間に合うか?
ジンが逃げる輸送機に突撃銃を撃とうとした。
が、撃つ直前に、タイミングよくスピアヘッドに邪魔された。
「くっ。」
マシューは毒づいた。
うまく近づこうとしても、輸送機の後部からのリニアガン・タンク、スピアヘッド、それらの連携に阻まれた。
しかも、雨も降っているため、視界も悪い。
「アーチボルト軍曹、もう少しスピード上げてください。」
「リニアガン・タンク、撃ちます。デュラク大尉、ロフマン中尉、射線上から避けてください。」
リニアガン・タンクから発射される。
「どうですか?」
ユリアが上方、入り口で顔を出している、ロブに尋ねた。
「当たってはいないが、牽制できている。向こうも雨で不慣れだしな!」
すると、
「それでいい。俺たちは倒すのが、目的ではない。逃げ切ればいいんだ。」
前方コクピットで待機しているガウェインから通信が入った。
「マシューさん、これじゃ埒が空きません。格納庫を制圧します。スピアヘッドの方お願いします。」
もう一人のパイロットがグゥルを加速し始めた。
「待て、フリッツ!無茶するな!」
マシューは止めようとしたが、行ってしまった。
近づいてくるにジンにユリアはリニアガンを撃った。
当たりはしたが、かすり傷であった。
「こんなもので…ジンはヤられはしない!」
伸ばしたジンの手が格納部の上方に捕まえた。
ふいに輸送機のバランスが崩れる。
「まずい…三人とも戦車に入って!」
ウェインはとっさに突撃銃を放った。
驚いたジンのパイロットは手を離した。
「大丈夫ですか?」
ウェインは三人に無事を確認した。
「大丈夫だ!だが、タンクから繋いでいた。ケーブルがどっかで抜けたか切れた!」
「え?」
ウェインはあたりを見回した。リニアガン・タンクに繋げてたケーブルが抜けてしまったらしい。
「あそこです!」
フェリナがその場所を見つけ、その場所に向かおうと飛び出た。
「待って、フェリナ!曹長、お願いします。」
フェリナでは危険だと、ユリアも出てきた。
その時、
再び、ジンが来た。
コクピットも開いている。
「まずい!」
ウェインは再び撃とうとしたが、この状況では、フェリナとユリアを巻き込んでしまう。
撃つことはできなかった。
ロブも機関銃を取り出し応戦しようとしたが、間に合わなかった。
ジンが再び取りついた。
パイロットがコクピットより銃を撃ってきた。
「危ない!」
銃声が響いた。
その時、
なんとかクレイグのスピアヘッドがやってきて、輸送機に取りついたジンを離すことができた。
「なんだ?どうなっている!」
「アカマツ軍曹、メンブラード伍長、応答してください!」
輸送機のコクピットでは後ろの方で何が起こったか、わからなかった。
フィリップとダレンが後ろに通信を入れても、応答がなかった。
「フィリップ、ダレン、お前たちは基地に進ませていろ。俺が行く。」
そう言い、ガウェインが銃を持ち、格納庫へ向かった。
最悪の状況を想定して。
ガウェインは格納庫近くになってきたところで、慎重に歩き始めた。
銃声がない?
大丈夫か?
すると、フェリナの声が聞こえてきた。
一瞬、ガウェインはほっとしたが、その声を聞き急いで向かった。
「アカマツ軍曹!…ユリアさん!」
そこで目にしたのは、
ユリアが血を流し、倒れていた。
「ガウェイン大佐…私のせいで…ユリアさんが…」
フェリナはどうしたらいいかわからず、泣いていた。
ウェインが必死に応急措置をしていた。
「まずい!また近づいてくるぞ!」
ロブが叫んだ。
「どっちでもいい!指示をくれ!」
「どうなっている?」
スピアヘッド二機がうまく、まいてくれてるが、時間の問題だった。
連携によってうまくバランスを保っていたが、今、崩れそうだった。
ここから退避すべきか、そうガウェインが思った瞬間、
「フェリナ…ここを頼む。」
ウェインは何か決意したのか、応急措置をフェリナに変わらせ、ジンのコクピットに向かった。
「カースティ曹長、戦車どかしてください。ジンを出します。」
「ウェイン、それは…」
それはジンを置いてしってしまう可能性が高い。
ロブが言いかけた時、ウェインに遮られた。
「ジンをグゥルから引き離せれば、こちらが有利になります。それはMSでしか出来ません。」
ガウェインは黙り、一瞬瞑目した。
「わかった。だが、輸送機から離れるな!ロブ、戦車をどかせ!」
ガウェインは決断し、ウェイン、ロブに指示出した。
ロブも苦渋ながらも彼に従った。
おそらく、ガウェインもそうであろう。
「フィリップ、ジンをパージする!ジンより上の位置につけ!」
そして、コクピットにいるフィリップに指示出した。
「え?」
わけがわからず、一瞬戸惑ったが、ガウェインの語気に押され、ジンのパージをし始めた。
リクライニングされたジンが出されようとした。
「ガウェイン大佐、ありがとうございます。」
ウェインはコクピットで上官に聞こえないが、お礼を述べた。
そして、ジンは放出され、宙を舞った。
ガウェインはユリアの下へ向かった。
