機動戦士ガンダムSEED Gladius   作:プワプー

74 / 74
今日は2月14日ということで…。



外伝
PHASE‐EX C.E.70.2.14


 

 

 朝の陽ざしが窓を通して差し込み、部屋の中は明るかった。

 村の人たちの総力で建てられた木造の家、そのダイニングルームでヒロは朝ごはんのサンドウィッチを頬張っていた。

 

 

 

 (続いて、理事国・プラント間の軍事的緊張をお伝えします。先日のコペルニクスでの爆弾テロを受け、プラントに宣戦布告した理事国は艦隊を派遣。これに対しプラント評議会クライン議長は…。)

 のどかな朝とは裏腹にラジオからは不穏なニュースが流れていた。

 「宣戦布告って、戦争になるのかな…。」

 サンドウィッチを食べ終えたヒロは呟いた。彼が言葉を向けた相手は人工知能を持ったタブレット、ジーニアスであった。

 『まあ、そうなるだろうな。』

 「ここも、戦場になるのかな…?」

 『地球連合といっても理事国中心だからな…。この南アメリカは参戦しないんじゃないか?』

 地球連合。2月5日、国連事務総長の呼びかけで月面都市コペルニクスにて、理事国とプラントの交渉がおこなわれようとしていたが、そこで爆弾テロが起こった。国連総長以下首脳陣が死亡し崩壊した国連に代わる組織として、2日後に大西洋連邦が主導して設立された国際組織である。

 「う~ん…。」

 こんなにも連日、戦争になるかも知れないというニュースが流れているが、実感が掴めない。セシルたちもなにか話しているが、自分は蚊帳の外だった。

 「眠い…。」

 ふとあくびが出て、ヒロは体を伸ばした。あと少しで本を読み終えそうだったこともあり、夜更かしをしてしまった。

 食器を片付けたヒロはそのまま、リビングに置かれたソファに寝っ転がった。

 『おーい、食べてすぐ寝ると牛になるという言葉を知っているか?体に悪いぞ~。ってか、朝起きて、ご飯食べて、すぐ寝るか!?』

 ジーニアスがビープ音を鳴らし諫める。

 「だって…、眠い…。」

 ヒロは、そのまま眠りについた。

 

 

 

 

 

 L5宙域。無数の銀色の砂時計型のコロニー、プラント群周辺にて、大多数の艦隊が迫っていた。

 (我々、理事国は一切の要求を拒否する。プラント評議会は直ちに解散し、無許可の武装を即時解除せよ。認められない場合、武力をもって行使する。これは最後通告である。)

 コペルニクスでの爆弾テロによりプラント側の代表、シーゲル・クライン以外の理事国代表者、国連首脳陣が死亡したことにより、大西洋連邦は、これをプラント側によるテロと決めけた。その後地球連合が設立された4日後の2月11日にプラントに宣戦布告をし、月面基地プトレマイオスからプラントに艦隊を派遣した。

 もちろん、プラント側もこの要求を呑むはずがなく、国防委員長パトリック・ザラはプラント宙域に3年前より再編した軍、ザフトを防衛ラインに展開させた。

 (モビルスーツ隊全軍展開っ!)

 (システム、オールウェポンフリー!)

 オペレーターの指示が流れ、ザフトの軍施設で並んでいた鋼鉄でできた巨大な人型のモノアイがブゥンと光り、次々と発進していく。

 昨年C.E69年の軍事行動より、その姿を表に現したザフトの新型兵器、モビルスーツである。

 今、そのモビルスーツに乗り込む1人のパイロットがいた。

 (遅いぞ、オデル。隊長がカンカンに怒るぞ。)

 コクピットに乗り込んだ時、僚機のパイロット、ザップ・ドゥイリオから通信が入った。

 「お前が行きたいだけだろ?そんな、急いでもしょうがないだろう。配置はある程度決まってるんだぞ。」

 オデルは計器をチェックしながら返答する。

 (早く行かねえと、その中でもいいポジションがとれないだろう?そりゃぁ、オデルは『赤』のエリートだからいいが、俺みたいな『緑』は戦場で手柄立てなくちゃいけないのさっ。…ともうすぐ発進か。)

 ザップからの通信はそこで切られた。オデルは彼の物言いに苦笑した。

 手柄ね…。

 自分は今までそんなことには興味なく、きっとこれからもないだろうが、やはり戦場に出る者の中には、その思いを抱く者が必ずいるようだ。

 オデルの発進合図が出て、彼は虚空へとジンを発進させた。

 

