憑依系男子のIS世界録   作:幼馴染み最強伝説

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今回はかなり展開が早いです。

無駄かなぁと思っている部分は端折っているので、若干意味不明になってたりしたらすみません。


番外編:セシリアルート3

「ふんふんふーん、よーし出来た〜!」

 

とある孤島のラボ。一人の天才は完成した我が子(IS)を見て、頷く。

 

「前回のゴーレムからの発展機にして、コアとは別に自己進化のプログラムを組み込んだ実験機。おまけに展開装甲とかジャミング機能もめちゃついてるし、我ながら凄いものを作ったって感心するね。うんうん。さてと………データを取りたいのは山々なんだけど、わざわざ壊すために作るのはめんどくさいなぁ。かといってIS学園に行かせるのは別の子だし………仕方ないか。ちょっとの間、この子には寝ててもらおっと…………えい」

 

カタカタとキーボードに指を躍らせた後、『スリープモードに移行しますか?』と表示された画面でエンターキーを押す。

 

「これでよしっと。この子の相手はまーくん辺りが理想的かなぁ。まーくんはピンチになると強くなるタイプだし。でも、今はまだ相手をするには強過ぎるからね〜。箒ちゃんの想い人だし、私も気に入ってるから死んでほしくないもんね。さて、まーくん達の成長の為に壁になる二号機の調整に入らないと」

 

そう言って、天才ーーー篠ノ之束はその場を離れ、別の部屋へと向かう。

 

『………ギ……ギギギ………セ、殲滅………ス…』

 

つい先程スリープモードに入ったはずのISの機械の瞳に光が灯されたことに気づかずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「将輝さん。少しお時間をいただけますか?」

 

セシリアとのISの特訓を終え、一息ついていた将輝は急に改まってそう言うセシリアに何事かと首をかしげる。

 

「良いけど………どうかした?」

 

「わたくし、あまり器用ではありませんのでもうお気づきになられているかもしれませんが………わたくしは、セシリア・オルコットは将輝さんの事を愛しています。宜しければ末長くお付き合いをさせていただきたいのですが……………将輝さん。以前わたくしと交わしたお願い事の件。覚えてらっしゃいますか?」

 

「…………まあね」

 

「もし宜しければ、今、将輝さんの抱えている問題を打ち明けてはくださいませんか?」

 

「…………やっぱり、バレてたんだね」

 

将輝は視線を落とした。

 

隠し通せているとは思っていなかった。

 

ラウラにも忠告された。『人の心に鈍い私ですら気がついたのだから、セシリアは必ず気づいている』と。

 

確かにラウラは人の感情や心情に疎い部分がある。だが、それを抜きにしても将輝の変化には少なからず周囲の人間も薄々感づいていた。

 

当然、セシリアもそのうちの一人だ。

 

そして今日、セシリアは決意した。

 

想いを伝えようと。苦悩しているのならばその悩みを共に分かち合えればと。

 

しかし、セシリアはその悩みの強大さに気がついていなかった。そして将輝もまた、彼女のその言葉によって、決心してしまった。

 

自身の秘密を打ち明ける決意を。

 

「セシリア。いや、セシリア・オルコット。これから話す事は全部嘘偽りない真実だ。君を騙そうだなんて考えてないし、何より君が知りたいと願った以上、俺はこの真実を隠すわけにはいかない」

 

舌の根が乾いていき、呼吸の乱れを感じつつも、将輝は数度深呼吸したのち、告げた。その真実を。

 

「俺は…………君の知る藤本将輝じゃない」

 

「それはどういう意味ですか?」

 

「言葉の通りさ。日本生まれのイギリス育ちで両親にIS研究者を持つ世界に二人しかいない男性IS操縦者………….それが『今の』俺さ。クラス中の誰もが知る藤本将輝…………でもね。俺は二年前に君と約束を交わした藤本将輝じゃないんだよ」

 

独白する将輝だが、セシリアは首をかしげるばかりだった。

 

