でも、区切ると区切るとで、話数が増えてしまう。
…悩みだ。
(ほうっ、潜入とは…。アスランもよく考えたものだ。カーペンタリアから言ってはいるが、オーブからの回答はいまだ納得せぬもの…。そして、未だに太平洋上に『足つき』を発見した報もなし。日数から考えてもまだアラスカの防衛圏には遠い…。)
「ええ。」
モニター越しではあるが、仮面ゆえにその表情はよく見えないが、口元には笑みが浮かべているようだった。
(君もすまないね。わざわざこちらに来させて…。)
「いえ…。むしろ、人事に働きかけたクルーゼ隊長の方にご迷惑をかけたと思っております。」
クトラドはラウに感謝の意を述べる。
(私としては、
その言葉にクトラドは無言になった。彼も終始、その厳つい表情を崩さないので、本心はわからなかった。しばらく沈黙がながれややあって、ラウから口を開いた。
(…まあ、いい。それは君が希望したこと…。では、彼らを頼むよ。)
そして通信は切れた。クトラドもまた何も言わず、敬礼を返した。
アスランたちは諜報員から渡れたモルゲンレーテ社の作業服に着替えた。そして、オノゴロ島の地図と偽造IDカードを渡された。
「あんたらの
男は肩をすくめ言い、続ける。とは言っても、アスランたちはそれを確認するために潜入をするので問題なかった。
「そのIDは、工場の第一エリアまで入れるものだ。その先は完全な個人情報管理システムでね。急にはどうしようもないんだ。」
彼らの言葉にアスランも肩を竦める。
仕方のない事だ。あとは限られたなかで、自分たちがやっていくしかない。しかし、自分は本当に『足つき』がいる証拠を、キラやカガリがこの島にいることを捜したいんだろうか?
彼らはそこで諜報員たちと別れ、島内へと入っていった。
「もしやと思ったが、やはり…。」
軍本部の執務室で、ウズミは机に置かれている資料を目にし、なんとも言えない気持ちになった。ストライクのパイロット、キラ・ヤマトの名は聞いていたのだが、もう1機の方のパイロットはただ傭兵としか聞いていただけなので会ったときには驚いた。
もちろん、
血、か…。
ウズミは、自分は何を言いだすんだと思わず自嘲気味の笑みを浮かべた。
「しかし…。まさか、このような形で来ようとは…。」
果たして彼はこの国を見て、どう思うだろうか。できればもっと違う形で来て、見せたかった。
ふと机の上にある写真立てに目を移した。
そこには、もう喪った、決して戻ることのない幸せなに日々の1ページを切り取った写真。もうどれほどの時が経っただろうか。自分もホムラも、もう若いというにはほど遠い齢となった。だが、彼女は…。
「彼もまた…『白き狼』を背負うのか…。」
ウズミは呟いた。
「しっかし、随分と借りるなぁ。迷惑かけなかったか?」
フォルテはヒロが両手で重そうに運んでいる本を見ながら感嘆と呆れ混じりに言った。
「ちゃんとことわって借りたよ…。まだ必要そうなのは艦に置いてるけど…。フォルテだって、選書してやるって言って、何冊か借りてたじゃないか。」
「そりゃ、こんなにもヒマなんだぜ。」
彼ら傭兵といえども、万が一、艦の護衛任務に就いている彼らもアークエンジェルがオーブにいるという判断材料の1つにされている可能性もあるため、勝手に敷地外には出られない身であった。そこへフォルテがふと誰かに気付いた。そして、ヒロの本をいくつかとり、前を見えるようにし、笑みを向けた。
「なあ、ヒロ。傭兵にとって同じ傭兵業をしているヤツは商売敵にもなるが、合同で任務を遂行する重要な仲間にもなる。…てなわけで、お前に凄い傭兵部隊のメンバーを紹介するよ。」
「え?フォルテ、なに?って、フォルテ…。」
フォルテの言葉にヒロは意味が分からず問いかけるが、フォルテはさっさと行き始めた。一生懸命彼の後についていくと、その先には6歳ぐらいの小さな女の子がいた。
「よう、風花っ!」
フォルテに呼びかけられたその少女は振り返った。
「フォルテじゃない。…ところで、彼は?」
少女がヒロに気付き、フォルテに尋ねた。
「ああ…、こいつはヒロ・グライナー。つい最近入った、俺たちヴァイスウルフの仲間さ。」
その言葉に少女は信じられない顔をしていた。
「ヒロ。こいつは風花・アジャー。傭兵部隊サーペントテールのメンバーの1人さ。そういや、他のメンバーは見かけないようだが…。」
