機動戦士ガンダムSEED Gladius   作:プワプー

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お待たせしました!
ようやく、更新です!
…てか、最近同じことしか前書きで言っていない(汗)



PHASE-31 マラッカ海峡突破戦

 

 (まったく!母艦の故障なぞ、あれだけ待機状態だったのだぞ。整備の怠慢だ!だから嫌なのだ。エリートと組むのはっ!)

 ブーフハイムは苛立ちを隠せないようだった。クルーゼ隊のパイロットたちと別の隊からのパイロットで構成されたアークエンジェルの追討の任を受けた新しい隊、ザラ隊は母艦の故障のため、カーペンタリアから出発することができず、マラッカ海峡に間に合うことができなくなったのだ。

 マレルは溜息をつきながら、ブーフハイムをなだめようとした。

 「いや~、おれに言われてもなぁ…。それにいくらここで騒いでも遅いだろう。俺たちだけでやるしかないさ。とにかく落ち着け。もうすぐ『足つき』を迎え撃つんだから。」

 (そんなことは言われないでも分かっている!)

 ブーフハイムは怒りながら通信を切った。

 「やれやれ…。まあ、あいつは前方。俺が後方だから大丈夫か…。」

 マレルはモニターに目をやった。

 マラッカ海峡は細長い。前をロンゴノット、後ろをエルブルスで挟み撃ちにする作戦をとることになった。しかし、どう考えてもあの艦を沈めるだけの火力をこちらはあまり持ち合わせてない。

 「少し…考えなければな…。」

 マレルは1人思案し始めた。

 

 

 

 

 カガリを救出したアークエンジェルはマラッカ海峡を通り始めた。

 「マラッカ海峡は古くからの海上交通の要衝となっている。ザフトが地球上に侵攻、通商破壊を行ってことで、一時はその賑わいを失ったものの、ここの価値はそれなりに残っている。」

 ブリッジのモニターには海峡の航路地図が映し出され、ネモは艦長席のとなりで説明している。

 「ただ、この海峡は航行の難所にもなっていてね…。南東に行くほど幅が狭くなっている。まあ、一応この艦のサイズでも通ることはできるがね。さらに突然水深が変わったり、気象が激しかったりと実際恐ろしいほど航行するのは難しいんだ。」

 そのために、ネモがこちらの方に乗り、水先案内人の役を買って出た。

 「しかし、案内はうれしいのですがどうやって潜水艦の方に戻られるのです?海峡を越えることはできないからインド洋までと聞いていましたが…。」

 マリューは素朴な疑問を口にした。

 「ここに来るときに乗って来た水上機で帰るさ。そもそもその為に乗って来たからな。」

 「あれ、ですね。マードック曹長を始め、興味津々でしたね。私でもですが…。」

 「SOC-1。偵察・観測用に製造された水上機だ。あれは航空機愛好会の面々で造ったレプリカさ。」

 「航空機愛好会ですか…。」

 マリューは素性があまり知れないこの男が、自分の乗機を嬉々として説明している姿を見て、思わぬ一端を垣間見たと思い、微笑んだ。

 「さて、そろそろ気を引き締めないとな。ザフトの襲撃があるとしたらもうすぐだろう。」

 モニターは、海峡が狭くなり始めるところに差し掛かっている。

 普段であれば、他の民間船も往来しているはずだが、ここで戦闘が行われるのを事前に察知したのだろうか、それらは見受けられない。

 「レーダーに反応っ、モビルスーツです!グリーン、アルファ!これは…。ブルー、ブラボーからもこちらに迫ってきます。」

 その時、トノムラが叫んだ。レーダーには無数の光点が浮かぶ。そして、すでに正面からも影を捉えることができた。グゥルに乗ったジンやシグー、ディン、海中からはグーンが迫って来ていた。

 「挟み撃ちにするということね…。」

 マリューは呟いた。マラッカ海峡の入り口と出口、どちらも塞げばこちらには逃げ場はない。しかし、それはこちらも予想していたことだった。

 「予定通り突破します!総員第一戦闘配備っ!」

マリューの号令とともにカタパルトより機体が次々と発進していく。ストライクはソードストライカーを装備し、手にジンの無反動砲を持ち水中へと飛び込んだ。ランチャーを装備したスカイグラスパーと[トゥルビオン]が前方のモビルスーツ群の応戦に入り、クリーガーとジンでアークエンジェルの防衛にあたる。

 上空よりディンのミサイルランチャーやジンの無反動砲が次々とアークエンジェルに襲い掛かろうとする。

 それを艦のミサイル、バルカン砲、アサルトライフルで次々と落とす。

 爆発し、その衝撃が周辺にも響く中、爆風を縫ってディンが散弾銃を構え、こちらに向かって来る。

 それをクリーガーは腰部のサーベルを抜き取り、銃を構えていた腕を切り落とした。

 「ったく、キリがないな。」

 甲板上で迎撃しているフォルテは毒づいた。

 しかし、まだ戦闘は始まったばかりだ。

 

 

 

 

 後方のマレルはMSを出撃させたあと、そのままエンブルスを浮上させていた。その甲板部にはシグーと左右に兵員輸送車が2台、グゥルが待機していた。車内ではマレルを始め、兵士たちが自動小銃を持ち、白兵戦の準備をしていた。

 「これは俺の独断だ。この戦闘が終わったら、そう証言しろ。責任は俺が持つ。」

左側の装甲車からマレルは通信機を使い、副艦長に告げた。

 (何をおっしゃるんです、艦長。我々も艦長の策をよしとし、こうして準備に当たっているのです。)

 「そう言ってくれるとありがたい。ここの指揮は任せる。」

 (はっ!艦長もお気をつけて!)

