機動戦士ガンダムSEED Gladius   作:プワプー

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あけましておめでとうございます…からだいぶ時期が経ってしまった(汗)
この時期は…寒中見舞いかしら?(立春より前に投稿出来てよかった~)
というわけで今年もよろしくお願いします。



PHASE-34 南海の楽園

 

 

 (ご覧いただいているのは、現在、我が国の領海からわずか20キロの所で行われている戦闘の模様ですっ!)

 切迫しながらも、どこか興奮気味の女性ニュースキャスターの声と共に、戦闘の映像が街頭や各家庭のテレビモニターに繰り返し、流れている。街を行き交う人々もその映像を、それが己の近くで行われていると理解しつつも、その実感なく見ている。

 ここはオーブ連合首長国。南太平洋に大小さまざまな島から構成される島国である。

 (政府は不測の事態に備え、すでに軍の出動を命じ、緊急首長会議を召集…。)

 首都オロファトにある行政府にて各州の首長たちと側近たちが集まり、細長いテーブルでこの中継を見つめ、低く話し合っていた。

 「ウズミ様…。」

 その中心に座っている代表の男がテーブルの端に座っている威厳ある顔つきで髭を蓄えた壮年の男を見やり、彼に窺うように声をかける。

 ウズミ・ナラ・アスハ。彼はオーブの前代表であり、ヘリオポリス崩壊の件で責任を取る形で辞任したのであった。

 「許可なく領海に近づく武装艦に対する我が国の措置に、例外(・・)はありますまい。軍司令本部のリュウジョウ准将にもそう伝えるものですぞ、ホムラ代表。」

 「はあ…しかし…。」

 そう言われたが、ホムラは当惑していた。もちろん、普通はそうするだろう。だが、今回領海に近づきつつある艦と機体は、彼らにとって複雑な事情を持っている。

 「ただ、テレビ中継(・・・・・)はあまりありがたくない…と思いますがな。」

 「…そうですな。」

 ウズミの言葉にホムラは意図を察し、すぐさま側近を呼びつけ、指示を出した。

 

 

 

 「それで…、ハツセ二尉、今回我々が呼び出された理由は?」

 軍司令本部に2人の将校が急ぎ足で進んでいた。階級章は二佐を示している若い男、シキ・ヒョウブは己の補佐官、クオン・リタ・ハツセに尋ねた。

 「それは、司令室に来ればわかるとリュウジョウ准将はおっしゃっておりました。」

 「何か…わけありということか。でなければ、教導部隊の我々を呼ぶわけないしな。」

 教導部隊いわゆるアグレッサー部隊は、敵部隊をシミュレートし、軍事演習において、仮想敵機としての役割を行う部隊の事である。オーブは中立を保つため、その軍事力を保有しているが、その中立ゆえに実戦経験は乏しいものであった。それを補うためにアグレッサー部隊を設けている。

 シキはその本土防衛軍第8教導部隊の隊長である。

 司令室に辿り着く、その中は対応に慌ただしく動いていた。

 「ヒョウブ二佐。」

 本土防衛軍に所属するガウラン・タグ・ヒジュンに呼びかけられ、彼らはそちらに向かう。そこには本土防衛軍准将バエン・ジオ・リュウジョウの姿もあった。

 「ヒョウブ二佐、ただいま出頭したしました。」

 「いまはそんな堅苦しいことはいい。お前たちに見せたいのはアレ(・・)だ。」

 彼に促されモニターに目を向ける。

 そこには黒煙を上げている白亜の戦艦とツインアイのザフトのとは異なるモビルスーツが見受けられた。

 「行政府からは例外なく(・・・・)対処せよと指示を受けている。が、先ほどまで流していたテレビ中継は止めさせている。」

 本土防衛軍准将バエン・ジオ・リュウジョウの言葉より、シキは行政府にいる代表しいてはウズミの意図を理解した。

 「つまり…そういうこと(・・・・・・)と?」

 「ああ。まったく…無茶なことばかり言いやがる…。現在ティリングの第2護衛艦群を向かわせているところだ。」

 バエンは溜息をついた。

 

 

 

 

 「5番、7番、イーゲルシュテルン被弾!」

 「損害率25パーセントを超えました!」

 次々と上がる報告にマリューの顔には焦りの色が見え始めた。もともとマラッカ海峡にて多数被弾、そして付け焼き刃の補修であったため、戦闘はなるだけ避けて太平洋を横断したかった。しかし、そううまく行くわけもなく、敵に遭遇した。しかも、相手はヘリオポリスで奪取された4機であった。そして、シグータイプの機体も共にいる。