「ええ。詳しいことは言えないけど、他の任務をしていて…。それ、ここでの任務の交渉をアタシがすることになったのよ。」
「ほお~、まあ…お口から生まれてきたような性格だからな、風花は。ぴったりじゃねえか。」
「なによぉ、その言い方。」
「へ~、この子が…。」
風花はヒロのつぶやきに一瞬顔をしかめた。
「子供だからってできないと思っているの?」
彼女は自分が『子供』とみられるのが嫌いだった。彼女は育った環境もあり、自分と同世代を見たことがなかったが、大人が自分を見る目でなんとなく子供というものを理解した。それは『子供は、いかに愚かしい存在か』ということだ。そういうこともありヒロの自分を見る目が子ども扱いしているのかと思った。
「私にはムリだと?」
「え…?いや、この齢でできるなんてすごいなあって思っただけだよ。僕なんか、風花ちゃんぐらいのころは、やろうと思ってもできなかったし…。すごいんだね、風花ちゃんは。」
なにか妙な感じもしたが、子供だからとバカにしている節もない。
その横では、事情を察したフォルテが腹を抑え、必死に笑いをこらえていた。
「どうしたの、フォルテ?」
それをヒロは訝しみ尋ねた。
「いや…なんでもない。」
とか言いつつ、まだ笑いをこらえているフォルテをヒロと風花は不審の目で見た。
「お~い、風花―!先、行っているぞー!」
遠くの方で2人組の男女が風花に声をかけてきた。
「うんっ!今行くー。じゃあ、私は用があるので…。」
「ああ、じゃあな。」
フォルテとヒロはそこで小さな傭兵と別れた。
バエンはモルゲンレーテでの用事をすませ、軍本部へ戻る途中、ふと工場内を見て回っているカガリの姿を見つけた。ここ数日、彼女の日課になっている。父親のウズミと顔を合わせたくないため、あまり家に居たくもないのだろう。
「やれやれ、『獅子』も娘には手を焼くか…。」
こんなところいると、侍女のマーナが知ればどんな顔するか…。いや、もしかしたらこちらに追及されてしまうかもしれない。
「まったく、こまったお姫様だ…。」
バエンはカガリの下へ向かった。
「おや、カガリ嬢。ここのところお見掛けしないと思いましたら…、このような場所にいらっしゃったのですか?」
バエンに呼びかけられ、カガリは振り返った。
「バエン、久しぶりだなっ。それにしても、お見掛けしないとは…知っているくせに。」
「…まあ、カガリ嬢は常に話題の種につきませんから。」
「なんだ、それは…。」
バエンの返しにカガリは苦笑した。しばらく2人は歓談するが、カガリは思い出したように話題を変えた。
「そうだ、砂漠でシグルドにも会ったぞっ。アイツは、相も変わらず凄かったな…。バエンはもうだいぶ会ってないだろう?」
「…ええ。」
「言っておけばよかったなぁ…。ネイも、心配しているだろう?」
カガリの気遣いに、バエンは笑みを浮かべ、返す。
「…無沙汰は無事の便りという言葉もあります。それにアイツも覚悟を持って出て行ったのです。おめおめと帰ってはきませんよ。むしろ帰ってきたら、そのまま蹴り倒して追い出します。」
「…そうか。というか、なんか私の事も言われている気がするが…。悪かったな、帰ってきて…。というか、おめおめと帰って来たとは思ってないぞっ。これは…あれだ、人助けというやつだ。」
そう言うつもりで言ったわけではないが、カガリが何を言った意味を悟り、バエンは思わず吹き出してしまった。
「もちろん、それは存じております。カガリ嬢のご活躍なさった話も聞き及んでおりますので…。海上戦にて地球軍の戦闘機に乗られたとか…。」
「なんだ、もう知っていたのか…。せっかくだからこれから話そうとしたのに。」
カガリはわざとっぽく口を尖らせた。
「これはこれは、わたくし、なんという失態を…。ぜひぜひ、カガリ嬢から武勇伝をお聞かせ願いますでしょうか?」
「よしよし、では話すといたそう。」
バエンの大げさな振る舞いに合わせるようにカガリも口調を合わせ、スカイグラスパーに乗るまでの経緯、乗った時の感想、ザフトの潜水艦の撃墜に一役かったことを嬉々としてバエンに話した。バエンもまたにこやかにカガリの話を聞く。
「…けど、ひどいことに少佐、私のことを邪魔者扱いしたんだ。それに気をとられていたら被弾してしまって、仕方なく帰投しているとことに、ザフトの輸送機と遭遇してしまったんだ。」
