機動戦士ガンダムSEED Gladius   作:プワプー

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最近、この長さで大丈夫だろうかと不安になります。もう少し短い方が読みやすいのでは、と…。



PHASE-35 平和の国の真実

 早朝のためか、あたりはとても静かだった。カガリは気配を消して、邸内の庭をそろりそろりと歩いていた。

 この時間ならまだ使用人たちも寝ている…。

 抜け出すには絶好のチャンスであった。

 昨晩は侍女のマーナとともにこの邸に戻ってきてしまったが、カガリはアークエンジェルのことが気になっていた。ストライクとクリーガーがモルゲンレーテの工場に向かっているはずだ。急いでこの邸を出なければいけなかった。といっても、彼女にはそれだけが理由ではなかった。まだ、左の頬がヒリヒリと痛む。

 「モルゲンレーテへ行かれるのですか?」

 そこへ思いがけなく声をかけられ、カガリの心臓は跳ね上がった。思わず叫びそうになったが、それでは邸の者に自分が抜け出したことがバレてしまうので、あわてて両手で口を押えた。そして、声のした方へ振り返った。そこに立っていたのはこの邸の一角の花壇の手入れを行っている庭師のゲンギ・イーサンであった。

 「やあ、ゲンギか…。こんな朝早くから庭の手入れか?」

 カガリはなんとか心を落ち着かせながら、話を切り出した。いきなり逃げ出しては長年従事しているゲンギに失礼にあたる。とは言っても、はやくこの場を切り抜けたかった。

 「いえ…、ただマーナ殿が、姫様が脱走するのではないかと言って気をもんでいましたぞ。」

 その言葉を聞いた瞬間、カガリは冷や汗をかいた。このままではマーナにいいつけられてしまう。

 「頼む、ゲンギ。今は見逃してくれっ。」

 カガリは最終手段として両手を顔の前で合わせ、ゲンギに頼んでみた。

 「マーナには後で怒られるから…。だが、今だけはっ。」

 「姫様、そのようなこと…わかっております。マーナ殿には言いませんよ。」

 ゲンギは苦笑しながら答えた。

 「しかし、姫様…どうかマーナ殿やウズミ様のお気持ちもご理解くださいませ。カガリ様が家出をなさったとき、それはとてもとてもご心配なさったのです。」

 「ああ~、わかったっ。わかったよ、ゲンギ。」

 このままゲンギの話を聞いていたら、ばつが悪くなる。カガリはそこで区切った。

 「大丈夫だ。今日は帰ってくる。それでいいか?」

 「…わかりました。では、いってらっしゃいませ。」

 「ああ。行ってくる。」

 カガリはようやく解放され、その足で急いでモルゲンレーテに向かった。

 「姫様…。貴女がお生まれになる前の話なのです…。この家に帰ってこられなかった方がいたのです…。それは、待ち続けた方たちに、どれほど深い悲しみをもたらしたことか…、どれほどの激しき怒りをお持ちになったか…。」

 その背を見送りながら、ゲンギは呟いた。カガリはまだそのことを知らない。あのこと(・・・・)はまだ知るべきではないというウズミが決めたからだ。だが、いつか彼女は知るだろう。その時、彼女はどう思うだろうか。

 

 

 

 

 早朝。アークエンジェルの周囲には、モルゲンレーテからのスタッフがやってきて早速修理作業に入っていた。

 「もう作業が始まったんだなぁ。」

 「なんか…落ち着かないね。」

 内部のほうはまだこれからであったが、その様子を食堂のモニターで見ていた少年たちはなにか落ち着かない気分だった。

 「…あれ?もうヒロたち、行ったのか。」

 そこへフォルテがあくびをしながら入って来た。

 「ええ、さっき…。って、部屋…ヒロと一緒ですよね?気付かなかったんですか?」

 「そんな、いちいち気にしないさ。そんなもん気にしてたら、逆に疲れちまう。」

 カウンターから食事のトレイを持ってきて、彼らの近くに座った。

 「しかし…あいつらの戦闘データね~。役に立つのか?」

 「え?」

 周りにいた少年たちはフォルテが食べながら発したその言葉の意味がわからず、キョトンとした顔をした。

 「それって、どういう意味ですか?」

 サイが彼らの疑問を代表する形で尋ねる。

 「あんまし口に出さないようにしていたけど…。あいつらの操縦、出来すぎ(・・・・)だよ。」

 「ふーん。俺からしたら他のパイロットとどう違うのかわからないけど…。なんかあるんですか?」

 「それ(・・)だよ。」

 「へ?」

 トールとしてはどう操縦のテクニックが違うのか聞いただけなのに、フォルテから返って来た言葉にますますわからなくなった。

 「あいつらがモビルスーツ乗って実戦やってまだ2ヶ月(・・・)だぞ?たしかにヒロはシミュレーターやっていたし、1回乗ったことあるが、本当の意味での初陣はあの時だと言ってもよい。さらにキラなんか乗ったことすらないド素人だぞ?ザフトでモビルスーツのパイロットがああなる(・・・・)には、まず適正試験、そして訓練がある。ちょっとやそっとで乗り回せるものではないさ。そもそもモビルスーツとはな…。」

