機動戦士ガンダムSEED Gladius   作:プワプー

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どうも、こんばんは…。
今回は久々に平日の投稿です。


PHASE-39 幽霊部隊

 

 

 ユーラシアの東部に位置し、深く生い茂った木々に囲まれた山あい。木々の合間を縫うように風がなびく。

 ここは静かな所なのだな…。

 アレウスはその穏やかな風を感じながら眼前の光景に目を移す。そこには不釣り合いに、土はえぐれ、周囲の木は倒れ、一部は今も焼け焦げた跡を残していた。

 ふと、倒れた木の根元をよく凝らして見ると、小さな芽が顔をのぞかしていた。

 なるほど自然とはたくましいものだ。

 この光景を生み出したのは、人間の手によるものだ。しかし、自然はその身勝手な人間の都合に関係なく、己の生を全うするために、そして、それを次につなげるための営みを続けている。

 そんな感傷に浸っていると、後ろより人がやって来た。

 「やれやれ、基地にその後の調査でわかったことはないそうだ。で、君の方は…?」

 アレウスは首を横に振った。

 「そうか…。」

 フェルナンがため息交じりにアレウスの横に立つ。

 ザフトが降下してきて、いよいよ地上も活発になってきた矢先、ここの空域を防空圏としていた基地より定時哨戒していた一個小隊が連絡を途絶えた。飛行経路より連絡が途絶えた場所を割り出し、捜索隊を出し、この場所に辿り着いたが、彼らが見たのは、大破した戦闘機の残骸、まだ燃え残っている火種であった。パイロットたちの姿はそこにはなかったが、形式上MIAとしたが、現場の状況から戦死したものだと扱われた。

 「君も…もどかしい気分であろう。マリウス少尉とは同期であり、友人で会ったのだろう?」

 「はい。マリウスは…よき友人でした。」

 そのパイロットの1人は、アウグストの孫であり、ルキナの兄であるマリウスもいた。

 ここでなにが起きたかは調査隊が派遣されたが未だに解明されていない。現場にMSがいたらしい跡が残っていたため、ザフトと交戦したのではないかと結論付けられたが、ザフトが狙っているマスドライバーにもはるかに遠く、彼らが欲しそうな資源もないこの地域にいたのかという疑問も残されていた。

 噂では、これより少し離れた東にいったところにあるユーラシア連邦の領内に軍所有のエリアがあるらしい。しかし、そこには、一般人はもちろん軍や政府関係者もやすやすと入ってはいけずそこ(・・)に何があるのか、なぜ軍が所有しているのかわからないのである。彼ら小隊はそのエリアに何かしらの形で関わったために全滅してしまったのだという話もでている。

 「例の部隊(・・・・)が関わっているのではないかという話もあって、そのしっぽが掴めると思ったのだがなぁ…。」

 フェルナンは困り果てた顔をした。

 「例の部隊(・・・・)…。ルキナが軍に拘束された一件にも関係していると言われる部隊、ですか…。」

 「ふむ…。君は、その時は彼女が名目上配属されていた基地にいたが心当たりはあるかね?」

 それに対し、アレウスは首を横に振った。

 「まあ、そうだよね…。」

 すると、西より風が吹き抜けた。

 アレウスはその方角を見て、その方角にいてある任務に入った者たちを思い起こした。

 「彼ら(・・)は…大丈夫でしょうか?」

 「なに、きっとやってくれるだろう…。」

 

 

 

 

 

 

 「あれが、例のモノ(・・・・)か…。」

 スコープで赤土色の、起伏のある丘が広がりいくつかの低高の木々が点在する大地にズシンと置かれているカプセルを見ながらパーシバルは呟く。

 「案の定、ザフトもいるがな…。」

 それにユリシーズが付け加える。

 彼らがいるのは、イベリア半島、ちょうどザフトのジブラルタル基地の支配圏である山の峰をぬけた、ユーラシア連邦のイベリア半島最大の地上基地セビリアとの中間地点にあたる部分である。

 先日、ヘファイストス社よりMSが完成したと連絡があった。だが、問題となったはどう引き渡すかであった。そこでザフトの降下カプセルにMSを入れ、うまくかいくぐって降下させ、それをアンヴァルが回収するということになり、実際にこのように地上に降ろされた。

 アンヴァルとしては安全な地点で降下してもらいたかったが、衛星軌道上にて直前まで不審に思われない限界がここであったため文句は言えなかった。

 あとは自力で手に入れるしかなかった。

 2人は目視で状況を確認した後、トレーラーに戻っていく。

 「敵の数はどれくらいだ、ネイミー。」

 中に入ったユリシーズは早速ネイミーにレーダーで把握している状況を尋ねた。

 「ジン3機、バクゥ2機。偵察用機が1機です。」

 「…で、こっちは[プロクス]、[ロッシェ]、そしてリニアガン・タンク…。」

 パーシバルがこちらにある戦力を確認し始める。

 「はいっ、いいですか。」

 そこへ1人の下士官が手を上げる。彼の名前はダミヤン・クレメンテ。階級は軍曹で輸送隊の1人でタチアナの部下になる。が、今はギースの代わりの主計官として働いてもらっている。

 「なんだ?」

 「俺たちの主任務は輸送ですよね。全然、戦闘にその任務は入りませんよね?俺たちは帰った方がいいと思います。そう思いませんか、タチアナ大尉?」

 彼はきっとなにかやらされるのではないかと思い、なるだけここから離れられる言い訳を考えて居たのであった。

 「残念だけど…軍曹、そうはいかないのよ。」

 だが、タチアナは彼の期待していた答えを出さなかった。

 「一応、私たちはセビリア基地から(・・・・・・)所属基地まで(・・・・・・)輸送任務をしていて(・・・・・・・・・)偶然(・・)ザフトの部隊と(・・・・・・・)護衛部隊が(・・・・・)交戦になった(・・・・・・)ということにしなければいけないことになっているの。」

 「まあ、ようするにセビリア基地から部隊が派遣されないのと、俺たちがそこにいる体のいい言い訳が必要ってことだな。」

 「では、ついでにもう1つ、質問いいか?」

 今度はパーシバルが尋ねた

 「そもそも、なぜ指揮をとるのがユリシーズなのだ?」

 「そうっスよ。それが不安材料なんですから…。隊長が別の用事でいないんだったら、タチアナ大尉が指揮を執れば…。」

 パーシバルにダミヤンも乗っかる。

 「それができないから、彼にやってもらってるんでしょ?私はここにはいない(・・・・・・・・・)ことになっているんだから。だから、あなたにもここにいてもらっているのよ。」

 タチアナがユリシーズの代わりに答えた。

 「えっ?どういう意味で?」

 「おまえなぁ…。俺たちが軍上層部から常に目を光らされても好き勝手やっているのは、大将のおかげだけではないんだぞ。」

 「中尉っ。」

 「はいはい…。」

 2人はタチアナとユリシーズがいったいなにを意味しているのか、わからなかった。

 「なに…どうしたの?」

 「いや、何でもない。じゃあ、集まったから作戦を話すぞ。」

 そこへオリガがトレーラーに入って来たが、ユリシーズはそこで話を区切り、作戦概要を話始めた。

 

