憑依系男子のIS世界録   作:幼馴染み最強伝説

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想い出の学園祭

やってきた学園祭当日。

 

俺はIS学園の制服に手を通し、腕に『副会長』の腕章をつける。普段はつけていないが、こうする事で学園の生徒以外にもわかるからだ。

 

俺が向かうのは生徒会室ではなく、ホール。

 

生徒会の執事メイド喫茶の準備は昨日してある。今日の俺の最初の仕事は学園祭開始の挨拶だ。

 

本来なら生徒会長である千冬がするのだが、今回に限っては俺がする事になった。

 

最初の学園祭にして、日付は変わるわ、挨拶する人間は変わるわ、何かとイレギュラーばかりであるが、生徒達は特に不平不満を漏らしていないので、特別扱いされている側の俺としては何も言えない。

 

ホールに到着すると…………俺以外の学園の人間全員が揃っていた。おかしい。集合時間の四十五分前に来たのに。俺は早歩きで千冬達の所に行き、事情を聞く。

 

「これどういう事だ?」

 

「私も驚いた。何せ私達が来るよりも前から揃っていたからな」

 

「簡単な話だ。全員、一分でも長く、将輝と時間を共有したいという事だ」

 

「うははは、よかったにゃ。誕生日といい、全員将輝の事、大好きみたいだぜ」

 

「と言うことで、まーくん、一発決めてきなよ!」

 

「うおっ⁉︎」

 

ドンっと束に背中を押され、俺は壇上へと足を進める。またリハなしのぶっつけ本番。こういうの苦手だからりリハは必要だって言ったのに。頭の中真っ白になるんだよ。でもまあ、俺らしくはある。

 

「あー、皆おはよう。今日は待ちに待ったIS学園初めての学園祭だ。羽目を外し過ぎないように…………なんて、堅苦しい事は言わない」

 

数度の深呼吸の後、俺は大声で叫ぶ。

 

「目一杯楽しめ!周りの目なんざ気にするな!羽目の外し過ぎ?大いに結構!行きすぎたら俺達生徒会がどうにかする!ただしルールは破るなよ。しわ寄せが俺の所に来るからな!」

 

そう言うと生徒達がクスクスと笑う。因みにネタとかではない。羽目を外してもいいといった手前、問題起こされると全部俺に来るに違いない。なんやかんやで既に後悔している。本当に本番に弱いな、俺。

 

「ともかくだ。今日この日を皆の何物にも変えがたい一生の思い出に出来るようにするのが、この学園祭の約束事だ。史上最高の学園祭にしてやろうぜ!以上!」

 

『オー!』

 

おおう、相変わらず凄まじい声だ。やっぱりこういう時は男子より女子の方が盛り上がり方が凄い。

 

歓声と拍手の中、俺は壇上を降りて、千冬達の元に向かうと何というか予想通りに束とヒカルノが飛びついてきた。もちろん避けるが。

 

ズザーッと束とヒカルノは勢いそのままに床を三メートル滑っていって、壁に頭を打って止まった。

 

「「何で避けた⁉︎」」

 

寧ろ、よく受け止めてもらえると思ったな。今までの経験からして避けられるとは思わなかったのか。

 

「来るなら学園祭が終わってからしろ。きっちり受け止めてやるから」

 

『将輝(まーくん)がデレた!』

 

「やかましい!」

 

そんなこんなで俺達の学園祭は予定より四十分早く開始する事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「また来れました……」

 

校門からIS学園の校舎を眺めるのはおっとりとした雰囲気の緑髪の少女。

 

彼女の名前は山田真耶。来年通う事になる学び舎に見学に来た日に亡国企業の襲撃に巻き込まれるという不幸な少女だが、彼女にとって、あの出来事は不幸どころか幸福な出来事だった。

 

自分を変えるきっかけでもあり、初恋をしたあの日。

 

彼女の最後の行動がIS学園全生徒の命運を分けたと言っても過言ではない。将輝は口では礼を言いながらも彼女に人殺しの道具を人に向けて使用させた事を悔やんでいたが、彼女はそれを悔いてはいない。寧ろ、人を救えた事を喜んだ。そしてそれが彼女の転機となった。

 

おどおどしていた性格を直し、ややサイズの合っていなかった眼鏡をやめて、コンタクトレンズに変え、歳の割には育ち過ぎた双丘の所為で大きめのものを着ていたセーラー服も自らサイズを調整した。

 

周囲は突然変わった彼女に戸惑いはしたが、今まで良さを打ち消していた天然さも僅かに感じさせながらも、きっちりと仕事をこなす彼女を評価した。

 

真耶もそれは嬉しかったし、自分が変わった事を肌で感じ取れた。

 

(先輩は今の私を見て、どう思うかなぁ)

 

期待に胸を踊らせる真耶は学園内に入り、周囲に目を走らせる。すると前方からIS学園の制服を身に纏い、左腕に『副会長』と書かれた腕章を付けた少年と目が合う。少年は目を丸くするが、すぐにいつも通りの表情に戻り、近づいてくる。

 

「真耶……だよな?」

 

「はい。将輝先輩、山田真耶です」

 

「良かった。ちゃんと届いてたみたいだな」

 

遡る事一週間前、将輝は千冬経由でとある中学に連絡を取り、一つの封筒を送った。

 

中に入っていたのは文字通りIS学園への招待券。特に贈る相手のいなかった将輝はそれならと真耶に贈ったのだ。それを貰った真耶は狂喜乱舞とまではいかないものの、大いに喜び、布団の上でゴロゴロと転がり、ここに来るまでの期間、ずっとにへらと頬を緩ませて過ごしていた。おかげで友人達には彼氏でも出来たのか?と聞かれ、否定するのに必死だった。

 

(そうです。まだそんな関係じゃ…………私ったらまだだなんて!)

