というか、前の話で心も精神も魂もすり減るほどだったから、投稿した後、動けなかった(汗)
「キラ…トール、聞こえますか?」
凄まじい轟音と爆炎にしんと静まり返ったブリッジ内にミリアリアの声が響く。
「ヒロっ、ルキナ…応答してくださいっ。」
どんなに呼んでも返事が返ってこないことに、ミリアリアの声音は次第に焦りがにじみ出る。しかし、どんなに呼びかけても誰からも返事が来ず、モニターにはただ『SIGNAL LOST』の文字のみが浮かんでいた。
(今の爆発音は!?)
いまだ呆然としていたマリューのところムウからの通信が入って来た。
「爆発は…わかりません。ですが…現在、ストライク、クリーガー、[トゥルビオン]およびスカイグラスパー2号機…それら、すべてとの交信が途絶えています。」
その言葉を聞き、ムウの顔が強張る。
爆発、そして通信も識別番号も途絶えたこと。
それらがいったい何を意味するのか…ムウもマリューもわかっていたのだ。
「ろ、6時の方向!レーダに機影!数、3!」
その時、モニターの反応にカズィは声を上げた。
「AMF-101 ディンです!会敵予測、15分後っ!」
こちらの息つく間もなく追撃部隊が迫ってきているのだ。パルの報告を聞いたマリューはすぐに叫んだ。
「迎撃用意っ!」
「無茶です!現在、半数以上の火器が使用不能です!」
マリューの指示にナタルは反論した。
「これではモビルスーツ襲撃に対して、10分とも持ちません!」
彼女の指摘はもっともであった。しかも、こちらは機動兵器を欠いている。とても、迎え撃てるような状態ではなかった。
「キラ…応答してっ!ディンが…。ヒロ、戻って来れないっ!?」
CICではミリアリアがなおも交信が途絶えたパイロットたちに通信を試みていた。
「お願い…誰か…。誰か応答してっ!ディンが…。」
「もうやめろっ。」
ナタルは通信のスイッチを切った。驚いて顔を上げたミリアリアにナタルは告げた。
「彼らは、MIAだ。…わかるだろう。」
MIA…『
行方不明という言葉が使われているが、戦死であるとほぼ言っているようなことである。
「そんな…。」
それを聞いたミリアリアは目を見開いたまま、弱弱しくかぶりを振る。
「受け止めろ。割り切れなければ、次に死ぬのは自分だぞ。」
ナタルの言葉がさらに重くのしかかる。ミリアリアにとって、とても受け入れるものではなかった。
それはトールが死んだということ
もうあの底抜けに明るい笑顔に会うことは出来ない。
そんなの…受け入れることができない。
ミリアリアはふらりと立ち上がりブリッジを出て行った。
それを他のクルーはただ見送ることしか出来なかった。それはマリューも同じであった。
しかし、こうしている間にも敵は迫ってきている。
「ディン、接近!会敵まであと11分!」
もうすでに艦の応急的な補修を終え、飛行可能になっていた。しかし…。
マリューは後方に声をかける。
「機体の最後の確認地点は!?」
「7時方向の小島です!」
このやりとりにナタルは叫ぶ
「この状況で戻るのですか!?無茶です!」
彼女の言葉はもっともだ。今、戻れば、ディンの攻撃を振りきれない。
「ディンの射程に入ります!」
それは、ここに留まっても同じことだ。
選択肢は1つしかない。
「艦長っ!離脱しなければ、やられます!」
ナタルの判断は正しい。
しかし…
「でも…もしかしたら、みんな脱出しているからもしれないじゃないですか…。」
サイは必死の口調でナタルに訴える。
そう…シグナルがロストしたのは、機体であって、それが彼らの命を同義ではない。
彼の言う通り、脱出していて、救助を待っているかもしれない。
マリューはカズィの方に振り返る。
「本部とのコンタクトは!?」
「応答ありません!」
大西洋連邦からの援軍を呼ぶことはできない。
このままでは全員の命も危ない。
生きているかわからないパイロット数人と生きているクルー全員の命を天秤に掛けなくてもどちらが重要か自明である。
決断しなければいけない。
非情な決断を…。
だが…。
「オーブに島の位置と救援要請信号を…!」
「オーブに!?」
マリューの言葉にナタルは驚く。
「人命救助よ!オーブは受け入れてくれる!」
わずかな希望にすがりたかった。
「しかし…」
なおもしぶったナタルにマリューは怒鳴った。
「責任は、私が取りますっ!」
それが甘いことも重々承知だ。自分が艦長として十分ではないことも分かっている。だけど、やらずにはいられなかった。