 「待ってください、フォルテさんっ。そこから(・・・・)の話はいいです。随分と聞きましたので…。」

 フォルテが力説し、果てにはモビルスーツにまで熱弁をふるいかけたが、以前興味本位で彼に聞いてその話の長さに苦い経験をしていたトールが止めた。

 「そうか?じゃあ、いいや。」

 水を差された形となったが、フォルテは気にせず、食事を口に運ぶ。トールはホッと息をついた。その近くでカズィがボソッと呟くようにいった。

 「でも…コーディネイターの方がはるかに、ナチュラルなんかよりできるでしょ?」

 「カズィっ。」

 ミリアリアがカズィに咎めるような口調で言うが、フォルテはそんなこと気にせず、答える。

 「それは、本人の努力(・・・・・)次第だな。自分に何かできるものをすれば、できるし、やらなきゃできない。…そうだろう?俺はキラのようにあんなに速くプログラミングはできない。OSがあそこまで早く書き換えできるかって言われてもムリだな。ヒロが書き換えたのはジーニアスが…。あー!ジーニアスっ!」

 と言いかけ、ふと思い出したように声を上げた。

 「やべえ、やべえ。あいつ、ここんところ置き去りにされてばっかりで、いじけてるんだよなぁ。全く、何でおれが…。あっ、コレまだ食べかけだから片付けられないようにしてくれよな。」

 ミリアリアに言づけをし、部屋に戻るため、立ち上がった。

 「まったく…だったら手足ぐらいつけてもらうようにすればいいのに…。」

 ブツブツ文句言いながらフォルテは食堂を後にした。少年たちは、ジーニアスに手足がついたのをイメージしてみたが、あまりにも似合わず、トールなんかは思わず吹き出してしまった。

 一方、サイは先ほどのフォルテの言葉を思い返していた。

 ‐自分に何かできるものをすれば、できるし、やらなければできない。‐

 自分にできることはなんだろうか。自分はキラのようにモビルスーツに乗ることはできなかった。だけど、キラにできなく、自分にできることはあるのだろうか?

 それは、おそらく自分で探さなければいけないのかもしれない。

 

 

 

 

 ストライクとクリーガーをモルゲンレーテの工場へと移動させたキラとヒロは、ここの女性スタッフであるエリカ・シモンズに連れられ、奥の部屋へと進んだ。そして、そこの光景を見て、目を丸くし驚いた。

 「これは…!?」

 「ガン…ダム?」

 ストライクやクリーガーなどのXナンバーに似た機体がずらりと整列するように並んでいたのであった。

 白をベースに、胸部は黒、前腕部や脚部など所々が赤となっている。バックパックはエールストライカーの簡略された形をなっていた。

 「これが、中立国オーブという国の、本当の姿だ。」

 そこへ、背後から声がしたので振り返るとカガリがいた。どこか不機嫌な様子で、左ほおが赤く腫れていた。

 「そう驚くことないでしょう?ストライクやクリーガーだって、オーブのヘリオポリスにあったのだし…。」

 エリカが驚く2人の様子を面白そうにみながら、話した。

 「これはMBF-M1 M1アストレイ。モルゲンレーテ社製、オーブ軍の機体よ。」

 エリカは機体の前に設置されているメンテナンスパネルを開き、機体の構造図を彼らに見せる。

 「これはオーブの護りだ。」

 今度はカガリが話し始めた。

 「知っているだろう?『オーブは他国を侵略しない、他国の侵略を許さない、他国の争いに介入しない』…その理念を貫くために()さ。」

 「力…。」

 カガリの言葉にヒロはつぶやいた。

 「オーブはそういう国だ…いや、そういう国のはずだった!父上が裏切るまではなっ!」

 「「えっ!?」」

 それを聞きキラとヒロは驚きの声をあげ、その言葉の意図を探った。するとエリカがあきれ顔で口を開いた。

 「あら、まーだおっしゃってるんですか?そうでないと、何度も申し上げましたでしょ?ヘリオポリスでのモビルスーツ開発の件、ウズミ様はご存じなかったと…。」

 「黙れ!そんな言い訳、通ると思うか!?国の最高責任者が!」

 エリカの言葉を遮り、カガリはまくし立てる。

 「知らなかったと言ったところで、それも罪だ!」

 厳しい言葉ではあるが、カガリの言うことももっともである。

 「だから、責任はお取りになったじゃありませんか。」

 「叔父上に譲ったところで、つねにああだこうだと口を出して、何も変わってないじゃないか!責任を取るなら宰相のオクセンのように下野すべきではないのか!?」

 「仕方ありません。ウズミ様は今のオーブに必要な方なのですから。だから、あえてオクセン様が身を引いたのです。」

 「あの卑怯者のどこが、だ!」

 カガリのなおも噛みつくのに対し、エリカが溜息をついた。

 「あれほど可愛がっていらしたお嬢様がこれでは、ウズミ様も報われませんわね。おまけに昨日の騒ぎ(・・・・・)では…、たしかにほっぺの一つも叩かれますわ。」

 そう言われるとカガリはきまりの悪そうな顔をした。どうやら、左の頬のはその時のもののようらしい。

 「さ、こんなおバカさんは放っておいて…。来て。」

 エリカはふたたび歩き出し案内し始めた。

 次に案内された部屋はなにか研究施設のようで、部屋にいた社員もなにかしているようだった。その正面は強化ガラスとなっており、ガラスの先にはM1アストレイ3機が並んでいた。

 「アサギ、マユラ、ジュリ!」

 (((はぁーい!)))