 

「おーい、真耶?」

 

「あ、はい。どうしました?」

 

「いや、雰囲気変わったなって」

 

「そ、そうですか……?」

 

「子どもっぽさも無くなったし、しっかりしてる感じはする………けど」

 

「?」

 

「俺は前の真耶の方が好きだったな…………あ、ごめん。今の忘れてくれ」

 

確かにしっかりとしているのは構わない。女性としては子どもっぽく見られるよりも大人として見られる方が嬉しいだろう。だが、将輝はそれが真耶の良さだと思っていた。すぐに訂正したのは単に自分の好みだから程度の理由だった為なのだが、真耶にとっては将輝以外の全人類が良いといっても当の将輝が悪いといえば悪いのだ。早い話が真耶は見るからにショックを受けていた。

 

「ま、前の方が良かったんですか………」

 

今の自分の方が将輝も良いと言ってくれるに違いない。そう信じて疑わなかった真耶にそれは多大なるダメージを与えた。ダメな私の何が良いのか?とさえ思っていたが、将輝はすぐに訂正する。

 

「真耶にはコンタクトよりも眼鏡の方が似合ってるって言いたかったんだ」

 

「眼鏡……ですか」

 

どうにも眼鏡を掛けると急に自信が無くなってしまう。彼女はそれゆえ眼鏡をやめた訳だが、将輝が似合うといった以上、是は急げ。真耶は化粧室の場所を将輝に聞くなり、全力でそちらに向かい、数分後、またあのサイズの合っていない眼鏡を掛けて帰ってきた。

 

「あれ?眼鏡に戻すの?俺の意見なんて無視してくれて良かったのに」

 

「………私にとっては将輝先輩の意見の方が重要なんです」

 

「何か言った?」

 

「い、いえ、何も……」

 

バタバタと手を振り、否定する真耶に将輝は首を傾げながらも、先程のように視線を周囲に配らせ始めた。

 

「?誰か待ってるんですか?」

 

「ん。まあ、俺のって訳じゃないけど。そろそろ来るらしい………いた!」

 

将輝がある一点に目を向けて、そう言うが、真耶は他校の生徒や学園の生徒の関係者、更にはどう考えても一般人ぽくない方々入り乱れる中で言われたのだから、わからずキョトンとしていると手握られた。

 

「ふぇ⁉︎あ、あの……」

 

「ちょっと強引に行くから、しっかり掴まっててくれ」

 

真耶の手を握り、将輝は人混みをかき分けていく。それが真耶にはまるで恋人のようなやり取りだなぁ、と頬を緩ませる。そして人混みを抜けた先で将輝は止まった。

 

「やあ、少年少女。君達の姉さんの代わりのお迎えだ」

 

そう言って将輝が声を掛けたのは小学生の少年少女。二人とも、会話をしているといきなり話しかけてきた将輝に「誰?」という顔をしている。それもそのはず。何せ、今は(・・)将輝と二人は初対面の人間だからだ。

 

「千冬姉に「知らない奴についていくな」って言われてるんだ」

 

「それはいい心構えだ。でも、俺はその織斑千冬から直々にお迎えを頼まれた訳なんだ」

 

「貴方は誰なんだ?姉さんから聞いた話ではIS学園には女子しかいないと言っていた。なのに何故男の貴方がIS学園の制服を着ているんですか?」

 

「束の奴、俺の事あえて言わなかったな。あの阿呆兎、後で罰ゲーム…………は喜びそうだからやめておこう。えーと、君達には話せないけど諸事情でこの学園の生徒会副会長ーーーつまり、織斑千冬の次に偉い役職をやってるんだ。で、俺は会長の仕事で手の離せない彼女に変わって、俺の待ち人ついでに迎えに来たわけ」

 

と、将輝は二人を納得させる為に下手に出ながら、とても噛み砕いて説明する。だが、二人の警戒心はかなり高く、何処か納得出来ないといった表情をしている。

 

(こ、ここは私がなんとかしないと!)

 

真耶は心の中で握り拳を作って、二人の小学生の前に立つ。

 

「こ、この人はね。悪い人をやっつけるすぎょいひとにゃの」

 

噛んだ。やはりコンタクトではなく、眼鏡のせいなのか、小学生相手だというのに緊張で噛んでしまった。おまけに小学生ではあるが、何処と無く二人とも空気が尖っていて、人を寄せ付けない雰囲気を醸し出している事も要因の一つだ。

 

「だ、ダメでしたぁ……」

 

「はは、なんかゴメンね。分からせるにはやっぱり二人のどっちかを呼ぶに限る」

 

そう言って将輝は電話を掛ける。すると、すぐに繋がったのか、軽く話しをすると、少年に電話を渡した。

 

「君のお姉さんだ、偽物か本物かはすぐにわかるだろう?」

 

「………うん…………うん…………わかった。お兄さんに連れてってもらう」

 

少年は電話越しの姉の言葉に何度か頷き、そう口にした。将輝は隣の少女にもちらっと目をやるが、少年がついていくといった為か、何が何でもついていくと言った表情に変わっていた。

 

「さて君達のお姉さんのところに行こうか?一応自己紹介。俺は藤本将輝。この学園で一時的に副会長をやってる。こっちの眼鏡のお姉さんは山田真耶。さっきは噛んじゃったけど何時もはしっかりしてるから」

