「あ~、俺たちまったく必要ないし、もう帰らね?…っても、レーベンがいないと、これ動かせないし…あいつ、どこいったんだ?」
フォルテはヴァルファウの中で退屈そうにしてた。
「ちょっとルドルフからの用事でいないのよ。それに、これも仕事のうちよ。」
ミレーユが答えた。
前日、シグルドとフォルテはヒロに会いに行ってみたら、予想外のことが起きていた。
マーサからは何しに来たんだとばかりの顔をされ出迎えられたのは、わかっていたが、ヒロが昨日とは違い、部屋から出ていたのだ。しかも、若い地球軍の軍人と共に。
しばらく、こっちは様子をいることにした。
そこへ様子を見に行っていたシグルドが戻ってきた。
「それに…この町周辺で不穏な動きがある。それもあるから留まることにした。まあ、もし嫌なら戻ってもいいぞ、ファルテ。」
フォルテはいるよ、と答え、その地球軍の部隊についてミレーユに尋ねた。
「それなんだが、あの軍人何者なんだ?てか、あの地球軍、ただの一部隊じゃないだろう?」
この手の情報はミレーユが知っている。
「今、連合はMS開発に着手しし始めたの。でも、技術はあってもどういうMSを作ればいいかわからない。運用したことないからね。そこで、コーディネイターのパイロットにMSを動かさせて、他の航空機、戦車の連携も踏まえた実験を行い、そこで得たデータを基にMS開発をしていく。そのために作られた部隊よ。けど…」
ミレーユは言おうとしたことをシグルドが言った。
「ザフトが気付き始めてる。」
「だからザフトの一部隊もいるのか。」
ミレーユは頷いた。
「そう。向こうはその前に何とかしたいけど…ただ、MSを本当に開発しているかわからないし…ナチュラルにはできないと思っている。今いるザフトの部隊は、ある特務も兼ねてその情報も得ようとしているの。」
「その特務って?」
「ウェイン・ギュンター。彼ね…もとはザフトに居たの。でも、開戦して数日後、脱走したの。そして、向かった場所は…今の地球軍よ」
それが意味すること。
その言葉の後、沈黙が流れた。
作業用ジンの前には、人だかりが出来ていた。
「すごいなぁ。これ。」
「これ…工場で使えないか?」
工場の者たちも興味津々だった。
ナチュラルでも複雑な動きをさせなければ操縦できる。
昼休みを利用して、代わる代わるウェインから操縦方法を聞き、動かしていた。
しかし、不慣れなのか、ジンの動きはグデングデンだった。
コクピットですかさず『ヘタクソ~!もっと大事に扱え!』とジーニアスからお説教を食らった。
当のヒロはというと…
離れたところでその様子を見ているだけだった。
「乗らないのかい?」
ウェインが隣に来て尋ねた。ヒロは首を横に振った。
「もう僕には…いらないから…」
しばらく沈黙が流れた。
「…何も無くなった…。」
ウェインはヒロが小さく発した言葉に耳を傾けた。
「僕はずっと村のために何かしたかった…。だから作ったのに…。」
「僕は一人だった。親の顔も知らない。僕が三つぐらいの時セシルに出会って、そしてあの村に来た。ずっと幸せだった。外の世界に比べたら、不自由なこともあったけど、僕にとって大切な場所だった…。だから…村のために何かしたかった。…。」
そこまで言った後、ヒロは何かを言いかけたが、口をつぐんだ。
ウェインはどうしたの、と尋ねた。
「話を聞いて、外の世界を見に行きたいって思っていたんだ。でも…今は行きたくない…。村無くなって、みんないなくなって…。もう、どこいっても一人なんだって…。」
ヒロは涙が溢れそうになった。その様子を見て、ウェインはヒロに静かに語りかけた。
「目の前で、大切なものを失って、今はとてもつらいと思う。立ち止まってしまうのも無理はないよ。…でも、あの時、君はあのジンを完成させようとしてたでしょ?」
「僕にも…わからない。なんで、また…。」
本当に自分でもわからなかった。ウェインは続けた。
「それでも、ゆっくりとでいい。少しずつ、少しずつ。そしたら自分がやること見つけられるよ。君は一人じゃないから。」
そう言い、微笑んだ。
「ウェインも…そうなの?自分で地球軍にいるの?」
ヒロはおそるおそる尋ねた。聞いてもよかったことなのか…。
「そうだね…。僕は…僕がやれることをしたかった。」
ウェインは答えた。
「どうしたの?アバン?」
マーサに言われ、アバンは何が?という顔をした。
「珍しいじゃない。いつもご飯を誰よりも多く、早く食べる子が…」
ふと下を見ると、食べかけのごはんがあった。
「珍しいぞ~。」
「風邪か~?」
子供たちも次々と聞いてきた。
「何でもない!」
アバンは一蹴し、急いでご飯を掻き込んだ。
工場へ行く道、アバンは昨日のルドルフとのやり取りを思い出していた。
「ここに来たのは、ヒロのためだけではないだろ?」
あの後、すべて見透かされたように言われ、思わず否定して帰ってきた。
が、
たしかに、あそこに行ったのは…自分自身のためでもあった。
地球軍の野営地では、何人か作業に追われていた。