「ディン接近!距離8000っ!」
「機関最大!この空域からの離脱を最優先する!」
マリューは彼らの安否に憂い、彼らを置いていくのにためらいを覚えつつ。号令をかけた。
一方、群島の近海に待機していたボズゴロフでは、イザークが発令所に駆け込んできていた。
「いったいどうなっている。」
海に落下して負傷を負ったイザークはボズゴロフに帰投し、手当てを受けていたが、艦が動いていることに察知して医務室から飛び出してきたのだ。
彼はモニターを見ると、艦の進路は『足つき』が向かうアラスカではなく、南に…カーペンタリア基地のある大洋州連合の方へ向かっているのであった。
「なぜ、『足つき』を追わない?状況はどうなっている!?アスランとディアッカは!?クトラドは!?あいつらは帰艦したのか!?」
一方的にまくし立てる彼に対し、艦長は冷静に告げる。
「…艦を南に針路をとっているのは、我々にクルーゼ隊長から帰投命令が出た。」
「…なんだとっ?なぜだっ!?なぜ帰投命令が出るんだ!?『足つき』をここまで追い詰めたのだぞっ!」
イザークは信じられないといった表情で艦長に詰め寄る。
自分が戦線を離脱した時には『足つき』は艦体のあちこちから黒煙を上げていた。もう1度出撃すれば、今度こそ墜とせる。
なのにっ…。
「『足つき』はボズマン隊が追撃している。もはや我々に…追撃能力がないからだ。」
艦長のその言葉にイザークは目を見開いた。
「バスターとイージスともに交信が途切れ、両パイロットからエマージェンシーも出ていない。」
それがどういうことだ…。考えに至っても、それを受け入れたくなかった。
「すぐに艦を戻せっ!あいつらがっ…あいつらが簡単にやられるか!?伊達に
「ならば、状況判断を冷静にできるのではないのか?」
イザークは抗議するが、艦長はたしなめた。
「捜索隊はすでにガーランド隊が出ている。クトラド・タルカン…彼はエマージェンシーが出ていたのでかの隊に回収してもらった。もともと彼はそこの所属だしな…。」
「だがっ…。」
「オーブも動いているのだ。言ったであろう、我々に追撃能力がないと?万が一、オーブと交戦になれば、確実に我々はやられる。…だろう?」
艦長の言葉に、イザークの反論は封じられた。
アークエンジェルの救難要請を受け、オーブは早速、そのポイントの島に救援隊を派遣した。報せを聞いたカガリもまた居てもたってもいられず、キサカとともに現地に向かった。
島に降りたカガリはその光景に息を呑んだ。
未だあちこちに立ちこめる煙、えぐれた地表、ヤシの木々も折れ曲がっていた。これらが戦闘のすさまじさを物語っていた。
あちらこちらに飛び散った破片があり、すでに原型をとどめていないが、残っている頭部からイージスのものだとわかった。
カガリの脳裏にその機体の搭乗者、インド洋の無人島で会ったパイロットの顔が脳裏に浮かんだ。
「…あいつが?」
アスランがキラと戦ったのか?
すると、仰向けに横たわり鉄灰色の状態のストライクが目に入った。
「…キラっ!」
カガリは駆け出し、ストライクのコクピットに向かった。
「カガリっ!よせっ!」
キサカの制止も聞かず、カガリはストライクの上に登り、周りにいる兵士たちを押しのけ、覗きこんだ。
「キラっ…!」
カガリは目にしたものに絶句し、後ずさった。
シートはドロドロに溶け、内部は高温の熱によって焼けていた。しかし、そこにいるはずのパイロットの、キラの姿も形もなかった。
カガリの後ろにいたキサカはカガリが無残な死体を見てしまったと思い、彼女を痛まし気にみた。
「カガリ…。」
「アイツ…いない!」
「なに?」
思いもよらないカガリの言葉に驚きの声を上げた。
「もしかしたら…どこかに飛ばされたのか、それとも脱出したのかもっ!」
カガリの中にキラが生きているという淡い期待を持った。
すぐさま、ストライクから飛び降りると、別方向から笛の音が聞こえ、兵士が声を上げた。
「キサカ一佐!向こうの浜に!」
「キラっ!?」
カガリは飛ぶようにその場所に向かった。
波打ち際に倒れている影をみとめ、それを囲んでいる人をかき分け、カガリは影のすぐそばまで行った。
「キラっ!…っ!?」
しかし、カガリの期待は裏切られた。
横たわっていたその人物はザフトの赤いパイロットスーツを身に着けていたのだ。
キラではない…。
カガリは愕然とするが、バイザーごしから見える顔に目を見開いた。
…アスラン?
