(ハレルソン少尉、まだ状況がわからないのです。発進許可は…。)
管制官はもう1機のスカイコンカラーに飛び乗ったエドを制止していた。
「ふざけるなっ。このまま、カリフォルニアの防空圏を過ぎちまったらどうなるかわかっているのか!?早く出撃許可を出せっ。」
(しかしっ…。)
管制官はエドの迫力に負け、言葉がつまった。そこへモニター画面がアスベルに切り替わった。
(大丈夫なのか、エド?)
そこへアスベルが割り込んでエドに聞いた。
「お願いです、中佐。中佐だってエンリキ大尉がこんなことをしでかすような人じゃないって知っているでしょう?」
ここで踏みとどまっても仕方がない。とにもかくにもエンリキ大尉がなんでこんなことをしたのか聞かねばならなかった。
アスベルはしばし考えたあと、エドに告げた。
(わかった、ハレルソン少尉。発進を許可する。やむを得ない場合には撃墜しても構わない。)
「そっ、そんな…。」
後ろの方の言葉にエドは困惑した。それはエンリキ大尉がこちらに銃を向けてくるかもしれないと言っているようなものだ。
(万一に備えて、だ…。)
アスベルはそうは言ったが、エドにとっては万に一つでもエンリキ大尉が銃を向けるとは思っていない。
きっと、何かの間違いだ…。
エドは心の奥にざわめくものを押し込め、エンリキ大尉を信じようとスカイコンカラーの離陸準備に入った。誘導され、いざスカイコンカラーを発進させる寸前、機体になにか乗っかったような…そんな重み加わった感覚が体に伝わって来た。エドが訝しんで上を見上げると、ストライクダガーが乗っかっていた。
(エド、俺も行くぜ。)
突然、無線から入って来た声にエドは驚いた。
「アバンか!?」
どうやら、ストライクダガーにはアバンが乗っていたのだ。
「まったく、危ないことを…。」
エドはアバンの無茶な行動に苦笑いした。もし、これが発進直後であれば、ストライクダガーもスカイコンカラーも危険にさらしていた。
(ダガーじゃ飛べないからな…。頼むぜ、エド。)
当の本人は意に介してないようではあるが…。
「振り落されるなよ。」
(ああっ。)
2機はエンリキを追いかけ、カリフォルニア基地から飛び立った。
「あのバカ2人だけでいいのか?」
やってきたモーガンがアスベルに問いかける。
「どのみち頼りになる航空戦力はハレルソン少尉だけです。それに、シュヴァリエ大尉にはやってもらいたいことがあります。」
アスベルはモーガンに別の頼みごとをした。
一方、エンリキは無線コントールさせているスカイコンカラーを上空に飛んでいた大型の輸送機に着艦した。格納庫では兵士たちが彼の到着を待っていた。みな、地球軍の制服をきているが、南アメリカ軍の兵士たちであった。
「ご無事でなによりです、エンリキ大尉。」
彼を出迎えた兵士を代表し、士官が彼に敬礼した。その敬礼は地球連合で使用されているものではなく、南アメリカ旧来の敬礼であった。
「これが、大西洋連邦が製造したモビルスーツですか?」
他の兵士がストライクダガーを見上げる。
「ああ、そうだ。そして、ここには他のモビルスーツの戦闘データもある。」
アーロンはポケットからメモリを出した。それも見た兵士たちが感嘆の声を上げていた。
「これさえあれば、我々に協力してくれる企業もモビルスーツを生産できるであろう。」
兵士から喜びの声が上がる。それを受け、エンリキは高らかに演説する。
「我々はこの1年を待った。間もなくザフトがパナマを攻める大規模作戦が行われる。その時こそ好機だ。南アメリカ合衆国を、あの横暴なる大西洋連邦よりとり戻そうではないかっ!」
「おおーっ!」
兵士はそれに呼応するように叫んだ。
「そして、今日…南アメリカの独立の旗揚げの狼煙として、今、我々の足元にあるカリフォルニアに怒りの鉄槌を下す!やつらに己の繁栄が、幸福が、一体なんの上から成り立っているのか…見せつけようではないかっ!」
エンリキの宣言に兵士たちはさらに高揚する。
「エンリキ大尉っ。」
そこへ兵士が報告にやって来た。
「後方より追手が来ています。熱源は1つのようですが、その速さから戦闘機ではないかと…。」
「そうか…。」
エンリキは追手が誰なのか見当がついているようであった。
「GAT-01で出撃する。グゥルも用意してくれ。」
「しかし、エンリキ大尉…。もうすぐ時間が…。」
「安心しろ。ちゃんと間に合わせる。」
兵士は計画に支障をきたさないか不安であった。それを感じ取ったエンリキはなだめた。エンリキとて、今更何があろうと計画を変更することもましてや中止するなんてことはする気はなかった。
たった1年…。だが、とても長い1年であった。
エンリキは
「なあっ、エド!いつになったら追いつくんだよっ。早くしないと…。」
(わかっているっ!)