 

 

 

 「しかし、ホークウッド隊長がいないからパイロットは誰だろうと思っていたけど、まさかねぇ…。」

 「[ロッシェ]はフォルカー少尉っていうのはわかるけど、[プロクス]はズィーテク少尉だと思っていた。」

 [プロクス]と[ロッシェ]の調整を行っている整備士は愚痴をこぼした。

 「ズィーテク少尉は戦車たちを指揮しなくちゃいけないんだ。それにやるなら黙ってやれっ。誰が乗ろうと俺たちの仕事はコレ(・・)だ。」

 「しかし…。」

 ジャンに怒鳴られるが、やはりどこか気が進まなかった。

 それは司令塔のトレーラーの中でもそうだった。

 

 

 

 「中尉、本当に()に操縦させるんですか?」

 1人の兵士がユリシーズに尋ねた。

 「ちょっと、そっちの方ばっかじゃなくて、私の方も言ってよ。」

 オリガが文句を言っていた。

 「オリガ…、おまえはシートにしっかりしがみついていれば問題ないんだ。」

 「ユリシーズっ。だからって何で私なのよっ!他にもいるでしょ!?」

 「いや…、条件に一番合うのが、オリガだけなんだよ。Gに耐えれるように訓練されていて、降下カプセルの解除コードの操作ができて…あと、背が小さい。」

 最後の言葉を言った瞬間、ユリシーズの頬に一発平手打ちがさく裂し、目の前にぱちりと電気が飛び散るようなものを見ながら、そのままトレーラーの床に倒れた。

 「…もう、いい。」

 その一発を浴びせたオリガは怒りながらトレーラーを後にし[プロクス]に向かった。

 ユリシーズはひりひりする頬を抑えながら起き上がって彼女を見送ったあと、先ほど不満を漏らした兵士に向き直った。

 「まあ、お前たちの言いたいこともあるだろうが、隊長もアレウスもルキナもいない現状で、操縦できて、この作戦の役目を担えるのはテムルだけなんだよ。」

 「はあ…。」

 

 

 

 オリガは防弾チョッキを着て、ヘルメットを手に持ち、[プロクス]までやって来た。機体の足元ではテムルが黙々と準備をしていた。

 「狭いコクピットがさらに狭くなっちゃけど、よろしくね。」

 ユリシーズに対しての不満はたくさんあるが、テムルに向けてもしょうがないし、彼とて、きっと1人増えるのは大変であろう。

 すると、テムルはオリガを手招きし、コクピットを指さした。

 なんであろうと、不思議に思いながらオリガがコクピット内をみると、シートの後ろに人一人分が立てるスペースが確保されていた。

 「ジャン曹長に頼んだ。」

 テムルは短く言う。

 「いいの、それで?」

 オリガは確認の意味も込めて尋ねると、テムルは首を縦に頷いた。そして、ふたたびテムルはコクピットの調整作業に入った。

 寡黙でいつも1人でいることの多いテムルは初めは無愛想なのではと印象に思うが、じつはとても気配りがうまい。

 そこへふとオリガは尋ねた。

 「ねえ…テムル。どうしてゲリラから軍人に転身したの?」

 するとテムルは作業の手を止め、オリガの方に振り向いた。表情は相も変わらずだが、どこかそれ以上踏み込んではいけない気がした。

 「あっ、もちろん不満とかじゃなくて…。じゃっ…じゃあ、出身地はテムル、ときどきユリシーズと話しているときにあまり聞かない言葉聞くし…。」

 オリガは慌てて質問を変えた。

 これから乗り合わせるのに、さらに自分の命は彼にかかっているのに、空気を悪くしてしまったら最悪だ。というか、いろいろと気遣ってくれた人にこんな間の悪い質問をしてしまった自分を後悔している。

 ときどきうかつな時があるが。この時ばかりは猛省している。

 すると、テムルは静かに口を開いた。

 「…中央アジア、キルギス。」

 「えっ…。」

 その言葉にオリガは驚きを隠せなかった。

 

 

 

 

 「歴史上において、中央アジア地域っていうのは大国と大国に挟まれたゆえに左右されることが多かった。そして、再構築戦争の時も例外ではなかったとさ。」

 トレーラーの中では、ユリシーズはテムルがかつて自分に話してくれたこと、そしてそのあと自身で調べたその中央アジア地域について話し始めた。

 『最後の核』が使用されたカシミール地方から北に伸びてかつてのCISと言われた地域は中央アジア戦線と呼ばれていた。そこは地理的そして歴史的に戦争勃発以前から、現在のユーラシア連邦と東アジア共和国の2大大国、そして汎ムスリム会議、はてはインド地域が主だって動いていた赤道連合、さらにそこの鉱物資源狙っての大西洋連邦といくつもの思惑が絡み合い、そして火薬庫となっていた。

 「テムルはその中央アジアの山岳地帯で牧畜が主の小さな集落で生まれ育った。」

 その地域は戦後も問題を抱えていた。

 紛争によって荒廃した街、産業の壊滅による経済の混乱、そして核兵器による放射能の残存汚染を始めとする兵器の残留物質の健康被害…。それは70年経っても消えることはなかった。

 「そんな折、近くで地域復興という名の下の開発が行われた。」

 主だったのは、経済援助を行った大西洋連邦とその国に本拠をおく大企業だった。

 「と言っても、それは向こうに都合のいいものであり、その地域への恩恵は少なかった。さらに、地域の特性を考えもせずに行われたために、今までは安全だった集落は自然災害の被害にあった。

 「ちなみに、その企業っていうのは自然保護団体『ブルーコスモス』の資金援助もおこなっているところだったというのは、何とも皮肉だな。だが、テムルにとって一番許せなかったのは…。」

 ある時、この集落で結ばれた若い夫婦の子どもをコーディネイターにしようという提案がでた。そこには70年経ってもなお残る『戦争の爪痕』の懸念からであった。この若い夫婦に遺伝子損傷があるかはわからない。だが、その集落でなくても他の地域からはそういった話がでている。万が一ということもあった。

 『次世代に負を残したくない。』…そんな想いを込め、貧しい暮らしなか必死に貯めたお金で遺伝子操作を行い、子どもは誕生した。

 だが、どこから嗅ぎ付けたのかブルーコスモスが『青き清浄なる世界』という元に、その家族を襲撃し、その家族は命を落とした。

 「…なんというか、皮肉な話だよな。自然を畏怖し、自然と共に生きてきた自分たちの暮らしを勝手な都合で奪われ、今度はその連中に『自然ではない』と命を奪われる。」

 ユリシーズはどこか寂しげな表情だった。

 「しかし、それでは…なんでゲリラからユーラシア軍(ウチ)に?」

 「共に参加していた同郷でテムルにとって兄貴分だったやつがな…。ゲリラ内での内紛で行方が分からなくなってしまったんだ。テムルはその兄貴分は死んだと思い、ゲリラから抜けて故郷で静かに暮らしていたんだが、しばらくしてその兄貴分が生きているかもという情報を得た。それをもたらしたのが、セルヴィウス大将。」

