機動戦士ガンダムSEED Gladius   作:プワプー

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今回の話は原作の「閃光の刻」にあたる話です。
まだ半分あるなぁと思いつつ、ここまで来たなぁと感慨にふけました。
これはひとえに読んでいただいてくださる方々がいたからこそ来れたのだと思います。まだまだ、終わりませんが、完結を目指して書きつづけるので、よろしくお願いします。




PHASE-42 悲しみと憎しみと

 

 ストライクを連れて帰投したヒロはコクピット内でうなだれた。

 どうして起きてしまったのか…。

 頭の中で自問する。

 ブリッツはその武装は右腕に集中している。だから、右腕を斬り上げた時点で、今までのブリッツのパイロットの行動を思えば、退がる…そう、思っていた。

 なのに…。

 今までの戦いを思い起こす。

 誰も殺さないように…。

 たとえ偽善でも…と決めたが、それを成し遂げられたことなどない。

 戦争だから…そうなってしまうのはしかたのないこと。

 その事実を突き付けられても、やはり、やりきれない気持ちであった。

 他に方法はあったのではないか。

 思考をめぐらせながら、OSを閉じ、電源を落とした。

 コクピットハッチを開き、ケーブルで降りてくると格納庫の一角に人だかりができていた。

 キラがマードックをはじめ、多くの整備士たちに囲まれ、称賛の声で迎えられていたのだ。

 すると、マードックはこちらに気付いたのか、いつもの胴間声で呼びかけてきた。

 「ようっ!ヒロもお疲れさんっ!」

 「えっ…ええ。」

 マードックがポンポンと背中を叩き、笑顔で迎える。ヒロは戸惑いつつも返事をした。

 「そうだっ、近くで見ていたんだろ?もっとくわしく教えてくれよっ、坊主がブリッツを倒したところを…。」

 どうやら、マードックたちはブリッツをキラが倒してきたことに喜びに沸いていたようだ。一方、褒められている当の本人は嫌悪感を表しているようだった。

 ブリッツを倒した。

 その言葉にヒロは顔を曇らせる。

 そして、今自分の中にある思いと、彼らとの思いの差を見せつけられた。

 彼らにとっては、ただ()を倒した、という程度でしかないことに…。

 「…うん?どうした?」

 マードックはヒロが暗い表情に不思議そうにこちらを覗きこむ。

 「いえ…。」

 ヒロは首を横に振り、そして口を開いた。

 「でも…。そんな…大きな声で、喜んで話せませんよ。」

 人が人を殺したことなんて…。

 なにか、急に疲労がドッと出始めてきた。

 ヒロはマードックを振り払い、進み始める。

 整備士たちは分からないと言った表情で驚き、戸惑っているが、構わず、その足でパイロットロッカーに向かい、着替える。

 そして、足早に廊下を進んだ。

 「あっ…ヒロ。」

 途中、ルキナとすれ違い、なにか話しかけてきたが、ヒロの耳には入ってこなかった。

 とにかく今は、部屋に戻って休みたかった。

 部屋のドアを開けると、ジーニアスのビープ音が聞こえてきた。

 なにか言いたいことがあるのだろうか?

 しかし、ディスプレイに目も行かず、ベッドにダイブし、そのまま寝入った。

 

 

 

 

 アスランは1人呆然と開かれたままのロッカーの前にたっていた。さきほどイザークのやり場のない怒りにまかせ、はずみで開いてしまったロッカーだ。その中に赤い制服が吊り下げられている。もうその制服に袖を通す者はいない。そうニコルはもういないのだ。

 アスランがゆっくりと制服に触れると、バサリとロッカーからこぼれ落ちた。目を向けると、そこには楽譜が散らばっていた。

 「くっ…うぅぅ…っ。」

 ‐寝ていませんでした?‐

 あれは、地球に降下する前の時だった。

 第八艦隊との戦闘後の休暇の間にニコルは小さなピアノのコンサートを開いた。

 ‐本当は、もっとちゃんとしたのをやりたいんですけどね…-

 ふと寂しげに言ったニコルに自分はスピットブレイクが終われば、情勢が変わるだろうからと言った。

 そう、もう少しすれば、きっとニコルもちゃんとしたコンサートをできたであろう。

 …なのにっ!

 「撃たれるのは、俺の…俺のはずだったっ!俺がっ!今まであいつを撃てなかった俺の甘さがっ…ニコル、おまえを殺したっ!」

 次に会う時はおまえを撃つ!

 そう言ったのに、自分はキラを殺すこともできず、キラが自分を殺すことなど、考えていなかった。

 その甘さが、ニコルを死なせてしまった。

 「…キラを撃つっ!…今度こそ…必ず…!」

 アスランは つぶやいた。

 1人、悲壮な覚悟を…。

 それをパイロットロッカーの入り口の陰で、クトラドは黙って聞いていた。

 そうか…。

 そして、何を思ったのか、しばらくしてその場を去った。

 「ちょっといいか?」

 クトラドが1人廊下を進んでいると、イザークとディアッカが待ち構えていた。

 イザークにはなにか険しい表情でクトラドを見ていた。しばらく、互いににらみ合うような形で面と向かっていたが、ややあってイザークが口を開いた。

 「あんたからMSの戦闘を教えてもらいたい。」

 「なあ、イザーク。それはちょっと言い方が…。」

 「うるさいっ。」

 いったい何を言うのかと思い、少々身構えていたが、意外な言葉にクトラドは目を丸くした。

 イザークもこちらの反応に気付いたのか、話を続けた。

 「…俺はエースパイロットだ。お前の本来所属する隊のようにただ後方にいてMSのテストやら輸送やらをやっていくのではない。前線で敵を倒し功績を得て出世することだ。…と今でも自負している。」

 「だから、教えてもらうのになんていう言い方なんだ?」

 ディアッカの突っ込みに関わらず、イザークはまだ続ける。

 「だが、あなたと共に戦って…痛感した。あなたは強い。どこの部隊に所属していようと関係なく…。このままではストライクには勝てない。それではミゲルやニコルの仇も討てない。だから、教わりたい…。」

 態度はぞんざいであったが、その言葉には今まで自分に対して、見下していたというよりも、なにか敬意を払うものであった。おそらく、今まで誰かに物事を頼むというようなことはあまりしてこなかったのであろう。