 エリカがインカムをとり呼びかけると、スピーカーから3人の女の子の返事が来た。彼女たちはこのM1アストレイのパイロットたちであり、3人のリーダ格でクセッ毛の金髪のアサギ・コードウェル、髪は短めで赤髪のマユラ・ラバッツ、眼鏡をかけたジュリ・ウー・ニェンである。

 (あ、カガリ様!)

 (あら、ホントっ。)

 (なあに、帰って来たの?)

 「悪かったな!」

 3人がカガリの姿を認め、次々に口を開く。

 (隣の男の子たち、なに!?)

 (まさか、家出かと思ったけど、オトコを見つけに行ったとか?。)

 (こういうのって、やっぱ両手に花って言うのかなぁ?)

 「バカ!そんなんじゃない!」

 彼女たちの言葉にカガリは心外なというばかりに反論する。しかし返って彼女たちの格好のマトになってしまった。

 (ムキになるとこがかえって怪しぃー!)

 (いいな~!あたしも素敵な男性をゲットしたいなぁー!)

 (それよりオーブって一妻多夫制だったけ?それだったらいいな~。)

 「おまえら!いい加減にしろよなー!」

 終わりの見えない少女たちの応酬にエリカが割って入った。

 「はいはい。再会の挨拶はそれくらいにして…。始める(・・・)わよ。」

 (((はーい。)))

 エリカの指示に3人のパイロットは返事をした。

 すると、M1アストレイが動き始めたのだが、各々なにかのモーションをしているのだが、いかんせんその動くは遅く何をしているのか見ていたヒロとキラはわからなかった。

 「…相変わらずだな。」

 一方、その動きにカガリは溜息をつきながら呟く。

 「これでも、倍近くは速くなったんです。」

 エリカの言葉を聞いた2人は愕然とした。ということはもっと動きが遅かったのだ。

 「これじゃあ、アッという間にやられるぞ。ただのマトじゃないか?」

 カガリが辛らつな言葉を投げる。

 (ひっど~い。)

 (人の苦労も知らないでっ!)

 (自分だって乗れないくせにっ!)

 それに対し、スピーカーからも反論の声が上がった。

 「言ったなぁ!?なら、そこを代わってみせろ!私が動かしてやる!」

 「はいはい、やめやめ。」

 ふたたび始まった少女たちの口論にエリカが割って入った。

 「でも、カガリ様の言うことも事実よ。私たちはアレを強くしたいの。あなたたちの機体のようにね。」

  エリカに話を急に振られ、キラたちは戸惑ったが、エリカは続ける。

 「技術協力をお願いしたいのは、アレのサポートシステムのOS開発よ。」

 

 

 

 

 オーブの軍事基地の一角では、ある整備士が仕事のない日にもかかわらずやって来て整備場を借り、ヘリコプターを、しかも廃棄処分が決定したものを修理していた。どうやら、彼にとって日常茶飯事であり、また周知の事実となっていて、誰も咎める者もいない。

 ただ、時々そんな彼の元にからかい半分ながら話し相手になってもらうためにやってくる人間もいた。

 「P0シリーズ?聞いたことないな…。」

 「あれ?ダン、知らなかったのか?結構軍の中じゃあ広まっているぞ?」

 オーブ軍の若い士官、ユキヤが持ちこんできた話の内容にダンは作業の手を止めた。

 「昨日、領海侵犯した地球軍の艦とモビルスーツ…。あれ、ヘリオポリスで造られただろ?それと並行して造られたM1アストレイのプロトタイプを所有しているのが来るっていう話さ。たしか…傭兵とジャンク屋、だったかな。」

 ヘリオポリスでモビルスーツが造られていたことも昨日の騒ぎについても、誰から聞くまでもなくオーブ軍およびモルゲンレーテ内では話題となっていたため、自然とダンのところにも入って来た。しかし、現在量産をしているM1アストレイに試作機があったとは初耳だった。

 「…また、何で?」

 「さあ?そこまでは知らないけどな。ただ、五大氏族と呼ばれるサハク家が関与しているとかなんとか…。」

 「サハク…。」

 サハク家は複数の首長家が集まったこの国の氏族の1つで、代表首長になることができる五大氏族のうちの一氏族である。とはいっても、代表首長は代々最大首長のアスハ家がなっており、サハク家は担ってきた仕事のためか政治の表舞台には出ることはなく、アスハ家に憎しみに近い感情を持っている者もいる。