 

 「ハルヴァン、気を付けていけよ。こっちは1年前にモビルスーツというカードを切っているんだ。向こうもそれなりに策を講じているはずだ。」

 (わかりました。)

 オデルたちが発進する前より防衛ラインに展開している艦隊の中にいるローラリア級ゼーベックにて、艦長のローデンは艦付きMS隊隊長のハルヴァンに指示を出した。

 「地球軍もモビルスーツを投入する、ということですか?」

 副長席にいたエレンが振り返り尋ねた。

 「それはわからない。だが、1年前の軍事行動でアレに惨敗した理事国の軍がまた同じ失敗を繰り返すとは限らない。」

 ローデンは慎重に事態を見極めようとしていた。

 

 

 

 

 

 カレッジの学生食堂では、昼食時はいつも賑わいを見せている。

 「ええ~!?てことは、開戦!?」

 別のところで1人の学生が素っ頓狂な声を上げる。

 「じゃねぇの?宣戦布告したんだし…。」

 学生たちが話題にしているのは理事国とプラントの戦争についてだった。

 「仕方なくね?あいつらのせいでコッチは迷惑しているんだから。」

 「だよな~。せっかく俺たちがコロニーを明け渡したにも関わらず、自治権認めろって何様のつもりなんだ!?」

 「ジャマだよね、ハッキし言って。コーディネイターなんか。」

 否応なしに聞こえてくる会話に、ルキナはさっさと食器を片付け始めた。

 ルキナの事が目に入った学生のなかには、しまったと言わんばかりのしかめた顔を見せたり、中には嫌悪感を向ける者もいた。

 「あ~あ。そんなに宇宙が好きならトットと行けばいいのに、なんで地球にいるんだろうなぁ~、バケモノが。」

 「はははっ、違ぇなあ。」

 あきらさまにルキナに向けて放つ言葉を背に、何も言わず、その場を去った。

 異質。

 言葉で表すのであれば、それが当てはまるだろう。

 彼らナチュラル社会にとっては敵であるコーディネイターである自分は本来、そこにいてはいけない存在なのである。たとえ半分がナチュラルでも…。

 

 

 

 

 

 戦闘は圧倒的だった。

 MAはザフトのMSに対し、運動性に負けていた。MAが懸命に追いかけ、後ろにつけても、すぐに宙返りされ、後ろをとられてしまう。そうなっては、バルカン砲と下部がミサイルもしくレールガンのMAは応戦できない。ジンの手に持っている銃で撃たれ、墜とされていく。

 そして、地球軍の艦も近づいてきたジンを牽制しようと砲を撃つが、交わされ、逆に次々と砲を潰されていく。そして、最後は携行している巨大なミサイルを撃たれ、墜とされていった。

 「…押されているか?」

 艦隊の後方に控えているアガメムノン級宇宙母艦ルーズベルト艦長、ウィリアム・サザーランドはオペレーターに聞いた。

 「はい。機動力の差は決定的かと…。」

 「そうか。では、アレ(・・)を用いるぞ。」

 状況を聞いたサザーランドは静かに告げる。その言葉にオペレーターは驚愕した。彼が何を指しているのか分かったからだ。

 「本当に、使うのですか?」

 「当たり前だ。」

 オペレーターの疑問にサザーランドは冷徹に答える。

 「我々はここで理事国の断固たる意志を示さなければならない。こんなことにいつまでも付き合っている暇はないのだ。」

 「…わかりました。」

 ルーズベルトからメビウス隊が次々と発進する。そのうちの1機には、機体下部にミサイルが搭載されていた。さきほどサザーランドが口にしたモノである。

 メビウス隊は戦闘の合間を縫い、どんどんとプラントに近づいていく。

 

 

 

 MSの性能は勝るものの、理事国は数で攻めてきている。

 いくら落としてもキリがない状況にウェインは息を整えた。ふと、離れたところで、メビウスの小隊が気付かない間に、防衛ラインを抜け、プラントに近づいているを捉えた。

 「メビウス隊…?なんであそこに?」

 (なんだって!あっちにいないのかよ!?)