 通信を切ったマレルは兵員装甲車の椅子に座った。

 (しかし、艦長も無茶なことを考えますよ。これ、本当に大丈夫なんですか?)

 シグーのパイロットから心配する声が聞こえた。

 「まあ、無茶といやぁ無茶かもしれねえが…。なに、お前ならやってくれるって信じているさ。」

 (はは。褒めても何もでませんよ、艦長。まあ、豚もおだてりゃ木に登るっていう言葉もありますから。)

 「これより『足つき』内部に侵入し、これを制圧する。」

 装甲兵員輸送車をシグーの両腕に装着させ、シグーはグゥルに乗り、これらの護衛として周りについているジンやディンとともにアークエンジェルへ向かった。

 

 

 

 上空でディンを迎撃していたヒロは後ろのモビルスーツたちの動きに訝しんだ。こちらに攻撃を仕掛けてはいるが、何かを狙っているような…。

 そのさらに後ろに奇妙な光景を見て、驚いた。

 (なんじゃありゃ!?)

 近くのフォルテもそれが見えたのであろう驚きの声を上げた。

 なにせ、シグーが両腕に兵員輸送車が取り付けられている。とはいっても、手を止めてはいられない。周りのMSの装備に驚きブリッジに通信を開いた。

 (おい、ブリッジ!D装備を持ったヤツらが来ているぞ!)

 「なっ…!?」

 ブリッジからのモニターからそれを捉えることができ、マリューは驚きの声を上げる。

 「ウォンバット照準、イーゲルシュテルン、取りつかせるな!」

 「モビルスーツを後方へ!」

 ナタル、マリューが叫び、後方への応戦体勢を急がせる。あれが当たれば艦も無事では済まない。まだアラスカまで半分も行っていない中、大きな損傷を受けるのを阻止しなければならない。

 (ヒロ!)

 「わかった!」

 ヒロはクリーガーを反転させ、後方へ急いだ。

 

 

 「イストレフィ艦長、モビルスーツがこっちに…。」

 シグーのパイロットは声を上ずらせマレルに通信を入れた。両腕に兵員輸送車をマウントした状態では、武器を使うこともできない。

 (慌てるなっ!これぐらいのことは想定してある!)

 「しかし…。」

 他のMSは対艦用の装備が中心である。

 「自分が行きます、イストレフィ艦長。自分はこの艦に助けてもらった恩があります。それにあの機体は自分の手で墜としたいのです。」

 ともに来ていたディンのパイロットはそう言い、クリーガーへ向けた。先日の戦闘であの機体と交戦し、損傷。武器もなくなったため、母艦に戻ろうとしたが、すでに撃沈され、他の機体とも交信が取れなかった。他の友軍と合流するために彷徨っていたところ、機体のバッテリーも己の体力も限界に近いなか、かろうじてエンブルスに辿り着けた。結局、自分だけが生き残り、仲間は全員死んだことはこの後知った。

 「モラシム隊長や、他のみんなの仇…。」

 たとえ、倒すことができなくても一矢報いる思いで、スラスターを全開に、クリーガーへ急降下した。

 

 

 周りにいたMSの内、ディンがこちらに急接近するのを見たヒロはビームライフルを放ち応戦する。

 クリーガーはディンが持っている突撃機銃を撃ちぬいた。しかし、武器を失ってもなお、ディンはクリーガーに突進してきた。

 「まだ、来るのか…!?」

 ヒロは戸惑いながら、クリーガーを後退させた。

 が、ディンは逃がさないとばかりに、クリーガーの腕を掴み、そのまま突進した。衝撃によって機体がよろめいた隙を狙い、ディンは落ちていた重斬剣を拾い、振るった。

 「装甲と装甲の間なら…。」

 いくらPS装甲でも、機体には製造した時にパーツの継ぎ目はあるだろうし、そこまでカバーはされていないはずだ。かなりの技量を持ったパイロットでないとできないものであるが、この至近距離、そして狙い目はコクピット。これならば…。

 「…このままじゃっ。」

 ディンが剣を突こうとした瞬間、クリーガーの腰部の両サーベルを咄嗟に抜き、斬りかかった。ビームサーベルは弧を描くような軌道を見せ、ディンは剣を持っていた前腕部を斬りおとされてしまった。

