憑依系男子のIS世界録   作:幼馴染み最強伝説

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紡がれる奇蹟

 

三十分前。

 

本当は将輝はその時点で既に現代への帰還を果たしていた。

 

何故三十分の誤差を生んだのか?それは偏に将輝が時間移動をした事によるフィードバックによるものだ。過去に飛ばされた時も実は三十分以上気を失っていた時間があった事を本人は気づいていない。

 

そして将輝が帰還を果たした直後、五人の人間の脳裏にとある出来事が蘇った。

 

「ッ⁉︎……将……輝?」

 

「将……輝先輩……?」

 

授業を終え、一組の教室から帰ろうとしていた千冬と真耶は突如蘇った記憶(・・・・・)に思わず口から言葉が漏れた。

 

「真耶。君も思い出したのか?」

 

「はい。あの人の事ですよね」

 

名前を言わずとも千冬や真耶には理解出来る。二人にとって、その人物は誰よりも慕っていた人物であり、初めて心を奪われた人物でもあった。

 

其処からの二人の行動は早かった。

 

普段なら百パーセント優先する筈の授業を自らの都合で自習へとした。

 

公私を区別しろ、と一夏に口を酸っぱくして言っている千冬は人の事を言えないなと思いつつも、何よりも優先すべき約束を果たす為、真耶と共に生徒会室へと赴いた。気付くはずの尾行者二人を引き連れて。

 

「織斑先生に山田先生。どうかしましたか?確か二時間目は一組と二組の合同授業だと伺っていますが」

 

生徒会室に入った二人を迎えたのは現在の生徒会長である水色のセミロングの髪型の少女、更識楯無。対暗部用暗部の更識家十七代目当主であり、楯無とは代々当主の襲名する名前である。そして彼女はロシアの国家代表であり、現在諸事情で専用ISの使用が不可能となっている千冬を除いて、文字通り学園最強の人物だ。

 

「急用を思い出してな。授業は自習にしてきた」

 

「織斑先生一人ではないということは、裏の仕事ではないという事ですね」

 

「そんな物騒なものではない。それに用と言ってもな、お前にではなく、ここに用があった」

 

「ここに……ですか?」

 

千冬の言葉に楯無は首を傾げる。彼女が授業を自習にしてまでここに来たというのだから、何かしら問題が発生し、自分の所に来たとそう思っていた。楯無は千冬が一体何をするためにここに来たのか、疑問を感じて問おうとするが、千冬と真耶の視線がある一点を見つめていることに気がつき、視線の先にある物を見た。

 

其処にあったのは初代生徒会の写真。堅そうな表情で映っている二代目以降の生徒会とは違い、全員が様々な表情を浮かべている。そして何よりも異なっている事はその中央にはIS学園の制服と思われる服を着ている男子がいるという事だ。

 

「あの写真がどうかしましたか?」

 

どうかした、というよりもそもそもあの写真自体どうかしている。今でこそ、男子二人を迎えているIS学園だが、七年前のIS学園設立初年度の入学生に男子がいたなどという話はなかった。何より楯無自身も一度千冬に写真の人物について問いかけた事があったが、返ってきた言葉は「わからない」というものだった。初めは何か複雑な事情でもあるのかと勘ぐった楯無だが、千冬の態度を見ている内に本当にわかっていない事に気がついた。まるでその記憶だけが抜け落ちたかのように。楯無はそれ以上、深く追及する事はなかったが、今であれば答えを聞ける、そう思った矢先、先に口を開いたのは千冬だった。

 

「私達初代生徒会が何と呼ばれていたか、知っているか?」

 

「最強の生徒会。その時代のIS学園生徒の中で最も優秀とされたメンバーで構成された生徒達の抑止力として作られた組織ーーーでしたね」

 

「ああ。一人は絶賛全国手配、一人は日本を代表する研究所の所長、そして私は元世界最強でIS学園の教師をしている。一人はあまり表立って動いていないが、テストパイロットをしている。あの時代はとても考えられなかったが、間違いなく私達五人(・・)はIS学園の歴史上揺らぐことの無い最強の生徒会だろうな」

 

「五人……という事はやはり」

 

「ああ。どういう訳か、つい先程思い出したよ。山田先生とほぼ同時にな」

 

「どうして先程思い出したのか、私達にもわかりません。あれだけ忘れたくないと思っていたのに」

 

「全くだぜ、今の今まで何で忘れてたのか、脳味噌取り出して調べてみたいよ」

 