急かすアバンに対し、エドはめずらしく苛立ちをぶつけた。
その時、スカイコンカラーのレーダーにMSの反応があった。照合するとエンリキが奪っていたストライクダガーであった。
夜未明のため、目視しにくいが、前方より巨大な人型のシルエットがこちらに向かって来るのが確認できた。
「いいなっ、アバン。俺が大尉を説得している間、口を挟むなよっ。」
「なんでさっ。」
エドの言葉にアバンは心外そうに言う。
「話がややこしくなるからだよっ!」
そう吐き捨てエドはアバンとの通信をきると、今度は向こうのストライクダガーに周波数を合わせた。
「…エンリキ大尉ですよね?」
だんだんと近づいてくるストライクダガーの形がくっきりとしてくる。強奪した際、サブフライトシステムとして使用したスカイコンカラーではなく、グゥルに乗っているのも目視できた。
(…ああ、そうだ。)
エンリキからエドの心配をまるで知らないような落ち着いた口ぶりでエンリキから返答が来た。それが、エドの焦燥感を駆った。
「何をしているんですか、大尉!無断出撃なんて…。懲罰程度じゃすみませんよ。」
口調に反して、その伝える言葉はいつも自分を諫めるエンリキのようになっていた。きっと心の中では、何かの冗談であるという思いがあったからであろう。
(エド…。これは、なにもふざけてやっているわけではない。俺は自らの意思でこのGAT-01、そしてスカイコンカラーを強奪したのだ。)
「そんな…。なぜですかっ?なぜこんなことを…。」
なぜこんなものを奪う必要があるのか。
エドには見当がつかなかった。
そのエドの疑問に答えるようにエンリキが静かに言った。
(すべては大義のため、南米の真の本当の独立のため…。そして、大西洋連邦に一矢報いるためだ。)
「…南米の独立?」
(そうだ。思い出してみろ、エド。大西洋連邦がしたことを…。ヤツらは『自由と民主主義』を名目に己の尺度の正義のみで、他国を平然と武力侵攻をする。そして、その強大な力に怯え、つい前まで勇ましいことを口にしていたのが掌を返すが如く屈服する南米の政治家たち…。俺はそんな輩から南アメリカを取り戻し、本当の自由の国にする。エド…今の祖国がどうなっているかお前だって知っているだろう。)
「うっ…。」
エンリキの言葉にエドは言葉につまった。
元々、政情不安定な時があったり貧富の格差が大きかったりと問題はいくつかあった。しかし、大西洋連邦に併合されたからと言って、それらの問題が解決されたわけでもなく、むしろ悪化したといってもいいだろう。南米軍は地球連合軍の一員と言えども、大西洋連邦の下部に位置づけられ、その多くは各地に派遣され、国内に維持しなければいけない戦力は残ってなかった。その国内では、不本意な統合に反発した一部の一派がゲリラ・テロを行い、大西洋連邦はその強権をもって、ときに度を越した排除を行っていった。他方、ブルーコスモスの襲撃やテロは黙認されていた。
(俺はそんな志をともにする者とともに今回の行動に出た。まずは手始めにカリフォルニア基地を一発で焼き尽くす!)
そんなバカな…。
基地を一発で壊滅するなど、Nジャマーによって使えなくなった核兵器を撃たない限りありえない。だが、エンリキが大げさに言っているようにはエドには思えなかった。
「大尉…、まさか!?」
そこへふと1つの考えに至った。
「気化爆弾と使う気ですかっ!?」
たしかに
「気化爆弾…。なんだ、そりゃ?」
エドに言われ仕方なく話に割って入んないようにしているアバンは、いったいそれがなんであるかわからなかった。
エンリキはエドの問いに沈黙したままであった。それが正解であると、認めているとエドは思った。
「そんな…。」
しかし、エンリキ大尉はそれを一体どこで手に入れたのだろうか。簡単に入手できる代物ではない。
だが、今はそのことを考えるよりもやることがあった。
「基地が撃たれれば近くの街にも被害が出る…。本当に
(基地の近くに住むというのは、いつか敵の流れ弾が飛んでくる可能性もある…、それを覚悟して住んでいるのであろう?それをいまさら何を躊躇う。)
「エンリキ大尉…?」
普段のエンリキであれば言わないような言葉にエドは戸惑った。
(この国は『自由と民主主義』の国であるであろう。ならば、その責任を取らなければいけない。なぜなら、南米の武力侵攻も、南米の国がああなったのも自分たちが決めたことであるのだからなっ!それをいまさら『ただ普通に暮らしている我々を撃つのは卑怯だ』などと…どの口が言うっ!)
鬼気迫るその表情にエドはたじろぐがここで退いてしまっては説得できない。
「そんなことしたら、家族はどうなるんですか!?」
当然、地球連合から反逆者となる。そうなれば、エンリキの家族にも危害が及んでしまう。
(家族、か…。)
しかし、エンリキからは意外な言葉が返って来た。
(それは…ない。遠くにいるからな。俺ですら
一瞬、何を言っているのかわからなかったが、次第にその意味が分かってきて、エドはみるみる内に顔を強張らせた。
それは…
つまり…
(俺は…別になにかの主義者ではない。民生…生活が安定すればよい、と思っていた。だからこそ、この軍服に袖を通した。ほんの少しでも南米に住む人々が、なにより自分の愛する家族が安心して暮らせれば…と。…
エンリキの言葉の最後の部分。その口調に、悔しさと憎しみの入り混じった感情がこもっていた。
雨は依然として降っており、周りの声や音も聞こえてこなかった。
否
自分に沸き起こる感情にいっぱいでどうすることもできず、これ以上溢れないよう、奥底で閉ざしているのだ。
どうして…妻と子は死ななればいけなかったのか?