 もう一方のビームサーベルはディンの頭部右部を貫き、火花が散っていた。

 「こんな無謀なことを…。早く、脱出をっ!」

 「無謀だと…。おまえたちに何が分かるっ!」

 ヒロの言葉にパイロットは怒りをあらわにした。

 「ナチュラルは、俺の家族を、コーディネイターだからって殺したんだ。民間人だったんだぞっ!そんなヤツらがこんなもん持っていいはずがない!」

 「だからって…!?」

 ヒロが反論しかけたとき、ディンの後ろにいたモビルスーツ達からキャニスの小型ミサイルと大型ミサイルが発射され、クリーガーとディンに迫るのが見えた。

 「まさか…味方ごとっ!?」

 彼らを巻き込むように、ミサイルはアークエンジェルに着弾し、爆発した。

 それを皮切りに他のモビルスーツもミサイルやバズーカを撃ちこむ。

 後方からの衝撃がブリッジにも響いた。

 

 

 「後ろか!?っておわ!?」

 フォルテはさきほどの衝撃とクリーガーの安否に気がいった間に、前方からの攻撃によって下方のハッチの扉が外れてしまっていた。

 「やべっ…。」

 こっちから侵入されたら、手が付けられない。

 フォルテはカタパルトまで降り、そこで迎撃に入った。

 

 

 「ヒロっ!」

 前方で迎撃していた[トゥルビオン]は翻し、艦へ向かった。

 爆発に巻き込まれたのではないかと、近づくと、シールドでなんとか爆発の衝撃を守っていたクリーガーの姿を確認できた。衝撃によって先ほどいた位置より後ろに下がっていた。

 その目の前には、ミサイルによって無残な姿になったディンもいた。

 「なんで…、そうなるんです。」

 ヒロはそれ(・・)を見ながら、悲痛な思いがした。

 (クリーガー、状況はっ!?)

 その時、ブリッジから通信が入った。

 「わかりません。まだ、爆煙で…。」

 ヒロが着弾点の様子を見ている間に、輸送車を取り付けたシグーが近づいてきた。

 (これは…。まずいぞ!あいつら、アークエンジェルに入るぞ!)

 上空を飛んでいたムウは爆煙の合間から見えたアークエンジェルの中央部の左側後ろ側面に空いた穴と、そこに向かう様子から察知し、通信機から大声で叫んだ。シグーは、こちらを牽制するため、グゥルのミサイルを放ってきた。

 「まずい・・・。」

 「私が行く。貸してっ!」

 「ええっ!?」

 まだ立ち上がれないクリーガーからシールドを勝手に奪い、[トゥルビオン]がシグーへと向かった。

 「くっ、ここまで来てっ!」

 迫って来るジン戦術航空偵察タイプにシグーのパイロットはグゥルに備えられているミサイルを放った。

 ミサイルが[トゥルビオン]の手前で収束し、爆発する。

 「やったか!?」

 シグーのパイロットは爆煙が覆うのを見ながら、心の中で少し安堵した。偵察タイプの装甲を考えれば、無事ではすまない。

 そう思ったのもつかの間、煙の中からロケットアンカーが飛び出してきて、シグーの右腕を掴んだ。

 「なっ!?」

 アンカーの根本の方には、ひしゃがれたシールドを持っている[トゥルビオン]の姿があり、右腕の対艦刀を展開し、刺突の構えでこちらに迫って来た。

 (左側の車をパージしろ!)

 その時、座席から飛び降りるように運転席へ移動したマレルから通信が入った。

マレルの言葉にシグーのパイロットは即座に左の兵員輸送車をパージし、穴の方へと押し出すようにした。

 瞬間、シグーのボディと腰の間に[トゥルビオン]に突き刺さる。

シグーはその寸でのところで右側の方もパージした。

 「はぁ…、はぁ…。輸送車は?」

 突き刺さったところから火花をチリチリと上げ、動かなくなったシグーを確認した後、ルキナは横目で兵員輸送車の位置を確認しようと、視線を移そうとした時、シグーがのろのろと右腕を上げ、こちらにつかみかかろうとした。

 「まだっ!」

 応戦しようと、シールドを投げ捨て左腕の対艦刀を展開しようとした時、突き刺さったところから垂れ流れ始めているオイルが目に留まった。

 それがまるで血を流しているがごときに見え、鳥肌が立つのを感じた。

 反射的に対艦刀を抜き差し、振り払うように押し出した。

 ルキナはヘルメットのバイザーを上げ、荒くなった息を整えようと、深く呼吸し、改めて周りを見渡す。

 左側の兵員輸送車は穴の方にギリギリの形で着地していてザフト兵が見えた。右側の方は見当たらないので、そのまま落下したのであろう。

 「侵入された…。」

 [トゥルビオン]を空いた穴の方まで近づかせ、中の様子を見ようとしたが手前に止まっていた輸送車が突然爆発し、思わず後ずさった。

 おそらく、後を追われないように仕掛けていたのだろう。

 ふたたび様子を見るために近づくと、もうすでにザフト兵の姿はなかった。輸送車の残骸をどかしながら、見るとなんとか人1人は行けそうだった。

 (ルキナっ、輸送車は!?)

 ヒロもこちらの方にやって来た。

 「ヒロ、艦長に伝えて!ザフト兵が艦に侵入したわ。」

 (わかった。…て、ルキナは?)