そう…無人島で過ごしたザフトの兵士の少年…そして、先ほどのバラバラになったイージスのパイロットでもあるアスランであった。
アルバトロス。
オーブの要人輸送用飛行艇で、その内部には医務室まで設けられているほどの大型である。
医務室のドアの前でキサカは緊張した面持ちで立っていた。
その後も捜索を続けられたが、大きな成果を得られなかった。
ストライクとイージスの付近にスカイグラスパーの残骸を発見し、その状態からパイロットは死亡したと判断された。そして、捜索範囲を広げると、熱帯林の中でコクピット部が大きく損壊した[トゥルビオン]を発見したが、そこでもパイロットが発見できていない。
クリーガーは機体すら発見できていない。
キサカは大きく息を吐き、壁にもたれる。
この奇妙な状態にわけがわからない思いであった。そこにはキサカ自身もパイロットたちが生きて欲しいという思いがあるからだろうか。
「どうしたのです?」
すると急に声をかけられ、キサカはその声のする方に振り返った。
「なんだ…ニシナ整備兵か。なぜこんなところに?」
「そりゃ、捜索隊に加われって急に言われたからですよ。一応、MSの状態とか調べるのでしょう?まったく、こっちは今日休暇だっていうのに…。」
「すまないな、それは…。」
ダンのぼやきに苦笑した。
「ああ…まあ手当てが出るんで、まあそれで…ということで。…どうです?捜索の方は?さっき来たばかりなので、状況はわからないのですが…。」
「ああ…。だが、なんと言えばいいか…。」
ダンから説明を求められ、キサカは何と言っていいのかわからなかった。
とりあえず、かいつまんで話した。
「…それは、なにかの怪奇で?」
それを聞いたダンの第一声はそれであった。
「俺も同じことを思ったさ。普通、遺体の状態がどんなに悪くても、なにかしら痕跡はあるだろうし、生きているなら、術がないのだからこの島にいるはずだ。なのに…。」
発見されないパイロットたちがここにいるという痕跡が見当たらない。
「まあ、クリーガーの方は海に落ちた可能性もあるから、そちらも捜索している。だが…。」
おそらく、それはかなりの時間を要するだろう。
残った手段は海岸で発見されたザフトの兵士の証言のみだ。
それも、キサカには悩ましい問題であった。
ザフトから事情を聞くのに、カガリは1人で聞きたいと言いだした。
もちろん、いくら負傷しているとはいえ、身の危険もあるからと反対したが、彼女に強く懇願されてしまった。
やむをえず、この場で待つことにしたが、何かあってもすぐに駆け付けられるようにこの場で待機している。
しかし…。
キサカふと思った。
カガリはあのパイロットを見つけたとき、動揺していたが、顔見知りなのだろうか。
「もしもーし、キサカ一佐?」
思案を始めたキサカの視界にすでに入っていないのか、ダンが呼びかけても返事をしなかった。
すると、ドアが開きカガリが出てきた。
「カガリっ。」
キサカはすぐにカガリのもとに向かった。
彼から話を聞けたかどうかよりも、彼女の身になにもなかったかのほうが気がかりであった。彼女はずっと俯いたままで、様子がおかしいことに気付き、キサカは訝しんだ。
「カガリ…?」
「…すまない、キサカ。少し…1人にしてくれ。」
なにかあったのか、心配し声をかけるキサカにカガリは俯いたまま言った。
そして、その足でその場を後にした。
キサカは何も言えず、ただ見送るしか出来なかった。
医務室から離れた廊下でカガリは立ち止まった。舷窓から夕焼けの、オレンジ色の光が差し込んできた。
「…っなんでそんなことになるんだっ!」
カガリは壁を拳で打ち付けた。
ザフトのパイロット、アスランから話を聞いた。キラたちの安否のこと。そして、アスランがキラを殺したのかということを…。
アスランから返って来た言葉は、ストライク以外の機体がどうなったか知らないこと、そして、最も一番聞きたくなかったこと、ストライクを討ったことであった。
カガリはその言葉を聞き、銃口を向けた。
カガリはわめいた。
キラの事を、アスランが撃ったパイロットのことを。話しても彼にとってはただ敵を撃ったに過ぎない。キラがどんな人間でも知ったことではないだろう。しかし、カガリには言わずにはいられなかった。
すると、意外な言葉が返って来た。
‐しっている…‐
アスランから発せられた言葉に急に腹の底から冷えるような感じがした。
知っている?キラを?
