憑依系男子のIS世界録   作:幼馴染み最強伝説

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行き着くは同じ結末

 

放課後のアリーナ。陽は沈み、辺りもすっかり暗くなった頃、未だ将輝はISの訓練を続けていた。

 

今回は訓練機である『打鉄』を借りてきた箒の参戦により、何時ものアグレッシブな近接格闘戦ではなく、単純な技術による近接格闘戦を行う事が出来、より充実した訓練が行えた。

 

そしてその分、普段よりも疲労の色は濃くなるのは必然と言えるのだが、それでも将輝はISの訓練を続けていた。

 

(これじゃダメだ。もっと速く、鋭い一撃が撃てるようならないと)

 

手にした近接格闘武装である無想を振りながらそう考える。途中で急加速、急停止など基本的な動作を体に染み込ませるように織り交ぜながらの動きはかれこれ一時間以上続いている。かなり息切れもしているのだが、それでも止まることは無かった。だが、それもアリーナ使用時間が過ぎた事により終わりを告げた。

 

ピットに帰り、ISの展開を解除した将輝はのしかかってきた疲労にそのまま床に大の字に倒れる。すると倒れた将輝の顔にタオルがかかった。

 

「随分と遅くまで訓練をしていたな」

 

「………箒か。まあね、思うところがあったから」

 

何時もなら身体を起こすところではあるが、流石に今は無理なようで身体は四肢を床に放り出したまま、話す事にした。

 

「あまり無理は良くないぞ。身体を壊してしまう」

 

「分かってるって。でも俺みたいなタイプは多少無理しないと差は縮まらないからさ。一夏みたいに才能に恵まれてるといいんだけど、無い物ねだりは良くないから。ところで箒は部屋に帰らなかったの?」

 

「すぐに終わると思って、待っていたら結局一時間以上待たされる羽目になったんだ」

 

「あはは……ゴメンね」

 

「気にするな。私が勝手に待っていただけだ。謝る必要はない……………が、も、もし負い目があるというなら、こ、これから夕食に付き合え」

 

「は?別にいいけど………」

 

夕食くらいは何時でも付き合うのに、何故箒がそんな事を言うのかわからない。将輝は首を傾げるが、箒はそうかそうかと上機嫌に何度も頷き、喜んでいる。

 

「では早速行くか!」

 

「あー………箒?一緒に行く前にシャワー浴びていかない?」

 

かなり汗をかいていて、ISスーツはぐしょぐしょだ。身体はタオルで拭いたものの、汗臭さもあるだろう。九十九パーセント女子校たるこの学園で汗臭いまま過ごすのはよろしくないし、何より気持ち悪い。そう思って提案した将輝は提案したのだが、何故か箒は頬を真っ赤に染めて、激昂した。

 

「な、な、な、何を言っているんだお前は⁉︎」

 

「へ?いや普通の事だと思うんだけど」

 

「私とシャワーを浴びる事が普通だとでも言うのか⁉︎こ、この不埒者が!」

 

「いや、別にそうは言ってない。単に一緒に食堂に行く前にシャワーを浴びていこう……って言っただけなんだけど」

 

何処にも勘違いの要素はない筈なのだが、激昂した相手にはそう言うよりも普通に説明した方が効果的であるのは将輝は知っている。そして将輝の説明を受けた箒も頭の中で先程の台詞を反復する内に自分がおかしな勘違いをしている事に気付いた。というか、そもそも何をどう聞けばそういう間違いになるのか聞きたいレベルだ。

 

「………な、何故私はあんな変な勘違いを………」

 

「(俺は気にしてないから)俺は大歓迎だけどな」

 

「………本音と建て前が逆になっているぞ」

 

「…………………………………………鬱だ、死のう」

 

「ま、待て!ISを展開して首をはねようとするな!落ち着け!」

 

「何言ってるんだ、箒。俺は至って冷静つまりクールだ。だからこそ、セクハラ紛いの発言を詫びるには死あるのみ。我が命を持って、その罪を償「落ち着けと言っている!」うだらばっ⁉︎」

 

混乱に混乱を重ね、最早収集の付かなくなった将輝に対して、箒の正拳突きが腹部に叩き込まれる。将輝は突然腹部を襲った衝撃に身体をくの字に折り、床に転がり、沈黙する。

 

「……は!いかん!やってしまった。大丈夫か?将輝?」

 

「……なんとか」

 

いくら箒が女子とはいえ、鍛えられた身体から放たれた拳は一撃が凶器足り得る。ましてや気の抜けた身体なのだから、軽く胃の中の物をぶち撒ける所だ。将輝がぶち撒けなかったのは、そもそも胃の中が空っぽだった事と箒の前でそんな事は出来ないという根性があったからだ。そのどちらかの条件が満たされていなければ、目の前にはお花畑と金色に輝く滝(みたいなエフェクトがかかる)が口から出ていただろう。

 

「取り敢えずシャワー浴びてから箒の部屋の前に行くとするよ。女の子だから俺より時間はかかると思うし」

 

「そうしてくれ。私も極力急ぐ」

 