 [トゥルビオン]はそのまま動かず、穴の開いたところを右腕で動かないように固定させ、左腕を伸ばす格好となっていた。

 「私は…。」

 言いながら、拳銃を取り出しハッチを開いた。

 アークエンジェルの前進によって起きている風圧の強さに耐えながら、前に出る。なるだけ近くに寄せたとはいえ、まだそれなりに距離はある。

 ルキナは一度深呼吸をし、アークエンジェルへ駆けだした。

 「ル、ルキナっ!?」

 クリーガーのコクピットからルキナが[トゥルビオン]の左腕をつたって、駆けるのを目にし、驚きの声を上げる。

 落ちるのではないかと、クリーガーの手を下に伸ばしたが、彼女はなんとか艦の中に入ったようだ。

 「なんでそんな無茶を…。」

 ヒロはクリーガーをカタパルトへ向けた。

 左舷カタパルトではフォルテが前方からのモビルスーツを応戦していた。

 「ヒロ、いいところに…。こっちも頼む。」

 「ごめん、フォルテ!補給っ!」

 「はぁ!?まだ、そんな…おわっ!?」

 フォルテがクリーガーの方に気をとられていた瞬間、目の前で爆発の衝撃があった。 ヒロは後ろを気にかけながらも、振り返らず、クリーガーはアークエンジェルの格納庫まで戻った。ハッチを開いて降り、そのまま走り出した。

 「おおい!補給じゃないのか!?」

 マードックの声も顧みず、ヒロはザフト兵が侵入したであろう居住区へ向かった。

 

 

 

 「結局、半数か…。」

 艦を進みながらマレルは人数を確認したが、見渡すといるのは半数以下しかいない。もう1台の方とも連絡はとれない。これでこの巨大な戦艦を制圧するのは困難だが、もう戻れない。

 「この艦は友軍から孤立している。銃撃戦に慣れてないやつも多くいるだろう。」

 ここで部下たちの思いを踏みにじれない。マレルは今までで初めての楽観的観測を述べた。

 「とにかく、ブリッジだ。そこを制圧すれば終わる、いいな。」

 兵士たちが左右の通路に行くのを見送りながらマレルはぼそりと呟いた。

 「行くも地獄、戻るも地獄か…。まるでこの世界みたいだな、ヴェンツエル。」

 

 

 

 ザフト兵侵入の報を受け、マリューはブリッジの指揮をナタルに任せ、ネモとともに艦内の中心部に降りてきた。すでにバリケードが造られ、武装した数人のクルーとキサカ、カガリが待機していた。本来ならキサカやカガリは民間人のため、巻き込むのは少し抵抗があったが、砂漠での戦いを見ているため、本来の乗員数にも及ばないこの艦にとってとても力になる。

 「機関部、格納庫そして艦橋(ブリッジ)を掌握させないように。格納庫の方はマードック曹長に伝えて。」

 マリューもまた銃を取り、クルーたちに指示をだした。

 「マリューさん!」

 その時、格納庫の方からヒロがやって来た。急いできたのか、息を荒くしていた。

 「ヒロ君!?なんでここに?」

 マリューは驚いた顔をした。外は大多数の敵モビルスーツを相手に必死の応戦をしているはずだ。

 「はぁ、はぁ…、ルキナが…。」

 ヒロは息を整えながら、必死に言葉をつむぎだした。

 「ルキナが…、さっきザフトが入っていったところから、1人で行って…。」

 「何ですって!?」

 マリューはその報告に驚いた声を上げた。どれくらいのザフト兵が侵入したのかもわからないのに、1人で向かうとは無謀なことである。こっちの守りもあるため、応援に駆け付けるにもどのくらいの人を連れて行けばいいかすらも分からないし、自分もここの指揮を執らなければいけないので、ルキナを探しにいくことはできない。しかし、放っておくこともできない。

 「…俺が行く、艦長。」

 それまで黙っていたネモが口を開いた。

 「この艦のことは詳しくないから、彼を道案内で同伴につけてもらないか。」

 「ええ。」

 「しかし、大丈夫なのですか?2人で…。」

 マリューの懸念を口にした。彼らだけで大丈夫なのだろうか。

 「だったら、私も行く!」

 そこにカガリも挙手し志願した。

 「これで3人、いやそこの大男くんも来るだろうから4人か…。これなら問題ないだろう、艦長?」

 「え、ええ…まあ。では、お願いします。」

 ヒロとネモ、カガリそしてキサカはルキナと合流するため、中央部後方へ向かい始めた。

 「ところでヒロ、おまえ銃持ってきてないだろう?」

 「あっ…。」

 途中、カガリに指摘されヒロはやハッと気付いた。

 「まったく…。大丈夫なのか、それで?ほら。」

 ヒロは銃をカガリから渡されたが、しばらくそれを眺めてからポンとカガリに返した。

 「いいや。たぶん、使わないし。」

 「おいっ!よくないだろう!」

 そんなやりとりをしている背を見送りながら、1人の兵士がマリューに呟いた。

 「大丈夫なのでしょうか、本当に?」

 「…さあ。」

 マリューも少し不安に思いながらも、彼らが無事にルキナと合流できることを祈るだけだった。

 

 

 

 「う~、もうなんなのよ…。」

 キラの部屋にてフレイは艦の振動を感じながら、げっそりとした声で溜息をついた。船酔いで寝込んでから、なんとかここまで回復したが、この揺れでふたたび船酔いがぶり返りそうだった。

