憑依系男子のIS世界録   作:幼馴染み最強伝説

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その身に宿すは漆黒の意志

ズドオオオオオンッ!

 

爆音とともにアリーナ全体に衝撃が走り、ステージ中央からもくもくと煙が上がっている事から、先程の衝撃は『それ』がアリーナの遮断シールドを貫通して入ってきた衝撃波だという事がわかる。

 

『ステージ中央に熱源。所属不明のISと断定。ロックされています。

 

「チッ。やっぱり来たか」

 

ISのハイパーセンサーが告げる緊急通告に舌打ちする。

 

アリーナの遮断シールドはISと同じもので作られている。それを貫通するだけの攻撃力を持った機体にロックされているというのはかなりマズい状況だ。だが、戦えなくはない。

 

将輝が危惧していたのはISのエネルギーが尽きかけの状態で乱入されること。そんな状態で高火力のISと戦うというのは自殺行為。しかし、今エネルギー残量は先程の衝撃砲の嵐で減ったとはいえ六割残っている。鈴も同じくらいは残っていると計算すれば、充分に戦える。

 

「将輝」

 

「鈴。悪いけど、俺は逃げないぞ」

 

「そ。ならいいわ」

 

「え?」

 

てっきり逃げろとでも言われるかと思っていたが、鈴は将輝の返答に対して否定どころか、肯定的な返答を寄越す。それが意外だった将輝は場違いな間の抜けた声を上げた。

 

「何、間抜けな声出してんのよ、『あれ』と戦うんでしょ?」

 

「あ、ああ」

 

「多少の無謀はその心意気に免じて目を瞑ってあげるわ。どうしても退けない理由があるんでしょ?それに考え無し………ってタイプでも無さそうだし」

 

「考えはある………けど、時間がかかる」

 

「時間稼ぎ………か。あたしのしょうに合わないわ。だからこうしましょう、取り敢えずあんたとあたしで『あれ』を倒しに行く。制限時間はあんたの作戦時間まで………どう?悪い話じゃないと思うけど?」

 

「わかった。それでいこう」

 

「来たわよ!」

 

煙を晴らすかのようにビームの連射が放たれる。二人はそれを難なく躱すと、その射手たるISがふわりと浮かび上がってきた。

 

その姿はまさしく異形。深い灰色をしたそのISは手が異常に長く、つま先よりも下まで伸びている。おまけに首というものがなく、肩と頭が一体化しているような形をしている。腕を入れると二メートルを超える巨体は、姿勢を維持するためなのか全身にスラスター口が見て取れ、頭部には剥き出しのセンサーレンズが並び、腕には先程のビーム砲口が左右合計四つ存在しているが、何より特異なのが『全身装甲』だった。

 

通常、ISは部分的にしか装甲を形成しない。何故か?必要ないからだ。防御は殆どがシールドエネルギーによって行われている。故に見た目の装甲というのはあまり意味を持たない。防御特化ISであれば物理シールドを搭載しているものもあるが、肌を一ミリも露出していないISなど存在しない。だか現に目の前には全身装甲のISが佇んでいるので、つい先程までは。と言った方が正しい。

 

『藤本くん!凰さん!今すぐアリーナから脱出してください!すぐに先生達がISで制圧に行きます!』

 

割り込んできたのは真耶だった。いつもより焦った口調だというのに、声には何時もよりずっと威厳がある。

 

「いえ、先生方が来るまで時間がかかります。もし俺たちがピットに戻って、他の生徒に被害が出たらダメだ。だからここは俺たちで食い止めます」

 

『藤本くん⁉︎だ、ダメですよ!生徒さんにもしもの事があったらーーー』

 

「すみません。切ります」

 

将輝は真耶からの通信を一方的に切り、目の前のISに集中する。敵ISは体を傾けて突進してくる。それを回避し、反撃するが腕に阻まれる。敵ISは《無想》ごと将輝を殴り飛ばそうとするが、それよりも前に横殴りに見えない衝撃に吹き飛ばされ、数メートル先で態勢を立て直す。

