憑依系男子のIS世界録   作:幼馴染み最強伝説

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原作三巻突入!

ある意味ここからが正念場!頑張って面白く描いていきたいなと思います!


原作三巻〜紅と銀、そして失われゆく無〜
生じるズレ


 

七月。

 

暑さもいよいよ本格的になってきた頃。

 

今日も今日とて出席簿アタックの音が冴え渡る。

 

理由は毎度ながらの一夏の言動。最早毎日の恒例行事にすらなりつつあるそれは一日の始まりの合図と言えた。

 

「今日は通常授業の日だな。IS学園生とはいえ、お前たちも扱いは高校生だ。赤点など取ってくれるなよ」

 

授業数自体は少ないまでも、一般教科も当然IS学園では履修する。中間テストはないが、期末テストはある。よってここで赤点など取ろうものなら、夏休みは補習により返上となる。

 

「それと、来週から始まる郊外特別実習期間だが、全員忘れ物などするなよ。三日間だが学園を離れる事になる。自由時間では羽目を外し過ぎないようにな」

 

(臨海学校……か)

 

七月頭の郊外実習ーーーすなわち臨海学校。三日間の日程のうち、初日は丸々自由時間。もちろん其処は海なので、そこは咲き乱れる十代女子。先週からずっとテンションが上がりっぱなしで、一夏も水着が買うのは面倒ではあるけれど、それはそれ。純粋に楽しみにしている。だがその中で一人。唯一将輝だけが憂鬱な表情を浮かべていた。

 

臨海学校という響きだけでいえば、それは素晴らしい事この上ない。女子達の様に三日間の郊外実習に胸を躍らせ、楽しい思い出作りをすることが出来る。自身が彼女らのように何も知らなければ楽しむ事は出来たのかもしれない。彼女達の中で臨海学校=楽しい。に対し、将輝の中では臨海学校=重大イベントなのだ。

 

『福音事件』

 

篠ノ之束の手によって暴走させられた軍用IS『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』。それを撃破或いは無力化すべく原作キャラである一夏達が二度の激戦の末、撃破する事に成功した。その際一夏は一度瀕死の重傷を負い、一時戦線を離脱するも白式に搭載されていた生体再生機能によって回復し、さらには白式が第二形態移行というこの物語においてかなり重要なイベントがある。そしてもう一人、このイベントでの鍵を担うのが、篠ノ之箒なのである。

 

(はっきり言って臨海学校に行かせたくないんだよな、箒を)

 

何故ならこの福音事件は篠ノ之束が彼女の『専用機持ちデビューを華々しく飾る為』という何とも自分勝手で迷惑極まりない理由が原因なのだ。

 

箒自身が束に頼んで専用機をもらったのだが、それは一夏と共に戦いたいからであって、そのデビュー戦で一夏を死の危険に晒してしまうのだから、はっきり言って篠ノ之束のその行いは本末転倒といえる。

 

なので、もう早い話が箒を臨海学校に行かせない。というのが一番の解決策であるが、それでは箒が可哀想というのもある。せっかくの一年の臨海学校を訳のわからない理由で休ませるというのは考えものだ。故に束を何とか説得するという選択肢を取りたいところではあるが、将輝の忠告で止まるほど彼女はマトモではない。それに理由を話そうものなら確実に怪しまれるのがオチだ。ともすれば

 

(俺がやるしかないよな……)

 

元々その為に付けた力と知恵だ。嫌だという訳ではない。しかし、回避できる危機は回避しておきたいというのもまた嘘偽りない本音なのだ。

 

「………輝!おい、将輝!」

 

「え?あ、何だっけ?」

 

考え込んでいた所為か、何時の間にかSHRが終わり、箒に話しかけられていることにすら全く気がついていなかった。

 

「次の休日の話だ。暇なのかと聞いている」

 

「あー、うん。暇だけど」

 

特にこれといった予定はない。こんな悩みを抱えた状態で遊びに行ける程、将輝の神経は図太くない。

 

「そ、その……だな。もし良ければ「将輝さん!もし宜しければ今度の休日、わたくしの買い物にお付き合いしてくださいませんか?」………」

 

「別に良いよ」

 

「そうですか!ありがとうございます」

 

「どういたしまして………ごめん。箒の用は?」

 

「い、いや、やはり何でもない。気にしないでくれ」

 

箒はそう言ってぎこちない表情を浮かべると足早に席へと帰っていく。明らかに態度が変わった事に将輝は首を傾げたが、おそらく突っ込んではいけない事であろうと彼女に追求する事はしなかった。此度においてその選択はあまり良いものではなかったが、彼は気がつく事はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(はぁ………またやってしまった……)

 

一時限目の一般教科の授業。

 

篠ノ之箒は深い溜息を吐いていた。

 

また、と彼女は思っているが、別に彼女は何かをしでかした訳ではない。ただ約束を取り付け損なっただけなのである。けれどそれは箒にとって、その程度で済まされる問題ではない。ただでさえ、セシリアには何かとリードされる事が多く、彼女の振る舞いは箒自身から見てもとても女性らしいもので、見習う部分は多くある。

 

その為に何とか先手を打とうと考えていたのだが、それはどうやらセシリアも同じであったらしく、普段ならば何かしら断りを入れるにもかかわらず、いきなり話を切り出した。そして勢いそのままに彼女に先に約束を取り付けられてしまい、自身が譲る形となってしまった。

 

(大体、将輝も将輝だ!私が話しかけているというのに…………違う違う!そうじゃない!将輝は何も悪くないんだ。あれは後手に回った私が悪いだけで、他の誰も悪くない)

 

何時も感情が暴走しかけた時に何かの所為にしたがるのが自身の悪い所だと自覚している。箒はその度自身を何度も窘めるようにして落ち着かせるのだが、今回は何故か心がそわそわして落ち着かない。怒りや悲しみといった感情ではなく、焦りにも似た感情が心を揺さぶっていた。

 

(何故だろう。まるで将輝が何処か遠い所に行ってしまうような………そんな気がする)

 

真面目に授業を受けている彼の横顔を見る。何時もと変わらない表情で授業に取り組んでいるが、彼は何か思い悩んでいる。それは先程話しかけた時にわかった。普段なら思い悩んでいたとしても彼処まで反応しない事はなかったし、何処かわざとらしい取り繕う素振りも今回は見せなかった。

 

(一体何を考えているのだ……将輝)

 

今気づけなければ後で取り返しのつかない事になるようなそんな気がして、箒は思案するが、結局この日答えが出ることなかった。

 

 

 

 

 

 

 


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