憑依系男子のIS世界録   作:幼馴染み最強伝説

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続く勘違いと怒れる淑女

 

「ええとね、一夏がオルコットさんや凰さんに勝てないのは、技術云々以前に射撃武器の特性を把握していないからだよ」

 

「そうなのか?一応わかってるつもりだったんだが……」

 

「知識としては、ね。さっき僕と戦った時も殆ど間合いを詰められてなかったし」

 

「うっ………確かに『瞬時加速』も読まれてたしな……」

 

シャルルが転校してきて五日が経過した頃、土曜日の午後の自由時間を利用して、一夏はシャルルに軽く手合わせをしてもらった後、IS戦闘によるレクチャーを受けていた。因みに一夏が瞬時加速を使用出来るのはクラス対抗戦の折、将輝が見せた瞬時加速を将輝から教わった結果だ。将輝が十日間かけてようやくものにしたのに対し、一夏は五日と相変わらずの天才っぷりに将輝は毎度の事ながら溜め息を吐いた。

 

「一夏のISは近接格闘オンリーだから、他の専用機持ちよりもより深く射撃武器の特性を把握しないと対戦じゃ勝てないよ。特に瞬時加速って直線的だから反応出来なくても軌道予測で攻撃出来ちゃうから」

 

「でも、将輝の瞬時加速は成功するぞ」

 

「将輝は射撃武器の特性を理解して、その上で瞬時加速の隙を伺ってるからね。まだ読み違えてる部分もあるけど、それはこれから経験で如何にかしていけるから」

 

「成る程」

 

一夏はシャルルの説明を聞きながら、話の度に頷く。教えるのが下手な箒はともかく、代表候補生たるセシリアや鈴の教え方は下手という訳ではない。普通に良い方なのだが、露出度の高いISスーツの所為で、色々な所に目がいってしまい、やりづらい。それに同じ男子同士の方が何かと都合が良いのも理由の一つだ。

 

「一夏の『白式』って後付武装がないんだよね?」

 

「ああ。何回か調べてもらったんだけど、拡張領域が空いてないらしい。だから量子変換は無理だって言われた」

 

「多分だけど、それってワンオフ・アビリティーの方に容量を使ってるからだよ」

 

「あー、それは将輝にも言われた。『普通は第二形態から発現する筈のものが、お前には最初から備わっているからだ』って。白式のワンオフってやっぱり零落白夜だよな?」

 

「うん。しかも、その能力って織斑先生のーーー初代ブリュンヒルデが使っていたISと同じだよね」

 

そう。一夏のIS『白式』のワンオフ・アビリティー『零落白夜』は姉が乗っていた専用IS『暮桜』と同じものなのだ。武器や仕様まで同じという事に姉弟の因縁を感じざるを得ない。

 

「何で使えるのか、イマイチわからないんだよなぁ」

 

「製作者が意図的にそうしたって可能性もあるけど、今は考えても仕方ないし、取り敢えず射撃武器の練習をしてみようか」

 

そう言ってシャルルが一夏に渡したのは先程までシャルルが使用していた五五口径アサルトライフル《ヴェント》だった。

 

「え?他の人の装備って使えないんじゃないのか?」

 

「普通はね。でも所有者が使用許諾すれば、登録してある人全員が使えるよ。ーーーうん、今一夏と白式で使用許諾を発行したから、試しに撃ってみて」

 

「お、おう」

 

一夏とシャルルがこうして特訓している横ではつい先程まで鈴との模擬戦を行っていた将輝が鈴と箒と共に模擬戦においての反省点などを議論していた。

 

「やはり、彼処はしゅっとしてから、ぐんとした方が良かったのではないか?」

 

「それは俺も思ったんだけど、ズバッといけば、その後でズドンっていけるかと思ったから」

 

「………あんたら、どんな会話してんのよ」

 

将輝と箒の相変わらずぶっ飛んだ会話にげんなりする鈴。感覚派よりの鈴ですら半分以上が伝わっていない。というか、それがISについての談義なのかすら、初めからいないとわからないレベルだ。