 

「うぅ………そのフォローは寧ろ逆効果です……」

 

「ごめんごめん。それで?君達の名前は?」

 

「織斑一夏です。千冬姉の弟です」

 

「篠ノ之箒です。わかると思いますが、束姉さんの妹です」

 

将輝の問いに気の強そうな少年ーーー織斑一夏と、仏頂面の少女ーーー篠ノ之箒はそう答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「良く来たな、一夏。道中、何もなかったか?」

 

「うん!千冬姉には迷惑かけられないからな!」

 

「箒ちゃん箒ちゃん箒ちゃん!会いたかったよー!」

 

「暑いです、姉さん。それに一昨日会いました」

 

見回りに行っていた千冬と束(遊んでいた)だけを一時生徒会室に呼び、将輝は言われた通り、一夏と箒を連れてきていた。そして部屋に入った途端、二人のブラコンシスコンパワーが炸裂していた。心配であれば自ら行けば良いのだが、千冬のブラコンは妙に体裁を気にする。束は単純に迷惑を考えて連れてくると将輝が言っただけだが。

 

「さて、どうする千冬?姉弟で見て回るか?」

 

「そうしたいのは山々だが…………思いの外、仕事が多いんだ。悪いが将輝が連れて回してくれないか?」

 

千冬は渋い表情をして、将輝に頼む。彼女としては折角来てくれた一夏を任せるのも、それを将輝に頼むのもあまりしたくはないのだろう。将輝は考える素振りを見せるが、すぐにわかったと頷く。

 

「一夏。すまないが、こっちのお兄さんと学園祭を楽しんでくれ」

 

「………わかった!」

 

「良し!箒ちゃんはお姉ちゃんと……」

 

「私も一夏と一緒に藤本さんに連れていってもらいます…………良いですか?」

 

「大歓迎さ」

 

「うわーん!何で何時も私だけ迫害されるのさ!酷いや酷いや、私だって、箒ちゃんと一緒に思い出作りたいのに〜!」

 

泣き叫ぶ(嘘泣き)束を尻目に将輝は真耶と一夏と箒を連れて、学園祭へと繰り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何故、IS学園の学園祭に本来来るはずのない一夏と箒が来ているのかといえば、それは単に将輝の言葉がきっかけであった。

 

生徒一人一つずつ配られた招待券。将輝は真耶に贈ったが、他の生徒会メンバーは「渡す相手がいない」とそのまま誰かに譲ろうとしていた。ヒカルノと静はともかく、千冬と束には弟と妹がいる。将輝は当然知っているので、それを二人に提案すると渋い顔をして悩んだ。千冬は一夏にISに極力近づいて欲しくないし、束は単純に箒とのコミュニケーションの取り方に悩んでいた。それを将輝は説得し、半ば強引に連れてくるようにしむけた。

 

本来なら将輝はここまでする必要はない。この行動が何処まで影響を与えてしまうか、わかったものではない。だが、将輝は動いた。理由は一夏の家族が千冬一人であり、その千冬がIS学園で寮生活をしている事。箒と束の間には確執とは言えないまでも僅かに溝があるからだ。それを如何にか出来ないものか、そう考えた結果、今に至る訳だが、結局一夏と箒は将輝が連れる羽目になった。

 

「何だかこうして歩いていると家族みたいですねぇ〜」

 

少し前を歩く一夏と箒。その三歩後ろを並んで歩く将輝と自分を見て、真耶はそう言うと将輝もそれに同意する。

 

「確かに。真耶は絶対良妻賢母になるよ」

 

「りょ、良妻⁉︎」

 

ボンッという疑問が似合う程、真耶の顔が真っ赤になる。しかし、当の将輝は其方を見ていない為に気づくことはなく、そして真耶も脳内お花畑が全開だった。

 

「あ〜!副会長が他校の生徒とデートしてる〜!」

 

『な、何だって〜⁉︎』

 

「違うぞ〜!この子は来年IS学園に入学する子だ!」

 

『よ、良かった………』

 

適度に起こるパニック(殆ど自分が原因)を収めつつ、将輝は一夏や箒の望む場所についていく。その姿は年若い父親か、年の離れた兄弟のようだ。

 

小一時間ほど、三人と共に学園祭を楽しんだ将輝は、化粧室に箒と真耶が行ったのを見計らって、一夏にこんな言葉を漏らした。

 

「やっぱり、お姉さんと見て回りたかったかい?一夏くん」

 

「ッ⁉︎」

 

一夏はビクッと肩を震わせると将輝の方に勢い良く向いた。その表情は何故わかったのか、と聞いてくるが、将輝からしてみればわからないはずがない。彼が超シスコンなのもさることながら、そもそも千冬に頼まれた時、一夏の表情に陰りが見えたからだ。

 

「ごめんね。彼女は俺よりも偉い人だから、手が離せないんだ」

 

「…………わかってる。千冬姉は何時も頑張ってる。それは何時だって自分じゃなくて、俺や他の人の為なんだ。我儘なんて言えない。千冬姉に………迷惑かけたくない。けど」

 

「せめて今日くらいは一緒にいたかった。だろ?」

 

「ッ⁉︎な、なんで……」

 

「わかるさ。何せ、人生経験が違う。お兄さんは何でもお見通しさ」

 

朗らかに笑う将輝に一夏は驚きながらも視線を下に落とす。男だから弱音は吐くまいと頑張ってきてはいたが、同じ男同士の為か、一夏はポツリと話し始めた。

 