 「…いいでしょう、自分でよければ。」

 「…ありがとう。では、早速格納庫のシミュレーターに行って待っているから、頼むぞ。」

 そう言い残し、イザークは足早に格納庫へと向かっていた。

 それを横でディアッカがあきれ気味にイザークを諫めていた。

 「おまえなぁ…もう少し、考えて言った方がいいじゃないのか。」

 「うるさいっ。おまえだって同じだろっ!?」

 「そりゃ…そうだが…。」

 その2人を見送りながら、今まで見たことのない一面に少々驚きを隠せなかった。しかし、それだけ彼らにとってニコルの死は衝撃的であったのだ。

 「ふっ…強さが欲しいか…。」

 クトラドは呟くが、そこにあったのは、感心ではなく皮肉混じりであった。

 「お前たちでは本当の(・・・)強さは手に入らない。」

 お前たちも、アスラン・ザラも、ニコルですらも…。何も考えず、ただ他人から与えられた思考で敵と対する者たちに…。

 とはいっても、クトラドもあまり人の事は言えなかった。

 そろそろこちらの目的も遂行しなければ…。

 そのためにこの隊に派遣されたのだ。

 

 

 

 

 

 「…お腹空いた。」

 『戻ってきてすぐ寝たかと思えば、今度は空腹…か。まったく…。』

 「ジーニアスには言われたくないんだけど…。」

 戻ってしばらく寝ていたヒロだったが、お腹がすき始めた。時計を見ると、戦闘から戻って来た時間からも、食堂が開いている時間からも、だいぶ経っていた。

 そんなにも寝ていたんだと、思いつつ…寝ても空腹になっても先の戦闘での出来事は頭から離れることはない。

 まだやっているかなと、思いながら入ると、ある人物が目に入った。

 「…あれ?ルキナ、今から食事?」

 「ええ。さっきまで破損した右腕の修理と調整をしていたから…。」

 「そう、なんだ。」

 どうやら、まだ整備士たちの作業が終わってないこともあって、食堂はまだ開いていた。

 ヒロは食事のトレイをとり、ルキナの向かい側に座る。

 と、ここまでいつも変わらないように見えたが、ヒロの中でどこか違和感がした。

 いったいなぜだろうかと思いつつ、前を見た。

 ‐『男としてのヒロは、女としてのルキナを好きだということさ』‐

 出港前日にジーニアスに言われたことを思い出し、急激に心臓がバクバクと早鐘が打ち始めた。

 そうか、それだ。

 さきほどからの違和感。

 あれから急にヒロはルキナを意識しだし、今2人でいることもどうすればいいか分からない状態であった。

 すると、こちらの視線に気付いたのか、ルキナは不思議そうに尋ねる。

 「どうしたの?」

 「いや…あっ、そういえばアークエンジェルに帰投した直後、何か言おうとしていた?僕、気付かずに行っちゃった気がするんだけど…?」

 どうにかごまかそうとヒロは帰投直後のことを思い出し聞いてみた。

 「ああ、あの時…ね。いいのよ、たいしたことないから…。」

 ルキナとの会話はそれっきりになってしまった。

 だめだ…なにか話さなければ。

 ヒロは一生懸命頭を巡らせた。

 そもそも相手がどう思っているかわかならないのに、あんな風に急に誘ってよかったのか?

 もし…もしも、だ。

 ルキナに好きな人がいて、自分の事をなんとも思ってなかったらどうするんだ?

 「あのさ…」

 ヒロは恐る恐る尋ねる。

 「ルキナは、今まで…誰かと、ほら、どこかに買い物に行くとか…あった?」

 というか、自分でも何を言っているのか?そもそもそんなの聞いてどうするんだ?

 自分でもおかしいと思いつつ、聞いてしまった。

 そんな自分を知っているのか、知らないのかルキナはしばらく考え、そして答えた。

 「そうね…あるわよ。」

 「えっ!?」

 「兄さんやユリシーズや…みんなで。」

 「え…ああ、そう…か。」

 思わず肯定の言葉に戸惑ったが、なにか少し安堵した。

 「いや…、ジェラート誘ったのいいけど…ルキナに迷惑だったかなっと思って…。」

 机に置かれていたジーニアスが『おいおいおいっ!?』と突っ込みを入れていた。

 まあ、そうだよね…。誘っといて何を言いだすのか、と言いたいのだろう。

 ルキナは目を丸くしたが、すぐに表情をゆるめた。

 「そんなことないわよ。」

 「本当っ!?」

 「ここにいたか、ヒロっ!?」

 ルキナからの言葉にヒロは思わず喜ぶが、食堂の入り口からのフォルテの大声によって遮られた。

 「へっ!?フォルテ…?」

 ヒロは驚き、振り返る。

 いったい何したのか、ヒロは見当つかなかったからだ。

 「おまえ、クリーガーの調整の時間言っていただろうっ!」

 「あれ…そうだっけ?」

 そういえば、寝ているとき、フォルテに何か言われた気がするが、よく覚えていなかった。

 「返事はしていたぞ、返事はっ。」

 そして、ヒロの首根っこを掴み、引きずるように連れて行った。

 「ったく、おまえは時間を決めても、それに遅すぎたり早すぎたり…。たまには時間に合わせようとは思わないのか?」

 「そんなこと言われても~。」

 ヒロはフォルテに引きずられる形で食堂を出て行った。

 「あちゃ~、あれはマードック曹長からも大目玉だね。」

 フォルテとヒロと入れ替わりで入ってきたのはミリアリアであった。ちょうど彼女は交代時間となり、ドリンクを取りに来たのであった。

 「…そうね。」

 ルキナも苦笑いした。そういえば、[トゥルビオン]の右腕の修理中にフォルテがヒロの所在を聞いていたことを疑問に思っていたが、こういうことであったと納得した。

 「…で、どうなの?」

 ミリアリアはヒロが座っていた隣の椅子に座り尋ねる。

 「え?」

 「聞いていたわよ~、今までの会話っ。結構、いい雰囲気だったじゃない?」

 「えっ…え!?」

 ルキナは戸惑った様子だ。

 どうやらミリアリアはフォルテが来るまでの間の2人の会話を立ち聞きしていたようだ。

 「あんな風にマイペースだし、世間知らずなところはあるけど…私は、ヒロはいい人だと思うけどね~。」

 おだてでもなく、まぎれもないヒロに対するミリアリアの印象であった。

 「うん…それは、私も…思うわ。」

 「もしかして実はルキナ…他に好きな人がいる、とか?」

 ミリアリアはあいまいなルキナの返答に対し、身を乗り出して聞く。

 「そっ…それは…。」

 いきなりの質問にルキナは困惑した。

 その答えをはっきりと返すことができないからだ。

 それは、たぶん、自分が誰かを好きになることはないだろう…そう思っていたからだ。

 いつも…「ひとり」だった。

 ナチュラルでもコーディネイターでもない自分。

 地球にもプラントにも属せない自分。

 ナチュラルからもコーディネイターからも嫌われる自分。

 「家族」は自分と向き合って接してくれた。

 しかし、結局自分は「家族」とも違う存在であることだ、と半ば八つ当たりに「家族」に当たり、そんな自分に嫌気がさしたり…。

 そして、あの事件を境に「家族」は壊れた。

 ‐君はナチュラルとコーディネイターの融和の象徴なのだよ。‐

 誰かが言った言葉。

 ナチュラルとコーディネイターも同じ人。いつか日か、互いに理解し合い、手をとる時が来る。君はナチュラルとコーディネイターが愛し合って産まれた存在。だから、希望の象徴だよ。

 しかし、現実は?