 ウェインの驚愕に僚機のマシューもそっちに目を向け、毒づいた。たしかに、今まで懐奥深くまでメビウスに突破されていたのに気付かなかったのは軍全体の失念だ。とはいっても、この数相手に、側面からには気付きにくいということもあるが…。

 「文句言っている暇はないぞ、マシュー。追撃しよう。」

 (わかってるって!)

 マシューとウェインは懸命にメビウス隊を追いかけた。

 

 

 

 (隊長、こちらにモビルスーツが近づいてきます。)

 ザフトの防衛ラインを突破でできたメビウス隊はこの隊の目的を達成するためにあと1歩のところでジンが迫っているのい気付いた。

 (来たか…。なんとしてもコイツだけは突破させろ!これですべてが決まる(・・・・・・・)のだ。)

 (((((はっ!)))))

 メビウスの内の1機、下部に何かのミサイルを装備してある機体を守るように、他のメビウスはジンに向き直った。

 (…青き清浄なる世界のために。)

 うち1人のパイロットが己を鼓舞するかのように呟いた。

 (青き清浄なる世界のためにっ。)

 (青き清浄なる世界のためにッ。)

 (青き清浄なる世界のために!)

 それを皮切りに他のパイロットたちも伝播し、次々に口に出す。

 そうだ…。これは大義のためだ。

 隊長格のパイロットは己の行動を自認した。

 地球にいるべきは、我々人類である。けっして人間外の存在ではない。にも関わらず、ヤツらは己の頭上に住み、我々を見下ろしている。

 「青き清浄なる世界のためにっ!」

 この作戦が成功すれば、すべて(・・・)が終わる。彼は、あの人間を模した鋼鉄の塊に向け、狂気を漂わせ、メビウスを駆った。

 

 「いったい…。」

 ウェインはその行動を訝しんでいた。他のメビウスは必死にこちらに応戦してくる。そのメビウス(・・・・・)に近づくことがなかなかできなかった。

 (隊長、射程距離に入りました。安全装置解除っ、信管起動を確認!)

 ミサイルを装備したメビウスのパイロットの報告に隊長級のパイロットはニヤリと笑みをこぼした。

 (よしっ、俺たちに構うな、発射しろ!)

 その言葉を合図るように、メビウスから1つのミサイルがプラントに向け発射された。隊長級の男がそれを確認したのも、つかの間、機体全体に衝撃が走った。ジンの重斬刀が機体を貫いたのだ。

 だが、男にはMSにやれれたという悔しさなど微塵もなかった。自身の目的を達成したためだ。

 (これで…終わりだ!はははっ、ざまぁ見ろ宇宙人っ!青き清浄なる世界のためにっ!)

 男は機体が爆発する瞬間、勝ち誇った声を上げた。

 「何をっ!…あれは!?」

 最後に打ち破ったパイロットから通信にて聞こえてきた言葉にウェインは訝しんだ。 その瞬間、メビウスが放ったミサイルがプラントの内の1基、ユニウスセブンに着弾し、夜明けの光りのごとく閃光が走り、暗い真空の空間を一気に明るくした。

 「あっ、あれは…。」

 (核か!?)

 ウェインとマシューは地球軍が何を放ったか、瞬時に悟った。

 その途端、ユニウスセブンの砂時計の中心が大きく爆発した。それを皮切りに、両サイドの三角錐が引き離れ、外壁の自己修復ガラスがボロボロと飛び散っていった。

 その光景(・・・・)をただ見ていることしか出来なかったウェインとマシューは、言葉が出なかった。そこにいる人々がどうなってしまったのか。それはこの光景がすべてを示していた。

 「…こ、こんなことが…。」

 ウェインはやっとの思いで言葉を振り絞って出した。

 

 

 

 

 

 その報せを知ったのは、数分遅れで流れたニュースの街頭モニターであった。

  今日は、バレンタインデーだから家に帰ってくる。

 そう母親から連絡を受け、アスランも久しぶりに家族と過ごせることを喜び、母のためのプレゼントを選んでいる最中であった。

 初めは、キャスターが何を言っているか分からず、アスランはただそこで呆然としているほかなかった。

 ユニウスセブンが崩壊…。

 そこには彼の母親、レノア・ザラがいるのだ。

 「これじゃあ、あそこにいた人たちは…。」

 「ああ…。生きているわけないよな…。」

 同じようにモニターのニュースを見ていた人の会話が聞こえ、アスランは突き刺さるような胸の痛みを感じた。

 …どうして。

 もはや周囲の言葉も聞こえず、アスランは自分の中に沸き起こる感情を必死にこらえていた。喪失、悲しみ、憤り…。そして、なぜこんなことになったのか(・・・・・・・・・・・・・)という思いであった。