 「機動兵器は…。何をしているっ!」

 いつも冷静なナタルも焦燥感に駆られながら、叫ぶ。

 「各機、応戦していますが…。」

 ミリアリアもやりきれない思いで答える。

 

 

 

 『足つき』からミサイルが発射される。

 その攻撃を、グゥルを移動させることによってアスランは避けていった。

 重力があるというのはこんなにも厄介なものだと、アスランは苦々しく思った。ましてや海上での戦闘となると余計にそう感じてしまう。

 無重力の宇宙空間および設定された有重力のコロニー内では高機動をいかんなく発揮できるが、大気圏内ではこのMS支援空中機動飛翔体グゥルに乗っていない限り、運用もままならないし、運動性も制約される。

 だいぶ損害を受けている『足つき』を、なかなか墜とせず、じれったくなったのかデュエルとバスターが前に出て行った。

 「イザーク、ディアッカ前に出過ぎだっ!」

 (うるさいっ!)

 2機の特性を考えれば後方向きではあるが、アスランの言葉を無視し、イザークとディアッカは前衛からの攻撃を始めた。

 (隊長、俺が行く。)

 そこへイージスの隣に濃い目の青い色をした機体がやって来た。

 「クトラドさん。しかしっ…。」

 (まだ地上戦に慣れていないのだろう。なら、あまり無理するな。)

 クトラドはそう言い残し、機体をアークエンジェルへと向けた。

 その機体はシグーをベースとなっていて、両肩に大型のビーム砲があり、左腰部には実体剣と複合型となっているレーザ刃をマウントしていた。YFX-200 シグーディープアームズ、それがこの機体の名称である。連合軍のビーム兵器技術を参考にした試作機であるが、ビーム砲は大型のままであり、冷却能力が不足のため連射できないという欠点もある。

 そのため、クトラドはシグーのM7S重突撃機銃と右腰部にM4重斬刀と従来の武装を装備している。

 

 

 

 

 「PS装甲って、こんなにも厄介だなんて…。」

 (少しは、俺の苦労も分かってくれたか?)

 デュエルの攻撃をかわし、下がって来たルキナが愚痴をこぼし、フォルテがそれに応じた。実弾・実体剣しか装備がない両機体。砂漠から腕を振るっていたルキナもこれら相手には手こずっていた。

 デュエルは後方にいるストライクによってグゥルを失い、なおも取りつこうとしたところをストライクによってビームサーベルの柄を斬られ、踏み台にされ海面に叩き落とされてしまった。

 

 上空で応戦していたクリーガーも一旦フォルテのジンの近くの甲板上に着地してきた。そこへシグーディープアームズがこちらに向かってきて、両肩のビーム砲を発射した。

 (うぉっ、ヒロ!)

 フォルテはとっさにクリーガーの腕を引っ張りシールドで防いだ。

 シグーディープアームズはそのまま2射目はなく、すれ違い通り過ぎた。

 (どうやら、まだお前たちのビームライフルのように連射は出来ないようだな…。手に突撃機銃を持っているしな…。)

 シグーディープアームズが反転し、こちらに向かって来る。 クリーガーは甲板から飛びあがり、シグーディープアームズへと向かった。

 (ヒロ、あのグゥルからうまく切り離すようにしてくれ。それをこっちで使う。)

 「ええっ!?」

 フォルテからの要請にヒロは困った顔をした。グゥルがなければ、飛行能力のない機体は落下し、戦線を離脱しなければならない。ブリッジからもそう指示が出てきている。しかし、それを破壊せずに奪うのは至難の技であった。

 「そんな無茶な注文…。」

 クリーガーの腰部のビームサーベルを抜いた。

 「ビームサーベル、だと…。」

 クトラドはクリーガーの動きに訝しんだ。飛行能力のあるクリーガーの方が有利だ。射撃の腕が壊滅的に悪くない限り、機体を墜とせることは出来るだろう。さきほどからの戦いぶりを見て居る限り、そうではなさそうだ。