その問いは今でもわからない。だが、それが誰からも答えてはくれなかった。
‐もしもこの件の経緯が公になればどうなるか…。国内の反体制派がそれを名分として国民を扇動し無用な争いを仕掛けるであろう。それは、
併合され、大西洋連邦の意向を受けて成立した政権の者からはそう言われた。所詮、傀儡国家であるゆえに、彼らにとって一番の大事は大西洋連邦であった。そんなことは今更言うまでもなくわかっていたため、そこになにも感じなかったが、なにより重かったのは、彼らが言い訳として用いた言葉…『国民の生活』、『国の安定』であった。
虚脱感…。
すべてが無意味に感じてしまった。
国が安定していれば、国民の生活も安定する。守られる。
では、俺は…?それの家族はこの国に住む国民ではなかったのか?
それでは俺は今まで何のために軍に身を置いていたのだ?
我が身に火の粉が降りかかり、はじめて理解した。
国は守ってくれない。彼らにとって大事なのは国というシステムが維持できるかどうか、だ。そこに住む人間はその要素の一つ。誰が死のうが構わない。それが普通に暮らしている人間であろうと、愛国心にあふれた自分たちの支持者であろうと…。
(では、家族を失った俺の怒りは!?突然、命を絶たれた家族の悲しみは、苦しみは!?いったいどこに収めればいいのだ!?)
「エンリキ大尉…。」
エドはもう、何も答えることができなかった。
(それが今の『国の形』というのであれば、私は変えるっ!だからこそ、撃たなければならないっ!)
いや、できるはずがない。
2人の間に沈黙が流れた。
(そんなの…、おかしいっ!)
それをつき破るように、別の声が聞こえてきた。アバンであった。
「アバン…?」
これまでエドに口出しするなと言われていたから黙って聞いていた。だが、聞いているうちになにかすっきりとしないグルグルとしたものが自分の腹の中に渦巻き、居てもたってもいられなくなって、アバンは叫んだ。
おかしくないか?
エンリキ大尉の家族が死んだこと…。その喪失感、その無念が晴らせないこと。それは大尉のみにしか本当にわからないことで、聞いている自分は知った気になっているかもしれない。でも、それで多くの人たちを殺すことに何の関係がある?
「俺は政治とかそんな難しいことは全然ッわかんねえっ!」
独立とか民主主義とかウンタラカンタラと聞いても、それがいいものなのかわからない。ただ、一つ言えることがある。
「ただ普通に暮らしている人たちを死なせて得るものって、それって本当にいいものなのかよっ!?」
それじゃあ、エンリキ大尉が今怒っている
「『自分たちは奪われた身で、他の人はいい思いをしているんだから、勝手に奪ってもいいだろう』なんて考え方をするなっ。…俺は、そう教わった。エンリキ大尉がしていることってまさにそれじゃんかっ!その先に本当にエンリキ大尉が
さっきまで腹にため込んだものが一気に出た気がして、自分の中ではスッキリとした気がした。それで、向こうがどう思うかは別だが…。
ふたたび長い沈黙が流れてしまってアバンは戸惑った。
(くっ…、はははっ…。ははははっ!)
すると、エドの方から吹き出し笑いが聞こえてきた。
「なんだよ、エド…。俺なにか変なこと言ったか?」
「いや…。まったく…おまえは、ホントに大馬鹿ヤローだな。」
「はぁっ!?」
なんでエドが笑ったのか、そしてなんでバカと言われなければいけないか、アバンはまったくわからず、ただ笑うエドを呆気に見ていた。
ようやく笑い収まったエドは一息つき、エンリキに向け話し始めた。
「エンリキ大尉。こりゃぁ、大尉の負けですよ。」
(なん…だと?)
エンリキは訝しんだ。
「だって、エンリキ大尉の言葉は…確かに
(いったい何が言いたい、エド。)
「俺は…あんたのすることを止める。ずっと世話になったせめてもの恩返しだ。あんたを
今度こそはっきりとエンリキ大尉を止める。
エドは強く決意した。
(だが、もう遅い。気化弾頭ミサイルはもうすぐ発射を行う。この暗闇の、レーダーの聞かぬ中で見つけられるか?そして、私は止めない。おまえごときに止められてたまるものかっ!)