 水でも飲めば少しは楽になろうが、今はキラが出撃していないため、頼る者もいない。フレイは仕方なくドアを開け、外に出た。艦が揺れる中、必死に手すりに掴みながら通路の角を曲がったその時、見慣れない格好の男がいた。

 フレイは一瞬分からなかったが、その男が着ているのが地球軍ではなくザフトの制服と理解した瞬間、ハッとし、思わず悲鳴を上げた。

 

 

 ルキナはザフト兵に警戒しながら慎重に艦内を進んでいた。どれくらいのザフト兵がいるかわからないが、狙いはブリッジだろう。

 その時、居住区の方からフレイの悲鳴が聞こえた。

 「フレイ・アルスター?」

 あちらはブリッジの方向とは違うが、艦内に詳しくないザフト兵が迷い込み、フレイと鉢合わせしたのか。

 ルキナはそちらの方へ急いだ。

 

 

 

 向こうもこちらの気配に気付いたようで振り返り銃を構えた。

 「あっ…。」

 フレイはその場から逃げようとしたが、男の持っている自動小銃の恐怖で足が震え、動かなくそのままへたり込んだ。

 「なんだ、こんぐらいの兵も地球軍にはいるのか…。」

 マレルは警戒を解き、銃を下げた。

 「おい、嬢ちゃん。どっかに隠れているんだ。って、そんなにおびえなくても…。」

 まあ無理もないとマレルは溜息をついた。地上にはほとんどのコーディネイターは住んでいない。いても、コーディネイターを受け入れている国かあるいは己の出自を隠して住んでいる者だ。彼女たちのような年齢でコーディネイターを見た者はいない方が大多数だ。ゆえに、テレビや誰かが言ったコーディネイター像しかない。

 「まあ、いいか。」

 見たところ、彼女は怯えるばかりでこちらには銃を向けていない。他の連中にも非武装や子供は撃たないように言ってある。とりあえずは命を落とすことはないであろう。

 先へ進むため、マレルは進み始めたとき、遠くから足音が聞こえてきた。

 しまった…。

 さっきの悲鳴を聞いて駆けつけてきたのか。

 ブリッジまでなるだけ銃撃戦は避けたい気持ちがあったが、まだこの艦内の配置を完全に掌握していない状態で逃げ回るのは得策ではなかった。幸い聞こえてくる足音は1人だけだ。銃を構え、そちらに振り向いた瞬間、向こうも銃を構えていた。

 その瞬間、普段のマレルであればすぐさま引き金を引いていたのだが、銃を構えていた人物に驚き、引き金を引けなかった。

 「なっ、ルキナ!?」

 「マレル…おじさん。」

 ルキナもまた、自分の知る者が本来いるべきではないこの場にいることに驚きの顔をしていた。

 「なんの…冗談だ?なんで、こんなところにいる?なんでそんなもん持っている?」

 マレルは動揺しながら、ルキナを質した。しかし、ルキナは黙ったままただ銃を構えているだけだった。

 「まさか、軍にいるのか?そうなのか!?」

 「…そうよ。」

 ルキナはただ静かに答えた。しかし、マレルはまだ信じられないという顔をしていた。

 「なんでいるんだ、軍なんかに…。しかも、よりによって地球軍に…。おまえの父親を、自分の息子を殺したアウグスト・セルヴィウスのいる地球軍に…。」

 マレルの言葉にルキナは一瞬身をこわばらせた。近くにいたフレイはその言葉に驚き、さっきまでの恐怖もどこかに消えていた。

 「入りたくて入ったわけじゃない!」

 「だったら…。」

 「でも、抜けることもできない…。どうすることもできないのよ!」

 「おじさんだって…、なんで戦争に参加してるのよ!ナチュラルとコーディネイターが戦争したら、地上に残っているコーディネイターがどうなるか…。私だって…。このまま、どっちも戦い続けたら…、私の居場所は…どこにもなくなる。」

 堰を切るように涙が溢れ始め、言葉が途切れ途切れになりながらもルキナは悲痛な思いを叫んだ。

 その言葉を聞いたマレルは愕然とした。

 そんなことはわかっていることだった。

 宇宙には上がらず、地上に残ったコーディネイターはまだいる。その多くは、迫害から逃れオーブのような中立国に移住する者もいれば、排斥され続けてもなお諸事情で理事国に残っている者もいる。だが、地球とプラントという誰にでもわかりやすい対立図式にしてきたためであろうか、地上と宇宙の交流が途絶えたためであろうか、すでにプラントにいるコーディネイターは、コーディネイターは宇宙にいることが当たり前と思っている。なかには、地球などもう用のないものとさえ思っている者もいる。

いつの間にか、プラントに住み続け、そして、その空気に染まって行き、己の理想とともに忘れてしまったようだ。

 ルキナの言葉は、かつてナチュラルとコーディネイターの融和を目指していた者として、そのためにプラントに行き、相互の交流を深めようとしていたかつての自分が、今の自分に向けて言っている様に見えた。

 マレルは呆然とただ立っているだけだった。

 

 

 