 

そんな時、周囲が途端にざわつきはじめた。その注目の的となっているのはーーー

 

「………」

 

もう一人の転校生、ドイツの代表候補生たるラウラ・ボーデヴィッヒだった。

 

転校初日以降、クラスの誰とも一言すらかわさない孤高の女子は、その注目を集めているISを纏ったまま、将輝の元へと向かってきた。

 

「おい」

 

ISの開放回線で声が飛んでくる。もちろん、それは一夏にではなく、一夏と勘違いされている将輝にだ。

 

「何かな?」

 

素っ気ない態度は取らず、かといってあまり優しさの含まれていない声で返事をする将輝。すると言葉を続けながら、ラウラは正面に立った。

 

「貴様も専用機持ちだそうだな。なら話が早い。私と戦え」

 

「ごめんね。戦う理由がないから却下」

 

将輝に戦う理由など微塵もない。なにせ彼女の目的の人物ではないのだから。

 

「貴様にはなくても私にはある」

 

「この際、はっきりさせておく「貴様がいなければ教官が大会二連覇の偉業を成し得ただろう事は容易に想像出来る。だから、私は貴様をーーー貴様の存在を認めない」……頼むから話を聞いてくれ」

 

あまりにも一方通行な会話に将輝はガクリと項垂れる。言葉のキャッチボールが出来ないのでは、勘違いを正す事も出来ない。それ程までにラウラ・ボーデヴィッヒは織斑千冬の教え子であること以上に、その強さに惚れ込んでいる。そしてその千冬の経歴に傷を付けた織斑一夏が憎かった。憎悪の対象(織斑一夏)がいなければ、そもそも出会う事などなかったというのに。

 

「ま、勘違いとはいえ、君が俺の存在を認めないって言うならそれはそれでいい。けどそれは俺と闘う理由にはなっていない」

 

「何?」

 

「織斑千冬の経歴に傷を付けた織斑一夏が許せない。織斑千冬に心酔している者なら君以外にも多くいるだろうね。そしてそう思っている人物も多々いる筈だ。けど。だからと言ってそれを理由に闘うっていうのは些か理由として軽過ぎるよ。俺を倒して何が変わる?織斑千冬が織斑一夏を救い、大会二連覇の偉業を達成出来なかった事実は変わらない。君の信じる『強さ』を示したところで織斑千冬は何の得もしないよ。だって君と彼女じゃ『強さの本質』が違うから」

 

「………」

 

「いい加減に()()で喧嘩売るのはやめた方がいいと思うよ?君は適当な理由をつけて織斑一夏を倒して、織斑千冬に自身をもっと見て欲しいと思ってるだけだ。嫉妬や羨望を闘いの理由にしちゃ「言いたい事はそれだけか?」おいおい、話の途中でしょうが」

 

話の流れに乗じて、さりげなく勘違いを修正しようとわざわざらしくもない言葉を並べたというのに、絶妙なタイミングでラウラが言葉を挟んだ。

 

「私が教官から教えられた『強さ』とは圧倒的なまでの力だ。それ以外に強さなど存在しない。力こそが正義だ、弱者に居場所などない!『弱者』である貴様が『強者』たる教官の弟であることなど断じてあってはいけないのだ」

 

(うわぁ、野獣の理論だ。ていうか、お前は何処の龍斗くんだよ、制空圏でも使うのか)

 

まさに一触即発の空気に周囲の者は皆固唾を飲んで、成り行きを見ている。その気になれば何時でも割って入れるように鈴が身構えるが、突然アリーナに響き渡るスピーカーからの声にそれは終わりを告げた。

 

『其処の生徒!何をやっている!学年とクラス、出席番号を言え!』

 

おそらく騒ぎを聞きつけてやってきた担当の教師からだろう。それを聞いて興が削がれたのか、ラウラは戦闘態勢を解いた。

 

「今日は引こう。だが覚えておけよ、織斑一夏。私は貴様を倒し、あの人の強さを証明してみせる」

 