 「まあ、俺にとったら氏族のお偉いさまの話なんて関係ないけどな。俺としたら早く実機に乗れれば、それに越したことないしなっ。」

 自分には関係のないとお気楽に話すユキヤにダンは笑みをこぼした。

 「ふっ、よく言う。素質があるのに、シミュレーターもあまりせず、M1のテストパイロットたちとよくおしゃべりしているという少尉どのの目撃談を聞いたことがあるぞ?」

 痛いところをつかれたユキヤは一瞬言葉に詰まったが、言い訳をした。

 「そりゃ、いくらシミュレーターでもナチュラルが動かすのは難しいのさ。同じナチュラル(・・・・)のダンだってわかるだろう?」

 「…まあ、な。だが、努力は大切さ。どんな機体でも真摯に接しなければいざという時に向き合ってくれないぞ?」

 三尉であるユキヤにとって階級が下である者に言われれば、大抵は怒りそうだが、今でもそのようにガラクタ同然のものを最後まで面倒をみてジャンク屋のごとく再利用している彼の姿をみれば、反論することもできなかった。

 「はぁ…。まだ使えるのに処分するのはかわいそうだと、丹念に非番を使って修復している整備士に言われたら、やるしかないな。」

 「これは、あくまで俺個人の、さ。軍の方で使えなくなったからといって、まだ飛べるものを捨てるのはもったいないだろう。」

 「じゃあ、それ動くようになったら俺にも操縦させてくれよ。」

 ユキヤをそう言い、この場を去った。

 しかし…。と彼を見送りながらダンの頭の中で切り替えた。

 サハクの話が俺のところに来ないとは…。

 彼の話では、あまり大事のように見えないが、裏ではだいぶ深刻な問題になっているかもしれない。もしかしすると、ヘリオポリスの件も、じつはサハクが独自に動いた結果かもしれない。それならば、ウズミ・ナラ・アスハが辞任した理由もうなずける。

 「まったく、もうこれ(・・)から離れてずいぶん経つのに…。」

 性分だろうか…。

 もうそちら(・・・)には関わらないであろうと思っていたが、どうやらそうもいかなくなりそうだとダンは感じた。

 

 

 

 

 アークエンジェルの格納庫内でもモルゲンレーテ社員たちによる作業が始まった。ストライクやクリーガー以外の機動兵器の修復のためである。

 「しっかし[トゥルビオン]まで修復の手が入るとは…。」

 ギースが[トゥルビオン]を見上げながら、呆れ混じりに言った。

 「ありがたいような…、申し訳ないような…。」

 ルキナも複雑な気持ちだった。

 「そうっすね。あの人は無料(タダ)だからと、この時とばかり喜んでいますが…。」

 ギースはちらりとフォルテのジンの方を見る。そこでは、モルゲンレーテの技術者にフォルテが何か話しているようだった。

 「まあ、ゆっくりとするのもいいかもしれないっスね。これからまた休めるときもないですし、俺なんか隊に戻ったらまた大将や中尉にコキ使われそうですし…。たまにはのんびりとダラダラと…。」

 「バットゥーダ曹長っ、いいかしら?」

 ギースが喜びに浸りながら言いかけたところに、マリューに呼びかけられた。そしてギースは一瞬固まった後ガックリと肩を落とした。

 「ううっ…。俺の休暇…。」

 「まだ、いくらでも休める時間はあるわよ、ギース。」

 ギースの嘆きにルキナは慰めの言葉をかけた。果たして、それが効果的かわからないが、ギースは仕方なく、マリューも下へ向かった。

 さてと、とルキナはこれからどうしようかと思い巡らした。アークエンジェルは極秘裏の入港のため、上陸できてもモルゲンレーテの敷地内だけであるしそうやすやすとウロウロすることもできない。

 考えてみれば、軍に入ってから、このように暇を持て余して何をしようと思えるようになれるとは思わなかった。あの頃(・・・)は何かをしようという考えを持てなかった。ただ言われたことをする。…それだけ(・・・・)だった。アンヴァルに異動した時、一番戸惑ったのがそれ(・・)だった。そして、愕然とした。自分がこうも慣らされていた(・・・・・・・)ことに…。

 そう思っていると、カガリがカーゴパンツとTシャツ姿で格納庫内をウロウロとしているのを認め、驚いた。昨日、彼女は侍女に伴われて艦を降り、帰っていったはずだったのに…。

 カガリもこちらに気付いたのか、こっちにやってきた。

 「こっちもすごいなぁ…。モルゲンレーテの方もストライクとクリーガーの修理でいっぱい人がいたけど、ここも多くの人がやってるんだぁ。」

 彼女は感心しながらあたりを見まわす。

 「そうね。ところで、こんなところにいていいの?お姫様が…。」

 『姫』という単語が出て、カガリは口を尖らせた。

 「いけないのか?それに、『姫』とか言うなよ。あまり…好きじゃないんだから。」

 カガリの言葉に思わずルキナは吹き出した。

 「そう?でも、『お姫様』なんて女の子なら1回は夢見るものよ。」

 「『お姫様』っていうのは、そう夢見る女の子がなるものさ。あたしはあたしのしたいようにやりたいだけさ。」

 カガリとルキナは作業音で騒がしい格納庫から移動した。

 「けど、なんで砂漠にいたの?」

 「父と喧嘩してな…。『おまえは世界を知らない』って。それで世界を見に行ったのさ。サイーブは父と知り合いだし、タッシルはキサカの故郷だったからちょうどよかったのさ。」