「おそらく束の奴が関係しているのだろう。理由を吐かさせないとな。もちろん私の拳でな」

 

そう言って生徒会室に入ってきたのは二人の女性。片方は千冬のようにやや吊り上がった目が印象的で厳しそうな雰囲気を醸し出しているが、それも口に咥えられたポッキーとスーツの上から着られた白衣の所為で殆ど感じられない。もう片方は頭に黒いスポーツサングラスを乗せ、ニヤリと開かれた口からは特徴的な犬歯を覗かせている。見るからに研究者のような印象を持たせる服装とは裏腹に背中には何故かモリが装備されている、どちらもかなり異質だ。

 

だが、千冬や真耶にとって二人のそれは当たり前で、着ている服こそ違えど殆ど変わらない友人達の姿に頬を緩ませた。

 

「お久しぶりです。篝火先輩、黒桐先輩」

 

「おー、まーやん、お久だね〜。またしばらく見ない内におっきくなったナー。何処とは言わないけど」

 

「其方の栄養を少しでも他のところに回せないのか?」

 

「もう!それ気にしてるんですから、言わないで下さい!」

 

二人の真耶のとある部分に対する指摘に真耶は涙目で反論する。異性を思わず釘付けにしてしまう程の立派なものを持っている真耶ではあるが、本人にとってそれは悩みの一つでもあった。

 

「ヒカルノも静もあまり真耶をからかうな」

 

「にしし、まーやんは癒しキャラだから、ついついやっちゃうんだにゃー」

 

「同感だ。ところで束はどうした?奴のことだから先に来ているものだと思っていたがーーー」

 

「呼んだー?」

 

静の言葉に応えるように現れたのは兎耳のついたカチューシャを付け、青いエプロンドレスを着た束。相変わらず人を食ったような笑みを浮かべて、彼女はぶら下がっていた天井からくるりと一回転して、降り立った。毎度毎度天井から現れる彼女には何か特別な拘りでもあるのかと問いたい所である。

 

「はろはろ〜、ちーちゃんとマヤマヤ以外は四年ぶりくらい?愛しの束さんだよ〜」

 

「タ〜バねーん!」

 

「ヒッカリーん!」

 

束とヒカルノは互いを確認するとまるで感動の再会を果たしたかのように互いを抱きしめ合う。なんやかんやであの学生生活で誰よりも仲良くなったのはこの二人だ。IS学園に入学する前の束を知る人物達はそれこそ目が飛びてるかと思うほどに驚いていたし、千冬も三年間同じ学び舎で過ごした(クラスには殆どいなかった)とはいえ、今でも別人になったのではないかと疑う程だ。

 

(あれ?ひょっとして私、今凄い状況に立ち会ってない?)

 

楯無はさりげなく自分の目の前に集まっている人物達が大物達ばかりである事に内心驚いていた。もしここに生徒達がいれば、それこそ狂喜乱舞している程だ。それ程までに彼女達はIS関係者の間では知らぬ者などいない人間なのだ。因みに真耶も千冬の後釜として国家代表へと推薦されていたが、彼女は教育者としての道を選んだ為に彼女は今ここで教師をしているだけで、それまで彼女は間違いなく第三回モンドグロッソの優勝候補筆頭であった。

 

そんな大物達がいるからこそ、尚気になる、写真の人物が誰であるのかを。

 

(……って、この男の人。何処かで見た事があるような……。それもかなり最近)

 

ここ最近、あまり注視した事が無かった為、楯無は気づかなかったが、よく見てみればその顔には見覚えがあった。しかし、一度引っかかるとなかなか思い出せないのが人間で、数年振りの再会を喜ぶ四人を尻目に頭を悩ませていた時だった。

 

「ーーー何だ……結構急いで来たのに……俺が、最後か」

 

生徒会室の扉を勢い良く開き、入ってきたのは一人の少年。文句を言いながらもその表情は自分が最後であった事を喜んでいるかのようだった。

 

「七年ぶりって言うべきか、それとも普通におはようって言うべきか、迷う所だな。まあ、それよりも俺が聞きたいのは何で皆覚えてるかって事だけど……」

 

「それはねー、束さんが頑張ったからだよー」

 

『?』

 

「まーくんを未来に帰す為のあの装置にはね。もう一つ機能をつけてあったんだ。間に合わせだったから、ここにいる私達五人しか無理だったし、一か八かの勝負だったけど、成功したみたいだね」

 

「束、わかるようにはっきりと言え」

 