カガリがもう一度、尋ねるとアスランは頷いた。
-しってるよ…よく…。小さいころからずっと……。ともだち、だったんだ-
アスランがキラについて放った言葉は衝撃的なものであった。
キラとアスランが小さいころからの友だち…?それがなぜ、殺し合うのかっ!?
カガリにはわからなかった。
‐わからない…。‐
そして、アスランもまた同じであった。
‐別れて…次に会ったときは敵だった。‐
なんでそうなったのだろうか。
‐いっしょに来いと何度も言った…。あいつはコーディネイターだ!俺たちの仲間なんだ!地球軍にいることの方がおかしい!‐
そうだろう!?俺もキラもコーディネイター。なら、俺たちは味方のはずだ。なのに、なんでナチュラルの味方をするんだ。あいつらは敵なのに…。
‐なのに、あいつは聞かなくて…。‐
だから「敵」となった。そしてキラは次々と同胞を味方のコーディネイターを殺していった。そして…
‐ニコルを殺した…。‐
カガリはアスランの話を呆然と聞いていた。
だから殺したのか?
‐自分の仲間を殺したのだ。ピアノが好きで、まだ15で、銃を持つのが似つかわしくないのにそれでもプラントを守るためにと戦って…なら、倒すしかないじゃないかっ!?‐
アスランのまるでキラがすべて悪いというような言いぶりにカガリは叫び返した。
‐キラだって守りたいもののために戦っていたんだ!‐
コーディネイターだから、仲間だから、ナチュラルは敵だから?
アスランは知らないだろうが、キラの友だちはナチュラルだ。その友達を守るために戦っていたのに…。
‐なのに…なんで殺されなきゃなんないだ!それも…、
アスランの声から嗚咽が漏れ、その目から涙が溢れていた。
彼はむせび泣いた。
友を守るために友を殺して、友が殺されたからと友に殺される。
そんなことがあっていいのかっ!?
すでにカガリの手に持っていた銃は降ろされていた。
自分がすべきことはキラの仇だからと彼を撃つことではない。
カガリは一旦部屋を出た。
自身の気持ちに整理をつかせるためだ。
カガリは手に持っている銃に目を向ける。
殺されたから、だから憎み殺せば、それですべて解決するのか?それで、本当に幸せか?それで失った痛みをいやせるか?
カガリはもう片方に持っているものに目を向ける。
[トゥルビオン]のコクピットの中から見つかったテディベアのキーホルダー。
戦争だからといって、友が敵となり、友を守るために、その友と戦い、そして、周りの人間まで巻き込んで互いに撃ちたい、殺し合う。
‐殺されたから殺して…殺したから殺されて…それでホントに最後は平和になるのかっ!?‐
さきほど彼に向けて叫んだ言葉。そして、これはかつての自分に対して発した言葉でもあった。
アークエンジェルの出航前まで、父が自分に言った言葉を聞くまで、戦争を終わらせるなら戦うことが当たり前だと思っていた。そうでなければ守れない。あの砂漠でのレジスタンスのように。
しかし、違う。
レジスタンスたちの戦いとキラとアスランの戦い。
同じように見えてなにかが違った。
何が違うのか、今のカガリにはわからなかった。
しかし、1つだけ確かなことがある。
自分は彼を撃たない。
こんな戦いを、撃っても何も得れない、何も戻らない戦いが続くのであれば、誰かが断ち切らなければならない。
なら、私が断ち切る。だから…。
カガリは心にかたく決断した。
「オーブは…まだいるか?」
「ええ。当分はいそうですな。」
イージスとバスター、それぞれのパイロットの捜索命令を出された潜水艦グリムスヴォトンの発令所において、上官の声に艦長のカーティスは振り向き、答える。
白服に身を包んだその男は、精悍な顔つきに引き締まった体をしていて歴戦の戦死の雰囲気を醸し出している。そして、袖から見える銀色の腕、義手をしていた。
戦争初期に負った傷であるが、腕を失ってなお、戦場に立ち続ける男の目には強靭な意志を感じられた。
「しかし、まあ、ここまで来て『足つき』の追撃はボズマン隊が、2機の捜索はこの隊が、自分たちは帰投なんてやるせないだろうな、ザラ隊は。…いや、クルーゼ隊かな。」
カーティスは嘆息しながらその男、そしてこの隊の隊長であるショーン・ガーランドに言った。
