憑依系男子のIS世界録   作:幼馴染み最強伝説

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デート?

 

 

 

週末の日曜。天気は快晴。夏にしては比較的暑さ控えめな今日。

 

来週から始まる臨海学校の準備とあって、街ではちらほらとIS学園内で見知った生徒達が見える中、将輝もまたつい先日約束をした相手ーーーセシリアと共に街に繰り出していた。

 

「将輝さん。今日は実に良い天気ですね♪」

 

「絶好の外出日和ではあるね。晴れて本当によかったよ」

 

「もう。其処はデート日和と言って欲しいものですわ」

 

そう言って頬をぷくっと膨らませるセシリアに将輝は頬をかく。

 

「ごめん。謝るから怒らないでよ、折角の買い物………じゃなかった。デート日和なんだから」

 

流石に二度も同じ過ちは繰り返さないのが、女子を怒らせない基本だ。特にこの女尊男卑のご時世、一度でも相手を怒らせてしまってはもう色々取り返しがつかなくなってしまう。

 

「ええ。それでは早速行きましょう」

 

「あ、えーと……何処に?」

 

「もちろん臨海学校の為の水着です♪」

 

機嫌を直したセシリアが告げた言葉に将輝はガクリとうな垂れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これとこれ………後これも良いですわね」

 

(ある種の拷問だな、これ)

 

臨海学校で必要な水着を選ぶセシリアを尻目に将輝は自身の置かれている状況に堪えかねていた。

 

何故ならセシリアが水着を選んでいるという事はつまり此処はショッピングモールの水着売り場だとわかる。そしていくら水着売り場と言っても男女の物は当然綺麗に分けられているわけで、将輝は女性用水着売り場のど真ん中にいるという訳だ。気にしない方が難しい。すぐにでも外に出たいが、セシリアを置いて行くわけにもいかず、店内にいる女性客の奇異の視線に晒されながら、只管我慢していた。

 

(あぁ……今回ばかりは早く終わってくれないかな。流石に此処に後半時間いるってなると馬鹿な奴とかが通報しそうだし)

 

ちらりと横目で周囲を見渡してみると何人かの女性客が奇異の視線というよりも明らかに嫌悪というか見下したかのような視線を送ってきているのがわかる。全員でないのが救いではあるものの、もしもセシリアが自身から離れた際に適当な理由をつけられて通報されてしまったらどうしようもない。即有罪。それが男にとって肩身の狭いこのご時世なのだ。

 

「将輝さん」

 

「うん?選び終わった?」

 

「はい。ですので、将輝さんの意見をお聞きしたいと思いまして」

 

そう言ってセシリアが見せたのは鮮やかなブルーのビキニ。パレオがついているタイプのものだ。着れば自身のモデルのようなスタイルがより強調されるものを選んでいる辺り、流石というべきである。色も自身のイメージカラーに合わせてのブルーというのも良い。

 

「良いと思うよ。セシリアにぴったりの水着だ」

 

着れば似合っているのは事実であるし、嘘をつく理由もなかった将輝がそう言うとセシリアはぱぁっと明るい満面の笑みを浮かべる。

 

「で、では!わたくしこの水着を買ってまいりますので、少々お待ちくださいまし!」

 

「ちょっ⁉︎ここで一人にされるとマズい……んだよなぁ…」

 

将輝も制止もセシリアの耳には届かず、セシリアは意気揚々とレジへと水着を持っていった。どうしたものかと考えていた時、ふと見知った顔を視界の端に捉えた。

 

「あれは……ラウラか?」

 

腕を組み、じーっと水着を眺めているのは銀髪の眼帯少女ラウラ・ボーデヴィッヒだ。決め兼ねているのか、それともただ見ているだけなのか、ラウラは水着に手を伸ばすこと無く、ただただ見つめているだけだ。

 

何となくラウラの方を見続けているとラウラも将輝の存在に気付き、歩み寄ってくる。

 

「藤本将輝か。こんな所で会うとは偶然だな」

 

「偶然だね。ラウラも臨海学校の水着を?」

 

「ああ。学園指定の物でも良かったのだが、良い機会だと思って、水着を買いに来たのだが、さっぱりだ。お前にはわかるか?」

 

そうラウラに問われるが、当然ながら将輝が女性用の水着に詳しいはずもない。それどころか自身の物すら何にしたものかと迷っているくらいだ。

 

「いや、俺もさっぱり……となるとセシリアに聞いてみた方が良いな」

 