 「そう…。」

 「あっ…。」

 そこまで話してカガリはしまったという顔をした。

 「すまない。ルキナは…。」

 「そんな、気を使わなくていいわよ。私には、父親はいないけど、カガリにはいる。それは事実なんだから…。」

 ルキナは苦笑しながら返した。

 「いや…それだけじゃなくて…。実は、その…サイーブからその話(・・・)を聞いていたんだ。なんか、それって卑怯に思えてな…。」

 カガリはサイーブから聞いた話を思い出した。

 会っていた教授は政治学の教授であったこと。ヴェンツェルがナチュラルとコーディネイターの融和のために政治家の道を目指していたこと。その矢先に、ヴェンツェルの妻、つまりルキナの母親がナチュラルによって殺されたこと。その原因となったコーディネイターのテロはヴェンツェルが出る選挙区の対抗馬が仕組んだこと。その事実を知ったヴェンツェルがその相手に復讐をしたこと。アウグストがヴェンツェルを消したこと。

 当のカガリにとっては、サイーブが知っている理由を聞くためだけに質問しただけに、なにかあまり他人に知られたくない話を本人が知らずに、知ってしまったことに申し訳なく思った。

 その言葉を聞き、ルキナは逆に彼女の潔さに、呆れを越して感心してしまった。

 彼女は本当に真っ直ぐなんだと…。

 「そういえば…。」

 カガリがふと思い出したのか尋ねた。

 「ルキナは、その…開戦のとき、オーブに移住するとか考えなかったのか?」

 カガリはふと思い出したのか尋ねた。

 「ほらっ、そんなこともあったし。結局、ナチュラルとコーディネイターで分かれての戦争だろう?フレイって子のように戦争から避難するために留学っていう形でオーブに来ている人がいるし…。オーブなら、法と理念さえ守れれば、どんな人でも受け入れる。そりゃ問題がないわけではないけど…、少なくとも地球連合の国にいるよりかはお互いの差別もないし…。」

 カガリの言葉を受け、ルキナはややあって答えた。

 「そうね…。『開戦すれば、たとえ自分たちがそう思わなくても他の人間にとってコーディネイターは()となる』。そう言われて、身の安全のために周りから薦められたわ。…でも、私はユーラシアに残ることを選んだわ。」

 その答えに以外に思ったカガリはふたたび質問した。

 「なんで、だ?それで、ルキナも大変だったんじゃないのか?」

 「そうね…。」

 おまえは敵だと、外国人排斥に似た感情を持つ人から嫌がらせを受けたこともあるし、憎悪の目を向けられたこともある。周りの人たちの助けもあり、なんとか切り抜けらていたが、それは日々自分の精神をすり減らすほど過酷であった。そして、突然スパイ容疑で軍に拘束された。どんなに無実を訴えても聞いてもらえず、極刑を免れない状態だった。そこへ彼ら(・・)から刑を回避する交換条件として、軍に入隊し、モビルスーツのパイロットをすることを提示された。選択肢などなかった。

 もし、オーブに移住していたら、こんなふうになってなかったのかもしれない。人の命を助けたい。そんな風な意志を持つ医者ではなく、人の命を奪う軍人になんて…。

 「…でも、もし時間(とき)を戻しても、同じ選択していたかも。」

 ルキナはおもむろに口を開いた。

 「…不安があったの。もし、オーブでも…、居場所(・・・)がなかったらって…。」

 コーディネイターとナチュラルが普通に共存できる場所は、自分にとってはまさしく理想郷だろう。だが、だからこそ恐ろしいのだ。その場所でもなかったら、と。

 「それに、ユーラシアには私の家がある。辛い思い出もあるけど、それと同じぐらい幸せもある場所…。だから、私にとってそこが『帰る場所』なのよ。」

 それを聞き、カガリはこれ以上追及せず、自分の聞いたことに苦笑した。

 「悪かったな、なんかイヤなこと、聞いて…。」

 それに対し、ルキナは首を横にふった。

 「ううん、大丈夫よ。それに、カガリを見ていて、少しはオーブっていう国がわかったかも。」

 「え?あたし…?」

 いきなりのことにカガリは戸惑った。その様子にルキナは微笑みながら説明した。

 「そう…。だからこそ、カガリはパワフルな『お姫様』なんだっていうこともね。」

 「だーかーら、『姫』って言うなって。」

 なんでかわからなかったが、ふたたび『姫』という単語を出され、カガリはふくれっ面を見せた。が、すぐにルキナとカガリは同時に吹き出し、笑った。

 

 

 

 

 

 モルゲンレーテ社のMS開発部の技師の1室。その部屋で、今20代半ばの若い女性がデスクワークをしていた。そこへコンコンとドアを叩く音がしたので、彼女は仕事の手を止め、立ち上がりドアの方まで歩みをすすめた。

 「はい。」

 彼女はインターフォンで応答すると、モニターにはシキとその後ろにクオンの姿があった。

 (やあ、カローラ・ハーグレイヴ技師。いい茶葉があって、君へのプレゼントにしようと思い買って来たのだが…どうかな?)