カガリは残念そうな顔をし、さも相手が悪いように言う。
「その時、墜落してしまって…。やっぱりシミュレーターとはちょっと違ったなぁ。けど、気がついたとき、姿勢がしっかりと制御されて不時着していたから、バエンの手ほどきのおかげだな。」
「手ほどき、ですか…。」
ふとバエンは重い表情になり、カガリに尋ねた。
「カガリ様…、軍人訓練を始める前に、私があなた様におっしゃたこと…覚えていますか?」
カガリはバエンの表情に気付かず、先ほどの調子で答える。
「ああ…。『上に立つ者、一般兵の戦いを知らなければならない。そうでなければ、優れた戦術論を語るのみでは兵はついては来ない。』…その言葉はしっかりと覚えているぞ。」
「そうです。そして、わたしは持てる力の限り、あなた様にお教えいたしました。…しかし、もしかしたらわたしの不覚であったかもしれません。」
「…バエン?」
カガリはバエンの言葉の意味を理解できなかった。そして、ようやく弁の様子が違うのに気付き訝しんだ。バエンはカガリを見据え、告げた。
「カガリ様…。どうか、あなたが手にした、その銃をお捨てください。」
それは、カガリにとってあまりにも衝撃的な言葉であった。
「バっ…バエン!?」
カガリの動揺を気にせず、バエンは切り出す。
「カガリ様、あなたはウズミ前代表の中立政策を非難し、オーブの参戦を呼びかけているとのことですね?」
「ああ、そうだ。私が行ってきた砂漠でも自分の土地を守るために、たとえ貧弱な装備であろうともみな必死に戦っていた。だが、オーブはどうだ?これだけの力を持ち、富み栄えている。
カガリは己の意思をバエンにはっきりと伝え、バエンもまたカガリに真剣に向き合う。
カガリにとって幸運なことだったのは、父ウズミをはじめとして、彼女の考えていることを、「子供だから」とか「若いから」という理由で始めからつっぱねるのではなく、幼い意見だとしても、真剣に聞き入れ、考えさせ、発信させ、その上で賛成したり、反対を述べる者が周りにはいた。それゆえに、まだ16という齢にもかかわらず、彼女の性格上勢いでつっぱしることもあるが、国のことを考え、行動するというのが身についていた。
バエンもまた、彼女の意見に耳を傾け、熟考する。
彼女のその言葉は、よく言えば潔い、悪く言えば自己満足の正義であった。
世界は依然として戦争にあって人々が苦しんでいるのに、自分たちが平和で富栄得ているのは卑怯だ。一見すると、もっともな意見のように思えるだろう。だが、彼女が見てきたのは「戦争」の一部だ。本当に「戦争」を知ってはいない。
「私は、氏族の一員といえども政治を担う五大氏族よりはるかに低く、ましてやホクハ家やヒジュン家のように代々軍人の家系としてオーブを担ってきた氏族にも及ばない下級氏族の出…、ゆえに前線に立ち、武勲を上げることのみが身を立てる術でした。私の戦いは、その戦いのみ集中すればいいものです。しかし、上に立つ者の戦いはそればかりではいけません。」
バエンは続けて話す。
「『戦争』とは、単純なものに見えて、その実には複雑な構成をしております。そして、それは常に変化していきます。上に立つ者は、その情勢を見極め、そして、己の国の状況をつねに見て判断しなければなりません。そして、『戦争』を行うことに大いなる責任を持たなければなりません。命を背負うという覚悟、汚名を受けるという覚悟…。」
カガリは何も言えず、固まっていた。
「もちろん、これはわたしの出過ぎた意見でございます。それをどう受け止めるかはカガリ様にございます。わたし個人としてはカガリ様がわたしを尊敬し、模範としてくださるのは身に余る光栄でございます。しかし、それでカガリ様の道をお誤りさせてしまったことは無念でございます。」
バエンは身を翻し、その場を去って行った。
1人残されたカガリはどうしてよいかわからず、呆然としていた。
オーブ軍本部内の1室、昨日のマリューの言葉通り、ヘリオポリスの学生たちは両親との面会が行われていた。部屋に入った瞬間、少年たちは顔をほころばせ、両親の下へ駆け寄り、両親たちも彼らを抱きとめた。両親に何を話そう。別れてから2ヶ月間、まるでそれ以上時が経ったような気もした。そして、ここが自分たちの帰る場所なんだと少年たちは実感した。
