憑依系男子のIS世界録   作:幼馴染み最強伝説

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和解

 

VTシステムの一件から、数日が経過した頃。

 

将輝は彼女ーーーラウラ・ボーデヴィッヒにストーキングされていた。

 

否、堂々としすぎて果たしてそれがストーキングなのかどうかはわからない。けれど、就寝時間以外の将輝の行動に照らし合わせたかのように彼女は行動していた。そして現在もまた夕飯を摂る将輝の真正面に彼女は堂々と座っていた。

 

「あのさ」

 

「何だ?」

 

「何でそんな四六時中俺と行動パターンが一緒なの?」

 

「偶然だな」

 

ラウラは何時もそう言う。試しにわざとズラしてみてもそれを読んでいたかのごとく、彼女もズラしている。こうして「何故?」という疑問に対しては「偶然」の一点張り。其処まで偶然が続いたら、それは最早必然である。

 

「もしかして自分探しの例に俺を観察してるとか……………まあ、それは自意識過剰ってものかな」

 

ハハハと笑う将輝にラウラの行動がフリーズし、やたらと冷や汗をかきはじめた。

 

「な、何故わかった……」

 

「え?嘘、マジ?」

 

「ああ。私が出した強さの答えはお前とセシリア・オルコットに壊された。どうしたものかと考えた結果、教官を観察しては怒られるし、前と同じ答えに行き着きかねん。かといってあの間抜け面ーーー織斑一夏からは何かを学べるとは思えん。そうなるとやはりお前を観察して、強さの意味を感じ取るだけだ」

 

「だからって毎度毎度ストーキングされる俺の身にもなってよ……」

 

「固いことを言うな。減るものでもあるまい」

 

「多分何かが一杯減ると思う」

 

モグモグと将輝と同じ料理を食べるラウラ。こう何もかも模倣されるのはむず痒いというのが将輝の心情だ。しかし、どれだけ言ってもやめないのも事実。そこは目を瞑る他ない。

 

「ああ、そう言えば」

 

ラウラが何かを思い出したかのような素振りを見せ、手にしていた箸を将輝へと向ける。

 

「お前、我が特殊部隊『シュヴァルツェ・ハーゼ』に入る気はないか?」

 

それを聞いて将輝は飲んでいたお茶を盛大に吹き出した。それはラウラに思いっきりかかるが、ラウラはそれに対して文句を言わず、ハンカチで拭いている。

 

シュヴァルツェ・ハーゼ。それはラウラが小隊長を務める特殊部隊の名称で、彼女達の主な武装はISだ。ということはつまり女所帯と言うことになる。

 

「何でそういう結論に至ったか、理由を説明してくれる?」

 

「この数日、お前を観察していて気付いたのだ。お前は剣術以外にも武術の心得があるな?」

 

「うん……まあ、あるといえばあるかな」

 

「我が隊はIS戦を主とした特殊部隊だが、お前はISに乗れるだろう?其処で答えをお前から見つけるという意味合いも込めて、お前を我が隊に誘おうと思ったのだ。それに私はお前が気に入っているからな」

 

「お前は私の嫁だ!とか言わないよね?」

 

「はぁ?何を言っている、性別上、嫁と呼ばれるのは私だろう。それに誰がそんな頭の悪い事を言うものか」

 

ラウラは心底呆れ返った表情でそう言うが、その頭の悪い発言を原作で自分がしている事を彼女は知らない。知る由もない。

 

「ということで少し先の話になるが、夏休みにドイツに来い。盛大に歓迎してやる」

 

「拒否権は?」

 

「あると思っているのか?」

 

「ですよねー」

 

将輝は最早苦笑を浮かべるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?学年別トーナメント中止になったの?」

 

学年別トーナメントに向けて勘を取り戻そうと頑張っていた将輝は予想だしない事態に間の抜けた声をあげた。

 

「うむ。何でも専用機持ちが三人も出場出来ない事が関係しているそうだ」

 