「だったら、力づくでも止めますよっ。」
そして、エドはいったん下降したと思ったら、急にアバンのストライクダガーを振り落した。いきなり揺さぶられたアバンはストライクダガーの手から離してしまい、落ちてしまった。
「痛って~。エド、なにするんだよ!」
「これは、俺とエンリキ大尉の問題だ。」
そう言い残し、エドはふたたびスカイコンカラーを上昇させ、エンリキのストライクダガーへと向かった。
「なんだよ、こんなときだけ部外者扱いかよ!」
アバンは通信機に向け喚いたが、一方的に切られてしまった。
そうだよ…、アバン。
エドは通信機を切った後、独り言ちた。
今まで共に訓練し過ごしたし、同郷であっても、おまえは傭兵なんだ。おまえの言葉のおかげで今こうやって向かって行けるが、おまえには関係のない事なんだ。そんなことで、おまえを死なすわけにはいかない。それに…いくら敵となったからといってかつての仲間に銃を向けるっていうのはあまり気分のいいもんじゃねえんだ。
エドは、こちらを見下ろし銃を構えるストライクダガーへと駆けた。
「ちっくしょー…。」
上空では暗闇の空の中に一条の光線がパッと双方向から現れては消えを繰り返していた。
俺だけまた仲間外れだなんて、なんのためにここまで訓練してきたと思っているんだ。
「俺だって、戦えるんだー!」
しかし、ここからでは2機の行方は見えないし、ビームライフルも届かない。
「…そうかっ!」
しばし方法を考えていたアバンは、ひらめいた。それは自分もどこかここより高いところにいけばいいのだとという発想に思い至った。
「こうしちゃいられねえ…。」
アバンは上空の戦闘を気に掛けつつ、その場所を目指した。
一方、そのころアスベルから別命を受けたモーガンは一陸小隊を率いて標的のある場所を見つけ出していた。
「あれか…。」
そこには、エンリキからの指示を待っている兵士たちであった。その真ん中にはトレーラー移動式のロケット発射システムがあった。
おそらく、アレが気化爆弾であろう。
モーガンがアスベルから受けたのは、どこかに潜んでいるであろう気化爆弾のロケット発射システムの無力化と制圧であった。この広い場所で、かつ夜中にそれを見つけるのは至難ではあるが、何度も夜襲を成功させてきたモーガンであれば、可能だとアスベルが判断したのだ。
まさしく、今彼はそれを見つけ、一部隊を各班に分け、制圧にかかろうとしていた。
「よしっ…。」
タイミングを見たモーガンが合図をしようとした瞬間、地面がなにか揺れているのをふと感じた。それは、どんどん大きくなってきてガチャンッと機械音も響かせていた。
「大尉…。」
近くにいた兵士も不審がりモーガンに声をかける。どうやら向こうも気付いたのか、ざわついている。
その間にもどんどんと音が大きくなり、木々に休んでいた鳥たちも驚き、飛び立つ。 そして、大きなシルエットが姿を現した。
「なっ…だれだっ。こんなところにGAT‐01でやって来るバカは!」
それはストライクダガーであった。
「なっ…なんだ、これはっ…。」
一方、ストライクダガーに乗っているアバンは驚き困惑した。
なにしろ、エドとエンリキの空の戦闘に加勢できる場所を探していたら、なにか兵士たちがいて、しかもミサイル発射台もあるのだ。
兵士たちは驚き、こちらを撃ってくるが、ストライクダガーには効かない。
「…このっ。」
アバンはストライクダガーで1歩踏み出し、ライフルを彼らに向ける。
すると、彼らは自分たちの10倍の人型兵器が動き、自分たちにライフルを向けれたことに恐怖したのか、後ずさりや、腰をぬかすたり、そして、恐れ無茶苦茶に銃を撃ったりした。
「なっ…。」
それを見たアバンは思わず、レバーから手を離した。
自分は今、こんな人たちを撃とうとしていたのか?
あんな顔をされたら、まるでこっちが悪者みたいじゃねえか…。
戸惑っていると、急に森より地球軍の兵士が現れ、彼らを拘束していった。
「えっ…?モーガンのおっさん!?」
訳も分からずモニターを拡大すると、指揮しているのがモーガンとわかり、余計になにが起きたかわからなくなってしまった。
拘束し、無事気化爆弾を確保することに成功したモーガンはストライクダガーを見上げ大きく息をはいた。
「まあ…なんとか無力化できたが…。」
結果としてはよかったが、なんか予定がくるったような感じがし、モーガンはどこか釈然としない気持ちだった。
まったく、バカが関わるとろくなことがない。
すると、どこかでプロペラの回転音が聞こえてきた。
ふと上をみると、輸送機が低空で飛行していた。
もしや、あれは…。
後ろのハッチが開いており、兵士がグレネードランシャーを担ぎ、こちらの方を狙っている様子だった。
「まさか、
たしかにアスベルは数発と言っていた。しかも、大きさについては言及していない。ここが無力化され、証拠隠滅もかねて撃ってくるということか…。
「総員退避っ!?」
果たして人が走る速さで気化爆弾の衝撃から逃げ切れるか?いや、無理であろう…。だが、その命令を言うしか今はなかった。
その時、アバンのストライクダガーが輸送機に面と向かい、ライフルを掲げていた。
「間に合えーっ!」
さっきの怖気はどこへ行ったかわからない。まだ、手が震えている感覚はする。でもここで動かなかったら、みんな死ぬ。
アバンは照準器で狙いを定める。
向こうもこちらに気付いたのか、輸送機がそこから動き、避けようとしている。
集中しろっ!
コレにかけるしかなかった。
アバンはトリガーを引いた。
突然、別の方向から爆発音がして、エドとエンリキはそちらの方へ向けた。真っ暗闇の中、赤く燃える火柱が立ち、機体の残骸がバラバラと落ちていた。
「いったい何が…?」
まったく周りのことに目がいっていなかった2人にとっては状況が把握できず、狐に包まれたような表情であった。ふと、エンリキは爆発のあった地点の場所がどこか気付き、いそいで通信機に手を伸ばした。しかし、いくら呼びかけても地上で待機している兵士たちや輸送機からの応答はなかった。
そんな…。
エンリキは動揺を隠せなかった。
いったい誰が…!?