そんななか、フレイは両親を亡くしてないためにいないのだが、キラとキラの両親の姿はなかった。
彼らの再会を果たせた部屋から離れた1室では、男女が待っていた。
「ヤマト夫妻…ですな。」
ドアが開き、ウズミ・ナラ・アスハが入って来る。男女は立ち上がりウズミに軽く頭を下げる。彼らはキラの両親、ハルマとカリダである。
「ウズミ様…。もう2度とお目にかからない、というお約束でしたのに…。」
「運命のいたずらか…。子どもらが出会ってしまったのです。致し方ありますまい…。」
ウズミの言葉にカリダは顔に憂色を浮かべ、ハルマはそのカリダをそっと肩に抱き寄せた。
「う~…、やっぱり借りすぎたかな?」
ヒロは本を重そうに食堂まで運んできた。
『当たり前だっ。そもそも、ヒロはいつも基本的なことだけ知っておけばいいと深堀りせず、必要に迫られた時にしか…。』
「ごめん、ジーニアス。今、見えないから何言っているか分からない。」
本の上にジーニアスを置いているため、ヒロからただ、彼がビーブ音を鳴らしていることしかわからない。
この後キラと落ち合い、OS改良をするために食堂に向かっていた。とはいっても、ヒロはキラほど、プログラミングに関して詳しくはない。しかしだからと言ってキラに任せっきりと言うのも悪いと思い、このようにモルゲンレーテ社から借りてきたのだ。
しかし…。
そういう専門的な本を探していると言っただけで、事情を詳しく聞かずモルゲンレーテノ技術者たちは目を輝かせ、選書してくれた。なんか、申し訳ないような気もした。
すると、そこでゴツンと誰かとぶつかった。
「うわぁっ!」
『ぬわー!』
ヒロが後ろに倒れ、ジーニアスごと本をバラバラと落としてしまったが、彼にとって現在優先するのは、ぶつかった人の心配だった。これだけの本と思いっきりぶつかったので、どこかけがしているのではないか。
「いたたっ…大丈夫?って、フレイ?」
自分の目の前でぶつかったのはフレイだとわかった。しかし、彼女はしゃがみ込んだまま顔を上げなかった。
「…フレイ?今ので、どっか怪我したの!?医務室に…。」
「…なんで?」
ヒロが慌てふためいていると、フレイはか細く、震える声を発した。
「…なんで、
「えっ?」
顔を上げたフレイにヒロは思わず、驚いた表情になった。こちらを睨む目は涙に濡れていてのだ。それはさっきぶつかったことによる涙ではなかった。
「…フっ、フレイ?」
ヒロは戸惑い何を言っていいか分からなかった。とりあえず、彼女を立たせようと手を差し伸べたが、振り払われてしまった。
「構わないでっ!」
彼女はそのまま走って行ってしまった。
「いったい…。」
さきほどフレイが来たのは、士官室のある方だった。もしかしてキラと何かあったのだろうか。
『まあ…どっちにしろ、艦内ではかなり噂になっていたのにカガリから聞くまでまったく分からなかった鈍いヒロには無理難題な話だな。』
「いや、だって…サイとフレイが仲良かったじゃん。しかも、婚約者だったんでしょ?それでキラとフレイ…。でも、フレイはサイが嫌いってわけでもないのに、なんでそうなるの?」
ヒロは本を拾い集めながら、ジーニアスに問い詰めた。
『私が知るかっ!そもそも、そういうことは人工知能に聞くものか!?』
「…そうかなぁ。でも…。」
『でも…?』
「いや、いいや…。」
ヒロはたぶんまたそのことについて思ったことを話せば、もうこれ以上ジーニアスはまた何か言ってきそうなので、そこで話を切った。
そして、ヒロは本を拾い上げ、食堂に向かった。
「どんな事態になろうとも、私たちは絶対に、あの子に
カリダはウズミに自分たちの答えを話した。
「
ウズミの探るような言葉に2人は一瞬動揺したが、ハルマが落ち着いて答える。
「可哀想な気もしますが…、その方がキラのためです。」
決して言うことのできない秘密。それを互いに共有していた。
「すべては最初のお約束通りに…。ウズミ様にこうしてお目にかかるのも、これが本当に最後でしょう。」
「わかりました。私にはあなた方や
ウズミも彼らの決意を尊重し、頷いた。
「話は、終わったか?」
そこで話を終えようとした時、ふと窓から声がし、3人は驚き振り向いた。
「なんか、喜ぶこともできない再会だな。久しぶりだな。」