 カローラと呼ばれた女性はシキのこのやりとりに慣れているのか、やや溜息をついた後、ドアを開いた。

 「ヒョウブ二佐…、わざわざよろしいのに。」

 「忙しい身の上の君に、時間を取らせてしまっているのだ。これぐらいのことはさせてもらわないとな。」

 シキの受け答えにカローラは思わず吹き出しそうになった。本来なら権限で通せるにも関わらずこのようなことをするのは、彼の礼儀なのだろう。

 「…お茶を入れますので、どうぞ。」

 「うむ。」

 「ハツセ二尉も。」

 「失礼します。」

 カローラは2人を自室へと招き入れた。

 「…大丈夫(・・・)かね?」

 「ええ。ちゃんとしていますので。」

 何か含みのある言い方をしたシキの問いに、カローラは熟知しているのか、返答した。

 「そうか。では…、」

 と、シキの表情が一転した。

 「例のモノ(・・・・)は、順調に進んでいるか?」

 シキは探るように尋ねる。

 「はい。それと同じフレームのX105とX106がモルゲンレーテにて修理が行われていますので、そのデータも手に入りやすいです。うまく行けば、もう少し早く完成しそうです。」

 「そうか。しかし…君には苦労をかけるな。」

 シキはカローラに労いの言葉をかける。

 「そんなことはないです。たしかに、シモンズ主任の目を盗んで行うのは少し気が引けますが…、他ならぬウズミ様の頼みです。」

 カローラは彼らに乞われ、モビルスーツ開発に関わっていた。しかし、それは現在量産が開始しているM1アストレイではなかった。

 そもそもなぜこのようなことが起こったのか。それはオーブという国の事情があった。地球とザフトとの戦争が開戦し、数ヶ月。ザフトが投入しているモビルスーツの存在はオーブにおいても着目され、その実用化を目指した。オーブは中立をとっていても有事のことを考えれば必要不可欠であった。

 ウズミ・ナラ・アスハはその開発を自国の出来る範囲内での開発を進めようとした。 もし、ザフト側もしくは地球側と密かに結んで行えば その場ではなんとか乗り切れても、後々いいように利用され、オーブの禍根になりかねないという思惑がった。そういう考えだからこそ地球連合がプラントに宣戦布告した際、オーブの理念を用いて中立宣言したのは、『オーブという国家を守るための盾』としたからだ。

 しかし、それを快く思わない者たちがいた。それがサハク家である。彼らはアスハの政策を綺麗事、非現実的と批判していた。実際、MS開発は行きづまっていた。彼らは逆に表面上(・・・)地球連合と協力することで、オーブを守ろうとした。また彼らと協力することで行き詰っているMS開発を打破することがきると考えたのだ。そのために行われたのがヘリオポリスでのG兵器の開発であり、その技術を盗用することによってオーブ国産のモビルスーツ アストレイ の開発が成功した。そして、そのP0シリーズと呼ばれる機体を元にM1アストレイが制式量産された。

 一方、ウズミの方も何もしていないわけではなかった。ウズミはサハクが秘密裏にモビルスーツを製造したことを逆手に取った。それは、彼らのアストレイのデータを経由して連合のデータを得、彼らの独自のモビルスーツの開発を行ったのだ。これにより、文字通り自国の範囲内(・・・・・・)で行えることができた。

 「このようにヒョウブ二佐が動いていただいている、というおかげでもあります。」

 だが、このモビルスーツ開発はサハク家に秘密裏に行われなければならなかった。そこで、ウズミはバエンを通じて、本土防衛軍に新しいアグレッサー部隊を設立した。それが第8教導部隊である。アグレッサーという特性上、鹵獲したジンを扱うこともできるし、シミュレートのためにアストレイのデータも得ることができる。そして、モルゲンレーテノ社員でもサハク家よりではないカローラへとデータを届ける役目及び開発の進捗状況の報告等を担っていた。

 「そうだな。ただ…。」

 シキは思い巡らせた。ウズミにとって信頼できる軍人は他にもいるはずだ。だが、彼はシキにこの件を任せた。ウズミがシキの心に秘めている野心を知らないはずがない。

では、なぜ将来己の脅威となろうとする者にあえて力を与えるようなことをするのか。 シキはウズミの心算を推し量った。だが、簡単に見えるものではなかった。

 「ふっ…面白い。」

 ふと笑みをこぼした。

 「どうなさいました?」

 カローラが彼に尋ねる。

 「いや…。乗ってみる(・・・・・)のも悪くないなっ、と思っただけさ。」

 

 