「…冷たい言い方をするようだが、艦に残っていたパイロットは1人だけ…しかもMSはどれも動かせないんだ。帰投命令が妥当であろう。」
ショーンの、的を得た言葉にカーティスはうなずく。
「…まあ、そうでしょうな。…さてさて、他人のことは置いといて、この現状、どうしますか?」
命令を出され、この海域にやって来たグリムスヴォトンは救難信号を出していたクトラドを回収したものの、オーブ軍がこの海域にやってきたことを受け、様子見の状態であった。
「…ソナー手が聞いたというなにか海面に落ちた衝撃音…結局、何だったんだ?」
ショーンは思案しながら、これまでの報告の内容のその後の経過を尋ねた。そちらに何かあるとしたら、なるだけ気付かれないようにだが、動くことはできる。
「ああ、グーンを向かわして周辺捜索をさせましたが、何もなかったとのことだ。大方、MSの一部品が落ちた音だろうとのことさ。」
「そうか…。」
とうことは、もうここでできることは他になさそうだ。
「…カーペンタリアに帰投する。」
彼は指示を出した。
「オーブがどうしてこの海域にやってきたか…その理由はわからないが、あくまでかの国は
「了解。」
カーティスは彼の意を受け、クルーに指示を出す。
するとショーンはカーティスの傍に行き、小声で付け加える。
「なるだけ早く着くようにできないか?」
「…例の件ですか?」
「ああ。軍医もこの艦の設備では万全ではないと言っている。」
「まあ、ここは地球軍との戦闘に比較的あわない場所だから可能だが…。」
カーティスは頭を掻きむしる。
「クトラドも少々、面倒なものを持ちこんできたよなぁ。…意外とは意外だが。」
「まあ、クトラドが誤解されやすい性格だというのはわかってるさ。だが、
ショーンはカーティスを窘める。
「我々は
ショーンは真っ直ぐとはっきりと強い意志で告げる。
そうだ。
だからこそ、私は
そうでなければ、腕を置いていったあの戦場、その戦場で死んでいった多くの部下や戦友たちに顔向けができない。
カーティスは笑みがこぼれた。
「ああ、そうだ。そして、おまえはずっとそれを為してきた。だから、俺を始め、みなこの部隊にいるのだ。」
クルーもまたカーティスを同じ思いなのだろう。彼らもまた、ショーンに尊敬の念をこめて見る。
「ふっ、俺を褒めても、なにも出ないがな…。それに、それができるのは俺1人ではない。このグリムスヴォトンのクルーがいるからさ。
それに対し、ショーンは少々照れくさそうに言う。
すると、発令所に呼び出しのビープ音がなった。
「医務室からです。」
「繋いでくれ。」
ショーンはすぐに通信機に向かった。おそらく、さきほど話していた例の件であろう。
(…隊長、すこしよろしいですか?)
モニターには軍医のすこし戸惑った表情が映った。
「どうした?」
なにかあったのだろうか。
(いえ…あの…
しかし、軍医はなにか言葉を濁していた。
「わかった。今から医務室に向かう。」
そう告げ、ショーンは通信を切った。
「いったい何かあったのでしょうかね?」
カーティスは訝しんだ表情であった。
「容体が悪化したのであれば、もっと慌ただしいだろうから違うかもな…。とりあえず行って来る。」
ショーンは医務室へと向かった。
『遅い、遅いっ、遅い~っ!』
ヒロたちが使用している士官室。その机に置かれたジーニアスは真っ暗の部屋の中、彼らの帰りを苛立だし気に待っていた。
すると、自動ドアが開き、廊下の明かりが部屋に漏れ、その四角く切り取った光の中に人影ができていた。
ジーニアスは待ちくたびれた鬱憤を晴らすように部屋の明かりがついた瞬間、盛大にビープ音を鳴らした。
『こら~いったいいつまで待たせる気だ!?1日経っているのだぞ、1日っ!』
『ルキナか!?ルキナと会っていたのか!?鼻の下伸ばしてっ!?この天才ジーニアスを差し置いて…って、あれ?』
しばらく文句を並びたてていたジーニアスであったが、目の前にいる人物を認識し、疑問符を映した。
『…フォルテか?』
「あ~、なんかすまねえなぁ…ヒロじゃなくて。」
『いやこの際だからフォルテでもいいっ。なぜ1日経ってもこないんだっ!?』
「えっ…なに?八つ当たり?」
『おかげで私はずっと暗―い部屋の中で放置され続けたのだぞ!?』
「やばい…またいじけるのか?」
『誰でもいいから、
「ああ…そうか。」