窓にいた人物はそのまま彼らの方に歩み寄った。
「なぜ、ルドルフさんがここに…?」
カリダは疑念の言葉を述べた。
「俺も、おまえたちと同じ用件があってね。それに、ウズミ・ナラ・アスハ…あんたも俺に聞きたいことがあるんだろ?」
ちらりとウズミの方へ向けた。
「…よろしいのですか?」
それに対し、ルドルフは頷く。
「だから、ここに来たんだ。カリダたちにも話さなければいけないと思ってな…。」
カリダとハルマはいったい何のことかわからなかった。
「ヒロのことを…。」
次に発したルドルフの言葉に2人は愕然とした。
ルドルフは話し始めた。
アストレイの試験場では、つい先日までとは見違えるほど機体が滑らかに動いていた。
「新しい量子サブルーチンを構築して、シナプス融合の代理速度を40%向上させ、一般的なナチュラルの神経接合に適合するよう、イオンポンプの分子構造を書き換えました。」
キラの説明を耳で聞きながら、目は相も変わらずガラス越しの機体に目がいっていた。エリカを始め、技術者たちは感嘆の声をあげ、相も変わらずやって来たカガリやついでに来ていたルキナも感心していた。
「すごいわ、こんな短期間でっ!」
エリカはキラとヒロの方に向き直り、2人をほめちぎった。カガリがヒロの方に寄ってきて肩をポンと叩いた。
「…で、この作業のどれくらい貢献できたんだ?」
『ほんの少しだな。』
「えっ、それよりもう少しはできたよっ。…たぶん。」
「少し…。結局、キラにほとんど任せたようなもんじゃん。おまけにモルゲンレーテからいろいろ専門書まで借りて…これじゃあどっちが
すでにある程度この新しいOSができるまでの話を知っていたカガリはヒロを茶化した。ジーニアスもそれに乗っかていた。その様子を見ていたキラは思わず吹き出してしまった。
「そんなことないよ、カガリ。ヒロがいて本当に助かったんだから。」
「本当か~?」
キラの言葉にカガリはまだどこか懐疑的な様子だった。だが、キラにとってはプログラムを組んだことにそれくらいヒロが貢献したかどうかではなかった。もし、彼がいなければどこか鬱屈とした思いでいただろう。いや、実際そうだった。砂漠では本当に自分の中で殺伐とした感覚を持っており、僻んでいた。もちろん、それが今はなくなったかといえば、うそでまだ心のどこかに屈折したものがある。だからこそ、昨日ギースにああ言ったことをいったのだが…。
そういえばとふとキラは思い出し、昨日ギースからもらったメモをポケットから取り出した。
「ルキナ…聞きたいことがあるんだけど、昨日ギースさんにもらって…。なんて読むかわかる。」
カガリとヒロものぞき込むが、2人ともわからないようであった。
「なんだぁ、これ。汚いアルファベットの殴り書きか?」
カガリは思わず、そこに書いてるものの感想をもらす。最初はキラもそう思っていたが、よく見るとアルファベットぽくなかった。一方、ルキナは思い当たる節があるのか、なにか思い出すように考えていた。
「これ…、アラビア文字よ。…たしか、『7つの航海』って呼んで、ギースの会社名だった。」
「ルキナ…アラビア文字、読めるの?」
「ギースの会社名だけね。よくこっちのほうで書いているから。」
「へ~。…て、バットゥータ曹長、社長だったの?」
キラは意外そうな顔をした。
「そうよ。」
「社長なのに、軍人なのか?」
カガリもなかば呆れ混じりで聞く。それに対しルキナは苦笑した。
「いろいろ、あったのよ。…たぶん。」
「で、一体それがどういう意味になるんだ。そもそも7つの航海ってなんなんだ?」
「もしかして…シンドバッドの冒険の?」
ヒロはルキナに確認するように聞いた。
「ええ。それを社名の由来にしたらしいわよ。」
「シンドバッドの冒険?」
「それ…ギースが名付けたのか?」
「先代社長、ギースのお父さんだって。シンドバッドのように困難を乗り越え、シンドバッドのように成功をおさめるようにって。」
『そもそもシンドバッドもといシンドバードは当時のイスラム商人の群像の象徴みたいなものだからな…。割とあっているかも。』
「へ~。」
カガリは感心しながら、ジーニアスのウンチク話を聞いていた。一方、キラはギースがこれを渡した意図を測りかねていた。
「どうして、これをくれたんだろう?」
少尉は、どうしたいですか?