「フェリナ、ここは俺がやる。お前は、オペレータとしての仕事をしろ。」
「…しかし、」
フェリナが反論しようとした。
「今、それができるのはおまえしかいない…。早く!ロブ…フェリナのサポートしてやれ。」
そう言い、フェリナを戦車に向かわせた。
「…大…佐。すみ…ま…せん。」
呼吸が苦しいながら、途切れ途切れに言葉をユリアはつないだ。
「しゃべるな。基地までの辛抱だ。」
ガウェインは出血を止めようと、応急処置しようとした。
「大…佐、自分で…わかって…い…ます。今まで…MS…データ…まとめ…ありますので…。あり…がとう…ごさい…ま…した。」
ガウェインが何がだ、話したが…もう返事はなかった。
もうユリアは話すことはなかった。
ガウェインはしばらく動けなかった。
「くっ…あと一歩なのに!ナチュラルども!」
「もういい、輸送機の足を止める!」
輸送機が上に上がっていき、先ほどから何度も試みて焦っているフリッツにマシューは止めようとした。
「しかし…」
反論しようとした時、何か上から来た。
「え…?」
気づいたとき、遅かった。
パージした時の勢いを利用し、ウェインのジンはフリッツのジンを蹴飛ばした。
そして、剣で片足を切った。
「うわぁ…。」
片足を失い、姿勢制御ができない。
このままでは…
フリッツは焦った。
ジンはそのまま落下し、大破、炎上した。
「しまった…。」
マシューはそう思い、応戦しようとしたが、ウェインの方が早かった。
主を失ったグゥルを蹴り、再び、その勢いで飛び込んできた。
やられる…
そう思った、マシューはグゥルから離れ、地面に着地した。
ウェインのジンも着地した。
そして、そのままマシューのジンに向かって剣を振りかざした。
キィィン!
マシューも剣を抜き、防いだ。
「なあ…ウェイン、思い出さないか。」
通信を開き、マシューはウェインに話しかけた。
「プラントの警察保安組織からザフトに変わる時…俺たちがザフトに入った時、MSの演習のことを。これが俺たちの力だ、って。その時のことを!」
「…何が言いたいんだ、マシュー。」
「もう…あの時には戻れないってことだ。」
その間もお互い鍔迫り合いになった。。
分はウェインの方が有利であった。
ウェインはそのまま、バーニアを吹かし押し出した。
「マシュー、さっきから何言っている。君はいつもそんな風に敵と会話するのか。」
「いいや…。そうさ…、俺はいつも相手を知らず殺す。名前も、その家族も、友人も、知らずに!それが…戦争だ!俺たちは人殺しさ!」
マシューも押し出そうとした。
その時、
ウェインのジンが引き下がった。
そして、下へスライディングする形で、滑り込み、マシューの後ろへ回り、ジンを蹴った。
思いがけない行動に、バランスを崩したマシューのジンはそのまま倒れた。
「俺とウェインじゃ、腕の違いがありすぎる…」
しかし、
「ここで、俺が撃つ…。アルテナには撃たせるか…。」
引くことはできなかった。
起き上がろうとしたが、後ろではウェインのジンは銃を構えていた。
「…撃てよ。」
自分でもわかっていた。無謀だと。
もう自分ではどうにもできない、マシューは思った。
「くっ…」
ウェインは銃の引き金を引くのを躊躇っていた。
何をいまさら…自分は善人ぶっている…。
こうなることはわかっていたはずだった。自分の知る者に引き金を引くことに。そのために、こういう道を選んだのに…。
だが、ウェインは撃てなかった。
その時、現れたシグーがウェインにジンに体当たりした。
ウェインもいきなりの事だったので、飛ばされた。
「アルテナ…、ノヴァーク隊長?」
「マシュー、あなたはリックと共に輸送機を追って。まもなく後方のブライスたちも来る。ここは私が相手をする。」
それを聞いたマシューはしかし…と言った。
「輸送機にMSのデータがあるはず。そのデータによって、ナチュラルがMSを開発してしまう。そのためにも。これは命令よ。」
「…わかりました、ノヴァーク隊長。」
マシューは悔しながら、輸送機へ向かった。
「くっ、ジンが追ってきました!」
ロブがガウェインに報告し、リニアガン・タンクの砲身をジンに合わせ始めた。
「ギュンター中尉、戻ってきてください。」
フェリナがウェインに呼びかけた。
しかし、応答はない。
このままでは…
すると、
「ジェローム、クレイグ、お前たちは輸送機の方へ戻ってこい!」
ガウェインがインカムでクレイグとジェロームに指示を出した。
ガウェインの指示にみんな驚いた。
今、ここで輸送機の方に向かうと、ウェインは…。
ジェローム、クレイグは反論しようとしたが、ガウェインに逆に言い返された。
「どの道スピアヘッドでは…援護することしかできない。」
「しかし…」
「それが限界なんだ!俺たち、MSのない、地球軍には…これが限界なんだ!」
なおも反論しようとした二人にガウェインは叫んだ。
何も言うことができなかった。
二人はウェインのジンを後に輸送機へ向かった。
悔しい思いを胸に。