もし人間であればいまにも泣き出しそうな訴えにフォルテはようやく納得した。
「…で、落ち着いたか?」
『ふぅ~、おかげさまで…。極楽、極楽っ。』
さっきまでの当たり散らしはどこへやら…ジーニアスはすっかり上機嫌であった。
現在、彼はアークエンジェルのコンセントからコネクターをつなげて充電している。本人曰く、別に必要というわけではないが、ヒトが食事をしたりお風呂にはいってたりとリフレッシュとして行いたいとのことである。
『おおっ、忘れそうであった。ヒロはどうしたのだ?それにフォルテも全然帰ってこなかったし…。』
落ち着いたジーニアスはフォルテに問うが、彼をよく見ると、頭に包帯を巻いていた。
「俺はさっきまで医務室にいたのさ。それで格納庫で壊れたジンの様子を見に行って…それから戻って来た。」
『なぬっ、壊れたと…?』
「ああっ。修復不能って言われたよ。」
フォルテの言葉にどこか悲哀が漂っていた。
『…改修代。』
「それを言わないでくれ。」
ジーニアスがぼそりと告げるとフォルテは頭を抱えた。
ジンの改修代が支払い終わる前に、そのジンが大破してしまった。さらに、金を稼ぐことを考えると、手っ取り早いのはなにか依頼を受けて、それをするのだが、その実行手段のMSがない。
『…でヒロは?』
なにやらさっきからこの問いを繰り返しているのだが、全然ジーニアスが聞きたい答え意に辿り着かない。
ふとフォルテは困った顔をした。
「ヒロは…ああ…うん。」
しばらく、なにか考えているようであった。
『まさか…。』
いまだに答えないフォルテにジーニアスは最悪の予感がよぎった。
『まてまてっ、なにかの冗談だろ?』
ヒロの身に何かあったのか…?いや、それならまだマシかもしれない。もしかすると、もしかすると…。
ディスプレイに冷や汗が表示されるように、ジーニアスは彼の発する言葉を気が気でなく待っていた。
すると、フォルテはポンポンと画面を、人の肩にするように、軽くたたいた。
『なっ…なにぞそれはっ!?答えになってないぞっ!?』
予想外のことにジーニアスは一瞬ポカンとしかけたが、仕切り直し問い詰めた。しかし、フォルテはそのまま自分のベッドの方に向かった。
「とにかく俺は忙しいんだ。これから荷物をまとめなきゃいけない。」
『荷物をまとめるって…?』
ジーニアスは恐る恐る尋ねる。
「…さっき、この部屋に戻る前にミレーユと連絡をとったんだ。そしたら、すぐに次の仕事に向かえって…。しかも、アークエンジェルがアラスカの基地の中に入るまでにって言うんだぞ!?…まったく人使いが荒い。」
『次の仕事?どこに?というか、護衛任務は基地に到着するまでだろう?仕事放棄するのか?』
「ああっ…それは、近くのカリフォルニアにアバンがいるから、オーティスとともに来るってよ。」
『なにっ!?アバンが、だと…。』
その名前に一瞬たじろいた。
あ鉄砲玉のように突っ走るバカに護衛というものがつもなるのか、どうか…。
気が気でなかった。
「とにかくアラスカまでガンバレよや。…とにかくキラもルキナもトールもいない状況で俺たちだけが大っぴらにできるわけないんだ。」
『…どういうことだ。』
しかし、フォルテは何も言わずに部屋を出てしまいヒロのことを聞けなかった。
ふたたびジーニアスはポツンと取り残される形となった。
『ヒ~ロ~。どこかにいるのであれば、そこにいると返事してくれ~!』
浮かんでいる…?
朧げな意識の中、そのように知覚した。
それはまるで宇宙空間にいるような、しかし、自分の体になにか纏うような、そんな感覚であった。
薄く目を開けると、光が薄くしか届いておらず、さらに、その光と自分の間はなにか揺らめいており、時折気泡が浮かび上がる。
ここは…海の中?
かろうじて見える光からどんどんと遠ざかっていた。
沈んでいく。
すでに体の感覚はあまりない。
ああ…このまま死ぬのか…。
そう思ったとき、どこから声が聞こえたような気がした。
女の人の声、とても澄んで、どこまでも遠くへと旋律に乗せて響いていく。
…歌だ。
誰かが歌っているんだ。
不思議だ。聞いたこともないはずもない、名前も知らない歌のはずなのに、どこか懐かしくてあたたかい歌声であった。
でも…時折なぜか悲しげに声を震わせているときがある。
なんで泣いているの?