「俺には……千冬姉しか家族がいない。でも、それを悲しいとか寂しいなんて思った事はないんだ。だって物心ついた時から千冬姉だけだったし、千冬姉が親代わりだった。だけど………ISが出来てから、千冬姉といられる時間が減った。三年の我慢だ、って頭では理解してるし、休みの日には帰ってきてくれる。でも………やっぱり寂しいよ……」

 

「そっか。弟にこんな思いをさせるなんて悪いお姉ちゃんだ」

 

「ち、千冬姉は悪くないんだ。俺が弱いだけで……」

 

「子どもなんだから、当たり前だろ?弱いのが普通なんだ。我が儘だっていうし、一人じゃ寂しくて当然だ。まあ、そんな訳でこのお兄さんが可哀想な一夏くんの為に一つプレゼントしてやろう」

 

「プレゼント?」

 

「大したものじゃないけどね。何、そろそろ来るさ」

 

将輝の言葉に一夏は首をかしげるが、その瞳は再度驚きに見開かれる事になる。

 

「すまない。待たせた」

 

人混みをかきわけて現れたのは額に汗をにじませた千冬。急いで来た筈にもかかわらず、呼吸を全く乱していない辺り、流石である。

 

「いや、問題ない。束の方は?」

 

「彼方も既に見つけた筈だ」

 

「そっか。ならいい…………一夏くん」

 

「?」

 

「大好きな姉ちゃんに迷惑かけたくないのはわかるが、子どもなんて我が儘いってナンボだぜ。男なんだから借りなんて後で幾らでも返せるだろ?だったら、今の内にやりたい放題やっとけ、それがガキの特権だ………ああ、それと」

 

ポンと将輝は一夏の頭に手を置き、一夏にしか聞こえない声で言う。

 

「シスコンも程々にな。いい加減姉離れしないと、色々困るぞ?」

 

「〜〜ッ⁉︎⁉︎」

 

「じゃあな」

 

図星を突かれた一夏と首をかしげる千冬を尻目に将輝は生徒会室へと踵を返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すみませーん。紅茶とケーキ二つ〜」

 

「かしこまりました!」

 

「珈琲まだですか〜?」

 

「ただいま!」

 

「執事さん、写真一枚!」

 

「そのようなサービスはしておりません!」

 

時刻は午前十一時。一時間前に三時間限定でオープンした生徒会の執事メイド喫茶は大盛況だった。しかし、ここには俺と静とヒカルノしかおらず、千冬と束はまだ一夏や箒と一緒に楽しく過ごしているだろう。五人で回す事が前提だった為、正直かなり辛い。まあ副会長の仕事よりはマシだけどな!何で毎回俺の仕事量が千冬の五倍あるんだよ。おかしいだろ。

 

時間制限がある為、客の出入りが尋常じゃない。幸いなのは生徒会室は教室よりも狭い為、席が少なくて済むことだが、忙しい事に変わりはない。こんな事なら別の奴を提案すべきだった!

 

何時もの二倍の速さで動き回る俺。それにしてもIS学園の生徒達の前を通るたびに写真を撮られている為、視界の端がチカチカする。禁止していないのでやめろとはいえないし、それに気を取られて多少の遅れはスルーできるので寧ろ大歓迎だが…………

 

(静、ヒカルノ、大丈夫か〜?)

 

(だ、大丈夫じゃない……)

 

(し、死ぬ………)

 

おおう、アイコンタクトが伝わった。そして、二人は既に生ける屍状態のようだ。それも仕方のない事ではある。ただでさえ、慣れない作業だというのに、いきなり忙しければこうもなる。かといって俺も慣れているわけではないので、かなり疲れているが、其処は何とか頑張るしかない…………そういえば、真耶大丈夫かな?一応仕事に戻るとは伝えていたけど、一人にして大丈夫だろうか………っと、思考がまるで親みたいだ。それか兄貴。弟はいたけど妹はいなかったが、おそらく妹を持つ兄はこんな感じなのだろうな。

 

そうこうしていると客と入れ違いで五人入ってきた。因みにその五人というのはよく知る人間達。

 

「いらっしゃいませ、お嬢様」

 

「いや、客ではない。私も生徒会の仕事をしに来たんだ」

 

「こっちは俺達に任せとけって言ったろ?折角弟と楽しく過ごせる良い機会だったのに」

 

「わかっている………それで物は相談だが」

 

「?」

 

「一夏も手伝わさせてくれ」

 

「こういうのなら、千冬姉よりも俺の方が得意だしな!痛っ⁉︎」

 

握り拳を作って、そう豪語する一夏。千冬としてもそれには同意見のようで特に何も言わないが、言わないだけで、軽く拳骨を落とした。

 

「じゃあじゃあ!箒ちゃんも良いかな?」

 

「もう良いよ。どちらにしても束よりは動いてくれるしな」

 

「当然です」

 

「酷い⁉︎酷すぎるよ、二人とも!でも、二人ともその内デレてくれグヘッ⁉︎」

 

「「うるさい」」

 

五月蝿かったので、取り敢えず粛清。時間軸が変わっても箒と以心伝心で何よりだ。ていうか、小さい箒マジ天使だな。束が溺愛するのも大いに頷ける。まあ、箒は何時でも俺の天使だけどな。

 

「ごめん、真耶。折角誘ったのにこんな感じになっちゃって」

 

「良いんです。それよりも私もお手伝いさせてもらっても良いですか?」

 

「お願いするよ。ところで束、三人の衣装はあるんだろ?」

 