 ということは、向こうの狙いはおそらくグゥルを破壊するか奪うか、だろう。

 「…させるかっ。」

 シグーディープアームズの足をグゥルのMS足止め具から外し、そこから降り、グゥルを加速させながら落下させた。

 「グゥルから降りた!?なんで…!?」

 ヒロは訝しんだ。グゥルはクリーガーを通り抜けていった。

 「まさか、フォルテっ!?」

 ヒロが気付いたときは遅かった。

 「そこだっ!」

 クトラドがグゥルの無線コントロールからミサイルを甲板上にいるジンに向け一斉に発射した。

 「…ヤバイ。っくそ!」

 シグーディープアームズとクリーガーがちょうど重ねったため、捉えにくくなり、一拍遅れたジンはあわてて突撃機銃を乱射した。

 そこでミサイルが爆発した。

 「フォルテっ!」

 銃での応戦にとっての爆発か着弾しての爆発か上空からでは捉えにくかった。その時、コクピットに警告音が鳴った。

 正面からシグーディープアームズが落下速度と共にレーザ重斬刀を構え、落ちてくる。

 「くっ。」

 ヒロはビームサーベルを構え、相対するため、フットペダルを踏もうとした時、今度は後方からの警告音が鳴った。

 「今度はなに!?」

 モニターで確認すると、グゥルが今度はこちらに向かってきた。

 グゥルの装備は実弾だが衝撃で斬り合いのタイミングを無効に有利にずらされる可能性もある。しかし、今グゥルの方も向くこともできなかった。

 どうする…。

 しかし、迷っている暇はなかった。

 ヒロは大きく息を吸って吐いて、自分を落ち着かせた。そして、クリーガーを滞空させ、ビームサーベルを両手で構えた。グリップをギュっと握り、全神経を敵機、自機、グゥルに集中させた。

 「なにを…?」

 クトラドはクリーガーの様子に訝しんだ。

 「ふっ…。なら、そのまま墜としてみせる。」

 無線コントロールでグゥルを加速させた。いくらこちらの出方を伺おうとも、大抵の人間は間近に来るものから反射的に対処するものである。

 「…来る!」

 グゥルが迫るギリギリの距離の気配を感じ取り、ヒロはとっさにクリーガーを左半回転させ、ビームサーベルを左に持ってグゥルをついた。

 「背後がガラ空きだぞ!」

 クトラドは勝ち誇った笑みを浮かべ、レーザ重斬刀を振り上げ、斬りかかろうとした。

 その時、

 クリーガーの右手が右腰部のビームサーベルを持ち、そのまま一旦、折りたたんだまま腕を前にし、すぐさま後ろに突いた。

 「なっ!?」

 いきなりの事にクトラドは慌ててフットペダルを外し、レバーを引き、グリップを横へと向けた。

 クリーガーのビームサーベルはシグーディープアームズ頭部に寸でのところで交わされたが、その隙をついて、ヒロは左てのビームサーベルをグゥルから引き抜き、クリーガーを反転させ、グゥルを踏み台にし、シグーディープアームズに迫った。

 その背後でグゥルは爆発した。

 一瞬対応に一拍遅れたクトラドは焦ったが、その衝撃によってクリーガーが少し動きを止めたのを機に、クリーガーを踏みつけ飛び上がった。

 クトラドは両肩のビーム砲を向け、クリーガーに狙いを定めた。

 しかし、クリーガーの後ろからこちらに向けて弾丸が飛んできた。

 シグーディープアームズはそれを空中で何とかかわす。

 甲板にいたジンが100㎜キャノン砲を手に持っているのが見えた。

 そこへイージスがこちらに手を伸ばしてやって来て、シグーディープアームズはその手を掴み、離脱した。

 「フォルテ、ごめん。グゥル…。」

 「いや…。アレはいくらでもあるからいいさ。それにこっちも手持ちの武器は100㎜キャノン砲(これ)しかない。」

 

 

 

 「無事ですか?」

 アスランはクトラドに通信を開いた。

 (ああ。だが、グゥルがない以上、これ以上の戦闘はムリだ。すまないが、戦線から離れる。)

 「では、艦に回収の指示を…。」

 (いや。隊長は構わず『足つき』への攻撃を。)

 「しかしっ…。」

 (アレ(・・)さえ墜とせば、終わる。…そうでしょう?)

 そう言い残し、シグーディープアームズは海へと飛び降りた。

 アスランはグゥルを駆り、アークエンジェルへと接近した。

 そうだ、これを墜とせばいいんだ。

 照準器(スコープ)を出し、狙いを定める。そこへ白い機体が視界に入った。

 キラ…。

 アスランはそこに乗っている友を思い、苦い面持ちをした。

 

 

 

 

 

 ブリッジも緊迫した状況のなか、チャンドラが声を上げた。

 「領海線上にオーブ艦が出てきています!」

 モニターにはオーブの護衛艦、戦闘ヘリコプターがこちらに向かってくるのが映し出されていた。

 「…助けに来てくれたぁ!」

 それを見たカズィは思わず安堵の声を上げた。

 「領海に寄り過ぎているわ!取り舵15!」

 しかし、マリューの言葉によってその希望は打ち消された。ヘリオポリスの少年たちは息を呑んだ。

 「しかし…。」

 「これ以上寄ったら、撃たれるわよ。」

 ノイマンの抗議にマリューは事実を突き付ける。

 「オーブは友軍ではないのよ!平時ならまだしも、この状況では…。」

 オーブは開戦の折、中立を貫く宣言をしている。つまり、敵ではないが味方でもない。オーブにとっては、ザフトであろうと地球軍であろうと領海侵犯をする者であることには変わりはない。