 「ルキナ、伏せろっ!」

 その時、どこからかの声に2人はハッとした。

 ルキナはその声を聞くやフレイの近くにいき屈んだ。

 マレルは声の方へ銃をむけたが、その瞬間目の前が煙幕に覆われ視界が遮られた。

 怯んだ瞬間、向こうから銃撃が来る。応戦するが、銃弾が肩をかすめた。

 「くそっ。」

 マレルは反撃を諦め、その場を離れた。

 「…逃げたか。」

 ネモがちらりとルキナを一瞥したが、すぐザフト兵が逃げた方角に目を向けた。遅れてヒロたちもやって来て、ルキナたちのほうに向かった。

 「ここを、頼む。」

 ネモはキサカに言い残し、マレルを追った。脱力し、その場にへたり込んだルキナはネモの方へ目を向けた。去って行く背中に助けを求めるように手を伸ばしたかった。しかし、できなかった。できるはずがない。あの時(・・・)、父親の差し伸べられた手を自分は拒んだ。自分を心配してくれる言葉なのに、そこに今までの優しさはなくその目は褪めていた。それでも…、あの時自分が拒絶しなければ、父は今もいてくれたはずだ。だからこそ、自分が誰かに助けを求めることなんてできない。たとえ、辛くても…。

 どうすることもできないもどかしさが胸にこみ上げてくる。

 ルキナは沸き起こった感情を必死に抑えた。

 「ルキナ…。」

 そこへヒロが心配そうにやって来て手を伸ばした。しかし、ルキナは払いのける。そう自分はこの手を、差し伸べられた手に伸ばす資格などないのだ、と。

 「…平気よ。それにこの前も言ったでしょ、あまり関わらない方がいいって。」

 ルキナはまだ震える足で立ち上がり、ヒロに背を向けた。

 しかし、ルキナの声は震えていて、とても大丈夫には見えなかった。ヒロは意を決して、1度は払いのけられた手を掴んだ。

 「大丈夫そうに、見えないよ。」

 ルキナは驚き目を見開いた。ヒロはただまっすぐにルキナを見つめた。

 「僕は確かにルキナのことを知らない。余計なお節介かもいれない。もちろん、なにも話さなくてもいい。でも…そうやって無理してるのを、僕はただ見て居ることなんてできないよ。」

 「今、でなくてもいい。僕は…その時までずっと手を差し伸べているよ。」

 「なんで…。」

 ルキナは小さく呟く。その言葉に、ルキナは先ほどまで抑えていた感情がまた込み上げてくるのを感じた。

 そう言われてしまっては、寄りかかりたくなる。あれほど、自分に言い聞かせてきたのに…。けど…。

 もうこれ以上、ルキナは何も話さず、ただ涙を流した。

 

 

 

 マレルは後方まで逃れてきた。そこには数人のザフト兵たちもいた。どうやらブリッジも格納庫も制圧できなく、ここまで逃れてきたようだ。

 「艦長っ。」

 「他は?」

 「これしか…。」

 その時、艦の壁から爆発と衝撃が襲って来た。外のMSのミサイルかバズーカがその場所に着弾したのである。マレルは衝撃に吹き飛ばされた。

 「おい!無事な奴はいるか。」

 身を起こしたマレルは、あたりを見まわすが、誰からも返事がない。

 まさか、最後は自軍の攻撃でやられるとは…。

 マレルは自嘲めいた笑みを浮かべ、その場に座りこんだ。

 その時、まだたちこめている粉塵人の影の姿が浮かんだ。

 「…よう。」

 マレルはその人物に向け、この場にはそぐわない気のない挨拶をした。煙の間からネモが現れた。

 「まさか、生きていたなんてな…。ルキナは、知っているのか?」

 マレルの問いにネモはただ黙っているだけだった。その、肯定とも否定ともとれる態度にマレルは思わず、笑みを浮かべた。

 「…そうか。俺にこんなん言う資格ないかもしれないが、ルキナに悪いことしたって伝えといてくれないか?」

 そう言いながら、マレルは先ほどの爆発で空いた穴の方に歩き始めていた。その行動を不審に思ったネモは何をするのか察しがついたが、すでに遅かった。マレルは艦の外へと身を投げていた。

 「まったく…。情けなぇよな。」

 それが彼の最後の言葉だった。

 ネモはそれをただ見ていることしかできなかった。彼がしばらく呆然としていると、突然艦に激しい衝撃が襲った。

 

 

 「状況は!?」

 ザフト兵を撃退した後、通信を受けたマリューがふたたびブリッジに戻って来た。

 艦内でのザフト兵の掃討の間、モビルスーツから攻撃でアークエンジェルは多数被弾していた。甲板では、水中の敵を片付けてきたストライクも加わり、応戦しているが、あちこちに黒煙が上がり、時間の問題だった。