重たい身体を起こした将輝は箒と共に寮へと戻ると一旦別れ、自室へと戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シャワーを浴び終えた将輝は一夏と箒の同居する1025号室に来ていた。普段ならシャワーを浴び終えるとセシリアが髪を乾かしてくれている。偶に面倒くさがりな将輝は基本的に風呂上がりに髪は乾かさず、放置して乾くのを待つタイプなのだが、セシリアはそれを許さず、手間暇問わず世話を焼いている。だが今回に限っては部屋にセシリアがいなかった為、将輝の髪は適当にタオルで拭かれただけで、やや濡れている。

 

部屋の前に箒の姿がなかった為、ノックをしてから呼ぼうとしたその時、中から話し声が聞こえる。初めは一夏と箒が話していると思っていた将輝だが、聞き耳を立てているともう一人誰かがいるのがわかった。

 

(セシリアがいるのか?取り敢えず中に入ってみるか)

 

「一夏、箒。入るぞ」

 

ノックをした後、ガチャリとドアを開けた将輝は次の瞬間、驚くべき光景を目の当たりにした。

 

竹刀を持った一夏が鈴を相手に対峙していて、それを横で呆れた様子で眺めている箒。初見でみれば、襲っているのは確実に一夏と思うだろう。だが情けない声を上げたのは武器を手にしていた一夏の方だった。

 

「ま、将輝!助けてくれ!」

 

「どう見ても助けが必要そうなのは凰の気がするけど」

 

「あいつは中国拳法してるし、滅茶苦茶強いから助けなんていらないんだ。だから俺を助けてくれ!」

 

竹刀を構えた涙目の一夏にさながらハンターの笑みを浮かべた素手の鈴。確かに鈴の構えは武術的なものを感じさせるし、代表候補生ともなれば身体能力は高い筈だ。最近鍛え直しているとはいえ、一介の男子高校生には負けないかもしれないが、一夏が危険視しているのは其処ではなかった。

 

「あー箒、状況説明を頼む」

 

「私が部屋に帰ってきてすぐに鈴が部屋に来てな。何事かと思えば「部屋を変わってくれ」と頼まれたのだが、寮長は千冬さんだろう?だから断ったのだが、そしたら鈴が「じゃあ一夏を連れて行く」と言い出してな。一夏が拒否したらものだから、無理矢理連れて行こうとしてこうなった訳だ」

 

「成る程……………って、それ根本的に解決されてないよね?ようは一夏と鈴の同室の人をチェンジさせようとしてるんでしょ?それじゃあ箒と鈴が変わるのと同じじゃん」

 

「私もそう言ったのだが、聞く耳を持たんのだ」

 

将輝と箒がそうこう話しているうちにも鈴が一夏を取り押さえ、意識を刈り取る為の一撃を放とうと試みている。一夏は何とかそれだけはさせまいと必死に抵抗しているが、徐々に押され始めていた。

 

「一夏、無駄な抵抗はやめなさい。大丈夫、痛くしないから……!」

 

「絶対痛いだろ……!ていうか、お前が諦めろぉぉぉぉ……」

 

「諦める?そんな言葉、あたしの辞書にはないわ!」

 

「言ってる事はかっこいいが、状況が状況だけになんとも言えないな」

 

「何ていうか、男らしいな」

 

「二人とも見てないで助けてくれよ⁉︎」

 

そろそろ一夏の腕がプルプルとし始めたので、流石にヤバいと思った二人は鈴を引き離す。鈴の方も疲弊していたお蔭か、以前の時よりも簡単に引き離す事には成功したのだが、未だ鈴は一夏を捉えていた。如何にかして、現状を打破しようと模索する一夏はここである事を思い出した。

 

「そ、そういえば、小学校の頃に約束してたよな」

 

「約束?約束ーーーーーーあ」

 

一瞬訝しんだ鈴だったが、何かを思い出した瞬間、ハンターの笑みが引っ込み、変わりに顔を真っ赤にして、顔を伏せた。それでも臨戦態勢を崩さない辺りが流石としか言いようがない。

 

「お、覚えてるの……一夏」

 

「あれだろ?『あたしの料理の腕が上達したら、毎日酢豚を食べてくれる?』ってやつだろ?覚えてるぞ」

 

そう言ってうんうんと自身の記憶力に感心する一夏。過去の自分の言葉が復唱された事で鈴の顔は湯気が出る程に真っ赤になっていた。昔の約束で、その相手が一夏ともなればしっかりと覚えられている事などないだろう。そうたかを括っていた鈴にとって、これは嬉しい誤算であると同時に将輝と箒がこの場にいる事が悪い誤算でもあった。もし二人きりであれば、勢いに任せて告白する事も出来たかもしれない。だがいくら破天荒で羞恥心が殆どない鈴でも、一応花も恥じらう十代乙女。恋愛沙汰ともなれば、恥ずかしいのは当然といえる。

 

「あれって日本でいう所の『毎日味噌汁を〜』的なやつか?いや、もしかしたら俺の深読みって可能性もあるが」

 

「……………」

 

「もしそうだったとしたら、つまり鈴は俺の事がーーー」

 

「あ、あたしお外走ってくる!」

 

逃げた。それも凄まじい早さで。

 

凰鈴音。ありとあらゆる環境において鉄のメンタルを持つ少女。だがしかし恋愛ごとには滅法弱かった。

 

「………………晩御飯食べに行くか」

 

「……………そうだな」

 

別に二人には何の罪もないのだが、尋常じゃない罪悪感を感じた二人は無言でその場を後にし、残ったのは正史と違って約束を覚えていたのに、結局同じ様に放置された一夏だけだった。

 

 


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