「相変わらず、まーくん鋭いね〜。もち、あるよ〜」

 

いつ使うかわからない燕尾服を持っているなら、今使えそうな小学生サイズの燕尾服とメイド服を持っていても何らおかしくはないし、中学生のサイズなどおそらく有り余っているだろう。こういう時、束の無駄さが使える。基本的には無駄なんだけどな。これ以上にないくらい。

 

「………そこはかとなく馬鹿にされた気がする」

 

そしてこういう時も無駄に察しが良い。こいつ天才なのに無駄多すぎだろ。無駄無駄無駄ァッ!てラッシュ出来るな。

 

「じゃあ五人共、着替えてきてくれる?新生執事メイド喫茶だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

千冬達が参戦してからの時間はとても早かった。それもそのはず、三人が倍の八人に増えたのだから。小学生が手伝っているという事もあり、さらに人が来たりもしたが、それも捌けたし、先生方も全員可愛いものに目がない方々だった為、黙認された。提案しておいてなんだが、それでいいのか教師と思った俺はおかしくない。

 

今はそれも終わって、生徒会は完全に休憩中。その分は教員達が動いてくれているし、何より束とヒカルノが作った防衛システムがあるこの無敵要塞ではISすらも無力化出来る。怖いもの

特にない。

 

かなり疲れていたので、ぐでっていると俺の隣に一夏が来て座った。

 

「えーと、藤本……さん?」

 

「んー、何だい、一夏くん」

 

何か一夏にさん付け呼びされるってむず痒いな。てか、少し前までタメ口だったのに、いきなり如何した?

 

「藤本さんは………千冬姉のこ、恋人なのか?」

 

「残念だけど違うね。一夏くんが思ってるような関係じゃないよ」

 

というか、揃いも揃ってその結論に達する理由を教えていただきたい。どこをどう見たら千冬と俺がそういう関係に見えるのか。まあ、千冬ほどの美少女とそういう勘違いをされて、気を悪くする奴はいないだろう。

 

「急にどうしたんだい?」

 

「その………千冬姉があんなに人の事を話す所なんて初めて見たから」

 

「嫉妬?」

 

「そ、そういうんじゃなくて。何か前までの千冬姉は全然余裕がない感じだったのに、今は凄く大人っぽくて、余裕に溢れてる感じがする」

 

軽くからかってみたら、そう返された。まあ確かに。出会った当初は人を寄せ付けないオーラだなと思ってたけど、最近あれは人の事を考える余裕がなかっただけなのではと思うようになってきた。それに比べて今の千冬はそういう空気もないし、IS学園の教師をしている時よりも心身共に余裕がある感じがする。そういう所に聡いとは流石シスコン。シスコン万歳だな。

 

「それに藤本さんの事を話してる千冬姉って、凄く可愛いかった」

 

「一夏くん。お兄さんから一つ忠告だが、自分のお姉さんにはともかく、他の女の子に対しては可愛いとか綺麗っていうのは連呼しちゃいけないよ。そういうのは本当に心が奪われた時に使うべき言葉だからね」

 

「?よくわからないけど、わかった」

 

釘は刺した。願わくばこれにて一夏の被害者が減る事を望むのみ。原作キャラは不可避だが、せめてモブの子の犠牲者くらいは減るだろう。

 

「で、話はそれだけ?」

 

「うん。俺は藤本さんみたいな人が、千冬姉の恋人なら良いかな……って思ったから聞いてみただけ。他の奴なら嫌だけど」

 

「弟公認か。そりゃ頼もしいね」

 

「じゃあ俺、千冬姉の所に行ってくる!」

 

ひょいっと一夏は椅子から飛び降りると千冬のいる所まで走っていった。疲れていた千冬も一夏が来るとすぐに優しい表情になった………と思ったら真っ赤になって、一夏に向けてチョップしていた。何言ったんだあいつ。

 

和ましい姉弟のやり取りを見ていたら、今度は箒がやってきた。おそらくわざと一夏とは別にここに来たのだろう。

 

「君のお姉さんとは付き合ってないよ。マジで」

 

「……….どうしてわかったんですか?」

 

「経験」

 

最早、ここまで来ればわからない奴は一夏みたいな奴くらいしかいない。因みに一夏の時と否定の仕方が違うのは完全否定してないと盗み聞きしている束が五月蝿いから。え?何で盗み聞きしてるかわかったかって?だってヒカルノに慰められてるもん。俺の視界の先で。

 

「一昨日、姉が私に謝って来たんです。今までの事を。これからする事を。その上で私と仲良くやっていきたいと……言ってくれました」

 

「それで、箒ちゃんはどう思った?」

 

「………驚きました。何時も傍若無人で人の事を考えない姉が謝るなんて、思いませんでした。でも、嬉しかったです。初めて本音で話してくれたような気がして」

 

「………箒ちゃんがどう思っているかは知らないけど、束も人間さ。悩んで悩んで悩み抜いた結果がこれなんだと俺は思う。それになんやかんやで君だけには何時も束は本音で話してるよ?」

 

「そうなんでしょうか?」

 

「君は愛されてるからね。何時もふざけた雰囲気で誤魔化してるだけで、本音では話してるよ。最近はここでも本音で話してるけどね」

 

原作一夏に狡猾な羊と称された束はおそらくもういないだろう。彼女が狡猾である必要がないのだから。結局、彼女には本当の自分でいられる場所がなかっただけだ。そして今はそれがある。まだ時折仮面を被ってはいるが、それもそのうち無くなるだろう。

 