そう言い残して、ラウラはアリーナゲートへと去っていった。おそらくその向こうでは教師が怒り心頭で待っている事だろうが、ラウラの性格からして無視してしまうのは明白だ。

 

「将輝……」

 

「うん。これは訂正したところで戦いは免れなさそうだ。あーあ、また余計な事を言っちゃったなぁ」

 

「ん?どうした、将輝?何かあったのか?」

 

「さっきの騒ぎを今の今まで気づかなかったお前はある意味大物だよ、一夏」

 

何故、こんな何から何まで鈍感な奴の為に苦労しているのか、本格的に頭痛がしだした将輝であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「あ」」

 

二人揃って、間の抜けた声を出してしまったのは鈴とセシリアだった。場所は第一アリーナ。時間はそろそろ四時を指そうとしていた頃だった。

 

「もしかして、月末の学年別トーナメントに向けての特訓ってとこ?」

 

「ええ。奇遇ですわね」

 

二人が敢えてもう人のいない第一アリーナを選んだのは月末に開かれる学年別トーナメントに向けての最終調整を兼ねた特訓の為だ。二人とも狙うはもちろん優勝でその為の障害となる人物が目の前に現れたからか、二人の間には見えない火花が散っていた。

 

「ちょうどいいし、ここで一つトーナメントの前哨戦でもしとく?」

 

「それは妙案で……ッ⁉︎」

 

二人がISを展開し、対峙した直後、声を遮って超音速の砲弾が飛来する」

 

緊急回避の後、二人は揃って、砲弾の飛んできた方向を見る。其処には漆黒の機体が佇んでいた。

 

機体の名は『シュヴァルツェア・レーゲン』。日本名に直すと黒い雨だ。そしてその登録操縦者はーーー

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ……」

 

鈴は視線を鋭くし、睨みつける。

 

「………先程の砲撃、どういったつもりでして?」

 

セシリアは何時ものような雰囲気のまま、ラウラへと問う。このような状況でも優雅さを忘れないのはそうなるようにつとめているからだ。

 

「中国の『甲龍』にイギリスの『ブルー・ティアーズ』か。……ふん、データで見たときの方がまだ強そうだったな」

 

「あら、奇遇ね。あたしもあんたの機体を見て、同じ事を思ってたわ」

 

いきなりの挑発的な物言い。だがしかし、その程度の見え透いた挑発に乗るほど二人は愚かではない。それどころか、挑発に挑発で返した。

 

「はっ……。第三世代ISに乗りながら、量産型に負ける程度の力量しか持たぬものが専用機持ちとはな。流石は古いだけが取り柄の国だ、よほど人材不足と見える」

 

「古いだけが取り柄の国、ね。それについては激しく同意するわ、おかげで歳をとってるだけの大人が上で踏ん反り返ってるのを思い出すたびに虫唾が走るもの。無能な癖に偉そうにしてるんじゃないわよってね。けど、一応あたしの祖国なの。だからーーーーー侮辱するってんなら一夏でも許さないわ」

 

鈴は右手にメインウェポンである《双天牙月》を呼び出し、ラウラへと向ける。その表情は不敵な笑みを浮かべているが、内心では自身の生まれ育った国を馬鹿にされてブチ切れモードだった。

 

「落ち着いてください、鈴さん。どういう理由か知りませんが、何故其処までして貴方はわたくし達と戦おうとするのですか?」

 

「ふん。気になるなら、少しはその足りない脳味噌で考えてみたらどうだ?」

 

鈴を左手で制しつつ、セシリアはラウラへと問いかける。しかし、ラウラは聞く耳など全く持たず、それどころか、今度はセシリアに対して挑発する。

 

「あらあら、お話になりませんわ。これではずっと平行線のままですわね」

 

けれど、セシリアはその挑発に乗らない。苛立ちを感じないといえば嘘になるが、ここで感情に身を任せれば、英国淑女としてエレガントさに欠けるような振る舞いとなってしまう。そんな事はしたくない。

 

「仕方ありません。ここはわたくし達が退きましょう」

 