ストライクダガーを反転させ、その場へと向かった。すると、気化爆弾の発射台と待機していた兵がいる場所に佇んでいるストライクダガーを見つけた。
その瞬間に、腹の中で怒りがふつふつと沸き起こり、ストライクダガーに向かった。
「エンリキ大尉っ。」
エドはいまだに何が起きたかわからないが、機体越しに伝わって来るエンリキの怒りに尋常ではない何かを感じ、彼を追いかけた。
やったのか…?
炎を見ながらアバンはコクピットの中で呆然としていた。
確かにトリガーを引いて、ビームは輸送機に当たり、爆散した。しかし、それが本当に自分のしたことなのか実感が持てなかった。
「アバーンっ!」
エンリキは目の前にいるのが、アバンだということを認識しつつも、己の中より湧き上る怒りのままに銃を向けた。
「これを…、おまえが
やっとここまで来たのに…。俺がいままでどれほどの思いだったのか。
それを、それを…。
初めからアバンはエンリキの行為を突っぱねていたにも関わらず、彼であれば、こんなことはしないという希望的観測の中、裏切られた…そんな思いだった。
怒りのままに銃を向けた。
「ロック…された!?」
アバンが気付いたときには遅かった。その場所を振り返るとグゥルに乗っているストライクダガーがこちらに銃口を向けている。
あれは…エンリキ大尉の?
アバンは彼の機体から怒りを発しているのを感じた。
それに怯み、アバンは動作が遅れた。
逃げれない…。
「アバン、エンリキ大尉っ!?くそっ…。」
エンリキを追いかけてきたエドはなんでこんなところにアバンがいるのか、そしてなぜエンリキが怒りのままに行動しているのかわからなかった。しかし、彼が目にしているのはエンリキがアバンを撃とうとしている光景だった。
なんでだ、大尉!?
あれはアバンが操縦しているストライクダガーだとわからないはずがない。それなのに、撃とうとしているなんて…。
エドはすぐさまスカイコンカラーのビーム砲をエンリキのストライクダガーに向け、放った。
ビームはストライクダガーを貫いた。
ストライクダガーは一瞬動きが止まり、グゥルのバランスを崩したと思った瞬間、エンジン部より火が噴き、中から破裂するように爆発を起こした。
何が…起きた?
燃える炎にまかれながら、エンリキは何が起こったのか、自分が誰に撃たれたか知る由もなかった。
忍ばせていた家族の写真がすり抜けてきて自分の目の前で燃えていく。
ああ…、いかないでくれ。
エンリキは写真に手を伸ばすが、まるで彼から離れていくように燃えていく。
自分ももうすぐそっちにいく。
しかし、なぜだろう。
むこうにいっても…会えないような気がした。
そう考えると、ものすごく寂しい思いが溢れ、せめて
しかし、彼の手が届く前に、写真もエンリキも炎の中に消えていった。
「…どうやら無事だったようだな。」
モーガンは未だに燃えている墜落した機体の残骸を見ながら、深く息を吐く。そして上を見上げ、呆然と突っ立っているストライクダガーへと視線を向けた。
しかし…。
モーガンは逃げながらも決して見過ごさなかった。
アバンが撃つ直前に、2方向より攻撃があったことを…。
最初の1発は、それほど威力はないが、輸送機の動きを止めるもので、2発目はビーム砲か、光りの射線が見え、それが翼を貫いてバランスを崩し、最後にアバンの攻撃で墜とした。そう…見えた。
モーガンたちのいる地点から少し離れた林の中、そこに軍用のトレーラーと1機の105ダガーがいた。その105ダガーはバスターの武装である超高インパルス長射程狙撃ライフルを構えており、それを外部ジェネレーターに繋げ、さらにトレーラーに繋がっている状態で会った。
輸送機が墜落したのを確認し息をつくと、カリフォルニア基地から通信が入った。
(イメリア中尉、ごくろうさま。)
アスベルは最悪の事態を想定し、レナに別の地点に待機させていた。それなりに離れたところからの砲撃になるため、現在試作中の装備を持ちだして行った。
「もっと精度がよかったら、墜とせてました。やはり性能をよくするには『ストライカー』ではない方がよいみたいです。」
(それは開発スタッフに言っておく。)
「それと私やアバン以外に何者かが撃った可能性があります。ここからでは観測できないので、もう少し離れたところになります。」
威力不足のため足止め程度にしかならなかったが、もし同じ威力のを使っていたらその1発で終わっていた。
一体何者が…?