ふいに猛烈な眠気に襲われ、視界が薄暗くなっていく。
歌声もどんどんと聞こえなくなってくる。
寝てはだめだ。
心の奥底で叫ぶも空しく、そのまま急速に意識を遠のかせていった。
自分の近くにゴゥンと音を立てながら、近づいてくる大きな人型の影が来ているのも気付かずに…。
…お…っ。
…し…しろっ。
今度、自分の耳に入って来るのは誰かが自分に呼びかけ叫ぶ声であった。
さきほどまでの浮かんでいた感覚はなくなっていた。代わりに冷たく硬い感触が背中越しに感じられた。
誰かに引きあげられたのだろうか?
ヘルメットは外され、空気が肺に入り込んでくる。
しかし、それは自然の空気とかとはほど遠い、オイルと鉄が混じった臭いを含む空気であった。
なんとか指先だけでも動かそうとするが長い間、水に使っていたためか、動かしているという感覚すらなく、やはたと体が重かった。
「おいっ、しっかりしろっ!」
今度こそ呼びかけられた声がはっきりと聞こえ、瞼をのろのろと開ける。
景色がぼんやりとしか見ることができず、目の前にいて自分に呼びかけている人の輪郭しかわからず、誰だかはっきりとはわからなかった。
制帽を被り、コートを羽織った…ただ、以前どこかで会ったことあるような…聞いたことのあるという声と、その人の瞳が見たことのある深い緑の瞳の色をしているのを知覚するこはできた。
それに安堵したのか、どっと疲労が出て、ふたたび瞼を閉じた。
南太平洋上…。
スコールが通りすぎ、穏やかになった波の合間から黒い鉄の塊が浮かび上がり、その巨体の上半部を覗かせた。
ヘファイストス社を経由してのアンヴァルの依頼で、積み荷をアラスカへと運んでいたケートゥス号であったが、現在、南西へと変えていた。
「ネモ、ちょっといいか。」
通路でネモはテオドアに呼び止められる。
「どうした?」
「針路はこのままで赤道連合に向けていいのか?」
「ああ。積み荷の方の優先度が低くなったからな…。こっちの方を先にした方がいいだろ?」
「…そうか。」
テオドアはどこかぎこちなく話を続ける。
「…で、なにしに行くんだ?」
ネモが向かって行く先にあるのは、ラッタルがあり、そこを上がるとあとは上甲板部のみである。
「ああ。さっき医務室に行ったて
「ああ、なるほど。」
「しばらく、そっちの方は任せる。」
「わかった。…けど、
「何がだ?」
テオドアの問いの意図に気付いていないのか、それとも気付いているけどあくまでもしらを切るのか、ネモは彼に問いを返した。
「いや…いい。」
テオドアはこれ以上深く追及することもできないと悟り、そこで話を区切り、去って行った。ネモは彼を見送った後、ラッタルまで向かった。
もう長いこと触れてないと思えるほど、雲一つない青空に輝く太陽の陽の暖かみが全身に行き渡っていく。そして、甲板にふく潮風が温まりすぎないよう火照る体を冷まさせる。
ヒロは清涼な風を浴びながら大きく息を吸い、空気を取り込む。
…美味しい。
1日中潜水艦のこもった空気しか吸っていなかったためか、そう感じられた。
「どうだ?潜水艦暮らしをしていると、信じられないくらい外の空気が美味いだろう?」
するとギィと艦内につながるドアふたが開くと同時に声をかけられた。
ネモは甲板に上がってきてヒロの横にやってくる。
「いつもは身近にあって、ごく当たり前すぎるせいかわからないがな…。」
「…そうですね。」
目に見えず、触れても感触もなく、味もしないはずの「空気」。しかし、さきほど吸った瞬間、間違いなく「美味しい」という表現が浮かんだ。自分は生きているのだと、実感させられた。
そう…生きているのだ、と。
しばらく、2人で甲板に吹き抜ける風に当たっていると、ネモが話を切り出した。
「君の所属する傭兵部隊と連絡をとってね…。君をアラスカに送ってくれるように頼まれた。」
アラスカ…。
それは何度も聞いた地名であった。
心の奥底で、ズキリと痛みを感じるが、それを振り払うようにネモに尋ねた。
「アラスカ、ということは…アークエンジェルは…?」
「今はまだ大西洋連邦領内だが、数日でアラスカ…JOSH-Aに着くだろう。」
「…そうですか。」
やっとたどり着いたんだ。
そこに着くまで、色々なことがあった。
しかし、それを思いはせると、はやりまた心が痛むので、そこで終わりにする。
「ただ、こっちも仕事があってね…。少々立ち寄らせてもらうよ。」
「…わかりました。」
自分は海中に落ちて、危なかったところ助けてもらった身だ。