 母はコーディネイターに身内を殺されたからと、ナチュラルに殺され、父は母を殺されたことへの憎しみをもって、それを起こした者たちに引き金を引いた。

 私は希望の象徴?疫病神?

 自分の存在意義に悩んでいた頃であった。

 ()に出会ったのは…。

 彼もまた、私と同じ存在(・・・・)であった。

 誰にも話してない秘密の共有する者同士…そして、その存在ゆえの傷を持つ者同士…。初めは、馴れ合いであったのかもしれない。しかし私は、次第に彼に惹かれていった。

 それが、私にとっての初恋…なのだろう。

 しかし、その恋は彼に想いを告げる前に終わりを迎えた。

 彼を好きになったからこそ、恋をしたからこそ…感じたのかもしれない。彼は、愛さないと…。

 すでに相手がいるというわけではない。

 彼は誰かを愛することはしない。

 口にこそしなくと、うすうす感じていた。

 それから…彼は今までと変わらず、私に接してくれている。私もまた…。

 自分の中でもしかしたら…という思いがあるのだろうか。もう、終わったと思いながらも…。

 だからこそ、自分がヒロに対して抱いている思いは恋愛感情なのかわからず、対してヒロの気持ちを受け取りづらい。それが、逆に負い目を感じてしまう。

 「ってなに、ずっと人の顔を見ているの?」

 ふと視線を感じ、顔を上げるとミリアリアはなにかにニヤついていた。

 「ううん、何でも…。」

 ルキナは変わったなぁという風に思った。もちろんいい意味での方である。

 初めて会ったときは、暗に壁を作っていて、自分の出自がしれてからはしばらく避けていたけど、今はこうして変わらない、どこにでもいる同世代の女の子と変わらない感じで話している。

 たぶん、ヒロのおかげなのだろうなぁ、と思いつつ、だからこそ応援しているのかなぁと改めて思った。

 

 

 

 

 

 「レーダーに艦影っ!」

 ボズゴロフの発令所のオペレーターの声に、アスランたちは振り向いた。

 「『足つき』です!」

 「間違いないか!?」

 ボズゴロフの艦長が質すと、オペレーターは強くうなずいた。

 そして、モニターを見上げ、周辺地域の地図を映し出す。

 「群島の多い海域だな。日の出も近い。しかけるのは有利か…。」

 「今日でカタだ!ストライクめ!」

 「ニコルの仇もお前の傷の礼も、俺がまとめて取ってやる!」

 艦長の言葉に続き、イザーク、ディアッカが威勢よく声を上げる。

 それらの言葉を受け、アスランは冷静に告げた。

 「…出撃する。」

 

 

 

 

 

 (総員第一戦闘配備!総員戦闘配備!)

 アークエンジェルでも敵の動きを捉えた。けたたましく警報が鳴り、非番だった者たちが慌ただしく自分の配置につく。

 「キラっ!」

 キラもストライクへ向かうため、急いで廊下を走っていると、背後から声をかけられた。

 フレイであった。

 「キラ…キラ、私…。」

 一方のフレイもいったいキラを呼んだものの何を話せばいいか、と考えあぐねていた。

 なにせ、あの1件以来、2人は言葉を交わしていないのだ。

 そう…オーブでの家族との面会の時、キラは両親に会わなかったのは、会いに来る家族のいないフレイを気遣っての事でもあった。フレイはそのキラの気遣いを踏みにじった。しかし、フレイ自身も気付きかけていた。…キラの事を本当に好きになったことに。そもそもキラに近づいたのは復讐のため、なのに、今は本当に好きになっている。

 先日の喧嘩のこと、今まで騙していたこと、そして、本当に好きであること…それらをすべて話したいのに、謝罪と本当の気持ちを伝えたいのに、うまく言いだすことができなかった。

 警報が鳴り響く。

 「ごめん…、あとで。」

 今は出撃しなければいけない。いつまでも待っていることはできなかった。

 だから…。

 「…帰ってから。」

 キラは笑って、そして、去って行った。

 そう…帰ってから。

 その姿を見送りながら、フレイは思った。

 すべてを話そう。そして、戦いで疲れて帰って来たキラを優しく迎えてあげよう…。

 帰ってきたら…

 

 

 

 

 「敵影4!5時方向、距離3000っ!」

 朝日が海面より現れた頃、アークエンジェルの後方から4機のMSの影が見えた。前回の戦闘で水中兵装を失ったバスターはグゥルに乗っていた。遠距離から長射程狙撃ライフルを放ち、アークエンジェルをかすめる。アークエンジェルもまたバリアントを放ち、応戦する。

 その間に、アークエンジェルから次々と機動兵器が発進し、応戦にあたる。

 それをデュエルとシグーで迎え撃ってきた。これにより、バスターはアウトレンジからのアークエンジェルの攻撃に集中することができる。

 これまで腕は確かながらもスタンドプレーが多かった彼らであったが、皮肉にも緩衝材的な存在であったニコルを失ったことで、彼らは結束し、連携をとることになったのである。

 実力、連携、MSの性能…それらを活かした彼らの攻撃は、だんだんとアークエンジェルを追い詰めていった。

 次第に、アークエンジェルの火器は破壊され、黒煙を上げる。

 そして、ブリッジのクルーの声が切迫したものなってきていた。

 「アラスカは!?」

 マリューは通信士席を振り向く。

 「ダメです!応答ありまえん!」

 アラスカの防空圏まであと少しなのに…。

 するとトノムラが声を上げた。

 「直上にイージス!」

 イージスがこちらの隙をつき、接近していたのだ。

 「面舵―!」

 MA形態に変形し、スキュラと連結させたビームライフルをこちらに向けるのを察知したマリューは叫ぶ。

 しかし、巨大な艦を急に回避させるのは至難であった。

 やられる…っ!

 むき出しの艦橋に守るすべはない。

 その時、別の方向からビームライフルの光線がイージスに向け、放たれる。とっさにイージスは、回避し、そちらの方向にビーム砲を放った。

 それを、ビームライフルを放ったMS…クリーガーがシールドで防いだ。

 イージスはMS形態にもどり、レールガンを放ち応戦した。

 すんでのクリーガーの介入で、アークエンジェルは危機は回避できたが、その間にもバスターの攻撃は続いていた。

 

 

 

 

 

 アスランは押し通ろうと、イージスの腕部サーベルを発生させ、クリーガーに斬りかかろうと向かい、クリーガーもまた腰部のサーベルを抜き、応戦の態勢に入ったその時、イージスの背後からシグーディープアームズがクリーガーめがけて突っ込んできた。

 しまったっ!