 「かまうことはない!」

 その時、声がし、クルーたちがその方向をみるとカガリとキサカがいた。カガリはちらりと艦窓から赤い機体を視界にとらえた。

 先日、無人島にいたあの…イージスという機体だ。

 アスラン…。

 カガリはその時、出会った若い兵士の姿がよぎった。乗っているのはおそらく()であろう。カガリには彼を撃つ機会があった。正確にはイージスを破壊したいがためであった。アレによって地球の人たちが犠牲になる。だが、アスランはアレを壊させるわけにはいかなかった。カガリに迫られた選択は、彼を撃つことだった。

 できなかった。どうしても引き金を引けなかった。

 しかし、そのためにこの艦が危機に陥ってしまっている事態に、カガリはやりきれない気持ちだった。

 「オーブには私が話す!はやく!」

 だからこそ、今自分ができることをしなければいけなかった。カガリはマリューの元へ駆け寄った。

 「カガリさん…?」

 「展開中のオーブ艦より入電!」

 マリューはカガリの言葉に戸惑い、尋ねようとした時、パルが報告した。

 (接近中の地球軍艦艇、およびザフト軍に通告する!)

 通信モニターに司令らしき将校が映し出された。そして、艦、モビルスーツに向け、将校は告げる。

 (貴艦らはオーブ連合首長国の領域に接近中である。速やかに進路を変更されたし!我が国は武装した船舶および航空機、モビルスーツ等の事前協議なき領域への進入を一切認めない。速やかに転進せよ!)

 この放送を聞いている各々が様々な反応を示していた。ある者は真剣なまなざしで聞いており、ある者は見下すように聞いていた。

 (繰り返す、速やかに変更せよ!この警告は最後通達である!本艦隊は転進が認められない場合、我が国は自衛権を行使し、貴艦らを攻撃する!)

 「攻撃って…俺たちも?そんな…。」

 「…なにが中立だよ。アークエンジェルはオーブ製だぜ?」

 カズィは思わず声を上げ、頭を抱えるそれに対し、他のクルーは冷ややかな反応を見せた。

 「かまわん!そのまま領海へ向かえ!」

 カガリは勢いよく通信席まで駆けあがり、カズィのインカムを奪い取り、通信越しの将校に向け怒鳴った。

 「この状況でよくそんなこと言えるな!アークエンジェルは今からオーブの領海に入る!だが、攻撃するな!」

 (なんだ、おまえは!?)

 将校はいきなりのことに驚き、カガリを睨んだ。もちろんカガリも引き下がるはずなく、必死に叫んだ。

 「おまえこそなんだ!おまえでは判断できんというのなら、行政府へつなげ!」

 カガリは一瞬ためらったが、すぐに叫んだ。

 「父を、ウズミ・ナラ・アスハを呼べ!私は…私は、カガリ・ユラ・アスハだ!」

 その名前を聞いた瞬間、ブリッジは静まり返った。特に、ヘリオポリスの学生たちは驚愕していた。もちろん艦内のみならず、アークエンジェルを攻撃しているザフトや応戦しているモビルスーツたち、果てはオーブ艦群まで、まるですべて時間が止まったように停止していた。

 ウズミ・ナラ・アスハ。その名前を知らないオーブ国民はいない。オーブの前の代表首長であり、アスハ家の当主。それを『父』というのであれば…。

 「カガリが…お姫様?」

 ヒロは困惑した。

 (これは大問題だぞ、ヒロ。)

 「…まあ、たしかに。」

 そこに通信が開かれたフォルテの言葉にヒロは頷いた。地球軍の艦船に中立国であるオーブの代表首長の娘が乗っていることは国際的にも問題のはずだ。しかし、フォルテのいう大問題とは別のところにあった。

 (ようは、カガリは『姫』っていうことになるんだろ?ならば、世の『姫様』という概念をアイツによって一気に壊されちまったんだぞ。)

 「…そんなこと言って、カガリに怒られるんじゃない?」

 ヒロは呆れた表情になった。

 

 

 

 しばし呆然としていた将校は、我に返り口を開いた。

 (なっ…姫様がそんな艦にのっておられるはずがなかろう!もし仮に、それが真実であったとしても、そんな言葉に従えるものではないわ!)