 「大将が…ですか?」

 「まあ、大将は一度ゲリラ部隊の掃討にいたからかな…。その時テムルのことを知ったんだろう。」

 ユリシーズは話を続ける。

 「そして、テムルはその兄貴分を見つけるために軍に入ったというわけさ。」

 「中尉…各員、配置についたとのことです。」

 すると兵士が報告にしにきた。

 「そうか…じゃあ…。」

 「中尉っ!?」

 すると、急にネイミーがなにかを見つけたのか叫んだ。

 「反応、上空からです!」

 

 

 

 それは、ザフトの部隊も感知した。

 上空より地上戦闘において、大気圏外より急襲する際に使用する降下カプセルが降りてきていた。

 (おいっ。いったいどこの部隊だ?なにか報告は…。)

 ザフト中隊の隊長は尋ねた。

 (いえ、何も…。)

 その時、降下かプセルのボルトがはずれ、カプセルから黒い色をしたジンが4機姿を表し、中隊の真ん中に降りてきた。

 しばらく、ザフトの部隊は唖然としていたが、隊長がシグーを黒いジンのところに向かわせ、所属を尋ねた。

 (おい、どこの所属だ。何も聞いて…。)

 しかし、隊長の言葉はそこで途切れた。黒いジンの1機の重斬刀によってコクピットの部分を貫かれたからである。

 (おっ、おい!)

 (どういうつもりだ!)

 ザフトの部隊は突然の事態、そして隊長機を失ったことで混乱状態に陥った。

 

 

 

 (いったいどうなってるんだよっ!?同士討ち…なわけないよな。)

 「あきらかに、違うだろ?だが…。」

 (だが…?)

 心当たりがあるような様子のユリシーズにパーシバルは問う。

 (レイス…。)

 ユリシーズが答えるまえにテムルが呟いた。

 「レイスって幽霊っていう意味ですけど…。」

 ユリシーズの近くにいたダミヤンはつぶやく。

 「…俺たちがあいつら(・・・・)に対して便宜上呼んでいる名前だ。なにせ本当に存在するかしないかわからない部隊だったからな。」

 「え…?」

 「まあ、それについては…いつかは話す。」

 ユリシーズはタチアナの方を見て、彼女もうなずく。

 「まずは…この状況をどうにかすることだ。さすがに三つ巴はキツい。」

 すると、ユリシーズはネイミーのところまでやってきたインカムをとった。

 「ネイミー。ザフトの例のチャンネルあるだろう?」

 「はい。…今、使うのですか?」

 「そうさ、じゃなきゃ、いつ使うのさ。秘匿回線で頼む。あと、傍受用のも用意しといてくれ。」

 「…わかりました。」

 ネイミーは頷くとすぐに準備に取り掛かった。そして、そのチャンネルに繋がったことを確認したユリシーズはインカムをつけ、話し始めた。

 「あー…、デイビス隊、応答せよ。こちらザフト特殊工作部隊隊長アレクサンダー・ロジャーズ。…聞こえているか?」

 周りの兵士たちはいったいユリシーズが何を言っているのかさっぱりわからず目を丸くしていた。なんと、彼が話している相手は目の前で謎の部隊の襲撃にあっている、これから自分たちが戦おうとしていた相手なのだ。

 そもそも、彼はどこの部隊が知っていたのか。

 その疑念が彼らの中でぐるぐるとしていると、ザフト側からの応答があった。

 (隊長はさっき戦死していて副長である自分が今、指揮をとっている。特殊工作部隊だと…?なんでこんなところにいる!?)

 「はい。現在、我が隊は地球連合軍に潜入中で、地球連合軍の任務でこの近くにきています。」

 (なにバカなことを言っている。そんな話、聞いたことないぞ。)

 まあ、そうなるだろうな…、とこの会話を聞いている者たちは思った。

 いきなり特殊工作部隊とか、任務で潜入中だとか言われて、簡単に信じるのは馬鹿ぐらいしかいない。

 だが、ユリシーズは話続ける。

 「それは、そうでしょう。我々は国防事務局内(・・・・・・)に存在する部隊です。そして、その任務の特殊性ゆえにザフト内でもあまり知られてないのです。」

 (…少し、待て。)

 副長がそう言うと、チャンネルを閉じた。

 するとユリシーズは今度は傍受用のヘッドフォンを取り、聞き耳を立てている。どうやら周波をあわせてザフトの話を聞いているようだった。

 「これは、ラッキーだ。…国防事務局にいた人間がいたようだ。そいつに確認を取っているな。」

 ユリシーズは彼らの会話内容を独り言ちた。その表情にはどこかこの状況を楽しんでいるような薄気味悪い、なにかを企んでいるような笑みであった。

 それを聞いたダミヤンはそれではこっちが嘘をついているのがバレてしまうのではないかと不安でいっぱいだった。

 すると、ザフトのほうから秘匿回線でこちらにかけてきた。

 (…どうやら貴隊の言っていることは本当のことだな…。アレクサンダー・ロジャーズという男、実際に国防事務局にいたようだな。すまない、疑って…。)

 「いいですよ。それはいつも慣れていること(・・・・・・・・・・)です。で、本題に入りましょうか。手短に話すと、現在、貴隊が交戦している部隊は、我が隊が本国からの命令で追っていた裏切り者のコーディネイターで構成された部隊なのです。」

 (裏切り者、だと…?)

 「はい。そして、大規模作戦(・・・・・)の前に排除しろ、との命令を受けていますそして、探しだし見つけ出したところ貴隊が交戦していました。つきましては協力を仰ぎたいのですが…。」

 ザフト兵はしばらく沈黙したのち口を開いた。

 (…そうか。どうすればいい?我らは隊長を失い、現在も手数が少なくなっている。)

 「これからデータを送りますので、ポイントに向かってください。そこに仕掛け(・・・)があります。その仕掛けにかかったところを攻撃してください。」

 そう言うとユリシーズはデータをザフトに送り、無線をきった。

 「もう、この回線と部隊名は使えないな。」

 「それ…|いろいろと大変のなのよ。」

 「いや~タチアナ大尉…緊急事態だったもんで…。ネイミー、後でリストから削除しといてくれ。それと、[プロクス]にタイミング(・・・・・)を見て、攻撃を仕掛けるように伝えてくれ。」

 「わかりました。」

 「…たっ、種明かししてくれませんか?」

 ダミヤンは混乱していた。当初、ザフトがこちらのこんな嘘ぱっちを信じるなんて思ってもみなかった。そうであろう。ザフトの特殊部隊なんかあるかないかなんてわからないし、そもそも誰が指揮を執っているのかなんて普通はわかるはずがない。

 しかし、ユリシーズは彼らを自分たちは地球軍に潜入したザフトの特殊部隊であると勘違いさせたのだ。しかも、タチアナやネイミーはこのことに平然としている。

 「それは、教えられないな~。」

 それに対し、ユリシーズはさきほどの悪い笑みを向けた。

 自分は普段、アンヴァルの戦闘には参加していない。ゆえにこれらのことがいつも通りおこなわれているのか、それとも今回が特別なのか。どちらにしても、普通の部隊ではありえないことだらけであった。