 

「あたしを無視するのはいただけないわね」

 

「助かったよ、鈴」

 

「どういたしまして。それよりあの木偶人形さっさと片付けましょう。今回だけはあんたの動きに合わせてあげる」

 

「そいつは頼もしい。じゃあ、行くよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もしもし⁉︎藤本くん⁉︎凰さん⁉︎聞いてますか⁉︎」

 

ISのプライベート・チャネルは声に出す必要性は全くない。だがそんな事を失念するくらい真耶は焦っていた。それもそうだろう。教え子たる生徒が危険な状況なのだ。教員である真耶が焦るのは当然の事だ。

 

「本人たちがやると言っているのだから、やらせてみてもいいだろう」

 

「お、お、織斑先生!何を呑気な事を言っているんですか⁉︎」

 

「それに藤本の言っていた通りだ。今、あいつらを戻せばあのISによる被害は甚大なものになるかもしれない。教師として、生徒を危険な場に立ち会わせるわけにはいかんが、今はこれが最良の手だろう」

 

「先生。ISの使用許可さえいただければ、すぐにでも出撃出来ます」

 

「そうしたいところだがーーーこれを見ろ」

 

千冬はブック型端末の画面を数回叩き、表示されている画面を切り替える。その数値はアリーナのステータスチェックだった。

 

「遮断シールドがレベル4に設定……?しかも扉が全てロックされている?これではーー」

 

「ああ。避難することも救援に向かう事も出来ないな」

 

実に落ち着いた様子で話す千冬だったが、よく見るとその手は苛立ちを抑えきれないとばかりにせわしなく画面を叩いている。

 

(何もかも、藤本の言う通りだ)

 

緊急事態として政府に助勢を要請した。三年の精鋭達にシステムクラックもさせているが、遮断シールドが解除出来なければ、結局そのどちらも時間がかかる。それでもし将輝達を引っ込めれば、敵ISが生徒たちに危害を加えるかもしれない。ならばかなり危険な賭けになるが、あの場にいた将輝と鈴に任せるほかなかった。何もかも将輝の言う通り。故に千冬は引っかかる。何故こちらの状況がわかったのかと。

 

「………ああ。わかった、すぐに準備する」

 

「織斑?誰と話をしている?」

 

「ちふ……じゃなかった。織斑先生、俺行ってきます」

 

「待て、織斑!」

 

千冬の制止も虚しく、一夏はピットを後にする。

 

弟の突然の行動に手を頭に当て、溜め息を漏らす。ああいう所は昔から変わらない。それが一夏が他人を惹きつける魅力ではあるのだが、それと同時に危険な目に遭っている以上、姉としては心中穏やかではない。

 

「あれ?織斑先生。篠ノ之さんとオルコットさんは……」

 

「オルコットならあの馬鹿の後を追いかけていったが………」

 

バレないように静かにピットを抜け出したセシリアだったが、案の定千冬にはばれていた。そしてそれより以前からピットから姿を消してきた箒もだ。

 

それに気付いた真耶はさらにわたわたと焦るが、千冬は対照的にさっきまでと違う鋭い視線をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どっせい!」

 

鈴は《双天牙月》を振るい、敵ISに攻撃を仕掛ける。

 

大振りに振るわれる一撃はかわされれば、絶対的な隙ができ、鈴はそれを絶対にかわされないような速度と角度で攻撃しているのだが、それはあくまで通常のISであればの話だった。

 

普通なら躱す事は出来ず、防御するしかない攻撃を敵ISは全身についた桁違いの出力のスラスターで零距離から一秒とかからず離脱する。例えどれだけ注意を引こうとも、必ずどちらの攻撃にも反応して回避を優先するのだ。

 