 「あっ、待て!こらー!」

 一方的に通信を切られ、カガリは怒鳴ろうとしたが、その時ブリッジに激しい衝撃がおこった。

 バスターがふたたび艦に砲火を浴びせていた。

 そうはさせまいと、甲板上のストライクがグゥルに向けライフルを撃ち、ムウのスカイグラスパーがランチャーを発射し、バスターを狙う。

 グゥルを撃たれ、足場を失ったバスターはスカイグラスパーの砲撃を何とか躱し、落下する前に放った最後の砲撃がメインエンジンに直撃した。

 船体が激しく揺れ、大きく傾く。他のクルーは必死に自分のシートにしがみつくが、通信席の脇に突っ立ったままのカガリは飛ばされてしまい、下にいたキサカに抱きとめられた。

 その様子はオーブ艦隊からもうかがえることができた。見ていた将校たちも驚きの声を上げる。

 「1番、2番エンジン被弾!48から55ブロックまで隔壁閉鎖!」

 「推力が落ちます!高度、維持できません!」

 次から次へと上がる報告にマリューは歯を軋ませる。ノイマンとトールが必死に艦を立て直そうと操艦するが、無駄であった。

 その時、ふとキサカが囁いた。

 「これでは領海へ落ちても仕方あるまい。」

 その言葉に、ナタルは驚き、マリューも相手を探るように窺った。

 「心配はいらん。第二護衛艦群の砲手は優秀だ。巧くやる(・・・・)さ。」

 マリューはそこでキサカの言葉の意味をくみ取った。そして、操縦席に向き直り、クルーに指示を出した。

 「ノイマン少尉、操縦不能を装ってオーブ領海へ!オーブ艦への発砲は厳禁と、パイロットたちにも伝えて!」

 つまり、やむを得なく領海に入った場合は仕方がない、ということだ。しかし、ザフトもいる。彼らの目をごまかすためにオーブ艦はアークエンジェルを撃沈させたと偽装する必要がある。もし、パイロットが意図に気付かず、オーブ艦を撃てば最悪の事態になってしまう。そのための指示であった。

 こうして、アークエンジェルは黒煙を上げ、船体を傾けながら落下していき、オーブ領海へと着水した。

オーブ艦隊の護衛艦の砲がアークエンジェルへと向け、通告を発した。

 (警告に従わない貴艦らに対し、我が国はこれより自衛権を行使するものとする!)

 その直後、砲撃が始まりアークエンジェルを覆い隠すように無数の水柱が上がる。

 近くにいた、イージス、にも砲撃が来て、それをかわす。アスランはライフルのスコープでアークエンジェルを照準するが、攻撃ヘリに割り込まれてしまった。

 「くぅ…。」

 これではどうすることもできない。しかし、無理に押し通るには、機体のバッテリーも残り少なく、下手にオーブに当たれば、外交上の大問題にまで発展する。

 仕方なくアスランたちは引き上げ始めた。

 

 

 

 

 「さて、とんだ茶番だが、致し方ありますまい。」

 行政府の閣僚室でウズミは立ち上がり、周りを見回した。みな一様に重たい雰囲気であった。それは無理もないことであった。

 「公式発表の文章は?」

 「すでに草案第2案が…。」

 ウズミはこれまで自分が代表であったときのように促し、補佐官もそれに答え、草稿を現代表ではなく、彼のもとに持っていく。周囲もそれに関し何も言わなかった。

 「よいでしょう。こちらはお任せする。あの艦とモルゲンレーテには私が…。」

 ホムラにそう告げ、彼はドアに向かった。

 「…どうにもやっかいなものだ、あの艦は…。」

 緊急会議が閉会し、首長たちは立ち上がり各々口を開き始める、どこの誰かから声が発せられた。それを聞いたウズミは足を止めた。

 「今更…言っても仕方ありますまい。」

 釘を刺される言葉に首長たちは目を下に向けた。その中でホムラがふと呟いた。

 「ミアカ・シラ・アスハがここにいたら、どう思ったでしょうな…。」

 その言葉にウズミはどこか寂しげな表情を浮かべながら口を開いた。

 「それこそ…もう、昔の話ですぞ。死んだ人間は、なにもしてくれない。」

 そう言い放ち、部屋を出た。

 

 

 

 「はあー、まったく…。次から次へと難題ばかりが降りかかる。」

 作戦司令室でとりあえずしのいだバエンは溜息をついた。代表首長の娘が地球軍の艦船に乗っていたということを差し引いても、今回領海侵犯してきた艦には国の内部の事情が絡んでいる。そもそも、行政府がああ言ってのだから、その気だったのだろうが…。