「私は……愛されている?」

 

「そう。だから箒ちゃんからも束に歩み寄ってあげてくれるかい?君がもし束の事を理解出来ないと思うなら、その時は束も君の心を理解出来ていないかもしれない。いくら天才でも人の心は読めないからね。それに箒ちゃんはこれからIS関係で何かと不自由な生活を強いられる事もあると思う。束を恨むなとは言わない。それは仕方がない事だし、当然の事だから。けど、その時はきっと束も苦しんでるから。苦しい時は姉妹で話し合うべきだと俺は思う。姉妹仲良く、ね」

 

箒の転校生活が始まるのは小学四年生から、それの所為で箒は束との確執をより深めるのだが、出来れば二人には姉妹で仲良くしていてほしい。束が悪いのは重々承知しているし、弁明の余地もないが、それでも束が箒に負の感情を向けられている姿を仕方ないと見ることは少なくとも今の俺には出来ない。過去に来て、かなり甘くなったかもしれない。これでは一夏の事を言えないな。

 

「………貴方のような人が側にいれば、きっと姉さんも……」

 

「ん?何か言ったかい?」

 

「いえ。藤本さん…….でしたね。アドバイスありがとうございます」

 

「いや、そんな大したものじゃないよ」

 

知っているから忠告をした。ただそれだけ。それに本気で束を説得出来れば、一夏と箒を離れ離れにしなくて済むのかもしれないが、それは出来ない。これは完全にエゴだが、したくない。もし箒の転校生活を阻止した場合、俺と彼女はIS学園に入学するまで出会う事はなく、十中八九恋人関係にはならない。だから、箒と束の関係を維持しつつ、未来における俺の関係も壊さないようにするにはこれくらいしか出来ない。随分と女々しい人間だな、俺は。

 

一夏とは違って、ぺこりとこちらに一礼すると箒もまた束の元に向かっていった。遠目からでも束のハイテンションさがわかる…………あ、そういえば盗聴されてたんだっけ。箒は鬱陶しそうにしながらもその表情はとても楽しそうだった。うむ、姉妹仲が良いのは素晴らしい事だ。このまま二人の仲が永遠に続く事を祈る。

 

「面倒見良いんですね。将輝先輩」

 

「盗み聞きは良くないぞ、真耶」

 

今度は真耶が来るが、さすがに隣という事はなく、向かい合って座る。今日は何かと年下の相手をする事が多いな。

 

「偶然聞こえただけです。盗み聞きじゃありません」

 

「その割には紅茶飲むふりして、聞き耳立ててた癖に」

 

「バレてましたか」

 

特別悪びれる様子も見せず、真耶は自分で淹れたであろう紅茶に口をつける。う〜ん、少し会わないうちに真耶は大人になったなぁ。普通に先生してる時よりもしっかりしてるんだけど。何時もなら「な、何でわかったんですかぁ⁉︎」と悪事がばれた犬のごとく、わたわたとするのに。少し残念だ。

 

「あんな感じで来年は私の世話をしてくれると助かります」

 

「残念だけど、その辺りは千冬に頼むといいよ。俺には出来ない」

 

「先輩って、変な所で謙虚というか弱気ですね。其処は『俺に任せろ』って言って欲しかったです」

 

「出来ない事を出来るって言うのは傲慢だからね」

 

それにしてやるといっておいて、帰ったら後が怖そうだ。もしかしたら妙な誤解すら生むかもしれない。

 

「ところで将輝先輩って、付き合ってる人はいるんですか?」

 

「ノーコメント」

 

「えー、教えてくれても良いじゃないですか」

 

教えられるか。教えたら俺はその場でロリコンという不名誉なあだ名がついた上にそれこそ本格的に箒に嫌われる。もし未来に帰って「近づくな」とか言われたら俺首吊るよ?俺、メンタル豆腐だからね箒限定で。しかもセシリアは励まそうとして追撃してくるから首吊る前に廃人になるかもな。凄いね、人類初じゃないか?たった二言で廃人になった男。

 

「逆に真耶はいないのか?付き合ってる奴?」

 

「い、いませんよ………私、あまり目立たない方なんで……」

 

「それは周りの奴らが見る目がないだけだよ。普通に可愛いし、目立つと思うよ?」

 

絶対目立つと思う。特にある一つの部分はとても主張が激しい訳だし。何処とは言わない。変態になるからな。まあ、それはともかく、真耶の可愛さはIS学園の女子達と比較しても劣らないレベルだ。十分に可愛いと言える。

 

「はわわわ……」

 

プシューっと頭から煙を上げて真耶は机に突っ伏した。あ、しまった。この子、束以上に素直に褒められる事に慣れてなかった。おまけにそれが容姿の事となると尚更だろう。だって、机と頭がぶつかって凄い音がしたのに、真耶痛がらないもん。

 

「将輝。今は暇……………何があった?」

 

「千冬か。可愛いって言ったらこうなった。本当の事だから後悔はしていない」

 

「はぁ………本当にぶれないなお前は」

 

ぶれまくりだけどな。ぶれるのが速すぎで動いてないように見えるだけで。

 

「それで?用件は?」

 

「少し…………話しがある」

 

「誰にも聞かれたくない話か?」

 

「ああ」

 

俺の問いに千冬は頷いた。成る程、いよいよ最後の番って訳か。まあ違う可能性もあるが、十中八九そうだろうな。俺は席を立つと千冬と二人で生徒会室を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

生徒会室を出た俺と千冬が向かったのは屋上。

 