 いきなりの事で、シールドを前にかざすが、シグーの激突の衝撃で、クリーガーはシグーとともに落下していく。

 「クトラドさんっ!」

 (コイツは俺がおさえるっ!隊長は『足つき』、そしてストライクに集中しろ!その為に今日を迎えたのだろうっ!?)

 そうだっ!

 アスランは白亜の戦艦とその甲板上にいるストライクに目を向けた。

 俺の手で、お前を撃つ!

 好機(チャンス)はもう2度と来ない。

 今日こそ、ここで、キラを撃つ。

 アスランは鬼気迫る気迫でストライクへと向かった。

 「ヒロっ!」

 キラはクリーガーを助けに行こうとするが、イージスに遮られてしまった。

 「…アスラン。」

 赤い機体に乗っているパイロットを思い、キラは歯噛みした。

 アレに乗っているは自分の友だちだ。

 けど、アスランから見ての自分は?

 自分はアスランの仲間を殺した。アスランは自分を許さないであろう。

 ‐戦うしかなかろう?互いに敵である限り、どちらかが滅びるまで…。‐

 砂漠での敵将の言葉がよみがえる。

 もはやキラもアスランも互いで敵でしかないのだ。

 キラは赤い機体にライフルを向けた。

 

 

 

 

 

 クリーガーはそのままシグーに押されていき、どんどんとアークエンジェルから遠ざかる。近くの島に着地するためか、シグーが離れた隙を狙い、クリーガーを立て直し、着地させる。

 上空にはアークエンジェルが見える。

 艦の歩みを緩めることはしなかった。しかし、通信機からはこちらを拾うために様座な方法を模索している会話が聞こえてきた。

 ヒロは意を決し、叫んだ。

 「アークエンジェルは先に行ってくださいっ!」

 (ヒロ君っ!?)

 マリューは驚いた顔をした。

 「クリーガーなら飛行能力がありますし、なんとか戻ります。」

 (でもっ…。)

 マリューが言い懸けた瞬間、激しい衝撃によってモニターのなかの艦は大きく揺れ、そのまま切れた。

 アークエンジェルは激しい攻撃を受けている。

 こちらを気に掛けている余裕などないはずだ。

 クリーガーは目の前のシグーディープアームズと対した。

 

 

 

 

 アークエンジェルはなおも3機から激しい攻撃を受けていて、被害は深刻であった。左舷からは黒い煙があがり、高度が下がっていった。

 「プラズマタンブラー損傷!レビテーター、ダウン!」

 「揚力維持できません!」

 「姿勢制御を優先して!」

 「緊急パワー、補助レビテーター接続に!」

 被害報告とそれらの対応にブリッジのやりとりをじれったく聞きながら、副操縦席に座っているトールはパイロットシートから立った。

 「スカイグラスパーで出ますっ!」

 その言葉にマリューは驚き、ミリアリアは声を上げた。

 「危ないですよ!このままじゃっ!」

 「待ちなさい、ケーニヒ二等兵…!」

 ブリッジを飛び出し出て行くトールをマリューは止めようとしたが、ふたたびアークエンジェルは被弾したのか、激しく揺れ、マリューの言葉は遮られてしまった。

 トールは格納庫へと向かって行ってしまった。

 

 

 

 アークエンジェルにふたたびミサイルが被弾し、黒煙を上げる。

 スカイグラスパーは上空からアグニを、フォルテのジンは無反動砲をミサイルを放ったバスターに向け撃つが、避けられる。

 アークエンジェルの甲板上では艦の揺れを感じながらキラは歯噛みする。

 バスターを何とかしたい気持ちもあるが、こっちも[トゥルビオン]とともに、イージスとデュエルを抑えるの精一杯であっにた。

 ストライクはエールのスラスターを吹かせ、跳びあがる。

 それを待っていたように、デュエルがビーム砲を放つ。さらにスラスターを噴射し、なんとかストライクはよけるが、間髪入れず、今度はレーザー重斬刀を振り下ろそうと迫ってきていた。

 おもわず、イーゲルシュテルンで牽制し、距離を置き、降りていく。

 デュエルは一旦距離を取りふたたび迫ろうとした時、横から[トゥルビオン]の対艦刀で押しきられ、バランスを崩す。

 その隙を狙って、[トゥルビオン]はもう片方の対艦刀でデュエルのメインカメラを貫く。

 カメラをやられ、見ることができなくなったデュエルは必死にもがくが、そのまま[トゥルビオン]に蹴られ、海面へと落下していった。

 …これで1機。

 キラは安堵し、甲板への着地体勢に入ったのを、イージスは見逃さなかった。

 腰部のレールガンを放ち、いきなりの攻撃でバランスを崩し、そして、突進してきたイージスにもろに激突され、ストライクはアークエンジェルではなく、ヒロが着地したであろう島の端に降りてしまった。

 「キラっ!」

 ルキナはストライクを気に掛けるが、アークエンジェルにふたたびバスターが攻撃を放つ。

 先に落ちたヒロも含め、気がかりであったが、今はアークエンジェルを援護するのが先決であった。

 

 

 

 

 雲一つなく青かった空に黒くどんよりとした雲が覆い始め、今にも雨が降りそうであった。

 が、クルーにそれを気にする余裕などなかった。

 ブリッジでは警告音が鳴り、不調をしめすランプが点滅する。

 「姿勢制御不能っ!」

 これまで何とか高度を保っていたアークエンジェルであったが、ノイマンの絶望的な声が響いた。

 「着底する!総員衝撃に備えよ!」

 マリューの言葉とともに、アークエンジェルはだんだんと高度が下がっていき、目の前にあった島々の1つに突っ込んでいった。

 なおもバスターがこちらを狙っていて、それをスカイグラスパー2機とジン、[トゥルビオン]で応戦していた。

 

 

 

 

 (こらっ、回り込みすぎるなっ!狙い撃ちにされるぞ!)

 「はいっ!」

 ムウからの叱咤の声にトールは不満げに思いつつも、懸命に操縦桿を倒す。

 この前の戦闘はあんなにうまくできたのに…。

 トールは歯噛みした。

 出撃前は初陣の緊張が嘘のようになく、自分はできると思っていた。

 しかし、今は、ムウたちについていくの背いっぱいであった。

 「ええいっ、邪魔だ!」

 バスターは射程にはいったところにあらわれるスカイグラスパーに苛立ちを覚えた。

 あんな前世紀の兵器なんかにっ!