 「准将、ウズミ様がこちらの方に向かわれるとのことです。」

 ガウランが報告しに来た。

 「うん、わかった。ヒョウブ二佐、この件は君にも協力してもらうよ。」

 「わかりました。」

 バエンの言葉を受け、シキも了承し、クオンとともにこの場を後にした。

 

 

 

 

 

 「こんな発表、素直に信じろというのか!?」

 イザークは怒りをあらわにし、テーブルに紙を叩きつけた。そこにはアークエンジェルに関するオーブの公式発表が書かれていた。

 「『足つき』はすでにオーブから離脱しました…な~んて、本気で言っているの?俺たちバカにされてんのかね?やっぱ隊長が若いからかね?」

 「ディアッカっ!」

 いつものように皮肉調子のディアッカにニコルはたしなめた。

 それに対し、アスランは意に介せず落ち着け払って言った。

 「そんなことはどうでもいい。…だが、これがオーブの正式回答だという以上、ここでいくら『嘘だ』と騒いだところで、どうにもならないだろう。」

 「なにを…っ!?」

 「押しきって通れば、本国も巻き込む外交問題だ。」

 なおもイザークはかっとなったが、アスランがそれを制する。アスランの正論をつきつけられ、言い返すことはできなかった。

 「ふーん、さすがは冷静な判断だな、アスラン…いや、ザラ隊長?」

 彼に負けたくはないイザークは嘲笑するように言った。

 「隊長は…何か案があるのか?」

 そこにこれまでこのやりとりを黙って見ていたクトラドが口を開いた。アスランはやや沈黙したあと自分の意見を述べた。

 「カーペンタリアから圧力をかけてもらうが、すぐに解決しないようなら、潜入する。…それでいいか?」

 予想もつかなったアスランの大胆な案に、周りは驚きで目を見張った。

 「『足つき』の動向を探るんですね?」

 ニコルの言葉にアスランは頷いた。

 「相手は一国家なんだ。確証もないまま、俺たちの独断で不用意なことはできない。オーブの軍事技術の高さは俺たちが身をもって知っているんだからな。それに…ヘリオポリスの時とは違うのだしな。」

 ヘリオポリスという単語にイザークとディアッカは一瞬、苦い表情をした。どうやら、中立にもかかわらず連合に加担した、とオーブを貶している彼らにも思うところはあるようだ。

 当たり前だ。たとえ、連合に味方していたからといって宇宙空間を生きられないヒトの唯一の生活可能な人口の大地を崩壊させていい理由になどならないし、それを認めさせてはならない。なにより、自分たちの大地、ユニウスセブンを崩壊させられた自分たちが…。

 しばらく黙っていたイザークが口を開いた。

 「OK、従おう。潜入って言うのも面白そうだし…。」

 彼もまた赤服のエリートだ。これ以上抗議してもどうしようもないし、それに代わる妙案もない。ディアッカは不服そうだったが、イザークがこう言ってはどうすることもできなかった。

 「案外ヤツの、ストライクのパイロットの顔を拝めるかもしれないぜ?」

 そして、捨てゼリフのように言い放ち、イザークとディアッカは部屋を出て行った。その言葉にアスランはふと暗い表情をした。その表情をみたニコルは訝しんだが、何も言うことはできなかった。

 

 

 

 

 

 「…なんで僕たちここにいるの?」

 オノゴロ島内にあるオーブ軍司令本部の1室、これからマリューたち士官らとウズミが会談する部屋の前にヒロとフォルテは立っていた。

 あの後アークエンジェルは、第2護衛艦群に先導され、オノゴロ島内の隠しドックまで案内された。その時、マリューたちはキサカ改めオーブ軍陸軍第21特務空挺部隊のレドニル・キサカ一佐からウズミ・ナラ・アスハとの会談話を聞かされた。

 そこになぜかヒロとフォルテも来ることになった。

 「まあ、念のためさ。アルテミスのようなことはなさそうだが、用心に越したことはないだろう?」

 「まあ、そりゃそうだけど…。」

 そこへ側近らしき人にとともに部屋に近づいてくる人影があった。

 おそらく、この人が『オーブの獅子』と呼ばれ、カガリの父親であるウズミ・ナラ・アスハであろう。そう思えるのは、その人から発せられる穏やかさと気品さのなかにある圧倒的な威圧を感じたからだろう。

 その人物と思わず目が合ってしまった。

 ヒロは失礼なことをしてしまったと戸惑ったが、相手は別の反応だった。その人物は驚きの表情を見せていた。

 「ウズミ様…。」

 側近の言葉に我に返ったウズミは居住まいを正し、部屋に入っていった。

 「…何なんだ、今の?」

 フォルテは小声でヒロに話しかけた。

 「…さあ。」

 ヒロも何がなんだかさっぱりわからなかった。

 