学園祭ならここに大勢いてもおかしくはないと思っていたのだが、どういう訳か誰もおらず、ここには今俺達二人しかいない。

 

「話ってなんだ?大体予想はついてるけど」

 

「束も黒桐も篝火も、勇気を出した以上、私だけ臆病なままと言うわけにはいかない」

 

てっきり順番でも決めてるものかと思ったが、それは俺の深読みだったか。言いたい奴から的な感じだったとは。

 

「………さっきな、一夏に言われたよ。「藤本さんみたいな人はそういないから、絶対に逃がすなよ千冬姉」とな。まだ子どもの癖に随分とおせっかいな事を言われた」

 

い、一夏の奴………相変わらずのオカン系だな。或いはおせっかいな妹。どっちも性別が女である事が味噌だな。本当、一夏と千冬って性別違ったらものすごい事になってただろうな。

 

「だが、一夏の言う事は間違っていないと私も思う。将輝みたいな奴はこれから一生かけても見つける事は出来ない」

 

「そうか?案外そうでもないと思うぞ」

 

「お前はそうやって何時も自分を過小評価しているがな。今のIS学園があるのは全てお前のお蔭だ。少し前までそれはもう冷え切っていた。私達だけではない。他の生徒達も、とても三年間同じ学び舎で過ごすとは思えない程にな。それがあのテロ事件を経て、互いに協力し合うようになった。そしてその変化の中心にいるのが将輝、お前だ。お前が変えたのは私達だけではないんだ。女尊男卑の風潮に流されかけていた者達の意識を改革し、私達に繋がりをもたせた。こういっては何だが並の人間に出来ることではない。もちろん、テロリスト相手に正面から立ち向かう事もな」

 

これはまた随分と評価されたものだ。俺がテロリストに立ち向かったのはそうせざるを得なかっただけだし、生徒達も恐怖を共有して、それと同時に藤本将輝という偶然が重なりあっただけの救世主を英雄か何かと勘違いしてるだけだ。巷では倒したのは生徒会の人間達となっているし、実際俺よりも千冬達の方が倒してる。女尊男卑の風潮に流されかけていた女子達だって、周囲にいた男子が問題であっただけで一夏みたいな奴がいれば話は違っただろう。千冬達に繋がりをもたせられたのは、彼女達が心の奥底で繋がりを求めていたからだ。そのきっかけがあの事件であり、偶々居合わせた俺なだけだ。

 

「その表情。また自分の事を卑下しているな。将輝は基本的に考えている事は顔に出さないが、自分の卑下してきるときに限ってそれが顔に出る」

 

「よく見てるな」

 

「当たり前だ。お前が生徒会の一員になってから、見ていない日などなかった…………だからわかる。将輝は私達と過ごしている時、偶に寂しい表情をする時があるのを。初めは見間違いかと思ったが、そうではない。特に一夏と箒を見ている時が一番顕著だった。それで思ったよ「将輝の居場所はここではないんだろう」とな」

 

自分の事だし、表情なんてわからないが、千冬が言うならそうなのだろう。実際、俺は帰りたくないと思った日はないし、生徒会はとても居心地の良い場所だが、俺のいるべき場所ではない。その考え方は結局今も変わらなかった。

 

「知っているか?将輝が来る前の生徒会が何と呼ばれていたか?」

 

「知ってる。『最凶最低の生徒会』だろ?」

 

「そうだ。優秀だが問題視された生徒四人ーーーつまり私達だ。滑稽だろう?生徒達の手本となるべき生徒会が生徒達の中でもトップクラスの問題児なのだからな。まあ、元々この学園に来た生徒達は優秀だが、人格的には問題のあるものばかりでな。さしずめ毒を以て毒を制す、といった所か。抑止力としては申し分なかったが、それだけだ」

 

力だけでは抑止力足り得ても信頼などある筈がない。静も言っていたな。教師達も抑止力として機能さえすれば問題ないと思っていたらしいしな。

 

「それが今となってはその面影すらないがな。まるで今までそうだったかのように錯覚する時もある。だが私達IS学園の全員を変えたのは紛れもなく将輝だ。お前がいなければ私達四人は永遠に交わる事はなかったからな。お蔭で私達は最高で最強の生徒会になれた」

 

「初めからお前らは最高で最強の生徒会だよ。そんでもって未来永劫な」

 

「いや、私達四人では無理だ。私達はーーーーー五人いてこそのIS学園生徒会だ」

 

千冬は静かにけれども力の籠った声でそう言った。

 

五人いてこそ、か。そう言ってもらえるのはすごく嬉しい。皆、俺の事を必要としてくれている。ここにも俺の居場所はある。とても心地よい場所だ。だが、それでも俺は帰りたい。心地よいと感じたからこそ、俺は自分の元いた時代に帰って、俺の居るべき場所で箒達と過ごしたい。四人にとって、生徒会が何物にも侵されない不可侵領域だというなら、俺はあの場所こそが不可侵領域なんだ。

 

「帰るのか。未来に」

 

「ああ」

 

悪いとは言わないし、思わない。それが当たり前で、今ここにこうしていること自体が異常なだけだ。それにもし謝ればそれは彼女達の想いを踏みにじる事になる。そんな事はしたくない。

 

「将輝」

 

千冬に呼ばれ、返事をしようとしたその時、俺の口は千冬の口によって塞がれた。それは時間にして僅か二、三秒程の出来事で理解出来たのは千冬の口が離れた後だった。

 