 うち1機が大きく反転し、無防備な姿をさらしていた。

 これなら狙えると、バスターは肩部の6連ミサイルを開き、発射した。

 それはトールにとって不意打ちであった。

 いくら逃げてもミサイルはやっても追いかけてきた。

 やられると思った瞬間、自分の背後にジンが飛んできていた。

 そして、ミサイルはジンに命中する。

 ジンはミサイルを受ける直前に、無反動を放ち、それがバスターのグゥルに命中する。

 バスターはグゥルの爆発する瞬間、飛び降り難を逃れる。

 「フォルテさんっ!?」

 トールが後ろを向け、煙に覆われて見えないジンに向かって叫んだ。

 「フォルテさんっ!」

 ブリッジのミリアリアも叫ぶ。しかし、いくら通信機に叫んでも、応答はなかった。やがて、煙が晴れ、ボロボロになったジンが甲板にぶつかる。

 「救護班っ!ただちにジンのパイロットの救出をっ!」

 と告げた瞬間、艦は激しく揺れる。

 とうとうアークエンジェルは島の1つに着地したのだ。木々をなぎ倒し、地面をえぐりながら、アークエンジェルはやっとのことで停止した。

 必死にシートにしがみついていた、マリューは前方を見た瞬間、息を呑んだ。

 グゥルから寸で飛び降りたバスターはなおも諦めず、落ちながらも砲をこちらに向けていた。

ジンの救援に向かった[トゥルビオン]が慌てて、突撃銃を構えるが、間に合わない。

 今度こそやられる!

 そう思った瞬間、

 (やらせるかぁぁぁっ!)

 と雄たけびと共に、ムウのスカグラスパーが突っ込んできた。

 バスターもスカイグラスパーに気付いたのか、砲を向け、撃ちあいとなった。

 両者すれ違いざま、

 バスターは対装甲散弾砲を、スカイグラスパーはアグニを放った。

 対装甲散弾砲はスカイグラスパーの左翼に受け、アグニはバスターの右腕を貫く。

 そのまま、スカイグラスパーは沿岸の海に不時着し、バスターは落下し、アークエンジェル前方の斜面に激突した。

 「ハイドロ消失、駆動パルス低下…くそっ。」

 ディアッカは必死にレバーを動かすが、落下の衝撃で動力系がやられたのか、いっこうにバスターは動けなかった。

 すると、コクピットにロック警告音(アラート)が鳴った。

 モニターを見ると、左部ゴットフリートがこちらを狙っていた。

 苦渋の決断であった。

 ディアッカはヘルメットを取り、コクピットハッチを開けた。そして、その入り口にたち両手を上げたのであった。

 投降する、という意思表示だ。

 その様子はブリッジからでも捉えられた。

 マリューもナタルも困惑していた。

 

 

 

 

 一方、甲板ではフォルテのジンの前にギースやマードックを始めとする整備士たちと応急セットを持ってきた医療班が待機していた。

 やっとこさコクピットを開けると、フォルテが横たわっていた。

 「おいっ、(にい)ちゃん、大丈夫か?」

 マードックが声をかけると、返事がない。

 意識がないのか、と肩に手をかけようとした瞬間、

 「痛って~~~~!」

 急にフォルテは大声をあげた。

 近くにいたマードックは思わずぎょっとした。

 「痛いし、熱いっ!コンチクショー、モビルスーツまでダメにしちまったっ!」

 なにか悪態ついているが、まあここまで叫ぶ元気があるなら大丈夫だろう。

 マードックは、そちらをギースと医療班に任せ、アークエンジェルの被弾箇所の応急的な補修に向かった。

 フォルテの安否を通信から聞いたトールはほっと息を吐いた。

 だが、暇はない。

 ふと目を凝らすと、ストライクとイージスが戦闘を繰り広げていた。

 見たところ、ストライクはイージスに力負けしていた。

 …キラっ!

 トールはキラを助けに行こうとスカイグラスパーを駆った。

 

 

 

 

 「被害状況をっ!」

 ひとまず一難去ったアークエンジェルはいまだに動けない状態であった。被弾箇所の応急補修は急ピッチで進められているが、火器はほとんど失い、機動兵器も2機損失していた。

 「ストライクとクリーガーは呼び戻せないかっ!?」

 この状況では戦線を離れなければいけない。が、いまだに2機は交戦中であった。こちらからの通信も届かない。

 (すぐに呼び戻します。)

 すると損傷もない[トゥルビオン]が甲板から飛び立ち、ストライクとクリーガーがいるであろう島へと急いで向かった。

 

 

 

 

 

 降り始めた雨は次第に激しさを増していった。その雨粒を蒸発させながら、一条の光線が光り落ちていく。

 その射線上にいたクリーガーは横へと飛び跳ねるように避け、地面を踏みきって飛ぶ。

 ビームは森に着弾し、周りの木々が吹き飛ばされ、あるいはなぎ倒れながらビームの熱により灼けていく。

 クリーガーはビームライフルを構え、上空にいるシグーディープアームズに向け、放った。

 しばらく、後退すると海岸線沿いに出た。

 本来であれば白い砂浜に、青い海を綺麗なところであるだろうが、今は気にすることもできなかった。

 射撃での応戦では埒が明かないと判断したのか、シグーディープアームズはレーザー重斬刀を抜き、こちらに迫る。

 こちらも、はやくアークエンジェルに合流しなければならない。

 そのためにはまずこの追撃から逃れなければならなかった。

 クリーガーを後ろに退がり、足元は海水につかる。

 もう逃げ場がないと思ったのか、シグーは勢いよくこちらに迫る。

 今だ。

 クリーガーは持っていたビームライフルを放つ。

 急激な高熱で温度が上がった海水が白い蒸気を、そして、水しぶきを上げ、クリーガーとシグーの前を覆う。

 「何っ!?」

 いきなり視界を失い、ひるんだシグーは動きを止めてしまった。

 クリーガーはその隙をつき、シグーを蹴り飛ばす。そして、反転し、アークエンジェルが向かった方角へと向かって行った。

 いきおいよく後ろへと飛ばされたシグーは体勢を立て直し、前を向いたがすでにクリーガーの姿はいなかった。

 「くっ、ここにきて…。」

 激しい雨のため、視界も悪い。

 おそらく『足つき』へと戻ったのであろう。

 シグーは身を翻し、急いで向かった。

 

 

 

 

 ヒロはシグーをまき、海岸線を沿って、アークエンジェルへ戻ろうとすると、前方に火花が薄くではあるが捉えた。

 視界が悪いため、見えにくいが、ぼんやりと映る赤い機体と白い機体が見えた。

 「キラも、この島に着地していたのっ…。」

 アークエンジェルのことも気になるが、前回の戦闘の事もある。

 ヒロは急いで、ストライクの方へと向かった。

 

 

 

 

 

 ストライクとイージスはなおも戦い続けていた。

 ビームサーベルで斬り合い、互いのシールドで防ぎ、また離れ打ちかかる。

 「キラァァァァっ!」

 アスランは叫び、ストライクに迫り、また斬りかかる。

 しかし、こんなに激しい猛攻でも相手に届かない。

 「お前がニコルを…ニコルを殺したァァァァっ!」

 イージスの激しい猛攻にストライクは耐えていた。

 しかし、キラはその先への攻撃に転じない。いや、できなかった。

 この攻撃は見ればわかる。

 アスランは自分を殺しに来ている。

 では、自分は…?