それに、早くアラスカに着いても、もう自分にできることなど何一つない。
そう…何一つ。
けど、やはり気がかりであった。
あれから…
「あの…ネモ船長っ!」
ヒロは声を振り絞って尋ねる。
「船長なら…他にも、詳しいこと…聞いていませんか?他の人…パイロットはどうなったのか?あの島にはまだいたんです。」
すると、ネモはヒロを見据え、静かに言う。
「それを聞いて、どうする?」
その言葉にヒロは体をビクリとした。
「…しんどい思いをするだけだぞ?」
きっとネモ船長の言う通りだろう。
聞いたからと言って、もはやあの島に戻っても、
けど…。
「アークエンジェルとMSをアラスカに届ける…これは、僕の感情を抜きにしても、ヘリオポリスから続く護衛任務の延長線上です。…つまり、これは仕事です。たとえ、それがどんな結果でも、僕の行動の結果を、仕事の結果を聞かなければならない…僕は、そう思っています。」
いまにも膝が崩れそう担うのを必死に踏み込み、ヒロはまっすぐ目を向けて言う。
「…そうか。」
ネモはただうなずき、しばらく黙した。
そして、おもむろに告げる。
「アークエンジェルから要請を受けて、オーブが捜索したのだが…、あの島で見つかったのはイージスのパイロットのみだ。ストライク、[トゥルビオン]そしてスカイグラスパー2号機のパイロットは見つかっていない。アークエンジェルの方では、艦長は戻ってこなかったパイロットたちをMIAと認定した。」
ヒロはなにか言おうと、声に出そうとするが、何も言えなかった。
「これが…俺が知る限りのことだ。」
目の前が真っ暗になりそうだった。胃の中のものをすべて吐き出したいくらい、ぐちゃぐちゃとかき乱されている感覚になった。
「…わかりました。」
それでも必死に耐え、ヒロはなんとか背一杯言葉を出した。
「…潮風はあまり体に当たると悪い。あまり長居しないようにな。」
そう言い残し、ネモは艦内へと入っていた。
1人残ったヒロは振り返り、手すりに両手をつき、体を震わせた。
MIAと認定…それは戦死であると同義であるのはヒロにもわかっていた。
つまり、それはルキナもキラもトールも死んだということだ。
死んだんだ。
「うっ…うっ…。」
頬に涙が伝う。
その涙は彼らの死への悲しみだけではない、痛恨の念もあった。
「守るって決めたのに…。」
ヘリオポリスでの脱出の時の戦いの前、キラは戦うことに悩んでいた。でも、友だちを守るためにMSに乗った。トールもそんなキラを見て、自分もできることをしたいと、スカイグラスパーのパイロットに志願した。
なのにっ。
銃をとるということは、そういうことだ。
分かっていたけど、自分は分かっているつもりだったのか!?
だからこそ、守りたかったんだ。
それなのにっ!
死んだんだっ!僕は、なにもできなかった!
あの印象的な深い緑色の瞳が脳裏によぎる。
ルキナを思い浮かべると、胸に痛む傷は隠すことができないくらい痛む。
「うぅぅぁぁぁぁっ…。」
ヒロは膝をつき、うなだれて泣いた。
その痛みに泣いた。
人の死を悲しみ泣いた。
誰も守れないっ!
そして、自分の無力さに泣いた。
ネモはラッタルを降りた後もしばらくその場にいた。
おそらく彼は泣いているだろう。失い悲しんで、無力感に打ちしがれて…。
‐おまえは大丈夫か?‐
さきほどのテオドアの言葉がよぎる。
その時は、そしらぬ顔で通したが、腹の奥底ではなにか大きな重しがあるような感じだった。
いったい何を考えているっ!?
ネモはそんな感傷を振りはらうように帽子をとり、髪をかき上げる。
そんなもの…今更ではないか!?
悲嘆にくれても、後悔をしても、すべて遅い。
もう…彼女は死んだのだから。
あとがき
本文はシリアスだけど、あとがきは先月に刊行された新装版『SDガンダムフルカラー劇場』の話を…(笑)
というか、もう2巻目がでていますしね(汗)
まあ、SEED勢がでてきたということで、ちょうどいい機会ということで(苦笑)
作者は連載されていたころは単行本を買って読んでいたのではなく、本屋でボンボンを立ち読みで見ていました。(おっ…お金がなかったんだよ(子供だし…)(汗)!
まだ、立ち読みというものに寛容な時代だったんだよ(汗)
で、今回新装版を買って久々に読みましたが、や~大爆笑、大爆笑。
ふと、これが終了した以降のガンダム作品も登場させるとどうなるどうと思っていたら…なんと二次創作があったんですね(喜)
そちらの方も楽しく拝見しています。
では~。