補給はあくまでここに滞在するための方便であったからである。もちろん、体を休めている者もいるが、そうではない者もいる。
スピアヘッドのコクピットにいた一人の士官が思わず、
「町に行きてぇ~」
と呟いた。
その声が聞こえたジェロームはその士官に向かって怒った。
「クレイグ・ロフマン中尉、これはただの補給ではないのはわかっているだろう!」
「けどねぇ~、基地に戻ってもまた任務なんだぜ。だったらパァーとするぐらいいいじゃないか。」
「だったら…メンブラード二等兵と一緒に行けばよかったじゃないですか…」
そのやり取りが聞こえたのか、リニアガン・タンクより顔を出したダレンが言った。
「できたら、そうしたいよ~。なんでパイロットは居残りなんだ…。」
「ザフト艦の哨戒任務があるだろ!」
ふたたびジェロームが怒った。
「全く…向こうもそろそろあきらめてくれればいいのに?そういや哨戒任務の時、沿岸海域に地球軍の艦船らしきものがあったんだが…あれ、使えないか?」
「ああ、その艦船はダメですよ。」
そこへ買い物で町に行っていたフェリナが戻ってきた。
ウェインも一緒だった。
「なんか、以前戦闘があったところからここまで流れてきたとか…解体回収するには今の時期はあんまりよくないから、しばらくそのままらしいです。とりあえず流されないようにはしてるそうですが…」
ウェインが付け加えた。
「動くことは動くらしいですけど、使えないと思いますよ。」
「…それに、一体どうやって私たちが動かすのよ。」
先ほどまで話に加わらず、リニアガン・タンクにコンピュータを繋げ作業していたユリアがあきれながら言った。
その時、別のコンピュータが何か音をたてた。
ユリアが、それを確かめるとガウェインを呼んだ。
「繋がったか!」
そして、ガウェインは通信を自分がいるテントの方に繋ぐよう指示した。
「お久しぶりです。ガウェイン大佐。」
通信映像より司令官風の男が映し出された。
「ダイナス・ロンバート司令。早速で悪いんだが…頼めることは出来るか?」
「ええ、話は伺っています。こちらの方は守備隊をいつでも発進できます。」
「ありがとう。協力感謝するよ。」
話は聞こえないが、何かやり取りをしているのをみて、クレイグは不思議に思った。
「サンディアゴ基地の司令とだろ?どうやってレーザー通信しているんだ?」
ニュートロンジャマーの影響で電波通信は使えない。レーザー通信は遮蔽物があると通信できない。
すると、ユリアは上を指さした。
実は宇宙にいる第八艦隊の力を借り、宇宙を中継して行っている。
「はぁ~無茶するね~。」
クレイグは感嘆しながら、呆れていた。
通信を終えたガウェインは隊員たちが集まっているところに戻ってきた。
そして、隊員たちに指示した。
「明後日、早朝にここを出発し、サンディアゴの基地に向かう。途中、ザフトの部隊が追ってくるだろう。我々はそれを迎撃しながら移動することになる。各自、準備を怠るな。」
もう準備は出来ている。そう思い、クレイグはガウェイン尋ねた。
「今からでも出発できますよ。」
「雨だ。」
クレイグの質問に対し、ガウェインは一言だけ言い、テントに向かった。
「雨?」
この時期、ここは雨季になる。
しかし、それでも明後日に雨が降るのだろうか。
衛星も使えない今、天気予報も難しい状況である。
クレイグは空を見上げた。
簡単な登場人物紹介 パートⅡ
主要ではないけど、紹介した方がいい登場人物を載せます。
地球連合軍 特殊遊撃部隊
MS開発および運用のための実験部隊。宇宙、地上軍問わず、集められた。一部の軍人 から(特にブルーコスモス)は疎まれている。
ザイツ・ガウェイン
地球軍の大佐。デュエイン・ハルバートンとは同期。この部隊の指揮官。
もともとの所属は宇宙軍であるが、戦車を動かすこともできる。
ウェイン・ギュンター
階級は少尉。コーディネイター。開戦直前までザフト(プラント)にいた。ザフトを脱走、そして地球軍に所属するという経歴。本人自身も多くの人間から憎まれ、蔑まれている、と思っているが。それにも関わらず、なぜそれを選んだか?それは…
ジェローム・デュラク
階級は大尉。優秀だが、堅物なところがある。スピアヘッドのパイロット。
クレイグ・ロフマン
階級は中尉。陽気な性格。ジェロームと同じく、スピアヘッドのパイロット。
ダレン・オーガスト
階級は曹長。リニアガン・タンクを駆るが、本来三人乗りのため、作戦によって、ガンナーを務めたり、戦車のドライバーを務めたりと任務によって分けている。
フェリナ・メンブラード
階級は伍長。この部隊の中では最年少。部隊のオペレーターを務める。同じオペレーターで先輩であるユリアに憧れている。
ユリア・アカマツ
階級は軍曹。オペレーターのみならず、電子・索敵といったこともこなせる。
フィリップ・アーチボルト
階級は軍曹。輸送機のパイロット。ときどきビビりなところがある。
ロブ・カースティ
階級は曹長。整備担当。メカニックマンとして職人気質であるが、気さくな性格でも ある。
主要登場人物は序章終了後にアップする予定です。