意味がわからない、では今目の前にいる貴方はなんだというのか?そんな疑問がセシリアの脳内をよぎる。

 

「俺はね。藤本将輝っていう人間に憑いた(・・・)別人なんだよ。セシリア・オルコット」

 

「え………?」

 

「記憶喪失っていうのは嘘さ。この身に憑いた時に何かしらの影響で記憶を失った。はじめてこの身体で生を実感したとき、俺はこの身体の持ち主になった時、名前すらわからなかった。どこに住んでいるのか、何が好きなのか、嫌いなのか。どんな知人がいたのかも……ね」

 

思い出すように将輝は自嘲めいた呟きを続ける。

 

「当然、始めは何で俺がって驚いた。でもね、それを俺はあっさり受け止めたんだ。何で、どうしてって思いながらも俺はこの状態を本心では喜んでたんだ。だって、前の身体の時は何もかもが退屈だったからさ。だから、この身体に憑いた時、俺は周りの関係なんて知ったこっちゃないと新しく始めようとした」

 

「……やめて……」

 

「だから君が俺の過去を知っていると知った時は心底驚いた。少なくとも、俺が知る限り(・・・・・・)は君に男の知人なんているはずもなかったからね。苦労したよ。今の今まで思い出す気もなかった記憶を無理矢理引っ張り出そうとしたんだから」

 

「そんな………それではまるで……」

 

自分は話しかけるべきではなかった。知り合いであるべきではなかった。そう言っているではないか。

 

セシリアはそう思った。

 

将輝はそれを知ってか知らずか、尚も話すのをやめない。

 

「約束を思い出したのは偶然だった。それで記憶喪失について追求するのを止めてくれたのも幸いだった。だって嫌だろ?別人のフリをして過ごすなんて(・・・・・・・・・・・・・・)

 

「ッ⁉︎…………では……わたくしのこの想いは………虚像だと………既に叶わないと……そう仰るおつもりですか?」

 

「ああ。君を助け、約束を交わし、強くした奴はもういない。いるのは同じ名前、顔、経歴を持った全くの別人だけだ。俺は俺として生きる。過去の事なんてどうだっていい(・・・・・・・)

 

パシンッ!

 

乾いた音がピット内に響いた。

 

そしてその音の発信源は将輝の頬であり、セシリアの振り抜かれた右手だった。

 

「貴方は………貴方が………それを言うのだけは許せないっ!」

 

普段の彼女からは想像もつかないような怒気の表情と目尻に浮かんだ涙に将輝は驚く事なく、叩かれた事で強制的に視線を右に向けさせられたまま、黙っていた。

 

「俺は俺として生きる?過去の事なんてどうだっていい?ふざけないでくださいまし!わたくしから大切な人を奪ったという自覚がありながら、その罪から逃れようというのですか⁉︎今の今まで騙し通しておきながら、その罪を告白すればそれで終わりだと仰るおつもりですか‼︎」

 

「………そうだとして。君に俺を責める権利はないだろ?」

 

激昂して捲し立てるセシリアとは対照的に将輝は何も感情を感じさせない淡々とした口調で話す。

 

「俺だって、なりたくてこうなったわけじゃない。普通に寝て、起きて、気がついたらこの身体だ。望まない境遇でなんとか折り合いをつけようと試行錯誤した結果なのに、君は俺にそうするなと言いたいのか?以前の貴方は私にとって大切な人間だったから、意志を殺して、以前の自分として振る舞えと。道化を演じろと。そう言いたいのか?」

 

「そういうことでは………」

 

「それと同じだよ。俺はね、もう疲れたんだ。過去に囚われるのも、過去を追いかけるのも。道化を演じるのもね」

 

「……………すみません。藤本さん…………いえ、名も知らない殿方。もう………二度と話しかけないでください。それが……貴方の望む過去との決別でしょう……………さようなら」

 

拳を強く握りしめてセシリアは感情を押し殺しながらそう告げ、足早にその場を去る。

 