 これ以上考えると自分の脳の容量の限界をむかえるかもしれない。

 ダミヤンは最後にと、もう1つ質問した。

 「では、いったいこれからなにをするのですか(・・・・・・・・・・・・・)?」

 すると、ふたたびユリシーズはあの悪い笑みで答えた。

 「俺たちの戦力で2つを相手にするのはムリっていうのはさっきも言っただろう?だから、ちょっと仕掛け(・・・)をしたのさ。仕掛けをね…。」

 

 

 

 

 「ここがポイントか…。」

 副長は残ったモビルスーツとともに指定されたポイントに集結した。

 半信半疑であったが、この状況を打開するにはこの手しかなかった。こちらに現在残っているのは3機。対して向こうは無傷の4機。不利であった。

 それは向こうも分かっているのか、誘うわけでもなく黒いジンはこちらにやって来た。

 これでいい。

 後は彼ら(・・)が仕掛けたトラップを待つだけだ。

 偶然にもこの隊に国防事務局にいた者がいたおかげで、彼らを偽物と断じることをしなかった。彼の話では、たしかにその部隊はあり、特別な方法を使って情報のやり取りをしているとのことであった。

 それを聞けば、もう彼らは本物(・・)だ。

 そして、自分たちは裏切った同胞を始末できる名誉も得られる。

 副長はあの黒いジンたちがトラップにかかる瞬間に、いつでも引き金を引けるように突撃機銃を構えた。

 さあ、来い…。

 しかし、待てども何も起こるような様子はない。このままでは距離が近づきすぎてこちらも危ない。

 そもそも、迎撃しなければいけない距離だった。

 まさか、仕掛けがうまく作動しなかったのか。

 副長に不安と恐怖が込み上げてきた。

 もう一回連絡を取るか…。

 そう思い、彼がチャンネルを開こうとした瞬間、足元より閃光が視界を覆い始めた。

 なんでだ?

 副長は愕然とした。

 なんで自分の足元(・・・・・)にトラップがある!?

 そのままパイロットは光に包まれ思考も停止した。

 今、彼らの足元でトラップが作動し、激しい閃光を放った後、轟音を轟かせ爆炎を上げた。

 

 

 

 黒いジンたちは彼らがいつ応射してこられてもいいように構えながら、ザフトのモビルスーツに迫っていた。

 しかし、このジンのパイロットたちにとっても、いきなり彼らの足元で爆発がおこるなど予想しておらず、爆発に巻き込まれないように逆制動をかけ、足を止めた。

 すると、別のところから砲撃がやってきた。そして自分たちの目の前にザウートの方を背負ったジンが目の前に現れたのであった。

 一瞬、遅れたために、内の2機は片腕を失ってしまった。

 「凄い…振動。」

 オリガはGに耐えながら、シートにしっかりしがみついていた。

 さきほど、ユリシーズから相手の隙を狙って攻撃を始めてくれと言われたときはまったく意味がわからなかったが、どうやら今のがその時であったようだ。

 一応の奇襲には成功したが、問題はこのあとだった。

 これからある程度時間を稼がなければいけない。

 しかし、相手がザフトからこの黒いジンたちになろうとも自分がやれることはこうやってシートにしがみつくのみでであった。

 それは歯がゆいことであったが、こうやって見ていると自分には到底ここまでモビルシーツを動かすことなんてできないと思った。

 テムルに任せるしかなかった。

 

 

 

 

 「ズィーテク少尉、バータル軍曹の[プロクス]が戦闘を始めました。」

 「わかった。合図がいつあってもいいように撃てるようにしておけよ。」

 「了解(ラジャー)。」

 点在する低高の木々の林に身を隠すようにしているリニアガン・タンク内にてエドガーは報告を受け、ガンナーに指示を出す。

 「…大丈夫でしょうか?」

 ドライバーが不安そうにエドガーに視線を送った。

 「状況が変わっても、俺たちがやることは変わらないさ。それに、バータル軍曹が頑張ってくれなきゃ俺たちなんか役にも立たないものさ。」

 

 

 

 

 4機を相手に、[プロクス]は善戦していた。

 が、もともと機動性がなく、かつ1人プラスに乗っている状態ではなかなか動き回れなかった。

 すれ違いざまに黒いジンの突撃機銃が右肩部のキャノンに命中してしまった。

 その反動によって[プロクス]はバランスが崩れかかる。

 それを狙って黒いジンが斬りかかろうとしていた。

 その時、黒いジンは気付かなかった。

 いま、自分が通ったところにビーコンがあることに…。

 「まずいですよ…。」

 トレーラー内でその様子を見て居た思わずダミヤンは叫んだ。

 その時、ずっとモニターを見てなにかを待っていたネイミーが叫んだ。

 「反応、ありました。位置、距離測定…。ズィーテク少尉!」

 そして、すぐにリニアガン・タンクを率いているエドガーが指揮をとっているリニアガン・タンク隊へと送った。

 

 

 

 なんとか、[プロクス]は崩れることなく、バランスを保ったが、その隙をつき、別の黒いジンが剣を突き立て、こちらに迫って来てきていた。[プロクス]も剣を抜くが、間に合いそうになかった。

 やられる…。

 隣でシートに捕まっているオリガは思わず目をつむった。

 が、その瞬間、どこからか飛んできた砲弾が黒いジンのスラスターを内部に突き抜けていくかのように当たった。

 スラスターが小爆発を起こして不調になり、一瞬何が起きたかわからない黒いジンの気がそれたのを狙い、テムルは、剣をふるった。剣刃は黒いジンの胴部を切り裂き、ジンは爆発した。

 「…間に合ったか。」

 さすがのテムルも冷や汗をかいていた。

 

 

 

 ‐Hit‐

 こちらから戦況が見えない状況で、ディスプレイに浮かぶ文字列が浮かぶ。これのみが、自分たちがモビルスーツに命中したかわかる唯一の方法だった。

 起伏ある丘に点在する林にリニアガン・タンクを配置させ、有視界から外れるのをあらかじめカモフラージュを施して設置したビーコンのみで距離と位置を観測して撃つ。

 だが、彼らにはもう1つ懸念があった。

 その結果を待ちかねていると、林の中からは急いで走って来る兵士の姿があった。エドガーはタンクのドアを開け、彼を呼ぶ。

 「弾の威力はどうだった?」

 そう、当てるのはずっとやってきたことだから簡単なことだ。だが、問題はMSに通用できるかであった。

 「はい…。スラスターの部分と弱い部分ですが、たしかに装甲を貫きました。」

 「そうか…。」

 それを聞いたエドガーは内心ホッとした。どうやら開発中の試作の砲弾はなかなか使えるようだった。

 「…しかし大将といい、スヴォロヴ中尉といい相手の庭を自分の庭に作り替えるが上手ですね。」

 ふたたび戦車の中に戻るとドライバーから笑みを向けていた。

 「まあな…。」

 だが、まだ1発だけだし、なにしろ試作品のため数が少ない。気を引き締めなければいけなかった。

 