 できない。

 死ぬわけにはいかないと思っていても、目の前のアスランを殺すことなんてできなかった。

 なかば諦めかけたその時、

 (キラぁっ!)

 無線からトールの声をが聞こえ、キラはハッとしその方向を見た。

 スカイグラスパー2号機が上空からこちらに突っ込んできた。

 「トールっ!?ダメだ、来るなぁぁ!」

 キラの制止も聞かず、2号機はストライクを援護するために、ミサイルをイージスに発射し、足元へと着弾する。イージスはミサイルの爆発の寸でで、ジャンプし回避するが、この戦闘に邪魔が入ったと思ったのか、スカイグラスパーに向き、イージスのシールドをスカイグラスパーに投げつけた。

 シールドは回転しながら、スカイグラスパーへと一直線に飛んでいく。

 いきなりのことで、トールは回避することもできないまま、それが来るのを、怯え見るしかなかった。

 そして、スカイグラスパーのコクピットに突き刺さった。

 それをキラはすべて見ていた。

 コクピットが粉砕されるのをっ。

 ヘルメットが飛んでいくところも。

 そして、赤い血が飛び散っていくのを…。

 まるですべてがスロー再生のようにゆっくりと流れたかと思うと、スカイグラスパーは爆発し、四散していった。

 「トールっ!」

 トールが死んだ。キラはうめきながら泣き叫ぶ。

 -俺もがんばんなきゃ。おまえも、いろいろと大変だけどさ…。-

 トールがスカイグラスパーに志願した時、心配する自分にトールが言った言葉がよみがえる。

 -自分で志願したんだもんな。-

 トールを殺した。

 誰が…?

 そう目の前にいる赤い機体。

 「アスラァァァンっ!」

 ストライクはイージスに突進した。

 もうさきほどまで弱気はどこにもなかった。視界も鮮明に見える。

 ただあるのは、大事な友達を殺した目の前の相手を撃つことだけであった。

 ビームサーベルで左腕を斬りおとし、顔面を蹴りつけた。

 イージスは蹴られたまま、倒れ、下にある木々を倒す。

 なおもストライクは迫り、サーベルを振り下ろす。

 ストライクの動作が急に変わっていた。

 さきほどまで攻勢だったのに、今ではこちらが向こうの一太刀を防ぐのに目いっぱいであった。

 だが、負けるわけにいかない。

 「キラァァァァっ!」

 こいつがニコルを殺したのだ。

 だから、自分は負けるわけにはいかなかった。

 「俺がっ、お前をっ、撃つっ!」

 体の奥底でなにか弾ける音がしたかと思うと、視界が鮮明になった。そして、さきほどまでのストライクの太刀筋がはっきりと捉える。

 行けるっ!

 イージスもまだクローよりサーベルを出し、襲い掛かる。

 白と赤の機体は互いに激しい打ち合いへとなった。

 

 

 

 

 

 上空での爆発が見えた後、2機の激しい戦闘を繰り広げられていた。

 その様子にヒロは背筋が凍る感じがした。

 そして、その光景に末恐ろしい何かを感じた。

 僕は知っている。

 彼らが幼いころからの友だちだったということを…。

 なのに…。

 今、2人は互いに憎しみのまま、目の前の()を撃つことのみ戦っていた。

 なぜ…?

 戦争…だから?

 だから、2人は戦うのか、殺し合うのか

 そして、ヒロはかつて見た光景を思い出させる。

 あの時も、同じ雨の日だった。

 互いに知る者同士…なのに、互いに殺し合った者たち…。

 「…止めなきゃ。」

 ヒロはクリーガーを駆ろうとした時、背後に殺気を感じた。

 振り返ると、シグーディープアームズ飛びあがっていて、こちらにレーザー重斬刀を振り下ろそうとしていた。

 まずいっ!

 ヒロは慌てて、シールドを前に出し、防ぐが振り下ろした勢いに飛ばされた。

 「うあぁぁっ!」

 衝撃で思わずよろめいた。

 「…追いついたぞ。」

 なおも斬りかかろうとするシグーに必死にシールドで防ぐ。

 「待ってくださいっ。あの2機の戦闘をやめさせなきゃっ…。これじゃぁ…。」

 いまここで、シグーを相手にしている暇はない。

 2人の戦いを止めたい、その一心であった。しかし、クトラドはその言葉を聞き、ピクリとこめかみが動いた。

 「戦闘を止める、だと…?」

 その言葉にクトラドは激しい怒りが込みあがった。

 「ふざけているのかっ!?これがおまえたち(・・・・・)が選んだ結果であろうっ!」

 そしてふたたび斬りかかり、クリーガーが慌ててシールドで防ぐ。

 「『プラントが悪い』、『地球が悪い』、『コーディネイターが原因だ』、『ナチュラルのせいだ』…そうやって今いる自分の所属するとこからでしかものを見ることができず、その視野の狭さで、相手のことなどみることもできないのに、起こることを相手に責任転嫁する。そして、相手が『敵』だから『仕方がない』『しょうがない』と撃つっ!そうやってきたから、今、ここで起きている(・・・・・)のであろうっ!?」

 「…ならっ、なおさらじゃないかっ。」

 クリーガーを前に進め、シールドで押し出し、飛ぶ。

 「もうっ遅いっ!」

 シグーは追っかけるように飛び立ち、ビーム砲を放つ。クリーガーは飛び立ち、それを避けた。

 「言ったであろう…もう起きているのだ、とっ!おまえたち(・・・・・)勝手な理屈(・・・・・)で奪ったんだ!なら、同じく奪う(・・)っ!それだけだっ!」

 「奪ったって…あなたは…うあっ。」

 シグーに蹴り飛ばされ、クリーガーはよろめく。

その隙を狙い、シグーはレーザー重斬刀を高く上げていた。

 「もう後戻りなど、できないのだっ!」

 これで…終わりだっ!

 シグーはレーザー重斬刀を振り下ろす。

 …避けられないっ!