 

 

 目の前に座っている壮年の男の、まさしく『獅子』という異名を持つにふさわしい威風たる顔つき、堂々たる姿にマリューは圧倒される思いだった。

 「ご承知のとおり、我がオーブは中立国だ。公式には、貴艦は我が軍に追われ、領海から離脱した…ということになっている。」

 「…はい。」

 マリューは顔を強張らせながらウズミの言葉に頷いた。隣のナタルも同じように緊張した面持ちだった。おそらく、彼女も向かいに座っているウズミの発する威圧に気圧されているのであろう。

 「助けてくださったのは、まさか、お嬢さまが乗っていたから…ではないですよね?」

 そんな中、ムウはいつもの調子で口を挟んだ。彼はこういうものには慣れているのだろうか?

 その問いに対し、ウズミは苦笑しながら答える。

 「国の命運と甘ったれたバカ娘1人の命、はかりにかけるとお思いか?」

 「失礼いたししました。」

 言葉とは裏腹に悪びれる様子もないムウに対し、ウズミもまた怒る様子もなかった。

 「そうであったなら、いっそ判りやすくていいがな…。」

 ウズミは独り言のように続ける。

 「我らが中立を保つのはナチュラル、コーディネイター、どちらも敵にまわしたくないからだ…。もちろん、それに限らず民族、人種も同じように思っている。排斥することは簡単なことだ。しかし、そればかりでは国は成り立っていかない。ゆえに理念を掲げている。  だが、力なくばその意志は押し通すことはできず、だからといって力を持てば、それもまた狙われる。」

 ウズミはふっと笑った。

 「…軍人である君らには、いらぬ話であろうな。」

 「いえ…、ウズミ様のお言葉もわかります。ですが、我々は…。」

 マリューは途中で、口ごもった。

 たしかに、オーブは数少ないコーディネイターとナチュラルが共存する国の1つだ。だから、キラもコーディネイターを隠さず暮らしていた。だが実際、中立であるオーブでさえ、その意思を通すために力を持たなければならない。

 「…ですが、我々は。」

 ふと、亡きハルバートンの言葉がよぎった。

 こうしている間も、友軍はザフトによって命を散らしていく。そして、このままパナマが陥とされれば、地球上に生きる人々はエネルギーも物資も持たず、飢え死にしてしまう。だからこそ戦わなければならない。そのための()となるこの艦とモビルスーツをなんとしてもアラスカに届けなければならない。

 だが、もしかしたらこの戦いも地球の国がプラントを、コーディネイターを排斥(・・)した結果なのだろうか。そもそもこういう考えが大国の考えなのか。今、ヘリオポリスではコーディネイターを隠すことなく普通の学生生活を送っていたキラもいまでは、仲間内で孤立している。

 あの時、ストライクの前で自分があの子たちに言った言葉、『戦争をしている、外の世界は。それが現実だ』、それ言葉もまた押しつけだったのではないだろうか?

 マリューの頭には答えの出ない自問がぐるぐる回った。

 部屋には、暫しの沈黙が落ちる。

 「…ともあれ、こちらも貴艦を沈めなかった最大の理由を、お話せねばならん。」

 そして、ウズミは今までの穏やかな表情から一転して鋭い目で彼女らを見つめ、口を開いた。

 「ストライク、クリーガーのこれまでの戦闘データ、およびパイロットのモルゲンレーテへの技術協力を、我が国は希望している。」

 

 

 

 

 

 「レーベン…聞いてくれよ~…。」

 「ええ、聞いています。」

 ホテル『カルロッテ・スメラルド』から少し離れた小島、ヴァイスウルフの根城の居間にあたる1室で、男は酔っ払いソファに寝っ転がりながら愚痴をこぼす。

 このやりとりはもう何回目になるだろうか。

 レーベンはその向かいのソファに座り、溜息をついた。とはいえ、相手をしている男は酩酊状態で、自分がこの話をどのくらいしたのか、わかっていないだろう。

 本来なら、今日は取材資料の整理をする予定だったのだが、以前取材で会ったジャーナリストがいきなり訪問して来て、彼の愚痴を聞く羽目になってしまった。

 「レーベンさん。お水持ってきました。」

 「ああ、ありがとう。」

 リィズが持ってきてくれた水の入ったグラスコップを向かい側の相手に渡した。しかし、当の本人は「いらない。」と、グラスの水につけず、机に置いてしまった。

 「まったく、いつもよく来るわね…。」

 ミレーユがあきれ顔でやって来た。男はミレーユの声にとっさに反応し、いきなり起き上がりミレーユに向き直った。

 「これは、これは…ミス・アドリアーノ。いつもレーベンがお世話になっているようで…。」

 そこまで言って、またソファに寝転がった。

 「レーベン。ここ(・・)がどこだが知ってるでしょう。そう、やすやすと部外者(・・・)を入れないで。このまま外に放りなげましょ。この時期、外で寝てても凍死するわけじゃないし…。」