 

 

 

 

 黒いジンが迂闊にこちらに近づかないように牽制し、にらみ合いが続く中、テムルは先ほど被弾したキャノン砲の状態を見た。しかし、モニターでは警告サインがでており使えない状態であった。そんものあっても邪魔なだけだ。

 「肩部キャノン、パージ…。プロペラントタンク、パージ…。」

 テムルは両肩のキャノン砲を2門とも外し、ついでにバランス調整の役割を担っていたプロペラントタンクもはずす。

 これで少しは軽くなった。

 が、残った武器であと3機相手にしなくてはいけなかった。

 そのうちの1機が別の方向に進み出た。

 どうやら敵も気付いたようだった。

 「中尉っ!」

 「敵もバカではないってことさ、パーシバルっ、少尉っ!」

 そしてインカムで叫ぶ。

 「わかっているっ!」

 別の林では、膝をついてなるだけ低くし、カモフラージュとして使っている木と同じ色の布から[ロッシェ]のモノアイが光り、大型のレールガンを構えていた。

 こちらもトレーラーと戦車との射撃データリンクをしている。

 まず、エドガーの戦車隊が砲弾を各方面より放つ。

 さすがに敵も理解したのか、なんとか避けようとするが、1発脚部に当たり、動けなくなる。

 「当たれっ。」

 そこを、[ロッシェ]がレールガンを放ち放たれ、黒いジンの胸部を貫いた。黒いジンは沈黙し、そのまま倒れ込んだ。

 

 

 

 

 「…今だ。」

 テムルは急いで降下カプセルに向かった。

 残りの2機も気付き、こちらを追いながら、突撃機銃を撃ってくる。[プロクス]も2連副砲で牽制しながら、急いでカプセルに向かう。

 あと少しで手が届く。

 と思った瞬間、[プロクス]に砲弾があたり、[プロクス]は衝撃で吹き飛ばされ、カプセルに激突し、倒れ込んだ。

 

 

 「いったい何があった!?」

 ユリシーズはスコープで戦闘の様子を見ている兵士に尋ねるが、それよりもはやくネイミーが報告する。

 「中尉っ!カプセル近くで熱紋が…。」

 すると、まるで地面からモビルスーツが生えるように、砂を被った黒いジンが現れた。

 「もう1機いたのかよ。っていうか潜んでいたのかよ…。」

 さすがのユリシーズも驚いていた。

 おそらくこのカプセルが降下した直後からいたのであろう。そして、あくまでも奥の手として向こうも残していた。今、それを使ったのだ。相手の無茶苦茶な戦略もさることながら、数日間ずっと潜んでいる強靭な精神に唖然とするしかなかった。

 「バータル軍曹!オリガ少尉っ!」

 そんな思案もネイミーの必死の叫びでストップした。そうやら返事がないのだ。だが、テムルが簡単にやられたとは考えにくい。

 しかし、[プロクス]は依然として動かなかった。

 

 

 (くっ…我慢できん!)

 パーシバルが通信越しに叫ぶと、カモフラージュを取り、そちらに勢いよく向かった。しかし、武器は長距離用の大型のレールガンとシールドのみの[ロッシェ]にはほんの少しの時間稼ぎしかならなかった。

 「くそっ!」

 ユリシーズは悪態をつくが、どうすることもできなかった。

 黒いジンが降下カプセルに近づいてくる。この状況でそれを止める術はなかった。

 奪われる…。

 誰もがそう思った瞬間、黒いジンの腹部にミサイルが当たり、爆発する。ジンはそのミサイルが放たれた方にギロリとモノアイを向ける。

 [プロクス]のコクピットが開いており、そこに人が立っていた。オリガであった。彼女は[プロクス]のコクピット内に備えていたランチャーを構えていた。

 「いっ…、オリガっ!?」

 スコープでそれを認めたユリシーズも驚きの声を上げた。

 オリガはふたたびランチャーを発射した。ふたたびジンに当たるが、ビクともしない。

 「おいっ、オリガ!下がれ!」

 ユリシーズはオリガに無線で連絡をするが、彼女はジンと対峙したまま、動かない。

 「オリガっ!」

 その状況にたまらず、タチアナが割って入り叫んだ。

 「早く、そこから退きなさい!そんなもの…守ってもしょうがないのよっ!」

 しかし、依然としてオリガは返事をしなかった。彼女の耳にはもちろん2人の言葉は聞こえていた。

 だが…。

 オリガはインカムを取り捨てた。

 ユリシーズが言いたいことも、お姉ちゃんが言いたいこともわかるが、聞きたくない。

 黒いジンがこちらに銃を向けてくる。

 あんなのに撃たれれば、ひとたまりもない。けど、退けなかった。

 自分がここで退いてしまったら、敵の思うつぼだ。

 負けてたまるか…。

 オリガはランチャーを構え、神経を集中させる。

 その時、遠くよりプロペラの回転音とエンジン音が聞こえてきた。

 それは黒いジンたちにも聞こえたのだろう。それを確かめるように空を見上げる。オリガもつられ、上を見上げると、連合軍の大型輸送機がMSの攻撃回避高度の限界を飛んでいたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 輸送機の貨物室には、1機のモビルスーツがおり、リクライニングの姿勢で電源を落とした状態でいた。

 直線的な形状で、ツインアイ、2本のV字のブレードアンテナ…。シールドとライフルを持ち、背部にはビームサーベルがマウントしていた。それは、地球連合が生み出したGAT-Xシリーズと似た形状のモノだった。ベースカラーは白、肩部とボディはコバルトブルーとストライクの青より少し濃い目で、腹部はグレー、そして排熱ダクトは黄色だった。

 (まもなく限界高度です。)

 輸送機のコクピットよりパイロットから通信が入った。

 「…わかった。」

 モビルスーツのコクピット内で待機していたパイロットはうなずき、OSを起動した。モニターに『General Unilateral Neuro-Link Dispersive Autonomic Maneuver…』と文字列が並び、計器類等が光り出す。

 MBE-003 ヘカトス。ヘファイストス社とアンヴァルの共同開発された高性能モビルスーツでOSはその性能に対応できるようにG兵器に搭載されているOSを使っていた。

 「ヘカトス…、『遠くにまで力の及ぶ者』。」

 ディアスは呟き、瞑目した。

 己の存在は世界の広さからすれば小さいものだ。

 自分の右眼を失った日から、自分の居場所を失ったときから、戦友たちを失ったときそれを痛感した。自分たちにとってあんな出来事(・・・・・・)でもそれを知る者はほとんどいない。あの時(・・・)から、ときどき自分は生者(・・)なのか、死者(・・)なのかわからなくなるときがある。

 (機体、パージします。)

 輸送機のパイロットの言葉と同時に後方のハッチが開いた。ディアスは目を開き、操縦桿を握った。そして、ガコンと留め具が外され、機体が後ろに下がり、ヘカトスは宙に躍り出た。

 

 

 

 何かが降って来る…!?