レナの心には、別の勢力がここにいるという懸念はさることながら、かなりの腕前を持った者がいるという
(まっ…まあ、それ以降こちらに攻撃がないということは我々の敵、ということではないだろう…。あまり無用な争いは避けたい。早めに基地に戻ってくれないか。)
「…わかりました。」
「…ふぅ。さすがに撃ってこないか。」
しばらく経っても向こうからなにも攻撃がないことにシグルドはホッと息をついた。
とは言っても、さすがに向こうからこっちまでかなり距離があるからな…。
彼もまたジンに乗って身を潜めていて、偵察機用のスナイパーライフルと、電子戦・空中指揮型のディンの大型レーダーで索敵能力と精度を高め、輸送機の狙撃を行った。
彼がコクピットから降りるとフィオが不満そうに待っていた。
「なんで威力のないスナイパーライフルを使ったのよ?言ってくれればこの大型レーダーの他にラゴゥにビームキャノンもそれなり使えるようにしたのに…。そうすれば、さっきのシグルドの腕だったら1発で終わったじゃん。あんな回りくどいことして…。もしかして、そっちでもさほどの威力はでないと思っていたの?」
彼女の指摘はもっともだ。
シグルドは苦笑した。もちろん、彼女の腕は疑っていない。何度もあり合わせので、こちらの要求に応えてくれる。
「いいんだ、これで…。依頼人から『これは地球軍内で終わらせること』と言われている。それに…。」
「それに?」
「いや…、いい。それより早く撤収するぞ。こんなところにいつまでもいたら変な疑いをかけられる。」
「わかった。準備始めるね。」
フィオはそう言うと、さっさと機材へと向かった。
フィオを見送ったあと、シグルドはふたたび、輸送機を墜とした方角に目を向けた。
あそこにはアバンがいた。そして、今回彼は初めて引き金を引いた。銃の向こう側に誰がいるかを知りながら…。
「おまえは、おまえの答えを探せ、アバン。」
戦う理由は人それぞれだ。ヴァイスウルフのメンバーであっても、フォルテにはフォルテの戦いが、ヒロにはヒロの戦いがある。そして、自分にも…。
今回の件で、アバンが持っている戦う理由が揺らぐかもしれないし、失うかもしれない。しかし、それでも戦う理由は自分が見つけるものだ。
「シグルドー!行くよー!」
「わかった。」
フィオに呼ばれ、シグルドもまた撤収の準備に入った。
長い長い夜の終わりを告げるかのように東の空が白く明るくなり始めていた。
エドは軍施設の屋上で寝っ転がり、ハンバーガーを頬張りながらただ空を眺めていた。基地は先日の騒動がまるで嘘のようにいつも通りの日常を過ごしていた。
エンリキ大尉は…失った戦う意味をもう一度見つけたかったのかもしれない。
あのアドレナリンが沸騰する感覚…。自分の目の前に強敵が現れたとき、血や肉が湧き踊る興奮…。戦いが好きかと言われれば、どちらかといえば好きではないが、それには嘘をつけなかった。そして、自分は戦場でしか生きられない、と思っている。
エンリキ大尉は、そんな生き方の中で、戦場とは違う、1つの小さな幸せを見つけた。そして、不器用な生き方であっても、それを守ろうとしていた。
それを失ってしまったエンリキ大尉は、戦場でしか生きられない不器用な生き方の中で、探していた。いや、見つけたかったのかもしれない。それが…あんな方法であっても…。
じゃあ、自分はどうなんだろうか?
戦う意味なんて考えてこなかった。むしろ考えても、仕方のないことだった。なぜなら手柄を立ててもたいして変わらないとわかっていたからだ。
だからこそ、あの時自分は何も言い返せなかった。
「ん?どうしたんだ、エド?」
そこへアバンがやって来て、エドの隣に座る。
「いや…。アバンこそ、あまり元気ないな?それこそおまえの取柄なのに?」
「そうか…?」
アバンはそっけなく返すがやはりどこか声に元気はない。ふと視線を落とすと、アバンの手が震えていることに気付いた。
「情けねぇよな…。」
アバンは俯き、震える手をもう一方の手で覆う。
「あんな風に偉そうにエンリキ大尉説教垂れたのに、俺…奪って手に入れた。」
「別に撃ったのは初めてじゃないんだけどな…ああやって銃の先に人を見たのは…初めてだ。」
エドはおもむろに口を開いた。
「アバンは…これからどうするんだ?」
「ん?」
「おまえの言っていることはわかるよ。人に銃を向けて気持ちのいいもんなんてない。俺たちの場合は軍事だからと割り切れるが…。」
「それは、わかんねぇ。」
アバンは思ったことをそのまま口に出した。
「エドたちのように割り切れればいいかもしれないけど、なにか…俺にはそれはできないし、だからと言って、そんな器用な戦い方できねえし…。」
アバンは顔を上げた。
「だから、その時になって自分が一番したいことをするさ。あの時もそうだった。だから、後悔はない。たぶん、それが俺が『強くなりたい』って思うイメージだと思うからな。」
先ほどまでの暗さとは違い、はっきりと『自分』という意志を持って口に出した。
「そうか…。」
エドはそうやってすぐに見つけられたアバンの戦う理由、戦う意味に少しうらやましさがあった。と、同時に自分にももしかしたら見つけられるかもしれないというどこか希望があった。
南アメリカ合衆国。
「うむ…、そうか。ご苦労。」
この邸の主は電話の相手を労いの言葉をかけ、切った。そして、向かいにいる客人に話しかけた。