「あんたならそういうと思ってたわよ。すっっっごく、不満だけど、トーナメントの前に揉め事なんて起こしたくないもんね」

 

文句を言いながらも、鈴もISを解除する。その表情から不満は全然解消されていない事が伺えるが、もしここで一悶着起こした所為で、トーナメントに出れなくなるという事態だけは避けたい鈴はセシリアに乗る形で渋々矛を収めた。因みに中学までならこの後のストレスによる二次災害は一夏へと降り注ぐ。

 

スタスタと第一アリーナを立ち去ろうとする二人にラウラは小さく舌打ちをする。どうやら彼女の中ではこの見え透いた挑発に乗って、闘う予定だったようだ。そしてそのラウラの心情を読み取ったようにセシリアが呟いた。

 

「その様な見え透いた挑発に一々腹を立てていては、英国淑女にはなれませんわ。それに将輝さんに相応しい女性としても」

 

「……将輝?ああ、あの間抜け面を晒したもう一人の男の事か」

 

だが最後の一言がラウラに決定的なチャンスを作ってしまった。一夏の事を藤本将輝と勘違いしているラウラは明らかな嘲笑と侮蔑の含んだ声を漏らした。

 

「織斑一夏はともかく、あのような愚鈍で間抜け面を晒した男に尽くすことが貴様のいう英国淑女か。成る程、実に良い趣味をしているな」

 

ピタリと立ち去ろうとしていたセシリアの足を止めた。だが、ラウラの言葉は止まらない。

 

「無能な種馬に媚へつらうようなメスなど所詮は私の敵ではない。ましてや、臆病風に吹かれて逃げ出すなど尚更な」

 

「英国淑女たるもの、常に余裕を持って優雅たれ。母の言葉です」

 

ラウラの方へ振り返ったセシリアは未だ笑みを浮かべている。だが、その笑みには何の感情も込められていない。何も感じさせない無理矢理貼り付けられた笑みだ。

 

「確かに貴方から見れば、将輝さんに尽くしているわたくしや箒さん。一夏さんに尽くしている鈴さんは媚へつらっているように見えるのかもしれません。今ここで無益な争いを避けた事も臆病風に吹かれたようにも見えたのかもしれません…………けれど」

 

セシリアは天を仰ぐと専用機『ブルー・ティアーズ』を再度纏った。そして次に向けられた顔には優雅さを捨て、心の底から湧き上がる圧倒的なまでの怒気に包まれた憤怒の様相が浮かび上がっていた。

 

「それが将輝さんを侮辱していい理由にはなりません!将輝さんを馬鹿にされてまで、英国淑女としての振る舞いを続ける事など、このセシリア・オルコットには出来ない。いいでしょう、ラウラ・ボーデヴィッヒさん。例え貴方の見え透いた挑発だとわかっていても、わたくしは敢えて乗りましょう。…………すみません、お母様。わたくしは敬愛する殿方を侮辱されてまで淑女として振る舞うことは出来ませんでした」

 

「セシリア」

 

名前だけを呼んだ鈴の言葉には「あたしも参戦していい?」という意味が込められていた。先程は一度矛を収めたが、未だ鈴はキレているのだ。しかし、セシリアは首を横に振る。

 

「鈴さん。すみませんが、ここはわたくしに譲って下さいまし。二対一では勝敗に関わらず、納得がいきませんもの」

 

「ふん。一人だろうが、二人だろうが同じ事だ。所詮一足す一は二にしかならん。第一、種馬を追い掛け回しているようなメス共に私が負けるはずがない」

 

「………残念です。ラウラ・ボーデヴィッヒ。出来れば同じ欧州の人間として、同じ代表候補生として、貴方とは友好的な関係を築いていきたかった。けれど、それももう不可能です。そんなわたくしから貴方に最初で最後の贈りものですーーーーーー踊り狂い、果てなさい。このセシリア・オルコットとブルー・ティアーズの奏でる葬送曲(レクイエム)で」

 

両手を広げ、空に浮かび上がるセシリアのその姿はまさしく『天使』のような神々しさを見せていた。


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