「最後になってしまったが、将輝。私はお前の事が好きだ。例えお前が未来に帰っても、七年経ったとしても、忘れないし、変わらない。私が誰かを好きになるのは多分最初で最後だと思う。だからもう一度言わせてもらう。私、織斑千冬は藤本将輝を愛しています」

 

こ、これは凄まじい破壊力だ………おそらく千冬がここまでデレる事は二度とない。これで落ちない奴とか猛者だな。思わず抱き締めそうになった俺は悪くない。それもこれも千冬が可愛いのがいけないんだ。とはいえ、箒のデレも素晴らしい。まさか俺の中の箒の位置に迫る者がいたとは…………何とも恐ろしい。

 

さて、千冬も本心を打ち明けてくれた。だから俺もそれに答えなければいけない。

 

「ありがとう、千冬。そしてごめん。君の想いには応えられない。俺には帰るべき場所がある。待たせている人がいる。千冬達が俺を好きでいてくれるように俺も好きな人が、愛している人がいる。だから俺は誰の想いにも応えるつもりはない」

 

「そうか……………すまないな。私達の我が儘でここに残らせようとして」

 

「謝る必要はないさ」

 

立場が逆なら多分俺も同じ事をしていたかもしれないからな。千冬達のことを攻める事なんて出来はしない。

 

「でも驚いた。まさか千冬からキスしてくるなんて」

 

「流石に私だけしない訳にはいかない。それに将輝ならファーストキスを捧げるに値する相手だ」

 

私だけしない?何か千冬がものすごい勘違いをしている気がする。それにファーストキスゥッ⁉︎確かに千冬は男の噂なんて無かったな。て事は俺があのブリュンヒルデの初めての相手って事になるな。あれ?何気に俺って凄い強運なのか?ドラゴンでも宿しているのかもしれないな。

 

「念の為に言っておくが、束達は「「「「織斑(ちーちゃん)(会長さん)‼︎」」」」遅かったか」

 

バンッと勢いよく屋上の扉を開けて現れたのは束、静、ヒカルノ、真耶。四人ともすごい剣幕だ。

 

「どういう事だ、織斑⁉︎告白するだけって話だろうが⁉︎」

 

「そうだぞ‼︎抜け駆けしてもいいとは言ったが、其処までしてもいいとは言ってなかったぞ‼︎」

 

「ズルいよ、ちーちゃん‼︎私達だってまだまーくんとキスしてないのに‼︎」

 

「わ、私だって将輝先輩とキ、キスしたいです…………じゃなくて、会長さんだからって、それは行き過ぎだと思います!」

 

「「「「「おい、本音隠せてないぞ」」」」」

 

真耶の天然ぶりに俺達は声を揃えてツッコミを入れる。ていうか、今の口振りだと真耶にもフラグ立ってたの?そういう要素あったかなぁ…………これじゃ一夏の事を言えなくなってきたな。

 

「み、皆で仲良くツッコミなんて疎外感を感じます…………こ、こうなったら強行策です!えい!」

 

真耶が俺の肩を掴んだかと思うとそのまま俺に唇を重ねてきた。マジか⁉︎やっぱりフラグ立ってた⁉︎

 

「あー!真耶テメェ!新参者の癖に!」

 

「か、関係ありません。あ、愛があれば良いんです!」

 

「成る程、一理あるな。では次は私だな」

 

そう言うや否や、次は静が唇を重ねてきた。因みに避けようとしたら綺麗に頭をホールドされた。ていうか、この流れで行くと全員とする羽目になるんじゃ………

 

「ふむ。なかなか良いものだな」

 

「うにゅ〜!し、静までぇ……私もする!将輝逃げたら泣くからな!」

 

泣くのかよ。それにここまで来ると逆らえる勇気なんてない。俺って何時からハーレム主人公になったんだろ。それに何時の間にヒカルノは静と名前で呼ぶようになったんだろ。とか思ってたら、ヒカルノにキスされる。

 

「うははは、これで私のファーストキスも将輝のもんだ!」

 

「じゃあじゃあ!私はファーストついでに初めてをもらーー」

 

「「「「わせるかぁ‼︎」」」」

 

俺以外の四人の拳により、束の頭が地面に埋まった。とても痛そうだ。これで当分起きないな………と思ったのも束の間、束はひょいっと起き上がり、俺に飛びつき、その勢いでキスをしてきた。不意打ちなので避けられる筈もなく、おまけに受身も取れないので、思いっきり頭を床にぶつけた。お、おおぅ………頭がぐわんぐわんする。

 

「えへへ〜、まーくんだーい好き!」

 

…………まあ、悪い気はしないよな。これだけの美少女に好意を向けられてるのは。ただ一つ言える事があるとすればーーーーーやはり俺の青春ラブコメは間違っている…………なんてな。

 

その頃、扉の隙間から様子を伺っていた一夏と箒はというと。

 

「藤本さんモテモテだなぁ。俺もあれくらいモテてみたいよ」

 

「一夏。お前は一度自分を見つめ直したほうがいいと思うぞ」

 

「?」

 

「はぁ………少しは千冬さんのような鋭さがお前にあって欲しかった」

 

一夏の安定の鈍感ぶりに頭を悩ませる箒だった。




ヒャッハー!文字数一万六千オーバーでした!

何とかして学園祭は一話で纏めておきたかったので、投稿が遅れましたが、こうなりました。

ショタ一夏とロリ箒も出せたし、何かもう良かった。と思いました。睡眠時間を削ってまで書いたかいがありました。

それはそうとIF編が見たいとの声も上がってきておりますので、一応その為に色々考案中です。何か意見があれば、言ってください。


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