 オリガがそう思った瞬間、突如彼女は誰かに腕を掴まれ、気付いたときには[プロクス]のコクピットに入っていた。

 「テムルっ!?」

 黒いジンたちの意識が上にいったのを見計らって、テムルが彼女を連れだし、[プロクス]をその場から離脱を始めたのだ。

 「脳震とう…起こした。」

 テムルは短く毒づいた。

 「脳震とうって…あんなんだったのに、それだけ?いや、そうじゃなくてここから離れたら…。」

 「いいんだっ。」

 オリガの言葉をテムルが遮る。

 「あれは…味方だ。」

 

 

 

 

 

 

 この先、どこまで行けるか…。

 ディアスは照準器を出し、下のジンにビームライフルを狙い定めた。

 これが、その始めの…トリガーだ!

 ヘカトスのライフルから一条のビームが黒いジンの鎖骨を貫き、爆発する。それをうけ、他のジンは後方へ下がり、降りてくるヘカトスへ突撃機銃を撃ち続けた。ヘカトスはシールドで防ぎながら降り立つ。

 

 

 

 「凄い…。」

 オリガが感嘆しているのを余所に、テムルはヘカトスと黒いジンの戦闘を横目で見ながら、カプセルに急いでいった。

 もうこの[プロクス]の状態では援護に行けない。しかし、カプセル内に1機だけ(・・・・)あるアレであれば行ける。

 「少尉、もうすぐ着く。」

 そうして、カプセルの目の前につきコクピットを開いたテムルはカプセルの側面にある開口付近にワイヤーガンを放った。

 「待って、本当にコレを使うの?」

 オリガの問いにテムルは頷く。

 しっかりと固定したのを確認したテムルはオリガを抱え、カプセルまでジャンプし、中へと入っていった。

 

 

 

 (…バータル軍曹とオリガ少尉がカプセルの中に入りました。)

 偵察班からの報告が入る。

 「よしっ、あの黒いジン3機を隊長が相手にしている間に、戦車部隊と[ロッシェ]は下がれ。」

 (あの中にモビルスーツがあるんだろう?俺もとりに行く。)

 パーシバルが反論した。

 「いや、それは無理だ。」

 しかし、ユリシーズから予想外の言葉が出た。

 「あの中にはモビルスーツは1機しかない。」

 その言葉に、通信ウィンドウ越しのパーシバルを含め、周りの者たちは鳩に豆鉄砲を食ったような顔をしていた。

 「…はぁ~!?」

 そして、みな同時に声を上げた。

 

 

 

 

 相手の戦い方が変わった。

 これまでは一撃必中でこちらのコクピットやエンジンなどのバイタルパートを狙っていた。が、いくら撃っても効果がない(・・・・・・・・・・・・)理由に気付き始めているようであった。そして、今はずっとこちらの足を止めさせないように、応射している。

  2重装甲。

 実体弾に対して、ある程度無力化できるPS装甲ではあるが、展開している間電力を消費し続けるため、稼働時間はジン等のモビルスーツに比べ短い。

 その欠点の補填は、すでに初めて実用化されたG兵器の設計の時点から行われていた。 その1つが、この2重装甲である。

 外側に通常装甲、内側にPS装甲を備え、実体弾を被弾した時、外装に備えている圧力センサーの反応でフェイズシフトする。これにより、エネルギー消費量は大幅に軽減する。現在、G兵器を開発した大西洋連邦は、それを採用した後継機を開発しているという。

 とは言っても、いつまでも当たり続けていては、エネルギーは消費されてしまう。

 ディアスは計器のバッテリー残量を見ながら、罠とわかっていても、必死に敵の攻撃を回避するため、動かす。

 回避の度、全方位からのGが体に重くのしかかる。

 なるほど…こいつら手練れ(・・・)ている。

 自分たちのこれまでの先方が通用しなくても次の手を考える。しかも命令とか指示ではなく互いに自分たちが考え、意志疎通で行う。

 戦場の場数を踏まなければ、そんな判断はできない。

 そうか、おまえたちか(・・・・・・)…。

 だが、今はそんな感傷的な気分に浸っている暇はない。

 いくらモビルスーツの防御が優れていても、中身の人間がダメになったらただの鉄くずだ。

 これをいつまでも続けていては体がもたない。

 いい加減に、手を探さなければ…。

 そこへ正面の黒いジンが突撃機銃を構え、ふたたびこちらを撃つ姿勢を見せたとき、すると、後方の降下カプセルの方向から黒いジンに向け、機関銃が放たれ、黒いジンに銃弾の穴が開いた。そして、ジンはそのまま動かなくなった。

 「…助かったというべきか。」

 真っ暗な降下カプセルの中から出てきて、そのシルエットが鮮明になる。

 ヘカトスと同じような直線的な形状。背部にビームサーベル一対を、手には機関銃とシールドを持っている。頭部のセンサーはゴーグル型となっていて、ベースカラーは白で胸部はライトグレー。肩部と膝から下の部分、脚部スラスターはダークグレー。これは、ヘファイストス社が量産機として開発したものであり、GMW-01に各種戦闘目的に合わせた外装アーマーを装着することで、戦闘レベルのスペックを引き出させた機体である。この形態は通常タイプでMBE-01という形式番号を持ち、名称は『バレット』である。

 今、操縦しているのは先ほど中に入ったテムルであった。

 オリガはと言うと、カプセルの中で、巻き込まれない場所にいた。

 「テムル…いけるか?」

 ディアスは通信で尋ねると、彼はだまって頷いた。

 2機の黒いジンはというとうかつに動いてこない。

 この状況は不利だと分かっている。いや、すでに勝敗は決していた。

 それがわからないあいつら(・・・・)ではない。だが、彼らは撤退する動きは見せない。いや、撤退などないのだ。彼らのような部隊にとって、失敗=死なのだ。勝つことのみが生きることであった。それは、自分もかつて同じようなところにいたために十分理解できる。

 ディアスは一度深呼吸し、黒いジンを見据える。

 その目には、普段の気の抜けたものから鋭く、獲物を捕らえる捕食者のごとく戦士の眼をしていた。

 せめて、彼ら(・・)に戦う者として正面より受け止めよう。

 彼は操縦桿を強く握りしめた。

 どれほどの時間が経ったのだろうか。

 膠着状態を破るように、まず1機がこちらに射撃しながら迫って来る、その後ろからもう1機が剣を抜く。

 射撃するジンをテムルがバレットを駆り、シールドを掲げ、ジンに近づく。そして、2機がすれ違う瞬間に背部のサーベルを抜き、切り裂く。

 切り裂かれたジンは閃光をほとばしり爆発した。

 もう1機のジンはヘカトスに向かってきていた。

 ヘカトスはライフルを向け、放つ。

 だが、向こうはタイミングを見計らっていたのか、寸でのところ避け、右腕に当たる右腕は爆発し、持っていた剣とともに失うが、それでもなおジンは動きを止めず、頭から突進していった。思わぬ行動にディアスは動きが遅れ、後ろに押されカプセルに激突した。