「どうやら、気化爆弾の…カリフォルニアへの投下は防げた、とのことだ。君たちの活躍もあってね…。しかし…気化爆弾の出所を掴めなかったのは残念なことだ。私が、表舞台に返り咲く好機でもあったのだが…。」
この男は、この南アメリカ合衆国の政治に携わっていたが、政争に負け、表舞台から退けられていた。しかし、男の眼には権力をふたたび得ようという野心を秘めていた。
「どこぞのバカが一部の軍人を焚き付けた…とまではすぐにわかるが…ただ、それだけでは得ることのできない情報、兵器を備えていた。だれかが裏で糸を操っていた…としか考えられない。」
男はそれが一体何者でどんな目的かはあらかた推測できていた。
おそらく、カリフォルニア基地にいるある軍人を排除したい上層部の一部と気化爆弾の威力を測りたかった者たちが現在の大西洋連邦に不満のある南米の軍人を利用したのであろう。
ゆえに、彼はそれを阻止するために動いた。そうしなければ、南米は力を削がれ今後独立する力がなくなってしまう。
「まあ、君たちにはいらぬ話であったがな。」
とは言っても、傭兵には関わりのない話だ。これ以上、話してその情報が使われても困る。男はそこで話を切った。
「ええ。その正体を掴めという依頼は受けてはいませんので…。」
向かいに座っている客人、ミレーユもまた関心のないこととさらりと受け流す。
「では、約束の報酬だ。」
男は執事を呼び、小切手をミレーユに差し出した。
男はミレーユが帰った後、1人チェス盤の前に座り駒を弄んでいた。
先ほどああは言ったが、実のところ、まだ彼は政権を得る気はなかった。それはまだ時期尚早、というのが彼なりの推測があった。
「さてさて…これからどうなるか。」
現在、地球連合軍はブルーコスモスが台頭してきている。そして、プラントは先日パトリック・ザラが最高評議会議長に選ばれた。
おそらく戦争の形が変わるであろう。
現在ザフトが進めているザフトの最後のマスドライバー、パナマの制圧作戦がそのいい例だ。今回の作戦規模がマスドライバーを制圧するだけにしてはあまりにも大きすぎる。いくら併合され傀儡国家となったからといって今回のように不満を持っている南米の人間たちはいる。彼らを味方につけ、制圧もしくは破壊すれば小規模ですむ。いくら、自軍が有利とはいいえ、もとより数で圧倒的に劣るザフトが投入するには多すぎる。
「パトリック・ザラが議長になってしまったからな…。」
それがただの驕りであれば、こちらとしては勝手に失敗してもらって、クライン派に政権に戻ってもらいたいと思っている。でなければ、狙いは別の所にあるのか…。
「それよりも自分たちの心配をすべきか…。」
この戦争が終われば、場合によって、独立戦争に持っていくことができるであろう。だが、大西洋連邦という強大な国に立ち向かうには、今のままでは難しいであろう。まさしく国全体をかけなければいけないであろう。
「…『英雄』が必要だな。」
自分は嫌われ者であることは己自身わかっている。ゆえに、南アメリカ国民が納得する惹きつけてくれる人物が中心にさせなければいけない。
だが、南アメリカの軍人はまさしく大西洋連邦の尖兵という体のいい盾代わりとなってしまっている。果たして、生き残るはどれほどいるか…。
「ゆっくりと構図を練っているのも…悪くはない。」
男は外を眺め、夜空に薄く白銀に輝く砂時計群を眺めた。
4月1日 ‐プラント アプリリウス市‐
コンピュータによる予備選別と住民投票により強硬派のパトリック・ザラがプラント最高評議会議長に就任した。彼は国防委員会委員長だが、その職も引き続き兼任することになった。破れたシーゲル・クラインは議長職を退き、そのまま役職にはつかず、野に下ることになった。
離任および就任式が行われ、引き継ぎとともに2人は握手する。プラント独立のためにともに苦渋の道を乗り越え、輝かしい未来を手に取るために戦った友であった。そして思想主義に違いにより道を違え、政敵となった。
そして今、パトリック・ザラが議長に選出された。それは国民がパトリックを支持したということになり、自分たちが穏健派に勝ったことを意味していた。
自分は正しかった。
パトリックはかすかな優越感を浮かべた顔をシーゲルに向ける。一方、シーゲルはやりきれない表情だった。
「…連合事務総長のオルバーニ事務総長の親書を提出するために特使が来ることは、伺っていますな?」
「ええ。クライン
そうパトリックは口には出すが、半年ほど前に、オルバーニとシーゲルによる戦争の落としどころをつける会議を画策したのは、周知の事実だ。彼の親書がどのようなものかパトリックがわからないはずがない。それをこのように言うということは彼の中では、すでに議長就任日に可決されたオペレーション・スピットブレイクの実行は決定済みであったのだ。
「連合軍では、すでにMSの量産化が始まっていると聞くぞ。ここまで勝ってこれたMSというアドバンテージはもうすでにないものに等しいんだぞ?」
「我々も彼らの技術を取り入れ、同等の性能…いえ、
シーゲルの懸念をパトリックは一蹴した。一方、シーゲルは顔を曇らせた。
プラント支点にあるザフトの工廠にオデルはユーリ・アマルフィと共に来ていた。彼らは今、長い通路を進み、ある場所へと向かう。
「すまないね。今日まで何も言わなくて。」
「それが、ザラ委員長からのご命令だったんでしょ?アマルフィ氏が気にすることではありません。」
「まあ、そうだね。」