あの時、ギースが自分に尋ねたのはどうしてだろうか?
「さすがに…そこまでは、わからないわ。ギースに聞いてみれば?」
ルキナは肩をすくめる。
まあ、確かにそうだろうな。そもそも 困ったらここに連絡してくれと言われたが、一体なにに、困ったらなのだろうか。
訳がますますわからなくなってきた。
試験場を後にし、ストライクとクリーガーの整備の方があるからと、そこでルキナとカガリと別れ、モルゲンレーテの工場へ向かった。
「キラ…。本当に…今日、ご両親に会わなくてよかったの?」
「うん…。」
ヒロの問いにキラはうつむきながら答える。
「会える時に会った方がいいよ。」
「そう…、だね。」
ヒロの事情はすでに聞いている。その彼からそう言われてしまうと、少々申し訳ない気持ちもあった。もちろん、そこまで考えても会うのをやめたのには、キラ自身色々な思いがあった。
「そうか…。」
ヒロもこれ以上追及はしなかった。キラが決めたことであるならば無理強いさせるわけにもいかない。
ふいにキラの肩に乗っかていたトリィが飛んで行ってしまった。
「ああ、トリィっ。ヒロ、先にモビルスーツの方に行ってて。」
キラは慌ててトリィを追いかけて行った。
もう夕刻の時間になったのであろう。窓からは西日が差し込んで来て、薄暗い部屋に橙色の光が混ざりこんでいる。
現在、部屋にはウズミとルドルフのみであった。
ルドルフはカリダとハルマの言葉を今もまだ心の中で反芻していた。
自分の知る限りを、自分の確信があることはすべて話した。話を聞いたカリダとハルマは、初めは沈痛な面持ちで何も話さなかった。
「別に、俺を責めてもかまわない…。」
一瞬、カリダにどうしようもない怒りをちらつかせたが、やがて静かに口を開いた。
「あの子が生きていた…。それだけでも、これほどうれしいことはないのです。」
ハルマもまた穏やかな顔で、うなずいた。
「…わたしたちのこと、キラのこと…それを考えて取ってくれた行動です。それをどう攻めることができるのでしょうか?」
「罵られると思ったのだがな…。」
ルドルフは深くため息をつく。むしろ、そちらの方が自分にとって気が楽だったと思いつつ、そうさせてしまうかも知れなかったことに自己嫌悪な気分になった。だが、彼らは自分を責めなかった。だが、そんな2人だからこそキラはあんな風に「普通の子」として育ったのかもしれない。
それに比べ、自分はどうだ?