「つまり、まーくんを未来に飛ばす要領で、私達のまーくんに関する記憶だけ一緒に未来に飛ばしたって事さ。まーくんが七年後に帰還すると同時に私達にはその記憶も帰ってくるって訳。お蔭でまーくんが帰った直後は苦労したよ?皆は良いように記憶が改竄されてるのに、私達は抜けてるだけだから。まあ、それでも私達の心はまーくんの事を忘れてなかったみたいだけどねー」

 

ニヤニヤと笑いながら束は四人に視線を投げかける。その視線に四人は頬を赤らめ、そっぽを向いた。

 

「どういう事だ?」

 

「だって、ちーちゃん、あの後自分が会長辞めるまで副会長の席を空けておいたんだよ?それでね?理由が「ここは私達にとって大切な人間がいた気がする」って言ってずっと空席にしてたんだ。それで学園の全員も納得してたんだから、微かに覚えてたんだろうね。結局写真だって、あれ以外はないしね。他にもむぐっ⁉︎」

 

先に限界を迎えたのは千冬だった。千冬は束の口の中に右手を突っ込むとそれこそ人が殺せるような眼光と威圧感のある声音で言う。

 

「それ以上話したら、このうるさい口を引き裂くぞ」

 

「タバねん。流石に私も擁護できないよん」

 

「取り敢えず沈んでおくか?」

 

「もが!もがかがが‼︎(ちょっ⁉︎ストップ‼︎)」

 

(私のは言われなくて良かった〜)

 

「はいはい。落ち着け、千冬。静もだ。い・ち・お・う!束がした事はありがたいしな」

 

一応という言葉を強調しつつ、将輝は束の口の中に突っ込まれていた千冬の手を抜く。ふと、その時、将輝は一つ思い出した事があった。

 

「そういや、こっちに一夏と箒来てない?千冬と真耶がこっちに来てるって、箒から聞いたけど……」

 

「何?一夏と箒……?まさか」

 

将輝の言葉に千冬は眉を顰め、ジロリと僅かに開いた生徒会室の扉を睨むと扉に近づき、勢い良く開けると、其処には二人揃って盗み見している状態で千冬の眼光に身を強張らせて固まっている一夏と箒がいた。

 

「何をしている、貴様ら」

 

「今は自習の時間の筈ですよ、織斑くん?篠ノ之さん?」

 

全身から怒気を迸らせる千冬と笑顔であるにもかかわらず、目が笑っていない真耶。わかるのはどちらも二人を許すつもりがないという事だ。

 

「あー、千冬、真耶。一夏は良いから、箒は見逃して」

 

「わかった」

 

「了解です」

 

「ちょっ⁉︎何で箒だけ⁉︎いや、それよりも何で千冬姉と山田先生の事名前で呼んでんの‼︎」

 

「禁則事項だ。じゃあな一夏」

 

「え!ちょっとストップ!ボコるのはわかったから、せめて理由だけおしえてくれぇぇぇぇ……」

 

両腕を千冬と真耶に掴まれて、一夏は何処かに連れて行かれる。折檻をされて、死にかけるかもしれない事よりも自分の姉が友人に名前で呼ばれる事の方が気になる、相変わらずのシスコン具合であった。

 

「むふふ、流石まーくん。箒ちゃんの王子様として、きっちり役目を果たしてるねー」

 

「頼むからそれは俺のいない所で言ってくれ。絶対にややこしい事になる」

 

将輝と箒が付き合っていることを知っている束は肘で将輝の脇腹をつつきながら、茶化す。対する将輝はバレるのは一向に構わないが、今バラされると確実に面倒事になるのをわかっているため、げんなりしつつそう返す。

 

「りょーかい。まーくんにも箒ちゃんにも嫌われるのは死んでもごめんだからねー」

 

「将輝?出来れば今のこの状況を説明して欲しいのだが………何故姉さんの友人や黒桐先生と将輝が一緒にいるのだ?」

 

「ごめん、箒。かなり長い話になるから、また改めてゆっくり話す。今は取り敢えず、教室で待っててくれない?」

 

「……わかった。だが、絶対に話してくれよ?隠し事は嫌だからな」

 

「もちろん、絶対に話すよ。俺の過ごした時間を」

 

 

 

 

 

 

 





これにて特別ストーリーは終了です。次回からは原作四巻かな?

IF編については頑張って書いていこうと思いますので、執筆した際にはどうぞよろしくお願いします。

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