将輝はそれを止める事もなく、返事をする事もなく、セシリアの姿が消えた後、虚空を仰いだ。

 

(これで良かったんだ。セシリアは………もう、解放された。彼女の望む人間は俺が奪ってしまったから、俺の勝手だけど彼女の想いを踏みにじるしかなかった。そして俺も……二度と過去を振り返ろうと頑張らなくていい)

 

全ては偽りの恋慕を終息させる為に。自分自身が始めてしまった、間違いを正す為に。

 

(これで……これで良かった………はず、なのに)

 

「はは、なんでかな。涙が止まらねえよ」

 

虚ろな表情で虚空を眺めたまま、将輝はただただ瞳から涙をこぼし続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日から二人は全く話す事はなかった。

 

正確には翌日も翌々日もその次の日の授業に将輝の姿がなかった。

 

無断欠席………ではなく、体調不良という形で将輝は欠席していた。

 

その事にセシリアは心がちくりと痛むのを感じた。

 

(もしかしてわたくしが昨日あんな事を言ったから…………いえ、もうあの人は関係ない。始めからわたくしが勘違いしていただけに過ぎないから…………)

 

そう自分に言い聞かせ、セシリアは意識を授業へと戻す。

 

そんな彼女の違和感に気がついた人間が二人ーーー箒とラウラは将輝が欠席しているというのに普段通りに振る舞おうとしているセシリアに違和感を感じていた。

 

(確実に何かあったな。それが将輝を気にかける余裕がないほどの問題か……)

 

(或いは藤本将輝とセシリアが仲を違えているか………)

 

二人とってはどちらにしても深刻な問題であることに変わりはない。

 

セシリアですら許容できない問題も、並大抵の事ではそもそも口喧嘩すら起きない将輝とセシリアが仲を違えてしまう問題も。

 

『聞こえているか、篠ノ之箒』

 

それ故にラウラは思いもよらない行動に出た。

 

授業中であるにもかかわらず、プライベート・チャネルで箒に話しかけたのだ。

 

だが、それ自体に箒は全く慌てることはなく、冷静に返事を返した。

 

『聞こえている。将輝とセシリアの事だな』

 

『ああ。少し認識が甘かったようだ。どうやら私達が考えていたものよりも深刻な問題らしい』

 

二人も将輝の抱える悩みにはそれなりの問題があると認識していた。

 

だが、それよりも問題は遥かに大きかった。その事にラウラは発破をかけるべきではなかったかと内心で歯噛みする。

 

もし、問題を将輝自身が打ち明けたとして、この問題を生み出したのだとしたら、それは紛れもなく、自分自身の責任だと。

 

(ならば、奴からそれを直接聞かねばならない。事態を重くした責任は私にもあるだろうからな)

 

『篠ノ之箒。次の授業、私は体調不良で寮に帰る(・・・・・・・・・)。セシリアの事、任せても良いか?私は私なりに責任を取らねばならん』

 

『奇遇だな、ラウラ。私もそれを考えていた………が、私が将輝の方に向かおうと思っていたのだがな』

 

『今回に関してはお前にセシリアを任せたい。私では………おそらく今のセシリアに妙な気を遣わせてしまうだけだろうからな。その点、奴なら妙な気兼ねはしてこないだろう』

 

人の心を理解するということは難しい。特にラウラはそれが誰よりも難しい。その為、もしセシリアが誤魔化そうとすればその違和感に気づいていても問い詰める手段をラウラはあまり持っていない。今回は尋問ではなく、あくまで友人の悩みを聞き出すことなのだ。

 

『………そうか。わかった。私はセシリアを、ラウラは将輝の方からアプローチをかけてみるとしよう。或いは、私達で解決出来る可能性もある』

 

箒のそれにラウラはそうだなと同意するが、プライベート・チャネルを切った後、ぽつりと呟いた。

 

「願わくば、そうである事を祈るだけだがな」

 


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