砂漠の時ヒロは本当の親の事を自分に聞いた。自分は話すことができなかった。…言えるわけがないと思った。あいつは苦悩しながらも、自分の道を考えていた。ただ、純粋に…。
しかし、それも身勝手なのだろうか。ただ、問題を先送りにしているのではないかと思ってしまうこともある。
「…あの子を、傭兵という世界から切り離せませんか?」
それまで黙っていたウズミが重い口を開いた。
「また、随分と大胆な…。そもそもヒロとは何も言葉も交わさなかったんだろう?」
「ええ。しかし、すれ違いざま見た彼の目…。あの子の瞳は
ウズミの言いたいことを理解したルドルフは苦笑しながら返す。
「それは、俺も十分に知っているさ。伊達に何十年もこの世界で生きてないさ。確かにヒロは
「…ユル・アティラス。」
ウズミはふと名前を口に出した。それにルドルフも頷く。
「ああ。ユルのやつも『何かを守りたい』という思いを持っていたが、いざ敵と相対すれば、ヤツは執拗に追いかけ、己の狩場に持っていき、仕留める…。まさに、狼だな。敵に回したくないやつだった…。
ルドルフは自分の左眼から頬にかけてある傷を指さした。
「では…。」
ウズミが言いかけたが、ルドルフのその寂しさと覚悟の目に言葉が詰まった。
「だがな…、今状況は違えど、ユルを拾ったときと同じなのさ。」
ルドルフはまるで昔を懐かしむように話す。
「…突然、自分の居場所を失い、どうすればいいかわからないでいる。ユルの場合は、それを怒りに変え、刃を向けたがな…。俺はな…、人がどこかに旅立つのは、そこに帰る場所があるからだと思っている。帰る場所をまったく捨て去ってまでまったく新しい世界へ飛び込むのは相当な覚悟が必要なんだよ。俺は誰かさんのように器用でもないから、こういうことしか教えられないが…。アイツが最終的にどこへ行くか、自分の帰る場所がどこか自分で決めるまでは、帰る場所になってやる…。それだけさ。」
「…そうですか。出過ぎたことをしましたな。」
ウズミは頷いた。そう言われれば、これ以上、何も言うことはできない。先ほどの2人の言った通り、彼自身が自分たちのために、そしてヒロのために行動してくれたのだ。それを自分たちが、なにより、あの時受け入れなかった自分が彼のことに口を出すことなどできないはずだ。
もしかしたら、そのことが自分の中で先送りにしてきて積み重なった利息のようになって、それを清算しなければならない、そう駆りたてられてしまったのかもしれない。
工場の建物から出たキラは一生懸命あたりを見まわした。
「どこ行ったんだよ…、トリィ…。」
もしトリィが敷地外にまで行ってしまえば、探しに行くことはできなくなる。それに、出航の日にちもそんなにない。
「トリィー!」
アスランからもらった大事な大事なもの…。それをここで失すのは、まるでアスランとの繋がりが失ってしまうのではないかと、不安にあおられた。
フェンスの付近まで歩いていくと、向こう側に作業服を着た4人が立っていた。うちの1人が手のひらに乗っているメタリックグレーの鳥の姿を見つけ、キラは破顔した。あそこにトリィがいたのだ。その人がこちらに近づいてくる。
きっと、彼らからも自分がその鳥の持ち主だとわかって届けてくれているのだろう。
そう思っていたのもつかの間、キラは深く被った帽子から見えた髪、そして顔に体が固まった。
…アスラン?