 カプセルでは大きな衝撃にオリガが身を屈ませたのが視界にとらえた。

 「こいつ…。」

 ヘカトスのビームサーベルを取ろうと右手をあげるが、その腕を左腕につかまれ動かせなかった。その膠着状態が続いた。

 「まさか…。」

 ディアスは相手が何をするのか察した。

 「オリガ、そのまま伏せてろ!」

 全周波でディアスは叫ぶと、思いっきりフットペダルを踏んだ。ジンはそのまま抑え込もうとしたが、機体の性能差によって力負けし、今度はジンの方が押されていった。

 そして、ヘカトスはジンの首元と掴むと、空中へとジンを投げだした。

 その滞空中、ジンは内部より閃光が走り、爆発をした。

 最後の手段として自爆装置を使い、一矢報いようとしていたのだ。

 バラバラと落ちる、機体の残骸をディアスは見届けた後、トレーラーの方を一瞥した。

 「…許しは乞うつもりは、ない。」

 そして、通信を切ったコクピット内で独り言ちた。

 

 

 

 

 

 「大将…。無事に作戦は終了しました。」

 大西洋の海に夕陽が落ちるころ、フェルナンは基地近くの釣り場にいたアウグストの元に報告しにやってきた 。

 彼は目立つからとこの立案した人物から言われ、彼はずっと暇を持て余していたのだ。そこで作戦中は基地の近くの街の居酒屋で昼間っから飲んだり、このように釣りをしていた。

 「ユリシーズは?」

 本来なら彼もともに来る予定だったが、その姿はいない。

 「彼は、他のメンバーから詰問されています。」

 「まあ、モビルスーツ取りに行くと言いながらそのモビルスーツの1つが別の所からやってきたり中には1機しかないないなら怒るだろうな。まあ、それを込みでやったんだしな…。」

 今回の作戦…その目的の1つは、ヘファイストス社から送られてきたモビルスーツを取りに行くという形で、彼らが追っている部隊を自分たちの目の前に出させることにあった。

 「これで、ヤツらの正体が見えたといっても言い。」

 対する相手の姿が見えれば、こちらもそれなりの対処ができる。彼らが何者(・・)で、どこから続いているのか。その糸口が見えてきた。

 「そうですね…。しかし、本当に()には驚かされました。」

 「まあな…。それを提案された時はあれだったが。アイツは見事にやった。下手な目を出せば、今までの積み上げたものをすべて吹っ飛ばしかねない賭けで、人の命をチップにし、たった一言を引き出させた。」

 実は今回の作戦で、相手の姿以外にもう1つの狙いがあった。

 そして、それもまた見事に成功した。

 「いやはや…ときどき()の判断に困ります。」

 「まあな…、ああいったのも自分の家のくだらない日常の、あらかじめ敷かれたレールの上で生きていくことの嫌気からきているからな…。」

 そこで今話題にしている人物の話を切った。これ以上言うのも、彼に悪い気がしたからであった。

 「あとは…ディアス・ホークウッド次第だ。あいつが…コレ(・・)に、しかと向き合うかどうかだ、だ。」

 

 

 

 セロの散歩のために街に繰り出したディアスは途中、休憩がてら公園に行き、セロをペット用の遊び場に離した後、自分はベンチに座って、その様子を眺めていた。その一方では別の事も考えていた。

 「お久しぶりです、少尉(・・)。」

 すると、となりに大男が座ってき彼に挨拶をした。顔に大きな傷があるが、その落ち着いた雰囲気のため、威圧されてしまうようなものはなかった。

 「今は大尉だ。…まあ、階級なんて飾りだがな。」

 「…相変わらずですね。」

 大男はディアスの言葉に笑みを浮かべた。

 「そっちのほうはどうなんだ?」

 「ドゥァンムー殿のおかげで、こちらはみな、食うことには困らずにやって行けていますよ。」

 「…そうか。それならよかった。」

 ディアスはどこか安堵した表情で頷いた。

 「俺は…おまえたちにすまないことをしているな。」

 ディアスは視線を落とし、ふたたび話し始めた。

 「俺は…あの時(・・・)、死んでいるかおまえたちのように生きながら死人になっているかどっちかのはずだった。なのに、俺は生きている(・・・・・・・)まだ生きているんだ(・・・・・・・・・)だ。」

 「しかし、我々はあなたが生きている(・・・・・・・・・)、そして1年半前、あなたが我々に言った言葉があったからこそ、我々はこうしてここにいる(・・・・・)。でなければ、今ごろ世界のすべてを呪ってどこかでくたばっていたでしょう。」

 「…そうか。」

 その言葉がかえって辛いときもある。こういう生き方もまた彼らを苦しめているのではないかと自責にかられるときがある。そして、これから自分がいうことは彼らにさらに辛い決断をさせようとしていた。

 「…少尉。」

 隣の男はディアスの様子に心配そうに尋ねる。

 「すまない。本当はおまえたちが生き返る(・・・・)まではっと思っていた。が、アンヴァルだけではムリだ。あの時間(・・・・)を共有し、あの時(・・・)を乗り越えたお前たちの助けが必要なんだ。」

 ディアスが何を言いたいのか、それは男にはわかっていた。そして、これは彼が自分たちに謝罪することでもないことも…。

 「少尉の助けをできること…それも我々の戦う理由ですよ。」

 自分たちと同様にディアスもまた苦しい思いをしていた。そして、自分たちはさきほど言った通りあの時間(・・・・)を共有した戦友だ。だからこそ、いつでも呼ばれるのを待っていた。そして、その時は来たのであった。

 

 

 

 

 

 

 北アフリカの地中海沿岸の都市。

 ハルドゥーンを訪れにある部族の長がやって来た。彼の表情から憔悴しきっていることがうかがえる。

 「ハルドゥーン殿、どうすればいい。みな不安がっている。」

 「これは、どうすることもできないでしょう。()に弁明に言ったとしても、今度は我々に銃口を向けてくるかもしれない…。」

 「しかし…それでは、バナディーヤが…。」

 部族の長は悲痛な面持ちをした。その気持ちはハルドゥーンにも痛いほどわかる。だが、どうすることもできなかった。

 ハルドゥーンは邸宅の中庭に目を移した。

 「()猫であった(・・・・・)と思えてしまうほど、嫌な後任がきたものだ。」

 

 

 

 

 サハラ砂漠。

 この時期にかかると砂嵐が頻繁に発生し、砂塵が強風に吹き上げられ上空高く舞い、それはまるでおぞましさを感じさせるほどのものはであるが、今日リビア砂漠の交易都市であるバナディーヤでは別の様相を見せていた。

 「なんだよ…、あれはっ。」

 変事を聞きつけ、様子を探りに来た『明けの砂漠』の者たちがその光景に開いた口が塞がらなかった。

 バナディーヤの街を覆うように空高く上っている砂嵐のようなものは、黒煙であった。そして、街は、火の海であった。

 周りにはザフトの陸上戦艦及びMSが包囲し、街に向け砲撃している。

 

 