 

 

 モルゲンレーテ社内カローラの部屋とは別の1室。今はその部屋に人がいないのか部屋は暗かった。清掃服に身をつつんだダンは灯りのスイッチをつけ、まさしくこれから清掃作業に入るがごとく入室した。帽子を深く被るだけで部外者だとは誰も気づかない。

 ダンは迷うことなく、ある人物のデスクまで歩き出した。デスクまで来ると、小さなコンピュータを置き、それをパソコンに繋げ、両方とも起動する。

 ダンはナチュラルとは思えない、タイピングの速さで、もちろん正確にキーボードを入力していく。彼は、周囲にはナチュラルと言い、振る舞いもナチュラルのごとくしていたが、コーディネイターであった。

 セキュリティでがっちり固められ、パスワードが途中遮っても、それをなんなくも解いていく。そして、目的のモノを見つけると小さなコンピュータにコピーしていった。

 ちょうど、コピーを終えると外から人の足音が聞こえてきた。

 ダンは急いで、清掃作業に取り掛かった。

 そこへ部屋のドアが開き、バエンとエリカが入って来た。

 「どうだ、状況は?」

 「はい。なるだけ早く補修が済むように急ピッチに行っています。OS開発の方も、彼たち特にヤマト少尉であれば、できるでしょう。あらっ、掃除の人が来ていたのね。」

 エリカが清掃員に気付いた。

 「お疲れ様です。」

 ダンは帽子のつばに右手をつかみ、そのままお辞儀挨拶した。

 なんでこんな時にこんなところに…。

 エリカ・シモンズを含め他の社員がこの部屋に入って来ても、軽く乗り切れるだろうが、今回に限って内心では心臓が破裂するのではないかと言うぐらいバクンバクンと鳴っていた。まさか、バエンがここに来ると思っていなかった。

 「ええ、いつもごくろうさま。」

 エリカはにこやかに挨拶し、自分のデスクに向かう。

 「ええと…、どこまで話していたかな?そうそうOS開発の話だな。彼に協力を仰いだのは、『我が国における潜在コーディネイターの軍需産業への貢献』という文献を読んで、かね?だが、コーディネイターといえども万能ではない。得手不得手というものがあるだろう?」

 バエンが話を切り出す。エリカはうなずき、答える。

 「ええ。彼はもともとカトウ教授のゼミに所属していまして、教授の研究のプログラム解析を手伝ったりしていたそうです。その中にはヘリオポリスのモビルスーツのデータもありました。もちろん、ヤマト少尉はそのことを知りませんでしたが…。」

 エリカはコンピュータを起動し、キーボード入力を行う。

 「しかし、緊急事態…あれだけの短期間でOSを書き換えできたのです。彼の能力には目を見張るものがあります。」

 「そうか。君がそこまで言うのであれば、間違いないだろう。」

 バエンはそのままエリカの作業を終えるのを待った。ちらりと清掃員を見た後、ややあって口を開いた。

 「君が先ほど言っていた『潜在コーディネイターの軍需産業への貢献』…。たしかに、我々がコーディネイターを受け入れているのは、そういう面もあるだろう。だが、オーブが高い技術力を有するには、必要かつ重要な人材と思っているからさ。もちろん、この国を好いてくれ者も他国の人間でも、我が国の法を守ってくれるなら喜んで迎え入れる。言い方を変えれば、法を守る者であれば、その者がどう考え(・・・・)どう行動(・・・・)しようと受け入れるということさ。我々がそれに命令すること(・・・・・・)拒否すること(・・・・・・)もしない。コーディネイターに限らず、この小さな島国が生き残るには人材(・・)が必要と思っているからな。…()もそうだろう?」

 エリカがコンピュータからデータをプリントアウトし、資料を持ってきた。ちょうどその時、後ろでは清掃員が作業を終え、挨拶し出て行った。

 「…ええ、そうですね。これが、今回まとめたレポートです。まだ、完成していないので現段階のものですが…。」

 「いや、構わないよ。ありがとう、無理を言ってすまなかったな。」

 バエンはエリカに感謝の意を述べ、資料を受け取った。

 

 

 

 「はぁ~、驚いた。」

 ダンはこの場から早く去るために急ぎ足で歩を進めた。先ほどバエンがこちらに視線を向けて来ていた。

 「俺も、鈍ったのかな…。」

 以前ならこんなアクシデントでも落ち着いて対処したのだが…。

溜息をつきながら、手に持っているコンピュータ、シュレッダーにかけられたゴミに目を向けた。バエンの先ほどの言葉が脳裏によぎる。あれは、エリカにではなく、あきらかに自分に向けて言ったものだ。

 「…そう解釈させていただきますよ、准将。」

 お墨付きを得たと、ダンはニヤリと口元に笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 「いたいた…。ヤマト少尉っ。」

 モルゲンレーテの工場で、キラを探していたギースは彼を見つけ、呼びかけ彼の下へと向かった。

 「あっ…、『少尉』ってまずかったかな。」

 「なんですか?」

 キラはギースに尋ねた。

 「あっ、そうだった。明日午後なんですけど、軍本部での両親との面会が許可されたそうです。もう他の学生たちには伝えたのですが、ヤマト少尉はいなかったので…。細かい予定とか、一応形式上書類も必要で…」