そして、セキュリティがされているドアの前につき、ユーリはIDカードをスリットに通した。ドアが開くと、中は暗かったが広大な空間を感じられた。
ユーリが先にすすみ、オデルがついていくと、そこに薄明かりのライトを浴びて佇んでいるモビルスーツの姿があった。
4本の
「ZGMF-X03A アークトゥルス…。これは、ザフトの威信をかけた最新鋭のモビルスーツだ。だが、これに備わっている
ユーリが視線をアークトゥルスの腹部へと視線を移し、オデルもそちらに視線を移すと、アークトゥルスのエンジン部が開けられて、作業員たちが確認作業をしていた。そのエンジン部にしるされた
「
ユーリが静かに告げる。
「なぜ…これが?」
そもそも
「そうだな…。私も初めは
ユーリは少し口をつむぎ、ふたたび静かに言った。
「だが、そうやって長引けば長引かすほどニコルに…戦場にいる若者たちに辛い思いをさせてしまっている。だから、せめて…
そして、オデルの方を向きふと笑った。
「親バカ…と思ってもいいさ。」
「いえ…。そういう理由でもいいと思いますよ。」
オデル自身に
ふたたびユーリは顔を引き締め、モビルスーツに視線を戻す。
「もちろん、
「…それほどの
「なにを言っている。君だからこそザラ議長もパイロットに任命したし、私も安心して渡せるのだよ。この戦争で君は地球軍を倒している。そして、味方がピンチの時は、その異名のごとく現れ救う。君は英雄だよ。」
ユーリがこれまでの戦歴と自分を褒めたたえる言葉に、何かさっぱりとしない思いで聞いていた。
オデルはふたたびアークトゥルスを見上げた。
少なくとも、ユーリが話すような大した人間ではないと、オデル自身は思っていた。
プラントと地球連合との1年以上にも及ぶ長く続く戦いは両陣営に暗い影を落とし始めてきた。
コーディネイターこそ新たなる種と信じ、古き種のナチュラルをすべて滅ぼそうとするパトリック・ザラとコーディネイターはあってはいけない存在と憎み、差別し除外しようとするブルーコスモス。
戦争の目的も、1のコロニー群の独立の是非という本来の目的から逸れ、互いの種を殲滅しようとする生存競争のごとく戦争へと変わろうとしてきた。そして、
だが、その辿り着いた道の途中は、どのようなものか。
世界はふたたび地獄をみることになるのであろうか。
それとも…。
地球衛星軌道上でローラシア級の宇宙戦艦がいた。
この1、2ヶ月、ザフトの多くが地球への降下を行っているため、ありふれた光景のように思われるが、どうやら違うようであった。
(…そこの不明艦、ただちに所属を述べよっ。繰り返す…。)
別の艦より数機のモビルスーツがその宇宙戦艦に近づきながら、警告を発する。しかし、戦艦からは何も応答がなかった。
(貴艦を臨検する。抵抗する場合は実力を行使する!)
数機のモビルスーツが戦艦を囲んだそのとき、下部にあるMSカタパルトが切り離され、地上へと降りていく。
(カプセルがっ!?)
(かまうな。あっちは地上に任せる…。我々はこっちを…。なっ!?)
降下カプセルの分離に注意がいった部下を知ったし、ふたたび警告を発した隊長は驚きの声を上げた。
ローラシア級の戦艦は下部の降下カプセルを分離して役目を終えたかのように、船体が膨れ上がり、内部で爆発を起こした。
取り囲んでいたモビルスーツ達は破片から避けるため、一定の距離まで後退した。
(これは…いったい?)
事態がわからないパイロットたちは呆然と見つめていた。その中にあって、冷静さを取り戻した隊長格のパイロットは後方で待機していた母艦に通信を開いた。
(さっきのカプセルの降下予定地点…割り出せるか?)
(はい…。北緯37°、西経5°。)
(ジブラルタルか!?)
隊長は語気を強めた。こちらに一切返事をしなかった不明艦は敵の偽装船でジブラルタルへの攻撃の可能性も考えたからだ。
(いえ…、少しずれていきます。…ここは!?)
オペレーターが、カプセルが降下した場所に驚きの声を上げ、報告した。
(…厄介なところに降下してくれたな…。)
報告を聞いた隊長のパイロットは苦い表情をした。
あとがき
ザフトのMSの話(PHASE-32)をやったんだから、地球連合もしなければという謎の使命感にかられ、今回の話を作りました。とはいっても、年表でみるとこの時点であるのはストライクダガー、105ダガー、そしてかろうじてロングダガ―だけなんですよね…(汗)てなわけで…、地球軍側のMSVが出るのは当分後ですかねぁ…。(遠い目)
例のアレの件(本編でもまだ名称を出していないのでこっちでも指示語で行きます)ですが、ソレを搭載する理由が、ニコルが死んだからという風な理由になっていますが、フリーダムやジャスティスがロールアウトされた時期を考え(ゆえに2機が使用できなかったというのもあるけど、それだと動かせるか確証のない機体開発するのってどうなの~とも思い)、「地上で子どもが頑張っているんだから、自分も頑張らなければっ」的な理由にしました。
こんなノリの軽い言葉で書きましたが、ユーリ自身、息子のニコルの性格を知っていたり(あまり好戦的でない性格にもかかわらず銃を取ったこと。)と、大事だからこそというものですね。
…その思いが、どう転がるか。
このあとがきにオマケをつけようかなぁっと思っていたり、外伝の方に2話ほど載せたいとおもいつつも本編が手いっぱいでつけられない。(でも、欲しいっ。)
その時にはお知らせかなにかをしますね。