでもなく、機械音声で何かを告げるとそのまま爆ぜた。

 

終わった。何もかも。

 

これで安心して逝ける。

 

敵ISが完全に沈黙した事を見届けた俺は意識を手放した。




次回でセシリアルートは終わりかな?

かなり省きまくったせいで微妙な感じになってしまいすみません。今作品が終わった後でもちゃんとかこうかなあ?

ブルー・ティアーズの二次移行した機体のイメージはストフリかな?ブルー・ティアーズのビットとストフリのドラグーンはなんとなく似てるなと思って。

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