 ギースが紙を差し出し見せた。

 「ヤマト少尉も、面会しますよね?」

 ギースの表情はキラが面会するという方向で決まっているような顔であった。それを感じ取ったキラは俯きながら答えた。

 「いえ…。明日、面会しないと言ってください。」

 「ええ!?…なんで?」

 ギースは驚いた顔をした。

 「やることもありますし…。」

 「また面会の時間がとれるかわかりませんよ。ご両親にとってヤマト少尉はたった1人しかしない大事な家族なんですよ?ホントに、いいのですか?」

 ギースは念を押すように聞いた。もし、両親との中が悪ければ、これ以上は言わないが、みたところそんな感じではなさそうだった。なおも追及するギースにキラは辟易しながらポツリとつぶやいた。

 「僕が、コーディネイター(・・・・・・・・)だから、できる(・・・)からモビルスーツに乗って、戦って、人を殺して…。なのに、どうやって普通に、今まで通りに会えって言うんですか?…できないですよ。両親に『なんでぼくを、コーディネイターにしたの』ってなじってしまいそうで…。」

 キラは顔をしかめた。ギースの言葉通り、自分だって両親は大事な家族だ。だからこそ、その言葉が2人を傷つけてしまいかねない気がして嫌だった。

 ギースはキラの言葉を聞いて、黙り、2人の間に沈黙が流れた。

 「…なので、僕は行きますね。『今は会いたくない』と、そう伝言してください。」

 キラはギースに背を向け、歩いていった。

 「…ヤマト少尉!」

 ギースが追いかけてきた。

 「なんですか?もう用事は終わったんじゃないですか?」

 振り向いたキラはもう構わないでほしいという顔をした。

 「まあ、そうだけど…。ヤマト少尉はどうしたい(・・・・・)ですか?」

 唐突な質問にキラは首をかしげた。

 「いったい…なにを言ってるですか?」

 ギースに質問の意図に理解できないキラは聞き返した。

 「う~ん。そう言われても、俺に言えるのはここまでですし…。」

 ますますわからなくなった。

 「んじゃぁ、とりあえずコレ、渡しておきますね。」

 内ポケットからなにかメモ書きし、それを手渡した。キラはそれをみたが、いったい何が書いてあるのかそこの書かれている文字が読めなかった。

 「…これ?」

 「ああ。もし困ったらそこに連絡してください。俺の名前出せば、大丈夫ですので…。」

 そう言い残し、ギースは去って行った。1人残ったキラはギースの行動の意味がわからず、頭に疑問符が飛んでいた。

 

 

 

 

 翌日。

 日の出の時間といえども、まだ太陽が水平線から出きっておらず、空は東に行くほど黒から紅、青へと変わっている。まだモヤがかかるなか、沿岸に小さな漁船が停泊していた。この時間帯に釣りをしたり、漁業に携わる者もオーブにはいるので珍しくないが、その漁船に乗っている男たちは釣り糸を垂らしたままで、獲物を待っている様子ではなかった。

 すると漁船の船端を掴む手が海中より現れた。漁船の男たちはそれに驚くことなく、手を差し伸べ、ウェットスーツ姿の人物を船に乗せた。同様にあと3人を乗せた。

 「クルーゼ隊、アスラン・ザラだ。」

 最初に船に乗り込んだ人物がゴーグルとマスクを外し、挨拶をする。他の3人、イザーク、ディアッカ、ニコルも外し、顔をあらわす。

 「ようこそ。平和の国(・・・・)へ。」

 それを受け、漁船の男、オーブに潜んでいるザフトの諜報員は彼らを迎え入れた。

 

 

 岩場で彼らの様子を、知れずに覗いている人影があった。かの者も釣りをたらし、簡易座椅子に座っているので、彼ら同様普通の釣り人と傍から見れば思うだろう。しかし、深く被った帽子から覗かせるその目は鋭い光を放っていた。

 「おやおや、ここのところお客さん(・・・・)が多いことだ。」

 意味深な言葉をつぶやきながら、どこか面白そうに眺めていた。

 

 

 

 




あとがき
今回はちょっと真面目に…。
ウズミ・ナラ・アスハはヘリオポリスのモビルスーツ製造を知っていたかor知らなかったか?
原作ではカガリはそのことについて「周りが言っている。父は何も言っていない。」と述べており、外伝『ASTRAY』ではサハクの独断専行で、ロンド・ミナは「ウズミは知らない」と言っています。
作者としては、ウズミは「知っていた」のではないかと推測し、その前提でこの流れでの話を書きました。
あくまでも、あくまでも私のイマジネーションですが…。



作品を書いている際、すこし楽にできるようにと、キャラに謎のあだ名をつけているときがちらほらあります。最近、それがここで思わず出てしまうのではないかと心配…。(今も後書き入れるの忘れていたし…(汗))


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