 「ミレーユ…。毎度のことで申し訳ないし、不機嫌なのもわかるけど、それはあまりにもひどいと思うよ。」

 ミレーユの理不尽な物言いに、レーベンは必死になだめた。

 「機嫌が悪いのは、シグルドに言ってちょうだいっ。例の件(・・・)の詳細をこっちは聞いてないのよ。」

 「例の件ってフィオリーナさんが購入したパ―ツのことですか?」

 リィズがふとレーベンに尋ねた。

 「そう、そして不審な一団に奪われそうになった大変だったパーツ騒動のこと。たしか、そのときシグルドが話をつけたんじゃないの?」

 「ええ。でも、一体何なのか、パーツはどうするのか、そのうち向こうから連絡をよこすって言ったきりなのよ。こっちも暇じゃないのよ。ただでさえ人手が足りないのに…。で、その当人が見渡らないけど?」

 ミレーユはシグルドがいないことに気付き、あたりを見渡した。

 「さっきルドルフに呼ばれて、ガスパールのバーに行ったよ。なにか、大事な話があるとかで貸し切りにしているらしいよ。」

 

 

 

 ホテルのロビー階にあるバーはその趣とマスターのガスパールの人柄から宿泊客以外にも訪れる客が多くいた。そのバーから直接外へつながるドアが開き、ルドルフが出てくるが、その目の前にジネットが待っていて驚いた。

 「…どうした、ジネット?」

 「シグルドは?」

 ルドルフは目をバーの店内へと移した。そこでは、シグルドが1人佇んでいた。窓越しのため、表情はよく見て取れないが、なにか考え込んでいる様子だった。

 「う~ん、しばらく待ってくれないか?さすがにあれじゃあ、ムリがある。」

 「そうね。でも、なんで彼にあのこと(・・・・)を話したの?墓場までもっていくって言ってなかったかしら?」

 「うっ…。」

 ジネットの指摘にルドルフは言葉が詰まった。

 「…蔑むなら蔑んでいいぞ。どうしようもないカッコつけたがりの男だと。」

 ルドルフは自嘲気味に笑った。

 「もう、慣れてるわ。」

 「あっ、そう…。」

 ルドルフはジネットから文句の1つや2つ言われる覚悟をしていたが、逆にあっさり返される方がこたえたようだ。

 「安心しなさい。私は墓場まで持っていくつもりだから。あなたの酒のトラブルとか、ギャンブルの失敗とか…。」

 「まったく…、勝てないわな。」

 もう何十年という付き合いになるが、やはり彼女にはかなわないと、ルドルフは肩を落とした。

 

 

 

 1人バーに残されたシグルドは呆然としていた。

 急にルドルフに呼び出され、話を聞いてみれば、それは衝撃的な内容だった。

 ふと、シグルドはバーに飾られている写真の近くまで行った。

 「ユル…。あなたは知っていたのか?だから、ヒロを…。」

 16年前。ある出来事を境に、誰の前からも姿を消したユル・アティラスがふたたび現れた。そして、それ以降、もう彼を見た者は現在までいない。そして、その件で彼は死んだと、彼を知る者たちはそう結論付けた。

 「俺は…。」

 これからどうすればいい。果たしてヒロに会ったとき、今までと同じように接することができるのか?

 シグルドはやり場のない気持ちであふれた。

 

 

 

 




あとがき(という名の作者の小言)
 前書きにも書いたけど、新年あけまして…から20日以上過ぎてしまいました(汗)。
 今年は去年の初夏あたりからのスローペースを少しペースアップするぞっと意気込んでいたものの…早くも、そうはいかなくなってしまいました(汗)
 そんなノロノロとした小説ですが、今年もよろしくお願いします。

 そろそろ新登場のキャラが増えたので、アップしようかな~(願望)


以下から作者の小言が始まります…。




・やった1万字いかなかった~~~~あっ?
と思っていたら戦闘シーンを書いていなかったため、結局1万時越しに…(泣)
作者的には読者の方々にあまり1話を長く読ませるのは面目ないと努力しているのだが…。

・ムウさんってウズミ殿との会談でもいつも通りなのは、やはり上流階級出身ゆえかしら?



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