 ヒロはなすすべもなく、刃が自分に迫るのを見ていることしか出来なかった。

 その刹那、

 クリーガーとシグーディープアームズの間を割って入った影がいた。

 「…え?」

 ヒロは目の前に現れたものがなぜここにいるのかと己の脳が認識する前に、それにクリーガーは突き飛ばされた。

 そして、シグーディープアームズが振り下ろした刃はその機体に…[トゥルビオン]を薙いだ。

 「ルキナ―!」

 その光景を、胴部分が背中を反るようにひしゃがれた[トゥルビオン]を目にしたヒロは叫んだ。

 

 

 

 

 

 乾いた警告音がコクピット内に響き渡る中、ルキナはゆっくりと目を覚ました。

 時間にしてほんの少しではあるが、意識を失っていたようだ。

 今、ヒロの声が聞こえた気がした。

 おぼろげにコクピット内を見渡すと、計器類は壊れ、レバーも破損していた。

 わたしは…

 ルキナはまだぼんやりとする頭で、意識を失う前の記憶を手繰りよせた。

 そうだ…。

 アークエンジェルが不時着し、火砲もほとんど使えない状態で…しかもスカイグラスパーもジンも戦闘不能状態となった。

 クリーガーとストライクを呼び戻すために向かったのだ。

 2機が不時着したと思われる島で探していると、火花が散るのが見えた。

 クリーガーとシグーディープアームズが戦っていたのだ。

 それから…。

 クリーガーにシグーのレーザー重斬刀が振り下ろされようとして…

 考えるよりも前に行動していた。

 クリーガーを突き飛ばし、その直後、背後より衝撃が襲ったのだ。

 そこからの記憶がないということはそこで意識を失ったのであろう。

 そうだ…。クリーガーは?

 モニターは壊れていたが、コクピットハッチがえぐれていたため、正面を見ることができた。

 そこからクリーガーの姿を捉えた。

 よかった、無事で…。

 だが、まだ[トゥルビオン]が爆発しないということは、推進部とエンジン部をうまく外されたのだろう、奇跡というしかない。

 ほっと息をつくが、そうも言っていられる状態でもなかった。

 このままでは落下する。

 なんとか、姿勢を安定させ着地させようと、身を起こそうとするが、左わき腹の違和感を覚えた。

 まるで突き刺されようにそこから動かないような…。

 その違和感が焼けつくような猛烈な痛みが襲う。

 そんな…。

 ルキナは恐る恐る左下をみると、すると、脇腹の部分を破片が貫いていたのだ。

 痛みに悶え、身をよじろうとしても、その破片はどこか後部部品から突き出したものだったのか、はずれることができず、さらに激痛を増すだけであった。

 すると、[トゥルビオン]がどんどんと落下してく感覚がシートから伝わってくる。

 だが、もはやそれを止める術も、ここか脱出する手段もなかった。

 このまま…死ぬ、の?

 ふとルキナは恐怖に体が震え、思わずクリーガーの手を伸ばす。

 「ジェ…ラート…食べ…たかったな。」

 地球とプラントの戦争が始まってから、よかったことなんてなかった。

 「敵」だと白眼視され、むりやり軍に入らされ、人を殺して…。

 「楽しみ…だったのに…。」

 だから…少しくらい、ほんの瞬間でもよかった…。

 クリーガーはまるでこちらが手を伸ばしているの気付いたのか、手を伸ばしていた。

 やっぱり…。

 彼はいつも手を差し伸べてくる。…今も。

 ああ…そうか。

 ルキナはずっと胸の中につっかえてものが何であったのか、ようやく気付いた。

 「…でも、少し…遅かったな。」

 どんなに手を伸ばしても…、どんなに手を伸ばされても離れていくばかりであった。

 

 

 

 

 突き飛ばれた勢いに耐えながら、ヒロはスラスターを吹かせ、クリーガーの体勢を立て直す。そして、フットペダルを踏み、急いで落下していく[トゥルビオン]へと向かう。

 いかないでくれ…。

 藁にもすがる思いで、クリーガーの手を伸ばすが、[トゥルビオン]との距離は縮まらない。

 そして…。

 [トゥルビオン]は熱帯の木々の中へと落ちていった。

 「そんな…。」

 クリーガーは呆然と立ち尽くした。

 ルキナが…ルキナが死んだ?

 「そんな…っ、そんなのって…。」

 ヒロはそのことに納得できずにうめいた。胸に突き刺さる痛みが襲う。

 「だって…約束…したじゃないかっ!」

 ジェラート食べに行こうって。

 目からあふれた涙は頬を伝う。

 なのに…、なのにっ…。

 体の奥底…いずこより熱を発っしはじめているを感じた。

 なんでルキナが死ななければいけないんだっ!

 その熱は小さな感情という火から発しており、その火はだんだんと燃えあがり炎となっていった。

 ‐おまえたちの勝手な理屈で奪ったんだ!だから、同じように奪うっ!‐

 それが…これ(・・)か?

 勝手な理屈はどっちだ?それでルキナを死なせたのだろう?

 こんなこと(・・・・・)…あっていいはずがないっ!!

 その炎に飲まれるようにヒロの思考は真っ赤に染まった。

 

 

 

 

 「…まさか。」

 クトラドは[トゥルビオン]を信じられないという表情で見ていた。

 たしかにずっとクリーガーに気をとられ、周りに目をいかなかった非はある。

 だが…。

 よもや彼女(・・)を撃ってしまうとは…。

 すんでのところで重斬刀のレーザーは切った。

 しかし、振り下ろした刃は止めようとも止め斬らず、[トゥルビオン]を薙いだ。真っ二つにならなことが不幸中の幸いとというか…。

 とにもかくも彼の者(・・・)のためにも安否が急がれる。 

 その時、前方から凄まじい殺気を感じた。

 目の前にクリーガーがサーベルを持ち、迫ってきていた。突然のことにクトラドは2門の背部のビーム砲を放つ。

 ビーム砲の1つは避けられ、もう1つはクリーガーの肩をかすめるが、なおも接近してくる。

 「なんという無茶を…。」

 しかし…とクトラドは訝しんだ。

 こんな戦い方をするパイロットだったか?