先日の一件でセシリアと鈴とラウラは機体に重大なダメージを負い、また搭乗者も軽くはない怪我を負った事で学年別トーナメントに出場出来なくなった。おまけにVTシステムという代物をドイツが秘密裏に搭載させていた事もあり、それどころでは無くなってしまったというのもある。

 

「そっか。残念だなぁ、割と楽しみにしてたんだけど」

 

「私もだ。自身がどのくらい強いのかを知れるいい機会だと思ったのだがな。……………そ、それに優勝したら告白しようと思っていたしな」

 

「うん?最後何か言った?」

 

「な、何でもない!ああ、何でもないぞ!うは、うははは」

 

手をブンブンと横に振りながら、強く否定する箒。あまりに必死そうに見えた為、将輝もそれ以上の追求を止める。

 

「そういえば今日はボーデヴィッヒの奴はいないようだな」

 

箒の言う通り、今日ラウラは将輝を観察もといストーキングしていない。それは学習した、というわけではなく、別の用事があったからだ。

 

「多分ラウラはセシリアの所に行ってるんじゃないかな?」

 

「何?セシリアの所だと?」

 

そう聞いて箒は眉をひそめる。彼女の反応は当然だろう。箒がセシリアから聞いた話ではセシリアは将輝を侮辱されて、ラウラと闘う選択肢を取ったのだ。そしてここ数日、彼女はラウラを視界に入れようともしない。もし箒自身がセシリアと同じ事を言われていたら、同じく彼女と闘い、勝敗はさておいて、目も合わせたくないと思うのは当然だろう。

 

「彼女は彼女なりに思う所があるんだと思うよ。普段温厚なセシリアが怒るんだから何を言われたのかは気になるけどね」

 

(お前の事を貶されたのだ、怒らない方が難しい。それにしても…………まさか将輝も一夏と『同じ』なのか?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紅茶を飲んでいたセシリアはノック音にそれを中断し、席を立つ。

 

「どちら様で?」

 

「私だ。ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

ラウラの声を聞いた途端にセシリアは露骨に不愉快そうな表情を浮かべる。しかし、部屋には現在セシリアしかおらず、ラウラも外にいる為、それは伝わらない。

 

「……何の用ですか?」

 

表情につられて、声も自然と低くなる。ドア越しにもわかるセシリアの嫌悪感をラウラは流し、要件だけ告げる。

 

「先日の一件について、謝罪を述べようと思ってな。嫌ならこのままでいいから、話を聞いてくれ」

 

「………どうぞ」

 

セシリアは扉を開け、ラウラに中に入るように促す。ラウラはセシリアがまさか部屋に入れてくれるとは思ってもいなかったので、一瞬目を丸くし、部屋へと入る。

 

「それで謝罪というのは……」

 

「ああ。藤本将輝の事だ。すまなかった」

 

ラウラはそう言って頭を下げる。謝るといっても口だけだろうと思っていたセシリアはラウラが頭を下げたことに目を瞬かせる。

 

「私の勘違いであの男を侮辱したことについて全面的に謝罪する。あの男は愚鈍でも間抜け面でもない。優秀な人間だ」

 

「もちろんです。将輝さんはとても優秀な方です」

 

「お前があの男に惚れているのも頷ける」

 

「…………もしやとは思いますが、貴方まで……」

 

「安心しろ。私はあの男に惚れている訳ではない。ただ尊敬出来る人物ではあるがな」

 

そう聞いてセシリアはホッと胸を撫で下ろした。ただでさえ、箒という強力なライバルがいるというのに其処にラウラが参戦してきては確実に修羅場となる。

 

「それを踏まえた上で聞きたいのだが……………いや、やはり何でもない」

 

「?」

 

「要件はこれだけだ。邪魔をしたな、セシリア・オルコット」

 

「セシリア。で構いませんわ。ラウラさん」

 

「そうか。ではセシリア、また明日」

 

「ええ、また明日」

 

かくしてセシリア・オルコットとラウラ・ボーデヴィッヒは和解する事となった。

 

 

 


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