 …こんなこと(・・・・・)はあってはならない。

 コーディネイターだという理由だけで、民間人も無差別に殺されるなんてことは。

 …こんな理不尽があってはならない。

 一瞬にして、何の前触れもなく、誰かの大切な家族が失われるなんて。

 戦争なんか嫌だった。だが、それでは何も守れない。それを痛感した。

 …戦わなければ、守れない。

 たとえこの手を血に染めても、たとえどんな敵とでも、これ以上失わないために銃を向けてくる者から戦わなければならない。

 この日、アスランは悲壮な決意をした。

 

 

 

 

 

 

 

 「ただいまぁ~。」

 セシルの声が木造建ての家に響き渡る。しかし、本来なら返事がくるのだが、ないことにセシルは訝しんだ。

 「あれ…、ヒロ~?」

 この時間ならヒロはすでに起きているはずだ。彼が寝過ごすなんてことは滅多にない。

 「ヒ~ロー。」

 リビング、キッチンと探すが、いなかった。すると上からビーという音が鳴っていた。ジーニアスがいつも鳴らすビープ音であった。

 その音の場所をたどると、屋根裏部屋まで行きつき、セシルははしごでそこまで上がっていた。

 「ヒロ…?」

 部屋を覗くと、ヒロが部屋の窓から外を、空の方を見ていた。

 「なにか空にあるの?そんな風に覗いて。」

 セシルは窓の方までやって来た。

 「…セシル。」

 ヒロはセシルの存在にやっと気付き、振り向いた。しかし、彼の陰りのある表情にハッとした。

 「…どうしたの?」

 セシルは不審に思い聞いた。ヒロは沈痛な面持ちで静かに口を開く。

 「なにか…とても熱くて、冷たい…、まぶしくて、暗く寂しい…嫌な感じ(・・・・)がしたんだ。」

 「嫌な…感じ?」

 セシルの言葉にヒロは黙ってうなずく。

 「とても…、とても悲しいんだ。」

 そして、ヒロは空の方をみた。正確に言えば、空に見える無数の砂時計、プラントを見ているようだった。

 「ヒロ…。」

 「おーいっ!セシル、大変だー!」

 すると下の階からどうま声が聞こえた。

 「ジェラルド…、朝からその声はきついんだけど…。」

 セシルは仕方なく下に降りてきて、ジェラルドのところに向かった。それに対し、ジェラルドも返す。

 「おまえがいないから叫んだんだろうっ。…と言っている場合じゃない。」

 ジェラルドの珍しく慌てた様子にセシルは訝しんだ。

 「地球軍のどっかのバカがユニウスセブンに核を撃ちやがった。」

 「何だってっ!?」

 ジェラルドの話の内容にセシルは驚きの声を上げる。そして同時にふと先ほどのヒロの言葉を思い出した。ヒロの言っていた表現。その言葉を一つずつ辿れば、その意味は繋がる。

 「もしかして…ヒロ、このこと(・・・・)を言っていたの?」

 「は?ヒロが…何だって?」

 

 

 

 

 

 C.E.70年2月14日聖バレンタインデーに起こったユニウスセブンへの核攻撃はのちに「血のバレンタイン」として歴史に刻まれた。4日後の2月18日、プラント最高評議会議長シーゲル・クラインはユニウスセブンの犠牲者の国葬の際、独立宣言及び地球連合への徹底抗戦を明言した。「黒衣の独立宣言」と呼ばれた、その表明によって、地球・プラント間は本格的武力衝突へと発展した。

 1発の核ミサイルを契機に、地球圏全土を巻き込んだ長く凄惨な戦争へと突入していくことになる。

 

 

 

 

 




あとがき
 外伝という形で書いてみました。本編は半分以上進みましたが、尺の都合上、出来なかったエピソードや書きたい話もあるので、今回を皮切りに今後も外伝でチョクチョク載せていけたらいいなぁと思っております。もちろん、ご要望があれば…書ければ書きます。
 
 ガンダムの世界では、バレンタインしかり、クリスマスしかり…祝い事の日には、何かしらある…。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。