にも関わらず、敵ISにダメージを通せるのは思いの外将輝と鈴の相性が良い事と鈴のIS操縦技術が高い事に他ならない。互いが互いの隙を埋めるように動いている事もあって、エネルギーはまだ半分を切った辺りだ。

 

「将輝、離脱!」

 

「わかってる!」

 

敵ISは回避した後、すぐに攻撃に転じる。しかもその方法は無茶苦茶で、でたらめに長い腕をブンブンと駒のように振り回しての接近だ。おまけに高速回転状態からビーム砲撃を行うのだから余計にタチが悪い。

 

「時間まで残り二分くらいかな。それまでに『あれ』倒せると思う?」

 

「ちょっと厳しいわね。ま、出来なくはないけど」

 

「無理して倒す必要もないし、残り二分は時間を稼いで、あいつが来るのをーーー」

 

待つだけだ。そう言おうとした時、アリーナのスピーカーから大声が響き渡る。

 

「将輝っ!」

 

キーン……とハウリングが尾を引くその声はまさしく箒のものだ。

 

「な、なんで其処にいるんだ……」

 

アリーナに立っているのは織斑一夏じゃない。藤本将輝だ。なのに何故ここに来たんだ、と将輝は思う。一番ありえないと思っていた侵入者の一件で起こる最悪の事態が目の前で起こっていた。

 

「男なら………男なら、そのくらいの敵に勝てなくてなんとする!」

 

大声。またキーンとハウリングが起こる。その表情には怒りとも焦りとも見える不思議な様相をしていた。

 

ゆっくりと敵ISが館内放送の発信者に興味を持ったように将輝達からセンサーレンズを逸らし、じっと箒を見つめ、そして砲口のついた腕を箒へと向けようとしていた。

 

「おい」

 

だがそれよりも遥かに将輝の行動の方が速かった。『瞬時加速』で離れていた距離を一気に縮めた将輝は《無想》を振りかぶり、敵ISの胴体へと叩き込んだ。全く無駄の無い動作に鈴はおろか馬鹿げた回避性能を誇る敵ISすらも反応が追いついていなかった。

 

「その薄汚い鉄の塊を箒に向けやがって………………絶対バラす」

 

普段は穏やかな瞳に明確な殺意が宿る。最も目の前の侵入者にはそもそも()()()()()()()()のだが。どちらであろうと関係ない。

 

夢幻の主武装たる《無想》も主の迸る殺意に呼応するかのように形状を変化させ、高周波の金属音を響かせる。

 

つい先程までは時間を稼ごうと画策していた将輝だが、それもやめた。箒が原作通りの動きを取るという可能性を想定していなかった自身にも非はある。だがそれよりも許せない。その無機質な敵意を戦う術を持たない箒に向けた事、それをよりにもよって自身の前で行おうとした事、何より攻撃する意志があったかどうかはわからないが、黒幕である人物が矛先を一瞬でも自身の肉親に向けた事が許せない。可能性厨の彼女ならば、今の将輝の行動は予測の範囲なのかもしれない。将輝の底力を引き出す為にわざとそういった手法を取ったのかもしれない。が、たかだかそんな事のために箒を危険に晒した、と将輝は考えると更に怒りと殺意が湧き出てくる。

 

将輝は身を低くして、加速の態勢に入る。それに向けて敵ISは両手からビーム砲撃による牽制を行おうとするが、それよりも僅かに早く将輝が肉薄する。

 

砲撃される前に懐に入り込んだ将輝は下段の構えから斬り上げようとする。だが、敵ISは今まで通り全身にあるスラスターでその場から離脱する。

 

「逃がすわけないだろ、木偶人形」

 

離脱する事など想定済みだ。と言わんばかりに離脱に合わせて将輝がさらに加速する。回避した後、すぐに攻撃に転じる敵ISも回避が反撃に切り替わる僅かなロスに付け込まれた所為で、ここで初めて防御の選択を取った。

 