なぜ、ザフトの軍人である彼がここにいるのか、と考えが追いつかなかった。アスランはだんだんとこちらに近づいてくる。
「きみ…の?」
アスランはまるでキラを知らない人のようにぎこちないながらにトリィを差し出す。一瞬訝しんだキラだが、すぐに彼の意図を悟った。おそらく彼の後ろにいる3人は彼の仲間、つまりザフトの兵士だ。
「うん…、ありがとう…。」
キラもまたぎこちないながらにトリィを受け取る。自分もそうだ。ここで自分が地球軍の、ストライクのパイロットとわかれば、大きな事態になってしまう。
トリィを返したアスランはすぐに身を翻し、去って行く。それを見ていたキラは泣きそうな顔になった。しかし、泣いてはいけない。身を切る思いにキラは叫んだ。
「昔、友だちに…!」
アスランは思わず立ち止まった。
「大事な友達にもらった…大切なものなんだ!」
これしか言えない。でも言いたかった。
キラとアスランに、まるで2人の心情を表しているような黄昏時の夕陽の色が空を覆っていた。
北米西海岸、カリフォルニア。16世紀から17世紀ごろにヨーロッパ人の開拓が始まり、今では豊かな農業、産業発展の場になるなどしている。地域によって様々な気候の顔を見せるその場所に、地球連合軍の基地、併設して士官学校があった。
そして、その敷地内にある開けた場所では、モビルスーツが数機、まるでランニングするかのように走っていた。グレーの四肢、ボディはダークブルーと赤色、ゴーグルのようなバイザーであった。背中にはビームサーベルは1本装備されている。GAT-01 ストライクダガー、地球連合軍が開発した量産機である。
「ちくしょ~、いったいどのくらい
そのモビルスーツの内の1機、コクピット内でエドワード・ハレルソンは溜息をもらした。もうかれこれ何周も同じように走っている。フットペダルを踏む足の筋肉は痛み始め、操縦桿を握っている手も痺れてきている。
(おまえだけさらに10周追加してもいいぞっ、ハレルソン。)
その時、彼らを指導している士官から怒鳴り声が聞こえてきた。
その士官が乗っているモビルスーツはどことなくダガーに似つつも形状や配色が違っていた。そして、背中にエールストライカーが取り付けられている。GAT-01A1 ダガー。通称105ダガーと言われる機体は、ストライカーパックを取り入れたストライクの制式量産機だが、生産性の高いストライクダガーを優先させたため、現在少数にとどまっている。
「え~、そりゃないっスよ、シュバリエ大尉。」
エドはその105ダガーに乗っている教官モーガン・シュバリエからの言葉にへこんだ。
(はははっ。エド、また怒られたな。)
今度は隣で走っているストライクダガーから通信が入った。
「そりゃ、ここにやって来て、ずっとコレばっかじゃ飽きますって、エンリキ大尉。俺たち、元は戦闘機パイロットだったんですよ。噂じゃ、航空機に変形できるモビルスーツが開発されているとか…。俺はそっちのテストパイロットをしたいですよ。」
エドは不満を漏らした。それに対し、エンリキは苦笑した。2人とも大西洋連邦に併合された南アメリカの戦闘機パイロットで、エドにとってアーロン・エンリキはその時から何度も世話になっている先輩だった。
(エド…、また怒られるぞ。シュバリエ大尉が言っているだろう?『全ての神経をMSと繋げろ。自分の手足のごとく操縦しろ』と。まだまだなのに、テストパイロットなんてできないだろ?)
「そんな~。」
「まったく、ハレルソンのやつ…。」
どうやら今日も彼は居残り訓練になりそうだ。モーガンは息を吐くと、ちらりと隅にあるものに気付き、はモニターをズームにした。
そこにはエレカがモビルスーツ関連の建物に向かっているところであった。運転しているのは、ここの若い士官のようだが、乗っている2人は軍人のように見えなかった。40代ぐらいであろう男性と、まだ10代の赤髪の男の子であった。
「アレが…中佐の言っていた…。」
傭兵が来る。
そのことは事前に伝えられていた。他の者たちはそれを聞いたとき訝しんだが、モーガンはどこか納得していた。
「こりゃ、おもしれえことになりそうだな。」
あとがき
今回のタイトルなのですが、いくつか案があり、結構迷いました。もしかしたら、別の話で、そのタイトルにするかもしれません。
新作ゲームが発売され、買ったはいいけど、なにを引き継ぎしようかと迷いっぱなしで全然始められない(汗)初めはこれさえあればいいやと思っていると、悩めば悩むほど候補が増える…(汗)我ながら、欲まみれだなぁと思った…。
最近、コミックボンボンのマンガが復刻版(という表現でいいのか…)が出ているのを見て、SDガンダム英雄伝!とか、SDガンダムフルカラー劇場とか武者○伝とか(さらにいえば武者頑駄無シリーズの伝説の大将軍編以降のヤツ)(てか全部ガンダムだけど気にしない)なんて願っています。
ヤバイ…、自分の年齢ばれてしまう…。
なーんて、あとがきで書こうかなってメモってたら…、
なんとホントに武者頑駄無シリーズが再販決定してたーっ!(喜(´;ω;`))
そして、さらに、テレ朝のニチアサに…。(´;ω;`)←うれし泣きですよ!
もうここまで驚きのニュースがありまくって、SEEDが映画化と言われても本当のことと信じられそう…。
と、ここまでいい話ばっかでしたが、世の中そうは問屋が卸さないというか…、悲しい話も入ってきる…。