 「このままでは、推力が持ちません!」

 あともう少しで海峡を抜けられるというのに…。

 その時、別の方角から弾が飛んできて、ザフトのMSを墜とした。

 「一体何が…。」

 「9時の方向に熱源、モビルスーツです!」

 トノムラがモニターの反応を見て驚いた声を上げた。

 艦窓からも機影を捉えることができた。確かにモビルスーツだが、ザフトとは違い、各々カスタムされていた。そして、それらはこちらではなく、向こうを攻撃していた。

 「これは…。」

 「そのまま進んでくれ。アレは敵ではない。…味方でもないがな。パイロットにもアイツらに銃を向けないよう伝えてくれ。」

 そこへネモがブリッジへ上がって来た。

 「え?」

 マリューたちは状況を飲み込めずにいた。

 「あれは、ここら辺を拠点にしている海賊だ。」

 

 

 

 「なぜだ…。」

 海賊が正規軍と組むなどありえない話だ。だが、それが今目の前で現実に起きている。ブーフハイムは、これは悪夢ではないかと震えた。あと一息で『足つき』を墜とせるところまで追い詰めたのに、今は次々と自軍のモビルスーツが海賊のモビルスーツに撃墜され、形勢が逆転している。

 「なぜ、海賊共がこちらを襲う。イストレフィが話をつけたのではなかったのか…。」

 「艦長っ、こちらにグーンが来ます!」

 オペレーターが切迫した声を上げる。海賊の水中用モビルスーツが迫って生きているのだ。しかし、こちらの水中用のモビルスーツはすでに全滅していた。

 「突発音!魚雷来ます!」

 「回避しろ!」

 「できません。」

 その言葉にブーフハイムは愕然とした。拳をぎゅっと握り、やり場のない怒りで一杯だった。

 魚雷が艦に着弾し、発令所に激しい勢いで海水が流れ始めていた。

 「このっ…。」

 しかし、ブーフハイムの言葉は最後まで言えなかった。

 次の瞬間、取りつかれた1機のグーンの腕から放たれた魚雷によって、発令所は押しつぶされ、そこから爆発した。

 艦の中枢を破壊され、動かなくなったロンゴノットはそこから水圧で押しつぶされながら、爆破した。

 

 

 

 アークエンジェルからは前方から、水柱が上がるのが見えた。おそらく、敵母艦が撃沈したのであろう。それを受け、敵MSも混乱状態にある。

 「とにかく助かった…。」

 甲板上で待機していたジンのコクピットの中でフォルテは大きく息を吐き、脱力した。

 一時はどうなるかと思ったが、彼らによって向こうはこちらに攻撃できる状態ではなく、後方も動く気配がない。

 (もう、大丈夫なのでしょうか?)

 同じように甲板で待機していたストライクから通信が入った。

 「…だろうな。危機一髪だったぜ。」

 フォルテは見渡すと、これでよく沈まなかったと思うぐらいアークエンジェルは損傷していた。

 「後は…、あのバカだけだ。」

 

 

 

 アークエンジェルはマラッカ海峡で一番狭い所を通り抜けようとしている。ここを渡れば、太平洋に出る。カタパルトから機体下部、翼にフロートが設けられた複葉機、水上機が飛び立っていった。ネモがインド洋に待機させているケートゥスに戻るためである。よく見ると航空機から光が点滅しているのが見え、ブリッジからも捉えられた。

 「艦長、ネモ船長より回光通信機でメッセージです。『貴艦の航海の無事を祈る』とのことです。」

 パルが信号の内容を解析し、マリューに伝えた。

 「こっちもお礼を伝えて。」

 マリューはホッと息をつきながら、指示を出した。しかし、同時にこれだけ損傷してしまい、果たしてこれからの太平洋の大海原を抜け、無事にアラスカに辿り着けるか不安に感じた。

 ともあれ、アークエンジェルはマラッカ海峡を抜け、太平洋に辿り着いた。それは、この航海も半分に差し掛かったことを意味した。

 

 

 

 

 アークエンジェルが去ったマラッカ海峡はそれまでの戦闘が嘘のように民間船が往来して活気にあふれていた。

 ケートゥスは近くの港に寄せ、補給を含めた休憩をしていた。

 そこへ甲板上にいるネモのもとに海賊のリーダー格の男がやって来た。

 「いやぁー、上々、上々。一石二鳥ならぬ、三鳥な仕事はないぜ。今度もあったらよろしくな。」

 今回、ザフトが海峡で待ち構えていることを知ることができたのも、この男からの情報だった。もちろん、親切心からではない。ザフトの部隊と地球軍の新型艦、己の手にしたときにどちらに利があるか天秤にかけ、かつ、この海峡、ひいては赤道連合に利益になるように行動しているのだ。