 「ウォォォォっ!」

 ヒロは今まで発したことのない唸るような叫びで激しく斬りかかる。それをシグーディープアームズは避ける。

 太刀筋が荒い。この軌道でならば、読めるし、なんなく避ける。

 シグーはビームサーベルが横に斬った瞬間に身をかがめ、クリーガーの懐にはいり、レーザー重斬刀で突く。

 とっさに左手のシールドで防ごうとするが、それをレーザー重斬刀で振り払う。クリーガーの左腕は斬りおとされ、持っていたシールドははじけ飛び、両者の間に落ちていく。

 その瞬間、クリーガーのビームサーベルがシールドを突き抜け頭部に迫る。

 「なっ!」

 とっさに避け、シグーもレーザー重斬刀で斬りかかる。

 クリーガーのビームサーベルはシグーディープアームズのビーム砲を貫き、シグーのレーザー重斬刀はクリーガーの右眼のカメラとブレードアンテナを破損させた。

 シグーは足でクリーガーを突き飛ばした。

 逃がすかぁっ!

 クリーガーは一旦後ろへと下がるが、ふたたびビームサーベルでシグーディープアームズに斬りかかろうとする。

 「っしつこい!」

 残っているビーム砲でクリーガーの足元を狙う。

 ビーム砲によって、一旦クリーガーはバランスを崩すが、ふたたび、こちらに迫る。

 絶対に逃がさない!

 「…なんなんだ。」

 ふたたび斬りかかるクリーガーを避けながら、クトラドは呟いた。

 迫りくる殺気とこちらを逃がさないとばかりに執拗に追いかけてくる気迫。

 今までこのパイロットと対峙して、今までなかった面であった。

 シグーの右腕を斬り落とし、なおも迫る。

 「『SEEDを持つ者』なのか?」

 クトラドは思わず口にだした。

 「…いや、そうではない。」

 しかし、すぐに否定した。

 戦い方がまるで違う。鬼神のような狂戦士のような戦い方であるが、違っていた。

 「お前は…誰だ!?」

 目の前のそれに押しつぶされそうな圧迫が全身にのしかかる。

 これ以上、逃げようにも逃げれらない。

 クリーガーのビームサーベルが迫ってきていた。

 やられる…。

 クトラドはこの追撃戦で初めて己が負けると感じた。

 が、そのビームサーベルは自分の機体に届く前に、消え、代わりにサーベルを握っていた―クリーガーの拳がガンと機体にあたった。

 クトラドはしばらく呆然とした。さきほど感じた殺気もない。

 いったい何が…?

 死ななかったという安堵よりもなぜかのパイロットが手をとめたのか、そちらの疑念が彼の中を支配した。

 

 

 

 

 もうすぐエネルギー切れの警告音がなる中、ヒロは荒い息をしながらうなだれた。

 「…違う。」

 さきほどまで体の奥から発する熱のままに、目の前にいた機体に斬りかかっていた。

 奪ったから…ルキナを殺したから…それを正当化するようなことを言ったから…許せなかった。

 相手を追い詰め、あと少しで終わると思った瞬間、どこから声が聞こえた気がした。

 違う…。

 それが誰かの声か、それとも自分の奥底にしまった理性の声かわからない。

 ただ、その声がしたとき、急に熱が冷め始めていた。それはあまりに急激であったため、パイロットスーツによって温度調整がされているのにも関わらず、寒気がし、我に返って前をみれば、あと少しで、シグーディープアームズのコクピットにサーベルを貫くところであった。

 「僕は…僕は…。」

 いったい何をしたのだ?

 記憶の糸を手繰りながら、己のした行為に恐怖を覚えた。

 そして頭を振る。

 そうだ…こんなのに違う…違うんだ。

 それが何であるかはわからない。でも、ルキナの死を悲しむことと、その理不尽な死への怒りに呑まれ、正気を失い、目の前の相手を倒すこと。

 それでは、ルキナを死なせたものと同じではないか。

 ヒロは息をととのえ、深呼吸しようとした。

 その時であった。

 突如横合いから閃光が覆った。

 そして、その真っ白な閃光が視界を覆ったかと思うと、激しい衝撃が襲い始めた。

シグーはとっさに回避行動を始めていて、ふらつきながらも飛び、この場から逃れ始めた。しかし、動くことができなかったクリーガーは衝撃をまともに食らってしまった。装甲の一部がはがれ、その衝撃に流されていく。

 ヒロは視界が反転し、コクピット全体のあらゆる方向から衝撃が襲い掛かっていた。

 すると森の合間から銀色の機体が視界にわずかに入った。

 [トゥルビオン]…?

 落下による爆発はなく、ずっとそこにいたのであった。

 それに気付いたヒロは後悔した。

 助けにいくべきだったのに…。

 ルキナが生きているかわからない。それでも、真っ先にすべきことであったのに、自分は目の前にいた相手を倒すことのみしか頭がいかなかった。

 ヒロは弱弱しく手を伸ばした。

 しかし、届くはずもなかった。

 ああ…離れていく。

まるでこの衝撃は自分の後悔と自責の念だ。それに押しつぶされるようにヒロの全身を打ち付け、ヒロの視界はそこで真っ暗になった。

 

 

 

 

 

 アークエンジェルの艦窓より爆炎が上がり、続いて激しい轟音が響いてきた。

 マリューとナタルはその光景に息を呑んだ。

 一方、ミリアリアのモニター上の画面を今だ理解できず、眺めていた。

 はじめはトールのスカイグラスパーがシグナルロストした。

 一瞬、なにか不調でも起きたのかと思った。

 何がかんだかわからないまま、次に[トゥルビオン]、ストライク、そして、最後にクリーガーの通信回線がザっと乱れ、『SIGNAL LOST』の文字列に変わった。

 「…なに、いったい…?」

 彼らの身に何か起きたのか、いや…そんなことない。だって、彼らはいつも帰ってきたではないか…?

 ミリアリアはこの事態を今だ飲み込めず、ただモニターに見入るだけであった。

 

 

 

 





あとがき
月に1回だせるようになりたいとあとがきで宣言したからと言って、1ヶ月ものんびりしいいということではないのだー!
と思わず自分に喝を入れてしまいそうです。
というのは、ある程度出来上がっていて、ああこの話ははやくアップ出来るかなぁと思っていたら、結局1ヶ月経ってしまいましたよ…。
実はというと(言い訳になるが)最後の部分はなんども書き直したのですよね。
やっぱり重要な回でもあったので…。
この話は原作ではターニングポイントとなるところであり、またこの小説でもターニングポイントになるので…。
今回ここに何を書こうかと考えていました。この部分は原作ではターニングポイントになるところでもあるので、この小説の今までの解説みたいなもの(キャラクターの名前の元ネタ等々…)やここまで書いて思ったことなどを考えましたけど…結局中身のないあとがきで終わってしまった。(本当はあったのに…)
最後にどうでもいい話かもしれないけど…本文2万字いきそうになってしまった。(読者様…また長くなってごめんなさい)
この勢いだと最後の方どうなるかとハラハラしているのですが、よく見るとこのサイトの本文は15万まで大丈夫そうなので、少し安心しました。(いやぁ、さすがに10万字書ける自信はない)



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