ルドルフがZAFTの大型輸送機ヴァルファウへ戻ってきたのは、もう日が暮れたころであった。彼らが任務で移動する際は、独自に買い改造したこの輸送機で赴く。ある程度改造していて、ここで寝泊まりすることもある。
ヴァルファウのコクピットには3人の男女がいた。
「うお~痛てて…」
ルドルフが入ってくると、そのうちの一人、落ち着いた雰囲気を待った女性が呆れながらルドルフに言った。
「まったく…なんでそうなっちゃたんですか…。」
「仕方ないだろう。ミレーユ。」
遡ること、数時間前。
ルドルフはダグラスに伴われ、彼の家に行った。ヒロに会うためである。ヒロはまだ部屋に閉じ籠っていた。ダグラスは言葉を探しながら用件を伝えた。
ヒロは何も答えなかった。
しばらく続いた無言の雰囲気を最初に切ったのは、ルドルフだった。
「いつまで、そうし続けるんだ?」
少し語気を強めに言ったルドルフにダグラスはちょっとと止めようとした。が、ルドルフは構わず続けた。
「おまえはこのまま何もせず、ここで終わらせるのか?」
それに対し、今まで黙っていたヒロが言葉を発した。
「…なんかのあなたに…だよ…もう…てよ」
よく聞き取れないそのか細い言葉にルドルフはああ?と聞き返した。
「傭兵なんかのあなたに何がわかるんだよ!もう僕のことはほっといてよ!」
そのまま、堰を切ったように涙を流し、話し続けた。
「一体僕の何がわかるんだ!みんな…みんな…死んだんだ…。コーディネイターだからって…コーディネイターといるからって!」
あの時、向けられた銃、憎悪、それらの恐怖がまた蘇る。自分になぜ…そして自分は…
「僕さえ…いなければ…!」
そこへ…
「この!大ばか者!」
ヒロが言い終わる前に、ルドルフはヒロを殴った。
そして…そのまま喧嘩に発展していった。
何とか、ダグラスらが入って終われたが…話はつかなかった。
「で、これからどうするんだよ。ルドルフのおっさん。このまま帰るのか?」
コクピット席に座っていた若い男、フォルテがやれやれとルドルフに尋ねた。
「うーん…ここはシグルドに決めてもらおう。このヴァイスウルフのリーダーだしな。どうする?」
ルドルフは自分は引退した身として、このヴァイスウルフのリーダーはシグルドに任せている。シグルドと呼ばれた男がしばらく考え込んだ後、言った。
「まだ、依頼の件がある。それがある限りは…」
ルドルフはそうかと言い、
「じゃあ、シグルド、フォルテ。この件は2人に任せる。俺はさっきの一件で家に出入り禁止になってしまったしな。じゃあ、俺はもう寝る。年寄りは夜が早いんでな~。」
と、そそくさと行ってしまった。
「なんか…面倒を押し付けられた気がするんだが…」
フォルテがガックリしながらシグルドに言った。シグルドもやれやれといった感じだった。
ダグラスは居間のテーブルでマーサが淹れてくれたお茶を飲んでいた。向かいにはマーサも座っている。フウっと息を付いた。
今日は、いろいろありすぎた。特に傭兵の件が。とりあえず、数日、時間を置くということで終わらせたが…一体どうなることやら。
そこへ、
「親方。」
アバンがやって来た。後ろにはリィズもいた。
「ヒロの事。本当なのか。本当にこの町から追い出すのか。」
傭兵の言っていた話が伝わったのだろう。二人もヒロの事が気になるようだ。
「俺の時や他のみんなの時みたいに、ここで住み込みで働くってのはできないのか?」
ここで働いている者の中には、親を早く亡くし、ここに住み込みで働かせてもらっているのもいる。アバンもそうである。それができないか、聞いてみた。
「できればそうしたいが、おまえや他の者たちとは状況が違う。町の住人のなかにそれじゃあ納得できないのもいる。」
「ヒロが…コーディネイターだからか?」
アバンが語気を強めた。
「ヒロがコーディネイターだから追い出すのか?」
そうではないとダグラスが言おうとしたが、アバンは聞かず続けた。
「みんな、急にヒロの事、厄介者扱いして!…親方も。見損なったよ!」