 「まあ、こんなにおいしい話をくれた礼にこの後どうだ?うまい鍋料理や鶏飯があるいい店を知ってるんだ。おごってやるぞ。もちろん、乗組員全員にだ。」

 ニヤついた顔で男は後ろの高層ビルが並び立つ街を指さし、ネモ達を誘う。

 「…そうだな。おーいっ!この後、こいつのおごりで食べに行くぞっ!」

 そう言い、ネモは積荷や補修など作業しているクルー達に声をかけた。

 クルーの面々は久しぶりに陸地に上がれること、休めることで歓喜に沸いた。一方、テオドアはギョッと驚きの顔をした。

 「船長―、いいのか!そいつがおごるって明日、ここに雪が降るぐらいあり得ない話だぞ!」

 テオドアがいるところは作業音で騒がしいので怒鳴り声になっていた。

 「んだとー!?安心しろっ!いつもなら、店とつるんでぼったくるが、今日は特別だよっ!」

 それに対し、海賊のリーダーが怒鳴り声で返した。

 「心配ならここで留守番してもいいぞ、テオドア!」

 「じゃあ、副長の分も一杯飲んできますぜっ!」

 ネモも笑いながら、大声を出す。それに、別の所にいたハックも乗っかる。

 「行くさっ!ハック、見てろよ…。お前の飲む酒、全部飲んでやるからなっ!」

 「そんな~。」

 クルー達から笑い声が上がり、はやく、飯にありつくため、全員作業を急いだ。

 「たく~っ。まったく、こんな船員持つと苦労するよな、ネモ船長さんよ。」

 「ほとんど船の上に過ごしている身としては見ていて飽きない。」

 リーダーの同情の言葉にネモは微笑みながら答える。

 「はぁ~、この船長ありてってか。」

 海賊のリーダーはやれやれとお手上げのジェスチャーをとった。

 「なあ…。」

 「ん?どうした?」

 急に神妙な面持ちになったネモに男は訝しんだ。

 「おまえは…故郷に帰りたいと思ったことはないのか?」

 ネモは空を見上げ、男に尋ねた。

 「…なんだ、いきなり?」

 男はネモの質問に戸惑いながらネモと同じように空を見上げた。

 「…あれからもう1年経ったんだ。住めば都ってね。それに、俺たちはすでに社会や家族っちゅう1つのコミニティーからはみ出して、アウトローな人間になった。もうそんなものを去って生きている。お前も、そうだろう?」

 「…そうだな。」

 すでに予想していた男の答えにネモは静かにうなずいた。

 ‐ルキナに悪いことしたって伝えといてくれないか?‐

 マレルの今際の言葉が脳裏によぎる。

 あそこでルキナとマレルがどんなやり取りしていたかわからない。が、自分になにができるだろうか。

 あの時(・・・)、自分が差し伸べた手をあの子が拒絶してから…。当たり前だ。自分の目は憎しみに満ちていた。そんな自分が手を差し伸べても、それは偽善に似たものでしかない。

 だからこそ、そんな自分が今更何も言えるはずもない。

 ネモは遠く水平線、さらにその先にあるあの白亜の艦がいるであろう方角に目を向け、ただずんだ。

 

 その頭上、青々と晴れた空には、はるか宇宙(そら)にある無数の砂時計たちの姿が肉眼でもわかるほどはっきりと浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 プラントの政治的中心地であるアププリウス市・1区。そこに置かれている国防委員会本部の委員長室、パトリック・ザラが執務を行っている部屋に軍の指揮官にあたる白服に身をつつみ、左の襟元には特務隊所属の証である徽章をつけた男が部屋に入って来た。20代後半ぐらい、端正な目鼻立ちだが、どこか冷たさを持っていた。

 「失礼します、ザラ委員長閣下。」

 男は敬礼し、挨拶をした。

 「ヴァルター・ユースタス、任務だ。」

 パトリック・ザラはそう言いながら2つの書類を出した。1つ目は、現在ザフトが極秘裏に開発した最新鋭の機体であった。

 「この機体のパイロットの監視をしてもらいたい。お前はこの機体の機密を知り、重要性をわかっている人間の1人だからわかるだろう?」

 もう1つには、パイロットの名前、オデル・エーアストと名が記されていた。が記されていた。

 「そうですか…。しかし、それならば、何故(なにゆえ)彼をパイロットに任命したのですか?」

 「腕は確かだ。この者を推薦した人間もいる。しかし最近、カナーバらが彼に接近を図っている。穏健派の連中に取り込まれる前に、ということだ。」

 ここ最近は、自分たち強硬派の勢いがあり、このまま自分が議長職になるところまで来ているが、用心に越したことはない。

 パトリックにはそういう思惑もあった。

 「…では、こちらの裁量で任せられてもよろしいですか?」

 ヴァルターは念を押すように確認した。

 「ああ、任せる。」

 ヴァルターはパトリックの任務を受領し、敬礼し、執務室を後にした。

 

 

 

 

 






一応、見直しましたが…何せ長いので…後日、加筆・修正があるかもしれません。
あと2話ぐらいは本編から逸れます。
マラッカ海峡は本編や外伝でも省かれた設定上の出来事です。設定上の出来事でも、公式にあるから使ってもいいよねっ、とやってしまった話です(笑)。
そもそも、ネモ船長およびケートゥス号があまりにも出番が短いのも、ちょっとねぇと思い下心出した結果が…、なんかえらく出来上がるまでに時間がかかってしまった(汗)



そんなこんなと、設定上の出来事をいいましたが、この小説を書いていて欠かせないのが、SEED本編の設定資料です。私は普段「メカ○ック&…」という本を参考にしたり、最近は「電○データコレクション」も仲間に加わっています。もちろん本編は重要なのでDVDの録画も見ています。


最近の1話の投稿期間が長いせいか、いろいろあとがきに載せたい話題がたまるんですよね…。そのうち、後書きの方がボリューミーになりそう(笑)。



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