ここで形状変化をした《無想》が真価を発揮した。高速で振動する刃は敵ISの腕に触れると、甲高い金属音を響かせながら、刃を食い込ませたかと思うと、勢いそのままに敵ISの右腕を断つ。

 

ゴトリと落ちたISの腕を見て、パニックに陥っていた生徒達が絶句する。肘と思しき位置から断たれたISの腕装甲。どれだけ長くとも、人の手首より先は確実に切断されている筈だというのに、そのISは切断面から血を流すどころか、肌を露出させていなかった。つまりそれはこの機体は()()()()()という事実の証明に他ならない。

 

だがそれはあり得ない。ISは人が乗らなければ動かない。それが現代におけるISの常識だ。しかし、それはあくまで公にされている情報では、というだけの話だ。最先端の技術でそれが不可能とはわからない。そしてその最先端の技術と科学力を誇る人物は世界から雲隠れしている。ならば現代の常識など何時覆されてもおかしくはない。

 

無人機は腕を斬り落とされた事など気にも留めず、そのまま空いている左腕で将輝を殴りつける。将輝はその場で体を捩ると振るわれた左拳を躱し、捩った勢いで無人機の頭部に回し蹴りを叩き込み、よろけた所に更に一太刀浴びせる。すると無人機は切断面からISの確たるコアを露出させる。将輝は其処へ向けて《無想》をすかさず投擲するが、回避されてしまう。

 

これで将輝の攻撃手段は無くなった。主武装を失った将輝に無人機は矛先を向けられ、今まさに砲撃されようとしたその時。

 

ギンッ!

 

縦一閃。

 

無人機の左腕が宙を舞った。将輝の手には《無想》は握られていない。鈴の《双天牙月》では一撃の元に斬り落とす事など出来はしない。では誰がしたか?迸るエネルギーの刃を持った刀を持ち、無人機の左腕を一刀の元に斬り捨てたのはーーーーーー

 

「待たせたな、将輝」

 

その身に『白式』を纏わせ、『零落白夜』を発動させた《雪片》を握った織斑一夏だった。あまりにも出来過ぎたタイミングで現れた一夏に将輝は溜め息を吐いた。

 

こうなるように演出した訳ではない。作戦ならばつい先程破棄した。時間もまだ二分経ってはいない。何より無人機を自らの手で屠ると決めた以上、一夏に任せる気などなかった。故にこの絶妙と言えるタイミングで無人機の左腕を斬り落とした一夏の出現は完全な偶然だった。

 

両腕を失い、攻撃手段を無くした無人機は残るスラスターを吹かせ、その場から離脱しようとする。それを追いかけようとする将輝と一夏だが、まだ無人機の方が僅かに速く、距離が離されていく。

 

無人機が自らの開けた穴から今にも脱出しかけた時、一筋の閃光が無人機の頭部を撃ち抜いた。それにより、無人機はその身を硬直させる。

 

「トドメだ」

 

硬直した僅かな時間の間に無人機との距離を詰めた将輝は剥き出しのコアに貫手の要領で突きを放った。放たれた突きは吸い込まれるようにコアの中心部へと突き刺さった。

 

「ありがとう、セシリア」

 

「もしもの時の為に準備をしていた甲斐がありましたわ」

 

そう答えたのは今し方客席から見事無人機の頭部を撃ち抜いたセシリアだった。

 

「これで終わり、ですわね」

 

「ああ。後はこれを先生方に……ッ⁉︎」

 

将輝は驚愕する。コアを破壊され、最早ただの鉄屑と化した筈の無人機。それだというのに、自身のISのハイパーセンサーが告げてきたのは『敵IS内部、エネルギー急上昇を確認!警告!後数秒で自爆します!』という言葉だった。

 

腕は抜けない以上、巻き込まれるのは必至。何より爆発の規模がわからない以上、腕を引き抜くよりも先にこの場から離れなければならない。将輝は無人機の開けた穴からアリーナを抜け出す。

 

刹那、将輝の視界が真っ白に包まれた。

 

 


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