そのまま今のドアを勢いよく開け出て行った。リィズも「お兄ちゃん、待って」と追いかけて行った。
「あの子…良くも悪くも、真っ直ぐだから…。」
「わかっている。」
ダグラスもできれば、傷が癒えるまでヒロをここで預けたい。
だが…町の事、家族の事、工場の事を考えてしまい、そこに危害がおよんだら…そしてそれを言い訳にしてるかもしれない…若いころはもっといろんなことができると思っていたのに…
「俺って、こんな情けないやつだったか?」
ダグラスは溜息を付いた。
翌朝。
アバンはヴァルファウが停められている場所へ行った。
ここに傭兵がいる…ふと周りを見回しても、誰もいなかった。
しばらく周りを巡っていると前の格納ハッチが開いているのに気付いた。そこに近づき、のぞいてみると、二機のMSが搭載されていた。
すげぇ、と感嘆していると、後ろから声をかけられた。
「おい、小僧。何してるんだ。ここはおまえみたいなヤツが来るところじゃない。」
振り返ると老人が岩に座って、おにぎりをムシャムシャ食べていた。
昨日、来ていた傭兵だった。
「小僧じゃない。アバンだ。なあ、ホントにヒロを連れていくのか?」
しかし、ルドルフはおにぎりを食べていた。
アバンはムッとしながらも続けた。
「ヒロには、あいつの性格じゃ、傭兵みたいなところは…」
「それは…ヒロが決めることだ。」
「え?」
アバンはルドルフに逆に聞かれ戸惑った。ルドルフは続けた。
「それを決めるのは、俺やお前じゃない…ヒロ自身だ。それに今のあいつを連れていく気はない。」
ルドルフはさらに続けた。
「今、あいつは自分で一歩を踏み出していない。そんな人間に俺たち傭兵の戦いに連れていく気はない。それに、それはセシルたちの思い、依頼人に反してしまう。」
アバンはルドルフの言葉を聞き、ただ黙っていた。
「おまえはどうなんだ?」
ルドルフからおもわず自分の事を聞かれ、え?としてしまった。
ウェインはある場所に向かっていた。町に来た際にそれを初めてその一部を見かけ、それがずっと気になっていた。
ので、その場所に向かって行った。
工場のようであった。
何とか敷地内に入っていき、それが置かれている場所に辿り着くとウェインは驚いた。
ジン?
そこにはMSジンが座った状態で置かれていた。だが、そのジンは少し違っていた。背中には取り外しできるような大型のコンテナを乗せられるようになっていて、スラスターはその左右の下部に位置していた。手も片方は三本指になっていた。
ふと、コクピットに作業している少年が見えた。
『違う違う。それじゃ、ダメだ!あー、もう!』
ビービーと音を出しながらジーニアスは相も変わらずヒロに指示している。が、ヒロは見ようともせず黙々と作業をしていた。
なぜこんなことをしているのだろうか?もう必要ないのに… 。
ヒロは自分でも不思議だった。
そこへ声がした。
「へえ、すごい。これ、君が作ったの?」
ヒロは外を見ると、MSの下に軍服を着た青年がいた。ヒロがうんとうなずくと、その青年はまたもへぇと感心し、コクピットの方までやってきた。
「へ~、中はそのままにしているんだ。これはタブレット?人工知能がついているんだ。そういうのがあるって聞いたことあるけど初めて見たな~。ん?動力系がおかしいんだね。どれ。」
ヒロはたじろぎながら、ただ青年がうれしそうに作業しているのを見守っていた。
一体この人は?
そう思っていると、
「よし。これで動くだろ。ちょっといい。」
そう言い、ジンを動かした。ジンはゆっくりと立ち上がった。コクピットの入り口につかまりながら立ち上がるのを見たヒロは驚いた。そして、また動かしている青年を見た。
青年はただ微笑み、またジンを座らせた。
「あ…ありがとう。ございます。…軍人さん…」
ヒロはお礼を言おうとしたとき、その青年はまた微笑んだ。
「僕はウェイン・ギュンター。ウェインでいいよ。僕も…君と同じ、コーディネイターだよ。」
それはヒロにとって大きな出会いとなった。
次話は早めに投稿する予定です。
(あくまで…予定です。)