「む?セシリアもいるのか?」

 

「いるよ。一緒に来てるから」

 

「ならばセシリアに聞くか……………いや、待てよ。将輝と二人で来ているという事は所謂デートというのをしているということか。それなら私が介入すべきではーーー」

 

ラウラは二人がデートをしているという結論に至り、去ろうかとするが、それよりも早くセシリアが帰ってきた。

 

「すみません、将輝さん。少々時間がかかりまして……あら?ラウラさんではないですか」

 

「ちょうど良かった。セシリア、都合が良かったらラウラのも見てあげてくれない?水着選びに困ってるみたいだから」

 

「いや、いい。私は適当なものを「いけませんわ!」ッ⁉︎」

 

適当なものを買っていくと言おうとしたその前にセシリアの声が遮る。

 

「ラウラさんも女性なのですから、適当なもので済ませてはいけません。女性である以上、常に美しさを保たなくては。確かにラウラさんは軍人ですが、それ以前に一人の女性です。今まではそういったことを気にする暇などなかったのかもしれませんが、今は別です。IS学園の生徒になったのですから、身嗜みなどにも気を使う余裕はあるはずです。わからないというのでしたら、このわたくし、セシリア・オルコットがプロデュースして差し上げますわ」

 

ラウラはまだ親しくなって間もないので知らないのも無理はないが、セシリアに適当という言葉を使うのは良くない。身嗜みのことになると完全にスイッチが入る。それは彼女の性格上、中途半端を許さないからだ。ましてや、ラウラの容姿はとても素晴らしいもの、それを台無しにしてしまうというのは友人として見過ごせない。故にセシリアはラウラのプロデュースをする事にした。

 

「ラウラさん。私服は持っていらっしゃいますか?」

 

「持っていない」

 

水着どころかそもそも、私服の必要性すら感じていなかったラウラはIS学園の制服と軍人服しか持っていない。嘘をついても仕方がないので、正直にそう言うとセシリアは頷く。

 

「でしたら、この際です。水着だけではなく、私服も方も購入しましょう。わたくしがバッチリラウラさんに見合った服をお選びして差し上げますわ」

 

「…………」

 

「諦めろ、ラウラ。こうなったら、セシリアは止まらん」

 

将輝とセシリアのデートは、ラウラのプロデュースにクラスチェンジする事になり、それは昼食を挟んで夕方まで続く事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「き、今日は疲れた……」

 

「わたくしはとても素晴らしい一日を過ごせましたので、良かったです」

 

いつの時代も男にとって女性の買い物に付き合うというのは堪えるようで、終始上機嫌だったセシリアとは対照的に将輝は疲弊しきった顔をしていた。

 

ラウラはというと、既に二人とは別れており、この場にいないが、彼女も初めての友人との買い物という事もあり、将輝以上に疲弊していた。

 

(まぁ、楽しかったのは事実だし、途中で一回抜け出すのに苦労したけど買いたいものも買えたからいいか)

 

目前に臨海学校という戦場を控えているのに、案外自分は能天気なのかもしれないと将輝は思うが、買い物をしていた最中もその事が頭の中から離れていなかったのも事実だ。

 

その時、ふとセシリアに自身の迷いの事について聞いてみたくなった。

 

「なあ、セシリア」

 

「なんですか?」

 

「セシリアさ。もし俺が命と引き換えに君を救ったとして、それは嬉しい?」

 

「嬉しくありません」

 

迷う素振りも考える素振りも見せず、真っ直ぐな瞳でセシリアは答えた。

 

「逆に聞きますが、わたくしが命と引き換えに将輝さんを救ったとして嬉しいですか?」

 

「嬉しくないね」

 

何となくわかっていた答えだ。命と引き換えに救われた人間が嬉しいと思えるのは見知らぬ誰かの時ぐらいだ。近しい者なら、自身の非力と不甲斐なさを噛み締めて、悲しみにくれるだろう。そしてその後、救われた者は救った者の命を背負って生きていかなければならない。それを初めから嬉しいと思える人間はそういないだろう。

 

「ありがとう、ちょっと悩みが晴れたよ」

 

「それは良い事です。では、そろそろ時間ですし、IS学園の方へ帰りましょう」

 

「了解」

 

スタスタと二人並んで帰路に着く。先程はああ言ったけれど、将輝の表情にはまだ陰があった。

 

(わかってる。そんな事をしても喜ばれないのは。ただの自己満足だ……けど、それでも俺は…………)


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