 陸上戦艦の艦長が困惑気味にこの作戦の指揮をとっている白髪の優男を見た。男はつねに笑みを絶やさずにいて、この状況でも笑っているのかと、艦長は背中に寒気を感じた。

 本来なら階級は艦長の方が上ではあるが、彼の所属するザフトの部隊とその隊長が国防委員長より与えられた権限により、口を挟むこともできなかった。だが、これをいつまでも黙ってい見ているわけにもいかなかった。

 「なにも、ここまでしなくても…。ここはバルトフェルド隊長の駐屯地になっていた場所です。これでは我々に反抗する者が出てきます。」

 艦長はおそるおそる尋ねるが、その男は気にも留めていないようであった。

 「では…その時は、その者たちを1人残らず(・・・・・)消さなければなりませんな。」

 恐ろしい事をさも当たり前のごとく話すその男に艦長は顔をひきつらせた。

 「そもそも、バルトフェルド隊長が甘い要因も一因にあるんですよ。聞くところによると、ここバナディーヤからもレジスタンスがいたそうじゃないですか。彼らを支援した者もいたとか…。で、あるならばここも攻撃すべきでしょう?」

 「しっ…しかし、この街には民間人もいます。仮にレジスタンスを支援していた者たちがいるのであれば、その者たちを見つければ…。」

 「民間人(・・・)とは()ですか?」

 優男は艦長の言葉に対し、質した。

 「あなたは…民間人(・・・)反逆者(・・・)の見分けがつくのですか?」

 優男は艦長の方に顔を向き、なおも問い詰める。艦長はその問いに答えることができず、言葉につまった。

 「見分けがつかないのであれば、すべて(・・・)を葬らなければならないのですよ。たとえ、1人でも残せば、後の禍根(・・・・)となる。それは歴史が証明しているでしょう?ゆえに、私は疑いがあれば根こそぎ刈ります。やるからには徹底的に行います。…それが、私の信条です。私が、そうですから(・・・・・・)…。」

 「例え、それが後顧の憂いのなるものだとしても…よくぞそのように平気な顔(・・・・)をしていらっしゃる。」

 艦長は皮肉交じりに言ったが、当の本人はどこ吹く風とばかりに答える。

 「これが、仕事(・・)なので…。」

 すると、通信をキャッチしたのか、オペレーターが報告した。

 「本国よりユースタス隊長より通信がはいってきました。」

 そこへ通信が入った。

 (首尾はどうだ?)

 「抜かりはございません。ユースタス隊長。」

 (そうか…。これからザフトはこの情勢を決するべく大規模作戦を行う。ささいな綻び(・・・・・・)も見逃してはならないのだ。)

 「はい。」

 (ところで今、ジブラルタル基地に屯留し、北アフリカのレジスタンス掃討をおこなっているな?)

 「はい、現在進行形ですが…。」

 (すまないが、そこは現地部隊に任して、違う任にあたってくれ。)

 「隊長がそこまでおっしゃるということは…とても重要なことが起きましたか?」

 (ああ。先日、ユーラシア地域に落下した降下カプセルを調査した部隊が全滅した。偵察機の壊れたデータを修復していると、かろうじて画像が残っていてな…。そこには新型のMSが映っていた。)

 「ほう…。たしかに脅威、ですな。」

 その優男のにこりとした笑みの瞳から不気味な光を放っていた。

 

 

 

 

 ハックは格納庫に搬入されてきたモノをかれこれ小1時間見続け、その正体を探ろうとしていた。しかし、考えれば考えるほど、わからない。

 それは一見すると青い色をした戦闘機のようだった。しかし、戦闘機にしては大きい。それに、コクピットも普通は上にあるはずなのだが、腹部と言い表していいような場所にあった。ハッチが開いていてそこでは|コレともに乗って来たススムとかいうアンヴァルの整備士がメンテをおこなっているのだから間違いない。

 「なあ…アレっていわゆるモビルアーマーか?」

 ちょうど近くを通ったサイラスに聞いた。

 「すこしは勉学に励んだ方がいいと思うがな。モビルアーマーとは宇宙戦闘機のことを言うのだぞ。それがわざわざこの大気圏内のましてや海中を移動する潜水艦にあるとはお笑い草だ。」

 「じゃあ、なんなんだよ。そもそもアレがなんでここにあるんだ?また船長のコレクションが増えたのか?」

 「あれは、積荷(・・)だ。」

 「船長っ!?」

 ハックはまさか今話題にした当人が近くにいたとは思わず驚いた。

 「積荷とは…?」

 そんなハックの様子を横目にサイラスがネモに尋ねた。

 「ああ。ヘファイストス社というより、アンヴァルからなんだが、最終目的地はアラスカだが、その前に追いつければ渡してくれ、と言われてな…。」

 「そこへ渡せば、これの正体もわかるんですね?」

 ハックは身を乗り出し尋ねた。

 ネモの曖昧な表現よりもアレ(・・)がいったいどういうものであるのかという思いの方が強かった。

 「なんだ、ハック…。やる気だなぁ。この積み荷を届けるのが優先事項だけど、他にもい事が立て込んでいてな…。ここはハックに任せるか。」

 「船長~、そりゃぁないっすよ。」

 ガックリとうなだれるハックに隣にいたサイラスをはじめ、近くにいた船員たちは大笑いした。

 「どうしたんですか、いったい…?」

 そこへ話題になっている巨大な航空機(・・・・・・)の整備を終えたススムが入って来た。まさか、自分のことが関係しているとは思わず…。

 「いや、な…。アレ(・・)がいったいなんなのかハックが知りたがっていてな。」

 ネモが笑いをこらえながら説明する。

 「なあ、ススムさんよ~。せっかくタダで乗せるんだからアレ(・・)について教えてくれよ~?」

 「ダメですよ…。」

 ハックはススムに頼むが見事に断られた。

 「一応、アンヴァルのものなので、機密扱いなのですか…。」

 「そこを頼むよ~。開発に関わってきくじゃないか、ススム~。技術者としてはやっぱり性能とか誰かに話したいだろう~?」

 「それは、そうなのですが…。」

 ハックに付け込まれ、困った顔で考え込んだススムは少し観念したようだった。

 「…わかりました。名前だけですよ。」

 そして、タブレットを出して操作し、ハックに見せた。

 「どれどれ…。」

 ハックがのぞき込むと、そこには型式番号MBE-008という数字と『GRADIVUS』というこの機体の名称が表示されていた。

 

 

 

 

 

 

 




あとがき
 やはり1ヶ月がちょうど投稿できる間隔期間ですね…(汗)
 ところで(あえて話題をかえて…)最近、電子書籍を買ったのですが、ガンダム関連では今まで出版されたけど本屋でなかなか見つけることができなかった小説版を買っています。
 読んでこの小説のスキルアップに繋げればいいなぁ…(願望)。
 面白くて、次のを買っていくといつの間にかお金が…(汗)
 今月は発刊情報がでてからずっと楽しみにしていた例の新装版も出ることですし…(前々回あたりでこのあとがきに書いてあれ(・・)っす。)
 次回のあとがきはたぶんその話になると思います。

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